更識家長男はシスコンである。【完結】   作:イーベル

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潜入任務と春雷

 人ごみを潜り抜けて木陰に隠れる。ここまで来れば一段落だ。暑苦しいフードを外す。こもっていた湿気が放出される。インカムに手を当てる。

 

「俺だ、ポイントAからCまで突破完了」

『はい。ではもう少し進んだ指定ポイントまで行ってください。細工がしてあるとしたらそこです』

「了解」

 

 オペレーターのクロエとの通信を切って、再びフードをかぶりなおす。光学迷彩を起動させて風景に同化。音を立てずに移動して、空いている数階上の窓から侵入する。窓のサッシを掴んだがバシッと、大きな音を立ててしまった。中の客が驚いてざわめく。しくじったな。どうやらここは喫茶店をやっているみたいだ。落ち着かせようとする店員の声が聞こえた。

 その甲斐もあって、しばらくすると何事もなかったように元の話し声に戻る。ほっと一息つく。

 

 ここからの侵入は諦めた方がいいか……。

 

「ねえねえ一夏君。この『執事にご褒美セット』って何かな?」

「お嬢様、そちらより当店おすすめのケーキセットはいかがですか?」

「え~教えてくれたっていいじゃない」

 

 この声は……!

 

 即座に懸垂(けんすい)の要領で体を上げて窓から覗く。そこにはテーブルに座る刀奈と戸惑いながら接客する一夏君。しかも刀奈の服装は純白のドレスだ。

 

 写真! 撮らずにはいられないッ!

 

 片手を放してポケットの中を探るが、そこにはケータイもカメラもない。そうだ、俺は潜入任務に来たのだ。戦闘の邪魔になる物は置いて来たのが仇となったか……。とてつもなく任務を放棄したい気分だったが、ぐっとこらえる。

 

 せめて目に焼き付けてから次のポイントに向かおう。

 

 しばらく刀奈を眺めてから俺は別の教室から侵入し、指定ポイントに向かった。

 

 

 ☆

 

 

 

 一度休憩をはさんだ後、教室に戻ると楯無さんに強引に観客参加型演劇に参加させられそうになっていた。

 

「じゃあこれに着替えたらステージに来てね。それと大事なのは……はい王冠」

 

 そう言われて衣装と王冠を渡された。

 

「あの……脚本とか一度も見てないんですけど…」

「大丈夫、大丈夫~基本アドリブのお芝居だし、必要な指示はこっちから出すから。それじゃあよろしくね一夏君」

 

 更識さんはそう言うと去って行った。こうなったら腹をくくるしかないか。俺は着替えてステージに向かった。

 

 

 ▼▼▼

 

 

 それからはかなり脚色されたシンデレラの演劇をしている。この演劇においてシンデレラとは戦闘集団であり、王子の王冠に秘められている軍事機密を狙うという設定らしい。

 

 鈴や箒をはじめとした専用機持ち達を何とか振り切った物語終盤。とうとう一般生徒が投入された。数の暴力から逃げる為に走っていると足を掴まれ、床下に引きずり込まれた。

 

「ここならみつかりませんよ」

「あなたは……えっと、巻上さん?」

「ええ、このたびは白式を頂こうかと思いまして」

「何を言って……」

 

 巻上さんのスーツが歪み、破れ、背中から()()()機械の腕が出現、砲撃が開始された。白式を展開してそれを回避する。

 

「出て来たな!」

「あんた何者だ!?」

亡国機業(ファントムタスク)がひとり、オータム様よ!」

 

 ISが部分展開から完全に展開される。腕が一つ欠けた蜘蛛型のIS。あの時に見た姿とほぼ変わらないその立ち姿。

 

「お前は……あの時の……!」

「へぇ、覚えてたか。そうだお前を襲ったのは俺だ。また会えてうれしいぜ」

 

 こいつが楯無さんを……俺がこいつを倒さなきゃ。俺があの時の責任を果たさないと。

 

 覚悟を決めて、雪片を握りしめ、切りかかる。腕を二重三重に組み合わせてガードされる。こいつ……装甲がかなり固い。バックステップで後ろに下がる。

 

「そんな生温(なまぬる)い攻めじゃあ俺に傷一つ付けられないぜ!」

「くッ」

「今度はこっちから行くぜ!」

 

 実弾とレーザーの混ざった砲撃の雨が俺を襲う。雪羅(せつら)をシールドモードにして砲撃を無力化する。衝撃が俺を後ろに退ける。

 

「そらそらぁ! そんなもんか!? 白式さんよぉ!!」

 

 正面突破で突っ込むが腕で防がれた後に組み伏せられてしまった。オータムは俺に銃口を突きつけて連射する。

 シールドエネルギーがガンガン減っていく。とうとう四割を切った。これ以上食らうのはマズイ。雪羅を目の前で発砲して間を空ける。

 

「ちょこまかと……」

 

 俺は円回転を描くようにして銃撃を回避していく。銃弾が切れた瞬間を狙う。

 

「ちぃ!弾切れか」

 

 今だ!

 

「うおおおお!!」

「なーんてな」

 

 腕から糸が放出されて束縛される。くそ、ちぎれない!! 吊し上げられて大の字のような体制になる。

 

「わざわざ正面から突っ込んでくるなんて馬鹿だなお前。まあいいさ、そのIS頂くぜ」

 

 オータムの手に何か得体のしれない何かが展開される。四本足のそれを俺の胴体に装着すると電撃が流れ、想像を絶する痛みが走る。

 

「ああああぁぁぁぁぁ!!!!」

「痛いのは一瞬だ。機体を奪ったらお前は殺してやるよ」

 

 そういうオータムは邪悪な笑みを浮かべる。しかしそれも一瞬。背後から迫る何かに気が付き、後ろに下がった。

 

 俺とオータムの間に白い一本の光が通り抜ける。

 

「誰だ!?」

 

 ロッカーの上に立つ更識さん、いや、似ているけど展開している機体が違う。

 

「その人は…私が……叩きのめすんだから、その前に死なれたら……困る……」

 

 水色の髪の少女はおどおどしながら、物騒な事を口にした。

 

 

 

 

 




チラッとシスコンが顔を見せつつ簪ちゃんがお久の登場!
次回はvsオータムさん。(予定)

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では

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