「くそ……なんで」
最初の威勢はどこに行ったのか、目の前にいる女は恐怖のあまり震えている。無様に尻餅をついて私を見上げていた。もう二度とこの耳障りな声を聴くことが無いと思うと心が躍った。
「機体を失ったお前を回収したのは情報を吐かれるのは面倒だからだ。少しでも情報は隠しておきたいからな」
「そんな……スコールは! スコールは何って言ってた!?」
「これから消えるお前に教える義理は無い」
ブレードを展開し首に突き付け、腕を後ろに引いた。首に向かって振り下ろす。しかしそれは間に入った機体によって阻まれた。一度間を取るためにバックステップで引き下がる。
――邪魔が入ったな。
「どういうつもりかしらエム?」
「邪魔なこいつを始末しようとした。それだけの事だ」
「私はそんな命令を下した覚えはないし、これ以上余計な事をするなら――」
「ナノマシンで脳を焼き切る、だろう? 聞き飽きたな」
構わずにスラスターを吹かせて、助走して斬りかかる。スコールは繭を展開して私の斬撃を受け止めた。
「いいのね?」
「やれるものならやってみろ」
「あなたにはもう少し組織の為に頑張って欲しかったのだけれど……」
拡張領域からスイッチを取り出す。あれは私の体内にあるナノマシンを制御する物。私を縛り付けていた枷。スコールは
「どうして、どうして何とも無いの!?」
「あれは対策済みだ。『勝算の無い戦いはするな』ってあんたがそう教えただろ?」
「そんな工作をする様子なんて監視していても無かったはずよ。どうやって……」
「見れなくて当然だ。私自身は工作していないし、工作した奴もお前たちの目に映ることは無いからな」
予想外なところからの接触ではあったが、貰ったチャンスを逃す気はない。負けてしまえばもう一度ナノマシンを埋め込まれる。いや殺されると思っていいだろう。
「そう……なら力ずくで仕留めるだけよ。裏切者には死を与えるわ」
スコールは右手に銃と左手にショートブレードを展開する。奴のISは防御特化の機体。攻撃はそれほどでもないが、繭を突破するのは至難の業。だが今回は後ろに足手まといがいる。
「焼き尽くせ――――黒騎士」
業火が足元から広がって、スコール達に襲い掛かる。繭を展開して体を包むように防御した。
「こんな隠し玉があったとは驚きだけど、これでは私の繭は破れないわよ」
「そうだな。だが……オータムはどうかな?」
「っ!?」
今この室内は炎によって高温になっている。繭によって炎をガードしても熱は防ぎれない。シールドバリアによってISによって熱から守られるスコールとは違い、オータムは生身。行動を起こさなければ蒸し焼きになるだけだ。
案の定スコールは行動を起こした。繭を展開したまま体当たり。かなりの硬度を誇る盾による攻撃だが今の私には恐れるに足らない。ブレードに熱を纏わせて迎撃態勢を取る。
「熔かし斬る」
突っ込んで来たスコールを繭ごと叩き切ると動きを止めた。
「お前の機体は壊れるまで使い潰してやるから安心して死ね」
「ふっ……ここまで成長するとは思ってなかったけど自業自得ね。良かれと思ってやったことが裏目に出たわ。自由になったあなたがこの後どうするか知らないけど、ろくな事には……ならない……でしょうね……」
スコールは皮肉気に笑うと既に息絶えていたオータムの後を追った。
『これで晴れて自由の身だね。マドカ』
男性の声が頭に反響する。協力者である彼の声だ。
「起きていたのか」
『あれだけ派手にやればね。これからはどうするんだい?』
「しばらくは能力のテストだ。万全の状態で無ければ姉さんに太刀打ちできない」
『慎重だね~君は。暮桜のコアさえ手に入れてくれれば僕は構わないけどね』
深海の拠点で彼の声を私だけが聞いていた。
☆
「馬鹿正直に正面から突っ込むから一夏君はか…楯無に完封負けするんだ」
ランニング後に一夏君と軽い手合わせをして欠点を指摘する。正々堂々と勝負したがる傾向があるのか、フェイントを入れる回数も少ない。良くも悪くも素直過ぎる。
「でも機体のスピードを利用して近づく以外にどうやって」
「一夏君の
「緩急、ですか?」
「一夏君はバスケとかサッカーって経験あるか?」
「いえ、俺は剣道を少しかじったぐらいで他は学校の授業ぐらいですね」
「じゃあ軽く説明しようか。さっき話した競技ではドリブルに緩急をつけることでディフェンスを抜いたり、野球では投球に球速差をつけて打者を出し抜いたりするテクニックだ。
チェンジ・オブ・ペースとも言う」
「でもそれが何の関係があるんですか?」
「大有りだ。高い状態から瞬時加速するより遅い状態からした方が、速度差がある分、目で追いにくくなるんだ」
「成程、その分出発地点も悟られにくくなるわけですね」
「そういうことだ。他にも応用をすると…」
一夏君に近づくときに緩急をつけて少しずつ認識をずらしていく。『
「こんな風に分身もできる」
「いや無理ですよそれ!」
一夏君には
???「クセになってんだ、音殺して歩くの」
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