更識家長男はシスコンである。【完結】   作:イーベル

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 迫りくる刀奈の槍の穂先。背後には捕らえた二機。

 無我夢中で青天井を鞘に収まったまま展開する。抜刀するために右手を柄に添えた。だがスムーズ抜刀出来ずにカチャカチャと音が立つ。手の震えが収まらなかった。

 

 「動け、動けよ!!」

 

 そんな俺の考えとは裏腹に、震えは右腕全体に広がっていって、いくら念じても動かない。

 もたついている間に、槍はさらに近づいてくる。

 結局、俺はどの選択肢を選ぶことが出来ずにそのまま俺の腹部を貫く――――かのように思われた。

 

 窓ガラスが割れるような音。その直後、世界が真っ白に染まる。いつも着ているドレス、腰まで伸びた銀髪が俺の目の前を横切る。空のカンバスに立つ彼女は呆れたように口を開いた。

 

 「やれやれ……世話が焼けます。危ない所でしたね刃様」

 「クロエ!?」

 「助けさせておいてそれですか……お礼の一言、二言を言えないんですか?」

 「お前、それどころじゃ「刀奈様なら心配要りません。攻撃目標を見失って動きが止まりました」

 

 俺の思考を読み取ったようにそう言った。見失った? 疑問を解消するために辺りを見渡すと、景色が白一色に染まってからは刀奈の姿が見えない事に気が付いた。

 

 「クロエ、お前何をしたんだ?」

 「私のIS『黒鍵』の能力です。大気成分を変質させて幻影を創り出しました。今敵には私たちの姿は認識されていないはずです」

 

 これまでクロエのISを見る機会がほぼ無かったため、そんな話は初めて聞いた。

 

 「悪い、助かった。……いっ!?」

 

 クロエと話して気が抜けたのか、荒天の反動や体に出来た傷の痛みを激しく感じた。でも何だかそれだけじゃない。腕に違和感がある。それは段々と大きくなり、締め付けられるような痛みが強くなっていく。

 振り返ると専用機を展開した簪が俺の腕をつかんでいた。目つきは半目で呆れるように俺を睨みつけている。

 

 「……お兄ちゃん無茶し過ぎ。傷口に塩磨り込むよ」

 「痛いって簪! 腕掴むの止めてくれ! そこ傷口だから!!」

 「反省した?」

 「した! したから!」

 

 どうやら怒らせてしまったみたいだ。あとで機嫌を取らないとな。久々にお菓子を作ってあげるのもいいか……ホットケーキミックスがあったからカップケーキにでも……。

 いやそんな事を考えている場合じゃないだろう! 

 

 「かんちゃん~そこらへんにしてあげてよ。やっくんだって好きでこんな無茶はしないって。それより今はもっとやるべきことがあるでしょ~」

 「――それもそうですね」

 

 束の説得もあって簪はようやく手を離してくれた。だが、目つきは相変わらずで俺を許してくれた訳では無いようだ。これは立て直すのに時間がかかりそうだな……。

 

 「それで? やっくんはかんちゃんが怒るぐらいにズタボロな訳?」

 「それはだな――」

 

 俺は三人にこれまで行って来た戦闘の話をする。簪達の表情は次第に曇っていき、対照的に束は苛立ちを隠せなくなっている。ドレスのスカートがちぎれるんじゃないかってぐらいに力強くつかんでいた。

 

 「なんだよ…それ、反則もいいとこじゃないか!」

 「だから助かった。お前たちが来てくれなかったら俺は……」

 

 俺はどうしていたのだろう? あのまま貫かれていただろうか? それともその前に切り捨てていたのだろうか。どうやっても助けられたビジョンが浮かばない。

 俺より優秀な参謀に聞いた方が良さそうだ。

 

 「束、何とか出来ないか?」

 「やりたいことはエネルギーをこれ以上減らさず、尚且つISを解除させることだよね~」

 「そんな事できるのか!?」

 「1か0しか考えつかないやっくんとは違って、この天災束さんには策があるのさ~」

 

 そう言って拡張領域から手のひらサイズの秘密兵器を取り出した。こいつは……成程な。これなら刀奈を助け出せるかもしれない。

 

 「OKだ。その策、乗らせてもらう。簪、クロエ、手伝ってくれるか」

 「何を今更……手伝うに決まってる」

 「ええ、簪の言う通りです。断る訳無いじゃないですか」

 「ありがとう」

 「礼は後で良いです。解除しますので気を引き締めて下さい」

 

 景色が色づき、元のアリーナの風景へと戻っていく。そして空中で静止する霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)。生気の無い目つきで俺を補足する。待ってろ刀奈。今すぐそこから解放してやる。

 

 ☆

 

 「まずは目眩ましからいくよ。三秒後、空中に飛んで」

 「わかった」

 

 篠ノ之博士が担いていたハンマーを()()()構える。さっきここに突入したときに使った物だ。封鎖されていたアリーナを壁ごと破壊したトンデモ兵器。慌てて後ろにいた二人を掴んで空中に避難する。

 

 「行くぜ、クレーターメイカー! 出力100%!」

 

 打撃面の反対側の面が開いて、中からスペースシャトルのブースターのような物が出てきた。素であの威力だったってこと!? 驚く私をよそに威力を上げた一撃を地面に叩き込んだ。 

 地震と錯覚する振動、巻き上がる砂埃。後はお兄ちゃんがあれを発動させればお姉ちゃんを助けることが出来る。

 

 だけど、お兄ちゃんを苦しめた敵がこの程度の単純な策に引っかかる訳が無かった。

 次の瞬間、砂埃による迷彩は一瞬にしてはぎとられた。

 

 「なっ!?」

 

 水を操る事によって空気中の砂をからめ取られてしまったのだ。機体の性能を本人以上に使いこなせる。それ故に、予想だにしない行動をやってのけた。機体まであと数メートルのところまで来ていたお兄ちゃんが見つかってしまった。

 

 「お兄ちゃん危ない!!」

 

 操られたお姉ちゃんは槍の先端を向けて発砲した。お兄ちゃんを間違いなく弾丸が貫いた。嘘……こんな事って。どうして……お兄ちゃんがこんな目に合わなくちゃいけないの!?

 歯を噛み締めて目を伏せそうになったとき、お兄ちゃんが霧のように散っていくのが目の端に映った。

 

 「ナイスフォローだクロエ。よく俺のアイコンタクトに答えてくれた」

 

 お兄ちゃんだと思っていたのはクロエ。幻影の能力によって入れ替わっていた。弾丸はシールドバリアで防御されている。お兄ちゃんはその逆方向、背中にたどり着いていた。博士から受け取っていた機械を貼り付ける。

 四本足の機械が電撃を放った。剥離剤(リムーバー)。ISを強制解除させる武装。学園祭のとき一夏に敵が使っていた機械だ。

 

 まともに受けたお姉ちゃんのISは解除され、体が空中に投げ出される。お兄ちゃんは空中でキャッチした。俗に言うお姫様抱っこというやつだ。

 そしてハンマーによって大半が削り取られて凹んだ地面に着地する。

 

 優しい目つきでお姉ちゃんを見つめているその姿は、身内補正を抜きにしても絵になっている。まるでヒロインを助けたヒーロみたいにかっこよかった。

 

 「やっぱ刀奈って抱き心地が最高だ……簪もそう思うだろ?」

 

 ……黙っていれば良かったのに。

 




刃「正解はDの(たば)えもんの秘密道具に頼る!」

という訳で最新話でした。お楽しみいただけたでしょうか?
今回は久々に武器紹介をします。

ハンマー『クレーターメイカー』

 52話にて登場。束が使用した黒いハンマー。とてつもない重量が特徴でシスコン、ブラコン勢ですら素の状態では持ち上げることが不可能だが、束はそれをPICによる補助で使用していた。
 威力は名前の通りクレーターを作り出すほど、内部のスラスターを出すことで威力を底上げできる。

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