俺の妹分が世界一可愛いと思うのは間違っていない 作:EXEC
日常回で前半後半に分かれています。
できれば後半も今日中に上げたいところ。
なお、後半で行き詰まった場合前半を改訂したりいくらか付け加えることが考えられます。
「ジーン、今日の準備はできとるかー?」
そう言って、ドアを開けて入ってくるロキ。ノックくらいはしてほしい。
アイズを連れていたのか、その背後からアイズが顔を出す。今日も雰囲気が楽しそうで何よりだ。
アイズは俺と再会してから随分と変わったらしい。
まだ再会してから二日しか経ってないのだが、朝食の時に話したフィンやリヴェリア、レフィーヤが言うにはそうらしい。
何でも、今までは朝起きると無表情でもそもそと朝ごはんを食べて、そのまま急いでダンジョンに向かって、夕方に帰ってくる。
そんな日々を送り、今まで笑顔はおろか微かに笑みを含んだ表情を見た者すらごく少ないらしい。
ちなみに一番色々話したのはレフィーヤで、彼女はこの話をして自分はアイズの笑みをみたことがあると自慢した後、
"私に幼少期のアイズさんの話をしてもいいんですよ!"
といった。普通に交換条件だといえば話すのに素直じゃないエルフである。
なおレフィーヤはこの後、起きてきて俺にニコニコしながら突撃してきたアイズに轟沈させられた。
レフィーヤ曰く、"アイズさんのこんな笑顔誰も見たことないと思いますよ"だそうだ。
これにはフィンやリヴェリアも同意していた。
つまるところ、今まで全然笑ったことが無いらしい。
むしろ、朝のアイズはたまに目を赤くしていることがあり、ひどい夢でも見てるんじゃないかと言われることもあったそうだ。
恐らく、その夢には俺のことが関係しているのだろう。
過去を変えることは不可能だが、せめて朝食のとき隣に来たアイズの頭をねぎらいと慈しみをこめて撫でたのだった。
当の本人はよく分かってなさそうに変わらずニコニコしていたが。
まあ、なんにしても笑えるようになったのはいい事である。
「ジン?」
気づいたらアイズが物凄く至近距離にいて顔を覗き込んでいた。
絶世の美少女と呼んでも過言ではないアイズにこの距離で見つめられると、正直家族であってもドギマギする。
とりあえず、アイズを引き離して頭を撫でる。
再会三日目にして頭を撫でるのにも慣れてきた。これをやっておけばアイズは問題ない。
「で、ロキ何の用だ?あの酒場での一件はリヴェリアにしこたま怒られてたから不問にしておくが、次はないよ」
「うぐっ、思い出すと頭が。
そうやなくて、今日はギルドに登録しに行くんやろ。
アイズたんを道案内につけるから、終わったら街を案内してもらってな。別に適当に遊んできてもええで」
そんなことを言ってきた。
俺は一応ロキファミリアに改宗したが、まだ公式にはそうなっていない。
ギルドで登録しなければダンジョンには入れない。
いや、警備は隙だらけなので入れるが、換金所などのギルド施設は利用できない。
そうである以上できる限り早く登録するため、今日の朝から書類を見直していた。
そこへ来たのがロキとアイズである。
だが、実際渡りに船だ。オラリオは何度か来たことがあるが、冒険者用の施設に入ったことはない。
なかなかロキも眷属思いである。
―――なおこの時、ロキがジンのことを思ってアイズをつけたのは事実だが、その意味は違う。彼女はアイズとの思い出を増やすことで強くなるジンのことを思い出してアイズをジンにつけようとしているのであった。
「じゃあ、今日はアイズが頼りだな。よろしく」
「うん、案内は任せて」
俺の言葉にアイズははにかみながら笑った。
―――――――
「~♪~~♪」
隣を歩くアイズの鼻歌を聞きながら、ギルドへの道を歩く。
たまに中断して、"あそこに本屋がある。私もたまに行く"とか
"あれは、へファイストスファミリアのホーム。鍛冶師によるファミリアで、ロキファミリアとも関係が深い"
"あの屋台はおいしい。ジャガ丸くん小豆クリーム味がおすすめ"
なんて風に色々と教えてくれる。
意外とちゃんと教えてくれるんだなと思いながら、ギルドに到着した。
「え、えーと、ロキファミリアに加入ですか。何か証明できるものはありますか」
彼女は先日アイズがロキファミリアに所属していると教えてくれた受付嬢のエイナ・チュールだ。
なぜかさっきから俺よりもアイズに視線を送って顔を引きつらせている。
持ってきた書類を提出し、新たに渡された書類の必要事項を埋めていく。
その間アイズは俺に寄りかかってギルド内に視線をさまよわせていた。
「……はい、手続きが完了しました。
今日ダンジョンに入るようなら仮身分証を発行しますがどうされますか?」
詳しく話を聞いてみる。
ダンジョンに入ったり、ギルド施設を利用するにはギルドが発行する身分証が必要らしい。そして、仮身分証とは手続きが終わった段階で発行することができる一時的な身分証らしい。聞けば明日には身分証が用意できるらしいので"必要ありません"と断った。
とりあえず終わったようなので行こうと思ってエイナ嬢を見ると、今度は俺とアイズを交互に見て俺の顔をジーッと見てくる。
「まだ何かありますか?」
そうこちらから聞くと、エイナ嬢はためらうように視線を惑わせてそれでも質問を投げた。
「あのぅ、その、剣姫さんとはどのようなご関係で?」
そんなことが気になったらしい。もしかしてレフィーヤと同じようにアイズのファンだったりするんだろうか。
「ジンとは幼馴染で家族」
そう横から入ってきたアイズが言う。それに対して俺も頷いてアイズに同意した。
聞いたエイナ嬢は更に顔を引きつらせて、"そ、そうですか"とだけ言った。
その後、"もう大丈夫ですか?"と聞いてみて、大丈夫らしいのでギルドを出ようと思ったのだが、隣のアイズが"んっ"と言って手を差し出してきた。
意図がわからず、"?お小遣いでも欲しいのか?"
そう聞くと、"違う。手。"とだけ返ってきた。
よく意味が分からず、とりあえずアイズの手に自分の手を重ねると、アイズはそれを満足そうにぎゅっと握り締めて、"行こ"とだけ言うとそのまま俺の手を引っ張ってギルドを出た。
手を握りたかったのか。俺が思ったのはそんな感想だった。
彼らが出て行ったあと。ギルドは様々な疑問に溢れていた。
"おい、剣姫が連れてた男は誰だ?""剣姫って恋人いたのか?""アイズ様ー、恋人が、恋人がいるなんて、うわーん!"
などなどである。
エイナはジンたちが出て行った後、額に手をあて天を仰いだ。
彼女がジンの手続きを行う間挙動不審だったのは彼らの関係が気になったからだ。
彼女が担当する冒険者である白髪の少年、ベル・クラネルはアイズ・ヴァレンシュタインに一目惚れしていた。
そのためどう考えてもアイズと親密そうなジンを見て恋人じゃないのかと疑い、思わず聞いてしまった。
答えは恋人ではなかったものの、それでも幼馴染でありどう考えても仲睦まじそうな二人を見て過ぎったのは
"ごめん、ベル君。君の勝ち目はないかもしれない"という思いだった。
ギルドを出て俺たちはバベルへと向かっていた。
バベルには冒険者のための施設や生産系ファミリアの店舗などがあり、地下一階にはダンジョンへの入り口がある。
つまりこの街の中心と言っても差し支えない建物だ。
ここに来たのは冒険者のための施設の案内と防具の購入のためだ。
俺が持っている剣はそれなりに良いものだが防具は貧弱の一言だ。
当たらなければどうということはないを突き詰めているため、急所部位をカバーできる程度の皮鎧に申し訳程度に金属が覆っている。
そんな程度の防具である。
アイズが言うにはこれでは危ないらしいのでとりあえずはレベル2相応のものを買うこととなったのだ。
お金が足りなければアイズが出してくれるとは言うが兄の威厳にかけてヒモになるわけにはいかない。
というかそれくらいならただの服でダンジョンに潜って、上層攻略でお金をためて防具を買う。
幸いそんなことはしなくても、ただのレベル2冒険者には多すぎるほどお金がある。
隊商のリーダーがくれた宝石はかなりの価値があったようだ。
一通り冒険者施設を見て回ると、へファイストスファミリアの店舗へ向かう。
へファイストスファミリアは超一級の鍛冶ファミリアであるが、一応新人が作った安い防具も売っているそうだ。
そうして、アイズと顔を突き合わせてあーでもないこうでもないと意見を言い合いながら、少しずつ自分に合う防具を見つけていく。
結構な時間がかかったが何とか必要そうなものを揃えることができた。
なお、これには防具だけでなく服などの生活用品も含まれている。
こういう買い物ではアイズも女性らしく、俺を容赦なく着せ替えさせて何着も試しながら買うこととなった。
七年前のアイズとの生活では見たことの無い面であり、そう考えると買い物も新鮮で楽しかった。
買い物が終わると、それらがロキファミリアに届くように手続きをしてバベルを出た。
バベルを出ると、"大体オラリオの案内は終わった"とアイズが言う。
思わず俺はまだ行っていない方向を指して、
"あの辺とかは案内しなくていいのか"と聞く。
それに対してアイズは視線を冷たくすると、
"あっちは歓楽街。行く予定があるの?"と続けた。
歓楽街とはつまり娼館が立ち並ぶところであり、娼婦が所属するイシュタルファミリアがあるところでもある。
地雷を踏んでしまったと俺は冷や汗を流した。なんとか首を横に大きく振って、アイズのご機嫌をとるために
"じゃあ、ここからは適当に遊びに行こうか"と言ったのだった。
ギルドに行く途中に通った屋台の前に来て、アイズ一推しのじゃが丸くん小豆クリーム味を頼む。
それを食べるとアイズも大分機嫌が戻ったようで、笑みを浮かべながら食べている。
そのまま視線をずらして、ぼんやりしながら行き交う人を眺めていると横から"ジン"と呼ばれた。
「……あーん」
アイズの方を向くと、口元にじゃが丸くんを差し出されていた。
念のため言っておくが、俺が食べているのもアイズが食べているのも同じものである。
そのため、食べ比べなどはできない。
だが、既視感を感じて子供の頃を思い出す。
そういえば昔のアイズはこうやって俺に甘えるのが好きだった。
こうして、同じ食べ物でも俺に食べさせてその後自分に食べさせてくれるようにねだるのだ。
思い出して、懐かしく思うと共にいまだ変わらず俺に懐くアイズに愛おしさを感じた。
「ジン?」
少し笑って、口元に差し出されたそれを食べる。"美味しいよ"と返すと、今度はこちらから差し出してあーんと言う。
心なしか頬が赤い気がするのは彼女が恥ずかしがっているからだろうか。
アイズはそのまま美味しそうに口をもごもごさせ飲み込んでから、"美味しい"と言った。
そのままバベルを出てから離していた手を再び握ると、楽しそうな足取りで俺と並んで歩くのだった。
こう、初々しさと言うべきものが出ていればいいのですが。
恋愛描写は好きなんですけどなかなか難しいですね。
後半はたぶんアイズ視点です。