魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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106話

 

 

杜宮最大の異変を収束するため、俺達4人は現地で出会った協力者と共に迷宮を探索していた。

 

《ソニックソー》

 

「せいやっ!」

 

《ハーケンスラッシュ》

 

「やあっ!」

 

《アクセルシューター》

 

「弾幕……放射!」

 

「行くでぇ……ブラッディダガー!」

 

機動力のある俺達が先導し、背後はコウ達が対処する布陣で進んでいた。

 

「……なんて奴らだ、こんだけ強えグリードを全く寄せつけねぇなんて……」

 

「ここはパンドラ以上の迷宮よ……それに、一人一人のこの魔力量は……」

 

「やれやれ、大人の立場がないな」

 

「彼、3ヶ月前とは比べ物にならないくらい強くなっている。 レルム魔導学院か……一体どんな授業を受けているんだ?」

 

うーん、確かに1年よりましてテオ教官やモコ教官の訓練は厳しく、激しさを増しているが……どうもグリードと比べてしまうとグリードが見劣りするのは、気のせいだろうか? ともかく迷宮を進み、一旦転移して中間地点に差し掛かる。

 

「はあはあ……大分進んで来たみてえだな……!」

 

「さ、さすがに、かなり手強いですね……!」

 

「チッ……どいつもこいつも手応えがありやがる」

 

「ああ、おそらくほとんどの怪異が脅威度Aランクに相当するだろう」

 

「今まででも最高レベルの難易度みたいだね……」

 

「疲れたんなら、私達に任せてもええんよ?」

 

「へっ、冗談キツイぜはやてちゃん。 こんなんでへばるかっての……!」

 

「ていうか君達疲れなさ過ぎじゃないの……⁉︎」

 

(やはり、私の知る魔導師とは……それに一人一人のこの魔力は……)

 

「ぅうぅ……!」

 

突然シオリが苦しみ出し、胸を抑えて座り込んだ。

 

「シ、シオリちゃんっ⁉︎」

 

「シオリ、大丈夫か⁉︎」

 

コウがシオリの元に駆け寄った。 シオリの顔色はさっきよりも悪くなっているようだ。

 

「……うん、平気……だよ。 それより……大分近付いているみたい……」

 

「……そうか」

 

「やっぱり何かしらの影響を受けているみたいですね……」

 

「ええ、それも奥に進むにつれて強く……」

 

「さっきよりも顔色が悪い……あんまり無理をしないで休んだ方がいいよ」

 

「……ありがとう、テスタロッサさん。 でも気にしないで。 皆は、先に進むことだけを……」

 

シオリは健気にもそういい、痛みに耐える。

 

「………無理だけはしないでね」

 

「シオリちゃんが頑張っている……私達も弱音は言ってられないね」

 

「ああ……」

 

「行くぞ……先は長いが、このまま一気に突破するぞ!」

 

「ええ……! 油断せず進みましょう!」

 

探索を再開し、迫り来るグリードを協力して退けながら、俺達は奥へ進んだ。 その途中で消える足場を登っていた。

 

「どわっ⁉︎」

 

「リョウタ!」

 

「危ない!」

 

リョウタが足を踏み外し、落下しかけたところをなのはが飛行魔法を使用して助けた。

 

「大丈夫?」

 

「あ、ああ……てか、やっぱ飛べるんだ……」

 

「? うん、飛べるよ?」

 

「ひ、非科学過ぎる……」

 

「これも一応、れっきとした科学なんやけどなぁ」

 

「それは後でいいから、早く上がり切るぞ」

 

飛べないコウ達に手を貸しながら登り切り、最後の道程を気を抜かずに進んだ。 そして最奥の手前まで差し掛かると……

 

チリィ……ン……

 

『ハヤクオイデヨ……オニイチャンタチ』

 

「あ……」

 

「……ああ、お望み通りすぐに辿り着いてやるさ……!」

 

だが、その前に行く手を何体ものグリードが塞いだ。

 

「邪魔だ……」

 

《サードギア……ドライブ》

 

虚空千切(こくうちぎり)!」

 

一瞬でグリードを通過しながら神速の速さで斬り裂き、刀を振り払うと何体ものグリードからいくつもの斬撃が走り……消えていった。

 

「す、すごい……」

 

「見えませんでした……」

 

「……まさか、ここまでとは……」

 

「このくらい、レン君なら当然だよ」

 

「それに、もっとすごいのがミッドチルダには何人もおるんよ?」

 

「……あんたらの世界は人外魔境かよ」

 

「それはこっちの台詞なんだけどなぁ」

 

「それにさっきから思っていたんだけど、その刀ってなに? ソウルデヴァイスじゃなさそうだけど」

 

「これはデバイスと言って、簡単にいてば魔法を使うための補助具……杖みたいなものだよ」

 

「いや、だったからレンヤだけ杖じゃねえじゃんか」

 

「あくまで中身の問題だ。 ほら、早く行くぞ」

 

気を取り直して階段を登り切ると、奥に最奥に続くための巨大な扉があった。

 

「こ、ここは……」

 

「ようやく終点に着いたみてぇだーー」

 

そこでコウは奥にあった見て扉を何かに気が付いた。 扉は独りでに開き、俺達を招こうとしていた。

 

「あの門は……!」

 

「な、なんだか見覚えがあるような……」

 

「まさか……パンドラの奥にあった⁉︎」

 

「パンドラ?」

 

「……確に、似ています。 匣のの中枢にあったものと……」

 

「待ってよ、なんでそんなものが……⁉︎」

 

「も、もしかして……関係がある、とか……?」

 

「な、なんのことや?」

 

「どうやら、3ヶ月前と関係するみたいだな」

 

どちらにせよ、この中に入れば分かることだ。 またシオリが胸を抑えると、何かを感じとった。

 

「………いる、みたい………この中に……あの子が……」

 

「シオリ……」

 

「……そうか」

 

「……なんにせよ、ようやく終点に辿り着いたってワケだ」

 

「色々と、気がかりはあるけど……」

 

「ええ……きっとこの先で明らかになるはずです。 杜宮の異変の陰で蠢いていた何かの全貌が……」

 

……3ヶ月前に起きた2つの事件、目の前の扉、シオリとの関係……思考を巡らせても導ける答えはあり得ないと出るが……

 

「いずれにせよ……覚悟を決めるしかないな。心の準備が出来たらさっそく入るしよう」

 

「了解だよ」

 

「うん!」

 

俺達は準備を入念に整え……そして覚悟を決めて巨大な扉に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大なゲートを抜けるとそこは何もない、暗闇の空間だった。 まるで命すらない、空虚な場所だ。

 

「な、何も見えない……?」

 

「い、いからなんでも暗すぎねぇか……?」

 

「完全なる闇……か」

 

「な、なんだか、寒い……」

 

「どこまで広がってやがる……?」

 

辺りを見渡しても闇しかない、だが……気配と見られている視線を感じる。

 

「……どこにいる?」

 

「あの子は……」

 

チリィ……ン……

 

「ーーこっちこっち」

 

風鈴の音が鳴り、紫色のモヤが発生するとそこからあの子どもが現れた。

 

「あ……!」

 

「面を取ったのか」

 

面を取った男の子は年相応の顔立ちをしているが、その赤い目はその雰囲気を壊しており、異様な感じがする。

 

「遅かったじゃないか。 待ちくたびれちゃったよ。 まったく、何してたんだよ。 シオリ、トワお姉ちゃんも」

 

「っ……!」

 

「……くっ…………」

 

男の子は今までの不気味な喋り方はせず、普通に会話しているが……まるで親しい者と会話しているような口調で、シオリとコウが過敏に反応する。

 

『あの子……コウ君と似ているね』

 

『確かに、どこはかとなく似とるな』

 

『いったい、何の関係が……?』

 

『……………………』

 

念話で会話して状況を把握しようとすると、コウが一歩前に出た。

 

「やあ、おれ。 ふーん、大きくなったらそうなるんだ。 あんまりフンイキは変わんないかな?」

 

「……いい加減にしやがれ。 記憶が読めるんだが何だか知らねぇが、胸糞悪い真似ばかりしやがって……ここまで来たからにはもう逃しはしねぇ……! ガキの頃の自分(テメエ)だろうが遠慮なくブッ飛ばしてやる……!」

 

「コウちゃん……」

 

やはり、あの子どもはコウの幼い頃の自分のようだ。 確かに昔の自分の姿でこんな事態を起こしているなんて思いたくもない。

 

「ふふっ、ごめんごめんーー時坂 洸。 少し遊んでみたかっただけなんだ……やっぱり面白いね、人って。 心の中は不安や焦りでいっぱいなのに、そんなにも強がれるなんて」

 

口調が一転し、大人びた感じになる。 まるで子どもの姿をした何かだ。

 

「懐かしいなーー10年前の九重ソウスケとシャオ・ハーディン達を思い出すよ」

 

子どもは胸に手を当て、そんなことを言った。

 

「なっ……⁉︎」

 

「な、何でそこでお祖父ちゃんの名前が……?」

 

「……10年、前……?」

 

「てか、シャオ・ハーディンって誰……⁉︎」

 

「……俺の父親の名前だ……何でその名前が今出て来る?」

 

子どもの言葉に微かな怒りを感じるが……その時、シオリが胸を押さえて座り込んだ。

 

「……ううっ………」

 

「シオリ⁉︎」

 

「ど、どうしたの……⁉︎」

 

「…………………やっぱり………あなた、何だね……?」

 

何かに気付いたかのように、シオリは子どもを見る。

 

「……私には、分かる。 その声も、格好も、雰囲気もーーあの日、あの時ーーあの瞬間に、私の目に焼き付いたのと全く同じ……それを知っているのは、私とあなただけだから……そう、何でしょう……? ーーー夕闇ノ使徒」

 

「なっ……⁉︎」

 

「その名は……!」

 

「ふふっ……」

 

シオリから告げられた名前に、全員が驚愕する。 そして子どもは笑うと、両手を広げ……

 

「その名前で呼ばれるのも久しぶりだなぁ」

 

子どもから魔力が溢れ出し、身体中に赤い線が走り、黒い波動が放たれると……世界に色が付いた。 だが、それでも浮世絵離れした景色で。 狭い大地はひび割れ、外には天と地に荒れた空が2つの黒い球体を浮かべて渦巻いていた。

 

「ぁ………………‼︎」

 

「……そ、その紋様……‼︎」

 

「……間違い、ないわ。 いいえ、忘れるわけがない……! かつて東京に冥き災厄を齎した神話級グリムグリード……ーー夕闇ノ使徒‼︎」

 

「夕闇ノ使徒、だと……?」

 

「ウ、ウソ……でしょ……⁉︎」

 

「10年前の……いや、全ての元凶か……!」

 

「ま、待ってよ……完全におかしいでしょ⁉︎」

 

「確か、聞いた限りとっくの昔に討伐されたはずや」

 

「ああ……こんな所に存在するわけがない……! していいわけがないんだ……‼︎」

 

ジュンが完全に夕闇ノ使徒の存在を否定するが、現にこの規模の異変を起こしているのが証明となっている。

 

「ーーふふっ……驚くのもムリないか。 だけど、ボクはずっと待っていた。 キミ達が来てくれるのを。 君達自身が紡いだ因果の先でね」

 

「……因果……?」

 

子ども……夕闇ノ使徒は俺達に指を差してそう言った。 それから夕闇ノ使徒は語った、俺達の知らない事実を……3ヶ月前に起きた事件の事を。そして……九尾によって因果が正された瞬間、夕闇ノ使徒は不完全ながらも生きながらえた事を……

 

「そしてボクは、現実と異界の狭間を虚ろに彷徨いながら、僅かに残った力で過去に干渉し始めた。 存在しないはずの異界迷宮を無理矢理後付けすることで、少しずつ因果を歪めていったんだ。 そして千秋祭の夜、キミ達ををこの杜宮の影に招待することで、かつてないほどの歪んだ場が出来上がりーーようやく完全な形で復活するための準備が整ったってわけさ」

 

「……それじゃあ、あなたは本当に……」

 

「そうーーボクはかつて、君達が夕闇ノ使徒と呼んだ怪異そのものなんだ。 ふふっ……何だか嬉しいよ。 ボクの復活のきっかけをくれた君達と、ようやくお喋りできるんだからね」

 

夕闇ノ使徒は本当に嬉しそうに笑う。 まるで感情が……意志があるかのように。

 

「因果を歪める力……それが本当なら、今までのことにも説明がつく」

 

「過去を歪めて、都合のいい現在(いま)を導いたわけですか……」

 

「あの異界迷宮こそが歪んだ因果を導く楔だった……」

 

「なら、今私達がここにいるのもあなたの意志なの?」

 

「ふふっ、もちろん。 余計な因果も巻き込んじゃったみたいだけどね。 さっきまで力が完全に戻ってなかったからなぁ。 まあ別にいいんだけど」

 

「余計な因果って……ま、まさか俺の事を言ってんのか?」

 

夕闇ノ使徒は視線をリョウタに向けたが、どうでも良さそうにする。

 

「そういえば商店街の猫まで巻き込まれていましたけど……」

 

「俺達の周りの奴らごと見境ないし巻き込んでたワケか……」

 

「め、滅茶苦茶じゃない……!」

 

「全てはこの状況を作り上げるための布石……意志を持って、ここまでのことを為す怪異がいるなんて……」

 

今までのグリードは本能に従い、事件を起こすだけだったが。 この夕闇ノ使徒の存在は……巨大な異界の力を持った人間そのものだ。

 

「ああ、別に全てをボク自身が望んだわけじゃないんだ。 この姿にしたって、気付いた時にはこうだったワケだし。 たぶん、死んだシオリが最後に見た光景を無意識に写しちゃたんだろうね」

 

「あ……」

 

「シオリちゃん……」

 

「…………一体、何が目的だったんだ? そんな大それた真似をしてまで、何でここまでのことを……!」

 

「ふふ、そこのキミなら分かるんじゃない?」

 

「レンヤ?」

 

夕闇ノ使徒の回答を無理矢理任され、少しイラつきながらも仮説を言った。

 

「あいつは夕闇ノ使徒と呼んだ存在だ。 なら、引き起こされるのはただ一つ……」

 

「‼︎ 東京震災……いえ、東京冥災……」

 

「も、もう一度あんなのを引き起こそうっていうの……⁉︎」

 

「チッ、懲りねえ野郎だ……」

 

「……(ギリッ)」

 

「…………ううん、違う。 きっと、それだけじゃない……そうなんでしょう?」

 

「それだけじゃ、ない……?」

 

「ど、どういう意味だよ、シオリちゃん……⁉︎」

 

「ふふっ……今度こそ本当の冥き夜が来るのさ。 二度と明けることのない、無という夜がね」

 

「無……⁉︎」

 

「一体何のこと……⁉︎」

 

「さっきも言ったけど、今の因果はかつてないほど歪んじゃっているんだ。 本来なら存在しないはずの迷宮が現れたり、起きるはずのない出来事がたくさん起きちゃったからねーーだったらこの先、何が起きると思う?」

 

「ど、どういう事や……⁉︎」

 

決め手の少ない状況で質問されても、なにも導き出せない。 その時シオリが懺悔のように鍵となる言葉を言ってくれた。

 

「………なるほど、そう言うことか。 その事件とは比べ物にならない矛盾(パラドックス)……このままだと時空間の秩序が保てなくなる」

 

「そいつは……!」

 

「……行き着く先は時間と空間そのものの崩壊……何もかも消えて、最後に残るのは無だけ……というわけですか」

 

「それは次元断層……! このままだと、他の次元世界も巻き込まれて消失してしまう! この規模なら……最悪ミッドチルダまで……」

 

「まさに、生きたロストロギアだね……」

 

歩くロストロギアなら隣にいるが……正直、冗談でもなさそうだ。

 

「無? な、何もかも、無くなる……?」

 

「学園も、杜宮市も……私達も……?」

 

「まさしく冥き夜……か」

 

ますます事態は悪化している、正直かなりまずい状況だ。

 

「ふふっ……もしかしたら、ハッピーエンドで終わる結末もあったかもしれないね。 シオリの嘘を受け入れていれば、ボクが復活することもなかったかもしれない。 結局、お兄ちゃん達がやったことは全部ムダになっちゃったワケだ。 つくづく因果なお話だよねーーシオリ」

 

「……ぁ………」

 

「……………………」

 

「て、てめぇ、よくもそんな……!」

 

「ーーもういいわ、夕闇ノ使徒」

 

先ほどからシオリを責め続ける夕闇ノ使徒に見かね、アスカは虚空からレイピアを取り出す。

 

「シオリさんの今の因果は、私達が苦難を乗り越えた先にようやく掴み取ったもの……あなたごときに無駄だなんて、断じられる覚えはない……!」

 

レイピアを夕闇ノ使徒に突き出し、夕闇ノ使徒の言葉を否定する。 ジュンも大剣を取り出し、その言葉に乗る。

 

「ああ、そうとも。 それによって新たな矛盾が生まれてしまったというならーー僕達自身の手で正せばいいだけの話だ……!」

 

「……私達は、シオリさんとは会って間もないけど……それでも、友達を助けるために理由なんていらない!」

 

そして、俺達はそれぞれ武器を構えて夕闇ノ使徒と対面する。

 

「柊さん、ジュン君……」

 

「皆も……」

 

「……ふふっ……子どもの姿だからって見くびらないでほしいなぁ」

 

夕闇ノ使徒は禍々しい魔力を放ちながら浮かび上がる。 それだけで、かなりの波動が辺りのに轟く。

 

「きゃああっ……⁉︎」

 

「こ、この気当たりは……!」

 

「ッ! このくらい……!」

 

「テオ教官や、今までの経験に比べたら……!」

 

「全然大したことあらへん!」

 

「ああ、皆気張れよ!」

 

「ふうん……君達4人は他と比べてかなりの実力みたいだね……」

 

この威圧に怯んでいない俺達を見て……夕闇ノ使徒は俺達に向かって手をかざすと……突然俺達4人をまとめて球体状に結界が張られ、強力な過重がのしかかってきた。

 

「ぐううぅ……!」

 

「レンヤ!」

 

「くっ、なんて強力な結界……!」

 

「な、なんで……いきなり……」

 

「君達の魔法は厄介だからね、早めに手を打たせてもらったよ」

 

「よ、用意周到なんやなぁ……」

 

「ふふっ……そのお詫びと言ってはなんだけど、君の両親のことを教えておくよ」

 

「レ、レンヤさんの、両親……?」

 

「お祖父ちゃんのことでも驚いたけど……」

 

「それは知りたいねぇ、ついでに次元を超えてまでここに連れてきた理由も聞きたいんだか?」

 

なんとか脱出できないか模索するが、聞き耳を立てるのに気を取られて重圧に負けそうになるが、なんとか踏ん張る。

 

「ふふっ、それはもちろん因果を歪めるための布石の一つ……なんだけど、シャオ・ハーディンとアルフィン・ゼーゲブレヒトの息子の君は個人的に招待したかったのさ」

 

「な、なんでレンヤ君を……?」

 

「あの2人は本当に面白かったよ、心が踊るような……いや、2人と戦ったから心が得られたと思うくらいだ。 最終的には負けちゃったけど」

 

「それで、レンヤの両親は一体どこへ⁉︎」

 

「さあ? 大した傷も負っていなかったし、どこかで生きてるんじゃないの?」

 

「……そうか」

 

こんな状況だが、どこかホッとしている。 行方不明なのは変わらないが、安否不明よりはましだ。

 

「それじゃあ、せめて見物でもして行ってよ」

 

俺達はそのまま浮かされ、上空で拘束された。

 

「くっ……!」

 

「こんなことしている場合じゃないのに……」

 

「皆……!」

 

「さて、始めようか……フフ、分かってる? 4人を抜いた君達が全員合わさっても10年前の人間達にすら届かないってことは。 それでもいいっていうなら、おいで? 君達の因果と一緒にグチャグチャにしてあげるから……!」

 

「ぐっ……!」

 

「喋っているだけこの霊圧ですか……!」

 

「くっ……まさか、あの時のシオリさん以上の……⁉︎」

 

「あ、あり得ないでしょう……!」

 

「この……!」

 

なんとか脱出しようともがくが、一向に出れない。 下ではコウが激励で全員を奮い立たせ、夕闇ノ使徒と向き合う。 夕闇ノ使徒は面白く思ったのか笑い出すと……その姿を巨大な怪異に変化させた。 ひょろっとした人の骨だけ体格をしており頭、肩、腕から突起物が飛び出していて、更に身体中に黒い瘴気を纏っていた。

 

「神話級XXXグリード……夕闇ノ残影(ウェスペル=ウムブラ)……!」

 

「ああっ……!」

 

傍観するだけで何もできない自分の手を強く握りしめる中、コウ達はウェスペル=ウムブラに挑みかかった。

 

「レ、レン君……」

 

「何とか脱出せなぁあかんのに……!」

 

「くうっ……う、ごげ……!」

 

「ッ……! レゾナンスアーク、セーフティー……パージ!」

 

《イエス、マイマジェスティー。 拘束フレーム、パージ……ゲットセット、スペリオルモード》

 

重い体を無理に動かしてレゾナンスアークのフルドライブを起動し、左腰にもう一本短刀が現れ、長刀の外装が変化する。 刀身に埋め込まれている3つのギアがある峰の部分に同じ数のインジェクターが取り付けられ、短刀を抜いて柄の部分を引っ張ってスライドし、そこにカートリッジを装填した。

 

「ふんっ!」

 

短刀のカートリッジに込められた魔力を炸裂させて結界に突き立て、すぐさま長刀を同じ箇所を突き立て結界を破壊しようとする。

 

「こっの……! かったいなぁ……!」

 

「レンヤ……」

 

「負けてられないね!」

 

「うん、とことんやってやるでぇ!」

 

なのは達も何とか脱出しようと試みる。 だが負荷がかかっている上に狭い、どうしても最小限の範囲しかできず大技が放たない。

 

「ッ! ちょっ……!」

 

その時、横から白い魔力弾が飛んできた。 何とか反応して当たる前に切り裂いた。

 

「ご、ごめんなレンヤ君! こないな小さい事をやるための魔力コントロールはまだでけへんのや……」

 

「分かっている、大丈夫だ。 だが、さすがに狭いな」

 

「フレンドリーファイアは確実、厳しいね……」

 

「おりゃ、おりゃ、おりゃぁ‼︎」

 

なのはが物凄い気迫でロッドモードのレイジングハートを何度も結界に叩きつけている。

 

「物理攻撃で暴れるしかないようだね!」

 

「私、あんま小さい物理系の魔法持ってへんで……」

 

「アガートラムをジャブレベルにすれば多分行けるさ」

 

とにかくそれぞれ結界の中で暴れた。 いったいどれくらいの時間がたったのか、ようやく亀裂が入った。

 

「そこだ!」

 

《ジェットスロー》

 

短刀のカートリッジを交換し炸裂させて高速で放ち、亀裂に突き立てる。

 

「なのは!」

 

「うん、地裂衝(ちれつしょう)!」

 

棍で短刀の柄を殴りつけ……とうとう結界は破壊された。 下を見るとウェスペル=ウムブラは下半身から下が埋まっており、かなりダメージが蓄積されていた。

 

「ああ……⁉︎」

 

「脱出できたか……」

 

コウ達が俺達を見てホッとする。

 

「フェイト、はやて!」

 

「落ちよ、(いかづち)!」

 

《ライトニングスピア》

 

スフィアから発生した雷がウェスペル=ウムブラの腕を貫き……

 

「千山切り拓け! イガリマ!」

 

巨大な魔力剣を精製し、勢いよく振り下ろして胴に突き立てた。

 

「コウ君!」

 

「ああ!」

 

コウが一気に接近し、右腕のギアが赤く光り……

 

「エクステンド……ギア‼︎」

 

一瞬で巨大化したギアが顔面にぶち当てた。 その一撃にウェスペル=ウムブラは光りだすと、もがき苦しみだした。

 

ガアアアアア………アアア…………消エル…? ……ボクノ、存在ガ……

 

「ふう、ギリギリ間に合ったか」

 

「大丈夫、怪我はない?」

 

「あ、ああ……助かったぜ」

 

「皆、お待たせしたなぁ!」

 

「ふふ……かなり美味しい所を持っていかれたわね」

 

「ご、ごめん。 狙ったつもりはないんだけど……」

 

「皆、あ、あれ……!」

 

ウェスペル=ウムブラの姿が変わり、最初と同じ子どもの……幼い頃のコウの姿になったが、消滅は続いている。 しかし、その顔には戦意は無くなっていた。

 

「野郎……!

 

「チッ、まだやる気か……!」

 

「待って、殺気は感じない」

 

「……アハ、ハ……オ兄チャンノ……………言ウトオリ……ダッタネ……………ダッテ……ボク、ニハ………………分カラナインダカラ…」

 

夕闇ノ使徒は戦う前にコウの言った言葉を思い返しながら、両手を見ている。

 

「ーー10年前………ボクガ………………()()()()……()()()()()()スラ………」

 

「ッ!」

 

「……え……?」

 

「10年前、って……」

 

「……何を言ってんだ……?」

 

「………夕闇………」

 

「……ネエ、教エテヨ、オ兄チャン…………ウフフ………」

 

夕闇ノ使徒の言葉で気付いてしまった。 当たり前だからこそ見落としてしまう答えに……なぜグリードは生まれるのか、そもそも()()()()()()()()

 

答えを知りたい子どものように、夕闇ノ使徒はコウに呼びかけるが……

 

「ーーーアハハハ、ハハ、ハ………」

 

その存在を薄くなりながらも、夕闇ノ使徒は笑い出し……空間が歪んで異界が収束していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光りが収まり、目を開けると……そこはどこかの遊歩道だった。 ハロウィンのような催し物が行われており、通りはかなり賑やかだ。

 

「さんさんロード……」

 

「どうやら……今度は偽物じゃなさそうだな」

 

「ふう、何とか戻ってこられたようだ」

 

「ああ……正真正銘……俺達の杜宮に」

 

「そ、それじゃあ……!」

 

「ああ……夕闇は今度こそ完全に消滅したようだ」

 

「次元空間の崩壊や、次元断層も起きていない……何とか食い止められたみたいだね」

 

「そうですね。 乱された因果も、緩やかに正されて行くはずです」

 

「……はあ、やれやれ。 色々あったけど……」

 

「ひとまず……一件落着と言ってもいいみたいだね」

 

「お疲れ様、皆……!」

 

あの緊張感から開放され、皆の肩の荷が下りたのかホッとしている。

 

「……ありがとう、コウちゃん。 柊さんや、皆も。 私……やっぱり、皆について行けて良かった気がする」

 

「……はは、そうか」

 

「ふふっ、良かったねシオリ……‼︎」

 

「ーーあっ、いたいた!」

 

「なんだ君達、遅かったじゃないか」

 

その時、通りの先から少女の呼び声が聞こえてきた。 振り返ると同じ衣装を来た4人の少女と、スーツを着た2人の男性が近寄って来た。

 

「あ……」

 

「御厨さん……SPiKAの皆さんも」

 

『SPiKAっちゅうことは、リオンちゃんも? あんまピンとせいへんなぁ』

 

『は、はやて。 失礼だよ……!』

 

『にゃはは、分からなくもないけど……』

 

……念話だからって言いたい放題しているな。 まあ、確かに分からなくもないが。 それと、どうやら異界と現実世界の時間の流れが違っていたらしく、現実世界では1時間しか経っていないそうだ。

 

「? 何の話?」

 

「ふう、なんだか仮装している子達までいるみたいだし。 友達とお喋りするのはいいけど、ステージには遅れずに来なさいよね」

 

「う、うん、了解」

 

そういえばバリアジャケットを解除していなかったな。 不幸中の幸いだが、ジュンとまとめられて仮装扱いになってよかった。その後いったん解散することになり、木陰でバリアジャケットを解除した後クロノに連絡を取って事情を説明した。 なのは達もアリサ達に連絡しているが、かなり心配していたらしく、なのはは耳からメイフォンを遠ざけている。

 

「レンヤ、そっちも?」

 

「ああ、結構心配していたらしくてな。 一応、すぐにでも帰れるように月村邸の転送ポートを準備してくれている」

 

「私は……もう少し休んでいたいな」

 

「そやな、いきなり過ぎて頭も身体もついて行けてへんよ……」

 

「確かに、せっかくだし……この千秋祭を楽しんでいくか」

 

「そうだね、私もちょっとキツイかな」

 

「ーーレンヤ君」

 

「よお、楽しんでいるか?」

 

その時、ミツキさんとシオさんが歩いて来た。

 

「いえ、それは今からですね。 本当はすぐにでも帰ろうと思ったんですけど、せっかくですし」

 

「そうしておけ、この祭りを楽しまなきゃ損てもんだ」

 

「あなた達にもお世話になりましたし、どうか心ゆくまで杜宮にいてくださいね」

 

「あはは、ほんまおおきになぁ」

 

「ただ、お一つお聞きしたいことがあるのですが……構いませんか?」

 

「はい、分かることなら」

 

「では……7年前に海鳴市で起きた異界の事件はご存知ですか?」

 

7年前と言うと……闇の書事件の時に出たグリムグリードもどきのあれか。 確かにどこかの組織が情報を入手してもおかしくはないな。

 

「はい、確かに知っていますし俺達の手で解決しました」

 

「そうですか、何の前触れなく顕れたと思いきやすぐに収束した不審な事件だったんです。 ようやく納得しました」

 

「だとしても、その頃は10も満たないくらいのまだ子どもだろ。 よくグリムグリードに勝てたな」

 

「はは、相棒と仲間達のおかげですよ」

 

《ありがとうございます、マイマジェスティー》

 

「あら? それはAIでしたか。 ただの音声だと思っていました」

 

「これはユウキのやつが興味を示しようだな」

 

「あのメガネの子か……なんや言わへんほうが安全きもするなぁ」

 

「あはは、そうかもね」

 

軽い雑談をした後、2人は異界関係者に会いに行くと別れた。 その後も久しぶりに訪れた休暇みたいな感じで祭りを楽しんだ。 辺りを見渡しながら歩いていると、ライブが行われると思われるステージを見つけた。 その側にはリオンを含めたSPiKAのメンバーがいた。

 

「あ、ヤッホー、楽しんでいる?」

 

「うん、楽しんでいるよ!」

 

「そっちももうライブの準備は終わったの?」

 

「はい、もう準備万端ですよ」

 

「そういえば初めて会うけど……リオンの知り合いなの?」

 

「う、うん、実は私も今日知り合ったんだ」

 

「へえー……改めてよく見るとかなりの美人さん達だね」

 

「アキラちゃん、黒髪の人は男の人ですよ」

 

「そうなの? 私みたいにボーイッシュだと思ってた」

 

「あ、あはは……」

 

未だに女顔に見られるんだ……ちょっとショックだ。

 

「それにしても、その制服可愛いですね。 紅い色なんてのも珍しいですし」

 

「確かにそうね、あんまりこの辺りでは見たことのない制服だし……一体どこの高校なんですか?」

 

「え、えーっと……」

 

「ーー英国の士官学院だ。 一昨日帰国したんだけど、今日はこの催しもあって来てみたんだ」

 

口ごもるなのはより先に言い、なんとか誤魔化す。

 

「士官学院……今じゃあんまり聞かないわね」

 

「そ、それよりもステージ頑張ってくださいね! 私も応援してますから!」

 

「そやな! 私達も明日頑張なぁあかんし、応援しとるで」

 

「あら? あなた達もライブでもやるのかしら?」

 

「ライブと言うより演劇だな。 ステージという舞台は同じだけど、SPiKAには確実に劣るだろう」

 

「ふふっ、ステージの上では何をやるにしてもハートが大事ですよ。 激励の意を込めてこの後のステージもぜひ最後まで観て行ってくださいね」

 

「はい、楽しみにしてます」

 

その後、コウの祖父に会い両親について聞いてみたが。 どうやら夕闇ノ使徒を討伐する時が初めて会ったらしく、ほとんど何も知らないらしい。 それからSPiKAによるステージが始まり、歓喜の声を上げる。 さすがはプロと言ったところで、明日に劇をやる身としてはいい勉強になる。 ふと、視線を感じ上を向いてみると……そこにはレムがいた。 レムは俺に気付き、微笑むと消えていった。

 

その後ライブは熱狂に包まれながらも終わり、俺達はコウ達に別れを告げた後、転移魔法でまずは海鳴市に向かい。 そこから転送ポートでミッドチルダ本局、さらに本部に転移した後終電ギリギリのレールウェイでルキュウに向かった。

 

「何や大変な1日やったなぁ」

 

「劇の練習の帰りにいきなりの異界化だったからね、帰ったらまずは休みたいよ」

 

「でも、コウ達と友達になれたのは……本当に良かったと思うよ」

 

「ああ、そうだな。 まさか両親が夕闇ノ使徒に関わっていたとは思わなかったが、ようやく終わったわけか……」

 

まだまだ疑問もあるし、ミッドチルダの異界化は続いている。 それに裏から手を引くものや、空も……問題は山積みだな。

 


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