魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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122話

 

5月24日ーー

 

自由行動引きから早3週間……このところ比較的落ち着いた日々が続いて、俺達はすっかりヴィヴィオとの生活に馴染み。 ヴィヴィオも第3学生寮に、延いてはルキュウの人々に馴染んでしまっていており、日常的な学生生活と管理局の業務の兼任した日々も復帰していた。 それとヴィヴィオも、俺達が基本学院や仕事がある事を理解しなようで、我儘も言わず留守番をしてくれるようになった。 ファリンさん達もいるので安心できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は朝から異界、怪異の事件が起きた為……学院を休んで異界対策課として今日1日活動していた。

 

「ふう、疲れたな……」

 

「ここ最近事件なんてほとんど無かったのにねえ」

 

「ボヤいても仕方ないわ。 さっさと報告書を書いて帰るわよ」

 

「ふふ、アリサちゃん、今すぐヴィヴィオに会いたいんでしょう?」

 

「そ、そんなこと無いわよ」

 

「はは……」

 

否定できない事に苦笑いし、そのまま対策課に入った。 確かラーグとソエルは休みのはずだったな。

 

「ただいまー」

 

「お帰りー!」

 

対策課には何故かヴィヴィオがいて、俺達に気付くと駆け出し。 走った勢いのまま飛び込んで来た。 後ろにファリンがいたから、彼女が、ヴィヴィオを連れて来たのだろう。

 

「おっと……ヴィヴィオ、こっちに来てたのか?」

 

「うん! ファリンさんに連れて来てもらったの!」

 

「ファリン」

 

「ヴィヴィオちゃんにお願いされて、連れて来ちゃいました」

 

「ファリン、グッジョブ」

 

アリシアはファリンに向けてサムズアップすると、ファリンも同様にそれに答えた。

 

「ソーマ達は?」

 

「まだ戻って来てはいませんよ」

 

「そう……」

 

グ〜〜……

 

その時、不意に誰かの腹の虫が鳴った。 するとヴィヴィオが両手でお腹をおさえた。

 

「パパ、おなかすいたー」

 

「と、そうだったな。 何か残ってたか?」

 

「そうだね……何にしようかな?」

 

「私、パスタがいい! レンヤがたまに作ってるし!」

 

「1人飯を作る時に、レゾナンスアークにどんな料理を作った方がいいって聞くと毎回パスタなだけだ」

 

そのせいでパスタ料理の腕だけは上がった行くのだ。

 

「最近はやてに教わっているけど、まだそれぐらいしか作れないんでしょ」

 

「うぐ……まあ、そうだけど……」

 

「でも、レンヤ君の手料理なんて初めてだね」

 

「私のは大盛りにしてよね」

 

「はいはい、分かってるよ」

 

「パパがゴハンを作るの? それじゃあヴィヴィオも手伝うー!」

 

話を聞いていたのか、ヴィヴィオが手を上げながらその場で跳ねながら手伝いを申し出た。

 

「え、ヴィヴィオちゃん、お手伝いしてくれるの?」

 

「うん! ヴィヴィオ、お手伝いしたい!」

 

「それじゃあせっかくだし、ヴィヴィオ、手伝ってくれるか?」

 

「やったー!」

 

「怪我させるんじゃないわよ」

 

「分かってるよ」

 

アリサに注意を受けつつも、ヴィヴィオと一緒に調理場に入った。 棚をあさり、パスタの入った袋を取りながら何のパスタにするか考えた。

 

「さてと……何のパスタにするかな。 卵とベーコンがあるし、カルボナーラでいいかな。 じゃあまずはーー」

 

「ねーねー、パパ。 ヴィヴィオは何を手伝えばいーの?」

 

「うーん、それじゃあ今から言う材料を持って来てくれるか? 俺はパスタを茹でる準備をしてるから」

 

「はーい」

 

材料を用意したら早速調理を開始し。 パスタを茹でている間、先にカルボナーラソースを用意し。 その後はパスタが茹で上がるのを待った。

 

「ねーねー、パパ。 まだできないのー?」

 

「もうちょっとだけ待ってな。 パスタは茹で加減が大事なんだ。 ちょうどいい茹で加減で引き上げて、フライパンでカルボナーラソースをたっぷり絡めてから胡椒を散らして出来上がり……大雑把に言えばそんな料理だ」

 

「へー……」

 

ちなみにソースには生クリームを加えることでとろみを出し、とろみ過ぎたなら茹で汁を使ってとろみを調整するのがポイントだ。

 

「じゃあそこからはヴィヴィオ、やってみたい!」

 

「え……」

 

ヴィヴィオは手を上げて料理をしてみたいと言った。 興味があるのはいいが……まあ、俺が見ていることだし。 上手く行かないとは思うから、その時はフォローすればいいか。

 

「ならお願いしようかな? 火には気をつけろよ」

 

「うん!」

 

火を止めて場所を譲り、ヴィヴィオはやる気満々で脚立でフライパンの前に立った。

 

「えっと……ちょうどいい茹で加減で引き上げて、フライパンで……………」

 

手順を思い出す様に口にした後、それ以降は忘れたのかフライパンを見つめながら沈黙してしまった。 やっぱり無理か……まあ、ヴィヴィオが作った物なら少しぐらい失敗しても皆喜んで……

 

「ーーあ」

 

と、その時。 何か閃いたと声を上げ、すぐヴィヴィオの手が動き出し、パスタを引き上げてフライパンで調理していった。

 

「…………!」

 

「うんっ、できたー!」

 

皿に盛り付け、胡椒をかけてカルボナーラが完成した。 初めてとは思えない手際の良さだ。

 

「凄いじゃないかヴィヴィオ。 手際が良かったけど、どうやって分かったんだ?」

 

「うーんと、なんかピカーンってきたの! 間違ってたー?」

 

「いや、間違ってないよ。 むしろ俺より良かったくらいだ。 料理本なんかでも読んだのか?」

 

「うん、この前ファリンさんに読んでもらったー」

 

「そうか……まあいい、お腹も空いたし早く食べようか?」

 

「はーい!」

 

人数分用意し、皆の元に運んで。 ヴィヴィオが作った事を説明すると、皆は驚いたが、味が気になるのか早速カルボナーラを口にした。

 

「おー、これかなり美味しいよ! これ、ホントにヴィヴィオが作ったの⁉︎」

 

「下ごしらえはまでは俺がやったけど……茹でてからの調理は全部、ヴィヴィオがやってくれたんだ」

 

「凄いよ、ヴィヴィオちゃん!」

 

「ええ……お店に出せるほどの味よ。 ヴィヴィオ、流石だわ」

 

「えへへ、ありがとうアリサママ」

 

だが、逆に腑に落ちない点もある。 幼いヴィヴィオがただ本を見たくらいで慣れた様に調理した……人造生命体特有の記憶保持によるものか……?

 

ピリリリリリリ♪

 

突然対策課の通信機に着信音が鳴り、深い思考から弾き出された。

 

「通信だ……誰からだろう?」

 

「メイフォンにじゃないって事は、他の部隊からか?」

 

対策課に来る通信の大半は他の管理局部隊からが多い。 席を立ち、受話器を取った。

 

「はい、こちら時空管理局、異界対策課です」

 

『あ、レンヤさんですか? えっと……ギンガです。 陸士108部隊のギンガ・ナカジマです」

 

通信の相手はギンガがだった。

 

「ああ、久しぶり。 1月ぶりくらいか? どうしたんだ? 対策課の方に用件でも?」

 

『ええ、実はその……個人的に対策課の皆さんに相談したい事がありまして……』

 

「個人的な相談……?」

 

そんなことなら他にいい相談相手がいると思うが……

 

『あ、個人的といっても仕事の範疇ではあるんやですけど……その、すみません。 いきなりこんな連絡をして……』

 

「なるほど……いや、ちょうど昼時で休憩していたから構わないさ。 通信じゃ分かりにくいし、よかったら直接話そうか?」

 

『ほ、本当ですか? 今ちょうど、中央区にいるんです。 これから伺ってもいいですか?』

 

「ああ、待っている。 そうだ、よかったらついでに昼食も食べていくか? パスタでよければ簡単に用意しておくが」

 

『い、いえ、そこまでは……』

 

グ〜〜……

 

ギンガは断ろうとしたが、腹の虫が代わりに肯定を言った。

 

『あはは……すみません……よかったらお願いします……』

 

恥ずかしかったのか、か細い声でお願いする。

 

「はは、了解。 それじゃあ待ってるよ」

 

『はい!』

 

通話を切り、また席に着いた。

 

「誰からの連絡だったのかしら?」

 

「ああ、ギンガだったよ。 どうやら俺達に相談があるらしいけど……」

 

「へえ。 珍しい事もあるんだね」

 

「なになに、だれか来るのー?」

 

「うん、前に会っていると思うけど……ギンガって言うお姉さんだよ」

 

「あ、うん! りくしぶたいのお姉さん!」

 

思い出したのか、ヴィヴィオは元気よく手を上げた。

 

「昼食がまだみたいだったから追加でパスタを茹でておきたいんだ。 ヴィヴィオ、また手伝ってくれるか?」

 

「うんっ!」

 

おそらくすぐにギンガは到着すると思うので、すぐに準備を始めた。 アリサ達は最初の文は冷めてしまう前に食してしまい。 追加して作ったのをお代わりとして希望した。 そして追加のパスタができる頃にギンガが到着し、少し相談事を聞きながらそのまま一緒に昼食を食べた。

 

「ふう、ご馳走様でした」

 

ギンガは満腹になり、汚れた口元を拭いた。 だが……その横に積み重なれた皿の数は多い。

 

「すごく美味しかったです! これ、本当にヴィヴィオちゃんが?」

 

「うん! したごしらえ……だっけ。 それはパパがやってくれたけど」

 

「ううん、それでも十分すごいよ! これはスバルにも食べさせて上げないと損するかも」

 

「そうだね、ここ最近忙しそうで会えなかったけどね」

 

「スバル? ねえねえ、ギンガお姉ちゃんってスバルお姉ちゃんのお姉さんなのー? お顔もそっくりだし、カミの色もおんなじだー」

 

「そ、そうかな? 私はあの子みたいに活発なタイプじゃないけど……」

 

そこでギンガはハッとなり、咳払いをして話を変えた。

 

「あっと……危うく本題を忘れる所でした。 その、さっそくお話をさせてもらってもいいですか?」

 

「ああ、構わない」

 

「確か、マインツ方面の山道の外れにある遺跡についてだったっけ?」

 

「はい、それが……その遺跡、どうやら幽霊が出るらしいんです」

 

「幽霊?」

 

古い遺跡だと、幽霊や怪談の話は常にセットで噂になるから、あんまりすぐ悲観するような事でもないような……

 

「……そうなんです。 正確に言えば、幽霊というか化け物というか……とにかく、グリードみたいなのが徘徊していたんです」

 

「前に陸士108部隊が調査に行ったけど、グリードがいたから撤退して。 イレギュラーの内容だったからすぐに対策課に報告しなかったわけね。 まったく、手に負えないのならさっさと頼りなさいよ」

 

アリサは若干イラつきながら深く背もたれに寄りかかる。

 

「ま、まあまあ。 それで、私達にそのグリードを討伐するために依頼しに来たのかな?」

 

「いえ、あくまで遺跡内部の調査が目的なんですけど……やっぱり駄目でしょうか?」

 

「駄目というわけじゃないが……その遺跡、もしかして星見の塔のような感じだったのか?」

 

「……さすがはレンヤさん。 はい、サーチアプリで探してもゲートの気配はなく。 星見の塔みたいに建物自体が異界のような雰囲気でした」

 

「なるほど……」

 

遺跡の調査は忙し過ぎて後回しにしがちだったからな。

 

「だが受けるにしても、今日も依頼は山ほど残っているし……」

 

「あ、でしたら今日一日、私も皆さんのお手伝いしますよ」

 

「え、いいの?」

 

「はい、もちろんそのくらい。 皆さんの依頼が済んだら山道外れにある遺跡に向かうって事でどうですか?」

 

「なら、お願いしようかしら?」

 

「ーー決まりだな。 ヴィヴィオ、午後からまた出かけるけど……ファリンさん達と一緒にちゃんとお留守番できるか?」

 

「うん、だいじょーぶだよ! パパ達もおしごとがんばってね!」

 

「すずかちゃんも、お仕事頑張ってくださいね」

 

「うん、ヴィヴィオの事をよろしくね」

 

俺達はヴィヴィオに見送られながら対策課を後にし。 駐車場に向かい、対策課の専用車の前で一旦行先を確認した。

 

「例の遺跡は山道にあるトンネル途中から分岐した先にあったな?」

 

「うん、そうだよ。 それじゃあ、ちゃっちゃと依頼を片付けて行こうー!」

 

俺達はギンガと共に車に乗り込み、依頼者の下まで車を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後の依頼を完了し、ギンガの依頼である遺跡の件でマインツ方面にあるトンネルの中、その遺跡に通じる分岐点で車を停めた。

 

「確かこっちが遺跡に通じている道だったな?」

 

「はい。 この先からは道が悪いので、徒歩で向かうとしましょう」

 

「それじゃあ、行くとしますかな」

 

分岐を通りトンネルを抜け、整理されてない山道と崩落気味の石橋を通り、遺跡……月の僧院の前に到着した。 正面扉の前の床には三日月のマークがあり、目の前の遺跡の名を表すようだった。

 

「やっと着いたか。 しっかし、やたらこの辺りかなり薄暗い感じがするな」

 

「何やら建物周囲にモヤがかかっているわね……」

 

「それで、ここにグリードがいるのかな?」

 

「はい、確証はありませんが、グリードみたいな化け物でした。 アリシアさん……何か感じますか?」

 

アリシアはすでに両目を閉じ、感じ取るのに集中していた。

 

「…………何か不思議な波動を感じるよ。 でも、何か変なんだよねぇー……。 星見の塔では感じなかったし」

 

「不思議な波動、ですか?」

 

「どうやら屋上に見える鐘楼からだね」

 

僧院を見上げ、建物奥にある高い場所に大きな鐘……おそらく星見の塔最上階にあった鐘と同種の物があった。

 

「あれね……」

 

「星見の塔と同じ鐘みたいだけど……何か関係があるのかな?」

 

「とりあえず、あの鐘楼を目的地として、月の僧院の探索をしましょう。 アリシアの言っている事を確認したいし」

 

「はい、その行動方針で行きましょう」

 

「それじゃあ、月の僧院の探索を開始しよう。 全員、気を抜かないように」

 

「了解」

 

探索を開始し、重い扉を開けて月の僧院に入った。 中はなぜか篝火があり。 古ぼけているが、古代ベルカ時代の造形だ。 そして礼拝堂に入った。 礼拝堂は聖王教会と基本配置は同じだが、石造りのイスがどうにもあっていない。

 

「礼拝堂か。 ずいぶんと趣味の悪い事で」

 

「聖王教会系列のものではないのは確かのようだね」

 

「えっと、鐘楼に続く道はーー」

 

ゴーン……ゴーン……ゴーン……

 

その時、おそらく鐘楼にある鐘の音が聞こえてきた。

 

「こ、これは……」

 

「鐘の音……!」

 

「………! 来るよ!」

 

次の瞬間、目の前の空間が揺らぎ……炎で頭蓋を模したグリードが現れた。

 

「嘘……そんな気配なかったのに⁉︎」

 

「来るわよ!」

 

グリードは不気味に口を開閉しながら突進してきた。

 

「っ……せい!」

 

グリードの1体に刀を横薙ぎに振り。 口で受け止められたがそのまま斬った。

 

「やっ!」

 

最後にアリサがトドメをさした。 だが次の瞬間、グリードは爆発した。

 

「きゃあ⁉︎」

 

「くっ、自爆なんて……芸のないことを」

 

とっさに防御したが、少なからず厄介な相手だ。

 

「フォーチュンドロップ!」

 

《ラバーバインド》

 

2丁拳銃から線で繋がられた2の弾が撃たれ。 残りのグリードに絡みついて拘束した。

 

「ギンガ!」

 

「はい!」

 

アリシアの声でギンガが拘束されたグリードの前に駆け寄り、その勢いのままグリード共を蹴り上げた。

 

「すずかさん!」

 

《ブリザードファン》

 

「てやぁ!」

 

蹴り上げられたグリードに向かってスノーホワイトを両手の中で高速で回転させ、吹雪を起こした。 吹雪はグリードに直撃すると……グリードは氷漬けになった。 だがそれでも自爆し、発生した爆風を防御魔法で防いだ。 爆風が止むと防御魔法を消して武器をしまい、爆風で着いた汚れを払った。 辺りの気配を探ると、どうやら他の場所にも同様にグリードが現れたようだ。 原因は、あの鐘楼か。

 

「アリシアちゃん、これって……」

 

「鐘が鳴り始めたらいきなりこの僧院が異界と同じ状態になったよ。 原因は間違いなく鐘楼だね」

 

「でも、なんで前触れもなく鐘が鳴ったんでしょう?」

 

「意図的に誰かが鳴らしたか、それともグリードの仕業か……行ってみるしかなさそうね」

 

「そうだな。 たが、これは骨が折れそうだな」

 

鐘楼に向かうための道を探すため、探索を再開した。 が、ここは現実世界であり、この建物は本来人が使用して意味を成す僧院である。 つまりは異界にはない部屋という概念がここにはある。 ハッキリ言えば……複雑で、同じ場所何度も行き来したりした。

 

「だあー! めんどくさい! 迷宮は基本一本道だけど、ここはめんどくさい!」

 

「それは同感だ。 どうやら鐘楼への道も隠してあるようだしな」

 

「それにグリードは大した実力じゃないけど、自爆や呪いが厄介ね。 接近戦は禁物よ」

 

「うう、私……さっきから役立たずです……」

 

この中で遠距離攻撃がないギンガは、先ほど戦闘に参加できていなく落ち込んでいた。

 

「まあまあ、ギンガちゃんの戦闘スタイルはシューティングアーツによる接近戦だし。 仕方ないことだよ」

 

最終的に僧院を隅々まで探索し、ギミックによって礼拝堂二階にあった隠しているようで隠してない隠し扉を発見した。 そこを通り、奥に進むとひときわ不気味な部屋にたどり着いた。 床には目玉のような紋様があり、部屋のあちこちに赤黒い染みがある。

 

「こ、これは……」

 

「なんというか……かなり怪しげな場所だね。 なんでこんな場所が礼拝堂の裏側にあるのかな?」

 

「そうだな……やっぱり聖王教会の遺跡にしては不気味すぎるし……」

 

「その床に描かれた紋様は一体なんなのかしら? 目……みたいな形をしているけど……」

 

こうして見ると、典型的な魔女や黒魔法なんてイメージが出て来る。 それに、微かに臭うこれは……

 

「………………」

 

「ん? どうしたんだ、すずか?」

 

「な、何か気付いた事でも?」

 

「………どうやらこの場所は何らかの儀式の場だったと思うよ。 それも生贄などを捧げるような禍々しいたぐいの……」

 

「い、生贄……⁉︎」

 

すずかは口に手を当てながら鼻を押さえた。 すずかは体質で血を好んでしまうからな。 この場所に留まるのは危険かもしれない。

 

「そういうことか……床の赤黒い染みの跡は血か」

 

「ゾッとしない話だね……」

 

「となると、聖王教会とは関係がない可能性があるわね。

 

この類の魔法なら、あの猫辺りが詳しいと思うが……無いものを強請っても仕方ないか。

 

ゴーン……ゴーン……ゴーン……

 

その時、また前触れもなくこの先にあると思われる鐘楼の鐘が鳴った。

 

「ま、また……⁉︎」

 

「! 来るぞ!」

 

鐘の音に床の紋様が反応したのか、紋様が不気味な紫色に光だし……床から大型のグリードが出てきた。

 

「こいつは……!」

 

「悪魔型のグリムグリード、アークデーモン!」

 

「しかも、完全に物質化(マテリアライズ)している!」

 

「なんて霊圧なの……!」

 

「くっ……来るよ!」

 

アークデーモンは左右に手を広げて魔法陣を展開すると、2体のグリード……スードルードを召喚した。

 

「てやぁ!」

 

先制とばかりギンガが飛び出し、アークデーモンの腹に膝蹴りを入れた。 だが想像以上にタフなのか、怯みさえもせず。 腕を振り上げ、爪を立てながら振り下ろした。

 

「退きなさい!」

 

「あっ⁉︎」

 

アリサがギンガを押し、そのまま振り下ろした爪を受け止めた。

 

「くっ、なんて膂力……!」

 

「アリサ、そのまま堪えて!」

 

《ラバーバインド》

 

アークデーモンの身体中をバインドで拘束し、アリシアはバインドを後方に伸ばし……

 

「レンヤ!」

 

「とっ……はあ!」

 

回り込んでいた俺がバインドを掴み、全力で引っ張ってアリサ達から引き離した。

 

「す、すみませんアリサさん……!」

 

「いいから、早く態勢を立て直すわよ」

 

その時、2体質のスードルードが左右から接近し。 口から炎を放射してきた。

 

「っ!」

 

《アイスウォール》

 

すかさずすずかが槍を地面に突き刺し、アリサ達の足元から氷壁がせり出て炎を防いだ。

 

「この……!」

 

《モーメントステップ》

 

矢檜(やひのき)!」

 

魔力を螺旋回転させながら足から地面に向けて放出し、一瞬でスードルードに接近し。 捻りを加えた突きで口を貫いた。 続けてもう1体のスードルードも同様にして倒す。

 

「てい!」

 

残ったがんじがらめのアークデーモンに向かってアリシアが小太刀を振り下ろしたが……

 

ガキンッ!

 

「え⁉︎」

 

アークデーモンは爪でバインドを切り裂き、振り下ろされた小太刀をに爪で防いだ。 ラバーバインドは衝撃には強いが、斬撃には弱いからな。 それに……あの爪に紫色の水が滴っている。

 

「毒か……」

 

「っと……厄介だね。 手持ちの解毒薬でどうにかなるかな?」

 

「物質化している分、脅威度も高そうだね……」

 

「なら、遠距離で……!」

 

アリシアが接近しながら2丁拳銃でアークデーモンの身体中を撃ち抜き、アークデーモンの周りを駆けまわる。 俺達も続いて遠距離からアークデーモンを攻撃した。 しかし、痺れを切らしたアークデーモンが周りに氷の粒を出現させ、全方向に飛ばした。

 

「きゃあ⁉︎」

 

「慌てないで、落ち着いて対処すればいいから」

 

突然のことにギンガは慌てて回避し、残りはそれぞれの武器で弾きながら距離を取った。

 

「この……!」

 

「すずか⁉︎」

 

だがすずかだけは槍を振り回して氷を弾き落としながらアークデーモンに突っ込んだ。 その表情には余裕がなく、どこか焦っていた。

 

堅氷刃(けんひょうじん)‼︎」

 

アークデーモンの目の前で急停止し、その勢いを利用し。 さらに回転で加速した槍の刃でアークデーモンの胴に振り、アークデーモンの胴に大きなヒビをいれた。

 

「まだーー」

 

「すずか、避けろ!」

 

「え……」

 

追撃をかけようと槍を構えなおしたすずかだが……今入れたヒビが急速に回復していき、爪を立てて腕を振り上げていた。

 

「危ない!」

 

「きゃっ!」

 

爪が当たる直前にすずかに向かって飛び込み、抱き寄せながらアークデーモンの爪から庇った。 だが完全に避けきれず、腕を浅く切られた。

 

「うぐ……しっかりしろ! 慌て過ぎだぞ!」

 

「……………………」

 

「? すずか?」

 

返事がないすずかを見ると……すずかの顔に少量のーーおそらく自分の血が付着していた。

 

「しまった! すずか、しっかりしろ!」

 

肩を揺さぶり、正気に戻そうとするが……目の色が段々と赤に変わって行ってきた。

 

「すずーーぶっ‼︎」

 

「ーーあは」

 

やばい……頰をビンタされた痛みよりすずかの方に神経がいった。 昔、1度だけ似たような事があった。 その時は治るまで放置するしかなかったが……

 

「あははははは!」

 

すずかは奇声とも取れる笑い声を上げながらアークデーモンに一瞬で接近した。 振るわれる槍の技に冴えがあるが、その中は狂気も混ざっている。 休む間も無く振るわれる攻撃に、アークデーモンは反撃も出来ず、回復もできずに堪えるしかなかった。

 

「で、出たよ。 すずかの覚醒モードが……」

 

「あ、あの! すずかさんは大丈夫なんですか⁉︎」

 

「え、ええ……まあ、大丈夫と言えば大丈夫かしら?」

 

「とにかく止めないと……」

 

だがその間に、すずかがアークデーモンの左胸に槍を突き刺し……

 

「はあああああ‼︎」

 

刃先から氷の刃を飛び出たせ、アークデーモンを内側から貫いた。 物質化しているので飛び出でる時の音がかなり生々しい。 そしてアークデーモンは消滅したが……すずかは依然として覚醒モードで、しかもなぜか恍惚とした表情で余韻に浸っていた。

 

「……エロ……」

 

「レンヤ、どうにかして来なさいよ」

 

「え、俺⁉︎」

 

「あんた以外誰がいるのよ!」

 

「あうち……」

 

アリサに思っきり叩かれながら押され、すずかの目の前に来たわけだが……どうしよう? とにかく落ち着かせればいいのか? とりあえずヴィヴィオを宥める時のように頭を撫でてみた。

 

「ふあ……」

 

多少反応があったが、まだ収まらない。 こうなったら……

 

「ふにゃあああ……!」

 

すずかを抱きしめ、その状態で頭を撫でた。 ヴィヴィオを泣き止ませる時に使った最終手段、これで。

 

「レ、レレ、レンヤ君‼︎ もう大丈夫だから///」

 

「お、良かった。 正気に戻ったか」

 

軽く突き飛ばされるようにすずかから離れ、目を見るといつもの青い瞳に戻っていた。

 

「大丈夫、すずか?」

 

「う、うん。 ごめんね、迷惑かけちゃって……」

 

「気にするな、こうして無事だったんだし」

 

「というか、一体どうなっているんだろう、この遺跡は……?」

 

改めて辺りを見渡し……正面を見ると、上に続く階段があった。

 

「……位置的にあの上が鐘楼になるはずだ。 とにかく調べてみよう」

 

「はい……!」

 

階段を登り、月の僧院屋上にある鐘楼にたどり着いた。 辺りにはモヤらしきものがかかっていて、鐘は大きく揺れて鳴るというより、小刻みに振動して低い音を出していた。

 

「この音は……」

 

「鐘が共鳴している……?」

 

「……ひょっとしたら……この共鳴音が異界の場を作っていた原因なのかもしれないよ」

 

アリシアが辺りを見渡しながらそう答えた。

 

「この鐘を中心に異界化を起こしているみたい。 だからこの共鳴を止める事が出来れば……」

 

「この自体を収束できるってわけね」

 

「どうする、ギンガ? 鐘の共鳴を止めるか?」

 

調査を依頼したのはギンガなので、共鳴を止める判断はギンガに任せた。

 

「……はい、お願いします。 レンヤさんも手伝ってくれませんか?」

 

「ああ、もちろん」

 

「私もやる、同時に鐘を押さえてみよう」

 

俺、アリシア、ギンガは鐘の前に立ち。 物理的に鐘を押さえて共鳴を止めようとした。 これで止まるかどうかは不明だが、とにかく踏ん張りながら鐘を押さえ続けていくと……

 

「モヤが消えた……」

 

「おお……! 青空が眩しいねえ」

 

「どうやら異界化も治ったみたいだね。 僧院内のグリードも消えているはずだよ」

 

「ああ、中に戻って確認してみよう」

 

「はい!」

 

僧院内に戻り、礼拝堂の一階に降りた。 礼拝堂は先ほどのような異界の気配はなく、薄暗く静かな礼拝堂だった。

 

「異界化の気配はなし。 どうやら完全に収束してみたいだね」

 

「そうか……しかし、一体どういうことだ? 鐘の共鳴が原因だとは思うが……」

 

「そこまては私にもさっぱり。 だけど、あの鐘は今後ともに調査は必要だね」

 

「ロストロギアの線もありえるわね。 放置されていたのは単に使い方が分からなかっただけでしょう」

 

「まあ、ソフィーさんに聞けばなにか分かるかもしれないね」

 

この場では話し合っても、意見はまとまらないか。

 

「ーーいずれにしても、この遺跡についての手がかりは十分過ぎるほど掴めましたと思います。 これ以上は報告書をまとめて聖王教会に調査を依頼した方がいいかもしれません」

 

「そうだな……その辺りは聖王教会の方が詳しい」

 

「その時は私も呼んでね、詳しく知りたいから」

 

「それじゃあ、遺跡の調査はこれで切り上げるのかしら?」

 

「はい……」

 

ギンガは管理局員として、終了を宣言するのかビシッと敬礼をした。

 

「ーー皆さん。 ご協力、ありがとうございました! これにて遺跡調査の任務を完了したいと思います!」

 

こうして月の僧院の調査が完了し、俺達は早足で月の僧院から出て行った。

 

 

 


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