更識家長男はシスコンである。【完結】   作:イーベル

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出来ちゃったから仕様が無いね!・・・仕様が無いよね!


キーポジション

「お風呂にする? 御飯にする? それとも……わ・た・し?」

 

 疲れ切った体で自室に帰ってくると、先ほどまで俺を徹底的に鍛えなおしていた本人が何故かいる。しかも……裸エプロンで。どうしてだ。ここは俺の部屋のはずだよな……。

 一度ドアを閉めて部屋番号を確認する。1025号室。間違いなく俺の部屋だ。もう一度扉を開ける。

 

「私にする? 私にする? それとも……わ・た・し?」

「選択肢が無くなってるじゃないですか!?」

 

 しかしここは廊下、誰かに見られたらややこしい事になるのは確実だ。専用機持ちに見られたら躊躇なく攻撃されることは間違いない。みんなどうして俺を目の敵にするのだろう?考えても仕方ないので、ここは部屋の中に押し込めて事情を聴くことにした。

 

「どういうつもりですか、更識さん!?」

 

 そう、先日から俺の専属コーチを務めることになった彼女のことだ。二年前に俺の面倒を見てくれた人と同姓同名で何処となく似ている気がする。短い間だったからあの人の顔はうろ覚え。あくまで気がするだけだ。

 

「どうしてって、私は専属コーチなんだから寝食を共にして……波長を高めていくの……」

 

 そう言って肩のエプロンのひもを外す。何を考えてるんだこの人は!? 慌てて止めさせる。

 

「ジャーン! 残念、水着エプロンでした~。一夏君はからかい甲斐があって面白いねー」

 

 水色の水着を見せながらケラケラと笑う。それでも露出度が高いのは変わらない。心臓に悪いから止めて欲しい。

 

 コンコンと控えめなノック音。

 

「一夏? 居るか?」

 

 この声は箒!? 返事をしようとして、今の状況を再確認する。俺の近くにいる水着エプロンの女性に詰め寄られている俺。―――まずい、非常にまずい。見られたら確実に斬られる。ここは…何事もないようにやり過ごす!

 

「箒か? 悪いな今ちょっと取り込んでて…」

「ひっどーい。一夏君たらそんなに私を見られたくないのかな~」

 

 この人はまた余計なことを……それよりまずい。ドアの方を振り返る。在るはずの(ドア)は無残に切り裂かれており、そこに……。

 

「鬼だ、鬼がいる」

「い~ち~か~女性を部屋に連れ込むなど……見損なったぞ!」

 

 紅椿(あかつばき)を部分展開して切りかかってくる。だから見つかりたくなかったのに……。白式の腕を部分展開して最低限、頭は守る。

 そう判断して待機状態の白式に触れた瞬間。既に槍を展開した更識さんが刀を打ち払っていた。天井に刀が突き刺さる。

 

「太刀筋が寝ぼけてるわ。それに、今一夏君を亡き者にされると、お姉さんちょっと困っちゃうな~」

「何!?」

 

 箒の首に槍を突き付ける。

 

「私の勝ちね」

 

 そう言って扇子で口元を隠し、フフッと笑う。扇子には大勝利と達筆に書かれていた。

 

 その後箒は「一夏は年上に随分甘いんだな!」と捨て台詞を残し去って行った。

 

 ▼▼▼

 

「更識さん、あなたはいったい…」

「固いな~楯無で良いのに。それとも誰かに被ってるのかしら?」

 

 妙に鋭い。この人やっぱり……。

 

「更識さん、あなたにお兄さんはいませんか?」

「いるわよ。一夏君覚えてたんだね…兄さんの事」

 

 予想はどうやら的中したらしい。だがなぜ妹である彼女は兄の名前を名乗っているのかとか、疑問は尽きない。それよりあの危機的状況から逃がしてくれたあの人はどうしているのか。

 

「ええ、恩人ですからね。楯無さん……いえお兄さんは今どうしているんですか?」

 

 そう聞き返すと黙り込んでしまった。何か失礼なことでもしてしまったのだろうか。

 

「―――ごめんなさい。言いずらいけれど兄さんはあの任務以降、行方不明なのよ」

「え?」

 

 衝撃的な事を告げられる。行方不明だなんて…俺を庇ったから? だとしたら…。

 

「あなたがそんなに気にする必要はないわ。仕事上、仕様が無いことよ。それに、最近兄さんらしい報告があちこちで上がってるしね」

「楯無さんらしい報告?」

「兄さんらしき人が各地で暴れているみたいでね。目的は分からないけれど、戦闘スタイルからしてほぼ確定ね」

「そうですか……帰って来たら俺にも教えてくださいよ。一言ぐらいお礼を言いたいんで。」

「もちろん。その代り……一夏君から見た兄さんの話をして欲しいな♪」

 

 構いませんよ、と言ってからゆっくりと記憶を呼び起こし始めた……。

 

 

 ☆

 

 

 今までに襲撃した国をマジックペンで塗りつぶして黒く染める。アメリカ、ドイツ、メキシコ、カナダ、ロシア、インド、オーストラリア……そして元から襲撃されていたイギリス……それぞれ十機ずつ持っている大国。計七十八機。

 

 大きな勢力を持っている、もしくは特異的な能力に目覚めたISを回収した。これで残り三カ所だ。あと少しで何時(いつ)いかなる時にネットワークを乗っ取られようと最悪の事態は阻止できるようになる。

 

 赤いマジックペンで当面の目標、キーポジションとなる場所を囲む。『イタリア』、『IS学園』、『太平洋』。次の一手で最後の布石。

 

「あと少し、あと少しだ。待ってろよ………」

 

 月明かりで薄暗く照らされる室内で、俺は指で青天井の峰をそっと撫でた。

 

 

 

 

 

 




次回「嵐の前兆」

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