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今日も束の手伝いをして一日を過ごした。機械などの知識が無いので、基本的に荷物の運搬が仕事になる。無心で働くこと数時間。そろそろ終わりじゃないかと、壁に掛けられた時計をチラッと見る。午後七時。外では日が暮れて、すっかり暗くなっているだろう。
「刃、束。いるか?」
ドアを開け、中に千冬が入って来た。黒のスーツをビシッと着こなす彼女はこの時間になっても崩れない。俺は事務作業が後半になるにつれて、だらけていくので、きっちりと仕事をしている人を尊敬する。
「どうした千冬。何か用か?」
「刃か、束はどうした」
「奥でキーボードを打ってる。何してんだかサッパリ分からないが、そろそろ終わるんじゃないか?」
そんな話をすると奥からものすごいスピードで束が駆けてくる。
「ち~ちゃ~ん」
助走の勢いをそのままに、抱き着くようにして両手を広げ飛びかかる。あれを胴体で受け止めればひとたまりもないだろう。千冬は手慣れたように回避して頭部をわしづかみにした。
「だから危ないからそれはやめろと言っているだろう」
「今私の頭が危ないよ~痛い痛い痛いってちーちゃん~! やっくんも見てないで助けて~」
「少しは反省してろ」
容赦なく込める力を強めたようだ。俺が本気で力を入れても大丈夫だったから別に問題は無いだろう。それにしても束の頭部は何でできているのだろう。きっとダイアモンドよりも固い何かでできているに違いない。しばらくして、千冬も満足したのか束の頭部を開放した。
「うぅ~頭が割れるかと思ったよ~」
束は涙目でうずくまり、頭を抱える。流石に俺でもやられたくはない攻撃だったので、少しだけ同情する。束の突撃により曖昧になっていたが、千冬は俺達に用があって来たようだったのを思い出した。
「そういえば千冬は何の用だ。何となく来たって訳でもないだろう?」
「……いや、特に用事があった訳でないんだ。二人ともちょっと付き合ってくれるか?」
疑問を抱きながらも片付けをして、千冬の先導で俺達はIS学園の外に出た。
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「ついたぞ」
「ここは……居酒屋か?」
「みたいだね~」
「いや、な。普段は部屋で飲む派なんだが良さそうな店を見つけてな」
大衆向けの店と言った感じで、仕事帰りのサラリーマンが好んで入りそうだ。きっと千冬はこ
「しかし……誰を誘っても中々一緒に来てくれる人がいないんだ」
IS学園において千冬はヒエラルキーの頂点に立っていると考えてもいいだろう。何せ世界チャンプだ。そんな人に飲みに誘われても恐れ多い。そこで束や俺といった比較的親しい人間を連れて来たのだろう。酒を飲むのは久しぶりだが悪くは無い。
「全く、ちーちゃんったら……言ってくれたらいつでも来たのに~今日は束さんがとことん付き合うよ! やっくんも良いよね?」
「構わないが、クロエの夕飯はどうするんだ?」
「あ~……どうしよう」
考えてなかったのかよ。作り置きもしていないし、クロエに作らせるのはためらわれる。さて、どうしたものか……。
考えているとポケットに入れた携帯電話が振動する。ディスプレイに表示されたのは最愛の妹の一人、簪だった。口角が上がるのを抑えきれない。こんな些細な事でも幸せを感じた。すぐに画面をタッチして応答する。
「もしもし」
『お兄ちゃん?えっとね、こないだ一緒にいたクロエさんって人が迎えに来てるけど…今どこにいる?』
クロエが迎えに来てたのか、丁度すれ違う形になったな。会っていたらこっちに連れてこれたが、こうなってしまっては仕方がない。他の方法を考えなきゃな。
『お兄ちゃん?どうしたの?』
「いや、済まない。今織斑先生達と話があって外に出てるんだ。クロエには今日は遅くなるって……」
言い切る前に頭に稲妻が走ったように策をひらめいた。これなら何とかなるはずだ。
「簪、済まないがクロエの面倒を見てもらえるか? いつもは俺が夕飯を作るんだが遅くなりそうでな。学食でも食わせてあげてくれ。頼めるか?」
『え? う、うん分かった。任せて!』
「ありがとう。礼は必ずしよう」
『うん。期待してる。じゃあ切るね。また明日』
「ああ、また明日だ」
電話を切ってポケットにしまう。束にクロエのことは何とかなったとだけ伝えて、三人で中に入った。
☆
電話で呼び出しってことは、二人きりで話したいことがあるって考えていいんですよね? 期待してもいいんですよね?
なんだか心臓がいつもより早く脈打っている気がした。深呼吸して気持ちを落ち着かせる。ようし! と心の中で気合を入れて、ドアを開けた。
「お~真耶。来たか」
「はい! 来ました。せん……ぱい……?」
あれ? 先輩が座っていたカウンター席の隣に見覚えのある人影が見える。あれってもしかして……。
「よし、来たな。私の隣に座れ真耶」
ネクタイをといた白のYシャツ。長く伸びた黒髪からほんのりと赤くなった顔が見える。どうして先輩と織斑先生が一緒にいるんだろう。纏りきらない思考をそのままに、取りあえず席に座った。
「ひゃぃ!?」
「おお~なかなか。いいおっぱいしてるね~」
背後から私の胸を揉みしだかれる。突然の不意打ちに変な声を出してしまった。肩から機械仕掛けのウサギの耳が見え隠れしていた。
「その辺にしておけ束。真耶は私の大切な後輩だ。あまり危害を加えるんじゃない」
「は~い。分かったよちーちゃん」
手が離されて、ドレスを着た女性。篠ノ乃博士は先輩の隣に座る。織斑先生と同じく顔は赤みを帯びていて、足取りも安定していなかった。
先輩はジョッキに入ったビールを飲み干すと、わざとらしく咳払いをした。
「さて……審判も到着したところで始めようか、『第一回 妹&弟自慢大会』を!」
この後、何軒も居酒屋をはしご。あの人たち三人はざると言ってもいいレベルで飲み続けました。結局、朝になるまで妹や弟自慢につき合わされて、今日ほど次の日が休みで良かったと思った日はありませんでした。
気が早いですが、次の番外編予告。お気に入り登録2000件記念はポワールさんのリクエストでただ妹や弟達について語り合う、「第一回 妹&弟自慢大会」。この話でカットされた部分をお送りします。
そして本編次回予告、「妹と妹分」で行きます(予定)
予定なのは前回のクロエ回見たく、突然アイデアが降ってくる場合があるためです。
感想評価等お待ちしております。では…