更識家長男はシスコンである。【完結】   作:イーベル

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後輩登場

「……っ!」

 

 電撃で壁を吹き飛ばした後、気絶していたオータムから待機状態のISを取り上げ、ワイヤーで縛り終えると体に痛みが走った。筋肉痛を更に酷くしたような痛みというのが分かりやすいか。荒天を初めて使用した後、束に言われた通りに発動は控えていたがこの痛みは避けられないみたいだ。

 束は制限時間は五分と見ていたが、まだ回復しきっていないのもあってもう少し短いと考えておいた方が良いかもしれない。

 

『ISコア反応急速に接近!』

 

 右耳に付けていたインカムからクロエの声が聞こえた。束はコアネットワークを使わずにコアから出る電波の周波数を特定し、コアの位置を確認できるようにした。その反応のことをISコア反応という。

 亡国機業(ファントムタスク)の増援か、学園の生徒なのか、機体名や詳細情報を把握できないのが欠点だ。

 

「簪、一夏君、他に増援は来るって聞いてるか?」

「いや……来るのにもう少し時間がかかるってお姉ちゃんが言ってた」

 

 決まりだな。これから来るのは亡国機業の増援、前と同じくスコールというのが俺の予想だが……。何事にも例外は存在する。考え続けろ…常に最善を尽くして初めて生き残れる。

 

「一夏君、ISのシールドエネルギーはあとどのくらい残ってる」

「ええと…三割ぐらいですね。どうしてそんな事を?」

「敵機が高速で接近中だ。展開して簪の壁になるように部屋の隅によってくれ。被弾させたら…わかってるな?」

「りょ、了解です!」

 

 言葉に圧力をかけて頼み込むと大人しく従ってくれた。物分かりが良い子は楽で助かる。

 さて…状況把握だ。前回と違うところは武器の耐久力。壊されても何度でも修復できる。これは防衛戦。後ろに居る簪に攻撃を当てさせてはならない。(まん)(いち)後ろにそらしたら一夏君(たて)があるが…耐久度に難あり。奥の手である『荒天』はもう使えない。体中の筋肉と神経が悲鳴を上げている。これ以上は間をおかないと持っていかれる。勝利条件は味方か学園側の増援の到着。

 

『IS学園の敷地に侵入! 来ます!!』

 

 ハイパーセンサーを起動させて感覚器官が察知する範囲を広げる。全方向の視界が不快感と頭痛を煽る。強化された視力が自ら開けた風穴の先に、接近しながら銃を構えた蝶を捉えた。

 あの機体は俺が回収し損ねたサイレント・ゼフィルス。やはり亡国機業が回収していたか……。機体性能は事前に調べて、光学兵器が主体のBTシリーズの二号機であること。シールドビットに加えて実弾とレーザーの両方を発射できるライフルを扱うことを記憶していた。

 

 この距離ならば実弾よりレーザーを撃ってくるだろう。切り払うと刀身が()け、修復までにタイムラグが生じる。故に衝撃波で相殺する。

 

月牙天衝(げつがてんしょう)!」

 

 俺が刀を振るうと同時に銃口から光弾が放たれ、それぞれを打ち消す。爆発音が島に響いた。その中を構わずこちらに急接近。爆炎に紛れながらビットを展開した。

 

 実弾と光弾を織り交ぜた弾幕を張り俺の追撃を許さない。最低限の弾を叩き落としそれらをしのぐ。部屋の壁が穴あきチーズみたいになってしまった。

 そして空中で静止する。視線はまっすぐに背後の一夏君に注がれていた。

 

「織斑……一夏!!」

 

 俺を飛び越してピンク色に光るナイフで切りかかろうとする。それを間に割って入り、青天井で受け止める。

 

「どこ見てるんだ? お前の相手は俺だ」

「邪魔を、するな!!」

 

 力で押されて間を離される。即座に六つのビットが俺を包囲して一斉に掃射する。ハイパーセンサーの感知により辛うじて回避ルートを導き、通り抜ける。

 その直後だった。背筋が凍るような感覚。銃口がこめかみに突き付けられるようなヴィジョンが頭に浮かび、頭部を下げる。髪を掠めるようにレーザーが上を通過した。

 

「がっ!?」

「一夏君!?」

 

 誘導された…! 避けざるを得ない攻撃で背後の一夏君を狙いに来たか。これではもう攻撃を避けることはしにくい。早々に楯を使わされたのは痛い。

 

「この程度か…実力差は理解できたか? さっさと退()け。命だけは助けてやる」

「退け……だと。ふざけるな、そんなかっこ悪い所を見せられるかよ」

 

 ここで引いたら最高にかっこ悪い。そんな無様なことは許されない。特に妹の前じゃぁな。苛立ちからなのかバイザーから見える口元がギリギリと噛みしめられる。

 

「そうか、ならここでお前は消えろ!」

 

 再び俺を標的に銃口が向く。そうだ、それでいい。左手でポーチからナイフを取り出し逆手で握る。ハイパーセンサーで射線を把握。さっきのように流れ弾は出さない。そのための防御重視の変則二刀流だ。

 光と鉛の雨がばら撒かれた。さっきとは違い微妙にタイミングをずらして打ち込まれている。実弾をナイフで光弾を刀で打ち払う。

 

「ふっ」

 

 息を細かく吐いて体を脱力させ、次の攻撃に備える。ビットが背後に回っている。今度は後ろからの攻撃か?振り返って正面から捉えると銃口は俺ではなく後ろの二人に向けられている。

 

「なっ!?」

 

 こいつ……虎視眈々と後ろの二人を着け狙ってたってのか。一夏君のシールドエネルギーは残りわずか。もう一発攻撃を受ければISは解除されてしまうだろう。

 

 間に合え……!!

 

 左のナイフをビットに向かって、全力で投合する。ナイフは突き刺さり火花を立てて破壊された。

 だが、当然のことながらビットは一つではない。別の角度からレーザーが発射される。残りのナイフはポーチの中、取り出していては間に合わないと判断し青天井も投合。その後簪たちがいる場所まで下がる。

 最悪俺自身を盾に出来る距離を取った。青天井はビットを貫き、反対側の壁に突き刺さる。

 

 正面からレーザーによる射撃。レーザーは流石に素手で打ち消すことは出来ない。そんな事をすれば腕が焼かれ、相殺出来ずに簪たちを巻き込むだろう。なら…

 

 一夏君を蹴り飛ばし、

 

「……ごめんな」

「お兄ちゃん!?」

 

 簪を突き飛ばし、射線から外す。

 

 熱源は抗う事すら許されない程に迫っていた。光が眩しくてサングラスをして来ればよかったと思った。最期に簪の顔を見れないじゃないか……。諦めて瞼がゆっくりと閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、いつまでたってもレーザーが俺を襲うことは無い。覚悟を決めてゆっくりと目を開けた。

 目の前には緑の髪に緑の機体。この人が盾になってくれたのか?何故か見覚えのあるシルエットだった。

 

「な、何とか間に合いました~」

 

 そして、声を聴いて確信する。こいつは……

 

「お久しぶりです先輩!」

 

 振り返ると眼鏡の女性は笑みを浮かべながらそう言った。




わらわらと敵味方が乱入するIS学園の学園祭。満身創痍のシスコンの前に現れたのは後輩のあの人だった!?

次回決着!


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