更識家長男はシスコンである。【完結】   作:イーベル

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脳筋

 体が押さえつけられるような圧迫感。いや、体というより空間が静止させられている。

 起動したままだったハイパーセンサーは俺の正面に浮いている機体を捉えた。黒が主体の機体とビットを操る青い機体。どちらも資料で見た事があった。たしか……代表候補の専用機。IS学園にいる生徒たちの物だ。

 

 「人の試合に割り込むとは……あんたらの祖国ではマナー講座すら無かったのか?」

 「――――――」

 

 俺の問いに対して帰って来たのは沈黙。

 俺は苛立ちを覚えて顔を睨みつける。そこで違和感に気が付く。

 瞳は虚ろで、口は半開き。唾液が唇から溢れていた。意識が無い……のか?

 ならどうしてそんな状況でアリーナに来ているんだ?

 

 その問いに対する最悪の予測が導き出された。

 パイロットの意識を奪い、人間ごと操作されているという状況が。

 一夏君や束から聞いていた様子とも酷似しているからほぼ確定だろう。

 

 しかし……あることが判明していない以上、下手に撃退することは出来ない。

 あともう少し時間が欲しかった。

 

 レールガンの銃口が俺の眉間に突き付けられた。冷たい鋼鉄の感触が伝わる。

 考え事は後回しだ。まずはこの状況から抜け出そう。

 

 AICの強みは敵を行動できなくすること。動けなくなるってことは押さえつけられているって事だ。ならばそれ以上の力が加われば維持できなくなるはずだ。

 全身をだらっと脱力させ、その後『荒天』で強化した筋力で内側から無理やりこじ開ける!

 

 「だあぁぁらぁ!!」

 

 紫電がバチバチと音を立てながら散る。体が閃光弾の様に発光した。

 目論見(もくろみ)通り拘束を振り(ほど)き、脱出に成功。地面に着地する。

 

 「大丈夫兄さん!?」

 「問題ない。あれはどちらも生徒の機体であってるか?」

 「ええ、学園に在籍中のラウラちゃんとセシリアちゃん。でも今は一時帰国していたはずよ。どうしてここに……」

 

 俺は各国のISを回収する際に一機ずつ残している。それは何故か。けん制させ合うためだ。全ての戦力を刈り取ってしまえば、その国に攻め込む可能性がある。

 だから最低限の防衛力のみを残した。それが裏目に出るとは思わなかったが……。

 

 制限時間のある荒天を解除する。約一分の使用。残り時間は四分。計画的に使わないとな。

 

 「刀奈、一夏君とそこの金髪少女連れて千冬に状況を伝えに行け。対応策はそっちに任せる」

 「一人で残るって言うの!?」

 「二対一なら何とかできる」

 「そんなの嫌。何でも一人で解決する癖は止めて。私だって()()なんだから!」

 

 そんな風に力強く言われてると断りづらい。こいつだって我が家の立派な当主なのだ。生徒会長(最強)のプライドだってあるだろう。

 他でもない刀奈の頼みだ。任せてみよう。妹を信じられなくて兄が名乗れる訳がない。

 

 「分かったよ刀奈。お前にはあの青いのを任せる。それと、一夏君!聞こえてるな?」

 「はい!」

 「千冬に一刻も早く伝えてくれ、的確な指示が欲しい。君にしか出来ない重要任務だ。頼めるか?」

 「了解です!シャル、行くぞ!」

 

 二人は機体を展開して空中を駆けて行った。

 

 さて……後は力の限り敵をなぎ倒すだけと言いたいが、そうも言っていられない。

 下手に撃破してしまうと『銀の福音』みたいに自爆されてしまう危険性がある。となると時間稼ぎで束が解除方法を導き出すのを待つしかない。

 

 「刀奈、撃破はするな。時間を稼げ。終わりが見えない持久戦、根競べだ。覚悟は出来てるか?」

 「何を今更。そんなの残った時点で出来てるわよ。それとも何? 兄さんからみて私はそんなに頼りない?」

 「そ、そんな事あるわけないだろ!」

 「フフッ、からかってごめんなさい」

 「ったく、反省してないだろ……。まあいいそろそろ来るな。構えろ」

 

 俺は青天井を右手に、鞘を左手に構え、刀奈は槍の穂先を敵に向けた。

 重っ苦しい雰囲気にしびれを切らしたのは敵二機。二本のワイヤーブレードが射出され目の前に迫る。

 

 ――月牙天衝

 

 一太刀斬撃を放ち、それを粉々に破壊する。時間稼ぎに置いての基本は敵の武装を()ぐことだと思っている。どんなに優秀な兵士でも武器を持っていなければその戦闘力は半減だ。

 それだけ俺自身を倒す時間が長引くってことだ。

 

 今の動きで攻撃目標が俺に向いたのか、青い機体からビットによるオールレンジ射撃が放たれる。それとほぼ同時に黒い機体のレールカノンが火を吹く。

 

 やっぱり便利だなハイパーセンサー。この状況で何処からどんな攻撃が来てるのか瞬時に判断ができる。使い過ぎると頭痛が止まらなくなるのは困りものだがな。

 実弾はともかくレーザーを直接切ってしまうと、刀身が融けて残りを防ぐのに使えなくなる。故に全て衝撃波で叩き斬る。

 

 ――――月牙連衝(げつがれんしょう)

 

 目にも止まらぬ速度で四回振るわれた刀は空気を振動させ、レーザーを相殺しその奥にある砲身すらも粉々に破壊した。 

 最後に実弾を切断し無力化させる。

 

 

 「ふぅ――――筋肉のおかげで助かったぜ」

 「兄さん、それあんまり関係ないわよ……」

 

 刀奈は呆れたようにそう言った。

 




本日のシスコンの脳筋行動集

◦AICを筋力で破る。
◦ほぼ同時の五方向銃撃を全て切り裂く。

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