魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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108話

 

 

2月中旬ーー

 

学院祭からあっという間に月日が経ち、さらに厳しくなって行く授業を受け、特別実習を行いながら俺達VII組はさらに実力が付いていくのを実感していた。 いつしか、テオ教官に1人で倒せるようになれる……かもしれない。 ただ、あの劇以降、フェイトは下級生の女子からお姉様、なんて呼ばれるようになったり。 少なからずあの劇は俺達にも影響が受ける結果になってしまった。

 

2学年の期末テストも終わり、結果も概ね満足して、俺達の学院生活も後1年に迫っていた。 そしてクー先輩達やフィアット会長ももうそろそろで卒業してしまう、会長が卒業するとなると新しい生徒会長を選挙で選ぶわけだが……その選挙にアリサが立候補、つまり生徒会長になろうとした。 あんまり深く理由は聞かないし、だいたい予想はついたが、これ以上忙しくなることを指摘した所……

 

【そんなの、余裕に決まってるじゃない。 私を誰だと思ってるの?】

 

だそうで、それ以上は無駄だと思い皆で応援した。 まだ投票は行なっていないが、かなり人気らしくもしかしたら本当になるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今は異界対策課におり、いつも通り書類をさばいていた。

 

「いや〜、ここ最近仕事が手早く片付いてきて楽でいいねぇ」

 

「そうだな〜、忙しいのは変わんねえがちゃんとキッチリ時間通りに終わるからなぁ」

 

「ホント、ソフィーさんには感謝しないとな」

 

今は異界対策課本部には俺の他にラーグとソエルしかいなく、他の皆は依頼や別件の用事があったりしていない。

 

「あれ? この書類は……」

 

ふと、目に入った書類に記載されていたのは嘱託魔導師に依頼を要請する提案が書かれた物だった。 これは結構前からあるものだ、知っての通り異界対策課の仕事は正式の管理局員すらやらないのに嘱託魔導師ではさらに意味がないのだが……これに書かれているのは市民の依頼だけを一定期間受けてからこちらの判断でグリード関連の仕事を受けさせるということだった。 確かにこれなら仕事が楽になるし適正も測りやすい。 だが、俺が注目したのは次のページに掲載されている嘱託魔導師の名簿だ。 どういうわけか……リヴァンとユエとツァリの名前が記載されていた。 そういえば最近嘱託魔導師の資格を取ろうと思うと言っていたな、何を希望するとは聞いてなかったが。

 

「まあ、実力は知っているし、正直助かるな。 にしても……」

 

あいつらが嘱託魔導師か……そろそろ進路を決める時期でもあるんだよなぁ。 俺達はすでに就職しているようなもんだからあんまし実感とかないんだけど。

 

「やっほーレンヤー、依頼終わらせて来たよ〜」

 

「ただいま、ソエルちゃん、ラーグ君」

 

「おっかえり〜〜」

 

「騎士団の奴らはどこ行ったんだ? 一緒に行ったんじゃなかったのか?」

 

「ソフィーに報告することがあるからってベルカに向かったよ、報告書はもらっておいたから」

 

アリシアから報告書を受け取り目を通す。 やっぱりよくやっているみたいで、依頼主も好評のようだ。

 

「それとレンヤ君、この前の調査依頼についてはどうするの?」

 

「ああ、それか。 管理外世界だし、決めかねているな……」

 

数日前に本局からある次元世界の調査依頼が入ったのだ。 どうもその世界では次々と人が蒸発しているようで、次元犯罪者の可能性もあるが、怪異の線も考えられるため、異界対策課にも要請が来たのだ。

 

「そうなると少しの期間とはいえここを空けることになるからなぁ、ソーマ達が頼りないわけじゃないが……頼れる人がいれば安心できるんだが」

 

「ちょうどティーダさんやヴィータちゃんも出払っているようだし、誰か1人でも残れればいいんだけど、調査範囲が広いから分散すると余計に危険になっちゃうから……」

 

「誰かいないのかなぁ……あ! ちょうどいるじゃない!」

 

アリシアは俺の手元にあった先ほど嘱託魔導師関連の書類を掻っさらった。

 

「いや、確かにユエ達なら信用出来るし実力も確かだが……嘱託だぞ? いくら何でも無理がある」

 

「そこは俺達にお任せだ。 要は責任者が俺達になってかつ対処がそいつらに任せればいい」

 

「これで万事オッケー♪」

 

「……色々と心配なんだが……」

 

「ま、まあ……なのはちゃん達にももしもの時に助けてくれるように連絡しておくから、それでどうかな?」

 

「うーん、私としてはいつもラーグ達を置いてきているから、なんか申し訳ない気もするけど……」

 

「問題ないぞ、暇な時は麻雀でもやるから」

 

「ポ〜ン! ポポポ〜ン!」

 

「果てしなく心配だ……」

 

「あ、あはは……」

 

結局そういうことになり、ツァリ達にもラーグ達の行動には特に念を入れて置くように言っておき。 そして3日後、いつもの4人のメンバーでミッドチルダを経つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに3日後ーー

 

ミッドチルダ中央区より南にある路上……私達は南寄り中央区に発生した火災の鎮火に向かい、今はそれを終えて消防車で隊舎に帰還する途中だった。

 

「はあ〜、今日も大変だったね〜」

 

「そうね……」

 

ティアは肯定して頷いているけど、窓の外を眺めているし何だか生返事っぽい。

 

「ティア〜、ホントにそう思ってるの〜?」

 

「うるさいわね、だからそう言ってるじゃない」

 

「ぶうぅ、なんか今日のティアは冷たいねえ」

 

「あんたがいつにも増して張り切っているからでしょう、もう少し落ち着きを持ちなさい」

 

「ふぅーん? あ、わかった! 最近ソーマとーー」

 

「いいから黙ってなさい」

 

「はい……」

 

その容赦のない眼光に、蛇に睨まれたカエルの如く固まる。

 

「はは、お前達は相変わらず仲がいいな」

 

「そ、そんなんじゃありません!」

 

同乗していた隊長にからかわれ、ティアは慌てて否定した。

 

「そ、そういえばまだ着きませんね。 出動時はあっという間でしたのに」

 

「今は渋滞にハマってるからな、もう少しかかるだろうよ」

 

「そうですか……」

 

しばらくその状態が続き、さすがにこれ以上ティアを怒らせてもあれなので窓の外を見た。 ちょうど隣に大型のバスがあり、車内には家族の団体が何組もいた。

 

(そういえば、最近お母さん達とギン姉と出かけていないなぁ。 お互い忙しくなったのは分かるけど、なんか寂しいなぁ)

 

「はあ……」

 

「珍しいわね、あんたがため息なんて。 明日は雨かしら?」

 

「え⁉︎ あ、あはは……そうかもね」

 

手を振りながら苦笑いでなんとかごまかす。 その後段々と流れていき、都心部から離れたからか今は先ほどのバスが前にあるだけで他の車は見当たらないくなった。 その時、もう一度外を見ると……背筋に嫌な悪寒が走った。

 

「ひっ……⁉︎」

 

「……スバル?」

 

「? どうかしたのか?」

 

「い、いえ……なんか、すっごく嫌な予感がして」

 

「……………………」

 

あまりの悪寒で自分の身を抱きしめ、気温が一気に下がった気分になる。 いつもなら冗談か悪ふざけと言って来るティアも何も言わない。

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴッ……‼︎

 

突如地鳴りが起こり、辺りは車のクラクションばかり聞こえるようになる。

 

「全隊、緊急時に備えろ! すぐに動けるようにしとけ!」

 

『了解っ!』

 

車は急停止し、数人が同じく停止したバスに向かった。

 

「い、一体何が……」

 

そしてさらに揺れが大きくなっていき……少し浮遊感を感じた次の瞬間、地面がせり上がって行っていた。

 

「な、なにいぃ……⁉︎」

 

「これは……地面が割れてない⁉︎ 何かが突然と現れて私達を押し上げているの⁉︎」

 

しばらくして揺れが収まり、辺りを見渡すと……そこは円の形をしたかなり広い場所で、荒野みたいに何もなかった。

 

「なんなのよ……」

 

「サーチャーを飛ばします!」

 

隊員の1人がサーチャーを飛ばし、状況を確認する。

 

「! た、大変です! 私達は巨大な台座のような場所の上にいます!」

 

「台座、だと?」

 

映像が出されると、私達がいる円形の場所をいくつもの足が支えて鎮座していて、かなりの高さだ。

 

「何でいきなりこんな物が?」

 

「とにかくバス内の人の安全を確認するぞ。 これは俺達の許容範囲外だ、異界対策課に連絡を取れ」

 

「はっ!」

 

隊長の指示ですぐさま動く、このまま何も起きないといいんだけど……

 

ゾクッ……

 

また嫌な予感がして、背後に振り向きこの場所の中央を見ると……大きな赤い亀裂が走っていた。 その亀裂がすぐに大きくなり、赤い靄を出して渦くと……

 

ギャァアアアアア‼︎

 

前足で亀裂を広げ、咆哮を上げながら見上げるほど巨大なグリードが出現した!

 

「な、なんだ⁉︎」

 

「グリードだ! 全員、戦闘態勢を取れ! 何としても市民を守るぞ!」

 

『おおっ‼︎』

 

隊員の皆さんがデバイスを構え、グリードと向き合うが……グリードは見向きもせず尻尾のような物を地面に突き立てた。 そのまま尻尾が脈動するように動き、地面から離れると……同じく巨大な卵があった。

 

「まさか……!」

 

「破壊しないとマズイぞ!」

 

隊員の1人が魔力砲を撃つが、その撃った方向にまた赤い亀裂が走り……何体もの芋虫のようなグリードが大量に顕れた。 砲撃はその一体に直撃し、硬い外殻に弾かれて霧散した。

 

「くそ! 硬すぎる!」

 

「後退する! とにかく耐えるんだ!」

 

「っ⁉︎ まさか、これがグリムグリード⁉︎」

 

とにかくバスの上に乗って、そのまま発進しグリードから距離を取る。 グリードはまた尻尾を地面に刺すと何かを吸い上げた。 そして今度は口から卵を撃ってきた。

 

「きゃあっ⁉︎」

 

バスが大きく曲がり卵を避け、なんとかしがみ付いて落ちないようにする。 卵が地面にぶつかり破裂すると中から2、3匹の芋虫のグリードが飛び散った。

 

「うっ……」

 

「この……!」

 

ティアが高圧縮魔力弾で芋虫を倒していくが、数が多すぎて対処仕切れない。 私はバスから飛び降りて接近してきた1体に駆け出す。市民の人達は目の前のグリードに慌て叫ぶ。

 

「落ち着いて下さい! すぐに異界対策課が急行します、それまで私達が絶対に守ります!」

 

「ていっ、こぉんっ、のぉ‼︎」

 

芋虫みたいな眷属のグリードの目に肘打ちを入れた後に飛び上がって頭に膝蹴り入れ、ヒビが音を立てて走るとすぐに消滅した。

 

「ふう、ふう……いつもより魔力の消費が激しいよ……」

 

「レンヤさん達が来るまで、なんとか耐えるわよ」

 

グリードの大群がヂリヂリと近寄る中……北から何かが接近しているのに気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分前ーー

 

今僕は異界対策課本部にいて、ここ最近はいつも通りの平穏普通日々が続いていた。 いつもと違うのはレンヤさん達が3日前にミッドチルダを離れていることと、嘱託魔導師としてユエさん達がここにいることだ。

 

「大丈夫ですか、皆さん? 何か分からない所があったら遠慮なく言って下さいね。 なんといっても私、先輩ですから!」

 

ルーテシアが意気揚々に胸を張りながら言う。 僕が初めてここに来た時にも言っていたな。

 

「うん、ありがとう。 でもだいたい分かるから大丈夫だよ」

 

「仕事の内容が特別実習とほぼ同じですからね、そこまで分からない訳ではありません」

 

「ま、さっきから逆にお前さんを教えられていたがな」

 

「うえええん、ソエル〜〜」

 

「おおよしよし、いい子だね〜」

 

「もう、ルーテシアちゃんたら」

 

「なーにしてんだ、お前達は」

 

「あ、あはは……」

 

そんなレンヤさん達がいるような、いつも通りに僕達は皆さんと接している。 実際ユエさん達は特別実習も優秀らしく、やっぱり僕達にとってもいいお手本にようだ。

 

「さて、俺は依頼を受けに行くが。 後は頼んだぜ」

 

「了解だよ、頑張ってね」

 

『メキョ‼︎』

 

「うわ⁉︎ びっくりした!」

 

突然、ソエルとラーグの目が開いた。

 

「ミッドチルダ中央区と南部の真ん中……そこにグリードの反応だよ!」

 

「いきなり顕れやがった、しかもかなりデカい! グリムグリードの可能性もあるぞ!」

 

「なっ……!」

 

「何でいきなり……」

 

「とにかく散策は後だ。 このレベルだとルーテシアとサーシャには荷が重い、リヴァン、ユエ、ソーマで向かってくれ。 ツァリは念威でバックアップだ」

 

「了解だよ」

 

「むう、私とガリューだってグリムグリードの1体や2体……」

 

(コクン)

 

「まあまあ、私もいきなりグリムグリードとは相手をしたくないなぁー、なんて思ってたり……」

 

「とにかく行って! 足は用意しているから!」

 

「ああ、アレですね。 すずかが作ったという」

 

「了解です! それでは行ってきます!」

 

ユエさんとリヴァンさんと共に本部を飛び出し、すぐに地上本部の地下駐車場に到着した。 そこにある異界対策課専用ガレージを開くと、中にはいつもの白い車と……黒塗りの大型バイクが2台置いてあった。

 

「お前はユエの方のサイドカーに乗れ」

 

「は、はい!」

 

サイドカーに座り、横を向くと車体にランドローラーと書かれていた。 エンジンがかけられ、振動が空気も揺らして身体が震える。

 

「行くぞ!」

 

「うわっ⁉︎」

 

アクセルを全開に回し、いきなりトップスピードで走り出して地上に出る時に一瞬浮いた。 爆音と爆風に耐えるために私服に付いていたフードを深くかぶると、目の前に薄紫色の花びらが通り過ぎた。

 

『交通規制をしておいたから、ノンストップで現場に行けるよ』

 

「わかりました……ツァリ、ありがとうございます」

 

『それと急いで、どうやら迷宮上層部に人が取り残されている。 一緒に地上部隊の管理局員もいるけど、眷属もいて長くは持たない』

 

「そんな……!」

 

「ちっ、面倒な」

 

愚痴るもさらにギアを上げて現場に急ぎ、現実世界に顕現した迷宮が見えてきた。 見上げるほど巨大な台座のような迷宮……と言っていいのかな? とにかくそれが鎮座していた。 地上に接している足から眷属らしきグリードが何体もいた。

 

『あうあう、大丈夫かな? 緊張とかしてないかな? リラックス、リラックス……』

 

『なーに緩いこと言ってんだよサーシャ、グリードなんてバシッと行ってガシッと決めてくればいいだけだろ』

 

『微温いって! ダンで決めてダンで! 天剣なら、グリード戦においては手抜き不要、容赦無用! 力と技の限りを尽くし完全無欠な勝利をしなさい! それくらい楽〜に行けるでしょ!』

 

『……言いたい放題言ってハードル上げるなぁ』

 

サーシャがいつも通りに慌てる中、アギトとルーテシアが好き放題に言っているし……まさにその通りです、ツァリさん。

 

現在ミッドチルダ南西部に顕れたグリムグリードの討伐するため、2ヶ月程前に嘱託魔道師の資格を得た同じ天剣授受者のユエさんとリヴァンさんと共に、すずかさんが開発したバイク……ランドローラーで現場に急行していた。 不幸にもレンヤさん達は別の次元世界で起きた事件の調査で今はいない、僕達がなんとかしないと……

 

「おら、行くぞ!」

 

迷宮を支える柱の一本に近付くが、未だにスピードは落としてないどころか上がっている。

 

「あの、一旦止めないと……」

 

「問題ありませんよ、ランドローラーは垂直走行も可能です」

 

「へ?」

 

フードを抑えながらユエさんを見るたら……次の瞬間、体にかかる重力の方向が変わり……視線の先には青い空があった。

 

(本当に垂直に走っているよ……)

 

かなり大きい芋虫のようなグリードを無視して通り過ぎるのに罪悪感を感じながらも……意識を戦闘できるように切り替える。

 

上層に出ると、ランドローラーを飛び降りる。 リヴァンさんはすぐさま着地し、琥珀色の鋼糸を飛ばしてグリムグリードの頭にに巻き付け……

 

「っ……ふん!」

 

全力で引っ張り、襲われかけたバスから引き離し、バスの周りにいたグリードもバラバラに斬り裂いた。そのバスの前にユエさんと着地する。

 

「やれやれ、まさか嘱託魔道師としての初陣がA級グリムグリードとは……責任重大ですね」

 

「それだけレンヤさんに買われているのですよ……レストレーション」

 

懐から剣の柄だけの待機状態のデバイスを取り出し……音声信号で剣へと復元した。 ユエさんはグリムグリードに飛びかかり、すでに籠手と甲掛型の天剣を復元していた。

 

「剛力徹破……咬牙!」

 

足の1つに足からの徹し剄を流し、掌底による衝剄で外殻にヒビが入ると足が根元から破壊された。

 

「……ふうっ!」

 

負けじと剣に剄を走らせ、もう一本の足を切断し、背を向けてゆっくり着地する。

 

「馬鹿やろう! 避けろ!」

 

リヴァンさんの怒鳴り声で後ろを向くと、切り落とした残骸が膨れ上がっていた。 すぐさま離れると……残骸が爆発し、さらに破片が飛び散る。

 

「ふっ……仕掛けが派手なことで」

 

「だから外に出すなと言ったのか、まったくあの野郎説明しろっての」

 

『聞こえているよ、リヴァン……識別名、インヴィークーが再生を始めたよ』

 

ツァリさんの念話の通り、飛び散った破片がグリムグリード……インヴィークーの破壊された足の根元に集まると……あっという間に傷ひとつなく足が完全に再生された。

 

「これは素晴らしい……」

 

ユエさんが皮肉気味に言った。 僕は背後から接近すると、インヴィークーの卵を産み落とす器官が振り落とされるのを避け、その上を駆け上がり背に飛び乗る。

 

「えい!」

 

背中に剣を突き立てると……

 

「うおおおおおっ!」

 

そのまま背中に剣を引きずりながら駆け登った。 インヴィークーは痛みで暴れ出す。

 

「外力系衝剄・化錬変化……蛇流! 」

 

インヴィークーの顔に化錬剄の糸を張りつけ、その糸を伝って拳打の衝撃を伝えた。 だが、その時飛び散った破片が爆発し、こっちに飛んできた。

 

「うっ……!」

 

それを当たる瞬間に斬り裂いき、破片は左右に避けた。

 

「殺す気ですか、ユエさん⁉︎」

 

「済まない! だが、この程度で死ねるようなら天剣は持てないですよ!」

 

ユエさんを失敗を責めるが、確かにその通りなのでこれ以上は言わない。

 

次にリヴァンさんが鋼糸を螺旋状に纏めた矢を放ち、左胸……心臓を貫くと鋼糸を解けさせ内側からバラバラに斬り裂いた。 さらに飛び散った破片を爆発する前に射抜いたが……結局は同じことで、破片は顔と背に集まると同じように傷ひとつ無く再生された。

 

「まさか……」

 

「しつこい奴だな」

 

「攻撃すればするほど自分の首を絞めてる。 これじゃキリがない!」

 

グリードだから左胸に心臓ないかもしれないし、そもそも心臓で生きているとも限らないが……さすがに胸を貫かれても生きているなんて……その時、ツァリさんの花びらの端子が目の前を舞った。

 

『インヴィークーは細胞かそれ以下の物質によって構成された、群生生命体のようだね』

 

「なるほど、あれは自爆ではなく、本体に再合流するための自衛行動ですか」

 

リヴァンさんがツァリさんから情報を得て、作戦を言った。

 

「短時間の超重圧攻撃でインヴィークー全体を圧死させる。 全体を同時に、それぞれの最大量の剄を持って技を撃て。 1度で仕留めないと後がないぞ」

 

作戦を聞き、剣を握り直して剄を走らせる。

 

「行くぞ!」

 

その合図と同時にリヴァンさんは地面に矢を放ち、その左右の地面から鋼糸が天高くまで飛び出し……インヴィークーを鋼糸の円の中に囲った。 インヴィークーはすぐさま脱出しようと4枚の昆虫特有の羽を羽ばたかせ、鋼糸が及んでいない上へと飛んだ。

 

「上に逃げようとしても……無駄ですよ」

 

それを阻止しようとユエさんが鋼糸を足場にしてインヴィークーの頭上に飛び、右手に茜色の剄を纏い……

 

「はああぁああっ!」

 

さらに全身に茜色の剄を纏うと、インヴィークーの右頬にぶつかり、そこから右側にある2枚の羽を巻き込んで破壊し……その勢いのまま地面に激突した。 かなりの衝撃でかなり砂煙が舞っている。

 

剄を体に走らせ、鋼糸の囲いの中に入り、横を先ほどの攻撃の勢いのままユエさんが通り過ぎ、鋼糸の外に出てからようやく止まっていた。 落下するインヴィークーに接近する中、またユエさんのせいで破片が爆撃のように降り注ぎ、その中を臆さずに走り抜ける。 剣に剄を全力で流し込んで剣幅を伸ばし、地面を抵抗なく切り裂きながら飛び上がり……

 

「えええいっ‼︎」

 

インヴィークーの体を縦に一直線に真っ二つにし、その間を通過して空高く飛び上がった。 インヴィークーは体を膨れ上がらせ、自爆しようとするが……

 

「させるかよ……おおおっ!」

 

囲んでいた鋼糸をインヴィークーの全体に巻き付かせ、そのまま縛り上げる。 そのまま限界まで絞り上げると……琥珀色の閃光が先に飛び散り、その後大爆発が起きた。

 

「これで……!」

 

「! いや、まだだ!」

 

まだ生きているようで、破片が1箇所を集まり始め、先に集まった部位が心臓のように鼓動している。 僕は剣を強く握りしめ、そのまま剣を心臓に向かって投擲し……すぐさま転移して剣をまた掴み、投擲した勢いのまま降下する。

 

「くっ、間に合いますか……⁉︎」

 

「いいだろう、別に」

 

風でフードが脱げるも剣先で風を斬り、紺色の剄を弾けさせながら心臓に向かって落下し……

 

「うおおおおおおおっ‼︎」

 

心臓を貫いた。 次の瞬間、周りに浮遊していた破片は力なく落ちていき、次々と塵となって消えていった。

 

「! しまっ……!」

 

インヴィークが消えたことに一安心して自分が落下しているのを忘れていた。 すぐに剣を地面に向かって投擲し、転移して慣性を消してから地面に足をつけた。

 

「ふう〜〜……」

 

緊張が解けて、大きな息をはいて力が抜ける。

 

「ソーマーー‼︎」

 

「トイトイトイー‼︎」

 

それもつかの間、聞き覚えのある声に呼ばれて振り返ると……ティアが銃を撃って、スバルが何度もパンチを繰り出していたのだが、一緒に眷属のグリードもいた。 そういえばグリムグリードが消えても眷属のエルダーグリードは消えることはないって言っていたような……

 

「って、そうじゃない!」

 

突き刺さっていた剣を抜くと同時に回転をかけながら投げ、奥側にいたグリードの1体を真っ二つにし、接近しながら両手の指の間に合計8個の針状の剄弾を形成した。

 

「外力系衝剄……九乃(くない)!」

 

グリードの視線が向けられる前に九乃を放ち、目や外殻の隙間に突き刺さした。 そしてすぐに剣の元に転移して……

 

「ぜああああっ‼︎」

 

無防備な背後を斬り裂さき、転移する前と同じ場所に立った。 剣を振り払うと、遅れて斬り裂いたグリードが消えていき、最後には車とティア達が残った。

 

「大丈夫ですか⁉︎ 怪我とかはしてませんか⁉︎」

 

「あ、ああ……助けてくれて感謝する」

 

「ソ〜〜マ〜〜!」

 

「うわっ⁉︎ ス、スバル⁉︎」

 

「怖かったよ〜〜!」

 

「ちょっ、スバル⁉︎ 何抱きついてんのよ!」

 

「全く、何やってんだよ」

 

「ふふ、仲がよろしくていいではありませんか」

 

その光景をリヴァンさんとユエさんに呆れ気味に見られながら、まずはバスの乗客をこの場所からバスごと降ろし、その後すぐに迷宮が消滅していった。

 

「皆さん! 大丈夫でしたか⁉︎」

 

「やっほー、ルーテシアちゃんが来ましたよ〜」

 

(ペコリ)

 

「遅かったな」

 

地上に降りると、そこにはサーシャ、ルーテシアと爆丸状態のガリュー、そしてアギトがいた。

 

「皆、どうしてここに?」

 

「眷属のエルダーグリードがあり得ないほど多かったからね、地上に降りたのを片っ端から倒していたんだぁ」

 

「この程度なら余裕だったわね!」

 

「ちぇ、あたしも戦いたかったぜ」

 

「何はともあれ、レンヤ達抜きでよくやったと思うんじゃねえか?」

 

「はい、僕もそう思います!」

 

異界対策課に入って初めてのグリムグリードの討伐……レンヤさん達が不在でもなんとか解決できたことを嬉しく思い、小さくガッツポーズをする。 だだそう思う中、改めてグリードの脅威というのが恐ろしいものか理解する。

 

「……………(ジー)」

 

「ん?」

 

視線を感じて辺りを見渡すと、バスの中に勝気そうな目をした女の子がいて、その子がジーとこちらを見ていた。 歳は……ちょうどルーテシアと同じくらいかな? こっちの視線に気がつくとソッポを向いて、そしてちょうどバスが発進して行った。

 

「……なんだったんだろう?」

 

「ソーマさん、帰りますよ?」

 

「あ、はい! それじゃあティア、スバル、またね」

 

「ええ」

 

「またね〜!」

 

2人と別れ、結構高い場所から乗り捨てたのに無事なランドローラーに乗り、僕達は今度はゆっくりと異界対策課に帰って行った。

 

 


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