魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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113話

 

 

創立記念祭、初日ーー

 

 今は4月上旬……新学期が始まって早々のお祭り事だ。 おそらく今地上本部で回復したミゼットさんが開会式を行なっている真っ最中だろうが、街はそんな事お構いないしで、すでにお祭り騒ぎだ。 各自が思い思いに楽しん時間を過ごしているだろう。

 

「……………………」

 

かく言う俺も港湾地区の海で釣りをしていた。 異界対策課は先月の議長暗殺を未然に防いだ功績を挙げた為、記念祭初日は完全にオフになっている。 対策課自体が休みになるのは久しぶりだ、いつもは個人の休みしかなかったからな。 ちなみに午後からなのは達と合流する予定だが、午前は暇なのでこの通り暇を潰していた。 とはいえ、2、3匹釣り上げた所から当たりが来ないので……

 

「……帰るか」

 

そろそろ昼だし、先に待っているか。 荷物を片付けて、港湾地区を出た時……

 

「レンヤ君!」

 

「ん? はやて?」

 

 私服姿のはやてが走って来た。

 

「もしかして迎えに来てくれたのか? 悪い事したな」

 

「ううん、ちょうど捜査部に用があっただけや。 それでレンヤ君を見かけたんや」

 

「なるほど、俺も一旦帰る所だし。 一緒に行くか?」

 

「うん!」

 

釣り道具を転移でルキューの寮の自室に送り。 俺とはやては集合場所に向かいながら、他愛のない雑談をした。 最初に話したのはやっぱり会長達のことだ。 先月、会長達はレルム魔導学院を卒業して、それぞれの道を進んで行った。 会長……いや、もうフィアット先輩かな? フィアット先輩は管理局の情報部に。 グロリア先輩は同様に開発部に。 エテルナ先輩は実家の後継。 そしてクー先輩はと言うと……次元世界巡りの旅に出た。 どうやら推薦もあったらしいのだが、それを蹴ってまでして旅に出たらしい。 まあ、クー先輩らしいと言えばらしいかな。

 

その後、途中ですずかとも合流して。 何故か腕を組みながら合流場所に向かわされたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

創立記念祭、2日目ーー

 

早朝に異界対策課では、所属者全員が集まっていた。

 

「ーーさて、皆。 休暇はちゃんと楽しめたか? これから最終日までの4日間……タップリと働いてもらうから覚悟しとけよ」

 

俺の言葉に、何人かが嫌そうな顔をする。

 

「え〜……」

 

「こら、ルーテシアちゃん。 嘆かない」

 

「はい……分かりました」

 

「ふう、5日あるうちの初日だけが休みなんてね……」

 

「正直、ケチ過ぎるぞ」

 

「まあまあ、それだけ管理局……特に警邏隊が1番忙しいんだよ」

 

「そう言うこった。 一応、議長暗殺を未然に防いだご褒美ってわけだな」

 

「記念祭中は雑用を回すつもりはないから、そこは安心して」

 

 ラーグとソエルが依頼と睨み合いながらそう言う。

 

「その分、依頼の数はかなり増えていそうですね……」

 

「ミッドチルダ周辺からも来る人は多そうね」

 

「そうだね、もしかしたらエミューにも足を運ぶ人も多いと思うよ」

 

「エミューって……確か、南東にある高級保養地でしたよね?」

 

「そうですよ。 今は保養地よりもテーマパークの方が有名ですけど」

 

(コクン)

 

「まあ、とにかく最終日までの4日間は依頼にだけ専念する。 幸いレルム魔導学院から特別実習扱いでVII組が来てくれるからな、酷い事にはならないだろう」

 

むしろ、いなくてはかなり困る。

 

「そういえば、レンヤさん達今回は学生じゃないんですね?」

 

「夏至祭より規模が大きいからな、問題が起きた時に対応しやすいように今回は異界対策課として出るわけだ」

 

「その他にも、VII組が増えたからなんだよね。 単位も特別に出るし♪」

 

「あうあう、単位ギリギリの私としてはかなりありがたいです……」

 

「ーーそれじゃあ、グループ分けをしたら行動開始よ。 場合によっては中央区から外に出るかもしれないから注意しなさいよ」

 

「了解です!」

 

俺達は行動を開始し、それぞれのグループが別々にミッドチルダを右往左往する。 依頼内容はほとんどが記念祭関係で、残りの少数が人助けだったりする。

 

そして今は、ベルカにある聖王医療院に来ていた。 どうやら医師の1人……ホアキン・ムルシエラゴさんがどうやら行方不明……と言うサボりらしく。 医院も困っているから至急、呼び戻して欲しいそうだ。 話を聞く所によると、北部から中央区までの間道にある中洲で開かれている釣り大会に行っているらしく、俺達はホアキン先生を探しにそこに向かった。

 

「しっかし、サボる奴っているもんだな?」

 

「そうだとしても、責任感が足りないわ。 仮にも医者なんだがら、自覚を持ちなさいってのよ!」

 

「ま、まあまあ……とにかく早く見つけよう」

 

「お、着いたぞ」

 

今回はアリサとすずかとアギトのメンバーで行動している。 車で中洲がある地点まで来ると、他にも人がいて。 全員が手に釣竿を持って釣りをしていた。

 

「ほぉ〜、やってんなぁ〜」

 

「ここのどこかにホアキン先生がいるはず。 確か、青髪に白衣を着ている男性だよね?」

 

「急いでいたらしいから、着替えていないらしいから……そのはずよ」

 

「サボる為に急いでもな……」

 

中洲に降りて、しばらく捜索すると……見つけた。 ホアキン先生はご機嫌良さそうに釣りをしていた。

 

「フンフフーン……いやぁ、やっぱり釣りはいいね。 糸を垂らしているだけで心が洗われるというか……医院勤めで疲れた体もリフレッシュするというものだよ」

 

……思いっきりサボる為の口実にしか聞こえない。 とにかく声をかけてみた。

 

「すみません、ホアキン先生ですよね?」

 

「ん〜……いかにも僕はホアキンという者だが……悪いけど、今ちょっと手が離せないんだ。 用件はなにか……なっと!」

 

その時、ウキが沈んで竿が曲がった。 どうやら魚が食い付いたようだ。 なんてタイミングだよ……

 

「おお、来た……‼︎」

 

「まるで聞いてないな」

 

「聞いてる、聞いているよ。 そして、引いているよっ……!」

 

(寒ぃ……)

 

「あ、あの! 聖王医療院の人から依頼を受けて、先生を探していたのです! ホアキン先生がいなくなって、助手の方や医院の皆さんが困っているのですよ!」

 

「! 来たぁ‼︎」

 

すずかの説得も虚しく、ホアキン先生は魚を釣り上げた。 しかも、無駄に大物。

 

「おお〜……アイユ……まずまずのサイズじゃないか。 うんうん、日々医院を抜けて練習に励んでいる甲斐があったなぁ」

 

(何やっているのよ……)

 

「なんつう、マイペースな。 ていうかもう、話なんか完全に聞いてねぇだろうこれ」

 

「すまないすずか。 もう一度説明しないとダメだな」

 

「う、うん……」

 

「……いや、それには及ばないよ。 聖王医療院で皆が帰りを待っている。 そういう話だろう?」

 

一応、話は聞いていたようで、ようやくこちらに振り返る。

 

「どうも初めまして。 僕の名前はホアキン・ムルシエラゴ。 聖王医療院で准教授なんかやっている者さ。 ってあれ? 君達どこかで見たことが……うーん、これはデジャブ? だとすれば僕の知る所ではないね、うんうん」

 

本当に聞いていたのかが怪しくなって来たな……これは自己紹介した方が早いな。

 

「コホン……自分は時空管理局・異界対策課の神崎 蓮也です。 とにかくホアキン先生には……!」

 

「まぁまぁ、良いじゃないか。 とりあえず事情は理解したからさ」

 

「それじゃあ……医院に戻って来てくれるのよね?」

 

「ん〜……どうしたらいいと思うね?」

 

「知らん」

 

「僕としてはこの大会は、先々月あたりから楽しみにしていた一大イベントでね。 記念祭中に休みもなさそうだし、今のうちに楽しみたいんだがねぇ」

 

「医者としての責任感は無いのかしら……!」

 

アギトの言葉をスルーして、アリサがこの無責任さに怒り始める。

 

「無いといえば嘘になるな。 先月末も抜け出した回数分の始末書を書かされて大変だったんだ。 半分は助手が持ってくれたからなんとか終わったんだけどね」

 

「ひでぇなあんた……」

 

「話がズレてきているし……では、どうしたら医院に戻ってくれますか?」

 

「そうだなぁ……せっかくの大会だ。 よければコイツで勝負してみないか?」

 

「魚釣り……?」

 

「その通り。 もし君達が、さっき僕が釣り上げたアイユよりも大物を釣り上げたなら、僕は医院へ戻ろう。 シンプルでいいだろう?」

 

「釣り勝負だね……どうするの、レンヤ君?」

 

……上手く乗せられている気がするが、ホアキン先生も提案していることだし、ここは乗っておくか。

 

「分かりました、受けて立ちます。 詳しいルールを教えてください」

 

「そうこなくっちゃ」

 

ルールは当然のような感じで、早速釣り勝負を開始した。

 

「どうするのレンヤ? あのアイユ、24、5cmあるかなりの大物よ。 勝てる見込みはあるのかしら?」

 

「そうだなぁ……まずは小物を釣ら上げて、それを生き餌にしてやってみるかな」

 

「生き餌、ねえ……」

 

アリサはチラリと肩に乗っているアギトを見た。

 

「頑張ってね」

 

「おい、なんであたしを見た」

 

「頑張ってね!」

 

騒ぐ2人を尻目に釣りを開始し、数分で数匹の小魚をゲットした。 それを生き餌にしてしばらく待つと……

 

「あ! レンヤ君、引いてるよ!」

 

「お、来た来た!」

 

竿を握りしめ、リールを巻き上げ。 地面を強く踏みしめて竿とともに両腕を振り上げると……30cmはゆうにある大物の魚を釣り上げた。

 

「おおぉ! 大物じゃねぇのか⁉︎」

 

「これは、なんて言う魚かしら?」

 

「これはシャークェだな。 これなら勝てるし、焼くとかなり美味いんだ」

 

「とにかく、大会委員に見せに行こう」

 

俺は釣った魚を大会委員に見せ、ホアキン先生を呼んで早速判定をしてもらった。

 

「フッフッフッ……満足のいく魚が釣れたかい?」

 

「まだ分かりませんが……負けるつもりは無いです」

 

「ほほう、それは楽しみだ。 それでは、判定をお願いします」

 

「うむ。 ホアキン君が釣り上げたのは……アイユで。 そして、レンヤ君が釣り上げたのは……シャークェ。 判定の結果は……」

 

固唾を呑む中、大会委員は口を開いた。

 

「……勝者、レンヤ君!」

 

「な、なんだって? 何かの間違いでしょう?」

 

「いや……彼が釣った魚の方が、はるかに大物だ。 間違いない」

 

「そ、そんな〜」

 

相当勝つ自身があったのか、落ち込みようが半端ではない。

 

「やったわね、レンヤ!」

 

「ああ、大したもんだぜ!」

 

「すごいよ、レンヤ君!」

 

「ふう……何とかなったか……」

 

「……完敗か」

 

以外にもあっさり負けを認めた先生、問題はこの後なんだが……

 

「さて……それじゃあ僕は約束通り医院に戻るとするよ」

 

「な、なんだか意外ね。 もっと駄々をこねそうと思ってたのに」

 

「おいおい……子どもじゃないんだからさ。 ま、勝負を持ちかけたおかげで充分に釣りを楽しめたし……今回は満足と言えるよ」

 

「えっ……」

 

「こいつ……単に楽しく釣りをする時間を稼いでただけじゃねえか?」

 

「あはは……確かに」

 

「フフ……何の事やら分かりかねるよ。 それでは僕はこれで失礼します」

 

大会委員に挨拶をしてから、ホアキン先生は先に行っているといい中洲を出て行った。

 

「なんつーか……散々振り回された感じだな」

 

「そうね……」

 

「……私達も急いだ方がいいね。 目を離すとまた投げられそうだし」

 

「そうだな。 追いついて車で送ろう」

 

俺達も中洲を出て行き、ホアキン先生を車に乗せて聖王医療院に連れて行った。 そこから受付と一悶着あったが、どうにかホアキン先生を仕事に戻らせ、俺達は一旦ミッドチルダに戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピリリリリ♪

 

丁度ミッドチルダに戻った時、メイフォンに通信が入ってきた。

 

「あ……」

 

「おいおい、また厄介ごとか?」

 

アギトが嫌な予感を感じながら、俺は電話に出た。

 

「はい、レンヤです」

 

『もっしも〜し、お疲れ様〜♪』

 

「なんだソエルか。 それでどうした? もしかして緊急要請か?」

 

『うん、そうだよ。 今、港湾地区に近い公園で学生達が喧嘩しているみたいなんだよ』

 

「学生? どこのだ?」

 

『ノース魔法科高校、さっき警邏隊から連絡が入ってきてね。 他の管理局員は巡回で忙しくて手が割けそうもなくてね……それで、歳の近いレンヤ達にお願いしてきたんだ』

 

ノース魔法科高校……純粋に魔法だけを教える、東西南北に分かれた4つの高校のうちの1つか。 確かあそこも生徒達の上下関係があり、溝も深かったはずだ。 うち(レルム)はVII組が設立されてからその傾向は無くなってきているが、そのことは与り知らないわけか。

 

「分かった、港湾地区だな? 丁度、街に戻った所だからすぐに急行する」

 

『了解、お願いするね』

 

 ピ………

 

「港湾地区で何があったの?」

 

通信を切ると、話を聞いていたアリサが質問してきた。

 

「ああ、どうやらーー」

 

通信内容をかいつまんで説明した。

 

「魔法科高校の学生が喧嘩ね……魔法を使われたら怪我だけじゃ済まなそうね」

 

「観光客も大勢いる、急いだ方がよさそうだな」

 

「でも、なんで喧嘩なんて……」

 

「とにかく、このまま港湾地区に向かおう」

 

車を走らせ、すぐに現場である公園に向かうと……

 

「同じ新入生じゃないですか !あなた達ブが、 今の時点で いったいどれだけ優れていると言うんですか!」

 

同じ学生服を着た学生達が2グループに分かれて言い争っていた。 かなり言い争っていたらしく、熱がかなり上がっている。 周りの観光客や市民は巻き込まれないようにそそくさと離れる人や、面白半分で立ち止まっている人がいた。

 

「いいかい、この魔法科高校は実力主義なんだ。その実力において君たちはブルームの僕たちに劣っている。つまり存在自体が劣っているってこどだよ。身の程をわきまえたらどうだ?」

 

「それがあなた達の総意ですか?」

 

「当たり前だろ! そうだろ?」

 

「そうよ、あなた達如きが調子に乗らないで!」

 

「才能差を見せつけてやる‼︎」

 

怒鳴り声を上げているグループが、拳銃型のデバイスを取り出し、反対側の彼らに銃口を向けた。 それを見ていた野次馬達は悲鳴を上げながら逃げていく。

 

「まずっ!」

 

すぐに駆け出し、手に魔力で即席のテニスラケットを作った。 次の瞬間、デバイスから魔力弾が撃たれた。

 

「はあっ!」

 

俺は彼らの間に入ると、ラケットでほぼ同時に魔力弾を全て打ち返した。 打ち返した魔力弾は撃った本人達の足元の地面にぶつかり、霧散した。

 

「なっ⁉︎」

 

「ふう、忍義姉さんからテニスを習っておいて良かった……」

 

「いや、もうテニスのレベルじゃないからね」

 

……確かにそうだな、ルール的に。

 

「ーーそこまでだ。 自衛以外の魔法による対人攻撃は犯罪行為だ、それが分からないわけではないだろう?」

 

「な、なんだお前は⁉︎」

 

「管理局よ、全員その場を動かないで」

 

アリサが管理局IDを提示しながら前に出ると、魔力弾を撃った集団は顔を青くする。 俺やすずかも一応IDを提示しておく。

 

「ノース魔法科高校の学生だよね? 事情を説明してもらえるかな?」

 

「は、はい……」

 

女子の1人が説明しようとした時……男子その子の前に出て、頭を下げた。

 

「すみません、悪ふざけが過ぎました」

 

「悪ふざけだと?」

 

「はい。 彼らには後学の為に高速魔法展開を披露してもらっていたのですが……あまりに真に迫っていたのでついこちらも過剰に反応してしまいました」

 

「ふうん……それであいつらもつい魔力弾を撃ってしまったと?」

 

アギトがキッと、後ろを睨むと……彼らは萎縮する。 すると彼らのうちの1人ーーポケットに手を入れながら歩いて来て、かなりガラの悪そうな学生ーーが前に出てきた。

 

「おいおい、何ビビってんだよ? こいつらは管理局かもしれねぇが異界対策課だぜ! いつもパシられている奴らに頭なんか下げる必要なんかねぇよ!」

 

彼がそう言うと、同じグループはそれに賛同して反論の声を上げた。

 

「そ、そうだ! 大して歳の変わらない癖に偉そうなことを言うな!」

 

「怪異なんて、私達でも余裕で倒せるわよ!」

 

反論をするのはいいが……この言い争い、かなりスケールが小さくなったな。 ただ……

 

「………………」

 

アリサがかなりイイ顔で彼らを見ているのが心配だ。 気持ちは分からない事もない、俺達の努力を踏みにじっているようなものだからな。 しっかし、完全に話が逸れたな。 しょうがないな……ため息をはいて、少しだけ殺気を出す。

 

『……⁈』

 

「いい加減にしろ……さっきからお前達の行動は目に余る。 魔法の不正使用に加えて公務執行妨害……全員拘束されたいか?」

 

「ーーレンヤ君。 ダメだよ……抑えて」

 

すぐにすずかが制しにきて、気迫を消した。

 

「ふう……とにかくこの場は不問とする。 残りの記念祭を楽しく過ごしたいなら身に余る行為は控えるように」

 

彼らは睨まんばかりに後ろの学生だとを見ると、そそくさと去って行った。 その後、もう1グループとも別れて、近くにあった屋台で飲み物を購入して一休みした。

 

「………………」

 

「分かっているわ。 ただ……私もまだまだって事が改めて思い知らされたわ」

 

「それは俺もだ。 以前から異界対策課だってちやほやされてだが……いざ批判されるとどうも、な」

 

「……彼らの高校なんて関係ない、結局はその人それぞれなんだよ。 今までこんなことが無かったのが不思議なくらい」

 

「あたしは嫌という程見てきたがな……人の醜さってのをよ」

 

アギトは自分の体を抱き締めるようにして語る。

 

「こんなのなんて事はないぞ、この失敗を糧にして頑張ればいいだけだ」

 

「アギトちゃん……」

 

「……ふふ、そうね。 こんなんで立ち止まっていたら、私達の今までの頑張りが無駄になるわ」

 

「失敗は恥じゃない、か……知っている言葉だが、ようやく分かった気がするな」

 

父さんも前に言っていたな。 降り掛かる火の粉を巧みに払えるようになれば……武としても、人としても一人前って……

 

「さて、そろそろ帰ろう。 他の皆のフォローをしないとな」

 

「書類はいつもの倍はありそうね」

 

「おっし! 気合い入れて行くか!」

 

意気込みを改めてして、俺達は異界対策課に戻った。 すでに他のメンバーもいて、かなり慌ただしくなっていた。

 

「あ! レンヤさん!」

 

「おっかえり〜」

 

「トラブルは解決したぁ?」

 

「少しごたつたが、なんとか解決した」

 

「すずか、お願いされてたシステム……作っておいたよ」

 

「ありがとうアリシアちゃん!」

 

すずかは受け取った資料を見て、頷いた。

 

「うん、これなら行けるよ」

 

「またすずかさん、何かしでかすんですか?」

 

「アリサとアギトが関わっているあれか? ロードとユニゾンデバイス……そこにもう1つデバイスを加えた、三位一体の新しいシステムってやつ」

 

「すずかが何か始めたら止まる事ないからなぁ。 ま、それまでのお楽しみにしとけ」

 

そう言ってラーグが書類を渡したので、俺は早速書類の片付けを始めた。大方終わる頃には夕方になっていた。

 

「ふう……」

 

「お疲れ様、レンヤ君」

 

報告書をまとめた所で、横からすずかが紅茶が入ったカップを置いた。

 

「サンキューすずか。 そっちはもういいのか?」

 

「うん、フレイムアイズの調整及びシステムプログラムはインストール済み。 後は実践運用の結果次第だね。 はやてちゃんとリインちゃんが必要、不必要かどちらかとしてもね」

 

「そうか……名前は決まったのか?」

 

「ううん……アギトちゃんとリインちゃんが元だから、妖精から取ろうとーー」

 

「ーーあのあの、レンヤさん。 少しお話……よろしいですか?」

 

そこにサーシャが近付いて来て、遠慮がちに聞いてきた。

 

「どうかしたのか?」

 

「はい、少しお聞きしたい事がありまして」

 

「聞きたい事?」

 

「あのあの……黒の競売会(シュバルツオークション)って知ってますか?」

 

サーシャが言ったことは、聞いたことはなかった。

 

「黒の……」

 

「競売会?」

 

「ーーサーシャ、どこでそれを?」

 

声が聞こえてたのか、アリサとアリシアが近寄って来た。

 

「まだ私が借金まみれだった頃に、マフィアの人達が噂しているのを聞いて……その時は忙しかったので今まで忘れていましたが……今日それを小耳に挟んで思い出したので、調べてみた所……」

 

「このミッドチルダのどこがで開かれる競売会らしいわ」

 

「知っているのか、アリサ?」

 

「ええ、以前エイジさんから聞いた事があるわ。 何でも毎年、この時期に開かれているみたいで……で、どうやらその出品物が盗品ばかりらしいのよ」

 

「と、盗品……⁉︎」

 

アリサの言葉に、すずかぎ思わず声を上げる。

 

「本当か……?」

 

「そこはあくまで噂よ。 途方もない値がついた表に出さない由来の品ばかりが出品されるという話だけど……裏にしか流れない情報だからレンヤ達は知らなくて当然ね」

 

いや、なら何でアリサが知っているって話なんだが……まてよ、まさかーー

 

「なあアリサ。 エイジさん……レイヴンクロウから聞いたって事は……」

 

「ええ、あなたの予想通りよ。 サーシャが黒の競売会を聞いた出どころ……マフィアが関係している可能性が高いわ」

 

「一気に噂で済むような話じゃなくなったね……」

 

「……黒の競売会、か」

 

盗品ばかり扱う……毎年……かなり入り組んだ事情がありそうだな。 その時……

 

【ーーーー】

 

「っ……⁉︎」

 

突然、訳のわからない感覚に陥る。 言葉で表せるなら……血が、呼んでいる?

 

「……レンヤ?」

 

「どうかしたの?」

 

「い、いや……何でもない」

 

息を深く吸って、呼吸を落ち着ける。

 

「サーシャ、黒の競売会について調べてくれないか? ちょっと気になってな」

 

「は、はい! 明日1日いただければ……大まかな内容は手に入れられます」

 

「分かった、お願いするよ」

 

「はい!」

 

「レンヤ君……?」

 

冷や汗をかきながもすずか達を誤魔化し、話題を変えるためにVII組の皆を呼んで夕食を食べようと提案した。 3人は怪訝そうに思っていたが、楽しそうにはしゃぐルーテシアを見て追求するのをやめた。

 

それにしても、今回の記念祭。 どうやらいろんな意味の祭りになりそうだな……1日休みじゃ足りなかったな。

 

 


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