遊園地で遊んで帰ってきて数日、彼は次の依頼に向けて体を慣らすため庭に出てきた。
ぼんやりと朝日が辺りを照らし始めたがまだ薄暗い。
刀を腰に差して深呼吸を始める。早朝の冷たい空気が肺を満たし、一呼吸ごとにその思考を白く塗りつぶしていった。肉体を脱力させ柄にそっと手を添える。
そのまま数十秒が経過したあと目を見開き、音よりも早く放たれた刃が空を割いた。
こうして彼の一日は始まる。シスコンの朝は早いのだ。
☆
いつもより早く目覚めてしまった。時刻は六時半二度寝するのもいいが、この間の土日遊んでしまったのもあって多少勉強に遅れが出ている。たまには早起きして勉強するのもいいかなっと思って取りあえず光を遮るカーテンをどかす。
二階にある私の部屋に光が差し込む。物音が下から聞こえたのでその方向に目を向けた。庭では兄さんが日本刀を振るっていた。仕事が近づくとこうして朝早く起きて鍛錬するのだ。
実のところ四年前まで任務では日本刀を使わずに拳銃を使用していたらしい。だけど当時、某剣士で流浪人が主人公の漫画にはまっていた簪ちゃんが何となく放った「九頭龍閃ってかっこいいよね」と言う一言から、父さんに頼んで日本刀を入手し、一年間の自己流修行で習得し、披露した。それ以来、一年ごとに技の目標を決めて鍛錬をして仕事にも役立てているらしい。
ちなみに正月に目標を聞いたところ、今年は「燕返し」が目標だそうだ。よく理解できなかったので簪ちゃんにどんな技か聞くと、なんでもほぼ同時ではなく
私はしばらくの間兄さんの修行を眺めていていると当初の目的である勉強することをすっかり忘れてしまっていたことに気が付いて慌てて机に向かった。
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朝食の時間、家中の従者が大広間に集まって当主である兄さんに挨拶を済ませてから席に戻って行く。
「おっはよ~楯無様~。今日もいい天気だね~」
「おはよう本音。今日も平常運行だな」
「何やってるの本音! しっかり挨拶しなさい。すいません楯無様、うちの妹がご無礼を……」
「構わないさ
「そうは言ってもですね……。はぁ……すいません後できつく言っておきます」
席に戻った虚ちゃんはつまみ食いしている本音ちゃんを注意している。小さい頃から一緒に過ごした幼馴染である二人は相変わらずである。しっかり者の虚ちゃんは従者として私のサポートを昔からしてくれる頼りになるお姉さんと言う感じだが本音ちゃんの方はむしろ簪ちゃんに助けられているような気がする。
そんな事を考えていると全ての人が集まったようだ。
「おはよう諸君。いつも通りで何よりだ。今日も一日精一杯頑張ってくれ。以上だ。食事を始めてくれ」
私たちは朝食を取り始め、本格的に一日が始まった。
☆
日がすっかりくれてもう夜になって書類の整理もそろそろ終わりそうだ。
ドイツでの任務に向けて、会場の見取り図の把握や誰がどの人物の護衛をするか等を決め終わった。今回の任務で連れていく部下は最低限の人数でなければならない。変に大人数で護衛に当たると護衛対象を不安にさせ、いざという時パニックになる可能性があったからだ。故に少数精鋭の選考、既に部下達には資料を配布した。そして俺の担当の人物の資料に目を通す。
「織斑一夏、年は簪と同じ十四歳で、第一回モンドグロッソ優勝者織斑千冬の弟で唯一の肉親……か」
恐らく一番外部から狙われるのはこいつだろうと考え、自分で言うのもどうかと思うが最高戦力である俺を配置した。なぜ狙われるかと問われれば、もはや世界で織斑千冬の名前を知らない者はほぼいないぐらいに有名人だからだと答えられる。
実際その影響力はかなり大きい。身代金の要求、優勝候補への精神的揺さ振り、誘拐や殺害に成功すればあらゆるところで利用できる。仕掛ける側からすればメリットしかない。これを護衛もつけないで送り出せばどうぞご自由にお使いくださいと言っているようなものだ。
妹達から五日も離れなければいけないと思うと憂鬱だが、泣き言は言ってられない。やるからには完璧に仕事はこなす。代々そうやって
俺は体調をベストコンディションにするためにカーテンを閉めて月明りを遮って眠りについた。
第二回IS世界大会モンドグロッソ開催まであと三日_____。
と言うわけで二話でした。
感想等お待ちしております。