シスコン「道が複雑? ぶち抜いてしまえ!」
クロエ「ふぁ!?」
移動面の問題はクリアした。ここから敵がいる地下までは直線距離ならそう遠くは無い。『荒天』を使わずとも一分もかからないだろう。
空中に退避していた四人が、ゆっくりと地上に戻って来た。束に抱きかかえられていたクロエが俺の隣に立つ。
「刃様、くれぐれも無茶はし過ぎないようにして下さいね」
「お前こそ無茶はするなよ。――――いや、やっぱ無しだ。刀奈と簪を守れるぐらいには無茶してくれ」
「フフッ、この状況でも平常運行で何よりです。――――ご武運を」
「ああ」
クロエが突き出して来た拳に俺の拳をぶつける。一年前はあれだけ憎まれ口をたたかれていたのに随分と仲良くなれた物だなと、思った。
クロエは俺に背中を預けるように反対側に歩いく。あれだけ小さな背中なのに何故か頼もしく感じた。
地面に開けた空洞を見つめた。俺を二年もの間妹達から遠ざけ、刀奈をあんな目に合わせた奴が、この先にいる。まだ見ぬ敵との最後の戦いを前にして、
「兄さん、力み過ぎ~もっと脱力した方が良いわ」
「うん……動き硬くなるよ」
表面にいた妹達に指摘される。二人とも俺がいない間に武術に身を置いたからなのか、些細な違いに気が付いたようだ。
流石は俺の妹。たった二年で代表と代表候補にまで上り詰めただけはある。とはいえ、指摘されるようじゃ俺もまだまだな……これじゃ親父に笑われちまう。
二度深呼吸してから右肩をぐるっと一周させた。
「じゃあ、行ってくる」
「うん、いってらっしゃい」
すれ違いざまにハイタッチを両手で二人から受け取った。余計な言葉はいらない。俺は今できることを精一杯、全力でやるだけだ。
――――ワールドパージ開始
クロエがそう告げたのと同時に青天井を腕輪に戻して地下に向かって走り出した。
下に向かうにつれて高まる熱気。何かが焼け焦げているみたいな香りが地上に出たがる空気に乗って俺の元へ届いた。火事か……? いや、予測を立てるのはやめろ。それ以外のことが起きていた時、対処に遅れる。俺がすべきことは順応性を高め、その場で見たことに最善の判断を下すことだ。
自分がこじ開けたトンネルを最速で走り抜けた。細い道から視界が一気に開けた。
そこで俺が見たものは、迫りくる炎の壁。それはまるで津波の様に巨大で、そこにいるもの全て呑み込んでしまいそうだった。
上がった視点を戻すと床には倒れ込んだ一夏君、そして彼を守るように千冬が剣を構えていた。ISを装備していない以上は千冬にあれを防ぐ手立てはない。俺が何とかするしかない。
「伏せろ千冬!」
「っ!」
俺の言葉に気が付き、千冬は言う通りに体を伏せた。恐らく範囲からして、衝撃波では防ぎきれない。イチかバチか、やるしかない。右腕を前に出して無色の盾を展開するイメージで引き出せ!
「絶対防御、展開!」
待機状態の腕輪が俺の意思に呼応するように光り、目の前に不可視の盾が展開される。ISの搭乗者を守護する最高の守りは、その効果をいかんなく発揮し、天災ともいえる攻撃をしのぎ切った。
「危ない所だったな千冬」
「刃か……どうやってここを?」
「細かいところは束に聞いてくれ。それより今のは……」
「更識刃……! あと少しで
俺達の会話に割り込む第三者。床を埋め尽くす炎の海をかき分けて歩いて来た。千冬に瓜二つの容姿のそいつは、憎らし気に俺を睨みつけている。
初対面だが俺にはその正体に心当たりがあった。なぜなら俺はそいつの計画を阻止するためにこの二年間戦い続けたのだから……。心当たりを確信に変えるために、一つの問いを投げかける。
「――――お前がやったのか?」
「ん? ああ……粋な演出だろう? 愛し合う兄妹が命をかけて争うのは? 君がここにいるってことは愛しの妹を殺してからこっちに来たってことで、いいんだよね?」
そう言うと、ゲラゲラと品もない笑い声を立てた。
黒だ。疑う余地もない。こいつがISを操っていた張本人、コアの意思。
奥歯をギリっと噛みしめて、言葉をひねり出す。
「――――千冬、一夏君を連れて離れてろ。こいつは俺がやる」
「しかし……!」
「しかしも何もあるかバカ。体がその調子じゃハッキリ言って邪魔だ」
「随分はっきり言うんだね更識刃。織斑千冬には引けない理由があるのにさ」
「どういうことだ?」
ニヤニヤと腹立たしい笑みを浮かべたまま、そいつは言葉を連ねる。息継ぎの間でさえ、苛立ちを覚える。ここまで生理的に受け入れることが出来ない人物は生れて始めてだった。
「なぜなら……この体は彼女の妹『マドカ』の物なのだから」
千冬は俺と同じく兄妹を溺愛している。故に、敵のこの行為にどれだけ苦しめられたかを察する。困ったことに、理性で自分を縛れるほど余裕が無い。
その証拠に、既に鎖から解き放たれた脳は体に命令を下していた。
「――――
右腕を突き上げ、青天井を展開した。九点の急所に神速の剣撃を叩きこむために、穴が開くほど目の前の敵を凝視。一瞬で剣撃のイメージの構築を完了した。
「
そして、感情が赴くままに刀を振るった。だが手ごたえは無く、まるで素振りをしたかのような感触だった。軽くなった右手に違和感を覚え、握っていた青天井を見る。そこにあるはずの
「なっ!?」
「何が起きたのか分からないかい? まあ……無理もないけどさ」
炎を帯びた剣が俺の頭上から振り下ろされた。
黒騎士「一体いつから、技が気持ち良く決まると錯覚していた?」
シスコン「なん……だと……?」
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