束達三人の協力もあり、刀奈を救出をした刃。その頃千冬は……?
「…………」
一夏が何か呟いてから纏っていた雰囲気が一変した。冷たく肌を突き差すような空気。これをあの一夏が創り出している。私には別人ではないかと疑ってしまうぐらいに信じられなかった。
そこからの攻防は一瞬。パワー、スピード、駆け引き、あらゆる面においてまどかを圧倒。最期は零落白夜のエネルギー弾をゼロ距離で打ち込んで勝利をもぎ取ったのだ。
しかし、その後はまるで糸が切れた操り人形のようにまどかと共に倒れ込んでしまった。互いの専用機は解除されて、互いが握っていた
私は慌てて一夏に駆け寄って肩をゆする。
「おい、大丈夫か一夏! しっかりしろ!」
「ち…千冬姉……?」
良かった、意識はある。無事を確認できたことで思わずほっと、胸をなでおろしていた。だがそれも放たれた殺気によって再び緊張状態へと戻される。
「っ!?」
とっさに落ちていた
「へぇ、完全に虚を突いたと思ったんだけどな。そう簡単にいかないか」
姿はまどかそのもの。だがその太刀筋は別人。表情もこれまで見せていた憎しみに駆られたものではない。むしろその真逆、目を細めて満面の笑みを浮かべている。今すぐに燃やして処分したいぐらいに気味が悪い。
「誰だ、お前は」
「僕かい? 僕の名前は黒騎士。君たち人間を管理しに来た」
そいつは剣を握っていない手を胸に置いてそう言った。
☆
「んっ……」
温もりが心地よくて、二度寝に入りたくなりそうな所を揺さぶられる。全身が重くて指を動かすどころか、瞼を開けることすら
「起きないか……なら」
突如謎の浮遊感に襲われた。もしかして投げられた!? 慌てて目をこじ開ける。億劫とか言っていられない。広がる景色はピントが合っていなくてぼやけていた。それでも何とかしようと足をじたばたさせる。空を切ってその成果はまるで感じられない。このまま地面に落ちるのかと思うとぞっとした。
「よっ、と」
想像していた地面に叩きつけられる感触ではなく、温かくて弾力のある感触。ピントの合って来た視点をそこに向けると、いたずらが上手くいった子供の様に微笑む兄さんが映った。
「兄さん、その起こし方洒落にならないから止めてって言ったよね……」
「はい――――すみません」
弱弱しくなる兄さんの声とは対照的に私の声は強くなっていった。
▼▼▼
「お姉ちゃん、そのぐらいに……」
「はぁ……そうね。次はないからね兄さん」
「……承知しました」
「束……俺頑張ったよね?」と、篠ノ之博士に泣きつく兄さんから目線を外して、説教を終えた私は改めて周りを見渡す。対峙していた二機のISは拘束。いつの間にか兄さんだけでなく簪ちゃんに篠ノ之博士、クロエちゃんまでこの場に出そろっている。どういう事……状況の変化に追いつく事ができない。
「簪ちゃん、いつ来たの?」
「え? ……そうか、分からないよね。お姉ちゃん乗っ取られてたんだよ」
乗っ取られていた? つまりはあの二人の様に兄さんを襲ってたってこと? 兄さんに目線を移すと今朝から来ている白のワイシャツは焦げていたり、裂けて赤く染まっている。
「どうした刀奈? 俺になんか変な物でも付いてるか?」
「な、何でもない!」
「お、おう? そうか」
私の為にボロボロになりながらも頑張ってくれて嬉しかったけど、さっきまで怒っていたからなのか素直になれずに突き返してしまった。そんな私を見透かしたように、簪ちゃんはにやけながら見てる。後で何を言われることやら……。
「っ!? そんな……あり得ない」
私が小さな心配をしていると、篠ノ之博士が右手で顔を隠しながらそう言った。常に周囲に余裕を見せる事が多い篠ノ之博士だが、このときばかりは焦りが見られた。
「束様どうかしましたか?」
「くーちゃんマズイよ。ISコア反応が接近してきてる。数は五機、十機……まだ増えてる!?」
嘘や冗談だと思いたい。二機ですらいっぱいいっぱいだったのに、それが十機以上!? いくらこの場に五人いるとしても兄さんはさっきの戦闘で消耗しているし、私もISを展開できそうにない。それに篠ノ之博士はともかく、簪ちゃんやクロエちゃんに多対一をこなせる技量があるとは思えなかった。
「なりふり構わず
「もうないよ。あれ使い捨てだし、アラクネからはぎとったのはあれだけ。ああもう! こんな事ならプライドとか言ってないで量産しとくんだった!」
「さっきと同じくISをぶち壊すと自爆する可能性ありか……くそっ! ハードすぎるだろ」
兄さんは打開策を考えていたようだが私と同じく解決には至らなかったらしい。右手で頭をかきむしっていた。
そんな中ただ一人、冷静さを欠かずに平常心を保っている人物がいた。クロエちゃんだ。篠ノ之博士と兄さんを見つめて何か決心したかのようにフッと息を吐いてから淡々と意見を口にした。
「束様、ワールドパージを使いましょう。もう……それしか手はありません」
次の瞬間、篠ノ之博士が胸倉を掴み、鋭い視線でクロエちゃんを睨みつけていた。
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