更識家長男はシスコンである。【完結】   作:イーベル

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通りすがりの…

『聞こえる? 簪ちゃん』

「聞こえてるから慌てないでゆっくり話して」

 

 放送で避難命令が出て、専用機持ちは事態の鎮圧に向かうように命令が下された。お姉ちゃんからの通信で指示を受けるようだ。

 

『うん、今白式が交戦中って言ってたでしょう?簪ちゃんが一番近いから早く行ってあげて欲しいの』

 

 白式、私の打鉄弐式の開発が遅れる原因となった機体。あの織斑一夏が乗っている機体だ。お姉ちゃんに手伝ってもらえたおかげで何とか完成目前まで来たが…正直に言えば行きたくない。助ける義理も全くない。だけど…お兄ちゃんが命がけで守った人でもある。

 

「分かった、行くよ。場所は?」

『データを転送するわ。ロックは先生たちが解除してくれたはずよ』

「了解」

 

 データを確認するとロッカールームで戦闘しているようだ。弐式を展開して、廊下をスラスターを吹かしながら駆ける。扉にたどり着く。手をかざすと自然と開かれた。先生たちは上手くやってくれたらしい。

 

 ロッカーの上に乗り戦況を把握。叫び声が室内に響く。マズイ…様子見している暇はなさそうだ。春雷を展開して大雑把に狙いを定めて放つ。しかし察知してそれを避けられた。

 

「誰だ!?」

「その人は……私が……叩きのめすんだから。その前に死なれたら……困る……」

 

 自然に出た言葉がめちゃくちゃで、自分でも引く。

 

「何者だ、お前ここは完全にロックしてあったはずだ!」

「生徒会庶務……更識簪……生徒会を執行する」

 

 敵の言うことは聞かずに、薙刀夢現(ゆめうつつ)を展開して高低差を利用した上段から攻める。受け止められるが、これは想定内。データでは織斑一夏の攻撃力は学園でも随一。それでも仕留められていないのだから、それ相応の腕は持っている。

 感情にとらわれず自分の役目を果たすことを優先。時間稼ぎ……お姉ちゃん達が来たら囲んで仕留めればいい。

 状況把握……機体状態は万全、山嵐は後ろの人を爆風で巻き込むかもしれないから使えない。使えるのは夢現と荷電粒子砲春雷(しゅんらい)のみ。

 三段突きで追撃するが副腕によっていなされた。

 

「更識……? そうかお前はあいつの妹か! 亡き兄から依頼を受け継いでるとは泣かせるじゃねぇか!!」

「お兄ちゃんを知ってる……?」

「知ってるも何も、あいつと二年前に()りあったのは俺達さ。あいつは信じられない程強かったぜ、生身で戦って俺の脚を一本むしり取ったからな」

 

 そう言って女は無くなった腕を見て、やがて狂気を含んだ笑みを浮かべる。

 

「本人じゃないのが残念だがリベンジマッチとはこれほど嬉しいないぜ……。じきにお前も兄の下に送ってや……グハッ」

 

 苛立ちを覚えて、春雷を顔面に発射する。引き金を引く手がこんなに軽く感じたのは初めてだった。

 

「今すぐ、その口を閉じて。二度と……もう二度と話せないようにしてやる……!!」

「ハッ、やれるもんならやってみなァ!」

 

 間合いを詰めて来た。スラスターを片側だけ吹かしてスピンし、背後に回る。背中を押して壁に押し付け、銃口を突きつける。ゼロ距離で春雷の引き金を引く。光線が敵の不可視の盾を削り取った。

 

「よくも、よくも、よくも!お兄ちゃんを……!!」

 

 感情が赴くままに、怒りに身を任せて、連射する。しかし数十発撃った後、引き金は空を切る。何度引いても反動が来ることは無い。

 

「調子に乗ったなァ! 更識!」

 

 副椀が背後の私を捕まえる。その拘束から逃れる時間は存在しなかった。敵は両腕、両足、首、それらをギリギリと締め付ける。

 

「く……くは……ゲホゲホ……」

 

 痛い痛い痛い痛い痛い……!! 苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい……息が……。

 

「クククク……。面白かったがここで終わりだ! 更識!」

「簪さん!!」

 

 後ろから男の声が聞こえる。心配そうな声だ。ああ…腹立たしい。こんな奴に心配してもらうほど無様になったつもりはない。悔しい、四月の時よりよっぽど。

 

「気安く……呼ぶな……」

「まだ強がりを言えるかよぉ……なら」

 

 更に一段階、さっきよりより強く、私の首を絞めつける。痛みがさらに強くなる。

 

 助けて……

 

「………せ」

 

 助けてよ……

 

「は……せ」

 

 助けてよ、お兄ちゃん……

 

「放せって言ってるだろうが! この虫野郎!!」

 

 次の瞬間。私を首を絞めていた腕は細切れにされた。敵は脊髄反射のように後ろに飛び去った。前に誰か立っている。私の機体は強制的に解除されて、地面に座り込んだ。

 

「遅くなって悪かったな簪」

「お兄……ちゃん……?」

「ああ」

 

 そう返事をするとクシャクシャっと頭を撫でてくれた。髪が肩の近くまで伸びていて違和感がぬぐえないけれど、間違いなく本物のお兄ちゃんだ……。

 

「あいつは俺がやる」

「でも……!」

「二年も待たせたんだ。少しぐらい、格好(かっこう)つけさせてくれよ」

「……わかった」

 

 後ろの織斑一夏の近くまで避難した。彼は状況がまだ呑み込めていないらしい。

 

「どこから湧いて出やがった……。何者だ?」

「何者……か」

 

 さっきまで私が対峙していた敵と睨み合う。大きくて頼もしい背中が私と敵の間に立ちふさがる。

 

「ジン……いつもならそう名乗るところだが、今回はこっちで名乗らせてもらおうか」

 

 メタルブルーの刀を展開し、突き付ける。

 

 

 

 

 

「通りすがりのお兄ちゃんだ!!」

 




次回、お兄ちゃん本領発揮!オータムさんは生き残れるか…

感想評価等お待ちしております。

では…

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