魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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107話

 

 

11月1日ーー

 

一昨日、アリサ達詳細を知ろうとが迫ってきたが……劇のこともあったので学院祭後、改めて教えるということでその場は収まった。 そしていつも通り1日で身体を全快にさせて。 学院祭2日目の今日、どうにか劇に出演できるパフォーマンスにできた。

 

「ふう、まだ節々が痛むが……なんとかなるだろう」

 

「にゃあ……台詞がうろ覚えだよぉ……」

 

「そこは気合で覚えなぁあかんなぁ」

 

「えーっと、あそこでこうして……ここでこうなって……(ぶつぶつ)」

 

「大丈夫、皆?」

 

だが、さすがに神話級XXXグリードーーほとんど超硬い結界と格闘していたがーーを相手にして1日そこらで全快できるわけもなく、すずかに疲労回復魔法をかけてもらっている。 いや、やっぱりどちらかと言うとツァリのスパルタが再臨したせいなのかもしれない……

 

「たっく、だらしねぇな。 それでも音に聞こえし管理局のエースかよ」

 

「クーさん、それを引っ張ってくるのはさすがに卑怯だよ」

 

そんな俺達にクー先輩が何か言ってきたが、アリシアがフォローしてくれた。

 

「とにかく劇が始まる前までに動けるようにはなりなさい、これで負けたらI組の連中に何言われるか分かったもんじゃないわ」

 

「確かに、こんな勝ち方では納得しませんね」

 

「随分と変ないちゃもんだな」

 

アリサの言葉にユエが肯定し、リヴァンは肩をすくめて呆れる。

 

「あわあわ……ど、どうしましょう……」

 

「大丈夫だから、落ち着いて」

 

慌てふためくサーシャをシェルティスがなだめる、一応皆の準備はいいようだな。 と、そこで控え室の扉が開き……ツァリと先輩達が入ってきた。

 

「皆、そろそろ時間だよ。 準備はいい?」

 

「レンヤ君やな以外は問題ない」

 

「うーん、やっぱり今からでも代役を立てた方がいいじゃないのかなぁ?」

 

「わたくしも原作は読んでみましたが、今から用意しても演劇がさらに酷くなるのは確実でしょう」

 

「そうだね、4人の代役を用意するのも時間がかかるし……それとこっちの準備も万端だ。 いつでも空間シュミレーターは使用できるよ」

 

「サンキューグロリア、実際に舞台を用意すんのはそれでやった方が楽だし確実だかんな。 いやー、お前さん達がコネを持ってて助かったぜ」

 

「……それはどうも」

 

はやてがため息気味に返答する。 この空間シュミレーターははやてが発足しようとしている部隊に使おうと用意していたらしいが、クー先輩はどこから聞きつけたのかシュミレーターの貸し出しをお願い(?)してきた。 それには他の皆も賛成したし、理由も分かるが……無理言って発足しようとしているのにさらに無茶を言ってしまうのはどうしても心苦しくなってしまい、はやての心労は計り知れないことになっている。 確かなのはも監修に、すずかが設計に参加しているようだが……

 

「とにかくこのまま行くしかないよ。 大丈夫、皆なら絶対に上手く行くはずだよ!」

 

「……一体どこからそんな根拠が出てくるんだよ」

 

「ふふ、指導していたツァリ君なら当然かもしれないね」

 

「よし、なんとかやってみるか!」

 

「うん!」

 

「頑張ってね、皆!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

劇が始まり、俺達は気持ちと思考を切り替えて演じる本人のように振る舞い、物語を進めた。 ステージは第1ドーム全体で行なっており、世界観、舞台、景色、家やイスなどの細かい部分も空間シュミレーターによって投影され、かなり再現度の高い演劇となっている。

 

世界観や舞台などの簡単な前置きが終わり、その後なのは気絶させたり、ユエと途中からガチな戦いをしたり一瞬の失敗が許されない緊張が続いた。

 

そして今、ドームに投影されたのは湖……ヴァレリア湖が映し出された。 その湖畔にある巨大な施設が……突然、襲撃を受けた。 開けられた穴に小型の飛空艇が入り、ハッチが開くと盗賊らしき集団が降りた。 兵隊が出てくると、盗賊の頭を演じているクーが先輩が容赦なく砲弾を撃った。

 

「はっはぁ‼︎ 野郎ども、派手にやれ!」

 

『おおっ‼︎』

 

戦闘が始まり、盗賊達はむやみに辺りを攻撃し始めた。

 

「敵の注意を全部こっちに引き付けるんだ!」

 

「ドルン兄、楽しんでいるでしょう⁉︎」

 

女盗賊のはやて(ジョゼット役)は無鉄砲なクー先輩を注意した。

 

「あっははははぁ‼︎」

 

そんなこと関係なくクー先輩は滅茶苦茶に砲弾を撃った。 さて、俺も行くとしますか……

 

柱にワイヤー投げて巻き付け、隠れて施設に潜入した。 そのまま一気に中心まで走り抜けた。

 

「はっ……!」

 

すぐに開けた場所に出ると……そこには巨大な紅い船艦があった。 近付いて見上げると……いきなりライトが照らされた。

 

「ーーやあ、ずいぶん久しぶりだね。 漆黒の牙、ヨシュア……アストレイ」

 

「執行者ナンバー……0」

 

「いやだなぁ、知らない仲じゃないだろう? カンパネルラって呼んでよ」

 

顔の右側に刺青の入った少年……ツァリ(カンパネルラ役)は本人と思うくらいその人物になりきっている。 スパルタをするだけのことはあるな。

 

「その顔は……戻って来てくれたわけじゃないみたいだねぇ」

 

「戻るわけがない、僕は結社を潰しにきた……!」

 

「やっぱり君、記憶が戻らない方が幸せだったんじゃないかなぁ? ああ、そうか! 彼女、エステル・ブライトだっけ? 彼女をここに連れてくれば、君も戻って来てくれるのかなぁ?」

 

「ッ! カンパネルラ……!」

 

わざとらしく煽ってくるツァリに、俺は怒りをあらわにし睨みつける。 だが突如爆風が巻き起こり……船艦が浮かび始めた。

 

「さすがは隠密に長ける漆黒の牙、この場所を探り当てたのは賞賛に値するけど……ちょっとだけ遅かったみたいだねぇ?」

 

天井が開き、船艦は空へと飛び始めた。

 

「グロリアスの制御は完了、もうここは破棄することにするよ」

 

「待て‼︎」

 

「もちろん待ってるよ、君が同胞として戻って来てくれることをね……」

 

船艦は飛翔し、クー先輩達の頭上を飛んだ。

 

「あれがヨシュアが言っていた船艦⁉︎」

 

「くっ、間に合わなかったか!」

 

「あんなのと1人で戦おうとしてたの⁉︎」

 

小型飛空艇を巻き込みながら空に逃げて行く紅い船艦を……俺は睨み続けた。

 

それから問題なく物語は進んでいき、観客が見ていることで再現度が高くなっている。 練習の時より上手くなっている感じがしてくる。

 

「はっ……‼︎」

 

さらに物語は順調に進んみ、今は連れ去られられたなのは(エステル役)が悪夢から飛び起きた場面だ。

 

「……どこ、ここ?」

 

「ーーうふふ、怖い夢でもみたのかしら?」

 

ベットの横に置いてあるテーブルで優雅にお茶をしていたのはアリサ(レン役)。 大人魔法ならぬ子ども魔法で今は中学生くらいの体型になっていた。 ちなみに偶然にも同じ菫色の髪で中性的な顔立ちのツァリにこの役をやらせようとしたが、他にも重要な役(カンパネルラとか)があって却下となったら、地味に残念。

 

「レン……! あ! そのハーモニカ!」

 

なのはの視線はアリサの手にあるハーモニカに向けられた。

 

「あなたの荷物調べさせてもらったわ。 これ素敵ね、レン気に入っちゃった!」

 

「っ! 返しなさい!」

 

なのはが慌ててハーモニカを取ろうとするが、アリサが腕を上げてその手は空を切った。

 

「ふうん、大事な物なんだ? じゃあ返さない」

 

良いものを手に入れた風な顔になり、席から立ち上がりなのはの方を向く。

 

「あなたのさっきの質問、答えてあげるわ。 外を見てごらんなさい」

 

「?……えぇ⁉︎」

 

窓の外を見ると、目の前には白い雲、遥か先には青い空が映っていた。 なのははガラスに顔をぶつけながら外を食い見る。

 

「わあ……」

 

「……地上8000アージュ(メートル)、誰にも見つけられないしあなたもどこにも逃げ場はないわ。 ようこそ、あたし達の新しい拠点……紅の方舟(グロリアス)へ」

 

「こんな所にあたしを攫って、どうするつもりなの⁉︎」

 

「別に、カンパネルラがあなたを仲間にすればヨシュアも戻ってくるかもって言うから」

 

「仲間……? あたしが? 執行者の?」

 

「もちろんレンは反対よ。 なーんの力もないあなたに、その資格なんてないもの」

 

「悪かったわね……元より仲間にやる気なんか無いわよ」

 

「……そう、だったら……殺さなくちゃいけないわ……」

 

アリサのその言葉になのはは慌てて辺りを見渡し、ベットの側に立て掛けてあった棍(レイジングハート、見た目ただの棍版)を手に取り、構える。

 

「そうはいかないわよ! 逆にこの船をぶっ壊して、あたしを連れてきたことを後悔させてあげるわ!」

 

「………くすっ………やっぱりあなたって面白いわね!」

 

「?」

 

「万が一にもあなたに勝ち目はないわ。なのに……どうしてそうやって気丈に振る舞っていられるの? なんの力もないのに」

 

アリサは次になのはを連れて船内を歩き始めた。

 

「ちょっと、どこに連れて行くき?」

 

「面白い物を見せてあげる」

 

さらに奥へ進んでいき、重厚な扉が開かれその中に入った。

 

「……あぁ……!」

 

そこにはどこもかしこも兵器らしき物体がいくつも鎮座していた。

 

「これは……」

 

「どう? 驚いた? グロリアス1隻だけで一国の軍隊を圧倒することが可能よ」

 

「あなた達、戦争始める気?」

 

「ーー場合によってはな」

 

「あぁ! レーヴェ!」

 

なのはの背後から銀髪の女性が現れた。 アリサは嬉しそうに彼女に近寄る。

 

「レーヴェ? あなたがここの親玉?」

 

「いや、私はただの留守番にすぎん。 レン、そのハーモニカは返してやれ」

 

「え……」

 

アリサは一瞬驚いた顔をすると、次に不機嫌な顔をしてなのはの前に来てハーモニカを返した。

 

「あ、ありがとう……」

 

「……ふん」

 

「……あなたは?」

 

「私は執行者ナンバーII、剣帝レオンハルト。 お前が追うヨシュアの古い連れだ」

 

「っ……!」

 

フェイト(レオンハルト役)は髪を魔法で銀髪に変え、ストレートから1つ結びの髪型でなのはと相対している。 いわゆる男装だが、いつもの雰囲気が相まってかなりのイケメンに見える。

 

「結社に属する者は皆、深い闇を背負っている。 私、他の執行者、そしてヨシュア。 結社と関わるには、お前の闇はあまりにも小さ過ぎる」

 

「ちょっと! 人のこと攫っておいて、今度は関わるなって言うの⁉︎ 随分勝手な言いぐさじゃない……⁉︎」

 

「……それはレンの独断だ」

 

「うん?」

 

なのはは怪訝そうにアリサを見つめる。 アリサは反省の色無しでそっぽを向く。

 

「大方カンパネルラに吹き込まれたのだろうが……元より私は、お前もヨシュアもこれ以上関わらずに済むのなら、その方が良いと思っている」

 

「どうして……?」

 

「私とヨシュアが進まんとしていたのは、修羅の道だ。 しかし、あいつが感情を取り戻したと言うのなら……人間として生きればいい」

 

「……あなたとヨシュアって、一体どういう関係だったの?」

 

その質問に、微かにアリサが反応をしめした。

 

「それを知ったら、お前は真っ白のままではいられなくなる。 その覚悟はあるのか?」

 

「うん、私は……ヨシュアの辿って来た軌跡をどうしても知っておきたい!」

 

「…………いいだろう」

 

フェイトが話す気になったのを、アリサは驚いた。

 

「10年前、私達がいたハーメル村が……まだ地図にあった頃の話だーー」

 

語られたのは1つの村の悲劇、その裏側で起こった陰謀、数年前に起こった戦争の真相……そしてその出来事で1人の子どもの心が壊れたことも。

 

「無力を恨んだ私達は身食らう蛇に身を投じ、世界を粛清する執行者となったのだ………エステル・ブライト、お前にこの闇の深さがわかるか? ハーメル村の悲劇は、未だリベールとエレボニアの両政府によって隠蔽されたままだ。 今の平和など仮初、世界は欺瞞に満ちている」

 

「…………そうかも、しれないけど……でも、だからといってあなた達が人を傷付けてもいい理由にはならないわ!」

 

「そう言って手をこまねいていては、世界は変えられない……! 優しさだけでは手遅れになる……!」

 

「っ! そんなことない! 皆で力を合わせれば、なんだって変えていけるわ!」

 

なのはのその問いに……ファイトは微かに嘲笑う。 なんか……何時もの仲良しの2人にはあり得ない光景だな。

 

「なによ!」

 

「…………なにを根拠にそんなことが言いきれる?」

 

「っ! あたしは何も諦めていないからよ!」

 

「ふっ……ヨシュアが心を開くわけだ……」

 

「とにかく、こんなの見せられた以上、黙って見過ごすわけにはいかないわ!」

 

棍を構え、フェイトに戦くう意思を向ける。

 

「正遊撃士、エステル・ブライト! 協会規定に基づき、あなた達の身柄を拘束するわ! 今すぐこの船艦を着陸させなさい!」」

 

「……お前は自分が囚われの身であるということが、わかっていないようだな」

 

「宣告はしたわよ、従わないのなら力尽くよ!」

 

なのはは駆け出し、棍をフェイトに振り下ろそうとすると……一瞬で弾かれてしまった。

 

「なに、今の……?」

 

フェイトの左手には、金色に輝く剣(バルディッシュ、ライオットザンバー片手のみ)が握られていた。

 

「……部屋に戻れ」

 

それだけを言うと、踵を返して去っていった。 その後、なのははまたアリサに連れられ、返してもらったハーモニカを見つめながら艦内を歩いていた。

 

『これ、お姉さんの形見だったんだ。 そんな大切な物を……』

 

「…………わからないわ」

 

「っ……?」

 

不意にアリサが足を止め、疑問に思っていたことを口にした。

 

「どうしてヨシュアは、あなたなんかにそれを渡したの?」

 

その問いに、なのははハーモニカを一度見つめてから答えた。

 

「きっと……これはヨシュアの心なのよ」

 

「心……」

 

「うん、ヨシュアはここに心を置いていったの。 私はそれを預かっているだけ……だから、今は私が持っているけど、これはちゃんとヨシュアに返明日あげなきゃ」

 

「…………わからないわ。 どうしてそんなに強がっていられるの? 囚われのあなたに、希望なんてないのよ?」

 

「希望ならあるわ……私は、まだ生きてる」

 

その答えにアリサは怒りに震え、右手に鎌(フレイムアイズ、鎌版)を出現させ、なのはは壁際にぶつけて首に鎌先を寄せる。

 

「これでどう? これでもまだ、さっきみたいなことが言えるのかしら?」

 

「……ねえ、あなたもレーヴェの言う、心の闇を背負っているの?」

 

「ッ! あなたには関係ないわ! レンは、執行者ナンバーXV、殲滅天使ーー」

 

そんな辛そうな表情を見て、なのははアリサに抱きしめた。 アリサは訳のわからない顔をして鎌を落とした。

 

「こんなに小さいのに執行者なんてやっちゃダメ、レンも幸せにならないと」

 

「どうして……抱きしめるの?」

 

「私も、小さい頃はよくお母さんによく抱きしめてもらったから。 そうするとね、なんでもできる気がしてくるの。 だからレンも」

 

「レン……も……レンの幸せは……ヨシュア……」

 

「ねえレン、私と一緒にヨシュアを探しに行こう?」

 

「……ダメ」

 

「え……」

 

「きっとレンは、あなたと一緒にいたら……壊れてしまう……」

 

「レン?」

 

ドオオオオオンッ‼︎

 

その時、船艦が揺れると赤いランプが点灯し、警告音が響いた。

 

「なに……?」

 

「ヨシュア……」

 

「え」

 

「ヨシュアが来たわ」

 

なにを根拠にそう答えるのかはわからないが、なぜかそう感じていた。

 

「エステル、あなたを逃がしてあげる」

 

「え⁉︎ いいの……?」

 

「この欺瞞に満ちた世界に希望があると言うのなら、証明して見せて。 でも、あなたの言葉が嘘だったら……その時はすぐに殺しにいくわ」

 

「……うん……ねえ、一緒にーー」

 

「さっきも言ったでしょう、レンは行けないの」

 

なのはは残念そうな顔になるが、すぐに明るい表情になる。

 

「次に会うときは、もっと仲良しになろう、ね?」

 

「っ………あなた次第じゃないかしら! 行って! レンの気が変わっちゃう前に」

 

その言葉にアリサは顔を赤くするが、素直になれず突き返した。 なんだか何時ものアリサを見ているようだな。

 

「ありがとう、レン!」

 

お礼を言うと、落とした棍を拾って艦内を走り出した。 さてと、見物は終わりにして気持ちを切り替えますか。

 

ダクトから抜け出して通路に降り立ち、周りを警戒しながらロープでさらに下に降りた。 工作をしようと荷物に手を出しかけるが……かかっていた影がさらに濃くなった。 慌てて背後を向くとレーヴェの格好をしたアリシアが剣を振り下ろして来た。 それを避けてロープを掴んで距離を取った。

 

「下の騒ぎはやはり陽動だったか……どうやって潜入した!」

 

「……航路確保の偵察機を狙った、執行者もいなかったから簡単に潜入できたよ」

 

「執行者としての勘は完全に取り戻せたようだな……だが、隠形というものは1度認識されたら終わりだ、この剣帝相手にどう戦う?」

 

次の瞬間、アリシアは消え……横からフェイトが現れ斬りかかって来た。 魔法を使用してないでの劇をするのが俺達の強み、それを行うための仕掛けはする。 双子みたいな2人だからこそできたことだ。 魔法を使用していないので、観客席からどよめきの声が上がる。

 

「どうしたヨシュア!」

 

「レーヴェ! 結社に従っていて、本当に世界を変えられると思っているのか⁉︎」

 

片方の剣を抜き、その会話とともに斬り合う。 フェイトは剣と足技を巧みに使い、圧倒的に攻めていく。 剣を投げて攻撃したり、その弾いた剣を一瞬で掴んで振り下ろし鉄骨を斬る。 実力は相手が上、剣で防ぐもどんどん後退していく。

 

「従っているわけではない! この世に問いかけるために、私は自分の意志でこうしている!」

 

剣を切れ払われ、腹に蹴りが入れられる。 歯を食いしばり、振り下ろされた剣を受け止め鍔迫り合いになる。

 

「時代の流れ、国家の論理、価値観と倫理観の変化! 兎角人という存在は、大きな事に翻弄されがちだ! そして時に、その狭間で身動きが取れぬまま消えていく! 私達のハーメル村のように!」

 

それはまるで呪いのように語る……鍔迫り合いをやめ剣を弾いて距離を取る。

 

「真実はと言うもの容易く隠蔽され、人は信じたい現実のみを受け入れる……それが人の弱さであり限界だ!」

 

「ッ……それを知らしめるためだとしても、結社はあまりにも多くの物を奪ってしまった! この僕も……許されないことだ!」

 

もう片方さん剣も抜いて、フェイトに斬りかかった。 高速の斬り合いが繰り広げられ、一瞬の隙に懐に入いられるがギリギリで防ぐも勢いで吹き飛ばされてしまった。 ワイヤーを取り出し、パイプに巻きつけ追撃して来たフェイトの剣を防ぐ。 ワイヤーでパイプを半回転し、パイプを破壊しながらの上に乗り、走る。 だがフェイトは1度の跳躍で距離を詰めて……外壁を突き破り、パイプにぶつかりながら落下していく。

 

息を整え、双剣を納めて腰からグレネードを取り出し、ピンを抜いて放り投げ……煙幕が発生するもその場から離脱した。 なんとかその場から離れ、リフトで甲板に向かおうとする。

 

「はあ、はあ……」

 

そろそろ到着しようとした時、突然リフトが揺れた。 剣を掴んで対応しようとし……リフトと甲板の一部を切り裂いてフェイトが斬りかかって来た。 甲板に飛び出し、弾いて距離を取りお互いリフトを挟んで甲板に降り立つ。

 

「どうした? 小細工をろうしてなおこの程度か?」

 

「……………」

 

その返答に、スイッチを取り出し……ボタンを押すと船艦に仕込んでいた爆弾が爆破した。 だが、そうなってもフェイトは顔色1つも変えない。

 

「……船を道連れに自爆でもするつもりか? グロリアスを破壊したところで、福音計画を止められることはできんぞ」

 

「たとえ……そうだとしてもーー」

 

「はあああああっ!」

 

その時、フェイトの方にある通路からなのはが棍を構えて走って来た。

 

「こんっのおおぉ‼︎」

 

飛び出して振り下ろした棍をフェイトを軽く弾いて、その勢いのままこっちに飛ばされて来て、お尻から着地した。

 

「エステル⁉︎」

 

「アイタタ……あ、ヨシュア! もう探したんだからね! 今度こそ一緒にうちに帰るわよ!」

 

「え、ちょ、ちょっと待ってエステル……」

 

「ふっはは……大した娘だな。 船を沈めればその娘も死ぬ事になるぞ、お前にそれができるのか? 記憶を取り戻したのと引き換えに、牙を失ったようだな」

 

「くっ………」

 

「今の弱いお前では、結社を滅ぼすことも私を殺すこともできまい」

 

「ーー好き勝手言ってんじゃないわよ!」

 

なのはが立ち上がり、棍をフェイトに向ける。

 

「ヨシュアは弱くなんかないわ! 私を守るために、目の前から逃げ出した、怖がりで勇敢なヨシュア……たった独りで傷ついて、苦しんで、それでも必死に戦い続けてる……そんな人間が、よわいはずない! 罪のないリベールの人達を利用しようとする、あんた達こそ弱い人間よ! そんなこと、帝国のやったこととなんら変わらないじゃない! これ以上あんたみたいな連中に、ヨシュアを傷つけさせはしないんだから!」

 

「……エステル」

 

と、そこで前後から兵隊がワラワラと出て来た。

 

「ヨシュア! 2人でなんとか突破するわよ!」

 

「いや、その必要はないよ……ありがとう、エステル。 もう大丈夫」

 

「え? どういうことーー」

 

言い終わる前になのはを抱えて、甲板の縁に足をかけ……そのまま空へ飛び出した。 なのはが叫びが風の音で消される中、雲の中から小型飛空艇が現れ、甲板にははやてとクー先輩がいた。

 

「ヨシュアーー‼︎」

 

「よぉ〜し、いいぞぉ〜そのまま、そのままぁ!」

 

飛空艇も同じ落下スピードで、そのまま手を引かれて甲板に雪崩れ込んだ。 見上げると、グロリアスが黒煙を上げながら去っていていた。

 

「……取り逃がしちゃった」

 

『え……』

 

俺達は驚いた表情でなのはを見た。

 

「え、なに?」

 

「ぷっ、ははは! 君って子は……! 前向き過ぎて本当に呆れるよ」

 

「ふはは! 違えねえ! 命からがら逃げて来たのに大したもんだ」

 

「ふん、こいつはただの能天気なだけや」

 

あ、今素で言ったな。 終盤に近付いたせいで気が抜けたな。

 

「なんですって⁉︎」

 

それから一旦フェイトの場面が映り、その後また小型飛空艇に戻り、俺となのはは甲板で夕陽を眺めていた。

 

「ねえ、ヨシュア? 約束しよう、お互いがお互いを守りながら、一緒に歩いていこって。 ヨシュアが側にいてくれたら、私の力も何倍にも大きくなる」

 

「エステル……」

 

そこでなのはは手を出した。 その手にはハーモニカが握られていた。

 

「はい、返すね。 後……これもーー」

 

ハーモニカを受け取り、なのはは一歩前に出る。 確かこの後、最初の時に首を打って気絶させたから、今回はビンタされる手はずになっている。 このシーンで今更ビンタってどうかと思うけど、いくら劇でもなのはにビンタされるのはなぁ……って、あれ? 手じゃなくて顔を赤くしながら近付いているような……

 

「ん……///」

 

「……へ⁉︎」

 

『あああああっ‼︎』

 

そのまま頰に……キスされた。 空間シュミレーターの投影で隠れているフェイト達の叫び声が聞こえたが、なのはがえへへと笑い、俺はキスされた頰を抑えて惚ける中、俺達の劇は幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

劇が終わり、なのははフェイト達に連行され。 俺はクー先輩に肩を組まされたいた。

 

「おうおう、レンヤ君よぉ。 かわい子ちゃんにキスされた気分はどうよ?」

 

「えーっと、どうと言われても……」

 

「ま、俺もあんな締めはどうかと思ったし……結果オーライじゃねぇの?」

 

「そうだな、本番よりとてもいい作品になってたと思う」

 

「で、でもでも、ツァリさんはそれでいいんですか?」

 

「うん? 確かにアドリブもあったけど、これとない結果になったしね。 特になにも言わないよ」

 

「以外ですね、ツァリのことですから妥協や即興は許せないと思いましたが……」

 

「あはは……そうだね。 でもーー」

 

ツァリは控室の外に面している窓に近付き、ドームを後にする観客を見た。 どの人も楽しそうに会話しているのが見える。

 

「あ……」

 

「あれを見たら、どうでもよくなっちゃったんだ」

 

「確かに、ここで憤慨するのは無粋というものでしょう」

 

「終わりよければ全て良し……そいうこった」

 

「ああ、そうだな」

 

色々とハプニングは起こったが、結果的にVII組の出し物は成功したと言うことだな。

 

「ではでは、そろそろ後夜祭に行きますか?」

 

「なのは達は……まあ、後で来るだろう」

 

「フィアット達とテオの野郎も先に行っているはずだぜ、早いとこ行こうぜ」

 

「はい」

 

控室を出て、すぐにドーム内に着くと、すでに後夜祭のキャンプファイアとダンスも始まっていた。 炎の前にはテオ教官がおり、俺達に気がつくと歩いて来た。

 

「よお、来たか。 なかなかいい出来だったぜ」

 

「そう言って貰えば、やり甲斐があったと言うものかな?」

 

「かなりハードだったがな」

 

「そういえば、アンケートの結果はもう出たのですか?」

 

「ああ、それなら……っと、噂をすれば会長殿が来たな」

 

入り口を見ると、フィアット会長とエテルナ先輩達が慌ててやって来た。

 

「皆〜!」

 

「会長、先輩達も」

 

「皆さん、とてもよい劇でした。 再現度もなかなか、プロとも劣らない出来でしたよ」

 

「あはは、それは言い過ぎだと思いますけど……ありがとうございます」

 

「そういえばすずか君達が見えないけど、何かあったのかい?」

 

「えとえと、ちょっとなのはさん達は、その……」

 

「ま、最後らへんのやつだ」

 

「…………ああ、なるほど」

 

なんか、クー先輩のその言葉だけでフィアット会長は事情は分かったようだ。

 

「ーー皆〜! お待たせ〜!」

 

と、ちょうどそこでなのは達がドーム内に入ってきた。 見た感じ特に何かしたようではないし、話し合いで解決したなのなら幸いだな。

 

「あのあの、皆さんどちらに行かれていたのですか?」

 

「ちょおっとお話してただけや、もう終わったで」

 

「そうね、結構有意義な時間だったわ」

 

「いや、ほんと何やってたの?」

 

「ふふっ、女の子だけの秘密だよ♪」

 

「それで会長、アンケートの結果はどうなったのですか?」

 

「ああうん、そうだね」

 

フェイトに言われ、会長は息を大きく吸ってから答えた。

 

「おめでとう皆! 今年も堂々の一位だよ!」

 

「去年よりも投票数も増しています、よく頑張ったと思いますよ」

 

「そうですか……なんか、あまり実感がありませんけど」

 

「まあ、やり切った感はあるかな?」

 

「最後の学院祭、とても楽しませてもらったよ」

 

「そう言ってもらえれば、なによりです」

 

「そうだな……」

 

劇が始まる前から夕闇が出たりで色々と大変だったが……こうやり切ったらそれはもう過去の話になって、実感と経験が体に残る。 来年の学院祭の参加は有志だが、参加することには変わらないし、3年になったらはやての手伝いを優先しておくか。

 

「レンヤー! ボーッとしてないで早く来なさーい!」

 

「学院の皆で魔力球のドッチボール大会をやるみたいだよ〜!」

 

「ああ! 今行く!」

 

アリサとすずかの呼び声で考えをやめて、駆け足で皆の所に行った。

 

 




大半の人が劇に出てませんが、省略した部分にちゃんと出演してたりします。

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