魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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100話

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アルトさんと別れてすぐに異界対策課に向かい、サーシャ達の父親が勤めていた会社を調べた。 どうやら外部からの圧力で倒産に追い込まれ、その責任を負わされたようだ。 しかし、約2年前の事件なので情報は少なく、なかなか進まない。 しかもどうやら管理局の方も黙認していたが節があり、改めて管理局の問題に頭を悩まされた。

 

翌日ーー

 

本来なら休日である土曜日だが、レルム魔導学院は月一回の自由行動日以外に休みはなく。 今日もいつも通りに勉強と訓練をしていた。

 

「それでサーシャちゃんの件はどうかな? 何か進展があった?」

 

「レイヴンクロウの方にも話を聞いてみたけど、まだ確かな情報は来てないわ」

 

「そもそもそんなに簡単に見つかっているなら、とっくにアルトさんがどうにかしているよ。 あっちも馬鹿じゃないんだし」

 

「神様アプリの方も今の所は何にも……だが、もし予想通りに神様のいうとおりが異界が関わっていたらちょっと面倒だな」

 

昼休みの時間に屋上で今後について相談していた。

 

「ま、深く考えるのは放課後からだ。 役割分担としてはーー」

 

ピリリリリ、ピリリリリ!

 

そこでいきなり俺のメイフォンに着信が入った。

 

「誰からなの?」

 

「……? 知らない番号だ」

 

とりあえず出てみた。

 

「はい、どちらーー」

 

『レ、レンヤ先輩!』

 

「っ……その声、サーシャか?」

 

あまりの大声にメイフォンを耳から遠ざけながら声の主を確認する。

 

「なんで俺のメイフォンの番号を知っているんだよ」

 

『す、すみません! ハッキングしました! それよりもそんなことは今はいいんです!』

 

「よくないよ……それでどうした? 妙に慌てているけど?」

 

『それが……いないんですーー今朝から連絡がつかないんです、お兄ちゃんと!』

 

「……どういうことだ……?」

 

頭を切り替え、サーシャから詳しい内容を確認する。

 

『昨日、皆さんな話が気になってしまって……サーバーの記録を調べてみたら、昨日の18時過ぎ頃にダウンロードされていたんです……お兄ちゃんのメイフォンに神様のいうとおりが』

 

「18時過ぎ……昨日、別れてすぐか」

 

神様アプリをインストールしてアルトさんが行方不明……

 

「……巻き込まれたか……」

 

『ま、巻き込まれた? まさか、昨日のことがフェノール商会に……!』

 

「いや、別件だが……今からそっちに行く。 記念公園のカフェ前で待っててくれ」

 

『は、はい!』

 

ピ……

 

「何かあったの?」

 

「サーシャちゃんの声が聞こえたけど……」

 

「ああ……」

 

アリサ達に先ほどの通話の内容を伝えた。

 

「そんな、アルトさんが……」

 

「神様アプリをインストールした直後……異界が関わっている可能性が上がったわね」

 

「車をすぐに用意するよ、早く行こう!」

 

「ああ! 異界対策課、出動する!」

 

『了解!』

 

手に防護魔法を纏い、屋上からすぐ側にあるポールでラペリングして一瞬で降りて、技術棟に向かった。 いきなりの事に1年生は驚き、教頭は怒り声を上げるが……一言だけ謝り、専用車に乗り記念公園に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

移動しながらテオ教官に早退すると連絡し、なのは達にも急な仕事と連絡した。 記念公園に到着すると、もうカフェテリアの前にはサーシャがいた。 落ち着きがなく、メイフォンを耳に当ててそわそわしている。

 

「おーい、サーシャ!」

 

「あ、皆さん!」

 

サーシャは近寄ると少しだけホッとする。

 

「彼に連絡していたようね。 あれから返事は?」

 

「駄目です……全然繋がりません。 いつもならちゃんと出てくれるのに……」

 

「状況は大体把握しているよ。 どうやらなのはちゃんの時と同じ……神様アプリに“予言”があった可能性が高いね」

 

「それによってアルトさんの身に“何か”が起こった……そう考えるべきだね」

 

「そ、そんな……」

 

あり得ない事実を前にサーシャは困惑するしかなかった。

 

「とにかく、彼を探し出しましょう」

 

「ああ……先ずは手掛かりが欲しいな。 サーシャ、アルトさんが勤めている博物館には連絡したよな?」

 

「は、はい! もちろんしました。 そしたら無断欠勤だとかで……お兄ちゃん、すごく真面目だからどうしたのか心配されました……一応、体調不良という事で誤魔化しましたけど……」

 

「……そうか」

 

「昨日、別れ際にアルトさんは『首都で博物館の仕事を抜け出して来た』と言っていた……サーシャ、何か心当たりはある?」

 

アリシアの質問に、サーシャはすぐに何かを思い出した。

 

「そうだ……最近、仕事について何か話していたような。 確か、南部のどこかで“イベント”をやっていまして、そっちの準備があるとか何とか。 ああでも、場所は聞いてなかったんです⁉︎ ああもう、何でもっとちゃんと聞いとかなかったの、私……!」

 

「落ち着いて、サーシャちゃん」

 

慌てたサーシャをすずかが落ち着かせる。 しかし、イベントがやっていたとしても調るにしても、探すにしても時間がかかる。 南部だけだと……

 

(そういえば南部の担当って確かアリシアだったな)

 

「アリシア、思い当たる場所はないか?」

 

「う〜ん…………あ、もしかすると古風通りじゃないかな? あの通りには貸しスペースはあるはずだよ」

 

「前にアリシアちゃんに連れられた場所だね、可能性はあるよ」

 

「そうです、確かにお兄ちゃんもそんなこと言っていたような気もします……!」

 

「よし、そうと分かれば早く行ってみよう」

 

「ええ、“何か”が起きている可能性は高いかもしれない」

 

「じゃあ、サーシャはマンションで待っていてーー」

 

「わ、私も行きます! 何が起きているのかさっぱりわからないですけど……皆さんの迷惑にはなりません!」

 

……どう見ても行くのが怖いようだが、それでも震える足を隠して自分を奮い立たせる。

 

「……わかった。 だが、もしもの時は下がってもらう」

 

「は、はい!」

 

「それじゃあ、古風通りに行きましょう」

 

サーシャを引き連れ、車で南部にある古風通りに向かった。

 

「貸しスペースは……確かこの先だよね」

 

「うん、左側のアンティーク屋の先にある建物だよ」

 

「行ってみましょう」

 

通りの奥側に歩き、〈gallery cradle 〉という建物の前まで来た。

 

「ここがお兄ちゃんがイベントを準備している貸しスペースですか……」

 

「……ん? ちょっと待て」

 

ドアノブに手をかけ、捻ると抵抗なく回り扉が開いた。

 

「……開いているみたいだ」

 

「でも……中に人の気配を感じないよ……」

 

「うん……その代わりに“何か”を感じるよ」

 

……確かに、この建物の中で何かを感じとれる。

 

「? えっと、とにかく中に入りましょう」

 

「……よし、入るぞ」

 

「サーシャは後からついて来なさい」

 

「え、あ、はい」

 

警戒しつつ、建物の中に入る。 すぐに開けた場所に出ると、辺りの壁にいくつもの絵が掛けられてあったが、まだ準備途中だった。

 

「やっぱり誰もいないわね……」

 

「あれっ……? 床に何か落ちているよ」

 

すずかにつられて床を見ると、メイフォンが落ちていた。

 

「! お兄ちゃんのメイフォンです!」

 

どうやらここにアルトさんがいたのは間違いない。

 

「これはーー」

 

メイフォンを拾い上げ、画面に映された映像を見ると……

 

『今日ノ運勢haウルとラ絶不調♪ あンラッキーすぽットは仕事先ーー醒めない眠りニついチゃカモ☆』

 

神様アプリの不吉なお告げがあった。

 

「な、なんなの、この画面⁉︎ こんなプログラム、私は組んでいない……!」

 

「なのはの時と同じか……」

 

「アリシア」

 

「うん……アルトさんはおそらく……」

 

アリシアはメイフォンを取り出すとサーチアプリを起動し……

 

ファン、ファン、ファン………スーー

 

メイフォンから発せられた波長に反応して、赤いゲートが現れた。

 

「異界のゲート……!」

 

「やっぱり異界化に巻き込まれたか……!」

 

「こ、これが……ゲート。 まさかお兄ちゃんは……!」

 

「恐らく“予言”が表示されて間もないくらいでしょう」

 

「時間が経ちすぎている……早く助けないと命が危ない」

 

「え……い、命って……! こ、これが……ゲートだとすると……お兄ちゃんはまさかグリードに……!」

 

「アリシアは念のためここに残ってサーシャを護衛してくれ」

 

「了解だよ。 皆、気を付けてね」

 

「乗り込むぞ、アリサ、すずか!」

 

「ええ!」

 

「うんっ!」

 

アルトさんを助け出すため、俺達はゲートの中に入って行った。

 

「そんな……おにぃちゃん……」

 

「大丈夫だよ。 レンヤ達なら、きっと……」

 

泣き崩れるサーシャの背を撫でながら、アリシアはゲートを見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲートを抜け、異界に入ると……目の前には回廊を模した迷宮が広がっていた。

 

「ここは……昔に海鳴小学校で現れた異界と酷似しているね」

 

「だが、脅威度はあっちより高いようだ」

 

「彼は恐らく最奥にいるわ。 急ぎましょう」

 

デバイスを起動してバリアジャケットを纏い、迷宮を走りだす。 顕れるグリードはそこまで強く無いが、出て来る数が多かった。 それでも怪異を退け、最奥に辿り着くと……

 

「見つけた……!」

 

そこにアルトさんが倒れていた。 気絶しているようだが、怪我は無いようだ。

 

「……ぅ……サー、シャ……」

 

「よかった、まだ無事でーー、!」

 

次の瞬間、アルトさんの前の空間に赤い渦が巻くと……

 

アハハ……!

 

嘲笑うかのように口に手を当てて笑いながら、妖精のようなエルダーグリードが現れた。

 

妖精(フェアリー)のグリード……ヘイズフェアリー!」

 

「目標を確認……迎撃を開始する!」

 

「了解!」

 

ヘイズフェアリーは他のグリードを呼ぶと、呼んだグリードの合間を通って後退した。

 

「逃すか!」

 

《ファーストギア……ドライブ》

 

一つ目のギアを回転させ、立ち塞がるグリードを一振りで斬り伏せてヘイズフェアリーに接近する。

 

「スノーホワイト!」

 

《レイピアフォーム》

 

スノーホワイトを鋭い剣先の剣に変化させ、アリサと一緒にグリードを斬り伏せて接近する。

 

「はあっ!」

 

「せいっ!」

 

「はっ!」

 

グリードを退かしてヘイズフェアリーに刀を振ろうとした時、ヘイズフェアリーは力を溜め、4方向に竜巻を放った。

 

「甘い!」

 

《ツインウィング》

 

2つの斬撃を放ち、2つの竜巻を打ち消した。

 

「そこっ!」

 

《シザーカット》

 

「しっ……!」

 

《フレイムソード》

 

消えた竜巻の方向からすずかとアリサが接近して、ヘイズフェアリーを斬った。 だが負けじと、こっちに向かって錐揉み回転しながら突進して来た。

 

「今更ーー」

 

虚空を使い、迫るヘイズフェアリーの顔面をピンポイントに……

 

《ディフェンドストライク》

 

「せいやぁ!」

 

防御魔法で纏った蹴りを入れ、上に蹴り上げた。

 

「すずか、決めなさい!」

 

「うん!」

 

すずかはヘイズフェアリーがいる高さまで飛び上がり、レイピアを構え……

 

《ブラストスライス》

 

「はあああっ!」

 

旋風を上げながら縦横無尽に切り裂いた。

 

「えい!」

 

最後の一振りを胴に入れ、ヘイズフェアリーは光を放ちながら消えていった。

 

「よし……!」

 

「やったね、レンヤ君!」

 

「ええ、これで彼もーー」

 

その時、アルトさんの真上に丸いゲートが開くと糸の様な物が放たれ……アルトさんに巻き付き、何かを取り出しゲートに取り込んだ。 一瞬だけ異界が見えるとそのまま消えていった。

 

「え……?」

 

「今のは……!」

 

「……まさかーー」

 

今の現象を考える暇もなく、異界は白い光を放ちながら収束していった現実世界に戻ると、そこは先ほどと同様の建物の中だった。

 

「ーーお兄ちゃん‼︎」

 

サーシャはアルトさんを確認すると慌てて駆け寄る。

 

「…………ぅ…………」

 

「あ……!」

 

「よかった、目が覚めたようだね。 大した怪我もなさそうだけど……」

 

アリシアは簡単に診察を終えると俺達を見る。 俺は黙って頷く。

 

「……あの、ありがとうございますです! まさか異界に巻き込まれたていたなんて………ほらお兄ちゃん、いつまでもボーッとしていないでーー」

 

目が覚めたのに、いつまでもたっても何も喋らないアルトさんを疑問に思うサーシャ。

 

「……お兄ちゃん?」

 

「……………………」

 

開かれたその目には光が写っていなく、何も無い虚空を見つめていた。

 

「ねえ……何か喋ってよ。 一体どうしたの?」

 

寝惚けていると思ったのか、何度も揺すって起こそうとするもアルトさんは変わらなかった。

 

「な……なんで………返事してよ、お兄ちゃん‼︎」

 

何度も揺さぶり、涙を流して懇願するサーシャ。

 

「元凶は別にいる。 恐らく、さっきの異界化は副次的に発生したもののようね」

 

「あのグリードを倒した直後、一瞬だけ顕れた別の異界……あの奥に住まう“何か”がアルトさんの“精神”だけを奪い去ってしまった」

 

「それこそが……今回の異変の“元凶”となった、エルダーグリードだろう」

 

「今のアルトさんは“抜け殻”同然。 そして“精神”とはあまりにも脆いもの……このまま失ってしまったら恐らく、2度と元には……」

 

「あ、あはは……何がなんだか……」

 

サーシャは目の前の事実を聞いて、さらに困惑する。

 

「それが……そんなことが神様アプリが……私の作ったアプリがお兄ちゃんをこんなにしたって……私が、お兄ちゃんを……‼︎」

 

「アプリのせいじゃないわ。 あくまで元凶は異界の化物……その“きっかけ”になったのは、残念ながら確かみたいね」

 

「っ……‼︎」

 

アリサにさらに指摘を受けて、サーシャは唇を強く噛み締める。

 

「一刻も早く“元凶”を探し出して、倒すしかないか」

 

「うん、だけど……エルダーグリードの行方は完全に無くちゃったよ。 姿さえ確認できたら追えたんだけど……」

 

「電脳世界にいるグリードを探し出すのは、私でも困難だよ」

 

「ーー私が、なんとかします」

 

サーシャが涙を拭い、そう言った。

 

「サーシャちゃん……」

 

「どうする気?」

 

「グリードが神様アプリを乗っ取ったんですよね? だったらアプリ本体を調べれば、行方も分かるはずです」

 

顔を上げ、涙で腫らした目でしっかりと前を見た。

 

「私の責任です! お兄ちゃんは私自身の手で救ってみせます!」

 

その目には怯えもなく、強い意志があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、いったん記念公園のタワーマンションに向かうことになり……サーシャは昏睡したアルトさんを寝かせるや否や、端末の操作を始めた。

 

「すごい……すずかより速いかも」

 

「確かに、そうだね」

 

「これは……配信用システムを探っているのか?」

 

「はい、イーグレットSSの管理している大型サーバー内にアプリがアップされているんです。 問題が起きたなら、そのシステムである可能性が高いです。 配信中のシステムを変更する場合、本来なら手続きがあるのですが……」

 

「それを手早くハッキングするわけね」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「大丈夫だよ、今は緊急事態だし、いちいち気にしないから」

 

話している間でもサーシャの手は見えないくらい動き、キーボードに打ち続けている。

 

「よし、着きました!」

 

画面に映し出されたのは、バグだらけの文字の羅列だった。

 

「滅茶苦茶になっているね」

 

「ア、アプリ内のデータがバグだらけです……」

 

「それにコードも……別の言語で改竄されているよ」

 

「……前に起きたヴィータの事件とある意味同じね」

 

「これも異界による侵蝕(イクリプス)……異界と神様アプリがようやく繋がったな」

 

「ですが、これで大丈夫です! こんな物、問答無用で消去(デリート)します!」

 

「! 待って、慎重にーー」

 

すずかの制止を待たずに消去を開始すると……

 

ブーブーブー!

 

「えっ⁉︎」

 

アラームが鳴り響き、正面の画面に黒い神様アプリのマスコットが現れ、嘲笑うと全ての画面の電源が落ちた。

 

「な、何が起きたの?」

 

「ウ、ウィルスを流し込まれた……逆ハッキングされた……!」

 

「まさか、アプリに組み込んだハッキング機能を応用して……」

 

「高性能のAIもろともかなり侵蝕されたようだな」

 

「復旧は出来そう?」

 

アリサに聞かれ、サーシャはすぐさまキーボードを叩く。

 

「ダメです……完全にクラッシュしてまして復旧に時間がかかりすぎます!」

 

「なら、異界対策課の端末を使って。 うちの端末はこの前変えたばかりの最新式だから、十分ハッキングは出来るよ」

 

「そうだな、ソエルに準備させておこう」

 

「…………………」

 

「ほらボサッとしない! まだ終わってないわよ! 兄を助けたいなら、とことん足掻きなさい!」

 

「あ……」

 

アリサに叱咤され、強く頷く。

 

「はい……行きましょう!」

 

すぐさま地上本部に向かい。サーシャは異界対策課に入るなり起動していた端末に飛びつき、キーボードを打ち始めた。

 

「サーシャ、いけそう?」

 

「はい、これなら十分にハッキングできます! 今度はもっと慎重に、別のルートから入ってーー」

 

そんな中、いきなりの事でソーマ達が驚いていた。

 

「うわ〜、すごいや〜」

 

(コクン)

 

「ていうか誰だよ?」

 

「あの、レンヤさん? 彼女は、というかこれは一体……」

 

「異界に関わる事件だ。 お前達は念のため準備しておいてくれ」

 

「まったく、グリードが出たなら俺達に一言くらい言えっての」

 

「ごめんなさいね。 確証を得たのはついさっきなのよ」

 

「ーーあれっ⁉︎」

 

その時、サーシャが驚きの声を出す。

 

「どうした、何かあったのか?」

 

「ぎゃ、逆です……無いんです。 イーグレットSSの管理サーバーから神様アプリが完全に消えています!」

 

「……もしかすると、逃げたかもしれないね。 さっきのアクセスを警戒して防衛本能のようなものが働いて」

 

「うっ、異界は何でもありですか……」

 

「追いかけられる?」

 

「痕跡は辿っています。 ですが、ミッドチルダ中のサーバーを経由して複雑なルートで移動しているみたいで……とてもじゃ無いですけど追いきれません!」

 

「ーー落ち着いて、サーシャちゃん。 どれだけ複雑に移動しても、それはただの目眩し。 特異点の発生源がこの街にある以上、本体は確実にクラナガンにいるはず」

 

「そうなると……アプリの本体は、クラナガンのサーバーのどこかに移った可能性が高いな」

 

「そ、そういうものですか……」

 

「これが……異界による事件……」

 

ルーテシア達は経験不足で異界の事件と分かっていても、どうにも理解が追いついていなかった。

 

「で、ですが、クラナガンのサーバーは一区だけでも相当数あります! 一つ一つ調べていたらどれだけの時間がーー」

 

「落ち着いて」

 

混乱しかけたサーシャに、ソエルが声を掛けて止めた。

 

「サーバー毎には調べてられないから、まずはクラナガンの情報総合サイト経由で痕跡を探してみて、私も手伝うから」

 

「もちろん、私も手伝うよ」

 

「ソエルさん、すずかさん……はい!」

 

ソエルとすずかが端末の前に来ると、サーシャ同様にキーボードを打ち始めた。

 

カタカタカタカタカタカタ!

 

異界対策課内はタイピングの音しか聞こえず、ある意味静寂が続いていた。

 

「よし、これでどう?」

 

「昨日から今日にかけてアクセス数が急増したサーバーを検出、そっち送るよ」

 

「………! 出ました! クラナガンにあるトライセンのレンタルサーバー端末……場所はデコロンモールです!」

 

「デコロンモール……北にある様々な店舗が入った巨大な施設だね。 ふふっ、お見事だよ」

 

「居場所は分かった。 準備を整えたらデコロンモールに向かおう」

 

「ええっ!」

 

「レンヤさん達、頑張ってください!」

 

「気をつけてね〜〜」

 

「後、ソーマ君も付いてきてね」

 

「は、はい! 準備はできています!」

 

車でデコロンモールに向かい、到着する頃には夕方になろうとしていた。 モールの中は様々な店舗があり、4階まである巨大モールはこの時間でも盛況だった。

 

「へえ、相変わらずの盛況っぷりだね」

 

「トライセンが管理している部屋を探しましょう」

 

「確か、3階にあったはずだよ」

 

「ああ……そろそろ夕方だし、急いだ方がいいな」

 

「…………………」

 

「………?」

 

ソーマが静かなサーシャを不審に思うが、あまり触れずに3階にあるサーバー管理室の前に着く。

 

「ここが、例のサーバーが管理されている部屋か」

 

「何とか神様アプリまで辿り着いたね」

 

「でも、鍵がかかっているわよ。 一旦、ここの責任者かトライセンと話を通して開けてもらわないと……」

 

「どっちも許可なんて取る暇はないよ。 ここは私にお任せで」

 

アリシアはフォーチュンドロップを持ち、ドアに手をかざすと黄緑の魔法陣が展開され……

 

《アンロック》

 

ガチャン!

 

小気味いい音が鳴り、ドアのロックが解除され、そのまま部屋の中に入った。 中にはいくつもの巨大な端末が並んでいた。

 

「すごい……これ全部、サーバー端末ですか」

 

「これのどれかに神様アプリが入っているようだ」

 

「うん、ここまで来ればーー」

 

すずかがメイフォンのサーチアプリを起動し、波長を飛ばすと……

 

ファン、ファン、ファン……スーー……

 

波長に反応して赤いゲートが顕れた。

 

「ーー見つけたわ。 このゲートの向こうに元凶が待っている……!」

 

「アルトさんの精神もそこに囚われている……!」

 

「よし、さっそくーー」

 

「ーーあの、私も連れて行って下さい!」

 

いざ突入しようとした時、サーシャもついて行くと行った。

 

「私の人生……ゼロどころかマイナスから始まりました。 それをゼロに戻すために頑張って来ました。全部、1人で背負い込んで……でも、今回はどうしようもありませんでした。 皆さんを頼る他ありませんでした……でも、諦めたくない……!」

 

決意をした表情で、拳を握りしめながら、サーシャは意志を表した。

 

「……ですから、どうか連れて行ってください! こう見えてもベルカの護身術を習っていまして、借金取りとかフェノール商会のせいでそれなりの腕と自負しています。 皆さんの足は引っ張りません、どうかお願いします!」

 

無理を言っているのが分かっているのか……勢いよく、深く頭を下げた。

 

「……ふふ、いいわよ。 むしろここで止まるようなら叱っていた所だわ」

 

「なら、サーシャは先月行けなかった特別実習の補講と行こうかな?」

 

「僕も力を貸します! 一緒にお兄さんを助けましょう!」

 

「はい!」

 

「行こう……皆、準備はいいね?」

 

『おおっ!』 『はいっ!』

 

サーシャも連れて、俺達はゲートに突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲートを通過し、異界に入ると……そこはまるで電脳世界を目視できるようにした迷宮だった。

 

「こ、ここが異界ですか……なんだかインターネットのイメージという感じです」

 

「確かに、昨日と全く違う……」

 

「やっぱり昼間に一瞬、見えたのと同じ場所のようだな。 霊子結界タイプの迷宮のようだ」

 

「この先にアルトさんの精神も囚われているはずだね」

 

「さっそく探索を開始しましょう!」

 

デバイスを起動しバリアジャケットを纏い、それぞれ武器を構える。 サーシャは腕につけた青い六角形のコアがついたブレスレットをかざし……

 

「お願い、ラクリモサ……セーット! アーップ!」

 

ベルカ式の魔法陣と青白い魔力光を放ちながらデバイスを起動し、手のひらと指も守っている手甲と刃があるフラフープのような武器……輪刀(りんとう)を腕の中で回しながら体に通した。

 

「珍しい武器だね」

 

「えへへ、ちょっとフラフープには自信がありまして。 それをベルカ流護身術で応用したんです」

 

「ベルカ流護身術……相手の力を利用する技が多い武術ですね」

 

「私達がフォローするから、ソーマ君とサーシャちゃんは遠慮なく戦ってね」

 

「「はい!」」

 

ソーマとサーシャは大きく返事をして、俺達は迷宮の探索を開始した。

 

「外力系衝剄……九乃(くない)!」

 

凪の歌曲(カンツォーネ・カルマ)!」

 

ソーマは左手の指の間に針のような細い剄弾を4つ形成し、機械型のグリードに放つと突き刺さるどころか貫通した。

 

サーシャは回転しながら輪刀を掴んでは投げ、掴んでは投げを繰り返し、グリードを薙ぎ払っていた。 どうやらあの手甲のおかげで傷付かずに刃面を掴めているようだ。

 

「やったあ!」

 

「1ヶ月も休んでいたのに、割といい動きするじゃない!」

 

「嫌な人達が何度も来るのですから、自然と鍛えられました!」

 

「あ、あはは……それはちょっと……」

 

「ふふ、少しは余裕が出てきたみたいだね」

 

さらに迷宮を進むと、行く手を電撃が塞ぐ罠があったが。 その上を飛んだり、電撃が止んでいる間に通り過ぎたりした避けた。

 

「あわわわ、なんてトラップですか……危うく感電死しちゃう所でしたよ!」

 

「断続的だから真っ黒にはならないかもね」

 

「ア、アリシアちゃん……!」

 

「どうやらトラップも一筋縄では行かなさそうね」

 

「まだあるかもしれない……皆、慎重に行くぞ!」

 

「はい!」

 

グリードを退け、トラップを潜り抜け、ギミック攻略して……最奥に辿り着くと、アリシアが何かに気づいた。

 

「! 強大な気配……来るよ!」

 

次の瞬間、前方の空間に赤いヒビが走り、赤い渦が発生すると……巨大な蜘蛛が顕れた。

 

「蜘蛛のエルダーグリード……アストラルウィドウ……!」

 

「くっ、さっきのグリードやSグリードとは全然違う……!」

 

「こいつが神様アプリを侵蝕していた元凶か!」

 

「文字通りの(バグ)ですか……」

 

『ぐう……うっ……』

 

その時、アストラルウィドウから苦しげな声が聞こえてきた。

 

「ッ……!」

 

「この声は……?」

 

『……サー、シャ……』

 

どうやら背中の大きな球体から声が出ているようだ。

 

「あの中にアルトさんの精神が囚われているみたい……!」

 

「あ⁉︎」

 

アルトさんの精神が囚われていた球体は背中に沈んでいき、アストラルウィドウの体内に入ってしまった。

 

「大分弱っているな……早く助けないとマズイ!」

 

「ーー待っていて、お兄ちゃん! 私が必ず助けるから!」

 

ギアアアアアアア‼︎

 

アストラルウィドウが咆哮を上げ、サーシャは輪刀を腕で回しながら接近し、アストラルウィドウの鎌を避けながら切り続けた。

 

「やるねサーシャ!」

 

「はい! でもまだまだです!」

 

「僕も負けて入られません!」

 

ソーマは内力系活剄で体を強化し、正面から突っ込んだ。

 

「ッ……せい!」

 

外力系衝剄・轟剣

 

鎌を受け流し、剄を練り上げ刀身を覆うように収束させた剣で斬り、アストラルウィドウを大きく吹き飛した。

 

「すごい……」

 

「また腕を上げたわね」

 

感心する中、アストラルウィドウは周りにあったオブジェクトの1つに近づき、自らとオブジェクトを魔力で繋いだ。

 

「あれは……」

 

「スノーホワイト!」

 

《イエスマイスター、オールギア……ドライブ。 フリーズランサー》

 

「行って!」

 

すずかが無数の氷の槍を高速で飛ばし、アストラルウィドウの全身を氷の槍で突き刺した。

 

あのオブジェクトが何なのか模索しようとするが、槍を砕いてさらにもう1つ繋いぎ、突進してきた。

 

《ファースト、セカンドギア……ドライブ》

 

「ふっ……やあ!」

 

突進を避け、ギアを起動させて胴体を斬った。 だが、その反動でまた1つ、オブジェクトと接続した。

 

「さっきから何を……」

 

「! この魔力の上昇の仕方……まさか!」

 

アリサが何かに気がつくが、アストラルウィドウは背中から魔力弾を上空に打ち出し、全体に降り注がせた。

 

「きゃあああ⁉︎」

 

「うわあっ⁉︎」

 

「サーシャ、ソーマ!」

 

《スフィアプロテクション》

 

俺やアリサやすずか、アリシアは避けられたが。 サーシャとソーマは避けきれない所をアリシアが円形の防御結界を張って2人を守った。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「いいから、早く体勢を整えて」

 

「は、はい!」

 

その間にも5つ目がアストラルウィドウと接続される。

 

「いますぐ止めさせて! あいつはこのオブジェクトから魔力を貰って強くなっているわ!」

 

「なら、すぐにでも……!」

 

「サーシャちゃん! 無闇に接近しちゃーー」

 

サーシャが接近した瞬間、アストラルウィドウは飛び上がり、着地時に全体に衝撃波を放った。

 

「サーシャ!」

 

「……!」

 

衝撃波が当たる瞬間……サーシャは足を抱えて輪刀の中に入り、もの凄い速度で横に回した。 見た目が球体になった輪刀で衝撃波を弾いて防いだ。

 

「おお、すごいね!」

 

「感心している場合じゃないよ!」

 

最後の1つが接続されると……アストラルウィドウから高い魔力が発せられ、傷がだんだんと回復され始めた。

 

「傷が⁉︎」

 

「いますぐオブジェクトの破壊をーー」

 

ソーマがオブジェクトを破壊しに背を向けた時、アストラルウィドウの口が開き、魔力がため始めた。

 

「マズイ……!」

 

「任せて!」

 

《ミラーデバイス、セットアップ》

 

ソーマとアストラルウィドウの間にアリシアが立ち、ミラーデバイスを展開して両手の銃に魔力を込め……

 

《サイキックアーティラリー》

 

アストラルウィドウがレーザービームを放つのと同時にアリシアもミラーデバイスで五角形に展開して魔力障壁を通して、威力がを増幅した砲撃魔法を放った。

 

ドオオオオオンッッ……!

 

「くっ……」

 

「なんて威力……」

 

砲撃同士がぶつかり合い、衝突による余波がかなりの衝撃で辺りに広がっていた。 そして砲撃が収まろうとした時……

 

「エネルギー……バスター‼︎」

 

アリシアは砲撃を一瞬だけ止めて飛び上がり、さらに五角形の障壁を大きく広げ、ミラーデバイスの力を一気に増幅させ、さらに強力な収束砲を発射した。

 

その砲撃を喰らい、アストラルウィドウは回復したのにも関わらずさらに大きなダメージを受けた。

 

「やるなアリシア!」

 

「今だよ!」

 

「行くわよ……!」

 

《ロードカートリッジ。 シーンドライブ》

 

カートリッジをロードし、魔力を上げるとアストラルウィドウの周りを飛び回り何度も斬りながら、徐々に速度を上げていく。 その飛ぶ姿は飛行魔法で飛ぶというより、まるで無重力空間の中を高速で飛ぶような感じだ。

 

「これで……終わり!」

 

最後に切り上げからアストラルウィドウの上を取り、上段から落下と同時に剣を振り下ろし爆発を起こした。

 

「行きます!」

 

ソーマが胴体を切り上げ、上空に上がると……

 

「はあっ!」

 

外力系衝剄・蛇落とし

 

上空で身をよじらせ竜巻と化した衝剄をアストラルウィドウの頭上から撃ち、その巨体を地面に伏せさせた。

 

「レゾナンスアーク!」

 

《モーメントステップ》

 

「せい!」

 

踏み込みと同時に足から地面に魔力を放出して急速に接近し、通り越しぎわに額に十字の傷を入れた。

 

「決めろ、サーシャ!」

 

「はい!」

 

サーシャは輪刀を振り回してその場で何度も回転して……

 

巨人の投擲(ティターノ・ランチャーレ)!」

 

輪刀を投擲した。 高速で回転している輪刀はアストラルウィドウの額に直撃すると、額を削りながらどんどん進んで行き……腹を突き破った。

 

「ほっ……」

 

地面にぶつかった輪刀は回転でサーシャの元に飛んで行き、輪刀の内側を抑えて、ブレーキ音と似たような音と煙を立てながらサーシャの手に収まった。

 

そしてアストラルウィドウは断末魔も上げずにそのまま消え去っていった。 後に残ったのは最初に取り込んだ球体、それにヒビが入り……砕けると、白い光を放ちながら異界が収束して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タワーマンションのサーシャの室で寝ているアルト。 その体が光に包まれると……

 

「……ん……………」

 

精神が体に戻り、意識を取り戻した。

 

「……ふわああぁぁ………しまったな……久しぶりに寝すぎたかな。 今は何時だ?」

 

辺りを見回すと、そこは自分の部屋ではない事に気がつく。

 

「ここは、サーシャの部屋か……? 一体どうして……」

 

ピリリリリ、ピリリリリ!

 

「はい、アルトです……」

 

『お兄ちゃん……! よかった、目が覚めたんだね⁉︎』

 

「ッ……耳が……ってサーシャか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サーシャは現実世界に戻るなり、すぐにアルトさんに連絡を取った。

 

『何かあったのか?』

 

「お兄ちゃん、身体は大丈夫……⁉︎ 痛い所はない⁉︎」

 

『なんだ……? まあ、むしろ調子いいくらいだが……もしかしてサーシャが疲れて寝た俺をベットで寝かせてくれたのか? すまないな、迷惑をかけて』

 

「う、ううん……そんなこと、ないよ」

 

兄の無事を確認できて、サーシャは泣きそうな顔になるも泣かないでいた。

 

「はは……もう大丈夫みたいだな」

 

「これなら、異常も確認する必要はないかもね」

 

「うんうん……良かった良かった」

 

「異界の反応も消失……これにて任務完了ね」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2日後ーー

 

あの事件から2日が経ち……事件は公表されずに管理局の記録にだけ残した。 そして俺達は今、朝早くに学院の屋上に集まっていた。

 

「ーーやれやれ、一時はどうなることかと思ったけど……神様アプリについても何とかなりそうだな」

 

「サーシャのアフターケアが良かったというべきでしょうね」

 

「サーバーにあった神様のいうとおりのシステムはあの場で完全に消去されーーその上、ユーザーの端末全てからアプリを消しちゃっただもんね」

 

そう、サーシャはサーバーの神様のいうとおりだけではなく。 ダウンロードした1人1人のメイフォンから音も無く消してしまったのだ。 寮に帰った時になのはも消えた事に気がつき、説明するまで慌てていた。 こうなると神様アプリはいつか都市伝説にでもなりそうな感じだ。

 

「ダウンロード履歴を利用した自動ハッキングツールを使用したみたいだね。 さすがに強引だったけど」

 

「ま、そこは結果オーライでいいでしょう。 今後の被害の可能性も消えて事件は完全に解決されたんだもの」

 

「それにしても……異界の事件は今までに何度もあったけど……今回はさすがに面倒だったよね」

 

「ああ、先月に入ってから異界化が急激に増大……怪異も活発化している」

 

「まるで……巨大な何かに反応しているみたいで……」

 

「…………………」

 

「アリシアちゃん、どうかしたの?」

 

「え! ううん、何度もないよ」

 

アリシアが何か懸念しているような感じだが、確証がないのか何も言わなかった。 と、その時屋上の扉が開いて……

 

「皆さん!」

 

真新しい真紅のレルム魔導学院の制服を着たサーシャが現れた。

 

「サーシャちゃん! よかった、登校できたんだね!」

 

「はい! これも皆さんのおかげです!」

 

事件解決後、サーシャは俺達にフェノール商会の不正な証拠の数々をもらっていた。 どうやら半年も前に掴んでいたらしいが、管理局も手を貸しているし、知り合いもいなかったので使うに使えなかったそうだ。 それを渡してもらい、早速アリシアがフェノール商会を告発し、サーシャの手に入れた情報は月蝕(エクリプス)の噂通り正確で、相手は言いわけもできずにこちらの圧勝となった。

 

そしてサーシャは少しだけ賠償金を早く受け取り父親の手術に踏み込んだ。今は経過良好で順調に体力を回復しているそうだ。 そして神様アプリの件やあの檻からの即時引越しやらで慌ただしくなってしまい……今日、ようやく登校できたようだ。

 

「私達は特に何もしていないよ。 全部、サーシャちゃんの努力の成果だよ」

 

「そういえば、寮にはいつ入るつもりなの?」

 

「はい、そのつもりなんですが……お父さんやお母さんがまだ一緒にいたいって言っていますし、いくら借金を返しても、まだ歳も14ですから心配なようで」

 

「いい家族じゃないか」

 

「……ん?」

 

なんか、今聞き捨てならないようなの聞いたような……

 

「えっと……サーシャちゃん。 今年齢は……」

 

「え? ああ、レルム魔導学院の入学基準年齢は12歳からなんですよ。 14歳ですが改めてよろしくお願いします、先輩達!」

 

「え、ええ……」

 

「それと私も異界対策課に入りました! ソエルさんから聞いたんですけどオペレーターが必要なんですよね? そちらの方もよろしくお願いします!」

 

「あのまんじゅう共……毎回俺に話を通せって言っているだろう!」

 

「ま、まあまあ」

 

後輩の問題の解決と新たな仲間を迎え、俺達は教室に向かい今日を始めるのだった

 

 


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