4月下旬ーー
ヴィヴィオが第3学生寮に来て早1週間……すっかりヴィヴィオは明るくなり、誰隔てなく笑顔で接するようになった。 すでにこの寮のアイドル的な立ち位置を得たのだった。
「ふあ〜……」
いつも通りに目が覚め、ベットから出ようとしたが……妙な重さを体に感じた。
「まさか……」
原因は分かっているが、布団をめくってみると……
「すう、すう……」
ヴィヴィオが抱きついて寝ていた。
「またか……」
多少呆れながらも、寝息を立てるヴィヴィオの頭を撫でるのだった。
それからヴィヴィオが目を覚ますと、すぐに昨日一緒に寝たはずのアリサを呼んでヴィヴィオを連れて行ってもらい、その後食堂で朝食を食べていた。
「もぐもぐ……」
「よく噛んで食べろよ」
「うん!」
隣で拙いスプーン使いで朝食を頬張るヴィヴィオ。 その表情は1週間前とは段違いで明るくなり、髪もなのはのリボンを使って左右にピョコンと少し跳ねるように結っていた。
「なんかあっという間だったね、ヴィヴィオちゃんが明るくなるの」
「環境が変わったのがいい影響でしょう。 対策課はそこまで悪くないとはいえ、お世辞にも良くはなかったから」
「そうだねぇ、時々堅苦しい管理局員も来ていたし」
対策課にはたまに他の管理局員が依頼を申請する事がある。 その時ヴィヴィオと鉢合わせして事もあり、よく俺の背に逃げていた。
「あはは、そうだね。 今のヴィヴィオを見るとあんまり考えられないけど」
「子どもは急に泣いたり笑ったりするからね」
「確かに、そうだね」
経験があるのか、フェイトが笑って同意する。 とはいえ、そろそろ聖王教会に……特にウイントさん、ソフィーさん、カリム辺りに紹介はしておきたい。
「ーー皆。 次の自由行動日なんだけど……ヴィヴィオを連れて外に出てもいいか?」
「連れて行って……それで何するの?」
「いや、ヴィヴィオを知り合いに紹介しようと思ってな」
それに、もしかしたら同世代の友達ができるかもしれない。 いくら仲が良くても年上ではいたらない所も出てくるからな。
「でもレン君……ヴィヴィオを連れて行くって、レン君1人で連れて行くつもり?」
「そのつもりだけど……全員で行くほどの事じゃないし、俺1人で十分だと思うけど」
「……納得行かないわね。 ただでさえ1番懐かれているのに、更に独り占めしようだなんて」
「え……」
親代わりを務めただけで独占した覚えはないんだが……
「レンヤ君はズルいよ。 ヴィヴィオと接する機会は平等であるべきじゃないかな」
「そうそう、ヴィヴィオは共通財産なんだよ!」
「ふえ〜?」
「えっと、何の話なんだ?」
「はは、おまえ恨まれてんだよ。 何しろここ数日、寝る時はいつもヴィヴィオと一緒みたいだし」
「いや、それはヴィヴィオが勝手にベットに入ってくるからで……」
一応ヴィヴィオの部屋は用意しているが、さすがにこの子1人でそのまま寝かせるのはしのびなく、女子達がローテーションで一緒に寝る事になっていて、部屋は着替える時や昼寝に使うぐらいしか使っていないのが現状だったりする。
「ーーなあ、ヴィヴィオ。 1人だと寂しいのは分かるが、いつもママ達と一緒だし、ママ達も心配するから勝手にこっちに来ちゃダメだろう?」
「だってパパと一緒だと落ち着くから。 イヤだった……?」
「い、いや……別にイヤって訳じゃないけどさ」
「ちょっとレンヤ……あんまりヴィヴィオに冷たくしないでよ」
「そうだよ、あんな事があったばかりなんだから。 まだヴィヴィオが不安がっているんだよ」
「一緒に寝てあげるくらいの甲斐性は欲しい所やなぁ」
「俺にどうしろと⁉︎」
羨まれていたと思ったらなんでいきなり叱られるんだよ。
「それはともかく、確かに連れ出すのいいと思うぜ。 何かしらの気分転換にはなるだろう」
「その前に今日の実技テストを頑張らないとね♪」
「う、そうだった……」
「今回はどんなレギュレーションになるのかな?」
「ん〜?」
俺達がそう考える中、ヴィヴィオは首を傾げていた。
実技テストを受けるため、俺達はいつも通りにドームにいた。
「おーし、そんじゃあ実技テストを始めるぞー」
相変わらずテオ教官は軽くて教官らしくないな。
「今回の実技テストは一対一による模擬戦だ」
「一対一って……」
「もしかしてテオ教官がご自身が?」
「おいおい勘弁してくれよ、もう俺だと手が余る」
テオ教官は両手を上げて否定する。
「では、一体誰が?」
「いるだろ、目の前に」
「目の前?」
「そうだ、VII組のメンバーで戦い合うんだ」
「なっ……!」
テオ教官の言葉に、俺達は驚く。
「組み合わせは完全にランダムだ、一戦だけ行い成績が決める。 各自全力でやれよ。 じゃなきゃ成績がつけられねえ」
「勝敗の有無は関係ないんですか?」
「戦闘内容によるな。 一瞬で終われば勝者が良くなるのは当然だし、敗者は悪くなる。 拮抗状態なら両者共に高い評価になるだろう」
「なるほど……」
テオ教官にしてはよく考えているが、それ以前に問題が……
「ちなみに戦意向上の為に敗者にはコレを飲んでもらう」
質問する前にテオ教官が取り出したのは……炭酸飲料が入ったアルミ缶だった。
「これは地球にある飲み物らしい」
テオ教官はリヴァンに向かってそれを放り投げた。
「ふーん? なんでこれが戦意向上に繋がるんだ?」
リヴァンは疑問に思いながらもファ○タを飲んだ。 その瞬間ーー
「ぐっはああっ⁉︎」
「リヴァン⁉︎」
リヴァンは突然奇声を上げてのたうち回り、最後には力無く倒れ伏した。
「ちょっ、テオ教官何飲ませたんや⁉︎」
「何って、地球飲みもんだぞ?」
「あんな危険な物あるわけないでしょう!」
と、リヴァンの手から離れた缶が足元に転がってきた。 拾い上げて名を見ると……
「ファ、ファンタジー?」
「違うな、これはファ○タGだ」
「何をグレードアップしたらああなるんですか?」
「見て! 名前の隣に丸シャの印が!」
「シャマルか!」
シャマルは料理が壊滅的なのは知っていたが、まさかこんな意味のない物を作るなんて……
「気を取り直して実技テストを始める。 さっきも言ったが敗者にはこのファ○タGを飲んでもらう。 効果はそこで伸びているリヴァンが実証済みだ」
テオ教官が指差した方向に、リヴァンが無残にも倒れていた。
「リヴァン君……」
《惜しい人を失いましたね》
「イリス、勝手に殺さないでよ……」
「リヴァンの実技テストはどうなるんですか?」
「あいつには半分くらいの点やっておくから、心配すんな」
「って言うか教官、もしかしてVII組が奇数人だからそんなん手を使ったんか?」
「それなら教官ご自身が参加すればよかったんじゃ……」
フェイトがそこを指摘すると、教官は少しの間静止した。
「……それじゃ、実技テストを始めんぞ」
「ちょっと!」
アリサが声を上げたが、目の前に対戦表が表示されて止められた。 対戦表に記されていた組み合わせはーー
ユエVSなのは
シェルティスVSフェイト
はやてVSツァリ
アリシアVSすずか
アリサVSレンヤ
「ほお、面白い組み合わせになったな」
「よろしくお願いします、なのは」
「うん、お互い頑張ろうね」
「……負けないよ」
「それは僕のセリフだよ」
「うう、はやてとかぁ……」
「ふふ、ツァリ君、お手柔らかになぁ」
対戦相手が決まり、それぞれが色んな表情を見せた。
「レンヤと本気で戦うなんていつ以来かしら?」
「模擬戦は時々やっていただろ」
「そうね。 でも、そこに本気はなかった……さすがに今回ばかりは勝ちは譲れないわよ?」
「だろうな……」
俺もアレだけは飲みたくない。 そしてそれぞれの対戦相手と向かい合い、デバイスを起動した。
「ーーそれでは実技テストを開始する。 各自、全力でやれよ」
『はいっ!』
それは意気込みなのか、それともアレを飲みたくない一心なのかは定かではないが……テオ教官の言葉に強く返事をした。
「……始め!」
テオ教官が開始を宣言し、全員が模擬戦を始めだし……目の前のアリサが飛び出して来て剣を振り下ろしてきた。
ガキンッ!
「くっ、いきなりだな……!」
「負けたくないのよ……それにーー」
《ロードカートリッジ》
「あなたとの本気のぶつかり合いで……気が高ぶっているのよ!」
カートリッジで剣に炎を纏わせ、刀を弾かれてそのまま吹き飛ばされた。
「ぐうっ! 真っ正面からの力比べじゃ部が悪いか……!」
《オールギア……ドライブ》
「レゾナンスアーク、短刀を……!」
一気に3つのギアを駆動させ、魔力を高めながらアリサの周りを走りながら短刀を腰に展開し、カートリッジを装填する。
「フレイムアイズ!」
《カノンフォルム》
フレイムアイズの形態を変化させ、刀身をスライドさせて砲身が出て来た。 砲身をこっちに向けて構えると炎弾を撃ってきた。
「っ……ふっ、せい!」
炎弾を避け、時折斬り裂き……隙を見て接近して斬りかかる。 アリサはすぐに砲身を納めて対応する。 剣がぶつかり合うごとに火花を散らし、時間が経つごとに魔力が高まっていき、だんだんと剣戟による余波がドーム内の地面を剥がしていく。
「はあああっ!」
「やあっ!」
お互い一歩も引かず、いつしか剣技による模擬戦となっていた。
《ロードカートリッジ、ジェットスロー》
「行け!」
「はああっ!」
短刀のカートリッジを炸裂させ、弾丸の如く短刀を投擲した。 アリサは剣で受け止めるが、威力が高くて簡単には弾けなかった。 その間に突きの構えを取り、接近した。
「くっ!」
《ロードカートリッジ》
「いやあっ!」
裂帛の声と同時にカートリッジを2つ使用し、短刀を弾いたらすぐに迫ってきた突きを転ぶことで回避した。 しかし剣の技量においてはこちらが上……徐々にこちらが押していった。
「せいっ!」
「うっ……!」
刹那の閃きの間に三閃刀を振り、アリサはギリギリ防ぎながらも弾かれた勢いで地面を引き摺りながら後退していき。 息を荒げ、肩を上下して息をしていた。
「はあ、はあ……」
「どうしたアリサ、もう限界か?」
「……言ってなさい、すぐに倒してやるわ……!」
残る力を奮い立たせ、剣先を後方に向けて構えるアリサ。 何か仕掛けるつもりだな……俺は少しずつ後退して行くと、アリサはジリジリと摺り足で前に進んで行く。
「………………」
「………………」
「………ーーっ!」
大きく一歩下がった時……剥がれた地面に足を取られてしまい、体勢が崩れてしまう。
「っ!」
その隙を逃さず、アリサはフレイムアイズの刀身から魔力を噴射し。 静止状態から一瞬で突っ込んできた。 だが、それは失策だぞ、アリサ? 俺はすぐにでも背後に刺さっていた短刀を蹴り上げた。
「っ⁉︎」
その行動にアリサの顔は驚愕するが、勢いを止める事はできずそのまま剣を振った。 左に長刀を逆手に持ち替え、右で短刀を掴み……長刀でアリサの剣を受け流し、短刀で剣を上に弾き上げた。
「あっ!」
短刀を逆手に持ち替え、両手の刀でアリサの首筋に刀を添えた。
「………参りました」
剣を手から離し、アリサは両手を上げた。
「ふう、こっちもギリギリだった」
「よく言うわよ。 最後の足を取られてた所、ワザとでしょう?」
「さて、どうかな?」
「ああもう悔しい!」
アリサは憤慨し、ものすごい地団駄をする。 地団駄するたびに地面がヒビ割れていく……
「お前らで最後だぞ、中々の接戦だったじゃねえか」
「……お世辞ですか?」
やや膨れっ面のアリサが拗ね気味で返答した。
「いやいや、本当にそう思ってるさ。 ただまあ、避けられないもんはあるからな」
「?」
アリサはテオ教官に何かを渡された。 よく見てみると……ファ○タGだった。 忘れてた……
「さあ、どうぞグイッと」
「そうやでぇ、アリサちゃん……」
「ここは潔く飲むんだね……」
そこに、髪で顔が隠れているはやてとアリシアが早く飲むように催促してきた。 ああ、2人共負けたのか……
「ちょ、ちょっと待ちなさい。 別にすぐに飲まなくてもーー」
「さあ……」
「さあ……」
『さあ……!』
「い、いやああああああっ⁉︎」
「ぐふっ……これ程とは……!」
《シェルティース、生きてますかー?》
「…………………」
《返事がない、ただの屍のようだ。 だが屍に喋りかけるという異常性が私にはーー》
「シャマルめ……今度帰ったら家族会議や……」
「ゴホッ! ゴホッ! コレ飲み物じゃないよ〜……」
「うぐぐ……! バニングスとして……醜態を晒すわけには、行かないわ……!」
ドーム内では敗者達が死屍累々さながら横たわっていた。 はやては地面にシャと書いた後にそれを丸で囲った、ダイニングメッセージ的なものを書いて力尽きた。 シャ丸……上手くないぞ。
「にゃはは、ごめんユエ君……」
「本当にごめん、負けるわけには行かなかったから……」
「よくはやてに勝てたな」
「あはは……正直ギリギリだったけど……何とか隙を付いてね」
「ごめんアリシアちゃん……本当にごめん……」
「おーおー、まさかここまでの威力があるはなぁー」
その光景を眺めながら手の中でファ○タGを転がし遊ぶテオ教官。 あなたの所為でしょう……
「ん?」
「おはようございます」
その時、トコトコとテオ教官の隣にヴィヴィオが歩いて朝ーーもう昼前だがーーの挨拶をした。 離れた場所にファリンとアタックがいた。 どうやら2人が連れて来たようだ。
「おう、おはようさん、ヴィヴィオ」
「うん、失礼します」
またお辞儀をすると、俺達に向かって駆け出した。
「あ、転んじゃだめですよぉー」
「気い付けてなぁ〜」
2人の声を聞いてないのか、それともすぐに向かいたいのかヴィヴィオなりに急いで走っている。
「パパ〜、ママ〜」
「ああ!」
「あ、ヴィヴィオー!」
「危ないよー、転ばないでね」
「うん!」
フェイトとの注意に元気よく返事をしたが……その1秒も待たない内にヴィヴィオは転んでしまった。 ドームには芝生が敷いてあるが、顔面から倒れたが、不幸中の幸いか怪我はしてなさそうだが……痛いには変わりない。
『あ……』
「あ! 大変ーー」
「大丈夫、地面柔らかいし綺麗に転んだ。 怪我はしてないよ」
「それは、そうだけど……」
フェイトが倒れたヴィヴィオを助けようしたのをなのはが手で制した。 この2人が1番、ヴィヴィオを溺愛しているからな……
『ゴホッ……どうする?』
『……ここはなのはに任せましょ』
『うん、そうだね。 ここはなのはちゃんとフェイトちゃんに任せよう』
『やれやれ……』
すずかはともかく……アリサとアリシアは本当は行きたいが、動けないからだろ。
「ヴィヴィオ、大丈夫?」
「ふえぇ……ヒック……」
顔を上げたヴィヴィオは、鼻を真っ赤にして目に涙を浮かべていた。
「怪我してないよね? 頑張って自分で立ってみようか?」
なのはは腰を下げて両手を広げた。 ヴィヴィオを自分から来させる気だ。 厳し……
「ママァ……」
「うん。 なのはママはここにいるから、おいで」
「ふえ……ふえぇ……」
厳し過ぎるなのはの前に、ヴィヴィオはとうとう泣き出してしまった。 それでもなのはは助けようとはせず、同じ体勢のままだ。
「なのはダメだよ、ヴィヴィオはまだ小ちゃいんだから……!」
「まあ、フェイト、ここは任せてくれ」
「あっ!」
俺とフェイトはヴィヴィオの前まで来て、フェイトはすぐに抱きかかえようとするが、今度は俺がそれを制した。
「レンヤ?」
「なのはの言い分も汲み取らないとな」
ヴィヴィオの前で膝をつき、目を合わせた。
「パパァ……」
「ヴィヴィオ、なのはママの言う通り、自分で歩かないと行けない時はきっとある。 フェイトママみたいに助けてくれることもある。 でも今はーー」
俺はヴィヴィオの前に手を差し出した。
「頑張るのはまた今度にして、とりあえず立ち上がろうか?」
「グスッ………うん……」
ヴィヴィオは俺の手を取り、ゆっくりと自分の足で立ち上がった。 その後フェイトが服に付いた汚れを払うとそのままヴィヴィオを抱きかかえた。
「ヴィヴィオ、もし怪我をしたらパパもママ達も悲しむかもしれないから、気を付けてね」
「ごめんなさい……」
「もう、フェイトママちょっと甘いよぉ」
「なのはママは厳し過ぎです」
「はは、期せずして前に言った事が証明されたな」
この前の記念祭中にした雑談の内容が、ヴィヴィオが来た事で証明されたわけだ。
「う、そうだね……」
「あ、あはは……」
「ほえ?」
会話について行けないヴィヴィオの頭を撫で、皆の元に戻った。
初めてギャグをやってみましたが、上手く行かない上に女子を絡ませるとロクな事がない事が分かりました。