魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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118話

 

 

トランクを開け、中に入っていたのは金髪で5、6歳くらいの女の子で、病院服のような薄着だけ着ていた。 しばらく呆けてしまったが、すぐに我に返った。

 

(もしかして……メルファが言っていたアーネンベルクにある人形工房の? まるで、本当に生きてるようだけど……)

 

《生体反応あり、生きています。 トランクが反応を遮っていたもよう》

 

「え……」

 

レゾナンスアークが目の前の女の子が人形ではないことを告げると……

 

「………ん………」

 

女の子が目を覚まし、目元を擦りながら起き上がった。

 

「っ!」

 

女の子の開かれた双眸は……鮮やかな紅玉と翡翠の色をしていた。

 

「………ぁ………」

 

「この子は……!」

 

未来に行った時に見た写真に写っていた女の子……

 

「! ど、どうかしたの……?」

 

俺の声に2人が何事かと慌てて近寄り、トランクに入っている女の子を見ると驚きの声を上げる。

 

「え……」

 

「……子ども……?」

 

「き、君は……どうしてこんな所に……」

 

「………ぁ……ぅ………」

 

女の子は怯えた感じで俺達を見つめる。

 

「ご、ごめん……怖がらなくてもいいよ。 えっと、お父さんとお母さんはどこにいるか分かるかな?」

 

「…………パパ……ママ………」

 

少し呟いた後、女の子は首をふるふると左右に振った。

 

「それじゃあ、名前を教えてくれるかな? 俺は神崎 蓮也。 君の名前は?」

 

「…………ヴィヴィオ………」

 

「ヴィヴィオ……君の名前はヴィヴィオっていうのか。 でも、どうして……アーネンベルクで間違えてトランクに紛れ込んだのか?」

 

「ね、ねえ、レンヤ君……この子の格好、どう考えても招待客の子でも、女の子が着るような服には見えないんだけど……」

 

「ああ……分かっているけど……」

 

目の前の事実と、服装から連想する嫌な推理に頭が混乱してしまう。 その時、クーが不適に笑った。

 

「くく……なるほどな。 どうやらそいつが……爆弾なわけだ。 アーネンベルク工房の人形が仕舞われているトランク……もしこのまま会場に運ばれてその蓋が開かれていたら……?」

 

「そうなりますよね……」

 

「な、なるほど……」

 

ニトログリセリンより、よく燃え広がりそうだなそうだな。 しかも完全鎮火はほぼ不可能の。

 

「…………レン、ヤ……?」

 

「あ……ああ、ごめん。 ヴィヴィオ、他に覚えていることはないかな? 知っている人や住んでいた場所、何でもいいよ」

 

「ぅ……ん……」

 

固唾を飲みながら答えを待つが、同様に首を左右に振った。

 

「ふう……とにかく君をこのままにしてはおけないな。 いったんここから出てーー」

 

ウゥーーーーーー!

 

突如、屋敷全体にサイレンが鳴り響いた。 それと同時にAMFが展開された。 訓練でバリアジャケットの展開や魔法は少し使えるが、念話や転移が出来なくなってしまった。

 

「っ!」

 

「気付かれたか……!」

 

「いけない……!」

 

「ま、空白が着た後でよく持った方だな」

 

『なっ……!』

 

『馬鹿な、侵入者だと⁉︎』

 

『しゅ、出品物を確かめろ!』

 

前の部屋から男達の声が届き、すぐにドアが乱暴に開かれマフィア2人が入ってきた。 すぐに対処しようとした時……誰かに腰を掴まれ反応が遅れてしまった。

 

「ふっ……!」

 

代わりにクーが即座にマフィアに接近し、蹴りを一撃喰らわせてあっという間にのしてしまった。

 

「す、すごい……」

 

「すまない、クー」

 

体を見下ろすと……サイレンに怯えたのか、ヴィヴィオが震えながら抱きついていた。 落ち着かせるように頭を撫でると震えが少し収まった。

 

「どうやら覚悟を決めた方がいいぞ。 このままだと確実に連中に捕まることになる」

 

「分かってる。 レゾナンスアーク、セットアップ」

 

《イエス、マイマジェスティー》

 

いつの間にかサイレンは止んでいたが。 ヴィヴィオを一旦離れさせ、バリアジャケットを纏い、腰を下ろしてヴィヴィオの目線に合わせる。

 

「ヴィヴィオ。 俺達と一緒に来てくれるか? 君のことは絶対に守るから」

 

「あ……」

 

ヴィヴィオは少し俯いた後、顔を上げてコクンと頷いた。

 

「ありがとう」

 

ヴィヴィオを抱き寄せ、横抱きで抱えてた。

 

「わぁ……!」

 

「ーー2人とも、バリアジャケットを展開してくれ。 それと、メイフォンで外に待機しているアリサ達に連絡を……これより、この子を連れて議長邸から脱出する……!」

 

「……了解!」

 

「くく……面白くなってきたじゃねえか」

 

2人も同様にバリアジャケットを展開し、急いで出口に向かって走った。

 

すぐに通路で数名のマフィアと戦闘になったが……ヴィヴィオが離れてくれず、かといって過激に動き回る戦闘も出来ない。 申し訳なく思いながらすずかとクーに任せ、後衛に立ち銃で援護した。

 

「ふう、なかなかやるじゃねえか。しっかし、こう室内だとおいそれとスチュートが使えねえぞ」

 

「大丈夫、レンヤ君?」

 

「ああ……」

 

すずかは抱えられているヴィヴィオを見て、安心したように息をはいた。

 

「ヴィヴィオ、もしもまた戦う事になったら……少し安全な場所まで離れててくれないか?」

 

「ううっ……!」

 

否定の意味があるのか、胸にさらに強くしがみついた。

 

「ヴィヴィオ、君を守るために戦いたいんだ。 ヴィヴィオも、俺の事を信じてくれるか?」

 

頭を撫でながら優しく問いかけ、ヴィヴィオは掴んでいた手を緩め、頷いた。

 

「ありがとう……」

 

「やれやれ、逃げ切れるといいんだがな」

 

「とにかく急ごう……!」

 

1階に降り、正面玄関から逃げようとするが……そこにはゼアドールが指揮をするマフィア達が大勢いた。 さすがにあれを相手にするのはまずい。

 

(おおきい……)

 

(どうやら正面玄関から逃げるのは無理みたいだね……)

 

(迂回路を探そう)

 

今度は屋内庭園がある廻廊を通り、庭園に差し掛かると……反対側の通路から数匹のアーミーハウンドが出てきた。

 

「くっ、屋内でグリードを放つなんて!」

 

今度はヴィヴィオは離れてくれて、近ず遠からずの位置でこちらを見守っている。

 

「何とか撃退するよ……!」

 

「……来るぞ!」

 

襲いかかってきたグリードにあしらいつつ、ヴィヴィオの安全に気を配った。

 

「せいっ!」

 

「はっ!」

 

最後のグリードを倒し、安全が確保された事を確認すると……ヴィヴィオが小走りで近寄って来て、抱きついた。

 

「くく、懐かれたな」

 

「……そのようで。 まあ、子どもならではの感覚のせいだかな?」

 

この子目と雰囲気……推理が間違えていなければ、そうなんだろう。

 

「私は違うと思うよ」

 

「え……」

 

「レンヤ君だからだと、私は思うな。 エリオ君にも結構懐かれているし」

 

「……そうか、そうだな。 ありがとうすずか」

 

「どういたしまして」

 

すずかにお礼を言いながらヴィヴィオを抱き上げ、気を取り直して脱出するために走り出した。 屋敷右翼から反対側の左翼に来たが、念のためもう一度正面ホールを確認すると……カクラフがゼアドールを非難していた。

 

『ーーええい! まだ侵入者は見つからないのかのか! そろそろ招待客が騒ぎ始めているぞ!』

 

『……どうかしばちお待ちを。 屋敷は完全に封鎖しました。 これでもう袋のネズミです』

 

『クッ……このままだと議長の機嫌が……さっさと捕まえろ! 場合によっては殺しても構わん!』

 

やはり正面玄関からは無理だが……カクラフはかなり物騒な発言をしているな。 アザール議長との繋がりがよほど大切らしい。

 

(あ、あの人……)

 

(! 何か思い出したのか……!)

 

(カクカクしていて面白い……)

 

(ガクッ……)

 

カクラフ会長の見た目を言っただけか……しかし、思っていた以上に言語が発達しているな。

 

(ははは……おまえ最高じゃねえか!)

 

(ふふ……将来大物になりそうだね)

 

そうしている間に数名のマフィアが近づいて来たので慌て階段を登り、先ほど訪れた議長の居室に入った。

 

「………………」

 

「ここは、確かアザール議長の部屋だったような……」

 

「ふうん、見るからに豪華そうな部屋だな。 だがーー」

 

「ああ、先客がいるみたいだ」

 

「え……っ!」

 

「ーーふふ、よく気付いたわね」

 

部屋の奥の陰から女性の声がすると……紅いチャイナドレスを着た、ナタラーシャ・エメロードさんが出て来た。

 

「ナタラーシャさん……」

 

「ど、どうしてここに……」

 

何故ここにいる質問をするが、ナタラーシャさんはこちらに近付き、抱えているヴィヴィオを見た。

 

「へえ、なるほど……あなた達、随分と面白いものを掘り当てたじゃない」

 

「はあ……」

 

「?」

 

ヴィヴィオ自身、何も分かってないのか小首を傾げる。

 

「おいおい、おまえらいつの間にこんな美人の姉ちゃんと知り合ったんだ⁉︎ 紹介しろよ」

 

「今はそんな事している暇はありません」

 

「というか、エテルナ先輩に怒られますよ」

 

「あなた達、和み過ぎじゃないかしら? もう少し脱出者としての緊張感を持ってくれないと」

 

「いや、いきなりそんな正論を言われても……」

 

こんな時でもからかうんだな、この人。

 

『おい、いたか……⁉︎』

 

『右翼は調べた! 後はこの部屋だけだ!』

 

『議長の部屋も確認しろ!』

 

ドア越しからマフィア達の声が聞こえ、またすぐにピンチになる。

 

「撃退するしかないか……」

 

「……なにをしているの? 私がいた場所があるじゃない」

 

「え……」

 

「迷っている暇は無いよ……!」

 

どうして助けたくれるのか疑問に思ったが、考える暇もなくすずかに引っ張られてナタラーシャさんがいた物陰に隠れた。

 

ナタラーシャさんはそのままドア前に立つと……ドアが乱暴に開けられてマフィア達が入って来た。

 

「これはナタラーシャ様……」

 

「見回りご苦労様。 侵入者が出たらしいですけど、そろそろ捕まえましたか?」

 

「いえ……ですが時間の問題です」

 

「ところでナタラーシャ様はどうしてここに……?」

 

「実は、この辺りで変な物音が聞こえましてね……」

 

「変な物音……?」

 

「まさか侵入者……⁉︎」

 

「ほら、出て来ていいわよ。 恐がることはないわよ?」

 

ナタラーシャはこちらを向いて、出てくるよう催促してきた。

 

(……心臓悪いな)

 

(うん、分かっているとはいえ、ね)

 

(なんだ気付いていたのか)

 

「ニャア〜」

 

猫の鳴き声がすると、ベットの下から黒猫が出てきた。

 

「ね、猫……?」

 

「ほら、ノワール。 そんなに恐がらないで。 ほらほら」

 

ナタラーシャさんはどこからともなく猫じゃらしを取り出すと、そのまま猫と遊び始めた。

 

「くっ、人騒がせな……」

 

「失礼する……!」

 

「あ、そうそう。 今思い出したけど、さっきそこの窓から妙な人達を見かけたのだけれど……あれが、例の侵入者だったのかしら?」

 

マフィアが部屋を出ようとした時、ナタラーシャさんはワザとらしくマフィアに嘘を教えた。

 

「妙な人達⁉︎」

 

「どういう連中ですか⁉︎」

 

「暗くてよく見えませんでしたけど、小さい女の子を連れていたわ。 裏庭の方に逃げましたわよ」

 

「間違いない……目撃情報と一致する!」

 

「くっ……いつのまに屋敷の外に! 若頭に報告するぞ!」

 

マフィアが走って部屋を出て行き。 それを確認すると俺達は物陰から出た。

 

「はは、見事なお手並みですね」

 

「その猫ちゃん、最初から用意してたのですか……?」

 

「何のことかしら? あら、裏庭に逃げたはずの人がどうしてここに……? 不思議ねぇ〜」

 

「くすくす……」

 

「はは……本当に助かりました」

 

そんなナタラーシャさんを見て、ヴィヴィオは顔を綻ばせて笑った。

 

「ーー2人とも、一か八か、玄関の方に行ってみよう。 さっきの誘導で手薄になっているかもしれない!」

 

「うん……!」

 

あくまで助けたつもりはないナタラーシャさんにお礼を言い、来た道を戻って正面ホールに向かった。 そこにはゼアドールはいなく、マフィアは数えるほどしかいなかった。

 

(よし、あの数なら……!)

 

(強行突破できる……!)

 

(行くぜ……!)

 

ヴィヴィオを下ろし、刀を構えて正面ホールに飛び出た。

 

「なっ……⁉︎」

 

「外に出たんじゃ⁉︎」

 

「遅いよ……!」

 

マフィア達が驚いている間に、速攻で攻撃し。 騒ぎになる前に制圧した。

 

「ええい、騒がしいぞ! まだ見つからんのかーー」

 

戦闘音が聞こえたのか、会場からカクラフが出てきた。

 

「な……お、お前達は⁉︎」

 

「あ……」

 

「カクラフ会長……!」

 

「関係ない! このまま脱出するぞ!」

 

アディオス(さようなら)!」

 

すぐにヴィヴィオを抱え、カクラフを無視して正面玄関から出て行った。 その後すぐにカクラフの慌てた怒鳴り声が聞こえてきたが……どう足掻いてもこれでも黒の競売会(シュバルツオークション)は完全閉場だな。

 

正面に架かっている橋を渡ると、バリアジャケットを展開したアリサ達が走ってきた。

 

「レンヤ!」

 

「よかった、無事に合流できたか!」

 

「ふう……ヒヤヒヤさせるわね。 それで、その子が通信で言っていた保護した子ね」

 

「わあ、可愛い子……!」

 

「うん、ヴィヴィオちゃんって言うんだよ」

 

「ふうん?」

 

「…………………」

 

「ぅ………」

 

「大丈夫だヴィヴィオ、彼女達は信頼できる味方だ」

 

アリサ達を……特に興味津々で凝視するアギトとソエルを見て怖がったヴィヴィオの頭を撫でて安心させる。

 

「時間がない、早くここからーー」

 

「ハッ、そうは行くかよ!」

 

待ち伏せていたのか、道を塞ぐように先ほどより多い人数のマフィア達が現れた。

 

「くっ……読まれていたか」

 

「やれやれ、そう簡単にはいかねえか」

 

「クク、若頭の指示通り、張っておいて正解だったぜ」

 

「なるほど……管理局の小僧どもだったか。 ハッ、さすがにオイタが過ぎたみてぇだなァ……?」

 

マフィア達はデバイスを起動すると……大型の重機関銃を構えた。

 

「そんなものまで!」

 

「重機関銃型のデバイスーーなんて物を持ち出しているのよ!」

 

「逃げ込める遮蔽物もないし、火力も違い過ぎる……!」

 

「クク……抵抗してもいいんだぜ?」

 

「最も、この間合いだったらあっという間にミンチだろうがな」

 

「くっ……」

 

少しでも動いたらあの銃口が火を噴くだろう。 対処はできなくもないが、ヴィヴィオを下ろす隙すら与えてくれない連中だ。 仮に下ろせたとしても、AMFがある状態であのデバイスの猛攻に耐えられる防御魔法がない……

 

「うう……」

 

「……大丈夫。 絶対に守ってみせるから……!」

 

ヴィヴィオを抱える力を少しだけ込め、この状況を打開する策を張り巡らせる。 その時、魔力の唸りを感じると……

 

『ぐあっ……⁉︎』

 

突然、マフィア達が吹き飛ばされた。 その後も次々と吹き飛ばされ、あっという間に全員が倒れた。

 

「……やられちゃった」

 

「今のは……⁉︎」

 

「屋敷の方から狙撃されたみたいだね。 不可視の魔力弾……相当な手練れだよ」

 

「くく、どうやら他にも助っ人がいたようだな」

「詮索は後だ、さっさとずらかるぞ!」

 

「でも、転移魔法はおろか、飛行魔法も使えないんだよ⁉︎」

 

「それなら丁度、水上バスが来ているよ!」

 

「とにかく波止場に向かうわよ!」

 

脱出方が決まり、急いで波止場に向かって走った。 途中、戦闘に参加することもあるのでヴィヴィオを後衛のアリシアに預けようとするが……嫌がって離れようとしなかったので、結局このままで行くことになった。

 

「メキョ! グリードが来るよ!」

 

「何ですって⁉︎」

 

それと同時に唸り声が聞こえ、数匹のアーミーハウンドが走って来て行く道を塞いだ。

 

「まさか……街区にグリードを⁉︎」

 

「いい加減、あいつら起訴したいんだけど⁉︎」

 

「いっぱい……」

 

グリードを撃退するため、ヴィヴィオを一旦アリシアに預けた。

 

「来るわよ……!」

 

「ようやくスチュートが解禁だ、派手に行くぜぇ!」

 

「黒焦げに燃やしてやるよ!」

 

グリード……アーミーハウンドは吠えながら襲いかかって来た。 アリシアとヴィヴィオが背後にいるため避けず、刀を噛み付かれながら受け止めた。

 

「レゾナンスアーク!」

 

《ファーストギア……ドライブ、ソニックソー》

 

ギアを駆動させ、刀身に魔力を走らせてアーミーハウンドの牙と接触している部分から火花が飛び散る。

 

「っ………アギト!」

 

「そらよ!」

 

アリサも同様に剣で受け止め、その隙にアギトが火球をぶつけ、消滅させた。

 

《ロックオン》

 

「ニードルバインド!」

 

3体のアーミーハウンドの上下から針型のバインドが飛び出し、アーミーハウンドを拘束した。

 

「すずか!」

 

「まかせて!」

 

《スナイプフォーム、フリージングレーザー》

 

止まったアーミーハウンドに、氷結魔法の魔力レーザーを放ち、氷漬けにした。

 

「っ! せい!」

 

火花を出しながら斬りはらい、アーミーハウンドを口から2つに裂いた。

 

「おらよっと!」

 

続けてクーが大砲で氷漬けのグリードを砕き、安全を確保した。

 

「し、信じられない……他の観光客だっているのに、グリードを放つなんて……!」

 

「なりふり構わなくなってきたね……」

 

「……とにかくアーケードを突破して波止場に向かおう。 一般市民が巻き込まれたら、そっちも何とかカバーするぞ!」

 

「まったく、無茶を言うわね!」

 

「くく、お前達も苦労してるな」

 

「お前も一応、入っているぞ……」

 

周囲を警戒しつつアーケードに入ると、中はかなり騒がしかった。 中央ホールに出ると、一般市民が慌てて走ってホテルなどに逃げ込んでいた。 その最後尾に現れたのはマフィアとグリードだ。

 

「やめろ! 一般市民を巻き込むな!」

 

俺達が道を塞ぐ形で観光客らしい男女のカップルが中央に取り残されてしまったが。 何とかこちらに戦意が向くように声を上げた。

 

「ハッ、知ったことかよ!」

 

「てめえらを逃したら、俺達の方がヤバイんだよ!」

 

「くっ……」

 

攻撃される前に一般市民の前に出て、男の1人に斬りかかった。

 

「最低限の矜持すらないのか!」

 

「知るか!」

 

そんな事を気にする余裕もないのか、必死の形相で攻撃してくる。

 

「こっちに来ないで! ヴィヴィオが怯えるわ!」

 

「さっさとくたばりやがれ!」

 

男がヴィヴィオの方に銃を撃ち、アリサがヴィヴィオを背にして防御魔法で銃弾を防いだ。

 

「アギト、交代!」

 

「おう!」

 

《チェーンフォルム、フレイムチェイン》

 

アリサは防御をアギトに任せ。 チェーンフォルムに変形させたフレイムアイズを振るい、男をからめ取って拘束し……

 

「はあっ!」

 

「ぎゃあっ⁉︎」

 

鎖を引き、空に浮かし。 勢いをつけてから地面に叩きつけた。 叩きつけられた部分はひび割れ、男は気絶した。

 

「このやろ!」

 

「ひっ……!」

 

「くっ……」

 

逆上した男がカップルに銃口を向け、同時にグリードが接近して行った。 先ずは銃を斬り裂いた後男を蹴り飛ばし、魔力弾を撃ち気絶させたらすぐに反転してアーミーハウンドを追いかけ……

 

柳疾駆(やぎしっく)!」

 

追い抜いたと同時に縦に何度も刀を振り、グリードを細切れにする。

 

「フリージング!」

 

すずかがフリージングレーザーをアーミーハウンドに放つが、避けられてしまったが……

 

《エンハンス》

 

「氷結の刃!」

 

アリシアの二刀小太刀が外れたレーザーを吸収し、氷結の魔力エネルギーを纏った小太刀でアーミーハウンドを斬り裂いた。

 

グリードを倒し、マフィア達を制圧してから2人が無傷なのを確かめた。

 

「2人共、大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ……!」

 

「何なの、この人達……⁉︎」

 

「急いでホテルに避難してください……! そこまでは彼らも踏み込んで来ないはずです!」

 

パニックになっている2人を、すずかが声を少し上げて説得した。

 

「わ、わかった!」

 

「も、もうやだ……! エミューなんて、来なければよかった……!」

 

2人はすぐにホテルに繋がる階段を上っていった。 2人には気の毒だが、同情している暇もない。 すぐに波止場に出ると……水上バスの出航の汽笛が聞こえてきた。

 

「しまった……!」

 

慌てて水上バスに向かって走るが……届く前に水上バスは行ってしまった。

 

「行っちゃった……」

 

「そんな……まだ出航時刻じゃ……」

 

「騒ぎを聞きつけて、出航を早めたのかもしれない。 正しい判断だとは思うけど……」

 

「俺達にとっては最悪の判断だったわけだ」

 

「いたぞ……!」

 

「追い詰めろ……!」

 

悔いている暇もなく、背後のアーケードからマフィアが出てきた。 この波止場は一本道……もう逃げ場は残されていない。

 

「くっ……」

 

「逃げるだけ逃げるわよ! ボートでも波止場に泊まっているかもしれないわ!」

 

「ああ……!」

 

諦めずマフィアから逃げるように波止場の奥に向かうが……

 

「ちっ……何にもないじゃん!」

 

「すずか! 湖を凍らせて行けないの⁉︎」

 

「こ、この状況下じゃこの人数を耐えられるだけの氷をすぐには張れないよ!」

 

「! 来たよ!」

 

マフィア達に追いつかれ、銃を乱射して来た。 こちらも魔法や銃で牽制しながら後退する。 追い詰まれる事にマフィアが増えていき、グリードも出た来て……とうとう逃げ場を無くし、追い詰められてしまった。

 

「囲まれちゃった……」

 

(すずか、今すぐやってくれ。 時間は稼ぐ)

 

(りょ、了解……!)

 

「ーーふふ、やれやれ……まさか貴様らだったとはな」

 

その時、前方からマフィア達の間を通り歩いて来たのは……フェノール商会若頭のゼアドール・スクラムだった。

 

「ゼアドール……」

 

「あの人が……」

 

「対策課の小僧ども……ずいぶんと久しぶりじゃねえか。 道理で見たことのある小僧どもだと思ったわけだ。 まさか招待カードを手に入れて競売会に潜入するとはな」

 

「……別に管理局の人間が参加してはいけない決まりは無かったですけどね」

 

「ああ、別に構わない。 来る者は拒まず……お得意様だったら大歓迎だ。 しかしまあ、正直侮っていた。 まさか空白(イグニド)と結託してここまでの騒ぎを起こすはな」

 

ゼアドールの言った事に俺達は驚愕する。 まるでそんな覚えがないのだが……

 

「いぐにど……?」

 

「ど、とうしてそうなる⁉︎」

 

「……空白と私達は何の関わりもありません。 気絶した部下の人達に聞いてみたらどうですか?」

 

「むしろ侵入していたヤツを追っ払ったようなもんだしな」

 

「ふむ、そうか。 だがそんなもは今更どうでもいい。 問題は貴様らが私達の顔を潰したこと……その落とし前は付けてもらわないとな……?」

 

マフィアとヤクザ……中身は違うが本質は同じわけか。 嬉しくないけど……

 

「……投降すると言っても聞いてはくれなそうですね」

 

「ふふ……せっかくの戦を前にして、血が騒ぐのだ。 安心しろ……命までは取るつもりはない」

 

ゼアドールがデバイスを起動しコート風のバリアジャケットを纏い、巨大なメイスが地面を砕きながら現れた。 ゼアドールそれを重鈍な音を立てながら苦もなく片手で持ち上げる。

 

「骨の1本か2本で勘弁してやる……!」

 

「うっ……」

 

「マジみたいだね」

 

「ったく……トシを考えろよ、オッサン」

 

「せいぜい楽しませてくれ。 この天の車、第1のゼアドールをな!」

 

「それ役者だよね⁉︎」

 

「もう彼だけの異名になっているんでしょ!」

 

「天の車……?」

 

「来るぞ……!」

 

「はあっ!」

 

ヴィヴィオにソエルを抱えさせてから向き合い、ゼアドールが一喝の気合いを入れてメイスを振り上げ、地面に振り下ろすと波止場の一部が崩壊し、その衝撃が向かってきた。

 

「くっ……」

 

「なんてバカ力⁉︎」

 

衝撃が届く前にヴィヴィオを抱えて跳躍し、浮き上がった瓦礫を足場にして反対側に降り立った。 他の皆も……あれ? クーはどこに……

 

「灼熱の……業火球!」

 

アギトが振り返りと同時に大玉サイズの火球をゼアドール達に向けて放ち、陣形を崩した。

 

「おらっ!」

 

「喰らいやがれ!」

 

2人のマフィアが重機関銃を構え、乱射してきた。

 

「防ぐよ!」

 

《アイスウォール》

 

「もらった!」

 

《ガトリングブリッツ》

 

すずかが槍を地面に突き刺し、そこからの横に広がって氷壁が迫り上がり、魔力弾を防ぎ。 アリシアが迫り上がる氷壁に飛び乗り、さらに跳躍して奴らの頭上から魔力弾を降り注いだ。

 

「……効かぬわ!」

 

だが、ゼアドールだけはその雨をまるで効かず、メイスを一振りして氷壁を砕いた。

 

「きゃあっ⁉︎」

 

「ぅ……」

 

「ヴィヴィオ!」

 

氷の破片がヴィヴィオまで及ばないよう前に出て、防御魔法で余波を防いだ。

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん……」

 

「そうーーかっ!」

 

安全を確認すると振り返りぎわに刀を振り、振り下ろされたゼアドールのメイスと鍔迫り合いになる。

 

「よそ見とは余裕だな」

 

「ぐっ……」

 

もう片方の手で刀身を抑えて耐えるが、少しずつ押されていき、膝をついてしまう。 見た目通りの剛腕からくる力は凄まじい。

 

「むんっ!」

 

「ぐあっ!」

 

肩を蹴られ、そのまま追撃でメイスで攻撃してくる。 しかもデタラメには振り回していなく、速度も速いため避けるだけでも困難だ。

 

「レンヤ!」

 

「アリシア! 先ずは取り巻きからよ、あいつはレンヤに任せなさい!」

 

「う、うん!」

 

「なるべく早くな!」

 

《セカンド、サードギア……ドライブ》

 

全てのギアを駆動させて魔力を上げるが、ゼアドールを相手にはそれでもかなり遅い。 だが……

 

「っ……はあああっ‼︎」

 

《ファイナルドライブ》

 

「ほう?」

 

全ギアを最大出力で駆動させ、裂帛の気合いでメイスを受け流し続け、一瞬の隙も見逃さず攻撃に転ずる。

 

「何がお前をそこまで駆り立てる?」

 

「あなたには言いたくないね……!」

 

一瞬の鍔迫り合いの間に会話を交わせ、再びゼアドールと斬り結んだ。

 

「この……いい加減倒れなさい!」

 

「ふざけろこのアマ!」

 

「若頭の前で先に倒れるわけには行かねえんだよ!」

 

「執念すごっ……」

 

「っ……はっ!」

 

《サークルエッジ》

 

すずかが槍を円を描いてアーミーハウンドを2体を同時に倒したが……

 

「すずか!」

 

「…………⁉︎」

 

その隙を見逃さず、男が重機関銃をすずかに向けて構えていた。

 

「くたばーー」

 

《ストライクバースト》

 

「ぐあああああっ⁉︎」

 

しかし引鉄を引かれる前に突然男に魔力砲弾が直撃し、爆風で吹き飛ばされて行った。

 

「セーフ……ぶえっくしょん!」

 

マフィアを挟んだすずか達の反対側に、何故か濡れているクーがスチュートの砲口から煙を出しながら立っていた。

 

「クー先輩、助かりました!」

 

「っていうか、今までどこにいたんだよ?」

 

「ズズ……あの崩落で湖に落ちたんだよ! 俺はお前らみたいに飛行魔法も使えねえし、身軽じゃねえんだよ!」

 

「そ、そうですか……」

 

「ま、まあ……結果オーライ?」

 

アリサ達はゼアドール以外を倒したもようだ。 こっちも決着をつけないと……!

 

「はあっ!」

 

「…っ………」

 

段々と太刀筋がゼアドールに決まるが、ゼアドールの着ているバリアジャケットが硬く、ダメージが通らない。

 

「…………なるほど、原因はーーあの少女か」

 

「………⁉︎」

 

「どこの者かは知らないが、余程大事らしいな?」

 

「当たり前、だ!」

 

渾身の一振りがメイスに当たり、ゼアドールその勢いで後退する。

 

「親がいない子から目を背ける事なんて、俺には出来ない!」

 

両親がいない気持ちは……よく知っている。

 

「……そうか」

 

「ーーレンヤ!」

 

ゼアドールに向けられ紅い魔力弾が撃たれ、ゼアドールはメイスを回転させて防ぎ。 アリサ達が俺の前に出た。

 

「遅れたわね」

 

「大丈夫、レンヤ君?」

 

「ああ、何とかな」

 

「ラスボスにしては手強そうだ」

 

「意味分からないよ、クーさん」

 

「緊張感ねえなぁ、お前ら」

 

だが、それがあるから異界対策課なんだと思うかな。

 

「ぬあああっ!」

 

「はあっ!」

 

振り下ろされたメイスをアリサが受け止め、左右からすずかとアリシアが飛ばした。

 

「行って!」

 

《シレットスピアー》

 

「狙い撃ち!」

 

《マルチショット》

 

左からすずかが魔法陣から魔力の槍を発射し、右からアリシアが2丁拳銃でゼアドールの関節部分に狙いを定めて狙撃する。

 

「むんっ!」

 

だがゼアドールは、攻撃が当たる直前で一喝し、2人の攻撃を弾いてしまった。 バリアジャケットを硬化したのだと思うが、何て硬さだ。

 

「こちらを忘れないでね!」

 

「ぐっ……」

 

意識が変わった隙を狙い、アリサはフレイムアイズの峰の部分にある噴出口から炎を噴き出し、その勢いでゼアドールを弾き飛ばした。

 

「カッ飛びな!」

 

《ディストーションカノン》

 

「もういっちょ! 灼熱の……業火球!」

 

間髪を容れずクーが歪曲した魔力弾を、アギトが灼熱の火球を放った。

 

「効かぬわああっ!」

 

ゼアドールはメイスで防ごうともせず、体を張り2つ魔力弾をその身で受けた。 直撃し、爆煙が舞うが……出てきたゼアドールは少し汚れただけだった。

 

「嘘でしょう⁉︎」

 

「硬すぎだろ……」

 

「私の防御術式は並の攻撃では傷一つ付かない防御力も要している! この程度、取るに足らんわ!」

 

最強の(メイス)(防御魔法)を持っているわけか、かなり厄介だな。 なら……

 

「疾っ……!」

 

一瞬で背後に回り、防御が薄い首元を狙い意識を断とうする。

 

「ふっ!」

 

「なっ……⁉︎」

 

ゼアドールは刀を手の甲で受け止めた。 しかも籠手もしてない素の手でだ。 いくら硬いと言ってもそこまで……

 

「ぐはっ……!」

 

考える暇もなく腹部を殴られ、吹き飛ばされてしまう。 だだのパンチでもこの威力……腹部の痛みが治らない。

 

「レンヤ君!」

 

「ふんっ!」

 

「…………!」

 

《レイピアフォーム、アイシクルブレイド》

 

心配してくれたすずかに、ゼアドールはメイスを振り。 すずかは槍では受け切れないと思ったのかスノーホワイトをレイピアに変形させ、メイスを受け流した。 さらに反撃し、少しずつゼアドールの体に氷が付着していく。

 

「アギト、炎パス!」

 

「分かった、受け取れ!」

 

《エンハンス》

 

「火炎の刃!」

 

アギトがアリシアに向かって火球を撃ち、小太刀で受け止めると小太刀に炎が纏い、ゼアドールに斬りかかった。

 

「っ……!」

 

「このっ!」

 

「ふはははっ! 効かぬと言っている!」

 

2人の攻撃を受け切ったらすかさずメイスで攻撃してくる。 その戦い方に2人は攻めきれない、ノーガードで突撃する人なんてそうはいないからな。

 

「なら、もっとどデカイのをお見舞いしてやるぜ!」

 

《ロードカートリッジ》

 

クーが大型のカートリッジをロードし、砲口の前に巨大な魔力弾が形成される。

 

「上手く避けろよ!」

 

『え……』

 

《エーテルバースター》

 

引鉄を引かれた瞬間……凄まじい魔力の奔流が俺達含めゼアドールに向けられて放たれた。

 

「きゃあっ⁉︎」

 

「クーさんのバカー!」

 

すずかとアリシアはすぐさま離れたが、俺は避けよとするが腹部の痛みでまた膝をついてしまう。

 

「はあああああっ‼︎」

 

ゼアドールは迫る砲撃に向かってメイスを振るい……ぶつかり合うと砲撃がその場で止まり、爆風が巻き起こる。

 

「マジかよ……だが負けるわけにはいかねえ!」

 

「ぬううっ‼︎」

 

力が拮抗し、さらに激しさを増していく。

 

「大丈夫、レンヤ?」

 

「アリサ……ちょっとヤバかった」

 

いつの間にかアリサが近寄ってきて、肩を貸してもらい砲撃の射線上から離れた。

 

「アレは囮よ、後数秒は持たないから。 最後はレンヤが決めなさい、策はあるわよね?」

 

「りょ、了解……」

 

次の瞬間、ゼアドールが砲撃に打ち勝ち。 振り下ろされたメイスが衝撃となってクーに直撃した。

 

「ほら、行きなさい!」

 

《エターナルブラッド》

 

「ああ!」

 

アリサに擬似的な疲労回復魔法をかけてもらい、腹部の痛みと体の倦怠感が消えるのを感じ。 一気に駆け出し、低めの跳躍でゼアドール前に飛び上がり、突き構えを取り……

 

「むっ!」

 

無明風声(むみょうかぜごえ)!」

 

同じ箇所に何度も突きを繰り出し、ゼアドールの防御を貫き刀が貫通した。

 

「ぐあああああっ‼︎」

 

ゼアドールの背後に滑りながら着陸し、息をはいた。 ゼアドールは腹部に連撃を受け、膝をついた。

 

「ふう、ふう……」

 

「イタた……たっく、手こずらせやがって」

 

ゼアドール達をようやく制圧した。 マフィアやグリードはそこまで手こずらなかったが、やはりゼアドールは別格だった。

 

「……わ、若頭……!」

 

「……だ、大丈夫ですか⁉︎」

 

「ふふふ………はははは……」

 

心配して声をかける男達の声が聞こえていないのか、不敵に笑うゼアドール。

 

「……中々楽しませてくれる」

 

ゼアドールはダメージがあるにも関わらずスッと立ち上がり、それに続いて男達とグリードがヨロヨロと立ち上がってきた。

 

「ぅ……」

 

「なんて奴らだ……!」

 

「タフすぎんだろ……」

 

「チッ……化物かよ」

 

「ふ、ベルカの融合機が何を言っている。 融合機……特に純正である貴様はーー」

 

「ッ! うっせぇ! テメェには関係ねえだろ‼︎」

 

アギトは怒りを露わにし、ゼアドールの言葉を遮った。

 

「落ち着きない、アギト」

 

「で、でもよぉ……」

 

「あなたの存在意義は私が知っているし、私が証明してみせる。 それに、あなたはあなたよ。 それを誇りにしなさい」

 

「アリサ……」

 

事情を知っているのか、アリサがアギトを落ち着かせた。

 

「ふふ、さすがに無粋だったか。 お詫びと言ってはなんだが……今度はタイマンと行こうか……!」

 

「あら、デートのお誘いかしら? 乗らない手はないわね」

 

アリサはアギトを肩に乗せ、俺達の前に出た。

 

「おい、アリサ……!」

 

「……ここは任せなさい。 彼を倒せたら何とか突破口が開けるはず。 私の事はいいわ……とにかくこの場を切り抜けなさい!」

 

「アリサを置いてなんて……できるわけないだろ!」

 

「だ、駄目だよアリサちゃん……!」

 

「らしくないよ!」

 

「ーー行くわよ……アギト、フレイムアイズ!」

 

「おう!」

 

《イエスマム》

 

まるで俺達の声が届いてはいなく、アリサはゼアドールだけを見ていた。 アリサとアギトは何かしようとしており、アギトがフレイムアイズの紅い菱型の宝玉の上に立つと……紅くて丸い光に包まれて宝玉に吸い込まれていった。

 

「アギト⁉︎」

 

「まさか……ダメだよアリサちゃん! まだ最終試験が済んでいないのに、いきなり高出力で使うのは危険だよ!」

 

「ごめんなさいすずか……生半可で勝てる相手じゃないわ」

 

『それにさ、すずかが失敗するものを渡すはずが無いからな。 だから安心してぶっつけ本番でも使えるのさ! 行くぞアリサ、フレイムアイズ!』

 

「ええ!」

 

《オーケー、アギト》

 

『「フェアライズ‼︎」』

 

合わせて言った掛け声と共にアリサはフレイムアイズを上に放り投げ、回転しながら上空に停滞していたら、突然回転が止まり。 剣先を下に向けてアリサに向かって落下し……そのままアリサの腹部に刺さった。

 

「なっ……⁉︎」

 

「ちょっ、何やってるの⁉︎」

 

その奇行が理解できず、ゼアドールも含めて驚愕するが……次の瞬間、フレイムアイズから魔法陣を展開しながら輝き出し、魔力が膨れ上げながらアリサを包んだ。 光が晴れると、そこには胸、両腕、両足に機械的な紅い鎧を装着し、右目には半透明のオレンジ色のHUDを装着している紅髪のアリサがいた。 背中には少し気の小さい機械的なオレンジ色の翼を広げていた。 ただ鎧を付けただけだが、虚仮威しではないのはビリビリと放たれる魔力でわかる。

 

『フェアライズシーケンス、コンプリート』

 

「さあ、飛ばすわよ!」

 

アギトの機械的な言葉を言った後に、アリサは剣を構えてポーズを決めた。 何故やった……?

 

「すごいわ……ユニゾンするより身体が軽いし、力が何倍にもなった気分……!」

 

「な、何あれ……」

 

「凄げえ魔力の奔流だ、冗談じゃなさそうだ」

 

「そう来なくては……こちらも全力で応えよう!」

 

瞬間、ゼアドールからアリサと同レベルの魔力が発っせられ。 後ろに控えていた男達はそれに耐えられず後退する。

 

「はああああっ‼︎」

 

「ぜああああっ‼︎」

 

2人が気合いと共に同時に飛び出し、剣とメイスが衝突すると今以上の衝撃と魔力の奔流が辺り全体に轟いた。 すぐお互いの武器を弾いて距離を取るが、すぐさま2撃目を構えた。

 

「なんて衝撃……!」

 

「うぅ……」

 

「くっ、このままじゃ……」

 

「さあ、これからが本番よ!」

 

『飛ばして行くぜぇ!』

 

「我が全霊、応じてもらおうか!」

 

戦闘が激化しては止められなくなってしまう。 どうにかしないと……

 

「この一撃で!」

 

『リミットアタック、バーニングーー』

 

『そこまでです‼︎』

 

その時、拡声機で聞き覚えのある少女の声が響いてきた。

 

「この声って……」

 

「まさか……!」

 

ゼアドール達の背後から現れたのは……ルーテシアとガリューだった。

 

(………………)

 

ガリューが無言の圧力を発すると、それを感じ取ったグリード達がひれ伏した。

 

「なっ……」

 

「お、お前ら……! 怯えたんじゃねえ……!」

 

「今だよガリュー!」

 

ルーテシアがガリューで指示を出し、隙を見せた男達に接近して湖に落としたり一撃で昏倒させた。

 

「くっ、虫だと……⁉︎」

 

ゼアドールの標的がガリューに向けられたその時……モーターボートの駆動音が聞こえてきた。

 

「この音は……」

 

「あれは……!」

 

見えてきたボートが俺達の前で停止すると……

 

「皆! 早う乗り!」

 

運転席に座っているはやてが大声で呼んできた。

 

「はやて……⁉︎」

 

「ぼーと?」

 

「ナイスタイミングだよ!」

 

「行かせるかああッ‼︎」

 

ゼアドールが止めようとメイスを振ったが……それをアリサが受け止めた。 その時の衝突による衝撃が大きく響き渡る。

 

「くっ、貴様……」

 

「悪いわね……今回はお預けよ。 それより……あなた達は知っていたのかしら……? 人間の子どもを競売会に出品しようとしてたのを……」

 

「なに……⁉︎」

 

ヴィヴィオの事を言い、ゼアドールは驚きの声を上げる。

 

「……この子は、出品物の部屋にあった革張りのトランクに閉じ込めらていた。 それが何を意味するのか、あなたは判っているか……?」

 

「?」

 

「な、何をデタラメを言っている! あのトランクにはアーネンベルクの人形が……!」

 

「まあ、でも事実だからなぁ。 事と次第によっては、タダでは済まねえぞ?」

 

事実、ヴィヴィオが入るわけだし。

 

「やれやれ……妙ことになっとるなぁ。 フェノールの。 改めて話を付けさせもらうで。 そっちはそっちで状況を整理しておいてな」

 

「グッ……」

 

「異界対策課、撤収や! さっさと全員乗らんか!」

 

「は、はいっ!」

 

はやての声に少し気圧されつつボートに飛び乗り、ボートが出発する時にガリューがルーテシアを抱えて飛び乗り、ようやくエミューからの脱出に成功した。 そしてその途中……ゼアドールの叫び声が遠く離れたここまで届いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……行ってしまったわね」

 

レンヤ達が乗るボートを離れていた場所から黒猫のノワールと一緒にナタラーシャが見ていた。

 

「ふふ、もう少し遊んでおけばよかったかしら、ちょっと勿体無かったわね」

 

「……彼らをからかうのは程々にして下さい」

 

ナタラーシャの背後から、何処からともなくキルマリアが現れた。

 

「とはいえ、確かにそこまで遊んでいない所を見ると……あなた個人としてここにいるようですね?」

 

「そうかもしれないわね。 あなたほど楽しいんではいないかもね。 いいのかしら、アレ? 完璧に干渉してるじゃない?」

 

「ああ、あの狙撃は見事でしたね。 空白という、噂の方が現れたのでしょうか?」

 

「私の前でそれを言い訳にするとはね……まいいわ、魔弾の射手の妙技、面白いものを拝見したし」

 

「こちらは残念です、“真紅”の異名をひと目拝見したかったです」

 

「ふふ、ごめんなさいね」

 

笑いながら謝罪すると……ナタラーシャはノワールを抱えてから指を鳴らした。 するとナタラーシャは炎の渦に包まれてしまう。

 

「当分は傍観しているだけよ。 面白い種を持って行ってくれたし、後少しもしない内に……楽しい楽しいパーティが始まるわ。 その時には、あなたとワルツのお相手をしてもらおうかしら……?」

 

「ええ、その時には、是非」

 

「ふふ……」

 

次の瞬間……ナタラーシャは陽炎のように変えて行った。 後に残った微かな残火が、風に吹かれてキルマリアの頰を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリサの回復魔法の効果が切れ、今は座り込んでいる。 すずかに回復魔法をかけてもらいながらある程度進んだ所でボートに速度を落とし、はやてと事情を説明した。

 

「……なるほどなぁ。 何やら記念祭の間にコソコソしとるんのは知っとたけど……」

 

「ご、ごめん……」

 

「ま、それはともかく問題はその子やな。 事と次第によってはとんでもない事になるかもしれへん」

 

一応、許してくれたのか話をヴィヴィオの方に変え、俺達は段々小さくなっていくエミューを見つめるヴィヴィオを見た。

 

「そうね……オークションで人形の代わりに出品される所だった子ども……」

 

「ま、よくない想像ばかり働くな」

 

「……まさかマフィアもそこまで愚かな事をしないと思うけど……」

 

「先ずは健康面のチェックをしないとね」

 

「ならシャマルに頼むとええ」

 

「カリムに頼んで聖王医療院を使わせてもらおうよ」

 

「あ……」

 

視線に気付いたのか、ヴィヴィオは振り返り。 俺達の顔を見渡し、俺を見つけると駆け寄って来て腰に抱きついてきた。

 

「うぅ……」

 

「大丈夫……心配しなくてもいいから」

 

「……うん」

 

「なんやレンヤ君、えらい懐かれとるなぁ」

 

頭を撫でて落ち着かせるが、それをはやてにからかわれる。

 

「コホン、それよりもヴィヴィオ。 名前以外で何か思い出せた事はあるか?」

 

「………ううん……」

 

「そうか……」

 

「困ったね……」

 

「……………………」

 

そんな中、いつの間にか変身を解除したアリサ達。 そしてアリサの肩に乗っているアギトは暗い顔をしているのに気が付いた。

 

「そういえば、アギト……」

 

「ーーま、あたしの話はおいおいな。 調べればすぐに分かることだしさ」

 

「ううん、私はアギトちゃん自身から聞きたいな」

 

「それに、何を言われても私達の関係が変わるわけでもないし!」

 

「ああ、今更そんなことでアギトを否定したりしないさ」

 

「……すまねえ」

 

「ふふ、やっぱり私の思った通りになったわね」

 

アリサは分かっていたのか、クスクスと笑った。

 

「ただ、それとこれとは話は別だよ。 最終試験を終えてないのに勝ってにフェアライズして」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「済まねえ……」

 

空気が一転してすずかがガミガミとアリサとアギトを叱った。

 

「………虫さん……」

 

(コクン)

 

「うん……」

 

「いや、なんでそれで会話が成立しているの……」

 

「くく、これも一種の青春ってやつだな」

 

「せいしゅん……?」

 

「ふふ、緊張感の欠片もないわね」

 

「そういや俺達、さっきまでマフィアに追われて結構ピンチだったんだよな……」

 

「なんだか実感がわかないね……」

 

「夢でないのは確かだけど」

 

「ふふ……ま、とにかく後の事は対策課で相談させてもらうで。 これだけの事を仕出かしたんや……明日からしばらく臨海態勢になると思うから覚悟しとき」

 

「ああ……!」

 

こうして、黒の競売会(シュバルツオークション)の潜入は終わり、そして新たにヴィヴィオと言う問題が飛び込んできた。 当分穏やかな学院生活はお預けかもしれないな。 そう思いながら、ボートはミッドチルダ方面へ進むのだった。

 

 




長文になった上にやはり混ぜ過ぎな気もしますが……そこは置いておいて。

もうヴィヴィオが登場しました、はい。

StrikerSの方の代役もちゃんといます。

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