「不可能を可能に? 笑わせないでくれよ更識刃。君にはもう手立てがない。得意の剣術は僕には通用しない。なぜなら君の刀はもう届くことは無いのだから」
青年の声が、のっぺらぼうの炎の人形から響く。体を包み込むような熱気と殺気が体にのしかかった。
フッと口から息を吐き出し脱力。このコンディションでやれる事は限られている。右腕は普段の様に細かい技を放つことは不可能。今の俺に出来るのは初心に帰って力任せに剣を振るうことのみ。
拡張領域から鞘を取り出して刃を収め、抜刀術の構えを取った。
「ああ、確かにそうだ。俺にお前を斬ることは出来ない。
「何?」
「確かにお前には俺の剣術は通用しないのだろう。それは紛れもない事実。だが俺は
――――モード荒天
自身の身体能力を底上げする能力を発動する。地面をぶち抜いたからなのか、使用時間は更に減少して残り十秒。
俺が持っているもの。いや、
「青天井、さっきから絶対防御を自動発動させているだろう。しまえ」
『でもそんな事したら高熱で……』
「問題ない。十秒で方を付ける」
俺は一カ所しか展開出来ないと思っていたが、それは違う。俺の体は絶対防御の自動発動によって守られていた。そうでなければ金属をも融かす一太刀を白刃取りをして、この両手が残っているはずがない。故に、展開できる場所の限界は二カ所。
そして、代わりに展開するのは俺が使用していない機体そのもの。それが隠されているはずだ。ハイパーセンサーや絶対防御が展開出来た今、その存在を疑うことは無い。
絶対防御が解除され、熱風が肌を焼くように吹き付ける。呼吸するごとにグラグラと煮詰まった熱湯を飲まされているようで苦しい。
「俺の腕と一つになれ『青天井』」
『了解。マスター』
光の粒子が右腕を包み、今にも滴が零れ落ちそうな雲の色をした腕部装甲が展開された。無駄のない引き締まった形状。これならばやれると確信を持てる。『荒天』による紫電を帯び、バチバチと音を立てた。
「部分展開だと……!? だがそれがどうした? データに無い行動で驚きはしたが、それでも僕に勝つことは出来ない。どんなに強く、速く振ったところで、僕にそれが当たることは無い!」
「――物が燃えるには酸素が必要らしいな」
「突然何を言い出すかと思えば……当たり前だろう。そんな知っていて当たり前の知識を僕に問うとは舐められたものだね。この部屋の熱でとうとう頭がおかしくなったかい?」
「つまり、燃え続けているお前の体を維持するには大量の酸素が必要ってことだ。もしその酸素が、それを含む空気が、空気が存在している
「まさか……!」
勘違いしていた。物体を斬るんじゃない。俺は物体が存在する
これが、俺がたどり着いた剣術の極地だった。
床を蹴り飛ばして、助走をつける。身体全体の力をこの一太刀に。正真正銘の最後の一撃。狙いは胴体の中央。そこに奴のコアが存在している。
さらに一歩踏み込んで刀が届く間合いに到達。体を
更識流剣術、抜刀――――『虚空』
太刀筋の近くの空間は断ち切られ、宇宙空間の様に黒く染まる。炎の装甲は維持できなくなり消滅した。その中に残っていたISコアを左手でつかみ取った。握りつぶすために力を込める。
「離せ……。僕はまだ……」
「嫌だね。例えお前にどんな理由があろうと許す気はない。このまま消え失せろ」
「くそ……くそぉ! 僕はまだ、まだ役目を終えていない! ここで僕を殺せば近い将来後悔することになるぞ!」
最後の悪あがきと言わんばかりに、コアから湧き出るように炎が湧いて出てくる。虚空で切り裂いた空間が元に戻り、酸素がこいつに届いたのだろう。俺の手を高熱が包むが、構いはしない。
「そんなの知った事か、俺の妹に手を出したその罪、死をもって償うといい」
「止めっ……」
「じゃあな」
力を更に込めて粉々に握りつぶした。パラパラと破片を手の平から床にこぼす。部屋中に広がっていた炎は収まり、代わりに静けさがこの空間を支配した。
「ようやく、終わったか……っと」
視界が歪み、青天井を杖代わりにして立て直そうとするが、展開していた腕と刀が腕輪へと戻って行った。
「全く、無茶をし過ぎだ。馬鹿者」
千冬が肩を貸し、俺の身体を支えた。お前もさんざん無茶をしただろうと言い返したかったが、今は言わない事にした。
「帰るぞ、お前の妹達が待ってるのだろう?」
「ああ……帰ろう」
薄暗くなった部屋に、壁の穴から暖かな日の光が差し込んでいた。
という訳で結局エピローグと分割することになりました。納得いくように手直ししてから投稿するのでもうしばらくお待ちください。
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