魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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ちょっと短めです。


114話

 

 

創立記念祭、3日目ーー

 

黒の競売会(シュバルツオークション)の事を頭の隅に置いておき、対策課をサーシャとラーグとソエルに任せて依頼を受けにミッドチルダを周った。

 

現在は中央区から西に伸びている遊歩道を歩いていた。 歩道の左右端には様々な屋台が軒を連ねている。

 

「どうぞ、お願いされていた香辛料一式です」

 

「助かったよ! 危うく店を離れる所だった! これで………よし! ほれ、持って行きな」

 

店主が早速香辛料を使って焼きたての焼き鳥を作り、それを入れた袋を渡した。

 

「いや、悪いですよ」

 

「いいってことよ、お前さん達にはお世話になっているからな。 これからいさせてくれ」

 

強く断る事も出来ず、押し付けられるように袋が手のひらに乗せられてしまう。

 

「またよろしく頼むぜ!」

 

「は、はい」

 

焼き鳥を1つ取り出して食べる。 出来立てで美味しく、店主は俺の表情を見て嬉しそうに笑った。 こうして依頼や手助けなどをしているからパシられるって言われるのかなぁ……

 

(今更変える気はないけど……)

 

「レンヤー!」

 

そこにアリサ達が人混みから出てきた。 あっちも依頼を終えてきたようで、手には俺と同じように食べ物が入っている袋を持っている。

 

「あ、焼き鳥だ。 1本もらうよ♪」

 

「あたしももらうぞ」

 

アリシアとアギトが了承をもらう前に勝手に焼き鳥を取った。

 

「何気に楽しんでいるわね?」

 

「相手の好意に甘えただけだ。 それでそっちもか?」

 

「あはは……沢山貰っちゃったね」

 

皆の手には袋が必ず1つ持っていて、どれも食べ物の匂いが出ている。 その時、隣をヴィータとシャマルが隣を横切った。

 

「ヴィータ、シャマル!」

 

「ーーん? お前らか……こんな所にいたのか」

 

「あら、奇遇ね」

 

ふぃーは(ヴィータ)、ほんなほころへーー」

 

「飲み込んでから喋ろ」

 

「ゴックン! こんな所で何しているの?」

 

「あたしは警邏隊に呼ばれて巡回中だ」

 

「ザフィーラとは一緒じゃないのか?」

 

いつもはシャマルのボディーガードだったから、いないのは珍しい。

 

「ザフィーラはシグナムと一緒よ。 あなた達は……依頼かしら?」

 

「今終わったばかりですけど」

 

ちょうど良かったので、そのまま情報を交換しながら巡回を手伝った。

 

「ふうん、黒の競売会、ねぇ……聞いた事ねぇなぁ」

 

「そう……そうなるとシグナム達も知らなそうね」

 

「こっちの方でも探りは入れてみるが……期待すんなよ?」

 

「分かってるよ、こっちはサーシャ頼みだし」

 

「んーー……ん? おい、あれなんだ?」

 

俺の頭の上でノンビリしていたアギトが、遊歩道の先を指した。 そこには道の真ん中に堂々と小さなゲートがあった。 近付いてみると、人が空間ディスプレイに1回押すとゲート通っているだけで、特にイベントという類ではなかった。

 

「なになに……“大人だけが通れるゲート”……みたいだな」

 

「確かに大人しか通っていないわね」

 

「何の意味があるんだ?」

 

「さぁ?」

 

「なあなあ、通ってみようぜ!」

 

「通ってみようって、この中で通れるのはヴィータくらいだろ」

 

「あらあら、もうそんなに時間が経ってたのねぇ。 子どもが成長するのは本当にあっという間ねぇ」

 

シャマルは俺達を見て嬉しそうに笑う。 と、アギトに視線を向けると……

 

「あらまぁ……」

 

「ーーおい! 今胸見て言っただろ!」

 

「えぇ? そ、そんな事は……ただ、大人として認めてもらえるか心配かなって、ぼんやり思っただけよ」

 

「はっきり言ってんじゃねえか‼︎」

 

そういや、あんまり聞いた事なかったが……一応、アギトって20歳は超えていた……はず。

 

「今年で18だし……私達も、一応通れるんじゃない?」

 

「どうかしら、まあ試しにやってみるけど……」

 

興味本位でアリサがゲートの前に行くと、目の前に空間ディスプレイが出てきた。

 

『問おう、あなたは大人か?』

 

……妙に偉そうな質問だな、というかやっぱりこのイベントの趣旨が分からん。 アリサは特に気にせずYESを押すと……正解音みたいなのが鳴って、問題なく通れた。

 

「……なんで?」

 

「ゲートに取り付けられているカメラで判断しているんじゃないか?」

 

「ふふ、私はもう子どもに見られないのよ」

 

それはそうだが……そこまで自信満々で言ってもなぁ。

 

俺も試しにやってみると……普通に通れた。 それからアリシアとヴィータとシャマルも通れて、最後に普通子どもサイズになったアギトが質問にYESと答えると……

 

『本当に18歳以上ですか?』

 

あれ? アギト、疑われている?

 

「……はい」

 

『ホントに?』

 

「むっ! ホントだって!」

 

アギトはイラつきながらYESを連打する。 とことん見た目で疑われているな。

 

『ホントは幼女でしょ?』

 

「幼女じゃねえよ‼︎」

 

握り拳でNOを勢いよく押した。強く押したせいでディスプレイにラグが発生して、それが治ると……

 

『その胸で?』

 

「くぅっ〜〜〜‼︎」

 

かなり気にしているのか、ものすごく歯ぎしりをして。 手に火球を出す。

 

「ちょっとやめなさい!」

 

「だ、大丈夫だよアギト! アギトに年齢なんてあってないようものだし」

 

「そうだぞ、あんまり気にすんな」

 

「うっせぇ! 悪魔(グリード)に身体を売った偽乳に言われたくねぇ!」

 

「んだとぉ‼︎ こっちだって好きでこうなったんじゃねぇよ!」

 

「でも喜んでんじゃん!」

 

アギトとヴィータはおでこをぶつけ合いながら睨み合う。 もしヴィータがあの子どもサイズのままだったら……アギトと賛同してただろうな、絶対。

 

「こんのぉ……! こうなったらすずかにアウトフレームをボンキュッボンに作り変えてもらってーー」

 

「やめろ、周りに迷惑だ」

 

暴れるアギトとヴィータの首根っこを持ち上げて、その場を離れた。 ヴィータとシャマルと別れたが、アギトはまだ怒っていて、なだめるのに時間がかかった。 気を取り直して仕事に戻って、残りの依頼も受けにミッドチルダ南部付近を周った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日目の記念祭の活動を終えて、異界対策課に戻ってデスクワークに勤しんだ。 その中にはVII組のメンバーが書いた昨日文のレポートもある。 書類を提出する側だったかが、今回は見る側だから結構新鮮だ。

 

「ふうん……なのは達も頑張っているじゃないの」

 

「他の2学年の子達も助け合いながら特別実習をやっているね」

 

あらかた片付けて、一旦サーシャの元に向かった。

 

「サーシャ、情報は集まったか?

 

「あ、はい。 大まかな内容は掴みました」

 

「じゃあ、後で見せてくれ」

 

「私もこれ以上見積もっても何も出ないので、お手伝いします」

 

それからすぐに仕事を終わらせて、全員がサーシャのデスク前に集まった。

 

「それじゃあサーシャ、お願いね」

 

「はい、ではでは……」

 

「ゴクリ……」

 

サーシャは端末を操作し、黒の競売会の……延いてはフェノール商会絡みの情報を表示した。

 

「私の方で集めた情報はこれで全部です。 調べた所によると、この情報は管理局の上層部もすでに掴んでいるそうです」

 

「いや、助かる。 そういう情報は基本的に回ってこないからな」

 

「ではでは、早速閲覧しますよーー」

 

画面に映し出された項目を見ると……結構揃っていた。 よくここまで集めたものだ。

 

「ふふ、敵対しているレイヴンクロウなら喉から手が出るほど欲しそうな情報ね」

 

「こうして、まとまった形で見るのは初めてだけど……」

 

「それじゃあ、一通り目を通してみよう」

 

項目を1つずつ目を通していく。 よくまとめられていて、今まで聞いてきた話が的確に乗っている。 そして……改めてとんでもない事が分かった。

 

「まさしくマフィアそのものね。 そして、管理局の闇の1つ……」

 

「ふむふむ、全員が戦闘経験者か……下っ端でもあれだけ手強い訳だよ」

 

「でも、あの時のグリード……そのまま使っているらしいよ。 上層部がすでに掴んでいるなら、イレイザーズがとっくに動いていそうだけど……」

 

「確実にグルだよなぁ」

 

「捕まえたのが無駄になったね♪」

 

「やめて、空しくなるから……」

 

会長であるカクラフの項目もあり、俺達は初めてその姿を確認した。 まさしくカクカクしたような顔をしている。 見た目以上にやっている事がエゲツないけど……そして、問題はその次の項目のフェノールの営業本部長である……

 

「ゼアドール・スクラム……統政庁……第一何て異名があったんですね? 人並みのサイズのメイスを片手で……どうやら嘘じゃなさそうですね……」

 

ソーマは思い出すように頷いて納得する。 あの時向かい合った時に肌で感じた戦闘能力の裏づけが取れたわけだ。

 

「それよりも、統政庁ってなんですか?」

 

「一般的な行政を司る組織だよ。 国民の支持が管理局ばかりに集中することを快く思っていなくてかねてから折り合いが悪いの。 確か物事の全てを記録する宝石……瞳石を所有しているらしいよ」

 

(瞳石……大地の記憶、か……)

 

無限書庫にも記録されていないはるか過去の歴史……管理局と真っ正面から立ち向かえる抑止力であり、切り札ってわけか。

 

「……まさか、あの時の議長も関わっていたなんてね」

 

「アザール議長……そう言えば次元会議の時、俺をはめようとしたな」

 

「結局、その後の襲撃でうやむやになったがな」

 

「それにしても……道理で簡単に釈放された訳だね。 これじゃあ根本的な解決にならないよ」

 

「そんなことよりも、黒の競売会についてはどうなんだ?」

 

「今表示します」

 

アギトはそれが1番知りたいようで、先ほどから落ち着きがない。 そして映し出された文章を閲覧した。

 

「アザール議長の邸宅で行われているパーティー、か……」

 

ミッドチルダ南東にある湖の対岸にある高級保養地エミュー。 そこにあるアザール議長邸を会場として毎回多くの有力者達が集まっているらしい。 そこで競りに出される品物はほぼ全て黒い物で、フェノール商会の重要な資金源となっている。 商品が黒いということ以外は後ろめたいものはなく、一般人の安全も保証されている。

 

そして会場に入るには黒の便箋に金の薔薇の刺繍が入っている招待状を持っていない限り、中に入ることができないようだ。

 

「信じられない……こんな事が毎年行われていたなんて……!」

 

「でもでも、おかしいんですよ? 秘密にしている割にはかなり大規模なんです」

 

「管理局とマスコミには厳重に規制されているんでしょうね。 でなければ、これほどの物がニュースにならないわけがないです」

 

「それだけ有力者を招待して、しかも実質的な主催者の1人があのアザール議長……そんなの動けるわけがないよ」

 

「潜入しようにも警備は厳重、ネズミの1匹も出入りができねぇな」

 

「しかも下手に手を出せば……最悪異界対策課ごと潰されそうだね」

 

「完全に手詰まり、ですね……」

 

得られた物はあるが、それ以上に現実を突き付けられてしまう。 まさに黒の競売会とはミッドチルダの歪みが体現したようなものだ。 そんな心中の中……記念祭3日目が過ぎて行った。

 

 


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