魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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121話

 

 

4月20日ーー

 

今日は3学年始まってる初めての自由行動日……そしてヴィヴィオを外に連れ出す日だ。

 

『これでーーよしっ!』

 

『わあっ……』

 

今はアリシアがヴィヴィオに外に出るための動きやすい服に着替えさせていた。 その間俺は階段で待たされていた。

 

「あれ? レンヤ、どうしたのこんな所で?」

 

「……着替終わるまで待っているんだ」

 

「ああ、なるほど」

 

ツァリが納得したようにポンと手を打つ。

 

「大変そうだね」

 

「他人事だと思って……」

 

「あはは、これもはやての言っていた甲斐性じゃないのかな?」

 

「うぐ……」

 

そう言われると何も言い返せない。

 

「それじゃあ、僕はこれで」

 

「ちょっ⁉︎ だからって置いて行けなんてーー」

 

呼びかけに応じず、ツァリは無情にも行ってしまった。

 

「は、薄情者め……」

 

「ーーあ、パパ!」

 

気分がだだ下がりの中、背後からヴィヴィオが首に抱きついてきた。

 

「うわっ……ヴィヴィオ⁉︎」

 

「アリシアママに服を着せてもらったの! ねえねえ、にあう⁉︎」

 

「いや、後ろからだとどんな服か判らないんだけど……」

 

「あ、そーか」

 

ヴィヴィオがゆっくり離れ、振り返ると……活発的な服を着たヴィヴィオがいた。

 

「ねえねえ、にあうー⁉︎」

 

その場で一回転し、服を見せるヴィヴィオ。

 

「ああ、可愛い……とても良く似合っているよ」

 

「えへへ♪」

 

「早速お披露目してるんだね」

 

アリシアも部屋から出てきて、後ろからヴィヴィオの両肩に手を置いた。

 

「アリシアママ、パパが可愛いって!」

 

「まあ、レンヤならどんな服を着ても可愛いって言いそうだね」

 

「そんな事、あるかもな」

 

最近、親バカと皆にも言われ気味だし……少しばかりなのはみたいに厳しくした方がいいのか?

 

「それにしても、なのは達が来れなかったのは以外だったな」

 

「そうだね、なのはとフェイトは管理局の仕事に、アリサは生徒会に、すずかは技術棟に、はやては休みらしいけど……家に帰って家族会議してくるんだって」

 

「そ、そうか……」

 

議題は、ファ○タGについてだろうな。

 

「それじゃあ、そろそろ行こうか。 ヴィヴィオ、行きたい所があったら遠慮なく言ってくれよ」

 

「はーい! パパとアリシアママと一緒ならどこでもいいよー!」

 

「うっ……」

 

キラキラした無垢な笑顔を見せられ、感情が可愛いよりも圧倒されて少したじろいでしまう。

 

「……ああ……! 可愛い、可愛いよヴィヴィオ!」

 

「アリシアママ、くすぐったいよ〜」

 

アリシアは愛が爆発し、ヴィヴィオに抱きついて頬擦りをした。 そんな光景を頬をかきながら眺めた後、寮から出て車の前まで来た。

 

「うわぁ! ちゃんと見るとすごいお車だね! パパのなの? お金持ちなの⁉︎」

 

「ははは、残念これは仕事用なんだ。 作ったのはすずかだけど、資金は管理局が出してもらったから正式にはこの車は管理局の物なんだ」

 

「すずかママが作ったの⁉︎ すごいすごい!」

 

興奮しているのか、すずかが作った事に驚いてその後の説明をあまり聞いていない。

 

「まあ、お金持ちなのは事実だけどね。 さあヴィヴィオ、乗ろうか?」

 

「うん!」

 

「よし、なら先ずはゲンヤさんの所だな」

 

車を走らせ、西部にある陸士108部隊隊舎に向かった。 はっきり言ってルキューからそれなりに離れているが、ヴィヴィオにちょっとしたドライブ気分も味合わせたかったからな。 しばらくはしゃぎ気味のヴィヴィオを見つつ、運転をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

到着すると、ヴィヴィオは物珍しそうに辺りを見回した。

 

「ヴィヴィオー! 行くよー!」

 

「はーい!」

 

ヴィヴィオは元気よく返事をしてこちらに駆け寄ると、俺とアリシアに向かって両手を出した。 俺達はその意図を理解し、俺が右手を、アリシアが左手を握り、ヴィヴィオは笑顔になるとそのまま手を繋いでゲンヤさんの元に向かった。

 

「失礼します」

 

「失礼しまーす」

 

特に事前に連絡も入れなかったので、ゲンヤさんは少し驚いた顔をした。

 

「何だお前らか、どうしたんだ急に?」

 

「ちょっと、この子を知り合いの所に連れて回ろうかと思いまして、それで一度ゲンヤさんの元に」

 

「この子?」

 

ゲンヤさんは手を繋いでいるヴィヴィオを見つめ、その後アリシアを見た。

 

「お前ら……いつの間に子どもなんか……」

 

「違います」

 

「つうかその子の年齢だと……」

 

「だから違ってば」

 

「愛を育むのに年齢は関係ないが、もうちょっとなぁ……」

 

『違うって言っているだろ!』

 

つい敬語も使わないで思わずタメ口で否定を言ってしまう。

 

「冗談だよ冗談。 その子の件は管理局内で結構噂になってるぞ。 色んな意味でな」

 

「それって、どういう……?」

 

「フェノールをつついた子とか、レンヤの隠し子で聖王の末裔とか、その他もろもろな」

 

「あー、そうですか……」

 

予想通り過ぎる噂だな……

 

「コホン、まあそれはともかく……紹介します、その噂になっているヴィヴィオです」

 

「おはようございます!」

 

「ああ、おはよう。 俺はゲンヤ・ナカジマという。 レンヤ達には色々と世話になっていてな、よろしくな」

 

「はーい!」

 

以前なら怯えて隠れていただろうが、今は誰にでも元気よく受け答えができるから、どこはかとなく安心する。

 

「あはは、この前までは泣きべそかいていたのになぁ」

 

「子どもってのはそんなもんさ。 スバルだって子どもん時はよく泣いていたもんだ」

 

「ああ、確かに」

 

今のスバルと火災の時のスバルを比べると、本当にあっという間だと感じてしまう。

 

「ーー失礼します」

 

その時、ドアがノックされ、ギンガが書類を持って部屋に入ってきた。

 

「あれ? レンヤさんにアリシアさん、今日は何のご様子ですか?」

 

「ああ、ちょっとした巡りかな?」

 

「はあ……」

 

困惑するギンガだが、少し下を向いてヴィヴィオを見つけると、何となく理解した。

 

「もしかして、その子がレンヤさん達が保護した?」

 

「ああ、ヴィヴィオって言うんだ」

 

「よろしくお願いします!」

 

「か、可愛いっ……!」

 

「さっそくヴィヴィオの魅力が広まったね」

 

ギンガは思わず書類を数枚落とす。 その反応を見て、自分の事のように笑うアリシア。

 

「それで……本当にそれだけか?」

 

「……さすがゲンヤさん、鋭いですね」

 

アリシアと視線を合わせ、アリシアは意図を理解しヴィヴィオを連れて部屋を出た。 出て行ったのを確認して、話を切り出した。

 

「今回ゲンヤさんにお願いがあって、最初に会いに来たんです」

 

「お願い、ですか?」

 

「その内容は?」

 

「フェノール商会の動向、そして……統政庁に関する情報を」

 

「統政庁……ですか?」

 

聞いたことが無いのか、ギンガは首を傾げる。

 

「フェノールは判るが、どうして統政庁もなんだ?」

 

「正確には、ゼアドールについてなんです」

 

あの時に戦ったゼアドールは正々堂々と戦っていた。 いや、正々堂々と戦い過ぎていた。 統政庁を抜け、マフィアと関わるのなら少なからず汚れた仕事をするはず……真っ正面の志は素晴らしいが、マフィアの活動においてそれは邪魔でしかない。

 

「できればいつ統政庁を抜け、それからどのようにフェノールに入ったかを知れればいいです」

 

「……つまりは、統政庁とゼアドールはまだ繋がりを持っていると考えているのか?」

 

「断定は出来ません。 ですのでこうして調べてもらいたいのです」

 

無論、無理を承知で頼んでいるから断られても文句は言えない。

 

「ーー分かった。 やれるだけやってみよう」

 

「本当ですか⁉︎ ありがとうございます!」

 

「元々フェノールの方はお偉いさんの方からも警戒しとけと言われている。 それを誰に報告しても問題ないだろう?」

 

「隊長……はあ、仕方ないですね」

 

「済まないな、ギンガ」

 

「いえ……私もできるだけお手伝いさせていただきます」

 

「統政庁の方は何とかやってみよう、あんまし期待するなよ?」

 

「はい、それだけでも十分です」

 

「あ、後この件もはやてにも話しておけ。 力になってくれんだろ」

 

改めてお礼を言ってから部屋を出た。 少し離れた場所ではアリシアがうさぎのぬいぐるみを使ってヴィヴィオと遊んでいた。

 

「パパ!」

 

「あ、話は終わった?」

 

「待たせて悪かったな。 次ははやての家に行こうと思うんだが……構わないか?」

 

「はやてママの家⁉︎ 行きたい行きたい!」

 

「シグナム達と合わせるの?」

 

「それもあるけど……どうなったか、な」

 

「ああ〜……」

 

アリシアは俺の反応を見て納得してしまう。 今日寮を出て行く時のはやてを見れば……だいだいは予想はつく。

 

「私的にはあんまり気乗りしないけど……ヴィヴィオが行きたいって言っているしね、腹をくくりますか」

 

「ありがとう、アリシアママ!」

 

なんだかんだでアリシアも結構親バカになって来ているな。

 

車を走らせ、ミッドチルダ南部にある海岸に面している住宅街に向かい。 その中の家の1つ、その前に到着した。

 

「わあ……おっきいいお家……!」

 

「久しぶりに来るけど、あんまり変わり映えしないね」

 

「したらしたらで困るがな」

 

インターホンを鳴らし、しばらく待つとリンスが出て来た。 少し顔がやつれている気もするが。

 

「あなた達、よく来ましたね」

 

「久しぶりリンス。 どうかしたのか? 何だか疲れているみたいだけど」

 

「もしかして……はやてが?」

 

「……ええ」

 

どうやらシャマルに向けられた矛先は拡散したようだな。 合掌……

 

「コホン、とにかく中に入れてくれないか? ヴィヴィオを紹介したいんだ」

 

「ああ、その子が例の……」

 

リンスはヴィヴィオの前に行き、膝をついて目を合わせた。

 

「……………」

 

「ふえ?」

 

リンスはヴィヴィオの頰に手を当て、ヴィヴィオの顔を覗き込んだ。

 

「……全くというほど似てはいないが、どこはかとなく彼女の面影はある」

 

「? ヴィヴィオはヴィヴィオだよ?」

 

「ふふ、そうだな。 すまない」

 

「ああ、確かに。 ここにいるのはヴィヴィオだ」

 

「えへへ」

 

俺にも彼女本人の記憶が部分的にはあるが……ヴィヴィオの頭を撫で、ここにいるのは彼女ではないことを確認する。

 

「さあ入ってくれ。 むしろ入ってくれると助かる」

 

「そうだね……」

 

家に入り、リビングに通されると……はやてがすごい形相で仁王立ちしており。 その前にはシャマルが正座していた。

 

「ん? ああ、レンヤ君か。 いらっしゃい、よう来たなぁ」

 

「あ、ああ……取り込み中だったか?」

 

「ううん、ちょうど終わった所や」

 

「レ、レンヤ君〜……」

 

「自業自得です。 そもそも、アレは何のために作ったんですか?」

 

「えっと……本当は疲労回復や魔力回復用に作ったんだけど……味が最悪で……」

 

「だろうね、まさに混沌を飲んだようだったよ……」

 

実際に飲んだアリシアが喉をさすり、はやては無言で頷く。

 

「コホン、まああれやな……ここに来たんはヴィヴィオちゃんのことやろ? さっそく私の家族を紹介していこか。 まずはそこでアイスを食べとんのが……」

 

「ヴィータだ。 よろしくな」

 

「んでそこのポニーテールがシグナムや」

 

「よろしく頼む」

 

「改めて、私はリインフォース・アインスだ。 どうかリンスと呼んでくれ」

 

「リインは、リインフォース・ツヴァイですぅ。 よろしくね、ヴィヴィオちゃん!」

 

「うん!」

 

リインはヴィヴィオの両手を握手して上下に振った。 妹ができたようで嬉しいようだ。

 

「そんで、あそこで日向ぼっこしとんのがーー」

 

「わあ! ワンちゃんだぁ!」

 

はやてが言い終わる前にヴィヴィオがザフィーラに抱きついた。

 

「………狼だ」

 

「もふもふ〜」

 

「もふもふですぅ」

 

ザフィーラは抱きつかれるも抵抗せず、されるがままだ。

 

「んで、ここにおるんのがバカシャマルや」

 

「ふええん……! はやてちゃん、もう許して〜……」

 

そっぽを向きながらシャマルに指差すはやてに、シャマルは涙目ですがり寄った。

 

「そうだ、はやて、ちょっといいか?」

 

「? なんや?」

 

はやてを廊下に呼び、先ほどゲンヤさんと話した内容を話し、はやてにも協力を呼びかけた。

 

「ーーなるほどなぁ。 うん、ええよ。 私も気になっとるし、協力させてもらうで」

 

「ありがとう、はやて」

 

「ええってことや。 あ、そうや。 だったら後で一緒に来て欲しい場所があるんやけど、ええか?」

 

「別にいいけど……ヴィヴィオは置いて行くのか?」

 

「大丈夫や、少し歩いた場所にある大通りや。 用事もすぐ済むんよ」

 

俺もさすがに気になり、ヴィヴィオとアリシアに一言入れてから家を出て、少し離れた場所にある大通りに向かった。 通りは意外にも人が少なく、店舗は本屋ばかりだ。

 

「あ、ここやここ」

 

「ここって……」

 

はやてが指差したのは……そこそこの大きさのデパートだった。 ここでフェノールと統政庁に関する情報を得られるのか? 疑問に思いながらもはやてに腕を掴まれてデパート内に入り、はやては中に誰もいない事を確認するとエレベーターに乗った。

 

「何階に行くんだ?」

 

「それはなあ……下や」

 

「下? 今1階だぞ」

 

地下を示すB1の表示も無いが……また疑問に思うが、はやてはニヤリと笑うとボタンの前に行き、1階ボタンを3回、2階ボタンを2回慣れた手つきで素早く押した。 するとボタン下にあったパネルがせり出てきた。 パネルにはカードを読み込むための横向きのリーダーがあり、その下にココブックスと書かれていた。はやてはカードを取り出すと、そこにスライドさせて読み込ませた。 するとエレベーターが動き出し……下に向かった。 驚く暇もなく地下1階に到着し、扉が開くと……そこはかなりレトロな書店だった。 木の看板にはパネル同様にココブックスと書かれていて、一応開店中らしい。

 

「ここは……」

 

「ふっふっふー、知る人ぞ知る古本店や。 噂では無限書庫にも無い本がぎょうさんあるらしいでえ」

 

「それはすごいが……それが情報集めと何の関係が?」

 

「ここのおじいちゃんはかなりの情報通でなぁ。 よく私も頼っとるんや」

 

はやてと店の中を進むと、すぐにそのおじいちゃんがカウンターにいた。 ただしこちらに背を向けて膝の上にいる猫を撫でながらこれまたレトロなアナログテレビでニュースを見ていた。 店番する気あるのか? さっそく話を聞こうとするが……はやてはおじいちゃんをスルーして店の奥に入った。

 

「ちょっ、はやて?」

 

「ふふふーん♪ あ、コレがええなあ♪」

 

「……そっちが本命かよ」

 

はやてはご機嫌良さげで棚から古い本を一冊抜き取った。

 

「い、いややなぁ、そんな訳あらへんやろ。 おじいちゃん、これくださぁい!」

 

「20万」

 

「高っ⁉︎」

 

「えっと……………月末払いで」

 

財布と睨み合った後で、はやては渋るようにそう言った。 給料いいはずだが、おそらく何度も足を運んでいる度にこの値段並を払っているんだろう。 財布の紐がゆるゆるだな。

 

「そんでなあ、おじいちゃんに頼みたい事があるんやけど……」

 

「フェノールと統政庁のことじゃろ? お前さんはお得意さんだから集めて置いてやる」

 

「さっすがおじいちゃん! 話がわかるぅ!」

 

「なるほど、本を買うのが情報を得る手順だったのか」

 

「全然関係あらへんよ?」

 

「お前はお巫山戯を挟まないと前に進まないのか⁉︎」

 

「痛い痛い痛い‼︎」

 

はやての頭をグリグリし、おじいちゃんにお礼を言って店を出ようとした時……

 

「お若いの」

 

「はい?」

 

呼ばれて振り返ると、カードが飛んできた。 カードを掴んで見てみると……はやてが使ったのと同じカードだった。

 

「気が向いたら来るといい」

 

「ありがとうございます、本を買うのは考えておきます」

 

「またなぁ」

 

ゴタゴタしたが、とりあえず目的は達成された。 はやての家に戻り、ちょうど昼頃だったので少し雑談しながら昼食をいただいた。 その後、今度はベルカ領の聖王教会に向かった。

 

「ここがせいおーきょうかい?」

 

「そうだよ。 パパの生まれ故郷……になるのかな?」

 

「そうだな、ここで生まれたって聞いている」

 

ていうかどういう出生になるんだ? 地球、海鳴育ちのミッドチルダ人……いやベルカ人? ややこしいな。 その時、前方からシャッハが走って来た。

 

「陛下!」

 

「シャッハ、毎度毎度出迎えなくてもいいんだぞ?」

 

「そうはいきません。 陛下を出迎えなくては修道女として名折れです」

 

「あはは、相変わらずだね」

 

「まあいい、ウイントさん達と合わせてくれ。 教会から見たこの子の処遇を聞いてみたい」

 

ここに来た理由はそれが大きい。

 

「はい、お話は伺っています。 代理は屋敷でお待ちになっています」

 

「わかった。 それじゃあ行こうか」

 

「うん」

 

「はーい!」

 

少し離れた場所にある屋敷に入り、ウイントさん達がいる部屋の前に来ると、シャッハがノックをした。

 

「代理、陛下御一行がご到着しました」

 

『通してくれ』

 

「失礼します」

 

シャッハに扉を開けてもらい、部屋に入った。 正面にあるデスクにはウイントさんが、その手前にあるソファーにはカリムが座っていた。

 

「久しぶり、ウイントさん、カリム」

 

「はい、陛下も息災で何よりです」

 

「確か1年の時の学院祭以来かな? 前回の学院祭は行かなくて済まなかったね」

 

「いえ、お互いに忙しい身でしたし。 それで今回会いに来たのはこの子について何ですけど……」

 

ヴィヴィオの背を軽く押して、2人の前に出した。

 

「おはよーございます! ヴィヴィオです!」

 

「ヴィヴィオ、今はこんにちはだよ」

 

「そうなの? こんにちはー!」

 

「ふふ、明るい子ですね?」

 

ヴィヴィオの行動に、カリムもつい笑ってしまった。

 

「さて、こちらも自己紹介しなくてはね。 私はウイント・ゼーゲブレヒト。 レンヤとは叔父にあたる、どうぞよろしく」

 

「おじ?」

 

「あはは、さすがに難しかったかな?」

 

「それでは今度は私が、私はカリム・グラシア。 聖王教会の騎士を務めています」

 

「私はシャッハ・ヌエラ。 修道女を務めています。 以後お見知りおきを」

 

「はーい!」

 

3人が名乗った後、ヴィヴィオは元気よく手を挙げて返事をした。

 

「それでここに来た理由は聖王教会(こちら)がヴィヴィオに対する処遇だったね?」

 

「はい、この子には事実上俺の……聖王の血が流れています。 俺の時みたいにあらぬ騒動に巻き込まれないか心配なんです」

 

「フェノールの件もあるし、不確定要素は出来るだけ少ない方がいいからね。 変に噂されても面倒だし」

 

もしそうなったりしてヴィヴィオが傷付くなんて事になったら……本気でそいつを潰してしまいそうだ。

 

「……率直に言えば根も葉もない噂が絶えないと思う。 レンヤと一緒にいることやヴィヴィオの容姿……ゴシップとしては絶好のネタだしね」

 

「もちろんその時を考えて教会側も対応しますが……どうしても“姫”には辛い思いをさせてしまいます……」

 

「そうか……ん? ちょっと待て、姫って何だ?」

 

「陛下の娘であれば姫と呼んだ方がよろしいかと」

 

「今さっきの言葉否定してないか……!?」

 

守るどころか逆に攻めてんじゃん!

 

「いや、これはいいんだ。 レンヤの娘としておくことでヴィヴィオは聖王教会の庇護があると思わせる事が出来る。 それに……守ってやるんだろ?」

 

「はあ……あなたはいつもズルいですね?」

 

「はは、よく言われる。 さてと、次はどこに行くつもりだい? 時間が時間だし次で最後にしておいた方がいいよ」

 

「そうだねぇ……ユーノにも会わせたいし、本局に行こうよ」

 

「そうだな、クロノもいるかもしれないし。 それでは俺達はこれで失礼します」

 

「またねー」

 

「ヴィヴィオ、またいつでもおいでね」

 

「はーい!」

 

「お見送りします」

 

ヴィヴィオとウイントさんは手を振り、シャッハに見送られて聖王教会を後にした。 そのまま地上本部に向かい、少し異界対策課に顔を出した後本局に向かった。 転移する時の感覚てヴィヴィオがかなりはしゃいでいたが……そのまま無限書庫に向かった。

 

「わあ……! すごいすごい! パパ、アリシアママ、お本がいっぱいあるよ!」

 

「その名の通り無限にあるからね。 まだまだ増えているみたいだよ?」

 

「ほえ〜!」

 

ヴィヴィオは辺りをキョロキョロ見回しながら先に進み、無重力の区画に入り。 ヴィヴィオは重力がなくなる突然の変化に慌てふためいた。

 

「はわわ!? パパ!浮いてるよぉ……!?」

 

「ヴィヴィオー、落ち着いて。 何も怖くないよー」

 

「あはは、無限書庫はシャレにならないくらい大きいから、無重力の方が何かと都合がいいんだよ」

 

俺達も続いて無重力空間に入り、ヴィヴィオの手を掴み。 そのままユーノが調査している区画に向かった。

 

目的の区画に着くと、そこなは宙に浮いているユーノがいた。 ユーノの周りにはいくつもの本が浮いており。 本が独りでに開いてページがめくれ上り、閉じると書棚に入って行き、また別の本が出きていた。

 

「あ、ユーノ!」

 

「あれ? アリシアにレンヤ? どうしたの今日は?」

 

「ああ、この子を紹介しに来たんだ」

 

「こんにちはー、ヴィヴィオでーす!」

 

ヴィヴィオは元気よく挨拶をする。 だが手を勢いよくあげたせいでバランスを崩し、その場で回転してしまう。 それをアリシアは慌てて助けようとする。

 

「その子が例の……相変わらずトラブルに巻き込まれているみたいだね?」

 

「まあな、そっちはいつも通りか?」

 

「うん、特に変わった事はないよ。 終わる事のない調査とクロノの要求とか」

 

「……クロノの無茶振りも変わってないんだな」

 

「まあね」

 

諦めたのか、それとも慣れたのかは定かではないが、ユーノはそっぽを向きながら愛想笑いをする。

 

「あ、そうだ。 今ついでに思い出したんだが……ここにエレミア書記はあるか?」

 

「エレミア? それって黒のエレミア? おそらく未整理区画にあるとは思うけど……あそこは迷宮になっていて、本を守るために霊体やゴーレムが出たりするから。 そう簡単に進めないんだよね」

 

「…………やっぱりここ、異界認定していいか?」

 

「……言わないで」

 

ユーノは振り絞るように否定の言葉を言った。

 

「まあいいか、別に今すぐ必要なわけでもないし。 頭の隅にでもいいから覚えておいてくれ」

 

「うん、見つかったら連絡するよ。 そうだ、今ちょうどクロノが本局にいるから会って行けば?」

 

「そうなの? 久しぶりだなぁ、直接会うのって」

 

「おわったの?」

 

「ああ、そろそろ行こうか。 またなユーノ、こんど何か持ってくるよ」

 

「ありがとう、またねレンヤ、アリシア」

 

「まったね〜」

 

ユーノと別れ、今度はクロノに会いに本局の受付に向かった。

 

「済みませーん、クロノ・ハラオウンにお取り次ぎできますか?」

 

「はい、少々お待ちください」

 

「パパ、クロノさんって?」

 

「クロノはパパ達の上司みたいな人でな。 子どもの頃からお世話になっていて、今もかなりお世話になっている人だな」

 

「へえー」

 

「ーーお待たせしました。 ハラオウン提督がお会いになられるそうです。 それとお二人には必要ありませんが、そちらのお子様には身分を証明するパスを発行させていただきます」

 

ヴィヴィオの前に撮影用の空間ディスプレイが現れ、撮影音がするとディスプレイにヴィヴィオの顔が映った。 それからすぐにパスが発行され、それをヴィヴィオの首に下げた。

 

「提督は現在次元港におられます」

 

「わかりました、ありがとうございます」

 

「ありがとうございまーす!」

 

お礼を言い、俺達は次元艦が停められてある次元港に向かった。 途中、通路にガラス張りの壁があり、ヴィヴィオは興味を持ったのかそこに近寄った。

 

「わあ……!」

 

ヴィヴィオは感激の声を上げておでこをガラスに張り付けた。 ガラスの先には次元空間が広がっており、巨大な次元艦が数隻あった。

 

「アリシアママ、あれなぁに?」

 

「あれは次元艦って言ってね。 次元空間を自由に行き来できる船なんだよ」

 

「ほえ〜……」

 

しばらくヴィヴィオはその光景を見た後、近くで次元艦を見たいと思ったのかいきなり駆け出した。

 

「こらヴィヴィオ! 先に行かないの!」

 

「パパ、アリシアママ! 早く早く! お船が行っちゃうよ!」

 

「急がなくても船は逃げないぞ」

 

ヴィヴィオを見失わないように追いかけ、次元港に到着すると、ちょうどクロノとマリエルがクラウディアの前にいた。

 

「クロノ! マリー!」

 

「あ! レンヤ君、アリシアちゃん!」

 

「ん? ああ、来たのか。 久しぶりだな、2人とも」

 

「ああ、今日はアポもなしに済まなかったな」

 

「気にするな、ここ最近は平和そのもので暇も同然だ」

 

「こっちは全然暇じゃないんだけどね……」

 

アリシアがあははと笑った後、ため息をした。 と、そこでマリエルがヴィヴィオに気付いた。

 

「あれ? この子は?」

 

「ああ、紹介するよ。 この子はヴィヴィオ、ほら」

 

「うん、ヴィヴィオです! よろしくお願いします!」

 

「あ、うん。 ご丁寧に、こちらこそよろしくお願いするね。 そっかー、2人の子どもかー…………え」

 

マリエルは不審な顔をして俺、アリシア、ヴィヴィオとその順番で何度も視線を動かし、ポンと肩を叩いた。

 

「……苦労したんだね」

 

「違います」

 

「あ、そうだね。 ごめん……フェイトちゃんだったんだね。 ごめんね、叔母さん」

 

「誰が叔母さんだぁ!!」

 

アリシアとマリエルの冗談をスルーした時、クロノの背後から短髪でリンディさんのような黄緑色の髪をしたヴィヴィオと同い年くらいの女の子がひょっこりと出て来た。

 

「なんだ、ユノじゃないか」

 

「やっほー、ユノちゃんですよー」

 

「こらユノ、待っていろと言っただろ」

 

「ぶう、お兄ちゃんのいけず」

 

クロノがユノの頭を乱暴に撫で、ユノは膨れっ面で頭に乗った手を押し返した。

 

「そうだ。 ユノ、ヴィヴィオの相手をしてくれない?」

 

「ヴィヴィオ?」

 

ユノは隣にいたヴィヴィオに視線を向け、目の前まで歩いた。

 

「あなたがヴィヴィオちゃん?」

 

「うん! ヴィヴィオだよ!」

 

「初めまして、私はユノ・ハラオウンなのです! ユノちゃんと呼んでください!」

 

「うん、ユノちゃん!」

 

2人は早くも意気投合し、他の船を見に行くと言って走って行き、それにアリシアが続いて行った。

 

「……よかった、同年代の友達がいないかったからちょっと心配してたんだ」

 

「それはこちらも同じだ。 地球に住む以上、友人を作って深く関わってしまわれる危険もあるから、おいそれと外にも出せなかったし。 エイミィは子ども達に付きっ切り……父さんも努力はしているが基本母さんだけだったからな。 ヴィヴィオが友達になってくれるならこちらも安心だ」

 

「お互い、心配してたわけか」

 

妹でも娘でも、小さければ思う事は同じってわけか。 あれ? 俺、ヴィヴィオのことを娘って思ってたのか? 血縁としては間違ってはいないが……いやそれならむしろクロノ同様に兄妹は……

 

「無理か」

 

「何がだ?」

 

「こっちの話だ」

 

「ーーパパ! こっちにすごいお船があったよ!」

 

「お兄ちゃんも行くのです!」

 

ヴィヴィオとユノは何かを見つけたのか、俺とクロノは手を引っ張られた。 俺達はそんな2人に苦笑いしか出来なかった。

 

 


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