魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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103話

 

 

7月4日ーー

 

本来なら学院を休んで調査をしたかったのだが、ここ最近働き詰めなのを指摘されてしまい、体休めのために今は学院にいるて普通に授業を受けていた。 アリサは各方面の連絡で、すずかはデバイスの調整で、アリシアは眷属の特定のためにここにはいなかった。

 

「レンヤ! 昨日のあの変な揺れってなんなの⁉︎」

 

「ツァリ、落ち着いてください」

 

遅れて気味に教室に入ると、ツァリがいきなり昨日の虚空震について質問してきた。

 

「授業で習ったことあるだろう、虚空震だ」

 

「虚空震やて? それって次元震の上位にあたるやつやんけ」

 

「もしかして、グリードが?」

 

「ああ、ちょっと異界に関わることでな。 昼頃には俺も学院を早退する予定だ」

 

「俺達も手伝えないのか?」

 

「案件がかなりデカくてな、学生では首を出せないレベルだ。 なのは達の方にも通達は来たな?」

 

「う、うん……でも、本当にレンヤ君達だけで大丈夫なの?」

 

「敗北の可能性は否定できないな。 その場合はなのは、フェイト、はやてにも出てもらうがーー」

 

「じょ、冗談でもそんなこと言わないで!」

 

フェイトが珍しく声を上げた。 皆もかなりビックリしている。

 

「……ごめん、だが……予断を許されない状況なのは確かだ。 このミッドチルダを東亰と同じ目に合わせたくない」

 

「レンヤ君……」

 

「開始は午後からだ、それまでは学生でいるさ」

 

「………………」

 

やっぱりシェルティスが納得していない顔をしているな。

 

「心配するな、これでもそれなりの修羅場はくぐってきたんだ、そう簡単にやられはしない」

 

「……そやな、アリサちゃん達もおるんやし」

 

「先ずは、自分達のできる事をちゃんとやろう」

 

「うん、そうだね」

 

「ーーおはようさん、今日は何人かいないし早退するが……まあ、気にしなくていい」

 

テオ教官が教室に入って来て、それからいつも通りの授業が行われた。 つつがなく授業も進み、昼休みになるとなのは達と早退し。 サーシャとも合流して車で本部に向かった。

 

到着すると3人と別れ、異界対策課に向かうと……中はかなりごたついていた。

 

「ああ、レンヤ君にサーシャちゃん……! きて早々悪いけどアリサちゃん手伝ってくれる? 地上と本局の連携が取れていないみたいで……」

 

「相変わらずこんな時でも仲が悪いな、地上の方の部隊は大丈夫か?」

 

「ゲンヤとグランダムがまとめてくれているから大丈夫だ」

 

「あ、皆集まっているね」

 

ドアが開けられてアリシアが室内に入って来た。

 

「アリシア、居場所を特定できたのか?」

 

「うん。 クラナガン中央ターミナル……そこに夕闇の眷属がいるはずだよ」

 

「確かに、そこを中心にして各地の属性の暴走が起きていたと考えれば筋は通るね」

 

「はい、間違いなさそうです!」

 

「うんうん……! ビンゴって感じだよ!」

 

「でも、あそこのどこに元凶が潜んでいるのかしら?」

 

「確かにそうですね、毎日人がいっぱいですごく開発されていますし……」

 

「それはね……地下鉄よりさらに下にある地下道、元凶はそこにいるよ」

 

「根拠はあるの、アリシアちゃん?」

 

「1年の時の特別実習で地下鉄に行ったでしょ? その時、地脈浸点の奥底から嫌な気配は感じたんだ。 だけど……その後調べに行ったんだけど何の気配も手がかりも見つからなくてね。 隠れたのか、それとも隠されたのかどうかは知らないけど……今朝調べに行った時は、確実に何かいるって分かったよ」

 

「……そうか」

 

隠された、か……もしかして、あの時の人影が……いや、そんなはずはない。 あの人がそんな事するはずがない。

 

「まだ確認できていない属性は鋼と影……そのうちの鋼は地を意味する属性でもある。 属性の暴走という意味でも、かなり有力な情報だ」

 

「決まりだね。 さっそく皆で中央ターミナルに行こう」

 

「はい!」

 

目的地が決定し、すぐさま車に乗り込み、急いで中央ターミナルに向かった。

 

「……着きましたね」

 

「人通りはいつも通り……おかしな気配もしないわね」

 

「見回したら限り……怪しい人影も見当たらないね」

 

「皆こっちだよ、ここからーー」

 

ドックン‼︎

 

アリシアが誘導しようとした時、虚空震が発生した。

 

「い、今のって……!」

 

「くっ……また虚空震か!」

 

「うん……かなり微弱だけど間違いなく虚空震だよ!」

 

「! 皆さん、あれ……‼︎」

 

ルーテシアが叫ぶと、この広場に建っている4つのオブジェクトが不気味に光り始めた。

 

「オブジェクトが……ゲートみたいに光っている⁉︎」

 

「……私達以外は気付いていなさそうですけど……」

 

「ッ……とにかく地下鉄に行きましょう!」

 

中央ターミナルに入り、改札を急いで抜けて地下に向かうと、そこには下から上へ

 

「これって……」

 

「どうやら地下から漏れ出た力がオブジェクトに伝わっていたようだな」

 

「(ゴクッ……)それにしても凄いエネルギーですね」

 

「元凶の力がうかがい知れるよ」

 

そしてさらに地下に向かい入り口の前に到着し、アリシアがメイフォンで反応を調べた。

 

「かなり強い反応……間違いない、ここだよ。 フォーチュンドロップ」

 

《アンロック》

 

確認を終えると扉に手をかざし、ロックを解除した。

 

「この先に……」

 

「うん、元凶が潜んでいるばすだよ」

 

「行きましょう……皆、気を引き締めて」

 

「は、はい!」

 

中に入り、さらに下に向かうと……急に空気が変わり、夏にもかかわらず嫌な寒気がする。

 

「うう……なんかゾクゾクします……」

 

(コクン)

 

「ええ……正直ゾッとしないわね」

 

「そろそろオブジェクトの真下ですかね?」

 

「そうだね……かなり近いよ」

 

最奥に辿り着き、そこにあったのは……

 

「きゃっ……⁉︎」

 

「こ、この禍々しい気配は……」

 

「……どうやらあの奥から漏れ出ているようだな」

 

異様な気配を出す、以前見たグリムグリードが顕れた時と同じ形をした黒いゲートだった。 漏れ出た禍々しい力が肌で直に感じられる。

 

「な、何ですか、あれ……あれもゲートなの⁉︎」

 

「うん……そのようだね。 まるで魔そのものが口を開けているような……」

 

「まさしく胃袋の中に飛び込むわけか」

 

「笑えないな」

 

「…………微かに感じるね……禍々しい波導を。 間違いないよ……夕闇の使徒の眷属はこの先にいる……!」

 

「ふう、正念場ね」

 

「皆、準備はいいな?」

 

全員を見回して頷くのを確認し、俺達は異界迷宮に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲートを通過すると天井から血のような液体が流れ落ちて、下に貯まり泡を吹いている様はまさに煉獄のような異界迷宮だ。 壁は生きているように動いており、先ほどのラーグの言うとおりまさしく胃袋の中だ。

 

「な、なんですかこれ……生きているのですか……⁉︎」

 

「い、生き物の体内に飲み込まれたような……」

 

「血と肉……それに鋼の匂いね」

 

「さ、さすがにグロすぎます……!」

 

「まさか、ここまでの迷宮が現世に顕現するなんて……」

 

「うん……予想以上だね。 いったいどれほどのものが待ち受けているのか……」

 

「……今までと何も変わらない」

 

前を向き、それぞれデバイスを起動してバリアジャケットを纏い、武器を構える。

 

「この地で災厄を引き起こさせるわけにはいかない……行くぞ、皆!」

 

『おおっ……!』

 

元凶を止めるために、俺達は迷宮の探索を開始した。

 

「これは……まさに血の池地獄だな」

 

「落ちた者は、溺れてもがき苦しむていう……」

 

「そんな名前の温泉聞いたことあるわね」

 

「うう……見た目以上に匂いに耐えられないよ……」

 

「血の匂いか……慣れたくもねぇ」

 

「こんな所は一刻も早く抜けよう!」

 

迷宮を駆け抜け、中間地点に差し掛かり階段を降りている途中……

 

ドックン‼︎

 

また、先ほどより強い虚空震が発生した。

 

「くっ、今のは……!」

 

「また虚空震だね……」

 

「な、なんか揺れも段々大きくなっていませんか……⁉︎」

 

(コクン)

 

「どうやら……近付いているようだね」

 

「はい、奥から圧倒的な気配が感じられます!」

 

「……いよいよ時間も無くなってきましたようです」

 

「ええ……覚悟を決めましょう」

 

グリードを倒しながら走り続け……最奥に到着すると、目の前にある祭壇の上に禍々しい気配を放つ元凶がいた。

 

「ッ………‼︎」

 

それは丸い卵で、半透明な殻の中に入っていたのは人面の芋虫だった。 はっきり言ってかなり気色悪い外見をしている。

 

「な、なんですか……あれ……⁉︎」

 

「巨大な……卵……?」

 

「も、もしかしてアレが……」

 

「……そこにあるだけで全てに影響を及ぼすような、禍々しいほどの霊圧……間違いないよ!」

 

「あの中にいるのが……!」

 

「夕闇の使徒……その眷属……!」

 

「ーーその通りだ」

 

落ち着いた……それでいて厳か声が聞こえてきた。 この声は……!

 

「もっとも我々は落し子と呼んでいるが」

 

横にあった火が灯された台座の影から……騎士甲冑を身に纏った銀髪を結い上げた女性……ソフィーさんと反対側の台座から白装束を着た人物が現れた。

 

「ッ……ソフィーさん……! やっぱり見間違いじゃなかった!」

 

「え、何で⁉︎」

 

「それにあの白装束は……」

 

「刻印騎士、どうしてこんな所に⁉︎」

 

「ソエルちゃん、あの人を知っているの?」

 

「地球にある異界に関する組織の1つに聖霊教会と言うのがある。 そこの武装騎士団・刻印騎士団(クロノス=オルデン)の刻印騎士の1人だと思われるが……」

 

「……その通りだ、知っていながら随分と隠しているようだな、時空の守護獣よ」

 

「「………………」」

 

白装束から発せられた声は雑音が混ざっているように響いて聞こえる。 おそらく変声しているのだろう。 ラーグもソエルも事情は知っているが、そのまま黙っている。

 

「それで、どうして所属の違う2人がいるのですか?」

 

「ただ仲良くしている……わけじゃ無いわよね」

 

「あくまで仮初の盟約……一時的な協力者に過ぎない」

 

ルーテシアとアリサの質問に白装束が答え、踵を返し落し子の方に向く。

 

「ーー刻が惜しい。 さっそく始めるとしよう」

 

手をかざし、見た事ない形の魔法式が展開されると……落し子の真下に魔法陣が展開され、そこから禍々しい魔力が溢れ出し落し子に吸い込まれる。

 

「な、なに……⁉︎」

 

「ソフィーさん! 何をするつもりですか⁉︎」

 

白装束を止めようとするが……ソフィーさんが祭壇を降りて道を塞いだ。

 

「ーー悪いが邪魔をさせるわけにはいかない。 大人しくしてもらおうか?」

 

「くっ……」

 

「ぜ、全然隙がない……⁉︎」

 

「さすが、騎士団長を名乗っているだけはあるわね」

 

「…………やっぱり、そうだったんだね」

 

「アリシアちゃん?」

 

アリシアがソフィーさんを見て、何かを納得した。

 

「前々からおかしいと思っていたんだ、たとえ少なくてもどうして異界に関する資料が聖王教会にあったのかを。 さらに疑問に思ったのは首都地下にあった地下墓所に封印されていたグリード……そう、なんで異界の関わりが短いこの世界でグリードが()()されていたのか、それが以前から疑問だった。 今のソフィーさんを見てようやく合点がついたけど」

 

「あ……」

 

「確かに……」

 

「おそらく1年前にここを隠蔽したのもソフィーさん達でしょう? 1日で消えるなんてあり得ないよ」

 

「……ふふ、そうだ。 なかなかいい観察と推理だ」

 

「ならソフィーさん、改めて名乗ってくれませんか?」

 

「ああ、それはーー」

 

と、そこで何かに気がつき……ソフィーさんは少し後ろに下がった。

 

「……話は後のようだな。 折角だ、そいつの相手はお前達に任せるとしよう」

 

「なにを……」

 

ゴゴゴゴゴゴ……

 

突然、地震……いや、地中を何かが動き回っている……!

 

「しまった……⁉︎」

 

「下です!」

 

地面を砕いて現れたのは、口が4つに割れた一本角の龍だった。 首だけが地上に出ており、全長が計り知れない大きさだ。

 

「りゅ、龍……⁉︎」

 

地龍の怪異(ヨルムンガンド)……!」

 

「鋼属性の暴走の産物のようだね……!」

 

「存分に見せてもらおう。 このミッドチルダの異界に関わり5年……それがどれほどのものかをな……!」

 

「くっ……速攻で倒してあの儀式を食い止める! 全力で行くぞ……皆!」

 

『おおっ‼︎』

 

グアアアアアッ‼︎

 

ヨルムンガンドが咆哮を上げ、襲いかかってきた。

 

「えい!」

 

サーシャが輪刀を前に出し、弾いて防いだ。

 

「ソーマ君!」

 

「了解!」

 

弾かれ怯んだヨルムンガンドの顔面にソーマが剣を振り下ろしさらに揺さぶった。

 

「今だよ、ガリュー!」

 

(バッ……!)

 

《ファースト、セカンドギア……ドライブ》

 

「しっ!」

 

ルーテシアがガリューに指示を出し、ガリューと共に飛び出したが……

 

(⁉︎)

 

「ちっ……!」

 

ヨルムンガンドは地中に潜り、振られた刀は空をきった。

 

「うわっ⁉︎」

 

「きゃあ⁉︎」

 

ソーマとサーシャの足元まで潜り、真下から飛び出してきた。 2人は驚きながらも何とか回避した。

 

《オールギア……ドライブ》

 

落月爪(らくげつそう)!」

 

すずかが遠心力を利用して槍を振り下ろすが、すぐさま地中に潜り、槍は地面にぶつかり空振りになった。

 

「ちょこまかと……!」

 

「モグラ叩きみたいだね」

 

「そんなのに付き合う暇はない!」

 

次に出てきたヨルムンガンドは首を振り返り、顔面で叩きつけてきた。

 

「この……フレイムアイズ!」

 

《ロードカートリッジ》

 

灼光拳(しゃっこうけん)!」

 

膨れ上がった魔力で身体能力を強化し、振り下ろされた首を鷲掴みにして受け止め、そのまま叩きつけると同時に炎を炸裂させヨルムンガンドを爆砕した。

 

「まだまだ! 爆握撃(ばくあくげき)……!」

 

「! だめアリサ! 早く離れて!」

 

アリシアが叫ぶが、ヨルムンガンドはその場で回転しアリサを引き剥がし、そのまま首を振り回して周囲を薙ぎ払った。

 

「きゃああっ!」

 

「アリサ!」

 

「この!」

 

《ミスティアーク》

 

アリシアが牽制のため双銃で扇状に魔力弾を連射するが、続けて振り回されている首で弾かれてしまう。 ヨルムンガンドはそのまま上から岩石を降らせてきた。

 

「きゃあ!」

 

「この……!」

 

「なら……!」

 

《シャープエッジ》

 

アリサ達が岩石を避ける中。 虚空を使い、振り回されている首と落ちてくる岩石を避けてギリギリまで近付き。 斬れ味を魔法で上げ、さらに斬りたい場所に刀を固定すると、ヨルムンガンド自身から当たりに来て額を斬り裂いた。 その攻撃によりヨルムンガンドは体勢を崩し、首から下が飛び出しながら倒れる。

 

「うわ、まだ体が埋まっているの⁉︎」

 

「そんなの関係ないよ! スターバインド!」

 

ルーテシアがヨルムンガンドの首の各所に星型の障壁を展開し、動きを封じた。

 

「よし! 外力系衝剄……針剄!」

 

動きが止まった隙に、ソーマが衝剄を針のように凝縮して放ち、ヨルムンガンドに針が突き刺さると体が硬直し始めた。

 

「今だよ、レンヤ!」

 

「斬り裂きなさい!」

 

「ああっ!」

 

《サードギア……ドライブ》

 

風塵三颯(ふうじんさんせつ)!」

 

刀身に埋め込まれた3つ目のギアが回転し、ヨルムンガンドに刀身による斬撃、技によって放たれた鋭い鎌風、魔力斬撃の3つが合わさり一陣の風となって放った。 額から3方向に斬撃が走り、拘束を壊しながら風が走り抜ける。

 

ヨルムンガンドは解放されたと同時にのたうち回り、断末魔を上げながら塵と消えていった。

 

「くっ、手こずった……!」

 

「はあ、はあ……!」

 

「な、何とか倒せましたけど……!」

 

「ッ……時間がかかり過ぎたわ……」

 

「ふふ、予想以上にやるな。 だが……時間切れのようだ」

 

「……‼︎」

 

「……ぁ……」

 

その時、祭壇にいた白装束が儀式をやめ手を下ろした。

 

「ーー完了だ」

 

その言葉と共に魔法陣からさらに禍々しい魔力が溢れ出す。

 

「しまった……!」

 

「ッ……やめろおおっ!」

 

魔力が溢れ、殻にヒビが走り卵が音を立てて割れた。 出てきた落し子は開眼と同時に君悪く叫んだ。

 

「……ひっ……」

 

「ああああっ……⁉︎」

 

「あ、あれが落し子……!」

 

「な、何てことを……!」

 

「あんた達……!」

 

「よくも!」

 

2人の所業にアリサ達は怒りを露わにする。 だが、俺は今もソフィーさんがこんな事をする人ではないと思っている、何か裏が……その時、背後から人の気配を感じた。

 

「! 待て、これは……!」

 

「この気配は……!」

 

その前に、ソフィーさんが大きな声を上げた。

 

「ーー第一段階完了……これより、第ニ段階に移行する!」

 

『はっ!』

 

背後から騎士甲冑をきた騎士と……深緑のコートを着て武装した集団が俺達の横を通りすぎて、落し子に向かって走って行った。

 

「この人達……」

 

「あれは……!」

 

「騎士団の皆⁉︎」

 

「それにあれは……ヘインダール教導傭兵団⁉︎」

 

「どうしてここに……」

 

2つの集団は落し子の前に来るとデバイスを向けた。 ソフィーさんが合図を出すと一斉に攻撃を開始した。 落し子が苦しむ中、白装束が同じように壁に魔法陣を展開した。

 

「来い……落し子よ!」

 

落し子は猛攻に耐えられず、展開された魔法陣に逃げ込み、転移された。

 

「転移された……!」

 

「い、一体なにがどうなっているの〜っ⁉︎」

 

(ポンポン)

 

パニック状態のルーテシアをガリューがなだめる。

 

「ここまでは計画通り……では、先に行くぞ」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

白装束はソフィーさんに一言入れると魔法陣に飛び込み転移して行った。

 

「第ニ段階に変更なし……これより最終作戦地点に向かう!」

 

『はっ!』

 

「え、えっと……」

 

「まさか、そんなことが……」

 

ソーマ達は未だに状況が飲み込めず、俺達4人はようやく理解できた。

 

「ーーそういう事だね。 ビックリしたけど、それならヘインダールがこのミッドチルダに来た理由も納得できる」

 

「そうさー、俺っち達はそのためにここに滞在してるさぁ」

 

いつの間にか横にヘインダール教導傭兵団の団長……カリブラ・ヘインダール・アストラがいた。

 

「久しぶりだな、カリブラ・ヘインダール・アストラ。 どうりで全然活動を見せなかったわけだ」

 

「け、結局どう言う意味なんですか⁉︎」

 

「ーー私達より遥か以前に異界に関わっている聖王教会の部隊だとして。 それに聖霊教会の依頼を受けて、ヘインダール教導傭兵団の協力を求めた……と言った所かな?」

 

「ふふ……そうだな」

 

アリシアの言葉に肯定し、マントを翻して俺達の方を向いた。

 

「ーー聖王教会・第零部隊ヴォルフ。 その指揮を第一部隊と兼任しているソフィー・ソーシェリー騎士団長だ。 改めて、よろしくお願いしようか? 異界対策課の諸君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未だ不審に思いながらも異界を脱出し、用意されていた飛行艇に乗り込もうとした時……

 

「カリブラ!」

 

リヴァンが現われ、カリブラに近付いた。

 

「ようやく見つけたぞ」

 

「よお、リヴァン。 久しぶりさぁ、一体何しに来たのさ?」

 

「しらばっくれるな、お前達が来て1年ほぼ活動続けていなかったのが今日いきなり動いたんだ。 ていうかベルカの教会騎士団長とレンヤ達ってどういう組み合わせだ」

 

「それは……」

 

「時間が惜しい、お前も来るなら早く乗れ」

 

ソフィーさんが乗り込むと、飛空挺の駆動音が上がった。 慌てて飛行艇に乗り込むと、すぐに離陸し北に向かって飛翔した。

 

「………………」

 

ソフィーさんは念話で部隊の指示を出していた。 念話を終えると腕を組みこちらに向いた。

 

「あの、ソーシェリーさん……」

 

「ソフィーで構わんよ。 サーシャと言ったな、君の疑問に答えよう……それはお前達も知りたいだろうからな」

 

「……はい」

 

「ーー30年ほど前、聖王教会はこの地に起きた異変に誰よりもいち早く気付いた。 かつての騎士達はこれに対抗し、何度も傷付いた。 そしてそれからすぐにある組織が教会とコンタクトを取った」

 

「もしかして、それが……」

 

「ああ、聖霊教会だ。 あちらから怪異に対抗する術を教授してもらい……第零部隊を結成、5年前まで平穏を保っていた」

 

5年前と言うと異界対策課が結成された年……

 

「もしかして、俺達が……」

 

「いや、遅かれ早かれいつかは暴かれると思っていた事だ。 むしろお前達に仕事を押し付けているようでもあるし、隠れ蓑をしているようで心を痛めた。 せめてお前達が居ない時や気づかれないで怪異を討伐していたが」

 

「なるほど……通りで以前から不自然に開いたゲートがいくつもあったわけです」

 

「……そして、今回はで夕闇の使徒の落し子の討伐を1年前に聖霊教会に依頼されたのだ」

 

「なるほど、そういうことだったんだ」

 

「な、なんだかまだ頭が付いていけないないですけど……」

 

(コクン)

 

「結局、ソフィーさん達も元凶を退治しようと動いていたわけね」

 

「ああ、ミッドチルダでの予兆は我々が最初に掴んでいたからな。 お前達の活動を盾にしつつオルデンの協力で災厄の可能性を突き止め……さらにヘインダールの協力を要請し討伐のために動いていたわけだ。 もっとも、ヘインダールは随分と勝手してくれたようだがな」

 

「〜〜〜〜♪」

 

ソフィーさんが反対側にいるカリブラを睨みつけると、カリブラはどこ吹く風のようにそっぽを向いて口笛を吹いた。 恐らく次元会議の時の話だろう。

 

「くっ、こいつだけは……!」

 

「ま、まあまあ」

 

「とにかくそう言うことだ、先ほど管理局本局及び地上の両本部への極秘の通達をしたところ……最終的な決定権はお前達に預けられた」

 

「なら、俺から言えることはありません。 ここはソフィーさん達にお任せします、無策の俺達が落し子を確実に討伐できる保証はありませんし」

 

「そうか、感謝するぞ」

 

「ですが、もしもの事態が起きたら介入させてもらいますよ?」

 

「構わん、お前達の実力は我が隊と比べても上位に入る。 むしろ願ってもいない」

 

『第二演習場の上空に到着しました!』

 

そこで、飛行艇の操縦士から到着が通達された。 それと同時にソフィーさんの端末に通信が入った。

 

『魔力反応の増大を確認!』

 

『仕上げに入る……備えるがいい』

 

「了解だ……」

 

端末から隊員の声と白装束の声が聞こえてきた。 かなり緊迫しているようだ。

 

「最終段階に移行する! 第一小隊、出撃せよ!」

 

その指示の後、ベルカ領にある山を挟んだ場所に位置する第ニ演習場に到着した。 ここは山々に囲まれており、簡単には入れず隠れて事を行うのにうってつけの場所だ。

 

演習場を見下ろすと、中央に人型のロボットが膝をついて鎮座していた。 その周りには教会騎士団の団員達とヘインダールの団員が忙しなく動いていた。

 

「なんですか、あれ?」

 

「質量兵器のようですが……」

 

「ある場所から一機だけ買わせてもらったものだ。 そしてあれが、落し子を実体化させる器になるわけだ」

 

「なるほど、それなら確実に仕留められるね」

 

着陸している中、事が始まろうとした。 白装束が手を出して魔法陣を人型のロボットの足元に展開した、そこから落し子が上がってきた。 落し子は目の前にあったロボットを依り代して取り憑いた。 ロボットにすぐに変化が現れたの、ロボットから紫の魔力が溢れ出し、命を宿したかのように脈動する。 そして爆発するように禍々しい魔力が噴出した。

 

「! あれは……!」

 

「闇色の巨獣……」

 

「顕現した……!」

 

グオオオオッ‼︎

 

禍々しい魔力から四足の大型グリード現われ、咆哮を上げた。

 

「ーー実体化したか。 これでようやく片割れか……」

 

どこか疲れたように愚痴りながらも空に六芒星を描き……落し子の足元に魔法陣が展開されると落し子の圧力がかかり、落し子をその場に拘束した。

 

ようやく飛行艇が着陸し、演習場に飛び出すとソフィーさんが口に端末を近付けた。

 

「攻撃開始……全力を尽くし、落し子を撃破せよ!」

 

『了解っ‼︎』

 

「こっちも気合いを入れるさぁ!」

 

『おおっ‼︎』

 

2人の合図で攻撃が始まり、魔力弾や剄弾が全力で……非殺傷設定を切って落し子を蜂の巣にした。 落し子が反撃して腕を振るうが当たらず、集中砲火が続いた。

 

「……これは……」

 

「す、凄い……」

 

「い、一方的ですよ……」

 

「………質量兵器も混ざっているわね。 本来なら効かないはずだけど……なるほど、そのための器ね」

 

「それに恐らく……弾丸も聖別されているね」

 

「かなり以前より準備されていたようだな」

 

「どう言うこと、ソエルちゃん、ラーグ君?」

 

「普通の物に霊的な力を付与することだ。 グリードには一応魔力攻撃以外にも聖樹から切り出された木刀なんかが効くからな」

 

「簡単に言えば銀弾みたいなものだね」

 

「……あうあう、出る幕がなさそうです」

 

「ああ、そのようだな」

 

「………………」

 

確かにこのまま続ければ落し子は力尽きるだろう。 その時、落し子が踏ん張って力を溜めていた。 そして、一瞬だけ目が輝く。

 

「マズイ……離れろ!」

 

「……⁉︎」

 

「ムッ……⁉︎」

 

落し子は後ろ足で立ち上がると、全体に紫の波動を放った。 その衝撃で周りにいた白装束、騎士団員、ヘインダールの団員が吹き飛ばされた。

 

「影属性の衝撃波……!」

 

「なんて強烈な……」

 

「! あれは……⁉︎」

 

落し子の足元に巨大ヒビが走り……今までに見た事がない巨大な黒いゲートが顕れた。

 

「ッ!」

 

「地面にゲートが⁉︎」

 

「逃げる気か!」

 

そして、落し子は沈むようにゲートに入って行った。

 

「くっ……異界に逃げ込まれたか。だが、逃がしはしない」

 

ソフィーさん慌てず、後ろに控えていた小隊に指示を出す。

 

「ヴォルフ第二小隊、これより追撃を開始する! 相手は手負いだ、油断せず一気に仕留める!」

 

『はっ‼︎』

 

「ーーソフィーさん、俺達も同行しますよ!」

 

俺達は急いでソフィーさん達に近付いた。

 

「約束通り、私達も行くわよ!」

 

「構いませんよね?」

 

「ああ、第二小隊は2波として私の次にーー」

 

「どうやら、そうは行かないようだ」

 

白装束が大きな白い大剣を転移して片手で掴むと、ゲート周囲からグリードが次々と出現して来た。

 

「えええっ⁉︎」

 

「どうしてグリードが!」

 

「元々この世界はあちらより怪異が現世に顕現し易いのだ、ここは我々に任せて早く行け」

 

「俺ももしもの時のために残るぜ」

 

「わかった、頼んだぞ」

 

この場を白装束と騎士団、ヘインダールとラーグに任せ。 俺達はデバイスを起動してバリアジャケットを纏い、ゲートに向かって走った。

 

「先ずは道を切り開いてーー」

 

「! レンヤ、離れろ!」

 

魔力斬撃を放とうとした時、リヴァンに制せられると……上空から無数の鋼糸が高速で降り注いで来た。

 

「っ⁉︎」

 

「これは……剄による鋼糸!」

 

「ってことはリヴァンが?」

 

「いや違う。 俺はここまでこの数の高密度で形成された鋼糸を一度に作れない」

 

「じゃあ、一体誰が……」

 

リヴァンは息を吸うと、大きな声で叫んだ。

 

「そこにいるんだろ! バカ師匠!」

 

「ーー相変わらず減らず口をたたくな」

 

ゲートを挟んだ反対側から人影が飛び出して来て、ゲートの一部の突起に乗った。 そこには、使い込まれた黒いロングコートを着た、ボサボサの黒髪の30代の男性がいた。 両手には白い鉄製の手袋のようなアームドデバイスを使っている。

 

「誰?」

 

「あのデバイスは……、」

 

「フォーレス・トゥインゴ。 ヘインダール教導傭兵団に所属している天剣授受者だ」

 

「そんで、俺の鋼糸の師であり前の保護責任者だ」

 

「ええっ⁉︎」

 

「この人が!」

 

失礼ながら、師はともかく保護責任者だと言うのは……あんまりそんなことをするような人には見えない。

 

「……あんたに会ったら聞きたいことがあったんだ」

 

「なんだ」

 

「なんで俺にその天剣の名、サーヴォレイドを俺に付けたんだ? そんなご大層な名前を付けられる覚えがないんだが」

 

「…………………」

 

「………ソーマさん、そうなんですか?」

 

「うん、天剣サーヴォレイド……前に紹介してもらった時はただの偶然だと思ったんだけど……」

 

「リヴァン、今はそんなことより落し子に……」

 

「なら行け、俺はここでグリードと相手しながらあいつと話す」

 

「ふん……」

 

リヴァンは弓を射て、フォーレスの背後にいたグリードを射抜くと跳躍し、フォーレスとぶつかり鍔迫り合いになってゲートから離れた。

 

「ああもう、勝手に来ておいて……!」

 

「それは後にしろ、早く行くぞ」

 

「は、はい!」

 

フォーレスによって切り開かれた道を通り、俺達はゲートに飛び込んで行った。

 

 


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