魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

101 / 198
101話

 

 

【ーーーー、あんた王になる気は無いの?】

 

【私は……真の王になる資格はありません。 王位もありませんし】

 

【そんなことを聞いているんじゃない、私はあんたがどうしたいか聞いている】

 

【私は……】

 

【ま、別にどうでもいいのよ。 自分の舵の自分で取りなさい】

 

【それができれば、どれだけ楽か……!】

 

【そう……なら乗せればいいじゃない】

 

【え……】

 

【あんたが舵を取る船に誰でもいいから乗せなさい……そうすれば荒波も嵐も乗り越えられて、航路が見えるでしょ】

 

【…………………】

 

【あ、いた……おーい! ーーーーー、ーーーー!】

 

【はあ……そろそろ行くわよ、ーーーーとーーーが待っているわ】

 

【……はい!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ……‼︎」

 

目が覚め、飛び起きると心臓がバクバクしており、呼吸を整える。

 

「はあっ、はあっ………夢か……? なんで……いきなり……」

 

ここ最近、彼女の夢は見ていなかったのに……今になってどうして……? 部屋を見渡すとラーグとソエルはいなかった。

 

「……ソエル達は、もう出かけたか……」

 

コンコン

 

『レン君、起きている? レンくーん?』

 

ドアがノックされると、なのはが心配そうな声で呼び掛けてきた。

 

「あ、ああ、大丈夫だ。 すぐに行く」

 

時計を見るといつも起床する時刻をとうに過ぎていた、さすがになのはも心配するか。 手早く制服に着替えて部屋を出る。

 

「おはよう、レン君。 珍しいね、寝坊なんて」

 

「ごめん、寝過ごしちまった」

 

「もう、最近異界対策課が忙しいのはわかるけど、ちゃんと寝ないとーー」

 

と、その時なのはは俺の表情が悪いのに気付く。

 

「……どうしたの? 顔色が悪いよ?」

 

「いや……ちょっと夢見が悪くてな」

 

「あ……その、ごめん」

 

「謝らなくていい、時々夢で出でくるだけだし……それよりも早く学院に行こう、このままだと遅刻するぞ」

 

「う、うん!」

 

頭を切り替えて、なのはと一緒に学院に向かって走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月2日ーー

 

梅雨も明け、今年も本格的に夏が到来しつつあった。 俺達はいつも通りに学院生活をしつつも、日に日に活発化する異界の対処に追われていた。 とくに空にいるイレイザーズ……確かに俺達がすぐさま対処できない案件を解決しているが……その数は少なく、その活動は一般市民からも問題視されていた。

 

しかし、それとは別にいいニュースもあった。 エテルナ先輩の休学が明けたのだ。 これにはサーシャも一役かっており、手に入れた情報を盾にしてようやくレグナム家は圧力から解放されたのだ。

 

そして現在、4限目ーー

 

今の時間は軍事訓練の授業だ。 今日の内容はデバイスがない場合の対処法や部分的な防御魔法の使い方で、なのはとフェイトいわく……訓練校と同じ内容だが、ハードルはかなり上っているらしい。

 

「ほらほら、遅えぞ。 さっさと降りろ」

 

「い、一歩間違えれば手が裂けますよ⁉︎」

 

訓練場でワイヤーでラペリングをする訓練をしており、今はツァリが怖がっているのをテオ教官が急かしていた。

 

「そのための訓練だろ、ちゃんと手だけに魔力を集めればどうにかなる」

 

「さすがに大雑把過ぎですよ……」

 

「しょうがないなぁ……」

 

テオ教官が手を魔力でコーティングすると、ワイヤーに向かって軽く飛んで掴み、火花を散らしながら地に立った。 おそらく手本を見せたのだろう。

 

「こんな感じで大丈夫だって、ワイヤーに触れるのは手だけだぞ、体が切れちまうからな」

 

「やっぱりダメじゃないですか⁉︎」

 

「まあまあツァリ君、まずはゆっくり降りていこう」

 

すずかに指導されつつ、ツァリはゆっくりと降りていく。

 

「さて、俺達も続けるとするか」

 

「そうだね、次もぼくが勝つけど」

 

「何だと〜?」

 

リヴァンとシェルティスがまたいがみ合っている。

 

「おめえらもさっさと次行け! あっちでウォールアクトだ! 早く行かないと魔力負荷バンド強くするぞ!」

 

「は、はい!」

 

「それだけはいやや!」

 

アリシアやはやてはすぐさま動いてウォールアクトを行う。 だが、余裕があるようで息があまり上がっていなかった。

 

「にゃはは、軽口言えるだけ成長したんだね」

 

「はやてはそうだが……フェイト、ちょっと体力落ちたか?」

 

「え⁉︎ ええっと……それは……」

 

「執務官は基本デスクワークだからね。 自主的に鍛えないとそりゃ落ちるよ」

 

「ふむ、でしたら朝に一緒にランニングでもどうでしょう。 よく週3でレンヤと走っていますし」

 

「そういえば……最近忙しいから疎かになっていたけど……なのはちゃんも確か続かけているんだよね?」

 

「もちろん! 継続は大事だし、それに……」

 

なのはがそこで顔を赤らめて俺のほうをちらちらと見てきた。

 

「? どうかしたか?」

 

「ううん、何でもないよ」

 

「ううっ……私も参加したいけど……」

 

「忙しいからね」

 

フェイトが何やら落ち込んでいたが、それからも授業が進み……それから放課後になった。

 

「前々から思っていたんだけど……レンヤ達が前にチーム・ザナドゥで活動していたよね? その、ザナドゥってなんなのかな?」

 

授業も終わり、教室でVII組のメンバーと雑談していた時、フェイトが唐突にそんな質問をしてきた。

 

「ああ、それね。 ラーグが教えてくれたのをそのまま使っていたのよ」

 

XANADU(ザナドゥ)……ある組織の創始者が命名した迷宮の呼び名だ」

 

「理想郷や桃源郷の意味で使われているけど……裏では、異界の迷宮の通称として使われているんだよ」

 

「う、裏……」

 

「確か、地球に異界に対抗する組織がいくつかあったんだよね? もしかして、そこから?」

 

「さあね、ラーグとソエルも多くは語らないし。 前に杜宮市に行っても何にも見つからなかったし」

 

「去年の夏季休暇の時やな」

 

ピリリリリ、ピリリリリ……

 

その時、メイフォンが鳴り始めた。 取り出して見て見ると……“ホロス”が反応を示していた。

 

「そのアプリは?」

 

「サーシャが作った異界化予測AIホロス……ネット上の無数のデータを統合して算出しているの。 これが作られたおかげで大分楽になったのも事実だし、完璧じゃないけど信頼できる情報源になったんだ」

 

「ほ、ほんまかいな。 それが本当にだったら神様アプリ以上や」

 

「ま、あの子自身も驚いていたわ」

 

「それはそれでおかしいような……」

 

「サーシャならあり得るかもな」

 

『ーーサーチ完了。 ミッドチルダ内・計6箇所ニ異界化ノ発生を予測』

 

サーチが終わりホロスが異界化予測地点を表示したが……

 

「ろ、6ヶ所も……⁉︎」

 

「えっと、これ全部が異界化の発生する場所なのかな?」

 

「いいえ、あくまで予測よ。 でも……確かにこの数は多いわね」

 

「もしかして、アプリの誤認でしょうか?」

 

「ううん……これがミッドチルダの現状なんだよ。 範囲を考えると、手分けした方がいいかもね」

 

「ソーマ達も呼んでおくよ」

 

「ああ、頼む」

 

地図に映された異界化の発生予測された場所を改めて確認する。

 

「気になるのは南部の繁華街周辺と……それに東部の娯楽街の……」

 

「ーーおそらくレイヴンクロウの事務所周辺ね」

 

「……その近辺で何か起きたら、ちょっと面倒なことになりそうだね」

 

確かにあり得そうだ、丁度それなりに近いし……

 

「だったら、その2つは俺が調べに行く。 繁華街にはたまに依頼で行くし、あの人達も一応面識はあるからな」

 

「それなら、私も同行するわ。 私もアリシアに呼ばれたこともある場所だし……レイヴンクロウの方も私がいればもし何か起きた時にも素直に話を聞いてくれるわ」

 

「ごめんね皆、また後でね」

 

「ううん、すずかちゃんも頑張ってね」

 

「手を貸して欲しかったら遠慮なく連絡しろよ」

 

「私達ならともかく、ツァリ君達は難しいと思やけど……」

 

「ま、そこは気にするな」

 

こうして今日の活動方針と、調査箇所の分担が決まり……残りのメンバーは北と西を調査することになった。

 

サーシャと合流して、まずは繁華街の状況を確かめることにした。

 

「繁華街か……来るのは久しぶりだな」

 

「ここ最近、来る暇もなかったわね」

 

「私は初めてです……それじゃあ、さっそく調査開始です!」

 

サーシャはここ数ヶ月の異界対策課の活動で、ようやく慣れて来たのか張り切っている。

 

「張り切るのはいいけど、ちゃんと見落としがないのかも確認するのよ。 自分がした行動もある程度覚えておいて記録もするのよ」

 

「は、はい!」

 

「異界化の予測はこの通り付近だ。 さっそく調べに行くぞ」

 

通りを歩いて調査を開始する。 すると、平日にもかかわらず雑貨店が閉まっていたのを見つける。

 

「ん……開いていないのか?」

 

「おかしいわね、今日は定休日ではないはずよ」

 

『ふう、ようやく半分か。 一体どうしてこんな事に……』

 

その時、店内から人の声が聞こえてきた。

 

「この声……出かけているわけじゃないな」

 

「ええ、入ってみましょう」

 

「し、失礼します!」

 

断りを入れて、店内に入ると……

 

「ッ……!」

 

「これは……」

 

店内は荒らされており、壁や商品が斬り裂かれて散乱していた。

 

「あ、レンヤ君にアリサ君か。 今日は店を閉めてたんだけど……」

 

「すみません、定休日でもないのにどうしたのかと思いまして。 それより……一体何があったのですか?」

 

「いや……今朝降りてみたら既にごらんの通りの有様でね。 どうやら昨夜のうちに誰が侵入したみたいなんだ。 夜は2階で寝ていたんだけど、物音にも全然気付かなくて……」

 

「……泥棒だったら、何も盗まれたような物はあるかしら?」

 

「いや、それが盗まれたものがあるわけでもなさそうでね。 午前中、警邏隊にも軽く調べてもらったんだけど手がかりとかもなくて……魔導師の仕業ではないのは確かだから、悪質なイタズラだろうってさ」

 

おそらく魔力を測定したんだろう。 魔法を使えばその場に少なからず魔力が残るので、魔法不正使用などの有無を調べる時に使われる方法だ。

 

「イタズラですか……さすがに度が過ぎていますが……」

 

(手がかりなし、不自然な状況……)

 

俺は2人に顔を合わせる、どうやら同じ考えのようだ。

 

「? どうかしたのかい?」

 

「いえ、何でもないです」

 

「ちなみに店長。 随分、色んな商品が斬られているようだけど……どんな刃物が使われたか判るかしら?」

 

「それが……警邏隊の人も不思議がっていたけど。 やたら堅い刃物が使われてたみたいなんだよね。 商品から壁まで、刃こぼれした様子もなく、全部スパッと切られていたし。 そもそも、店の玄関もちゃんと鍵がかかっていたし……一体誰が、どうやったんだろう?」

 

「なるほど……」

 

「一応、不可思議なことだから、警邏隊に勧められて異界対策課にも依頼を出したんだけど……どうやら別件みたいだね」

 

「あはは、すみません……グリードの仕業と確定できたら被害手当も出ますので、どうかめげないでください」

 

「ありがとう、盗難保険に入っているし、そこまで悲観することでもないけど……異界の仕業だったらガツンと解決してくれ」

 

店長に激励をもらい、店を後にした。

 

「どうやら……間違いなさそうだな」

 

「ええ、十中八九異界絡みで間違いなさそうね。 ホロスによる予測も一歩遅かったようだし」

 

「うう、すみません……もっと精度が上がっていれば……」

 

「サーシャのせいじゃないさ」

 

メイフォンを取り出しサーチアプリを見るが……

 

「異界の反応はなしか……どうやら怪異単体が起こしたらしいな」

 

「また同じことが再発するとも限らないわ。 まずはあの場で“何”が起きたか、考えるべきね」

 

「あの場で何が起きて……どうやって商品や壁を切り裂いたのか……ですか?」

 

「いや、あの切り口には見覚えがある……あれは斬撃を飛ばしてできた傷と酷似している。 グリードが技量で斬撃を飛ばすのはどうかと思うし……大方、カマイタチあたりかもしれない」

 

「カマイタチ! 私も似たような技がありますし……あり得ますね」

 

「……なるほど。 いい線行っているかもしれないわ。 刃物が見つかっていないと考えると、仮設としては妥当ね。 となると、それを起こした怪異がどうなったかな」

 

「ここらから移動したか自然消滅したか、あるいは別の理由で消えたか……現時点ではハッキリとは言えないな」

 

それからしばらく考えるが、誰もこれ以上の仮設はできないようだ。

 

「……歯切れが悪いが、ここの調査はこれぐらいだろう。 正直、食い止められなかったのが心残りだか……」

 

「でも……こうなってくると、レイヴンクロウの事務所の方も気になるわね。 区切りが付きしだい、娯楽街に向かいましょう」

 

「ああ」

 

「はい!」

 

その後も念のため辺りを調べたが……異界の反応もなく、異常もなかったので、俺達は娯楽街に向かった。

 

到着すると、何やら騒ついていていた。

 

「なんでしょう?」

 

「人だかりができてるな」

 

「あの先はレイヴンクロウの事務所のある通りだけど……まさか!」

 

慌てて通りの前に来ると………通りの先にあった事務所から煙が上がっていた。

 

「あれは……火が上がっているのか⁉︎」

 

「行ってみるわよ!」

 

「はい!」

 

人だかりをかき分けて事務所の前に来ると、割れた窓ガラスから所々火が出ていた。

 

「……やっぱりか」

 

「ボヤくらいだけど……」

 

「あ……!」

 

事務所のドアが乱暴に開かれ、煤汚れたレイヴンクロウの組員が出てきた。 その後、まるで慌てていないレイヴンクロウ若頭……レイジ・ワシズカが出てきた。

 

「これで全部だな。 とっとと離れろ! いいか、誰も近づけさせるな!」

 

「ーーレイジさん!」

 

アリサはレイジさんに近づき、俺達もそれに続いた。

 

「お嬢……坊主達も一緒か」

 

「大丈夫ですか⁉︎」

 

「いったい何があったの⁉︎」

 

「……突然、火元のない場所から小火が上がり始めた。 消化器ですら消せないボヤがな」

 

「なんですって……⁉︎」

 

「……まさか」

 

メイフォンを取り出しサーチアプリを起動して波長を発する。

 

ファン、ファン、ファン……スー……

 

波長に反応して、事務所前にゲートが顕れた。

 

「出ましたね⁉︎」

 

「ああ、やっぱりか」

 

「ーーフン、なるほどな。 これがゲートか、初めて見るが……なかなかどうしてこんなモンが」

 

「話は後よ。 ここは私達に任せなさい。 この不審火……必ず止めてみせるわ」

 

「分かった、よろしく頼む。 坊主、お前らも気をつけろ」

 

「誰に言っているんですか」

 

「ま、任せてください!」

 

俺達はレイジさんの横を通り、ゲートを潜り抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲートを抜けると、洞窟を模した異界だった。 かなり温度も高く、火に属する怪異が多そうだ。

 

「洞窟を模した異界……この先にボヤの原因がいるわけだ」

 

「火の手が大きくなる前に終わせるしかないわ……行くわよ!」

 

「了解です!」

 

デバイスを起動しバリアジャケットを纏い、武器を構えて迷宮の探索を開始した。

 

異界通り、焔のグリードがいたが……アリサがそれよりも高い温度の焔で倒していた。

 

「しかしこの異界……やたら蒸し暑いな」

 

「ええ、汗が吹き出てくるわ」

 

汗をかいたアリサが髪を払う。 それが妙に艶めかしく、すぐに目を逸らしたが、アリサ達に怪訝な目で見られた。

 

気を取り直して迷宮を進むと……目の前を大岩が勢いよく通り過ぎた。

 

「転がる大岩⁉︎ 迷宮のトラップの王道! でも現実であんなのまともに受けたら……!」

 

「さすがに喰らうわけにはいかないわね!」

 

その後も吹き上がる溶岩やグリードも退けながら進み、最奥に到着すると……正面の空間に赤いヒビが走り、渦を巻きながら……焔を具現化したようなエルダーグリードが顕れた。

 

「ええっ……焔そのまんまじゃないですか⁉︎」

 

「焔の精霊(エレメンタル)……あれが火元ってわけか」

 

「ふうん、面白いじゃない……」

 

アリサはフレイムアイズをE=クリムゾンに向けた。

 

「私の焔とどちらが上か、燃え比べと行きましょう……!」

 

E=クリムゾンは素早くスライドしながら移動し、火炎弾を放ってきた。 追ってくることから追尾型のようだ。

 

「任せてください! 重鈍の刃鋼(メタロ・ペテンザ)!」

 

輪刀の中に入り、球状になるように回転して火炎弾を弾いた。

 

「まだまだ!」

 

そのまま独楽のように移動し、E=クリムゾンに突撃した。

 

「目が回らないのかしら?」

 

《ロードカートリッジ》

 

「三排気管が丈夫なんだろ」

 

《ファースト、セカンドギア……ドライブ》

 

お互い魔力を上げながら準備をしていると、E=クリムゾンは4つの小さな焔を前に出し、狙いを定め……焔のレーザーを放射した。

 

「斬り裂く……蒼刃烈翔(そうはれっしょう)!」

 

刀を地面に刺し、引き摺りながら魔力を上げ……振り抜く瞬間に解放して巨大な魔力斬撃を放った。 焔のレーザーと衝突すると、斬撃がレーザーを裂き、E=クリムゾンを斬り裂いた。

 

「さあ、行くわよ!」

 

《クイックスラスト》

 

「ふう……せいっ!」

 

紅い魔力刃で何度も突きを繰り出してから横に斬った。 だが怯まず、4つの焔を落とし、3方向に火炎を飛ばした。

 

「フレイムアイズ!」

 

《チェーンフォルム、ブラッディカット》

 

フレイムアイズをチェーンフォルムに変換し、チェーンを火炎に巻くようにぶつけて相殺した。

 

「サーシャ!」

 

大回転(ロタツィオーネ・グロッソ)!」

 

輪刀を縦に高速に回転させ、その状態で片手で内側を掴み、片足で乗ると摩擦で煙が立つ。 そのまま輪刀が地面に着くとものすごい速度で突撃した。 E=クリムゾンも4つの焔で防ぐが、回転で勢いが増している輪刀を止められず吹き飛ばされた。

 

「今だ!」

 

《ラバーバインド》

 

E=クリムゾンをバインドし、動きを封じる。 逃れようと足掻くが伸縮するバインドは簡単には外れない。

 

「やった! これでーー」

 

「待ちなさい!」

 

好機とばかりサーシャが飛びかかろうとするが、アリサが静止させた。

E=クリムゾンは赤く光り始め、少しずつ魔力が上がっていた。

 

「嫌な予感しかしないな……」

 

「ええ、でも動けないなら……!」

 

チェーンをE=クリムゾンに巻きつけ、チェーンから魔力刃が展開されると……

 

《ブラッディシェイヴ》

 

「いっーーやあっ‼︎」

 

全力で巻き戻し、巻きついたチェーンがE=クリムゾンを走りながら切り刻んだ。

 

溜め込んでいた魔力は霧散され、E=クリムゾンは光りを放ちながら消えた。 そして、異界が収束していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実に戻ると、どうやら事務所内に出たようで。 外に出ると組員が驚いた顔で見ていた。

 

「けほけほっ……」

 

「ふう……何とか止まったわね」

 

「ああ、本物の火になって燃え広がらなくて助かった」

 

事務所を見上げと、ボヤがなかった。 どうやらエルダーグリードを倒したおかげで消えたのだろう。

 

「おお……! さすがお嬢、異界対策課は伊達ではありませんね……!」

 

「フッ……上手くいったようだな。 警邏隊と救助隊が来る前に後片付けを済ませる! ボケっとすんな、動きやがれ!」

 

管理局沙汰になるのが面倒らしく、レイジさんは組員を指示した。 俺達も少しだけ協力し、事態が治る頃には夕方になっていた。

 

「ーー世話になったな。 おかげで事務所も大して焼けずに済んだ」

 

「大したことはしてないけど……1つ、借りにしておくわ」

 

「くくっ、がめついな。 お前達にも礼を言おう。 お嬢の言っていた通り、この借りはいずれ返させてもらうつもりだ」

 

「はは……それはどうも」

 

「は、はは、はいぃ!(ひえぇ〜! ヤクザ、マフィア、借金取り、怖いよお〜!)」

 

サーシャが妙に挙動不審だったが、これでこの件は一応解決し……

 

「…………………」

 

(………?)

 

いま、そこの人だかりに見覚えがある人が……

 

「どうしたのよ、レンヤ?」

 

「いや……何でもない」

 

(知り合いがいた気がしたが……気のせいか)

 

その後、俺達は別行動していたすずか達と連絡を取って……改めて異界対策課に集まった上で、今日の活動の報告をすることになった。

 

「そんなことがあったんだ。 とにかくレイヴンクロウの件は解決できてよかったよ」

 

「まあ、雑貨店の方は未解決のままだけどな」

 

その次にすずか達の報告も聞き、状況を整理した。

 

「……なるほど。 ホロスが予測した6ヶ所全てで何が起きたことになるわけか」

 

「……うん。 さっき説明した通り……こっちが調べた2ヶ所でも水道管の凍結という現象が起きたよ」

 

「……冬ならまだしも、この時期じぁあり得ねえな。 そっちも異界が関わっている可能性があるな」

 

「私とルーテシアとアギトが調べた場所だと、北側の方に地面の隆起……もう片方に風の精霊(エレメンタル)のエルダーグリードと遭遇したよ。 おそらく、その雑貨店を襲ったのも、このエルダーグリードだと思う」

 

「それと……合わせて気になる情報もありまして。 その周囲で、事件前夜に怪しい人影が目撃されたそうです」

 

「怪しい人影……?」

 

このミッドチルダで怪しい人影なんていくらでもありそうだが……

 

「どんな奴だったんだ?」

 

「聞いた話だと、背の高い女性だったそうですよ」

 

「背の高い女性……シグナムだったりして」

 

「シグナムもそれなりに有名だし、目撃者も分かると思うぞ」

 

「あはは……だよね」

 

「だけど、シグナムと同じくらいの背なのは確からしいよ」

 

ソエルがそう言うと、全員が同意する。

 

「……色々と気になることは残っているが。 いつも通りに協力すれば何とか上手く行くやれるだろう。 ルーテシア、アギトに続いてソーマとサーシャが仲間になったことだしな」

 

「修行の身ですが、お役に立ててよかったです」

 

「まだ慣れませんけど、ちょっとは力になれましたでしょうか?」

 

「ええ、上出来よ。 異界の探索もかなり良かったわ」

 

「えへへ……」

 

サーシャはアリサに褒められ、照れるように笑う。

 

「ふふ……とりあえず、今日はこれで終わりだね」

 

「各自、何かあったらお互い、すぐに連絡を取ってね」

 

「了解だ」

 

「はい!」

 

皆が解散する中、俺は今日中にやっておきたい仕事と、今回の事件の始末書があったので。 見送った後、さっそく仕事を始めた。

 

そしてようやく終わる頃には夜になっていた。 固まった体をほぐし、ルキュウに帰るため本局を出た。

 

グ〜〜〜……

 

「うっ……しょうがない、はやてには悪いけど外食にするか」

 

本局を出てすぐに腹の虫が鳴てしまい。 空腹には耐えられず、目に付いたレストランに入った。

 

「いらっしゃいませ、お一人様でしょうか?」

 

「はい」

 

「ーーむ? この声は……」

 

個人席から聞き覚えのある厳かな声がすると……そこにはソフィーさんがいた。

 

「ソフィーさん⁉︎ どうしてこんな所に」

 

「少々、クラナガンで用事があってな。 ここで遅めの夕食というわけだ。 どうやら……お前も同じのようだな」

 

「あはは、ええまあ。 ご一緒してもいいですか?」

 

「ああ」

 

隣の席に座り、軽い物を頼み、雑談などを交えていた。

 

「しかし、相変わらずこんな遅くまで仕事か……そんなので体が持つのか?」

 

「これでもそれなりに鍛えていますし、あとは慣れですかね。 それに俺達が頑張らないと、ミッドチルダが怪異の危機にさらされます。 力ある者の義務……みたいなものですかね」

 

「そうか……無理だけはするなよ、お前が倒れたら騎士団の奴らが黙っていない。 ほどほどにしておけ」

 

「あ、あはは……はい」

 

確かにそんなことになったら管理局が糾弾されて、かなり面倒なことになりかねない。 と、ソフィーさんは飲み物を飲み干し、席を立った。

 

「それではな。 決して、1人で抱え込むな……お前には仲間がいるのだから」

 

そう助言をいい、ソフィーさんはレストランを後にした。

 

「…………………」

 

意味深な事を言い残したけど、身を気遣ってくれたのかな? 時間を見ると結構経っており、俺も残りを食べようとしたら……横にあった伝票が無くなっていた。

 

「あ!」

 

そういえばさりげなく盗られたような……奢らされたな。 やっぱりソフィーさんには敵わない。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。