魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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115話

 

 

記念祭4日目ーー

 

「…………ん…………」

 

眠りから覚め、目を開けると目の前が真っ暗のままだった。 起き上がるとそこはベッドの上で、上着を脱いだだけで着替えてなかった。 確か……昨晩、黒の競売会(シュバルツオークション)の内容を聞いた後すぐに仕事に戻って。 それから書類の整理と報告書を書き終えると、すぐに事務室がある階の上にある自室のベッドに着替えずに倒れ込んだ倒れこんで……

 

「んっ……! いてて……」

 

無理な体勢で寝ていたせいか、体のあちこちが痛い。 3日目の業務でかなり疲労が溜まってきているようだ。

 

コンコン

 

『レンヤ君、もう起きてる?』

 

「ああ、起きてるよ」

 

『入るね』

 

ドアが開かれて、すずかとソエルが部屋に入って来た。

 

「おっはよ〜レンヤ〜〜!」

 

「おはよう、ソエル、すずか」

 

「おはよう。 あ、レンヤ君また着替えないで寝たでしょう?」

 

「いや、それは……その〜……」

 

「疲れているのは分かるけど、ちゃんとしないと他の子達に示しがつかないんだからね」

 

「わ、分かったよ。 次からは気をつける」

 

「この質問何度目だろうねぇ?」

 

ソエルが口を押さえて笑いを堪えている。

 

「そろそろミーティングの時間だよ。 朝食も出来ているから早く来てね」

 

「了解だよ」

 

すずかが出て行った後、制服のシワを魔法で伸ばし身支度を整えてソエルを抱えて2階に降りた。 用意された朝食を食べながら軽いミーティングを済また。

 

「ーーさてと、4日目の業務を始めよう。 各自、担当区の依頼を確認しとけよ」

 

「了解だよ。 今日は中央区にパレードもあるし、逆に郊外に足を運んでいる人も少なからずいるみたいだし……」

 

「落し物とか迷子とか、色々と続発するかもね」

 

「さすがに全部は見切れませんけど。 僕達ができる範囲でフォローをしていきます」

 

「うん、そうだね!」

 

対策課を出る前にVII組メンバーにグループごとに連絡と依頼の要請をし、俺達も行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではもうゲートには近付かないでください、万が一のこともありますし」

 

「はい……ご迷惑をおかけしました」

 

ミッドチルダでパレードか始まる前に、誰かが突如出現したゲートに入ってしまったと通報を受け。 ゲートに入った人物を救出し、安全な場所で今後こんな事がないように厳重に注意している。

 

「それでは、後は我々が」

 

「ええ、お願いするわ」

 

後の事を警邏隊に任せ、俺達はゲートの周りにサーチャーと簡易結界を張るなどの作業を進めた。

 

「ヘックシ!」

 

「大丈夫か、アリシア?」

 

「うー……何で異界で雨なんか降ってるのかなぁ……」

 

「……バリアジャケット、付けてたわよね?」

 

今回入った異界では珍しく雨が降っていたが、バリアジャケットを着てたなら雨など防げるはずだが……

 

「気分の問題だよ!」

 

「なんじゃそりゃ?」

 

「放っておきなさい、今に始まったわけじゃないわ」

 

「は、はは……」

 

作業を終えて、その場から離れると……メイフォンに通信が入って来た。 ソエルからだ。

 

「もしもし、ソエルか?」

 

『やっほーレンヤ、依頼完了お疲れ様〜。 今、大丈夫だよね?』

 

「ああ……一区切りついた所だから大丈夫だ。 それで、緊急の依頼が入ったのか?」

 

『そうなんだけど……レンヤ達に直接頼みたいそうでね。 ちょっとややこしい身分だから、レンヤが直接確認していってね』

 

何だか不安になってきたな……

 

「? 一体何があったんだ?」

 

『それがね、パレードを見ている最中にその人達の子どもが迷子になったらしいの』

 

「いや、それなら警邏隊に任せればいいじゃ……」

 

『言ったでしょう、ややこしい身分だって。 中央区から北寄りにある噴水広場の前……その辺りではぐれたそうだから、そこの前で待っているよ』

 

「……はあ、分かったよ。 すぐに行ってみる」

 

『それじゃ、よろしくねぇ』

 

ほぼ一方的なお願いだが、見過ごせるわけもなく了承して通信を切った。 それから通信の内容をアリサ達に伝えた。

 

「そう……腑に落ちないけど、行くしかないわね」

 

「お祭りの定番の迷子探しの始まりだね」

 

「とにかく行ってみようぜ」

 

「ああ、噴水広場に行って事情を聞きに行こう」

 

事情を聞くためにも、噴水広場に向かった。 広場の真ん中にある噴水に近付くと、高級そうな服を着てベンチに座っている夫婦らしい男女がいた。

 

「すみません、異界対策課の者ですが……あなた方が要請を申し出た依頼人でよろしいですか?」

 

「は、はい……!」

 

「あ……!」

 

「! あなたは……」

 

男性は立ち上がり俺達を確認すると少しだけホッとして、女性は悲痛な顔をしてこちらを見る。 アリサが何かに気付いたようだが、頭を振り彼らに近付いた。

 

「それで、パレードを見ていたらお子さんとはぐれてしまったそうですね?」

 

「そ、そうです! 私がしっかりしていれば……あの子は……!」

 

「落ち着きなさい……すみません、皆さん。 私はイプサムと言います。 彼女は妻のセラ」

 

……姓を言わないのか……ソエルの言った通り、ややこしい身分のようだな。

 

「それで、お子さんとはいつ頃はぐれたのかしら?」

 

「はい……娘とはぐれたのは3時間ほど前……この広場でパレードが通過するのをちょうど見物している最中でした。 すぐに妻が気付いて、2人であたりを一通り捜したのですが見つからなくて……それで、藁にもすがる思いで異界対策課に頼らせていただきました。 身勝手なのは、重々承知ですが……」

 

「い、いえ、こちらももうこれも仕事のようなものですし謝らないでください」

 

ほとんど市民からの依頼が主流になってきているが、やはり本来は異界なのでこういった手合いも少なくない。

 

「どうやら私達で手分けして捜した方がよさそうね」

 

「だな」

 

「ああ、他のメンバーやVII組のメンバーにも連絡しよう。 それで俺達は連絡を取り合いながら別々に探すのが1番だ」

 

「分かった、連絡はソエルに任せておくよ。 あなた達はこの辺りに住んでいるんですか?」

 

「いえ、私達は北東部のリガーテからで」

 

「それなら、異界対策課で待っていてください。 後の事は俺達が、必ずお子さんを探し出します」

 

「お願いします……」

 

「と、その前に……何か手がかりになるもんはないのか? 服装とか、写真とか」

 

「! ああ、ちょうど記念祭で撮った写真があります!」

 

イプサムさんはメイフォンを取り出し、空間ディスプレイを展開して。 映し出されたのはドレス風の洋服を着た女の子で、見た目の歳は8、9くらいの小学生くらいだ。 その後画像をこちらに送ってもらった。

 

「この子はアイシスといいます」

 

「わあ、可愛いなぁ」

 

「それじゃあ、私が2人を対策課に送るわ。 先に捜索を開始してちょうだい」

 

「うう……アイシス……」

 

「しっかりしなさい、彼らに任せればきっとみつかるさ」

 

「ま、焦ったって仕方ねぇ。 女の子が1人でうろついていればそれなりに目立つだろうし、あたし達にドンと任せとけよ」

 

「はい、ありがとうございます。 それでは皆さん……娘をよろしくお願いします」

 

アリサは2人を連れて、噴水広場を後にした。

 

「こっちも捜索を開始しよう。 迷子でもおそらく中央区を出てないと思われるから、その周辺を重点的に探そう」

 

「それが妥当だね。 皆には連絡はしておいたし、探せる範囲は広いけど……とりあえず私達は目撃者を探そうよ」

 

「それじゃ、別々に分担して探すとしますか」

 

アリシアとアギトと捜索地域を決め、女の子を探すために行動を開始した。 目撃者を探し出しながら聞き込みを続けると……

 

《彼女、迷子の自覚がないもようですね》

 

「しかもアリサ、アリシア、アギトからも目撃報告があるからな。 この3時間でかなり歩き回っているみたいだし、かなりややこしくなってきたなぁ」

 

事件などに巻き込まれる前に保護したいんだけど……

 

「ーーレン君!」

 

その時、人混みの中からなのはとフェイトが出てきた。

 

「なのは、フェイト、どうしてここに?」

 

「私達も姉さんから連絡をもらって、それでこの付近を捜索していたの」

 

「そうか……すまないな、巻き込んじゃって」

 

「ううん、気にしないで。 今ツァリ君が念威で探しているから、すぐに見つかると思うよ」

 

確かに、ツァリの念威による捜索や索敵は正確無比だし、あまりにも遠くにいない限りは見つかるだろう。 と、ちょうどそこにツァリの端子が飛んできた。

 

『なのは、フェイト、見つけたよ! あ、レンヤも一緒だったんだ』

 

「まあな、それでどこにいたんだ?」

 

『うん、そこから北西にいった場所にある自然公園にいたよ。 どうやらパレードについて行った後に面白半分で探検していたみたい』

 

「ふふ、怖いもの知らずな子だね」

 

「そうだね……それじゃあ、すぐに自然公園に向かおう。 ツァリ君はそのままアイシスちゃんを見ていて」

 

『分かった、何かあったらすぐに連絡するよ』

 

念話を切り、なのは達と共にすぐさま自然公園まで向かった。

 

「着いた!」

 

「ツァリ、アイシスはどこにいるの?」

 

『車道沿いを歩いているよ。 このまま行けばすぐに追いつく』

 

「ふう、何とかなりそうだな」

 

車道沿いに駆け足で歩きながら進んで行くと、写真と同じ格好の女の子が周りを興味深そうにキョロキョロしながら楽しそうにはしゃいでいた。

 

「わあ、可愛い!」

 

「親の気も知らないで、楽しそうだなぁ」

 

「まあまあ、怪我もないようだし」

 

とりあえずアイシスを保護するため、なのはがあの子に近付いて声をかける。

 

「ちょっといいかな?」

 

「はい?」

 

「アイシスちゃんだよね? お父さんとお母さんが心配してたよ、一緒に来てもらえるかな?」

 

「ええー! もうちょっとだけでもいいでしょう⁉︎ 初めて中央区に来たんだもん、もっと見て回りたいなぁ!」

 

……なるほど、そのややこしい身分のせいで自由に遊び回れないのか。 無理に連れて行くと駄々をこねそうだ。

 

「ダメだよ、お母さん達も心配しているの。 見て回りたいのならお母さん達と一緒にーー」

 

「いや! 私は私が行きたい場所に行くの!」

 

ずいぶんと束縛された生活を送っているようだな、軽く同情するよ。

 

「で、でもね……」

 

「なのは、ここは私に任せて」

 

慌てるなのはの代わりにフェイトがしゃがんでアイシスと目線を合わせる。

 

「私はお母さんの所に行かないよ!」

 

「なら、どこに行く?」

 

「え……」

 

「行きたい場所、あるんでしょう? 一緒に行かない?」

 

なるほど、そういう名目で保護すれば何とかなるか。 イプサムさん達には事情を説明すれば納得すると思うし、この子が満足した後に親御の元に連れて行っても遅くはない。

 

「いいの?」

 

「うん、いいよ」

 

「それじゃあねぇ……あっち!」

 

「あっちね」

 

フェイトはアイシスと手を繋ぎながら指指した方向に歩いて行った。

 

「子どもの扱いはフェイトの方が上だったな」

 

「そ、それは……エリオ君やキャロちゃんとよく遊んでいるからだよ」

 

「はは、フェイトは子どもができたら親バカになるかもな。 なのはは……厳しく育てそうだな」

 

「むう……そんなことないよ」

 

「そうかもな」

 

「もう、レン君!」

 

怒るなのはから逃げるようにフェイト達を追いかけた。 その後、協力してくれた皆に見つかったと連絡をした後に、アイシスに目的のない案内を受けながら中央区を中心に色んな場所を回る事になった。 イプサムさん達夫妻は事情を説明すると安心して。 彼らが落ち着くのにも時間がかかることなのでこのまま連れて行く事になった。

 

アイシスの手を引いて歩くフェイトは、見た目は似てはいないが仲のいい姉妹にも見える。

 

「……ホント、フェイトは子どもの扱いが上手いなぁ」

 

「そうだね。 ちょっと……羨ましいかな」

 

「レンヤさ〜ん、こっちこっち!」

 

「ああ、今行く!」

 

行く前に自分が請け負った残りの依頼をアリシア達に申し訳なく送り、アイシスの元に向かった。 それからアイシスの気の向くままに歩き回り、日が暮れる一歩手前でようやくイプサムさん達の元に向かうことができた。

 

「ふんふふふ〜ん♪」

 

アイシスは満足したのか楽しそうに前を歩いている。

 

「これで一安心だね」

 

「うん、アイシスも楽しんでもらえて良かったよ」

 

「そう言えば、2人は班に戻らないのか?」

 

「あ、そうだった! 依頼を任せっきりだ!」

 

「帰ったら、謝らないとね」

 

先頭を歩くアイシスにも気を配りながらなのは達と雑談を交わす。 と、その時……隣にある車道から車が近付いてきた。 それは当たり前なのだが、その車は不自然にスピードを落として歩道よりに走り、ガラスが必要以上に黒塗りにされていた。

 

「やばっ……!」

 

「っ……!」

 

すぐにアイシスの元に向かおうとした時、フェイトがそこらに落ちていたシワだらけのチラシを拾うと、一瞬チラシに電気が走り……シワのない張っている紙になった。 それを車に向かって投げ、後部ドアの開閉する部分の隙間に張り付いた。

 

車がアイシスの隣に来ると……車の中がガタゴトと揺れ、男達の騒ぎ声を出しながら車はそのまま通り過ぎて行った。

 

「ナイスだよ、フェイトちゃん!」

 

「上手く行って良かったよ」

 

「いや、素直にすごかった。 俺のやろうとしたやり方だと目立ってたからな」

 

「私も……タイヤをパンクさせようとしたけど。 そうするともしもそれが勘違いなんとこともあるからね……」

 

「ま、結果オーライでいいか」

 

アイシスの元に小走りで向かいながら、後ろに去って行く騒いでいる車を放置するのであった。

 

そしてようやくアイシスをイプサム夫妻の元に連れて行くことができた。 セラさんはアイシスを見るなら抱きつき、イプサムさんは何度も頭を下げた。

 

「ありがとうございます、このお礼は後日必ず……!」

 

「い、いえ……自分達も当然のことをしただけです」

 

「いいえ……! 元々は私達がこの子を束縛し過ぎたのが原因です。 これからはアイシスとの時間も大切にします……!」

 

「うう……ママ、くすぐったいよぉ〜」

 

そんな微笑ましい光景を見た後、イプサムさん達は異界対策課を後にした。 それからなのはとフェイトは自分達の活動班に戻り、俺も任せてしまった仕事を進めた。

 

「そういえば……アリサはイプサムさん達のことを知っていたの?」

 

「ええ、前にすずかと一緒に依頼でリガーテに行ってたことがあるのよ。 彼はその時に知り合ったの」

 

「ちなみに、私達も何度もお世話になっている人だよ」

 

「へぇ、それで誰なんだ?」

 

「イプサムさんのフルネームはイプサム・イーグレット。 イーグレット・セキュリティ・サービス……通称イーグレットSSの代表取締役だよ」

 

「え……」

 

お世話になっている上にかなりの大物だった。 ってことはアイシスって取締役令嬢? 下手な権力者より大物だ。

 

「というか知っているなら教えてもよかったんじゃない?」

 

「ごめんね、お忍びで来てたみたいだから……」

 

「それなら仕方ないですね」

 

確かに、誘拐されかけたからな。 無闇に名乗れない訳だ。

 

「しっかし、これで4日目が終了か。 最終日は一体何が起こるのやら」

 

「そうだね……サーシャちゃん。 あれから進展は?」

 

「全然です。 ただ、フェノール商会は黒の競売会の会場であるエミューに集結している情報を得ましたから。 やっぱり今年も開催されるみたいです」

 

競売会をどうにかしたいのだが、どうにも出来ないもどかしさが胸の中を渦巻いた。 何も案が出ないまま、4日目は過ぎて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日ーー

 

今は朝食を食べながら今日の活動について相談している所だ。 ソーマとサーシャとルーテシア達はここにはいなく、3人には最終日くらい休ませたいので、今日は休みをあげた。

 

「さて、最終日は祭り終盤だからか依頼も少ないし。 VII組メンバーも今日は自由行動だが……俺達はいつも通りだな」

 

「ち、使い魔使いの荒ぇ奴らだ」

 

「でも、正直を言えば……私も休みたかったかな」

 

「仕方ないわよ。 依頼が少ないだけでもありがたいと思わないと」

 

「ま、最後まで気合いを入れるとするか」

 

「今日も張り切って行こ〜〜!」

 

コンコンコン!

 

「失礼します! 特急郵便士のベレット・エヌマールです!」

 

その時……素早くドアをノックされ、返事を待たずに入って来たのは羽根つきのベレー帽を被った女の子だった。 ビシッと敬礼をした後、テーブルの前に来た。

 

「神崎 蓮也氏に急ぎのお届け物を持ってまいりました!」

 

渡されたのは小さな小包、受け取ってみるとかなり軽かった。 受取認証用のディスプレイが前に出て来たのでサインをした。

 

「それでは失礼します!」

 

ベレットはまたビシッと敬礼をすると、素早く対策課を出て行った。 嵐が去ったみたいに沈黙がしばらく続いた後に小包に目を落とし、差出人の名前を見た。

 

「………………」

 

「嵐みたいな子だったね」

 

「それで結局、誰からなの?」

 

「いいって言ったのになぁ…………イプサムさんからだ」

 

「そう……」

 

「とりあえず、メシ食おうぜー」

 

お腹を抑えているアギトもいることだし。 小包の件は後にし、朝食を済ませてから開ける事にした。

 

「何が入っているんだろう?」

 

「軽いから、よく分からないな」

 

小包を開いて、入っていたものを取り出した。 入っていたのはメッセージカードと漆黒のカードが入っていた。

 

〈最終日は娘と遊ぶ事になりまして、昨日のお礼にそのカードを差し上げます。 どうか、有効にご活用ください〉

 

と、メッセージカードにそう記入されていた。 そして、漆黒のカードをよく見ると、金の刺繍で薔薇が象られている。情報通りなら、黒の競売会の招待状だ。

 

「黒の競売会の……」

 

「ど、どうしてこんな物を……!」

 

「ありえなくはないわね。 イーグレットSSなら充分ありえるわ」

 

「私達がこれに関心を持っているのを知っていたのかはわからないけど……」

 

「どう考えても予定が出来たから代わりに行ってくれっていう感じだな」

 

「軽いね……」

 

「こんなものすぐにポンと渡せるのが、流石としか言いようがないですね」

 

「まあ、イプサムさんに関しては深く考えないでおこう。 それより……このカード、本物だと思うか?」

 

アリサにカードを渡し、アリサは注意深くカードを観察する。

 

「そうね……高級感のあるあつらえといい、本物である可能性は高いと思うわ」

 

「金色の薔薇の刻印……本物の金箔が使われているよ」

 

「本日夜7時、保養地エミューのアザール議長邸にて開催、か」

 

ソエルとラーグがカードを覗き込みながら言った。

 

「なあ、皆。 これ一旦俺がーー」

 

「いいわけないでしょう」

 

俺が提案を言う前に、アリサに先に言われて遮られる。

 

「私はここに来る政治関連の人物に、興味があるのよ」

 

「私は単純にオークションが気になるね。 面白いものが見つかりそうだし」

 

「こうゆう催しは遠慮したいけど……やっぱり無視はしたくないよ」

 

「ゴージャスなパーティといえば、美味いもんが食えるんだろ? 行かない手はないぜ!」

 

「私も! 私も行きたい! 最近運動不足で饅頭からボールになりそうだよ〜」

 

「俺はパスだ。 もしもの時の言い訳を考えないといけないからな」

 

「皆……」

 

俺には勿体無いくらい、いい仲間を持ったものだな。

 

「ーー今日は最終日だ。 昼までに一通り仕事を片付けたら南東にあるエミューに向かおう。 本当に潜入するかは……エミューに行って考えたい」

 

「ええ、分かったわ」

 

「それじゃ、残った仕事をさっさと済ませるとしようかな」

 

「新しい依頼はサイトに出しておいたよ。 念のため、エミューに行くのを不審に思われないためにエミューのテーマパークの依頼もあるから」

 

「ふふ、ありがとう、ソエルちゃん」

 

こうして俺達は、黒の競売会に堂々と参加できる手段を手にした。 真実の1つを今日、俺は知る事になるかもしれないが……それ以上に、今回は変な胸騒ぎがする。 これの原因が分かるといいんだがな。

 

 


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