更識家長男はシスコンである。【完結】   作:イーベル

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0時に間に合わなかったけど許して・・・・。


彼はシスコンであるが故にコンプリートを目指す。

『IS操縦士プロマイドコレクション』

 

 ある会社から発売されたチョコウエハースにプロマイドが一枚入っているカード付き食玩である。第二回モンドグロッソを終えたあたりから発売し人気が高騰。今では世界中で販売され、今年の四月に一周年を迎えた。

 なぜこの話をするのかというと……

 

「なぜだ……なぜ刀奈を引けない!」

 

「諦めればいいじゃないですか」

 

「そんなことできるか! まだ日本版のサイン入りを引けてないんだぞ。直接会いに行けないんだからせめてカードぐらい各国フルコンプリートぐらいしなければ兄の名が廃る」

 

 今月の最新弾を迎えた食玩に、とうとう代表候補生にまで上り詰めた刀奈が収録されたのである。日本人でありながら自由国籍によってロシア代表候補生になった刀奈はなったばかりなのもあって低レアリティだが、日本では本国の代表ではないために封入数が少なく、ロシアでも日本人という理由で、他の国でも同じような理由で少ない。

 確率上最も入手が難しいカードであった。

 

 それを知った楯無の行動は早い、各国の大型ショッピングセンターで在庫を刈りつくし、入手した最高レア、各国国家代表のサイン入りホログラ仕様(三万円弱)をノーマルカードの刀奈のサイン入り仕様(三百円程度)に交換するというはたから見れば意味の分からない行動を現地のコレクター相手に繰り返している。

 

「いい加減にしてください。私だって毎日おやつがチョコウエハースで飽きてきたんですよ」

 

 クロエは呆れたようにそう言った。何を隠そうこの行動で最も被害を受けているのはラボの女性陣である。楯無の粋な計らいによってプリンやゼリー、アイスなどと言った物がおやつに提供されていたのだが、ここ三週間ほどは山のように積み上げられたウエハースである。

 

「次こそは引いてやる次こそは引いてやる次こ……」

 

 ブツブツと呟きながらクロエの横を通る。彼女の言葉は耳に入っていないようだ。

 

 窓を開けて飛び降りる楯無をクロエは祈りながら見送る。今日こそは引いてこのウエハース地獄に終止符を打ってくれますように、と。

 

 

 ☆

 

 

 大型ショッピングモールレゾナンスにやって来た楯無は早速店員を呼び出し在庫を全て回収する。支払いは黒いカードで済ませると郵送するかと聞かれたがどうせあの空中ラボに運べるわけがないので五箱を重ねて両手に抱える。

 ここに来た目的は他には無いので海で束達の迎えを気長に待つことにしよう。

 

 そう決めてショッピングモールを歩いていると路地裏からなにやらが聞こえてきた。

 

「嬢ちゃん達かわいいね。俺達とお茶しない?」

 

「そういうのはちょっと……」

 

 通りすがる時横目に覗き込むとそこにはIS学園の制服を着た刀奈がいた。

 

 目を見開き、思わず段ボールを手放してしまった。そういえばここはIS学園にもそこそこ近く買い物にも来やすい立地であったことに気が付き、後悔する。

 段ボールを置いてみると刀奈の他にも二人一緒に買い物に来ていたようだ。プロマイドで見たことあるな……一人はアメリカでよく当たるやつ、もう一人はたしか……イタリアで当たった奴かな?

 

 ちゃんと友達もできているようで何よりだ。兄さん安心したよ。なんかしばらく会わないうちに大人びた雰囲気になってなんか少し寂しいが……。

 いや、そうじゃないだろ。まずあのくそ野郎共からどうすれば引き離せる。考えろ! どうしたらあの金髪でチャラチャラしたあいつらを叩きのめせる?

 

 思いついた策は三つある。まず一つ、直接あって引き離す。これは論外。正体がばれるリスクがある。それではこの一年近く家から離れた意味がなくなる。

 二つ、こいつらに任せて見守る。これも論外。兄として恥ずべき最低な行為だ。刀奈に合わせる顔が無い。

 最後の三つめ、一芝居打つ。これしか無いだろう。

 

 息を吸い込み策を決行へ向けて準備を始める。

 

 

 ☆

 

 

 私は同じクラスのフォルテと臨海学校の準備のために学園から近いショッピングモールレゾナンスに来ていた。途中でダリル先輩とも合流して何を持っていった方がいいかアドバイスをもらっていたのだが、まさか……こんな典型的なナンパに引っかかるとは思わなかった。

 

 正直なところこういうのは今まで兄さんが睨みを利かしていたので初体験に近く、どうあしらっていいのか分からなかった。一緒にいる二人もうまく断れずに強引に連れて行かれそうになったその時

 

「お巡りさんこっちです! 早く!!」

 

 そんな声が路地裏に響いた。男達は舌打ちをしてから小走りで去っていく。だが曲がり角を曲がった瞬間悲鳴が聞こえる。あの怖がり方は尋常じゃない。

 

 目配せをして急いで角を曲がるとさっきの男達が頭から壁にめり込んでいた。どんな勢いで突っ込めばそんな事になるのか理解出来なかったが取りあえず警察と救急に連絡をした。

 

 しばらく経った今でもこの事件の証拠は何一つ残されておらず、真相は未だに闇の中だ。

 

 

 ☆

 

 

「よっしゃぁ! 引けたぜ! これで全バージョンコンプリート!!!」

 

 警察が真相を究明を急ぐ中、真犯人はラボでガッツポーズを取り、吠えていた。

 




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