更識家長男はシスコンである。【完結】   作:イーベル

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やっぱり兄も全身浴派

「第三次世界大戦……他の国に気が付かれることなく戦力を集めている国があるとでも言うつもりか?」

 

織斑先生は即座にそう聞き返す。兄さんは首を横に振った。

 

「違う、集めているんじゃない。もうすでに戦力はそこら中に散らばってる。人間同士の戦争だったら対応も楽だったさ。俺達だけで戦力を根こそぎ刈り取ってしまえばいい。俺達が危惧してるのは……ISと人間の戦争だ」

 

ISと人間の戦争。それは今まで想定に無かった敵。むしろ、自分達の味方、武器と考えていた。ISは世界中に散らばり、研究されている。もしそれが反旗を翻すのなら伏兵がそこら中にいることになる。

 

「でも先輩……そんな映画の設定みたいなことがあり得るんですか? 私には信じられません!」

 

山田先生の言葉はこの中にいる人の気持ちを代弁していたと思う。それに対しても兄さんは首を横に振る。

 

「あり得るんだよ。信じたくないのも分かる。だが、お前達も体験したはずだ。ISの意思の反逆を……『銀の福音暴走事件』を」

 

一夏君が苦虫を噛み潰したような顔をしていた。彼はここにいる中で唯一その現場にいた人間だ。目の前にいて、助けを求められたけれどそれに応えることが出来なかったと…後悔していた。私は訓練を開始する時にその話を一度聞いた。

 

「あれと同じように突然意識を乗っ取られて、無差別に襲い始めたら? 一機だけではなく世界中で暴走し始めたら? 間違いなく史上で一番の犠牲を出すことになるだろうよ」

「――本当か束?」

「認めたくないけどね……。本当じゃなかったらここまで目立つ行動はしないよ。ちーちゃんは知ってるでしょう?」

「お前は本来ここまで目立ちたがりではないからな……。おかしいと思ったんだ、お前がここまで大胆に動くからな。まずお前だと特定できる時点で怪しかった。偽物か何かのミスリードを狙っているのかと思っていたが……。ああ……頭が痛い」

 

織斑先生は右手で頭をかいて、戸惑いを隠せない様子を見せた。生徒会で一年のころから顧問として接しているがこういった態度は中々見られない。せいぜい弟のことで悩んでいるときぐらいだ。頭に手を当てたまま、しばらく考えた後ため息をつく。

 

「IS学園にある訓練機二十機については今すぐにそのダウングレードとやらを始めてくれ、許可は私が学園長に通しておく」

「織斑先生!? そんな、独断で!?」

「では山田先生。この不発弾を抱えながら授業しているこの状況を見逃すのか?」

「そ、それは……」

「意地の悪い言い方をして済まないな。君の言い分もごもっとも何だが今は(こだわ)っている時間は無い。責任は私が持つ。専用機の方だが設定をいじる場合、パスワードがかけられている。交渉して各国から手に入れるかあるいは……」

「束さんがクラックして手に入れるかって言いたいんだろうけど、今はネットワークに接続すら出来ないんだ。回収した機体もコアを引き抜いてあるだけでそれ以上は手付かず。だから交渉するしかないね…」

「日本政府に関しては私が何とかする。借りは山ほど作ってある。問題はそれ以外だな」

 

二人が考え込んでいると、兄さんが不思議そうな顔をしている。

 

「どうして脅しをかけないんだ? 交渉をしていたら時間がかかるだろう。パスワードを教えなければコアを壊すとか言えばいいじゃないか。時間が無いなら尚更だ」

「先輩……そんなことは出来ませんって……そんな現実的じゃない話は置いといて私たちは静かにしてましょう」

「何言ってるんだ。いるだろ? ここにISコアを楽々破壊できる人物が」

「やっくん、それは最終手段だね。まだ取って置いて。あと割と真剣に話してるから冗談はほどほどにしてね。それでちーちゃんこれからは……」

 

そう言って篠ノ乃博士と織斑先生は今後の対策を練り始めた。

 

 

▼▼▼

 

 

あの後兄さん達が話し合ったが、どの手段を取るにしても時間がかかるとのことで、私達姉妹と一夏君は一旦食堂に向かった。もうすぐ閉まってしまう直前だったので利用している人は少ない。いつもよりも楽々と席を取ることができた。

簪ちゃんが一夏君に抱いていた嫌悪感は緩和されたようで、ここに来るまでには普通に打ち解けていた。お姉ちゃんとしては一安心だ。

 

「それで更識さんは……」

「一夏、それだとややこしい……。今学園に更識は三人いるんだから」

「いや、それだともっとややこしくなるぞ。更識さんと楯無さんは名前が同じだろ? というかどうして同じ名前を名乗ってるんですか?」

「楯無は更識家の当主が代々名乗る名前なのよ。だから本名はもちろん別よ」

「そういうことだ。俺は今当主じゃないから刃で構わない」

 

背後に兄さんがどんぶりを持って立っていた。更にその後ろには織斑先生達が続く。話し合いは一度中断したようだ。首には来賓が付ける首かけストラップを付けていた。

 

「相席させてもらうぞ」

「構わないわ。にしても久々ね。兄さんと食卓を囲むのは」

「本来出来て当たり前なんだけどな…そんなことで感極まるとは思わなかった」

 

目柱を押さえてトレーを置くとどんぶりに山のような天ぷら。海老、サツマイモ、イカその他諸々etc(エトセトラ)……。天丼?いや食堂にここまでボリュームのあるメニューは無かったはず。

 

「た、えっと……刃さん?これ、何頼んだんですか」

「素うどんに天ぷら全部乗せだ」

 

食堂のうどんは後からトッピングでいろいろ乗せられる。それらを全部乗せたとなればこのようになるのか……。

 

「ぜ、全部ですか……?」

「ああ、おばちゃんがな、捨てるのもったいねえからって乗せてくれたんだ。ここ数日、食事は発がん物質しか食べて無かったから、ありがたい」

「発がん物質とは酷いな~やっくん。束さんの~愛情のこもった料理をそんな風に……」

 

兄さんの隣に織斑先生が座り、肩を叩く。表情は妙に悟ったような感じであった。

 

「――辛かったな……」

「分かってくれる奴がいて俺は嬉しいよ」

 

謎の一体感を生み出しつつ、兄さんは天ぷらの全身をつゆに浸し始めた。どうやら食の好みは兄妹で似るらしい。

 

 

 

 

 

 




書いてたら〇亀製麺に行きたくなった…。かき揚げうどんが食べたい…。ちなみに私は半身浴派。


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