魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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119話

 

1週間後、4月中旬ーー

 

ヴィヴィオを保護した俺達はヴィヴィオを地上本部にある異界対策課に匿いながらマフィアの報復を警戒することとなった。 学院には断りを入れて欠席扱いになっているが、最近休み気味でなのは達に後に続いて出席日数が厳しくなっているが。 クロノやゲンヤさんの協力を得ながらマフィアとアザール議長の動向を注意深く伺う日々が続いき……一方、記憶が戻らないヴィヴィオは年相応に不安を見せていたが、少しずつ対策課に馴染んでいった。

 

そしてーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー手打ち、ですか?」

 

早朝、対策課にマフィアの件について訪れたはやてとゲンヤさんが、開口一番でそう言った。

 

「ああ、非公式だが管理局本部宛てにフェノールから打診があったそうだ。 出品物にあの子が紛れ込んでいたのは完全な手違いーーというか、全く身に覚えがないということだ」

 

空白(イグニド)の工作とも主張しておるけどなぁ……ま、状況的には厳しいやろ」

 

ヴィヴィオはまだ寝ていて、アリシアとソエルが面倒をみ見ており。俺、アリサ、すずか、ラーグが隊長室で2人の報告を聞いていた。 だがアリシアとソエルも気になっているのか、サーチャーを飛ばしていてここの様子を見ていた。

 

「……そうですか。 俺達が駆けつけた時、空白は丁度、部屋にいた手下を倒したばかりのタイミングでした。 外からヴィヴィオを運んで中の人形と入れ替える暇は無かったと思います」

 

「考えられるとしたら、例のトランクが屋敷に運びこまれた時には既に入れ替わっていたか……」

 

「空白よりも前にトランクの人形をヴィヴィオちゃんと入れ替えか。 そもそも、出品される筈だった人形の出所は分かったのですか?」

 

「はっきりした事は判らんが、カルナログ方面の裏ルートから手に入れたものだったらしい」

 

「えっと、記念祭最終日ーーつまりオークション当日、屋敷に運びこまれたようやけど……その運び込んだ運送会社も架空のものだったと主張しとる」

 

はやてが懐からメモ帳を取り出し、記載されている内容を言った。

 

「つまり……連中はあくまで自分達は嵌められた側だと主張しているんですか?」

 

「まあ、そういう事だな。 真偽のほどは分からんが……連中が必死に弁明するのも判る」

 

「下手したら人身売買の容疑が掛けられる訳やからな」

 

「……………………」

 

はやての言葉に、すずかが暗い顔をする。

 

「武器の密輸、マネーロンダリング、盗品すら扱う闇のオークション……そんな犯罪を平気でやる連中でも人身売買の疑いが掛かるのだけは何としても避けたいわけね」

 

「当然といえば当然だ。 犯罪としては最悪の部類……絶対に許されない類の重罪だ。 管理局もさすがに黙っちゃいないし、何より聖王教会が聞きつけたら総力を挙げて叩き潰しに来るだろうな」

 

「証拠さえ、あればだけどな」

 

「まあそんなリスク、議長はもちろん、フェノールも負うハズがない……理屈は判るが。 正直、とてもじゃないけど納得は出来ないな」

 

「だからこその手打ちや。 レンヤ君達の潜入捜査ーー向こうは不法侵入と言うてるんやがーーについても一切不問にするそうや。 “偶然”保護した女の子の扱いも、こちらに全てを任せるそうや」

 

「その代わり、この件については自分達の主張を認める……間違っても聖王教会あたりに告げ口はするな、ですか……確かに必死ですね」

 

結局の所、ヴィヴィオの事はこちらに丸投げしたようなものか。

 

「……ヴィヴィオのことを考えると、曖昧にはしたくないですけど……あの子がこれ以上、マフィアに狙われない事が確約されただけでも納得すべきかもしれませんね」

 

「ああ、俺もそう思う。 ……まあ、問題なのは、肝心のその子の素性なんだが」

 

「はい……」

 

「名前以外には本当に覚えていないようみたいだからねぇ」

 

「……はやてちゃん、シャマルさんから検査結果をもらってきたんだよね?」

 

「ああ、うん……これや」

 

はやてはバックから封筒を取り出し渡してくれた。 表情が少し暗い所を見ると……予想通りの結果だろう。 封を切り、中の資料を確認していく。

 

記載されている内容は……身体はいたって健康で持病もなし。 魔力は平均以上ではあっても普通の子どもの域は出ていないが……人造生命体である可能性あり、未知の潜在能力を危険視される、と書かれている。

 

「…………!」

 

「やっぱり……」

 

驚く中、さらに読み進めていくと……

 

〈10年前、聖王教会で強奪された聖王の聖遺物が使用された可能性高。 神崎 蓮也氏とのDNA合致率50%……聖王の複製として次元犯罪者組織がプロジェクトFによる複製が予想される〉

 

「………………」

 

「レンヤ君………誰との子や?」

 

「何でそうなる⁉︎」

 

「証拠はあるんや。 さあキリキリとーー」

 

「やめなさい、バカはやて」

 

「ああああああっ!?」

 

「ヒュー、怪力♪」

 

アリサがはやてに顔面アイアンクローをし、はやては痛みで叫んだ。

 

「いずれにせよ、ヴィヴィオがレンヤの血縁者なのは事実か……」

 

「それが関係しているのか、最初からレンヤ君に懐いていたよね?」

 

「ああ、親を求めているようで俺から離れるのを嫌がっていた」

 

そして、何としてもヴィヴィオを守りたい気持ちで戦っていた自分の事も、どこかおかしいと思っていた。

 

「イタタタ……アリサちゃん、やり過ぎやんね」

 

「こんな真面目な時に冗談を言うからよ」

 

「重い空気を和まそうとしたウィットに満ちたジョークやないか……」

 

「ま、とりあえずこれからどうするつもりだ?」

 

はやてをスルーして、今後についてゲンヤさんが聞いてきた。

 

「そうですね……安全が確保できた訳ですし一度学院に戻りたいですけど……」

 

「ヴィヴィオをどうするかよね。 ここに残すとしてもソーマ達じゃ心もとないし……」

 

「とりあえず一度学院に第三学生寮で一時的に保護出来ないか相談してみるよ。 あそこならファリンやノルミンちゃん達もいるから安心できるよ」

 

「色んな場所に連れ出すのもいいきっかけになるからな。 しかし、完全に保護するとなると本格的に服といった必需品が必要になるな」

 

今までは一時的な保護だったからまとめやすいように必要最低限なものしか用意してないからな。

 

「服はルキュウで用意しましょう。 その方が荷物が少なくていいわ」

 

「車を用意してくるよ、皆はヴィヴィオちゃんと一緒に正面玄関から来てね」

 

「了解、よろしくな」

 

今後の事が決まり、先ずはヴィヴィオの様子を見に行った。 3階にあるヴィヴィオがいる部屋に入ると、アリシアとソエルが荷造りをしていた。

 

「あ、レンヤ」

 

「おっはよ〜」

 

「おはよう。 アリシア、ヴィヴィオは?」

 

「まだ寝ているよ。 ほら」

 

ベットの前まで行くと、ヴィヴィオはスヤスヤと眠っていた。 側にはうさぎのぬいぐるみがあった。

 

「よく眠っているな……」

 

「うん、自分がどうなっているのかまるで分からないのに、ね……」

 

「この子について、聞いてたのか?」

 

「うん……」

 

プロジェクトF……そう聞いて動揺しない訳ないか。 一体何の目的でこの子が生まれたのか……そう考えると手に力が入ってしまう。

 

「レンヤ」

 

「あ、済まん……」

 

「ううん、それよりも用意は出来ているよ。 後はヴィヴィオを起こして着替えるだけ」

 

「う……ん……」

 

その時、丁度ヴィヴィオが目を覚ました。

 

「おはよう、ヴィヴィオ」

 

「あ……」

 

開かれた双眸は変わる事なく紅玉と翡翠の色をしている。 その瞳に俺が映るとヴィヴィオは袖をその小さな両手で掴んだ。

 

「おは、よ……う」

 

「ああ、おはよう」

 

頭をポンポンと撫で、朝の挨拶を交わす。 この1週間、確かに懐いているとは思うが未だに名前を呼ばれた事はない。 まだ不安に思うのは分かるがちょっとだけショックだ。 名前は教えたはずだが……

 

「ヴィヴィオ、今日から別の場所で暮らす事になったんだけど、そこにはヴィヴィオの知らない人がいっぱいいるけど、皆とても優しくて大切な仲間だ。 だから、ヴィヴィオもきっとすぐに慣れると思う。 一緒に来てくれるか?」

 

「…………うん」

 

本当に理解しているかは定かではないが、俺の目を見て頷いてくれた。

 

「ありがとう……アリシア」

 

「うん、了解」

 

「やれやれ」

 

後の事をアリシアとソエルに任せ、部屋を後にした。 どういう訳か俺に次いでアリシアがヴィヴィオに懐かれている。 母性ならすずかの方があると思うが……まあ、気にしても仕方ないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学院長にヴィヴィオの件について、寮で預かる事に許可をもらい。 ゲンヤさんと別れ、はやても一緒に専用車でルキュウに向かった。 ラーグとソエルは残りそうで、そしてヴィヴィオは乗る前から車に興味津々で、出発してからは流れる景色に見入って終始窓から離れなかってが、道のりの半分を過ぎた所でまた眠ってしまい。 今はアリシアの膝枕でスヤスヤと寝ている。 早朝だったし、さすがにヴィヴィオには早かったか。 ルキュウに到着し、寮に戻るとなのは達に心配され、横抱きで抱えているヴィヴィオに視線を向けられたが、部屋も用意出来ていなかったので一旦ソファーで寝かした。

 

「よく寝ているね」

 

「うわあ、可愛いなぁ……!」

 

「しっかし、お前らも面倒なことに巻き込まれてるな」

 

「いつもの事よ」

 

「この子が……」

 

皆にはヴィヴィオの出生は伝えてあるが、特に気にしてないようだ。 ただアリシア同様、フェイトは複雑な心境になっている。

 

「大丈夫か、フェイト?」

 

「う、うん。 大丈夫だよ。 この子のことも、守らなくちゃね」

 

「そうだな」

 

一度自室に戻り。 制服に着替えて、もう一度戻るとヴィヴィオは起きていて。 なのはが優しく喋りかけていた。

 

「ーーそっか……」

 

「なのは、ヴィヴィオの相手をしてくれたのか?」

 

「あ、レン君」

 

「あ……」

 

ヴィヴィオはソファーから立ち上がると駆け寄り、足に抱きついた。

 

「よく眠れたか?」

 

「………うん」

 

そういいながら俺はヴィヴィオの頭を軽く撫でる。 そうするとヴィヴィオも気持ちよさそうに目を細める。 そんな俺とヴィヴィオを見て、なのはが笑みを浮かべたが、ふと何かを思い出したように手を叩いた。

 

「そうだ……! レン君、そろそろ学院だよ。 急いで行かないと」

 

「そうだな、ノートを後で見せてもらえるか?」

 

「もちろん!」

 

朝食は移動中に軽く済ませたし、ファリンさんにヴィヴィオの分を頼まないとな。

 

「……どこかいっちゃうの……?」

 

袖を引っ張りながらヴィヴィオがそう聞いて来た。 下を見るとヴィヴィオが目にウルウルと涙を溜め、今にも泣きそうになっていた。 おそらく会話の内容の細かいところまではわからないまでも、出かけてしまうということはわかったのだろう。 目に溜まった涙は今にも零れ落ちてしまいそうだ。

 

「えっと、その……ヴィヴィオ、落ち着いて……」

 

「そ、そうだよヴィヴィオ! レン君が行くって言ってもすぐに帰ってこれるから……!」

 

「ちょっ……⁉︎」

 

なのはが言ってしまったことをすぐに訂正しようとしたが、時すでに遅し。 ついにヴィヴィオの瞳から涙がポロポロと零れ落ち、足に抱きつく力が上がったり声を上げて泣き出してしまった。

 

「いっちゃやーだーー‼︎」

 

大きな声を上げ泣きながら懇願するヴィヴィオに、俺達はそろって慌て始める。 さらにヴィヴィオの泣き声を聞いたアリサ達も駆けつけたが、それでもヴィヴィオ泣き止まずに足に抱きついた。 その時、丁度降りて来たフェイトとはやてがこの光景を見て驚いた。

 

「えっと……なのは? なんの騒ぎ?」

 

「あ、フェイトちゃん。それがーー」

 

なのはが説明を始める中、俺達は泣きじゃくるヴィヴィオに四苦八苦していた。

 

「いやー、それにしてもかの“蒼の羅刹”も小さい子には弱かったかー」

 

クスクスと笑いながらはやてが言うが、ヴィヴィオをどう泣き止めようか考え、念話ではやてに助けてを求めたが……

 

『笑ってないで助けてくれよ! いや、それ以前に何だよ蒼の羅刹って⁉︎』

 

『何や知らんかったのか? 結構前からレンヤ君の事、二つ名でそう呼ばれとるで』

 

超不本意だ……その時、フェイトがソファーに置かれていたヴィヴィオのうさぎのぬいぐるみを手に取り、ヴィヴィオの前にしゃがみこんでぬいぐるみを使ってヴィヴィオをあやしてくれた。

 

「こんにちは」

 

「ふぇ……?」

 

「この子は、あなたのお友達?」

 

「ヴィヴィオ、彼女はフェイト。 俺達の大切な友達で、信頼できる仲間だ」

 

「ヴィヴィオ、どうしたの?」

 

ぬいぐるみを左右に動かして、ヴィヴィオの気をひくフェイト。 さすがに手馴れているな……ユノやカレルとリエラ、それにエリオとキャロとよく接しているからかな。

 

『確かにこの1週間、寝ている時以外は離れた事は無かったが……まさかこうなるとは……』

 

『ふふ……懐かれたのかな?』

 

『これじゃあ、ファリンさんにも預けられないな』

 

『想定外の事態ね……』

 

『フェイト、頼める?』

 

『うん、大丈夫、任せて』

 

「ねえ、ヴィヴィオはレンヤ……さんと一緒に居たいの?」

 

「………違う」

 

「え……」

 

「………パパ」

 

『え』

 

「………パパ」

 

一瞬誰の事を指したのか分からなかったが、2度目で服を引っ張って来たので、自分の事を指していることに気付いた。

 

『レン君……』

 

『いや、呼ばせた覚えはないし。 むしろこの1週間名前すら呼ばれてないから!』

 

『まあ、間違ってはいないわね。 血の繋がりは証明されてるし』

 

「ええっと……そう、パパね! コホン、パパは大事な御用でお出かけしなきゃいけないのに……ヴィヴィオが我が儘を言うから困っているよ。 この子も、ほら……」

 

多少慌てたが、その後もフェイトがぬいぐるみを使って事情を説明すると……ヴィヴィオもなんとか事情が飲み込めたのか、最後にうさぎのぬいぐるみをフェイトから受け取り、多少ぐずりながらも頷いた。

 

「ありがとうヴィヴィオ、お昼には一旦戻って来るから」

 

「グスッ………うん」

 

足から引き離し、視線の高さを合わせて肩に手を置き、そう言い聞かせるとゆっくりと頷いてくれた。

 

ファリンさんにヴィヴィオの事を任せ、遅刻ギリギリなので俺達は急いで学院に向かった。 授業が始まると、なのは達が警戒態勢期間中フォローしてくれたとはいえ、数日分の遅れを取り戻さなければならず。 ヴィヴィオの事を気にしながらも一旦頭の隅に追いやり、ペンを持ちながらブラックボードとノートと向き合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4限目、デバイスエンジニアリングーー

 

本校舎から少し離れた場所にある技術棟、そこでデバイスの仕組みや開発、修理に必要最低限の知識を教わっていた。

 

「…………………」

 

「やっぱりヴィヴィオちゃんが気になる?」

 

「すずか……まあ、気にならないと言えば嘘になるんだが……」

 

すずかに話かけられ、止まっていた指を再び動かしてキーボードを打つ。

 

「月末の自由行動日、一度連れ回した方がいいかもな。 明るくなる、いいきっかけになるといいんだけど……」

 

「ふふ、なんだがかんだでレンヤ君、いいお父さんしてるね」

 

「ぐっ……仕方ないだろ、歳を考えても親にすがりたい気持ちはあるし。 これも何かの縁だ、保護責任者としてヴィヴィオを支えていく」

 

本当に、何かの(えにし)なんだろうな……

 

「なら後見人も必要だね。 レ、レンヤ君さえよければ……///」

 

「ああ、そうだな、すずかにーー」

 

『ちょっと待った』

 

すずかに後見人を頼もうとした時、聞き耳を立てていたのかなのは達が大声を出して近付いてきた。

 

「すずかちゃん、抜け駆けはずるいでぇ〜? ここは家事万能である私がーー」

 

「ううん、私の方が適任だよ。 可愛いヴィヴィオと一緒にいたいからね♪」

 

「な、なのは⁉︎ で、でも後見人なら経験もある私が……」

 

「それならレンヤに次いでヴィヴィオに懐かれている私がやるよ!」

 

「だめよ、ここは私が後見人を引き受けるわ。 異論は認めないわよ」

 

「ア、アリサちゃん、横暴だよ……!」

 

いつの間にか俺の周りで後見人争いになっていた。 と言うか今授業中で……

 

「あなた達……」

 

『あ……』

 

顔を上げると、そこにはモコ教官がいたが……雰囲気がかなりピリピリしている。

 

「いくら管理局の方が忙しいとはいえ、場所を弁えなさい……」

 

『は、はい!』

 

「ふう……神崎、いい加減決めておきなさい。 こちらも迷惑です」

 

「え⁉︎ あ、はい」

 

決める? 後見人を、だよな? その後、結局6人全員が後見人になる事でその場は収まった。

 

お昼になり、一度ファリンさんに連絡を入れヴィヴィオの様子を聞いた。 ファリンさんが言うにはヴィヴィオはノルミン達が気に入ったそうで、どうやら放課後まで持ちそうみたいらしい。

 

そして放課後ーー

 

「レンヤは、この後すぐにヴィヴィオちゃんの所に行くの?」

 

「いや、連絡が来るまでギリギリ粘ってみる。 ツァリ達も出来れば寮に帰るのを遅らせてくれないか?」

 

「部活もあるし、それは構わないけど……」

 

「何をするつもりだ?」

 

「なーに、ちょっとしたお祝いだよ」

 

「……あ、なるほど……それはいいですね」

 

「何々〜?」

 

「ヴィヴィオの事で何話してるんや?」

 

なのは達も俺のこれからやろうとする提案を説明した。

 

「それはいい考えだよ! ヴィヴィオもきっと喜ぶ!」

 

「これは久しぶりに腕が鳴るでえ……!」

 

「許可の方はこっちでもらっておくわ。 準備の方は任せたわよ」

 

「うん、任せて。 絶対に思い出に残るようにしようね!」

 

「それじゃあ……第3学年VII組、行くぞ!」

 

『おおっ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……ん……」

 

「おはようヴィヴィオ」

 

「! あ、パパ……!」

 

目が覚めたヴィヴィオは、俺の声を聞くと顔をこちらに向け、両手を伸ばしてきた。

 

「よしよし、いい子にしてたか?」

 

「うん……」

 

「ふふ……」

 

ヴィヴィオを抱き上げ、なのはがあやすように頭を撫でる。 なんか、すっかり板についてしまったな……

 

「ヴィヴィオ、お腹空いていないか? もう夕食の時間だし、食堂に行こうか」

 

「うん……」

 

そのままヴィヴィオを抱えて食堂に向かった。

 

「それじゃあ、入るね」

 

「? うん」

 

ヴィヴィオは断りをいれて入る事に少し疑問に思いながらも頷き、ゆっくりドアを開けて中に入いると……

 

パンパンパンッ!

 

『ようこそヴィヴィオ! 第3学生寮へ!』

 

クラッカーの音が鳴り、皆の声が揃って聞こえた。 ヴィヴィオは何がなんだが分からず、怯えるどころかポカンとしている。

 

「驚いたか?」

 

「これはパーティだよ、ヴィヴィオ」

 

「パーティ……?」

 

「そうだよ、ヴィヴィオがここに来てくれた、ね」

 

すずかがこのパーティの主役であるヴィヴィオを正面の椅子に座らせた。 目の前にテーブルには美味しそうな料理の数々。 そして目の前にあるのはいちごで飾られたホールケーキ。 上に乗っているチョコプレートにはミッドチルダ語で“ようこそヴィヴィオ”と書かれていた。

 

「ヴィヴィオの為に作ったんだぞ」

 

「このケーキ、パパが作ったの⁉︎」

 

「ああ、こう見えても菓子作りが得意だからな」

 

「他の料理や飾り付けも皆でやったんだよ」

 

このパーティの準備をVII組総出で行い、ちょっとした騒ぎになりつつもあったが……準備が終わり、寮に帰る前にファリンさんにヴィヴィオが寝ている事を確認してから寮に戻ってきて。 ヴィヴィオに内緒でこうしてお祝いの準備をしていたのだ。

 

「あはは、僕も居ていいのかな?」

 

「いいよいいよ♪ ソーマも手伝ったんだしさ♪」

 

「レンヤー、さっさと始めようぜー」

 

「そうだな」

 

「ではでは! 皆さんお飲み物を片手に……かんぱ〜い!」

 

『乾杯!』

 

サーシャの合図でパーティが始まり、それぞれが思い思いに料理に手を付けた。 最初はヴィヴィオも戸惑っていたが、なのは達がフォローしてくれたおかげで、すぐにパーティを楽しみ出した。

 

「楽しんでいるか?」

 

「うん! お料理、すごく美味しい!」

 

「ありがとうなぁ、腕によりをかけた甲斐があったちゅうもんや」

 

夢中で料理を頬張るヴィヴィオ、口元はすぐに汚れてしまい、その度になのはがかいがいしく世話を焼いていた。

 

「すずか様ー、お待たせでフー」

 

「ありがとうビエンフー」

 

シルクハットをかなり深く被った小悪魔風の黒いノルミンが、飲み物を運んで来た。 このノルミンの中でもかなり変なノルミンの名はビエンフー。 ファリンの相棒的位置にいて、よくファリンにこき使われているらしい。

 

「もぐもぐ……このリボン解いてもいい?」

 

「バァット! バット! それだけはダメでフー!」

 

……今後、ヴィヴィオにもからかわれそうだな。

 

そしてパーティが終わりを迎え、お腹も満たされた所で俺は後見人についてヴィヴィオに教えることにした。

 

「ヴィヴィオ、突然でごめんなんだけど。 私達がママの変わりでもいいかな?」

 

「ヴィヴィオはどう? いやかな?」

 

なのはとフェイトが首をかしげながら聞くと、ヴィヴィオはすぐには飲み込めていなかったが……小さく頷いて答えた。

 

「ううん……いやじゃ、ないよ」

 

「ありがとうヴィヴィオ」

 

なのはは嬉しかったのか、そっとヴィヴィオを抱きしめた。

 

「よかったなヴィヴィオ、ママが6人もできて」

 

「うん……!」

 

ヴィヴィオは頷くと、泣き出してしまった。 だが今回のものは悲しいからではなく、嬉しいから泣いているのだと思う。

 

その時気付いた、俺がパパだとしてもママが6人で……あれ? なんかやってはいけない事のような、いやでも後見人だし……

 

それからアリシアに呼ばれるまでのしばらくの間、葛藤するのであった。

 

 

 

 


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