プロヒーローになる条件として、体力試験と面接を用意した。
体力試験では将来性も考慮して年齢によるハンデをつけた。結果、合格者は10人とした。
成績順に、
マシニア
クリリン
ナム
プーアル
ラピス
ラズリ
ランチ
ミスター・サタン
ヤムチャ
マイ
となった。合格者には俺が直接面接を行う。
面接では成績順に横一列になってもらった。一番目立っているのは成績トップのマシニアだ。身長が2m50cmもあり、肌は緑色。巨大なマントとターバンが特徴的。ドラゴンボールで改心させたピッコロ大魔王だが、なぜか試験を受けに来た。
「面接試験と言っても悪人を落とすだけです。会話能力を問うものではありませんから気楽に行ってください。では、マシニアさんから。なぜヒーローになろうと思ったのか教えてください」
マシニアは立ち上がらず、座ったまま応える。
「理由は2つ。1つは過去に対する償いだ。人の役に立つことがしたくなった。もう1つはお前を見極めるためだ。お前には危うさを感じる」
マシニアは尊大な表情で俺を見下ろした。神に通じるところがある。善人になってもこういう皮肉めいた部分は残るんだな。
まあたぶん善人だから合格でいいだろう。
「分かりました。では次にクリリンさん」
「は、はい」
クリリンは若干緊張気味に立ち上がった。かと思うと、俺の機嫌をとるように笑みを作った。
「この前の夜神ライトとの戦いなんですが、ブルマさんの動きがよくなっていました。何かあるのかなあと思いまして。悟空に負けたくないのですが、武天老師様との修行には行き詰っていまして」
この頃はまだ悟空に勝つ気でいるんだな。健気なことだ。
「はい分かりました。次にナムさん」
「ブルマさんには何度も助けられたので、次は私が力になる番だと思いました」
「プーアルさん」
「ぼくはもっとヤムチャ様の役に立てる家来になりたいんです」
プーアルの成績がいいのは短距離走と高飛びの成績が良かったからだ。短距離走ではロケットに化けていた。高飛びは大気がある限りいくらでも飛べた。
「ラピスさん」
「お前が入れって言ったから来ただけだ。少しは楽しませてくれよ」
「ラズリさん」
「ラピスのやつと同じだ」
「ランチさん」
「おいブルマ、天津飯のやつは来てねえのか?」
ラピス、ラズリ、ランチ。この三人は座ったままダルそうに応える。不良だな。
「いません」
「ちっ。なんでだよ。あいつがこの地球で一番つええのに」
ランチの言葉に受験者等がピクンと反応する。その多くは俺を見た。クリリンは俺の後にマシニアを見た。何となく天津飯より強いと感じているようである。
ミスター・サタンとヤムチャはムッとしていた。自分が最強だと言いたいが、まだ世界一とまでは信じきれない感じだ。自惚れの強いミスター・サタンも今はクリリンより1つ年下の子ども。顔はおっさんだがな。
ランチは露骨にやる気を無くしたようだった。この時点で天津飯に一目ぼれしていたらしい。
「3年後の天下一武道会に天津飯はやってくる。その時に彼を倒せば、あなたに弟子入りを志願してくるかもしれない」
「バ、バカ野朗! ハレンチなこと考えてんじゃねえ!」
ランチは顔を真っ赤にして立ち上がり、叫んだ。他の受験者はポカーンとした。クリリンも何がハレンチなのか理解できない。
しかし天津飯を男性として見ているランチからすると、天津飯を弟子にして命令を聞かせるのは変態プレイに思えるのだろう。
「はい。では次ミスター・サタンさん」
「この俺は最強を目指している。最強である人物はヒーローであるべきだ。だからプロヒーローになろうと思った」
自惚れているが、悪人ではない。まあ合格でいいだろう。
「次、ヤムチャさん」
「は、はひっ」
ヤムチャの声が裏返った。顔を真っ赤にして立ち上がる。未だ女性を見ると緊張してしまうようだ。
「お、俺。俺は、俺は……。お、女を守る、かっこいいヒーローに……モテたいっ」
全身プルプル震えている。情けない姿だな。ちょっとおもしろいけど。
「はい、ありがとうございます」
「ぷはあ。はあ、はあ、はあ」
ヤムチャは肩で息をしながら座った。大げさな。
「はい次。マイさん」
「はい」
今回のダークホース、マイ。相変わらず金に苦労しているようでつぎはぎだらけのボロ布を着ている。
「いやあ、実はその、真面目な理由ではないんです。カプセルコーポレーションの職員になれたら、給料いいだろうなあって思いまして。今の生活はギリギリで」
「はい、結構です」
金も本当だろうが、一番はドラゴンボールを狙って俺に近づいてきたんだろう。かわいいから許すがな。
「はい、全員合格です」
「えっ、いきなり?」
クリリンが驚いたように声を上げた。他の連中は仕事の経験などほぼないので反応は薄かった。
「ただし、マシニアさん、プーアルさん、ヤムチャさん、ランチさん、マイさんはマスクの着用をお願いします。理由は分かりますか?」
マシニアはフッと笑った。他のメンバーは理解できないらしい。
「なぜ俺達だけ?」
「警察との衝突を避けるためです」
「うっ」
理解したようで、全員苦い顔になった。プーアル、ヤムチャ、ランチ、マイ。全員盗みで生計を立てていたような連中だ。ピッコロの顔を知る人間は少ないだろうが、かつての虐殺が物語で残っている。隠しておいた方が無難ではあるだろう。
「ヒーローと言っても警察や軍隊の延長のようなものです。犯罪の取り締まりはもちろん、被災地支援、消化活動、緑化活動、貧困地域への支援などなど、要望があれば何でもやります。ただ、あなた達は強くなくてはなりません。軍でも対応できないような強敵を倒す。それがヒーローが必要である理由です。トレーニング施設はカプセルコーポレーションが最新のものを用意します。各人にあった機器を用意することも可能です。外部に支援を依頼することもあります。給与は月額50万ゼニーからです。活躍に応じてボーナスをつけます。昇給もあります。何か質問は?」
ラズリが手を挙げた。
「医療費は?」
「無料です。ヒーロー活動に関係のない風邪の場合も全額こちらが負担します。ただし麻薬中毒やアルコール中毒の支援はしません。むしろ首にします」
「ふーん」
クリリンが手を挙げた。
「武道会とかって出てもいいんですか?」
天下一武道会に出たいからだろう。
「いいですよ。ただし大災害が発生した場合はそちらを優先してもらうと思います」
「分かりました。ありがとうございます」
こうして10人と一匹のヒーロー活動が始まった。
トレーニングは、重力トレーニング室での筋トレ、山での気のコントロールトレ、組み手を中心に行った。ミスター・サタンとマイとプーアルは自力が低すぎたのでほぼ筋トレばかりやらせた。
普段の仕事はほぼ貧困地域への支援だった。俺が指示してそれをやらせた。たまに警察から応援要請がきて、マシニア、クリリン、ナム、俺、のいずれかを出した。他のメンバーはまだ弱くて安全に武装集団を抑えられないから待機だ。
ナム、ラピス、ラズリには緑化活動もやらせた。それを密かにカメラに撮ってヒーロー活動としてテレビに流すこともあった。募金や協力の方法も一緒に流した。
ピッコロは真面目に働いたが、トレーニングは自分流でやると言って俺の支援は受け付けなかった。まあお爺さんだからガツガツ筋トレするのは向かないかもしれない。
ヒーロー活動が軌道に乗り始めた頃、クリリンとナムをカリン塔へ挑戦させた。この期間に戦力が低下するので、他のメンバーも戦闘に参加させることにした。ただし生身で戦うにはまだ実力が低いので、特殊スーツと武器をプレゼントした。
特にマイとランチは武器の扱いが上手かった。昔から銃を扱っていたので当然ではある。ラピスとラズリもほどほどに活躍した。ミスター・サタンは警察よりはマシ程度だった。ヤムチャは活躍したが、女の涙にとことん弱く、度々犯人の逃走を補助した。
約一年後、ドラゴンボールは復活しなかった。俺は不思議に思って神殿へ向かった。
悟空が神と共に修行していた。悟空をここへ行くよう薦めたのは俺だ。
「ブルマ!」
「ふん。勝手に入ってくるとはな」
悟空は純粋に驚いたようだ。神は忌々しげだった。
と、ミスター・ポポがずいと出てきた。
「お前、カリンの許可証ない。ここ神様の住む神聖な場所。出て行け」
「うん。後でね」
「今すぐ出て行け」
ミスター・ポポが若干怒って言ってきた。俺は軽く流した。
「神様ァ! ドラゴンボールが復活しないんですけどォ!」
「ふんっ。お前がドラゴンボールを独占し我欲で使い続けるからな。封印することにしたのだ」
「ふーん」
まあこれは予想できた流れだ。まだナメック星のドラゴンボールがある。サイヤ人化や男性化はできる。
俺の反応が薄いことに神は不満げだった。ムッとした顔でしっしっと手を払った。
「ほら、さっさと出て行け」
「出て行け。力ずくで追い出すぞ」
ポポが脅すように両手を見せた。
俺はにやりと笑う。
「はーい。分かりましたー」
あっけらかんとした声でそう言いつつ、体は戦闘態勢で気を開放する。
「ずあっ!」
俺の体から突風が吹く。一番近くのミスター・ポポは風で持ち上がり、少し離れた悟空と神は険しそうに眉間を寄せる。
この反応、やはり俺の方が強くなってしまっていたか。今の俺は10倍の重力を克服している。そろそろ最長老の力さえ超えてドラゴンボールによるサイヤ人化ができなくなってしまうな。
だが、シェンロンという反則のような力ではなく、自力で強くなりたいとも思い始めてもいる。修行する度にその思いが強くなる。自力と言ってもサイヤ人の細胞の移植はするが。この理系の頭脳で勝負したいという感じだ。