魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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今年最初の投稿です。 どうか今後ともによろしくお願いします。


105話

 

10月29日ーー

 

あれから瞬く間に時は過ぎて行き、異界化は全く起きていないとはいえないが以前よりは落ち着いており、ここ3ヶ月は充実した学院生活を送れていた。 ソフィーさんの言う通り、何人か異界対策課に派遣されたため、俺達の仕事の量は軽減されたのは1番有り難かった。 そしてまた訪れたこの時期、レルム魔導学院は第114回学院祭が始まろうとしており……俺達は1年のVII組をフォローしつつ自分達の出し物もやるため去年よりましてハードになっている。 それでも俺達は先輩や教官の力も借りて、今年も最高の学院祭にしようと準備を進めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜、皆お疲れ様!」

 

「クク、まあ何とか形になって何よりだぜ」

 

「ふう……とんでもない1ヶ月だったけど」

 

教室のブラックボードの前には俺とツァリそして……クー先輩がいて、今年の出し物の完成の労いを込めた感想を述べていた。

 

「ええ……まさかここまで大変とは思わなかったわ」

 

「ツァリって意外とスパルタだったのが驚いたけど」

 

「あはは、はんま別人やったんよ」

 

「ご、ごめん。 良いものにしなきゃって思ったらつい……」

 

「はは、気にするなって」

 

今年のVII組の出し物は1年と合同の劇となっており、劇の題名は“銀の意志、金の翼”……作品の舞台は西ゼムリア大陸南西部に位置する小国、リベール王国。 色々と簡略化されているし、最初は主人公の少女が兄弟同然に育った少年と別れる場面から始まるが……問題があるとすれば、この作中にはキスシーンがあるわけで……まあ、そこはどうにか捏造しているが、それでも中々の出来だと思っている。

 

それと……なぜクー先輩がここに居るのかと言うと、それは8月までに遡る。 どうやら2年時の単位をサボって幾つか落としたらしく。 卒業できないとテオ教官に泣きついた所、特例で3ヶ月ほどVII組に参加する事になった。 はっきり言ってどうしようもない理由だが、1年時に特別実習の試験導入に参加した実績もあるため手本として許可されたらしい。 今更そんなの必要ないとも思うが、クー先輩の実力は知っても居るわけで、あのマイペースなムードメーカーであっという間にクラスに馴染んでしまったわけだ。 劇に関してもとてもお世話になっている。

 

「それじぁあ、今日は予定通りに動こうとしよう」

 

「夕方に衣装や各自の分担の点検、舞台投影の空間シュミレーターの検査や軽いリハーサルがあるからな」

 

「それまでは学院祭の出し物や飾り付けなんかの手伝いをしようね」

 

「そうだね、明日は1日、リハーサルになりそうだし」

 

「それではまた後ほど」

 

皆が教室を出て行く中、俺とクー先輩とアリシアが残っていた。

 

「さてと、俺も生徒会の手伝いに行くか」

 

「おめえも物好きだよなぁ、もっと楽〜に生きられないのかねぇ?」

 

「クーさんは軽過ぎなんだよ、最初の出し物の提案だって無理あるよ」

 

「その方が面白いじゃんか、異界の材料を使った喫茶店なんか!」

 

異界にある素材にはたまに食べられる物もある。 ミードという甘くて複雑な香りを放つ蜂蜜や、サンエッグという太陽の恵みが凝縮された卵などがあり……これで菓子を作ってみたらそれはもう絶品になってしまったが、いかに美味かろうが異界の物を食べることには抵抗が出る。

 

「無茶言わないでくれよ、確かに美味いには美味いが無理あるって」

 

「ゲテ物じゃないけど、やっぱり無理だね」

 

「ちぇ、まあいいけどよ」

 

それから俺はフィアット会長から依頼をもらい、ほとんどいつもと同じ感じで依頼をこなした。

 

(あれから3ヶ月か……)

 

休憩がてらベンチに座って空を見上げて思いふける。 今でも十分忙しいが、それでもあの慌ただしさがずっと昔に感じてしまう。 もしくはこれが本来の形なのかもしれない。 市民の依頼を受けたり管理局の仕事をしたりするのが……

 

「ふう……」

 

「ーーなに溜息ついてんのよ」

 

「うわっ⁉︎」

 

横からアリサの顔がニュッと出てきて、驚きで思わず声を上げてしまう。

 

「そ、そこまで驚くことないんじゃないの?」

 

「ご、ごめん。 急に出てくるもんだから」

 

「アンタが気配が読めるのに油断してたのが悪いのよ」

 

ぐっ……そう言われるとなにも言い返せない。

 

「それで、会長の手伝いは終わったのかしら?」

 

「あ、ああ……後1つだけだ」

 

「なら私も手伝うわよ。 そろそろ集まる時間だし、遅刻されても困るわ」

 

「ありがとう、正直助かる」

 

手伝いをアリサと一緒に終わらせ、それから第2ドームに向かった。 第1ドームはI組が使用しているため、俺達VII組は去年と同じように第2ドームを使用している。 そして軽いリハーサルをしたのだが……ツァリのスパルタが発動してしまい、結局夜遅くまでやることになってしまった。

 

翌日、10月30日ーー

 

準備期間2日目の今日は、予定通り劇のリハーサルで潰れた。 通しの劇を何度も行い、ツァリが納得のいく出来になったのは日が落ちた頃だった。

 

「……結局今年もこうなったね」

 

「全く、ツァリがここまで伸ばすからだぞ」

 

「あはは、ごめんごめん」

 

「でも、納得のいく出来になったね」

 

「ええ、これならまた一位を取れそうね?」

 

「どうかな? I組や他のクラスも本気みたいだったし」

 

「私としては、学院祭自体が成功すれば別にええんやけどなぁ」

 

「……皆さん、元気ですね……」

 

1年は喋る体力がないのか、先ほどから静かだ。 正門でフィアット会長とグロリア先輩、そしてエテルナ先輩と鉢合わせし。 少し雑談した後、クー先輩と別れた。 気力が少し戻った1年と皆がわいわいと雑談しながら寮へと帰って行く。 そんな光景を見て、俺はふと思ってしまう。

 

(こうして皆と過ごすのも久しぶりだな。 考えたら、学院生活ももう半分過ぎているんだっけか。 こんな機会が、あと何回あるんだろうな……)

 

「……ま、一生の別れになるわけでもないし。 いつでも会えるか」

 

「どないしたんなや、レンヤ君?」

 

呟きが聞こえたのか、足を止めてなのはとフェイトとはやてが近寄って来た。

 

「ん? ああ、こんな楽しい行事が後2回だけだと思うとな……」

 

「にゃはは、そうだね。 ちょっと勿体無いかもしれないね」

 

「うん……でも、大丈夫だよ。 卒業したら、今度は私達がレルムに来ればいいんだから」

 

「そうだな、そんな簡単なこと……考えるまでもなかったな。 さて、明日も早いしはやめにーー」

 

チリィーーン……

 

唐突に、鈴の音が響いてきた。

 

「え……」

 

「今のは?」

 

「鈴の音……?」

 

どこか、レムが現れる時に鳴る音に似ているが……あれは鈴の音に近く、今のはどちらかと言うと風鈴に近い音だ。

 

その時、背後から異質な気配を感じた。 急いで振り返ると……そこには黒い狐面をつけた男の子がいた。

 

「お前は⁉︎」

 

「あの子は杜宮であった……!」

 

「なんでこないな場所に⁉︎」

 

「ーーお兄さん達、僕の世界ニ招待するよ。 おいで……オイデ」

 

ビキン‼︎

 

子どもの背後の空間がヒビ割れ広がっていき、ひし形の異質なゲートが顕現した。 子どもはそのままゲートに飛び込んで行った。

 

「くっ、こんな場所で……!」

 

「とにかく、今は安全を確保しないと。 アリサちゃん達を呼んでくる!」

 

「そうやな、すぐに収束させなあかん。 もしかしたら明日の学院祭にまで影響がおきかねんよ!」

 

「うん! 急いでーー」

 

なのはとフェイトがアリサ達を呼びに行こうとした時……ゲートの表面が揺らいだと思うと……突然手の形をした物体が飛び出してきた。

 

「なっ⁉︎」

 

「何……⁉︎」

 

「え……きゃあ!」

 

「な、なんなんや⁉︎」

 

「ーーレンヤァ……!」

 

突然の出来事に対処できず手に捕まり、俺達はそのままゲートに引き摺り込まれてしまった。 最後に見えたのはこちらに走って来るアリシア達の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ッ……………」

 

混濁した意識の中、硬く冷たい地面の感触で目が覚める。

 

「………ここは……? 俺は、一体……」

 

意識が覚醒し、思考が働き始め……自分がどうなったのか思い出し飛び上がった。

 

「ッ……皆!」

 

辺りを見渡すと、どこかの施設……と言うより軍が所有しているような場所だった。 ふと足元を見ると、なのは達が眠っていた。 寝息も安定しており怪我もない、どうやら無事のようだ。

 

「レゾナンスアーク、現在位置の特定はできるか」

 

《この空間は異界と酷使している為、特定不能です》

 

「そうか……」

 

ここが異界だとしても、随分と現実味のある異界だ。 まるで本来ある世界や街を模したような……

 

「うっ……ん……」

 

「……ここは?」

 

「私は……一体……」

 

その時、なのは達が目を覚ました。 状況が飲み込めず、辺りを見渡している。

 

「皆、大丈夫か?」

 

「レン君? ……そうだ、私達は……!」

 

「あの子はどこ⁉︎」

 

「落ち着け、今は冷静になれ」

 

「それに、ここは一体どこなんやろ?」

 

「場所は特定できないが、人がいるのは確かだ」

 

なのは達に手を貸して立ち上がらせ、それぞれ場所の特定や連絡が取れるか確認してみる。

 

「……ダメ、どこにも繋がらないよ」

 

「こっちもや、連絡がつかへん」

 

「それにしても……この異常自体、もしかして」

 

「ーー異界化(イクリプス)……しかも高ランクのグリムグリードが起こしている可能性が高いな」

 

「そんな……どうしていきなり」

 

「前兆はあった、俺達が初めて杜宮に来た時から……」

 

「ちゅうことはそんな前から異変が起きていたわけやな」

 

「だとしても、鍵を握っているのはあの狐面の男の子だね」

 

「先ずはサーチャーで辺りを確認しよう、街があれば誰かと会えるはず」

 

フェイトがサーチャーを飛ばすと、すぐに何かを見つけた。

 

「あ、すぐ近くに同い年くらいの少女がいるよ!」

 

「行ってみよう、何か分かるかもしれない」

 

「うん!」

 

「了解や」

 

その2人がいる場所まで歩いていくと……突然大きな音が聞こえてきた。

 

「なになに、何なの⁉︎」

 

「大変……さっきの2人が大きな人型の機械に襲われている!」

 

「なんやて!」

 

「急ぐぞ!」

 

急いで彼女達のいる場所まで走り、開けた場所に出ると……レイピアを持った少女が人型の機械と戦っていた。 もう1人の少女は後方に障壁に守られていた。

 

「あれは、落し子を依り代にした時に使っていた機械人形!」

 

「それって、3ヶ月前に顕れたっていうグリムグリードの……!」

 

「まさかそいつの仕業なんか⁉︎」

 

レイピアを持っている少女をよく見ると、身体中に金色の刺青のようなものが浮かび上がいて、かなりの魔力が発せられている。 おそらくあの刺青は何らかの術式かなにかで、魔力を貯蔵のために使用しているのだろう。 それと機械人形からも薄いモヤが発生しており、人の気配はせず妙な気配を感じる。

 

「氷迅の剣ーーアイシクル・ノヴァ‼︎」

 

お互いが突撃し、通過し合うと機械人形に氷の花が咲き、砕け散ると膝をついた。 だが少女にもダメージがあり膝をついた、そこへ障壁が維持できずに消え、もう1人の少女が近寄った。

 

「ふう、よかったの……」

 

「それにしても、なんや今のは……」

 

「あのレイピア……デバイスじゃないね」

 

「もしかすると、ここの異界関連の組織のーー」

 

その時、機械人形の4つの目が光ると……立ち上がり、2人の方を向いた。

 

「まずい!」

 

「ーーアスカ、シオリ‼︎」

 

今度は少年の声が聞こえてきた、その方向を見ると数人の男女が今ここに来たようだ。 短髪の少女がレイピアを持った少女に肩を貸して逃げようとするが……機械人形が前に来て剣を振り上げようとしていた。

 

「レンヤ君!」

 

「ああ、助かるぞ!」

 

「うん!」

 

「了解!」

 

バリアジャケットを纏う時間も惜しく。 デバイスだけを起動し、武器を構えると急いで機械人形に接近した。 フェイトとはやてが魔力弾を発射して剣を振り下ろさせず、その隙になのはと前に出る。

 

「やあああっ‼︎」

 

「はあああっ‼︎」

 

なのははレイジングハートをロッドモードにし、同時に機械人形の足に強烈な一撃を入れ。 さらにフェイトがバルディッシュをザンバーフォームに変え、はやてはシュベルトクロイツの先端に魔力を込める。

 

《ジェットザンバー》

 

「奔れ、銀の流星!」

 

フェイトは飛び上がって大剣は振りかぶり、はやては杖の先端から白い魔力刃を伸ばし……

 

「貫け、雷神!」

 

「アガートラム!」

 

吹き飛ばすように斬り裂き、その衝撃で機械人形は倒れ、完全に沈黙した。

 

「ふう……」

 

「なんとかなったね」

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

「えっと……?」

 

「あなた達は……」

 

2人が困惑する中、俺は怪我をしているも少女に軽く治癒魔法をかけて負担を軽くした。

 

「あ……痛みが……」

 

「こちらもあんまり状況が飲み込めていないんだ。 できれば情報交換お願いできるか?」

 

「……ごめんなさい、私もまだ何も……」

 

「そうですか……」

 

「ーーアスカ、シオリ!」

 

先ほどの人達がこちらに向かって走ってきた。 よく見るとほとんどがどこかの学生服を着ている。

 

(いや、あの制服は確か……)

 

「あの人達、誰でしょうか?」

 

「紅い制服……どこかの学生みてえだな」

 

「10式を倒している時点で一般人じゃなさそうだけど」

 

「彼は……」

 

「あれ? あの子達ってまえにどこかで会ったようなーー」

 

チリィ……ン……

 

その時、あの風鈴の音が聞こえてきた。 機械人形の隣に紫色のモヤが発生すると……あの狐面の男の子が現れた。

 

「ぼクのオモチャ、壊さレちゃッタ………クスクス、カナシイ……」

 

まるで悲しそうには見えないが、男の子は2人の方を向いた。

 

「かワリに、もっと遊んデヨ。 お姉ちゃんーーシオリ」

 

「……ぇ……」

 

「ーーいけない!」

 

ビシ! バキ、ビキバキ……スー……

 

突如、空間にヒビが走り。 広がって行くと……更に異質なゲートが顕れた。 まるで今までのがエルダーグリード級だとすれば、これはグリムグリード級のような……

 

「くっ、コイツは……‼︎ アスカ、シオリィッ‼︎」

 

「コウちゃん‼︎」

 

「時坂君っ……‼︎」

 

パーカーを着た少年が叫び、慌てて近寄るが……異界は俺達も巻き込んみこみ、取り込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が収まり、目を開けるとそこは異界迷宮の中だった。 壁には紫色の模様があり、人体の骨のような柱が立っている。 通路を進むタイプの迷宮のようで、周りには異様な沼が広がっていた。 奥は複雑に絡み合っていて霧がかっており、まるで迷夢の境界のようだ。

 

「ッ……異界に取り込まれたか」

 

「あれ? 他の人達は?」

 

「……どうやら逸れてしもうたみたいやな」

 

「もしかしたら、奥にいるのかもしれないよ」

 

「なら、前に進むだけだ」

 

改めてバリアジャケットを纏い、刀を握り締める。

 

「皆、改めて力を貸してくれるか?」

 

「もちろん!」

 

「3ヶ月前の休みの分、きっちり働かせてもらうで!」

 

「うん……行こう、皆!」

 

最速で走り出し、迷宮の探索が開始された。

 

「……この異界、杜宮で見た異界と酷似しているな」

 

「うん、確かに似ているね」

 

「こんなトラップだらけやあらへんかったで!」

 

「脅威度は以前にも増している、気を付けて進もう」

 

なのは達と力を合わせ、想像以上に複雑で長大な迷宮を攻略し……最奥に辿り着いた。 その時、正面の空間にヒビが走り、赤い渦が巻き始めると……バッタの足のような形をしたハーピィ型のグリードが顕れた。

 

「顕れたね!」

 

「さしずめ、迷夢の番人やな」

 

「他の人は居ないみたいだけど……」

 

「カフカス=ケライノー……とにかく、今はこいつを倒すだけだ!」

 

カフカス=ケライノーは紫色に光ると飛び上がり、突進して来た。

 

《アクセルスマッシュ》

 

「はあっ!」

 

なのはは突進を避けると頭に向かって強烈な打撃を入れた。 その間にフェイトがスフィアを展開し、狙いを定める。

 

《プラズマランサー》

 

「ファイア!」

 

スフィアから槍の形状をした魔力弾が放たれ、カフカス=ケライノーの翼を射抜いた。 今度はその場で何度か羽ばき始め、竜巻が放たれた。 軽く避けようとするが、竜巻は曲がり追尾してきた。

 

「追尾型や!」

 

「くっ、流纏(ながれまと)い!」

 

刀を逆手に持ち、回転して竜巻を受け流した。

 

「今や、クラウソラス!」

 

白銀の剣状の魔力弾を発射したはやては、そのまま杖を構えて接近する。

 

「銀の隕石……アガートラム!」

 

魔力弾で弾幕を作って懐に入り、杖に魔力を纏ってカフカス=ケライノーの腹に打撃を入れて吹き飛ばした。

 

「これで……終わりだ!」

 

背後に先回りし、刀の先端から螺旋状に魔力を放射し……

 

《ゲイルスパイラル》

 

「せい!」

 

そのまま刀を突き出し、カフカス=ケライノーを貫いた。 カフカス=ケライノーは咆哮を上げると光り出し、そのままきえていった

 

「ふう、倒せたか」

 

「やったね」

 

武器をしまい、呼吸を整える。 だが、いつになっても異界は収束しなかった。

 

「おかしい……いつもならとっくに現実世界に戻れているはずだけど……」

 

「通常では考えられへん事態になっとんのは、確かのようやな」

 

「……仕方ない、来た道を引き返すしかーー」

 

ビキ‼︎

 

踵を返そうとした瞬間、聞き慣れた音が響くと奥の空間にヒビが走り……ひし形のゲートが顕れた。

 

「ま、またゲート⁉︎」

 

「……誘っているね」

 

「ああ、だが乗るしかないようだ」

 

「腹ぁくくるしかあらへんようやな」

 

俺達は顔を見合わせ、頷くと……目の前のゲートに飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉし、出たなぁーーって、うわわっ⁉︎」

 

「はやて!」

 

足を踏み外して落ちそうになったはやての手を掴み引き戻した。

 

「はあはあ……い、いきなりなんなんや?」

 

「これは……」

 

「すごい……!」

 

異界の中は歪んだ空の上のような迷宮……周りにはこのゲートの他に同種のゲートがいくつもあった。

 

「こんなにあのゲートが……」

 

「なるほど、そう言うことか」

 

「レンヤ、何か分かったの?」

 

「さっきの迷宮とこの迷宮の雰囲気は似ている、そして他のゲートの先に同種迷宮が存在しているとすれば……これら全てを合わせて一つ巨大な迷宮だった……そう考えれば納得がいく」

 

「そんなこと、ありえるんか?」

 

「分からない……だが、現に起きてしまっている」

 

「私達の想像を超えた事態になっているわけだね……」

 

その時、下の通路にあるまた異質なゲートからあの時の集団が出て来た。

 

「あ、無事だったんだね」

 

「私達も行こう」

 

「そやな、いい加減状況も聞きたいんよ」

 

ちょうど彼らも俺達に気付いたようだし……飛行魔法で飛び、彼らの前に降り立つ。

 

「な、なああああっ⁉︎」

 

「い、今飛びましたか⁉︎」

 

「それは後にして、そちらも無事のようですね」

 

「ああ、なんとかな」

 

「えっと……あなた達は一体……?」

 

「うーん、それなら……そこの白装束の彼が知っているはずなんだが」

 

俺はフードが外された白装束の人物を見る。

 

「初めて会った時、なのはみたいに仕事一筋みたいな感じだったんだけど……随分と顔に似合わないことをしていたんだな」

 

「……自覚はしているさ」

 

「おいジュン、知り合いなのか?」

 

「て言うかレン君! 私が仕事一筋ってどう言うこと⁉︎」

 

「フェイト同様に休みをあんまり取らないから、結構管理局で噂されたんぞ」

 

「う、嘘……」

 

驚愕する2人を置いといて、俺は長い銀髪の少女を見る。

 

「お久しぶりですね、ミツキさん。 こんな形で再開したくありませんでしたけど」

 

「ええ……本当に、そう思います」

 

「なんだ、知っていたのか?」

 

「以前、一度アクロスタワーでお会いしたのです。 その瞳に映る色は全く違いますけど」

 

「え、どう言うこと?」

 

「あはは……」

 

愛想笑いをして、目を閉じて聖王の力を少し解放してゆっくりと開ける。

 

「騙すつもりはなかったんですけどね」

 

「! 瞳に色が……!」

 

「紅玉と翡翠のオッドアイ……⁉︎」

 

「コホン、話が脱線したな。 俺は神崎 蓮也だ」

 

「私は八神 はやてや、以後よろしゅうな」

 

「うう……私は高町 なのはです、よろしくお願いします」

 

「フェイト・テスタロッサ、どうかよろしく」

 

「あ、ああ……俺は時坂 洸だ」

 

「柊 明日香よ」

 

「わ、私は郁島 空です!」

 

「四宮 祐樹、まあよろしく」

 

「高幡 志雄だ、よろしく頼む」

 

「改めてまして、北都 美月です。 どうかよろしくお願いします」

 

「皆のアイドル、SPiKAの久我山 璃音よ!」

 

「あはは……私は倉敷 栞です」

 

「俺は伊吹 遼太だ!」

 

「僕は小日向 純、あの時は済まなかったね」

 

「九重 永遠です。 講師をしています、よろしくね」

 

「佐伯 吾郎だ。 なるほど、あの機動殻(ヴァリアント・ギア)の送り先か」

 

自己紹介をして、改めてこの事態の詳細を聞いた。

 

「……なるほど、そっちも完全には把握してなのか」

 

「ああ、元凶があの子供だっての分かんだが……それ以外はなんも」

 

「結局、先に進まないと真実は見えないわけか」

 

「あなた達は、どうやってこの杜宮へ?」

 

「え、ここ杜宮だったの⁉︎」

 

「おいおい、そんなことも知らなかったのかよ」

 

「私達は帰る途中にあの狐面の男の子に無理やりゲートに引きずり込まれて、それで気付いたらアスカとシオリのいた場所に出たの」

 

「そうですか……」

 

「ま、結局この迷宮の奥に行かなぁあんのやな」

 

「……異界や怪異の事を知っているようだか、お前達は柊や北都とと似たような組織に属しているのか?」

 

「まあ、似たような感じかな。 彼らは時空管理局……細かい説明は省くけど、次元世界を行き来する力を持った組織だ」

 

「簡単に言えば公務員だな。 て言うか次元世界の行き来ってオルデンの騎士殿もできるだろう」

 

「僕のは道しるべを起点とした転送だから、そこまで自由に他の次元世界にはいけないからね」

 

「な、なんだかスケールがさらにデカくなったような……」

 

「これ以上は時間が取れない、後の話はこの事態を収束してからでも遅くはないだろう」

 

「そうですね」

 

俺達は迷宮の方を向き、コウ達は虚空からそれぞれ不思議な武器を取り出し。 俺達はデバイスを機動してバリアジャケットを纏い、武器を構える。

 

「ジュンと似たようなもんか」

 

「全然違うけど、俺達のことは魔導師とでも思ってくれ」

 

「魔導師ですって……⁉︎ 私の知る魔導師と似てはいるけど……」

 

「そこの詮索も後だ、行くぞ!」

 

「さあーー始めるとしようぜ!」

 

『おおおおっ‼︎』

 

コウ達と協力し、俺達4人は迷宮の探索を開始した。


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