俺の妹分が世界一可愛いと思うのは間違っていない   作:EXEC

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さて、なんとか仕上げてみました。

割とやっつけなのでちょこちょこ変えるかもしれません。

口調がー、って感じがそこそこ。

気づいたら教えてくださると助かります。


3.彼の記憶/彼女の思い出

 

 

「ジン!」

 

そう言いながらアイズが抱きついてくる。

 

その高位冒険者らしい強い勢いをアイズを抱えながら一回転することで受け流し、再度アイズを抱きしめた。

 

「ジン……ジン、だよね。本当に」

 

そう言いながら確信が持てないのか俺の顔を覗き込んでくるアイズ。

 

俺は安心させるように彼女と目を合わせて微笑んだ。

 

「ああ、俺はジンだよ。君の幼馴染で家族で、兄貴分だ。

まぁ七年も君をほっぽっておいて家族を名乗る資格があるかはともかく」

 

後半は少し暗めのトーンになってしまった。本当にアイズに嫌われてたらどうしよう。

 

「ううん、ジンは家族だよ。私の大事な人」

 

それだけ言ってアイズは俺の胸に顔を埋めると、静かに泣き始めた。

 

……泣き始めた?

 

「わっ、ちょっとアイズ?どうしたの?」

 

「だって、ひっく、嬉しくて。

七年間ずっとロキに、力を借りて、探したけどどこにも、どこにも見つからなくて。

死んじゃったのかなって、私の、せいで」

 

ところどころで啜り泣いて、詰まりながらアイズは言う。

 

「お願い、ジン、私のこと嫌いにならないで。

私のせいで、死にそうな怪我をしたのに我侭かもしれないけど、お願いだから」

 

そして最後に消え入りそうな声で付け加えた。

 

(そっか、俺がいなくなったせいでアイズはこんなに傷ついたのか)

 

ここに来てアイズに会ったのは、ただ彼女に会いたいと思ったからだった。

 

こんなに傷ついて苦しんでるなんて考えもしなかった。我ながら無責任なことだ。

 

―――だから、せめて彼女の家族でいるために、彼女の傷を癒そう。

 

七年前とは違って今俺はアイズの傍にいるのだから。

 

「アイズ」

 

彼女の肩が少し大きく震える。

 

「アイズが俺のことを家族だと思ってくれるなら、どうか信じてほしい。

俺がアイズに会いに来なかったのはアイズが嫌いだからじゃないよ」

 

きっとこれがアイズが一番欲しかった言葉だ。

 

アイズの肩の震えが大きくなった。続けて言う。

 

「それにね、アイズ。

確かに俺が怪我をしたのはアイズを守るためだったかもしれない。

でも、あの日アイズを守るために怪我をして、アイズを助けるために街まで行って。

その結果アイズが今ここで生きてる。それが今誇らしいよ」

 

「兄は妹を守るものだ。それすらできなくてあの時アイズが死んでいたら、俺はアイズの家族を名乗れない」

 

「俺はまだ君の家族でいられるんだ、それがとても嬉しくて誇らしい」

 

最後まで言うと、やがてアイズが啜り泣きから、本格的にわんわんと泣き出した。

 

泣き止ませるつもりが本気で泣かせてしまったと苦笑しながら、でもきっとこの涙は悪いものじゃない。

 

そう想いつつ泣いているアイズをあやしながら、今この幸せをかみ締めた。

 

 

 

「随分と表が騒がしいと思ったが、これはどういう状況だ?」

 

かつて、アイズを預けたエルフの女性が屋敷から出てきた。

 

「お久しぶりです、七年前はありがとうございました」

 

あやしつづけたことで、多少ぐずる程度まで収まったアイズの頭を撫でながら言う。

 

「君は……なるほどあのときの少年か。生きていたんだな」

 

「まぁ、あの後色々ありまして」

 

近づいてきた彼女にアイズを引き渡そうとするが、ぐずりながらもなかなか離れない。

 

「愛されているようだな」

 

それを見てか、彼女はからかうように言ってくる。

 

俺は苦笑しながら"そうこうしていられるのも貴女のおかげですよ"そう言った。

 

 

 

結局離れようとしないアイズを抱えながら互いに自己紹介すると、

リヴェリア――呼び捨てでいいらしい―――は俺に屋敷に上がるように言った。

 

"積もる話もあるだろう"そう言ったリヴェリアに対して

"勝手に入れてよろしいのですか、主神の許可も必要でしょう"と言うと、

 

"大丈夫、ロキなんてどうでもいい"アイズがそう続けた。

思わず絶句していると、リヴェリアはアイズの頭を軽くはたいて、

"まぁロキはアイズには大分寛容だ。許してくれるだろう"そうため息をついた。

 

 

「ロキを呼んでくる」

 

そう言ってリヴェリアは部屋を出て行った。

 

まだ目元が赤いものの、流石にアイズ泣き止んでいる。

 

どこか、お互いの距離感を探るような沈黙が続く。

 

やがて、アイズが口を開いた。

 

「ジン、今までどこにいたの?

オラリオの周辺では見つからなかったってロキが言ってたけど」

 

「あの門の前で意識を失った後、門を出て行く隊商が拾って治療してくれたんだが、その人たちについていってたんだよ。まぁ詳しい話は君の主神が来てからにしよう」

 

"その方が嘘がわかるから都合がいい"そう続けると、アイズはかぶりを振って、"ジンが私に嘘をつくとは思ってないよ"と続けた。

 

どこかその信頼がくすぐったくて、思わず黙り込む。

 

再びの沈黙は少し気まずかったが、不快ではなく、先ほどまでの距離感が少しだけ縮まったような気がした。

 

 

少しの時間が経ってリヴェリアがロキをつれて来た。

 

「さて、キリキリ話さんかい。特に幼少期のアイズたんの話を―――」

 

そこでリヴェリアがロキの頭をたたく。

呆れながら、彼女は"真面目にしろ"とだけ言った。

 

不貞腐れて、ソファに座るロキを見て、俺は立ち上がり深々と頭を下げて言った。

 

「七年前はアイズを助けてくださりありがとうございます、ロキ様」

 

ロキは少しだけ目を見開いて、しかし不機嫌そうに言う。

 

「やったら、さっさと事情を説明せんかい。

つまらん理由でいなくなってアイズたんを悲しませたんなら屋敷から叩き出すで」

 

再び俺は座りなおすと、静かに話し始めた。

 

"隊商に拾われて"、"うん、本当やな"、"実は記憶喪失で……"、"嘘じゃない…やて?"

 

 

 

いつの間にかどうしてアイズに会いに来なかったのかという質問から、どういうことがあってどういう冒険をしたのかと言う話にシフトしていた。どうやら、リヴェリアとロキは冒険譚が好きなようで、恩恵も無しにモンスターや冒険者を倒すという話を聞くとその方向に突っ込んで聞かれた。

 

そのうちにいつの間にか自分は嘘にならないように少しだけ話を脚色して話すと言う語り部と詐欺師のハイブリッドみたいなことをしていた。

 

ちなみにアイズは隊商と記憶喪失の件を聞いただけで満足したようで、今も無言で頭を撫でるように要求しつつ、隣に座る俺に体を預けていた。

 

なお、位置取りは向かい合ったソファのこちら側に俺とアイズが向こう側にリヴェリアとロキが座っている。

 

粗方話終わり、ちょうど1ヵ月前の隊商の解散まで遡るとロキが満足そうに息を吐いた。

 

「にしても、手に汗握るいい話やったなー。語り方もうまかったし。

 

でも、ジンは1ヵ月前は記憶を取り戻してなかったんやろ?

 

なにが切っ掛けになって記憶を思い出したんや?」

 

彼女の言葉につい三日ほど前のことを思い出す。

 

リーダーに言われた男性の護衛が終わって、オラリオに向かう途中、

 

師匠に会いに行きそこであった信じられないほど衝撃的なことを。

 

 

 

――――――

 

実は師匠が引退して隊商を離れるとき、俺は師匠の故郷がどこにあるのか聞いていた。

 

"暇になったら遊びに来い"という言葉も。

 

よって、隊商の仕事も無くなってフリーになった、俺は師匠の故郷に向かっていた。

 

といっても、師匠の故郷はオラリオのすぐ近くにある村であり、どうせ途中に寄る予定があった場所でもあるが。

 

その村の名前に聞き覚えがあったり、行く途中の道に見覚えがあるような気がしていたが、気のせいだと片付けた。

 

そうやってたどり着いた村の外縁部で、剣を構えて近づいてくる男性がいる。

 

「何者だ、何の目的でこの村へ来た……ん?お前は」

 

そう、我が師匠である。

 

 

「大きな気配がオラリオと反対方向から近づいてきたから何事かと思ったぞ。

全く、まぁ随分と研鑽を積んだようだな」

 

集団や強者に対して、隊商を守るために最も重要なのは、気配察知の技術である。

 

数が多くなればなるほど、レベルが高くなればなるほど、その存在の気配は大きくなる。

 

これを念頭において広域の気配察知を行うことで、師匠は一人で隊商の護衛を勤めてきた。

 

もちろん、俺もこれを教えられ無ければ到底一人の犠牲も出さず隊商を守ることなどできなかったはずだ。

 

「そういう師匠は相変わらず慎重ですね」

 

苦笑して言う。

 

「まぁな。前は隊商を預かっていたし、今はこの村の防衛を預かっている。

妻も子供もいるんだ。慎重にもなる」

 

(へー、妻子がいるのか。でも師匠は前に家族はいないって言っていたはず)

 

「とりあえず家に戻るとしよう。妻が待っている」

 

そうして、師匠に連れられて村の中へ入った。

 

 

ところで壮年と言って大体何歳頃をさすか分かるだろうか。

 

およそ、三十歳の中ほどから四十歳の半ばまでをさすらしい。

 

大体、俺を拾った七年前師匠は40歳くらいだった。実際引退を考えるならそれくらいの年からだろう。

 

つまり、師匠は現在約50歳くらいな年齢なわけだ。

 

50歳くらいの男性が20歳くらいの女性と子供を作っていたらどうなるか。

 

どう考えても犯罪的だ。

 

 

思わず頭の中をよぎった前述の考えを俺は何とか口に出さないように飲み込んだ。

 

流石に初対面でそれを言うのは躊躇われたからだ。

 

もちろん、初対面ではない師匠にはジト目をくれてやったが。

目を逸らされた。自覚はあるらしい。

 

"はじめまして、貴女の夫さんの弟子です"とりあえずそう自己紹介する。

 

すると師匠の妻であるらしい20歳の彼女(師匠から聞いた)は躊躇いがちにいった。

 

"あなたは七年程前にこの村に住んでいませんでしたか?"と。

 

俺と師匠は顔を見合わせた。

 

"すみません、実は自分は記憶喪失ですので"俺はひとまず彼女にこう言った。

 

そして師匠の方を見て目線で促した。師匠は俺に向かって頷き、彼女に言った。

 

"すまないが君の言う心当たりを教えてくれないか"

 

 

 

彼女曰く、その少年の名前はジン・シックス。当時11歳。

 

村の端にある家に両親が死んでから、アイズという名前の少女と一緒に暮らしていたらしい。

 

ただ、七年前に突然行方不明になり、後にアイズという少女のみがエルフの女性を連れて帰ってきて少年の行方を知らないか聞いたあと、少年と少女が住んでいた家からいくつか物を持ち出してエルフの女性に連れられてどこかへ去って行ったらしい。

 

 

それを聞いている間、俺はひどく強い焦燥感に駆られていた。

 

アイズという名前を聞くたびに何かが心を震わせる。

 

出来る限り早くこの想いの正体を知りたくて、彼女に自分をその家に連れて行ってくださいと頼んだ。

 

幸い、少女が去ってから誰も住んだことがないらしく、家は当時のままらしい。

 

家を見ると何かが、頭の中でひらめいたような気がした。

 

その正体を確かめる間もなく、俺は急いでドアを開けた。

 

ぼんやりとした情景が頭の中に浮かぶ。笑っている少女を見ている誰か(自分)。

 

家の中を見回すと、莫大な感情と映像が心に流れ込んでくる。

 

ひどく懐かしかった。

ここで、少女はこんなことをした、誰かがこんなことを少女に教えた。

 

失われた記憶が蘇ってくる。だが、最後の切っ掛けが足りない。

かつての誰かの部屋に行く。

その押入れの奥に一冊のスケッチブックがしまわれていた。

 

取り出して開き一枚ずつ眺めていく。

笑っている、叱っている、教えている、家事をしている、そんな絵。

少女と誰かが描かれたいくつもの絵。

 

全てのページを見終わると、誰かは俺になっていた。

 

 

 

スケッチブックだけを持ち出して、かつての我が家を出た。

 

そして"全部思い出しました"そう師匠とその奥さんに告げた。

 

 

目指すのはオラリオ。

 

音に聞く『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインに会いに行こう。

 

 

 

――――――――――――

 

 

「こうして、俺は今ここにいます」

 

「ふーん、ところで何がそんなに信じられないくらい衝撃的だったんや?」

 

ロキがたずねて来る。簡潔に答えた。

 

「師匠が□リコンだったことです」

 

「自分隠せてないからな」

 

突っ込みで迎撃された。

 

「いや、だって子供2歳ですよ?つまり三年前に結婚したんですよ?

つまり四捨五入50歳くらいの人が17歳の女性と結婚したんですよ?

加えて師匠はガッチリしてて、女性は小柄なんですよ。

隣に並ぶと犯罪臭がやばかったんです」

 

 

「いや、まぁ尊敬する師匠がそれでショックだったのは分かるが。

アイズのことは前から知っていたのか?」

 

リヴェリアさんが軌道修正に入る。

 

「いや、実は隊商の護衛やってた頃にオラリオに来たことも何度かあるんですよね。

その時に最速レコードとかで聞きました」

 

当時は名前が違っていたから、ロキファミリアの捜索にかからなかったのだろう。

 

"いやー、師匠が隊商の何人かと娼館にいって男殺しに襲われかけたとかで震えてたなー"

 

なんて言いながら懐かしく思っていると、突然隣から背筋が凍るような視線が向けられた。

 

「ジンは……娼館に行った事があるの?」

 

「無い、無いから落ち着けってアイズ」

 

そういうと、アイズはロキに視線を向けた。

ロキは苦笑しながら"嘘は言ってない"と言ってくれた。

 

俺が嘘を言うとは思っていないと言っていたアイズはどこに言ったんだろうとか思いつつ、ロキに感謝を視線で伝えて、持ってきた荷物の中からスケッチブックを取り出た。

 

「はい、これはアイズにあげる」

 

「え……」

 

受け取ったアイズはぱらぱらとめくり、目を輝かせた。

 

そこには、色々な情景で描かれた俺とアイズの姿が映っていた。

 

「ふむ、モノクロで描かれているが見事な絵だな。

だが、これは君が描いたのだろう。

しかし、これをアイズが家から持っていかなかったということは、アイズはこれを知らなかった。どうして、アイズから隠れてこの絵を描いたんだ?」

 

その答えは簡単だ。

 

当時俺たちは小さな村で暮らしていて、誕生日は普段より少し豪華な料理を作って祝う程度だった。

 

だが、俺はそれだけだと少し寂しいと思ったのだ。だからアイズにサプライズで渡そうとこの絵をこっそり描いていた。

 

幸い、スケッチブックはもともと家にあった。

 

だが、まもなく誕生日というところで、アイズがモンスターに襲われたという顛末だ。

 

 

「ま、そんなところだ。これは遅すぎた10歳の誕生日プレゼントかな。

今年はちゃんとあげるから、これまでのはこれで多めに見てくれってことで」

 

ロキとリヴェリアの感心したような視線に照れながら、アイズに言う。

 

「うん、このスケッチブックはそれくらいの価値があるから」

 

そう言ったアイズに疑問の視線を送ると、

 

「このスケッチブックには私とジンの大切な思い出がしまってあるから」

 

「だからどんな宝石よりも私にとって価値があるんだ」

 

そう、アイズは言った。

 

 

ここからも、まだ談笑が続いたが、気づくとアイズが眠ってしまっていたため、お開きとなった。

 

リヴェリアは"泣いて精神的に疲れたんだろう。明日になれば元気になるさ"と言うと、彼にアイズを抱えるように言ってアイズの部屋に案内して、アイズをベッドに寝かしつけさせた。

 

途中、門番の仕事が終わったのか屋敷の中にいた門番の狼人に、アイズを抱えている姿を見られて殺意のこもった目で見られたが、まぁ問題はない。

 





今までと比べると長いなーと思いますが、今回は説明会です。

書きはしましたけど、あんまりしっくり来ません。

とりあえず、あまり気にせず後から挽回するってことで。


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