「中々いい動きをするようになったじゃない。兄さんがなんかアドバイスしたの?」
「大したことは言ってない。一朝一夕で身に付くことじゃないしな」
放課後のアリーナで模擬戦中の一夏君を刀奈と一緒に眺めている。聞いた話だと
刀奈曰く、機体の燃費の悪さが敗因になっていたが、パイロットもその原因を担っている事を自覚したからだとか。
俺からすれば何で気が付かなかったかを問いただしたいぐらいの発想なのだが……。
例えるなら以前の戦闘スタイルは、短距離走専門の人間が、フルマラソンを全力で走り続けていた状態。それを専門に戻したのだから、勝率が上がったのは当然なのだ。
「兄さんから見て一夏君はどうなの?」
「戦闘面からポテンシャルは高いが、それを未だ持て余してるって感じだな」
「へぇ……結構評価高いわね」
「そうか?」
「将来性が無いなら眼中に無いでしょ」
「それもそうだな」
将来性もあるが彼を目にかけている一番の理由は、数年前の自分を思い出すからかもしれない。
不器用さ加減といい……。少しぐらい手伝ってやりたくもなる。
「ところで兄さんはさいろんな国の国家代表と戦ったんでしょ?」
「殆どの大国の代表とはやったぞ。イタリア代表と
今思い出すだけでもゾッとする。あいつは間違いなく俺や千冬クラスの化け物だ。千冬が現役を退いた今、敵う奴なんていないだろう。
何とか引き分けに持ち込んだが次はどうなるか分からない。『荒天』を使用して勝率は五割と言った所か。
「少し手合わせしない? 私これでも国家代表になったのよ」
「知っているさ。活躍もチェックしてる。サインが欲しいくらいだ」
「それは嬉しいわね。じゃあ賭けをしましょ。私が負けたらサインをプレゼントしましょう。勝ったら簪ちゃんと一緒に美味しいご飯に連れてって欲しいな~」
「俺が勝ったらサインか……よし乗った!」
「決まりね。一夏君達の決着がついたら下に降りましょう」
▼▼▼
下に降りると金髪の少女が一夏君と反省会をしていた。交渉すると、難なくアリーナを借りる事が出来たので一安心する。
あとはISスーツに着替えている刀奈を待つだけだ。
「兄さん。許可は取れた?」
カタパルトから現れた水のベールを纏った機体。
水を自在に操ることで変幻自在の戦いを可能とする厄介な機体だ。
「ああ、問題ない。代わりに見学許可を出したが大丈夫だったか?」
「今更隠したところでって感じだから構わないわよ」
「じゃあルールを決めておこう。制限時間は十分。有効打を先に決めた方が勝ちでどうだ?」
「それでいいわ。始めましょう」
白が主体の腕輪に触れて、青天井を右手に展開すると刀奈は槍を取り出した。そこにも水が纏わりつく。カウントダウンが開始されて、五から順番に数字を減らしていった。
そしてゼロになった瞬間、大地を蹴って刀が直接届く距離まで詰め、上段から振り下ろす。
奇襲に成功したのか刀奈はまだ動かない。そのまま刀を振りぬいた。一瞬勝利を確信しかけたが、刀に伝わる感覚からすぐに気を引き締め直す。
「水分身か……!」
「分身は兄さんの専売特許じゃないのよ」
分身の背後に潜んでいた刀奈が槍の先を向ける。突きを警戒しがちだが、確かあの槍にはマシンガンが仕込んであったはずだ。
この至近距離、刀では弾き切れない。そう判断した俺は青天井を手放し腕輪に戻す。腰のナイフを二本逆手に持った。最期にハイパーセンサーを起動。この間一秒を切る。
そして放たれた弾丸をナイフをもって全て弾いた。
「やるわね兄さん」
「この程度で終わったら味気ないだろう?」
「そうね。兄さんはそんな残念な人じゃないわね。でもこれはどうかしら?」
刀奈は意地悪な笑みを浮かべて、指を鳴らした。その瞬間ここまでの行動が全てが布石であったことを察した。
――
霧状にナノマシンを散布させてそれを起爆させる技。最初の水分身は俺に攻撃させて水を周辺に散らすため。その後のマシンガンも俺の気を引くため。
最初から最後まで罠尽くし。流石は俺の妹だ。戦場での駆け引きに
だが、俺も負けられない
少し――――本気を出そう。
☆
指を弾き気化した水を熱へと転換。地面一帯を爆発させた。刀一本では到底防ぎ様の無い攻撃。これがそこらの代表候補生ならば勝ちを確信するけど……相手はあの兄さんだ。どんな事をしてくるか想像がつかない。
決着を知らせるブザーは鳴っていない。つまり、あの
「容赦ないな……刀奈。流石に使わざるを得なかった」
上空から声が聞こえて、視点を上げる。兄さんの髪は下敷きで擦ったみたいに逆立ち、黒い刀を握っていた。どうやらあれが簪ちゃんが言っていた兄さんの能力みたいだ。
「それが兄さんの能力?」
「ああ、『モード荒天』。体に電気を流し、身体能力を高める能力だ」
兄さんの身体能力は常人の域からかけ離れている。それを更に高めるのだ、あの攻撃を避けられても不思議ではない。だけど……
「でもいいの? そんな悠長に話してて? スラスターが無いんだから空中では動けない。その状態でこの一撃を避けれるかしら?」
身に纏っていた水を全て槍に収束させる。
――ミストルテインの槍
私の奥の手の一つだ。一撃必殺の大技であり、動けないこの状態なら確実に当てる自信がある。だけど、この隙だらけでどうしようもない状況にもかかわらず、兄さんは笑顔を崩さない。まだまだ余裕ってことね。
これ以上策は無い、無理やりにでもこの一撃を決めるしか私が勝つ道は無い。
スラスターを吹かして、接近。槍を正面に構えた。
「いい判断だ。でも誰が空中で移動できないって決めたんだ?」
空を踏みしめて上から一気に降下する。刀を上段に構えている。
出し抜かれた……!? そんな動きが出来るなんて……。このまま正面から打ち込むしかない!
右腕を突き出して渾身の突きを放つ。それと同時に兄さんの刀が振り下ろされる。
そう思った。しかし、兄さんの手は止まり、目を見開いている。
「悪い、歯ぁ食いしばれ刀奈――!!」
左にスピンして槍を紙一重で避けた。そして、その遠心力を利用して回し蹴りを繰り出す。
一瞬の出来事だった。忠告のおかげで不意の一撃を避けることが出来た。蹴りを胴に受け、シールドバリアが発動。地面に叩きつけられた。
これで兄さんの勝利が決まった。兄さんは地面に降りてこない。違和感を覚えて見上げると、蹴った体制で空中に静止している兄さんが見えた。
「――AICか……。何者だ」
その問いに答えるように、見覚えのある機体達が虚空から姿を現した。
当作をご覧になっている読者の皆様、毎度ありがとうございます。
兄妹模擬戦の末に、騒動の導入を入れた所で……今回は重大なお知らせがあります。
実はこの騒動がラストエピソードです。
これからいい感じに〆られるよう頑張ってきます。
感想評価等お待ちしております。