俺の妹分が世界一可愛いと思うのは間違っていない   作:EXEC

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うーん、何か書いてるときはしっくり来ないけど、
読んでみると意外にしっくりくるんですよねー。

なんにしても、振り返るとエタるので、後ろは顧みらずに突き進みます。





4.彼と彼女の朝

「戦いに置いて最後に必要になるのは覚悟だ。まぁ、最期にと加えてもいいが」

 

「これから、毎朝起きた時に今日自分が死ぬと考えろ。

毎晩寝るときにその眠りが自らの死だと思え。

毎朝起きて明日が来ることの喜びを実感しろ。

その喜びが今日で終わるかもしれないと知れ。

戦いを生業とする以上それは当たり前にあることだ。

後悔少なく生きるために常に死を想え」

 

「頭の中で自分の最も大切な誰かを思い浮かべろ」

 

金髪の少女が朧げながら思い浮かぶ。

名前も知らないけれど、たまに夢に出てくる少女。

何故か彼女を思うと身を焦がされるような焦燥感がある。

 

「浮かべたか?では、頭の中のその誰かに武器を叩き込んでみろ。どうなる。

それが武だ。武の本来の姿は守ることではない。

戈にて(とど)むと書いて武の一文字。武とは殺すことだ。

決してむやみに振るうな。相手と状況を見ろ。

それができないなら、お前もお前の大事な存在もお前に巻き込まれて死ぬだろう」

 

「戦うことに夢など見るな。英雄の生など血塗れか空虚かのどちらかだ。

どちらにも平穏と幸福はない」

 

「可能な限り生き足掻け。だが、決して自分を裏切るな。

自分を裏切るくらいなら潔く死ね。

どうせ裏切った後は惨めな生だ。大差ない」

 

「引き際を見誤るな。ある程度妥協しろ。

完璧な勝利を求めて最善手を打たないなど本末転倒だ。

そんなやつは戦士を馬鹿にしている」

 

 

 

「これらは戦士の覚悟、戦士の生き方だ。

これより武を手放すその日まで片時も忘れるな。

忘れたときお前は戦士ではなくなる。

自分の生き方どころか死に方も選べなくなるだろう。

だが、忘れず果たし続ければ、」

 

 

「お前を高みへと導いてくれるだろう」

 

 

――――――――

 

 

目が覚める。正直いい夢とは言い難かった。

初めて師匠に教えを聞いたとき、この人は気が狂ってるのではないかと思ったものだ。

 

だが、それも間違ってはいない。

戦いに生きる人間などどこか狂っているものだ。…俺もまた。

 

さっさと起き出して身支度を整える。

今日もまたロキファミリアに来るようにロキに言われている。

 

残念ながら、俺が泊まっている宿屋には朝食はない。

というか、飯が出るのは夕食だけだ。

 

そのため、適当に腹を満たさなければならないのだが、少し起きるのが遅かったせいか、指定された時間まで時間がない。

 

仕方ないのでそこらの露店で果物を買って食べながら歩くことにした。

 

――――――――

 

ひどく幸せな夢を見ていた。

 

ジンが帰ってきて、私を許してくれて、会いに来れなかった理由が記憶喪失で、他にもたくさん都合が良くて幸せな夢。

 

でも、現実はきっととても厳しい。

 

瞼を開けた。いつものように見慣れた天井が視界に映る。

 

目元を拭った。濡れた感触はない。夢が幸せだったからだろうか。

 

夢の中に戻りたいけど、たぶん戻れない。仕方ないから体を起こした。

 

部屋の中を見回すと机の上に見慣れないスケッチブックを見つけた。心臓が大きく跳ねた。

 

だめだ。だって期待したら、それが嘘だったときに立ち直れなくなる。今まで頑張ってきたけど、あの幸せな期待に裏切られたらきっともう立ち直れない。

 

ノロノロと服を着替えて身形を整える。

そしてスケッチブックを見つめて、ゆっくりと手を伸ばし開こうとする。しかし、スケッチブックに手が触れる直前にドアをノックする音が聞こえた。同時に、

「アイズー、起きてる?お客さんが来てるわよ」

ティオナの声。聞き返す。

「お客さん?」

「うん、そう。確かに伝えたからねー」

そう言って気配が離れていく。

 

仕方がない、本当に仕方がないから玄関に向かうことにした。

 

ロキが誰かと話している声が聞こえる。

 

「朝食は食べてきたん?」

 

「一応朝から果物を買って食べましたよ」

 

足が自然と早まっていく。

 

「ふーん、じゃあまだ食べられるやろ。屋敷の中で朝食とるとええで。アイズたんが喜ぶやろ」

 

「いえ、流石にそこまでお世話になるわけには」

 

もうほとんど走っているに等しい。

 

「ど阿呆、アイズたんの家族ならうちの子供同然や。

食事くらい幾らでも食わせてやるで。

うちが聞いとんのはまだ食えるか、食えないかだけや」

 

「……謹んで食べさせていただきます」

 

「よし」

 

そして、玄関を出て、ロキと話している誰かの顔を見た瞬間、全力で走って抱きついた。

 

ーーーーーー

 

昨日の焼き直しのようにアイズの勢いを回転しながら殺してそのまま抱きすくめた。

 

アイズの顔を覗き込むと彼女は満面の笑みで言った。

 

「おはよう!ジン!」

 

「おはよう、アイズ」

 

何か今日のアイズはやたらとご機嫌らしい。

なお、ロキはさっきのアイズの笑顔を見てから固まったままピクリとも動かない。

 

 

「ジン、朝ごはんここで食べるの?」

 

どうやら話を聞いていたらしい。

 

「あー、たぶんそうなるんじゃないかなーと思うけど」

 

「じゃあ、私がジンの朝ごはん作ってあげる。あれから、いっぱい練習したんだよ」

 

あれからというのは七年前からということだろう。

当時アイズに料理を含む家事を教えていたが、アイズがあれから研鑽を続けているなら、今ではたぶんアイズに腕前は抜かれているだろう。

 

その言葉に固まっていたロキが反応する。

 

「アイズたんの朝ごはんやて!?アイズたーん、うちにも作ってー!」

 

「駄目。ジンに最高の朝食を作るから」

 

がーんと効果音が聞こえてきそうなほどロキが落ち込み、崩れ落ちる。

 

そして崩れ落ちたまま、俺に恨みがましい視線を向けてくる。

 

しょうがない。

 

「アイズ、今日は俺とアイズで一緒に作ろう。それで、ロキと…そうだなリヴェリア辺りにも作ろうか。それなら良いだろう?」

 

「……昔みたいに?」

 

「あぁ、アイズがどれくらい上達したか見せてもらおうかな」

 

「ん、一緒に作る」

 

さっきまで、恨みがましい目で見ていたロキが今度は救いの神を見るような目で見てきた。…俺も一緒に作るんだけどなー。

 

 

―――――――

 

思い出すのは彼、ジンのこと。

 

今日も来るらしい彼のことをリヴェリアはかなり認めている。

 

少なくともアイズとのかかわりについてはほぼ全面的に肯定していると言ってよい。

 

ロキのようにジンがアイズを本当に想っているのかということに疑問を抱いていない。

それも昨日ジンの話を聞く前から疑ってはいなかった。

 

その理由は彼女はジンがアイズを背負ってきたところを実際に見ているということに尽きる。

 

誰が十歳程度のときに同年代の子供を背負って、街まで来れる。

 

しかもあの時ジンはすぐではないにしても死にそうなほどの怪我だったのだ。

 

きっとその衝撃は実際に目の当たりにしたリヴェリアにしか分からないだろう。

 

彼が為したことについて実際に近いイメージを持っているリヴェリアには彼がどれほどアイズを大事に想っているか、それを強く感じられたのだ。

その想いの深さは想像もできない、と。

 

それだけ深く想っているならアイズがあれほどジンに懐くのも分かる気がする。

 

そんなことをつらつらと考えながら食堂で朝食を食べようと向かっていると、聞き慣れない声に呼び止められた。

 

「リヴェリアさん、もう朝食食べました?」

 

振り返ると背後にアイズとロキを連れたジンが食材を抱えながら近寄ってきた。

 

アイズがやたらとニコニコしていて思わず二度見してしまった。

 

「いや、まだだが、どうかしたのか?」

 

一緒に食べないかという誘いだろうか。だとしたら少し嬉しいかもしれない。

ロキは余計だが、アイズと食べられるのは嬉しい。

普段あまり一緒に食べてくれないのだアイズは。

しかも今日はどうもご機嫌なようで、これならもう少し近づけるかもしれない。

加えてジンもいるなら、そこから話を広げて普段割りと無口なアイズともっと話せる可能性は十分にある。

 

「いえ、実は俺とアイズで朝食を作ろうかと思いまして。それでリヴェリアはどうかなーって思っ……」

 

「すぐ行こう」

 

アイズは料理はするものの作ったものを自分一人で食べてしまう。

何でも、最初はジンに食べさせたいとかで。

 

いつぞや盗み食いしようとしたロキが一週間完全に無視されていたのを見ると、そういった手段を取ろうとは思えない。

なお、その時ロキはガチ泣きしていた。

 

そういうわけで合法的に食べられるのはこれ以上なく珍しいのだ。

何せ、今まで何度となく作ってきても誰一人食べたことがないのだから。

 

当然、私は参加する。

せっかくのチャンスなのだから参加しないだろうか?いやしないはずがない。

 

私の返事を聞いたジンは若干引きながら”アッハイ”と言った。

 

その顔には「キャラがブレてるよ、お前」と書いてあった。

 

 

 

"ちょっと時間がかかりますから待っててください"俺はそう言って、アイズと一緒にキッチンに立った。

ちなみにここはロキの私室だ。主神の部屋なので、使わないらしいキッチンなど完備である。今回が初使用だそうだ。

 

俺が味噌汁を作って魚を焼く。アイズが卵焼きを作ってほうれん草のおひたしを作る。

 

見事に極東の朝食だ。昔俺がよくアイズに和食を作っていたからか、アイズは朝食は和食を作ることが多く、それ故食材などもロキファミリアにはストックされているようだ。

 

ただ、一から作ったものを他人に食べさせるのは七年前を除けば初めてだそうだ。

何でも練習したのを最初に俺に食べさせたいらしい。不覚にも感動した。

 

 

完成した料理をそれぞれ器によそって食卓に並べる。

ロキが並べられたそれをつまみ食いしようとして、リヴェリアに平手打ちを食らっていた。

 

…流石に平手打ちはやりすぎじゃないだろうか。

 

四人とも席に着くと全員タイミングを合わせて”いただきます”と言ってから食べ始めた。

 

これはアイズがいつもやっていた仕草にならったらしい。

 

「めっちゃおいしいわー、あー幸せやー」

 

ロキが食べながら天界に行こうとしてるのをリヴェリアがロキの前にある料理を奪おうとすることで止めたのを尻目に料理を口に運ぶ。

 

アイズがじーっとこちらを見つめてくるので、”とっても美味しいよ”と伝えた。

 

「いっぱい練習したから。」

 

そう言って嬉しそうに微笑むアイズの頭を"頑張ったね"と撫でる。

彼女は擽ったそうに笑うと、料理を食べ始めた。

 

 

「そういえば、アイズたんに会った後の予定って自分、なんかあるんか?」

 

食べ終わった後、ロキが割と重要な話を振ってきた。

 

「そうですね、適当なファミリアにでも入れてもらってダンジョンに潜ろうと思っています。」

 

次はリヴェリアが爆弾をぶっ込んできた。

 

「ふむ、だったらロキファミリアに入るのはどうだ?」

 

即座にキラキラ光り始めるアイズの目に思わずウッとなる。

俺、この子のこの目に弱いんだよなー。

 

「いえ、単にアイズの幼馴染というだけで入れてもらうわけにはいかないでしょう。

団員の人たちも納得しないと思いますよ」

 

しょぼんとしたアイズを横に見ながらリヴェリアが反論する。

 

「いや、うちのファミリアに入れるかどうか決定権があるのはロキだ。

つまり、ロキが承諾すれば問題ない。」

 

今度はロキにキラキラした目を向け始めるアイズ。しかし、ロキは瞑目したまま特に反応を見せなかった。

 

やがて、目を開けてロキは言った。

 

「いや、うちはジンをファミリアに入れる気は無いで。」

 

 

 

「何故だ?ロキ。昨日聞いたジンの話に僅かな誇張はあっても嘘はなかっただろう。

ならば十分に適性はあるはず。入団試験くらい受けさせても構わんだろう。」

 

「だめや」

 

簡潔にロキは返す。

 

アイズもロキを強い目で見つめているが、それにも怯まずロキは言った。

 

「仮にジンをうちのファミリアに入れたとするで、何が起きると思う?」

 

「ふむ、団員のやっかみくらいはありそうだが、実力があれば問題ないだろう?」

 

「違う、もっと簡単な話や」

 

ロキが苦笑いして言う。

 

「簡単な話…部屋が足りないとか」

 

アイズー、流石にその答えはどうかと思うぞー。

 

「部屋は有り余っとるで。

 

わかった。答えを言うわ」

 

そして、ロキはカッと目を開けて言い放った。

 

「ジンが入ったら、ア イ ズ た ん が 取 ら れ て ま う や ろ!!!」

 

 

 

恐らく私は今ロキにかなり冷たい視線を向けている。引っ張った挙句その理由か、と。

 

アイズを見れば私より冷たい絶対零度というべき視線をロキに向けていた。

 

頭を振って一通り呆れた後、私はロキを説得する方法を思いついた。

 

「わかった、ロキ。耳を貸せ」

 

"アイズがジンにかなり懐いているのはわかるだろう"

 

"仮にこの懐きが私たちの想像できないくらい強かったら、最悪ロキファミリアを抜けてでもジンの所に行きかねん"

 

"しかも、今ロキは思いっきりアイズに嫌われるようなことをした"

 

"もしかしたらアイズの中の天秤はすでにジンへと傾いているかもしれん。"

 

全てを聞くとロキは顔を青くしてアイズに

 

”うちはジンの入団に賛成や、大賛成やで!”と前言撤回した。

 

 

 

 

「で、実際どうするんだ。

入団試験は行うのか、ロキ?」

 

かなり重要なことを言っているが、俺の意見は無視なのだろうか。

まだ一度もロキファミリアに入るとは言っていないのだが。

 

ため息をつきながら隣を見ると、ロキが前言撤回してからアイズは再び機嫌よさそうに微笑んでいる。

俺が見ていることに気づいたのかこちらを見返すその瞳を見れば俺がロキファミリアに入ることへの疑問を微塵も抱いていないことがわかる。

 

(これはもう決定事項だろうな)

 

俺はアイズには全体的に弱いのだ。

彼女の願いを突っぱねてまで別のファミリアを探すのは無理だ。

 

軽くため息をつくが、アイズが同じファミリアに所属して欲しいと思うというのは、

それだけ彼女に懐かれている証拠だ。悪い気はしない。

 

加えて本当に嫌なわけでもない。

きっとこうやって少し困ってしまうのも幸せの一つなのだ。

 

「あー、入団試験か。どないしようかな。

そういえば、ジンは一応神の恩恵を持ってるんよな?」

 

「そうですね、まぁもらってから一切更新してないのでどうなってるのか分かりませんが」

 

「じゃぁとりあえず、それを更新してみて決めるで。

流石に何年もレベル1をやってステイタスが全然上がってなかったら受け入れられへんからな。

心配せーへんでも更新したステイタスは仮にファミリアに入れなくても誰にも教えへんよ」

 

「そこは心配してませんけど、よろしくお願いします」

 

 

食事の片付けの後、一旦アイズとリヴェリアが部屋の外に出た。

 

これから行うステイタス更新のためだ。

 

アイズは残りたそうだったが、流石にまずいのは分かっているのか、リヴェリアに素直に連れ出された。

 

「さーて、お待ちかねの更新タイムや」

 

服の上着を脱いでベッドにうつ伏せに横たわる。

 

その背中の上にロキが跨って、ステイタスを眺めた。

 

 

 

ん?思わずロキは疑問に想った。

 

ジンがステイタス更新したことが無いと言っているにも関わらず、アビリティの値が0ではないのだ。

 

しかし、神に嘘はつけない以上、ジンは嘘は言っていない。

 

(んー、まぁええか。とりあえず、読んでみよ)

 

ステイタスを読み取る。

 

とりあえずアビリティの値だけを読んでみた。

 

ジン・シックス

 Lv.1

 力 :Ex 5541

 耐久:Ex 3492

 器用:Ex 8637

 敏捷:Ex 6250

 魔力:Ex 2329

.

.

.

そっとステイタスを隠すようにベッド脇においてある毛布をかける。

 

(落ち着けうちは疲れとるんや、これは幻覚なんや)

 

もう一度毛布をのけて、ステイタスを見る。

 

ジン・シックス

 Lv. 1

 力 :Ex 5541

 耐久:Ex 3492

 器用:Ex 8637

 敏捷:Ex 6250

 魔力:Ex 2329

.

.

.

 

「…ファッ!?」

 

 

 




アイズはリヴェリアが嫌いなわけじゃありませんよ。ただめんどくさいだけです。

リヴェリアのキャラが若干崩壊してるのはたぶん仕様です。

ステイタスの秘密は次の話で明かされます。

まぁ大して難しくも無い順当な話なんですけどねー。



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