魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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102話

 

 

7月3日ーー

 

学院に通学する途中、ふと聞こえた学生達の会話に昨日起きた事件のことが聞こえた。 どうやら昨日の事件の数々が噂になっていたようだ。 なのは達にもかなりそのことについて聞かれた。そんなこともあったが、授業はつつがなく進んでいき、あっという間に放課後になった。

 

「それじゃあ、部活があるから」

 

「また後でね」

 

「ああ、寮でな」

 

皆が部活や用事で教室を出て行く。 その時、後ろからアリサとアリシアが近寄ってきた。

 

「……活動はないけど、私の方は気をつけておくわ。 何かあったら連絡するから」

 

「私も気になることがあったから、もしもの時は呼ぶからね」

 

「わかった、無理はするな。 それとあんまり気を張りすぎるなよ」

 

「ええ……分かったわ」

 

「それじゃあね」

 

俺も荷物をまとめて教室を後にした。 確かに昨日のことで気になる点もいくつかあったが、確証もないし今日は捜索はせずに経過待ちなので……今日は依頼を受けようと思う。

 

「えっと……良さそうなのは……」

 

メイフォンで依頼リストを見て、簡単な物を複数探す。 ふと、記念公園にある湖の貸しボート場の手伝いがあった。 あそこは以前に手伝ったこともあるし、昨日のホロスの予測から外れている場所だから念のための確認がてら行ってみることにした。

 

(なんか、こんな依頼を受けるのが当然のようになっている気が……)

 

ピロン、ピロン♪

 

「ん……? ホロスからの予測か?」

 

駅に向かう途中、カフェの前でホロスから異界化予測が届いた。 メイフォンを取り出してホロスの予測を見てみるが……どこか様子がおかしかった。

 

「この反応は一体……?」

 

「どうかしたの、レン君?」

 

「何かあったの?」

 

その時、なのはとフェイトがちょうど歩いてきた。

 

「さっき、ホロスが異界化らしき予測を出してな。 だが、何故か今までにな特異な反応をしているようで……」

 

「特異な反応?」

 

「反応が異常増大したと思ったらほとんどゼロになったり……何というか、明らかに奇妙だ」

 

「んん〜……? 確かに気になるね」

 

「場所はミッドチルダ北部、廃棄都市区画……一度、確かめたほうが良さそうだな。 危険予測値はそれほど高くないし、俺1人で大丈夫だろ」

 

「そう……」

 

心配そうな感じのなのはとフェイトだが……2人は顔を合わせて頷いた。

 

「なら、私達も付いていくね」

 

「いくら危険が無くっても、1人で行かせられないよ」

 

「なのは、フェイト……」

 

「行こう、レンヤ。 廃棄都市の反応を確かめに」

 

なのはとフェイトの言葉に、少し先走ったと思い返される。 昨日、ソフィーさんに言われたばかりなのに……

 

「……はは、そうだな。 この程度なら3人いれば余裕だろう……さっそく向かおう」

 

技術棟から車を取り出し、2人を連れて北部の廃棄都市区画に向かった。 反応を辿って真っ直ぐ向かい、廃ビルの中に入った。

 

「予測があったというのはこの場所だね。 特に変わった所はなさそうだけど……」

 

「レン君、どう?」

 

確認すると、メイフォンのサーチアプリには強い反応が正面から出ていた。

 

「……奇妙な反応はますます強まっているな。 やっぱりここに何かあるのは間違いない……サーチアプリを起動するぞ!」

 

メイフォンから波長を飛ばし……

 

ファン、ファン、ファン……スーー……

 

青いゲートが顕現した。

 

「ゲート……! 現れたね……!」

 

「……危険な気配がしないのに、やっぱり今までに感じたことのない反応だ……」

 

「一体この奥に、何があるんだろう……?」

 

「心の準備はできているよ……行こう、レンヤ、なのは!」

 

「ああ!」

 

「うん!」

 

俺達はゲートに向かって走り出し、異界に突入した。 潜り抜けると、そこには……

 

「え…………」

 

「………………」

 

「こ、これは………」

 

目の前にらは浮世絵離れした幻想的な景色が広がっていた。 場所は雲の上のようで明るい光りが漏れている。 辺りには大岩が浮いており、その上やこの場所にも桜似の木が花を咲かせていた。

 

「……ぁっ……………」

 

「………凄い……………」

 

「……綺麗……………」

 

まさしく言葉にできない光景だ。

 

「……何というか、言葉ないっ感じだよ。 私達、確かゲートを潜って来たはずだよね……?」

 

「……ああ、間違いない。 もしかすると、ここはーー」

 

『ーーフフ、君達だったか』

 

女の子の声が聞こえると、いきなり半透明な少女……異界の子、レムが現れた。

 

「久しぶりだね、君達。 いや、もう僕も抜かしちゃったようだし……こんにちは、お兄さん、お姉さん達」

 

「あなたは……!」

 

「レム……!」

 

「あれから5年も経っているのに、全然変わっていないよ……」

 

「まさかとは思うが……この異界はお前の仕業か?」

 

現れたにはそれなりの理由もあると思うし、傍観者をしているようだか、一応聞いてみた。

 

「いいや、今回僕は何も干渉していないよ。 ここは言うなれば、迷宮ではない異界……ザナドゥが持つ、もう一つの側面があるとも言える場所さ」

 

「迷宮ではない異界……?」

 

「異界のもう一つの側面……話に聞いたことがあるが。 そうか、本当にあったんだな」

 

「フフ、この地に……世界に呼び起こされたのはまったくの偶然だろうけどね。 念の為、様子を見に来たんだけど、これなら問題ないかな」

 

そのセリフはまるで、もうここから去るつもりということだ。

 

「あ……」

 

「レムちゃん⁉︎」

 

「待て、お前には色々聞きたいことが……!」

 

「フフ、それじゃあ。 ここには怪異(グリード)も徘徊はしていない。 しばらくすれば消えるだろうから、3人でゆっくりしていくといいーー」

 

それだけを言い残し、レムはあっという間に消えていった。

 

「ゆっくりして行ってて言われても……」

 

「ふう、まったく。 一体何をしに来たんだか」

 

「……でも、とりあえず、危険はないみたいだし一安心だね」

 

取り越し苦労な気もするが、だが……

 

「それにしても……ふふ。 こんな綺麗で、穏やかな異界もあったんだね……」

 

「うん……美しくて、現実離れしていて」

 

桃源郷(ザナドゥ)ーーそう名付けられた理由の一端が、なんとなく分かった気がするな」

 

「ふふ……確かに。 ありがとうね、レンヤ」

 

「え……」

 

「他の皆には悪いけど……おかげで綺麗なものが見られた気がする。 異界に関わっていなかったから……ううん、なのはやレンヤ、はやて達と出会ってなかったら、こんな場所に来ることなんて多分、なかったはずだし……」

 

「私も同じだよ、レン君と出会って、すずかちゃんとアリサちゃんと出会って、フェイトちゃんと出会って……色んな事があって、レン君と皆のおかげでここにいるんだと思うよ」

 

そう言われると、どうも照れ臭くなるが……

 

「……はは、そんなことないさ。 あの異界の子といい……謎めいた側面はいまだに多いが……俺も、なのは達と出会わなければ、今、ここに立っていなかったと思う。 だから……こちらこそ、礼を言わせてほしい」

 

「あはは……お互い様だね」

 

2人と向き合い、

 

「ーーこの先もきっと、色々あるんだろうが……なのはやフェイト達と一緒なら、もっと色々な光景を見られそうな気がするな」

 

「うん……これからも頑張ろうね、レンヤ」

 

「そうだね、VII組の皆と……異界対策課の皆と一緒に……!」

 

……しばらく経った後、異界は緩やかに消失した。 俺達は不思議な余韻に包まれながらもその場を後にし……駅前のカフェに戻ってから、静かに束の間の休息を楽しんだ。

 

その後、2人と別れ。 レールウェイで首都に向かい受諾した依頼を受けた。 ある程度終わらせたところで、記念公園に向かった。

 

「平日なのに結構賑わっているな。 さてーー」

 

「あれ、レンヤ君?」

 

後ろから声がかけられると、そこにははやてがいた。

 

「どないしたんや、こんな所で?」

 

「ちょっとな。 そこにある貸しボート場の手伝いをしにきたんだ」

 

「相変わらず異界関係あらへんのに手広くやってんなぁ。 もう異界対策課やのうて特務支援課に改名した方がええんとちゃう?」

 

「ほっとけ。 そういうはやてこそ、ここに何しに来たんだ?」

 

「私は休憩や。 ここ最近、異界やなくても忙しいからなぁ。 ふぅ……」

 

そういえばあそこのカフェの売っているコーヒーを持っている。 それにどことなく疲れている。

 

「大丈夫か……?」

 

「ううん、レンヤ君達ほど大したことあらへん。 今はできるだけのんびりするんよ。 レンヤ君もしっかり身体を休めなぁあかんで?」

 

疲れているのはお互い様だが、できれば息抜きでもできればいいんだが……ふと、湖のボートが目に入った。

 

(そうだな、だったら……)

 

「ーーはやて、よかったらあっちのボートに乗ってみないか?」

 

「え……」

 

「俺も手伝いを始める前にちょっと利用して様子を確かめたいっていうか……もちろん、はやてがよければだが」

 

「レンヤ君……あはは、願ってもないくらいや。 それじゃあ一緒に行ってみようか」

 

ボートを貸してもらい、一緒にボートに乗って湖に出た。 実際に漕いでみるとこれがなかなか難しい。

 

「うーん、やってみると結構漕ぐのも難しいんだな。 力加減を間違えると変な方向に進むし」

 

「そんなことあらへんよ、上手やで。 初めて乗ったけどなかなか楽しいなぁ。 このゆっくりとした揺れと水のせせらぎ、オールの軋む音……この陽気やし、気を抜いたら眠ってしまうかもせいへんなぁ」

 

「確かに……適当に漕いでいるから眠っていてもいいぞ?」

 

「え⁉︎ まさか私が寝とる間に何かやましいことを……」

 

「しません」

 

「そうやろうな……ちょっとは動揺してもええやろ……」

 

「何か言ったか?」

 

「何でもあらへん。 でも……おかげでいい息抜きになるなぁ」

 

今まで気が抜けていなかった風に言い、今は本当に肩の力が抜けている。 やっぱりまだ……

 

「……その、もしかして……まだ管理局であんなことが?」

 

「ん〜まあ、そうやなぁ……以前よりはマシになったんやけど、いかにも露骨にちょっかい出してくるのがたまに。 クイントさんやメガーヌさんに助けてもろうたのも度々……」

 

「それはなんと言うか……懲りないな」

 

「あはは、さすがに私もちょっとうんざりするんよ……」

 

はやてはため息をはいて、湖を見る。

 

「……でも、ある意味これも宿命なんやろうな。 私が夜天の主である限り切っても切り離せない……オーリスさんに以前言われたんやけど、結局逃れようのないことなんやろうな」

 

「はやて……」

 

「あ……ごめんな、愚痴を言ってもうて。 レンヤ君の前だとどうも弱気になってしまうんよ。 でも心配あらへんで、この罪はシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、リンスと一緒に背負って償うんしーー」

 

「ーーはやて」

 

はやての言葉を否定の意を込めて遮り、俺の偽りない考えを口にする。

 

「前にも言っただろ、幸せになっていいって。 はやてが罪を背負おうが何も変わらないし変えやしない。 辛くなったら手を伸ばせばいい、絶対に掴んでやるから……それが、仲間ってもんだろ?」

 

「ぁ……」

 

「管理局の仕事だろうが、相手の恨みや私怨だろうが……遠慮せずに相談……いや、こき使ってくれ、全力で手伝ってやる。 俺はもちろん、なのはも、フェイトも、アリサも……すずかやアリシアも、それにVII組の皆やテオ教官に異界対策課の皆だっている。 はやてだって夢に向かって頑張っているんだ、俺も頑張らないでどうするってもんだろ」

 

「…………あはは……そやな、シグナム達はもちろん、レンヤ君達もあるんや……ありがとな、レンヤ君。 なんだか頑張れる気ぃしてきたんよ。この程度の障害で遮られるようなヤワな夢やあらへん……負けてられんなぁ」

 

「はは、その意気だ。 頑張ろうな、はやて。 俺達が前に進むために」

 

「うん!」

 

その後……そろそろ時間が来たのに気づいた。

 

「おっと、そろそろボート小屋に戻ろう」

 

そう聞いてみるが、はやてから返事がなかった。

 

「? はやて……?」

 

「すう、すう……」

 

はやてはいつの間にか目を閉じて舟を漕いで寝ていた。

 

(はは、結局眠ったか。 はやても疲れているようだし、もう一周してから戻るか)

 

しばらくボートでゆっくりした後、はやてを起こした。 はやては眠ってしまったことを謝罪したがとくに咎めず、見送った後またボート小屋に向かった。

 

「あれ、君はさっきの……もしかして君が今日手伝ってくれる人だったわけ?」

 

「はいそうです……すみません、手伝う前に利用させてもらって」

 

「はは、まあ時間前だし、気にすることはないよ。 あんな美人と乗れるなんて羨ましいね、このこの」

 

「はは……」

 

「いや、でも助かるよ、外せない用事があってさ。 夕方の終了時間まで受付をお願いしたいんだ。 さっそく頼めるかな?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「本当かい? ありがとう! それじゃあよろしく頼んだよ」

 

用事で帰った係員と変わり、さっそく手伝いを始めた。

 

ボートや用具を点検しつつ、ボートを借りに来る人に対応していた。 とはいえ……

 

「………やっぱり暇だなぁ。 まあ平日だし、当たり前か……」

 

手伝いを始めてからボートを借りたのはラブラブなカップル1組だけだし。

 

(ま、最近忙しかったし、たまにこんなのんびりするのも悪くないかな。 はやても捜査に戻ったそうだし、頑張っているんだろうな)

 

チラリとボートを漕いでいるカップルを見る、呆れるほどラブラブだ。

 

(も、もしかしてさっきの俺達もあんな風に見られたのか……? ……いやいや、さすがにそれはないだろう。 まあいいか、あれが戻ったら備品のチェックでもーー)

 

ヒュウ……

 

その時、突然何かが来るの感じ、辺りを見回した。

 

「⁉︎ (なんだ、今の寒気は……)」

 

それからすぐに、異変がおきた。 湖の北側から魔力を感じると、水面が走るように氷結しだし……一瞬で湖が凍りついてしまった。

 

「な、何だ⁉︎」

 

「た、助けて〜!」

 

「待っていてください! 今、助けます!」

 

緊急時なので飛行魔法でボートで湖に出ていた人を救助した。 周りを見ると、もう騒ぎになっており人が集まっていた。

 

「異界対策課です、怪我はありませんか?」

 

「え、ええ……大丈夫よ」

 

「これってもしかして、異界が発生して……」

 

「それにはお答えできませんが……必ずこの異変を解決してみせます」

 

それから異界対策課全員に連絡を送り、凍った湖を見た。

 

(氷……やっぱり、あの法則が……)

 

「レンヤさん(君)!」

 

思考を巡らせている所に、ソーマとすずかが走ってきた。

 

「ほ、本当に湖が凍りついている……」

 

「……あり得ない光景だね」

 

「ソーマ、すずか……! 早く来てくれて良かった」

 

「ちょうど近くだったから。 アリサちゃんや他の皆もこっちに向かっているよ」

 

「でも、どんな被害に繋がるかも分かりませんし……僕達だけでも、先に調査を始めませんか⁉︎」

 

「ああ……まずは氷が最初に発生した湖の北側に行ってみよう。」

 

先ほど、魔力を感じた湖の北側に行き……チェーンで仕切られた場所にきた。

 

「湖の北側、ここから湖が凍り始めたようだが……」

 

「もしかして、その先に……?」

 

「……確かに他の場所よりも異界の反応が強いね。 ゲートを探るね」

 

「ああ、頼む」

 

すずかはメイフォンを取り出し、サーチアプリを起動する。

 

ファン、ファン、ファン……スー……

 

メイフォンから発せらた波長に反応して、赤いゲートが顕われた。

 

「あんなところに……!」

 

「アリサちゃんが到着するのはもう少しかかりそうだよ。 メールを送信した上で、私達だけでも先行しよう」

 

「了解だ……行くぞ!」

 

俺達は念の為、簡易的な結界を張り……ゲートを潜り抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲートを通過し、異界に入ると……そこは凍りついた水路を模した迷宮だった。

 

「さ、寒い……」

 

「この先に元凶がいるのは、間違いなさそうだね……」

 

デバイスを起動してバリアジャケットを纏い、武器を構えた。

 

「ーー時間が惜しい、俺達だけでやるぞ。 ソーマ、すずか! 気合いを入れて行くぞ!」

 

「はいっ!」

 

「行こう……!」

 

迷宮に突入して、探索が開始された。

 

「何もかも凍って……幻想的にすら思えますね」

 

「そうだね……空気も恐ろしく澄んでいるし」

 

バリアジャケットを着ていないソーマは直にこの温度を感じていた。

 

「(ぶるぶる……)くしゅんっ……!」

 

「大丈夫か、ソーマ?」

 

「す、すみません。 気合いを入れ直します!」

 

「でもこの冷気……長居はしていられないね」

 

すずかは氷結の魔力変換資質を持っているため寒いのは平気だが、やはりソーマをここに長時間居させるのは危険だな。 夏の蒸し暑さから冬の極寒にいきなり変わったようなものだ、体がついていけないはず。

 

急いで迷宮を駆け抜け、最奥に到着すると……目の前の空間に赤いヒビが走り、渦が巻き始めると……エルダーグリードが顕われた。 昨日と同種のようだが、属性が違う。

 

「出た……! エルダーグリードです!」

 

「やっぱり……霊属性の精霊(エレメンタル)……!」

 

「……E=セルシウス……こいつが湖を凍らせた元凶か……行くぞ、2人共!」

 

「了解だよ! ソーマ君もお願いするよ!」

 

「はい、受け継がれた天剣で……道を切り開きます……!」

 

E=セルシウスは素早く移動し、周りに浮いている小さな4つの氷を正面に向け、レーザーを発射した。

 

「レンヤ君、お願い!」

 

「ああ!」

 

《アバートレイ》

 

発射されたレーザーをすずかに向けて反射させ、すずかは向かって来たレーザーをスノーホワイトで受け止めるとその魔力を吸い取り3つのギアが急速に回転を始めた。

 

《魔導出力急上昇、オールギア強制駆動します》

 

「っ……さすが、ものすごい魔力量だよ」

 

「ーー行きます!」

 

レーザーを放射している間にソーマが接近し、剄を纏った剣で斬りかかった。

 

「負けていられないな……!」

 

《ソニックソー》

 

「疾突!」

 

刀に魔力を走らせ、突きを繰り出しながら一瞬で接近してE=セルシウスの体を貫く。

 

「ちっ、地面が凍ってかなり滑るな。 だが……」

 

完全に地面を踏み込んで、E=セルシウスを斬る。

 

「問題ないかな」

 

重心がほぼ完璧に安定していれば、どんな体勢からでも力の乗った斬撃が出せる。さらに追撃をかけようとしたら、E=セルシウスは周囲に青白い冷気を発生させてた。

 

「ぐうっ……!」

 

「ソーマ君!」

 

「だ、大丈夫です! まだ行けます!」

 

冷気がソーマの右手に直撃している、すずかが応急処置をしているが、あれではまともに剣を握れないだろう。

 

それを狙いE=セルシウスは青く光った後にソーマに向けて氷塊を上から落としてきた。

 

「せい!」

 

「やあ!」

 

落ちてきた氷塊を刀で斬り裂き、すずかが槍で粉々にして防いだ。

 

「行くよ……スノーホワイト!」

 

《ビルドアップ・エンデュランス》

 

「はああぁ……!」

 

すずかは体に身体防御魔法を付与し、一瞬でE=セルシウスの前に接近すると……地面が割れるほど踏み込み、槍を手の内で高速に回転させ……

 

破邪刃刺(はじゃじんし)!」

 

回転させた槍の威力を一点に凝縮した刺突はE=セルシウスをいとも簡単に貫いた。

 

「! 抜けない……!」

 

「すずか!」

 

あれを喰らってもまだE=セルシウスは健在だった。 E=セルシウスは青く光ると魔力を貯め始めた。

 

「させるーー」

 

「ーーはっ!」

 

助けようと一歩踏み出そうとした時、横から白い剣が飛来し、E=セルシウスに直撃すると剣は弾かれ上に舞い……

 

「うおおおおっ!」

 

そこにソーマが突然現れると剣を掴み、E=セルシウスの頭上に突き刺した。

 

「外力系衝剄……爆剄……!」

 

剣に剄を走らせE=セルシウスに流し込むと、体内で爆発した。 その勢いで槍が抜け、すずかはすぐさま後退する。

 

「うわっ!」

 

「おっと」

 

爆発で吹き飛ばされたソーマを受け止めた。

 

「まったく、無茶をするな」

 

「あ、あはは……上手く行ってよかったです」

 

「さっきのって転移魔法だよね。 あんなタイムラグもなくて一瞬で転移できるなんてすごいね」

 

「それにはーー」

 

その時、E=セルシウスは消滅と同時に爆発し、白い煙が辺りに充満する。

 

「うわっ⁉︎」

 

「っ……視界が……!」

 

「くっ……!」

 

その時、煙の中に誰かがいた。

 

(あれは……⁉︎)

 

誰なのか確認するため走り出したが、それと同時に異界が収束して行った。

 

現実世界に戻ると湖の氷は跡形もなく溶けており、寒さも感じなかった。

 

「やりましたね……!」

 

「うん、一件落着だね。 だけど……」

 

辺りを見回すが、先ほどの人影がどこにも見当たらなかった。

 

(今の人影は……)

 

「そういえばソーマ君。 さっき言いかけたことは?」

 

「ああ、はい。 この剣には刻印型の魔法式が刻んでありまして、任意で手を離したら込められた魔力で発動して一瞬で転移できるんです」

 

「刻印型って……それって魔力をかなり消費するやつだろ?」

 

「はい、でも使うのは一瞬だけでにすれば消費も少ないですし。 使う場面はさっきみたいに剣の位置に転移することと、剣を自分の手に転移するの2つだけですから」

 

「へえ、面白い発想だね」

 

「ーーレンヤ!」

 

その時、人混みの奥からアリサ達が走ってきた。

 

「アリサ、皆も……」

 

人混みをかき分けて来て、アリサは俺達がここにいることを理解し、力を抜いて息をはいた。

 

「えっと……一足遅かったかな?」

 

「うわぁ、本当にマンションの目の前です」

 

「結構騒がしいですけど……湖が凍ったのってホントですか?」

 

ルーテシアが氷一つ張っていない湖みて、疑問に思った。

 

「そうだよ、異界化が収束したらあっという間に溶けてね……」

 

「ーーあくまで異界の霊属性による氷結……特異点が消えたら、現実世界における影響を維持できなくなったんだわ」

 

「ま、そうなるよな……」

 

「ちなみに、エルダーグリードは霊属性を精霊(エレメンタル)だったよ」

 

「そう……やっぱり」

 

アリサ、俺、すずか、アリシアだけが事情を知っているが、残りの3人はまったくついていけてない。

 

「えっと、どういうことですか?」

 

「それって、以前教えてもらった異界で働いているあの法則のことですよね?」

 

「ええ……昨日から起きていた事件。 それらは異界の属性が現実世界で暴走したのが原因と考えて間違いないわ」

 

「焔、風、鋼、霊、そして影で構成される5属性……」

 

「エルダーグリードの特徴から見ても、この凍結現象は霊属性で間違いない」

 

「雑貨店で起きたのは風……レイヴンクロウのは焔になるね」

 

「な、なるほど、確かに昨日の小火もすぐに消えましたし……完全に一致していますね。 そうなると水道の凍結もそれが原因でしたか」

 

「う〜ん、なんとなく分かりますけど……どうしてそんなことが連続して起こっているのですか?」

 

「確かに……」

 

「……属性の暴走。 考えたくはないがーー」

 

「ひょっとするとーー」

 

この事件が連続して起こっているその理由を説明しようといた時……

 

ドックン……‼︎

 

全身が強い力で揺さぶられる感覚に陥った。

 

「これはっ……⁉︎」

 

「な、なんですか今の⁉︎」

 

「き、気持ち悪いです……」

 

「くっ、やっぱり……!」

 

「ーー気をつけなさい!」

 

それからすぐに、小規模ながらも地震が起きた。 この地震は数分続き……静かに収まってきた。 一般の人には最初の振動を感じておらず、収まると何事もなかったように歩き始めたり、雑談を交わし始めた。

 

「レ、レンヤさん……今のって……」

 

「……ここじゃ説明できないし、ソエル達に聞いた方が詳しい」

 

「そうだね、いったん異界対策課に戻ろう」

 

「は、はい」

 

「了解です」

 

後の処理を到着した管理局員に任せて、異界対策課に向かい……ラーグとソエルとアギトを交えて先ほどの現象について説明した。

 

虚空震(ホロウクエイク)……?」

 

「それが、さっき起きた揺れの名前か」

 

「それって……普通の地震とは違うんですか?」

 

「ああーー」

 

ラーグは虚空震についての詳細を説明した。

 

「時空間が振動する現象……」

 

「なるほど……確かに次元震と似ていますね」

 

「でも……そう言われると納得です。 まるで、周りの空間と一緒に、自分自身が揺らされたような……」

 

「ああ……あたしもここで同じ揺れを感じたが……一般人は感じられないんだよな?」

 

「そうだよ、認識できるのは異界と関わったことのある人と、魔力量がAランク相当の人だけ……管理局ではいきなり起きた原因不明の次元震として、発生の理由を解明しているようだけど……」

 

「そして……異界の世界においては最も恐れられる災厄の一つだよ」

 

ソエルが一言おいて、続きを言った。

 

「ーー神話級グリムグリードに引き起こされるという点についてね」

 

神話級……その言葉にソーマ達は驚愕する。

 

「それって……!」

 

「地球の異界事件記録にあったって言う……!」

 

「うん……10年前に、地球で引き起こされた、ね」

 

「10年前に観測された、直近かつ、史上最大の虚空震。 それが東亰冥災と言われるものだ」

 

続いてラーグがソエルと説明を引き継いだ。

 

「ーー夕闇ノ使徒。 元凶となった神話級グリムグリードは事件の後にそう命名された。 東亰全土の空を緋色に染めるほどの異界化を引き起こした存在。 その顕現と同時に、最大規模の虚空震が連続して発生し……そいつに誘発されて地震、竜巻、落雷、さらには寒波や瘴気までもが発生した……文字通り、東亰は混沌に包まれた」

 

「その後、異界に関わっている地球の勢力がこれを討伐したんだけど……それでも、3万人にも及ぶ犠牲は避けられなかった」

 

「そんな……」

 

「……本題はここからだよ」

 

暗い表情をしているソーマ達の心情は、理解できなくもないが……今は目の前の現状が危惧されている。

 

「今回起きている異界属性の暴走……東亰冥災の前兆として起きたものに酷似しているんだ」

 

アリシアの説明にまた驚愕するソーマ達。

 

「さっき起きた虚空震の規模は冥災の時のと数千分の一くらいだけど……」

 

「ロストロギア使用の確認がされてない以上、あれを引き起こした存在は……確実にこのミッドチルダに潜んでいるわ」

 

「! まさか……!」

 

「えっと……もしかして?」

 

サーシャとルーテシアは何かに気がついた。

 

「うん……恐らくその存在が、ミッドチルダに異界事件を発生させた元凶だと思う。 あまりにも強すぎる怪異は、存在するだけで災厄を引き寄せてしまうから……」

 

「あの……夕闇ノ使徒はもう討伐されたんですよね? なら、誰が事件を起こしていて……どこに居るのですか?」

 

「お、ソーマ。 いい質問だ」

 

「……居場所については、私が目星を付けているよ。 正体は……ある一つの仮説が成り立つかな」

 

「仮説……?」

 

「10年前に討伐されたグリムグリード、夕闇ノ使徒。 その眷属が生き残っている可能性があるのよ」

 

「け、眷属……」

 

「確か、グリムグリード級が配下に操っているエルダーグリードですよね?」

 

「ああそうだ。 だが、都市一つを壊滅しかけたグリムグリードの眷属となれば……事態は一刻を争うだろう」

 

「各方面にも非常通達を出すよ、もしもの時のためにいつでも市民を避難できるようにしないと」

 

「ああ、そっちの方は頼んだぞ」

 

「杜宮から来た飛び火、ちゃんと消さないとね」

 

「ううっ、入って間もないのにこんな重大な任務が来るなんて……」

 

「あはは、お互い頑張ろうね」

 

「よっしゃああ! 燃えて来たぜ!」

 

「アギト、あんまり突っ走らないでよね?」

 

「ふふっ……一緒に頑張ろうね、ガリュー?」

 

(コクン)

 

「なら、早く居場所を確認しないとね」

 

立ち上がり、異界対策課初めての重大ミッションを発令する。

 

「これより夕闇の使徒、その眷属の捜索及び討伐任務を開始する。 各自、入念に準備を整えておけ。 居場所が特定しだいすぐに出動する!」

 

『了解!』

 

 

 


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