俺の妹分が世界一可愛いと思うのは間違っていない 作:EXEC
種族
オラリオにはかなり多くの種類の人種がいる模様。一般的な特徴の無い普通の人種をヒューマンと呼ぶ。アマゾネスは褐色の肌を持ちその肌を晒すのを好む。また強い男性に体を許す。エルフは真逆で肌を見せるのを好まない。自分の好きな異性にのみ肌を触るのを許す。突然肌を触ろうとすると殴り飛ばされることも。魔法が得意。この作品では全ての人種を"人間"と呼ぶこととする。
「ん?」
アイズ・ヴァレンシュタインは遠征から帰って、ホームに向かう途中ひどく懐かしい横顔を見た気がした。
だが、振り返ってもどこにも見た顔はない。
頭の中でその横顔を思い出して…かぶりを振った。
だって、こんなところに彼がいるわけがない。
ロキファミリアがオラリオでその力を振り絞って見つけられなかったというなら
それはオラリオにいないのと同義だ。ダンジョンの深層ならば可能性はあるが、彼がそんなところにいるわけがない。
アイズは自らを納得させると、自分を呼ぶ声に従って仲間たちのところへ戻った。
彼と会ったのは物心ついてすぐの頃だ。私の両親は彼の両親の友人らしく、彼が住む村に何度か行ってその度に私は彼に会うことが出来た。彼はとても大人びた子供だったと今にして思う。
親同士で話しているとき私は彼と遊ぶというより面倒を見られていたという感じだった。
絵本を読んでくれたり、外で村の子供の仲間に入れてもらってかけっこをしたり。いつも彼は私を気にかけてくれた。
私の両親が私を彼の両親に預けてそのまま帰って来なかったあの日も彼は私を抱きしめて慰めてくれた。
私は彼の両親に預けられたが、扱いはとても優しかった。でも、悪いことをしたときどこか遠慮してあまり叱ってはくれなかった。
そんな時、彼は私を捕まえて筋道立てて説教をした。彼は悪いことすれば叱ってくれたし、良い事をすれば褒めてくれた。
私の両親を除けば、私にとって本当の意味での家族は彼だけだった。
だからだろうか、彼の両親が死んだときそこまで悲しくなかった。むしろ彼が泣いていることのほうが辛かった。
彼の涙を見て私は初めて彼の弱いところを見た。だから、かつて私の両親が帰ってこなかった時、彼が私にしてくれたようにただ泣き止むまで抱きしめてあげた。
彼はすぐに立ち直った。彼曰く"良い女に慰められてめそめそしてはいられない"らしい。
よく分からなかったが元気にはなったらしい。
それからは、彼と二人で生活することになった。幸い、彼の両親は蓄えがたくさんあったらしく、成人するまで困らないらしい。
私も少しでも彼の助けになれるように彼に習いながら家事を手伝った。
彼はたくさん褒めてくれた。
彼が褒めてくれて私も嬉しかった。
彼から勉強を教えてもらいもした。難しかったところもあるけど、でも彼と一緒に時間を重ねていられるだけで幸せだった。
今でも当時のことは鮮明に思い出せる。一つ一つの状況が瞼の裏に浮かぶ。
思い出すと胸が少しだけドキドキしてとても暖かくなる。
重ねた一秒一秒が宝物のように輝いていた。
でも、思い出すと同時に胸が引き裂かれるように痛む。
だって、彼は私のせいでいなくなった。
胸の痛みとともに私の中で声がするんだ。
探しても無駄だ。彼はもう死んだ。お前のせいで死んだんだって。
――――――
「……」
目を開ける。見慣れたホームの自室の天井が視界に写る。目元を拭うと少しだけ手のひらに涙の感触が伝わる。
窓の外を見ると雨が降っていた。まるで彼がいなくなった日のような…。すぐに起き上がって頭を振る。
でも、憂鬱になった気持ちは戻らない。今日はホームで過ごすと決めた。出来れば自室からも出たくないが、そういうわけにはいかない。リヴェリアは引きこもりには厳しいのだ。子守は得意で優しいけど。
横切った馬鹿な考えを追い出すと身だしなみを整えて部屋を出た。
昨日は遠征帰りだったからか、リヴェリアも寝坊は多めに見てくれたらしく、お昼よりちょっと前だった。
ちなみに、リヴェリアは私をロキファミリアに連れてきてくれたエルフの女性で、ファミリア内で影でママと呼ばれている。
生活態度に厳しく、昼に起きたり徹夜したりすれば怒られる。
だからママと言われるのだ。でも言われると怒る。
食堂に行くとちょこちょこと人がいた
ロキファミリアは探索系のファミリアなので昼はダンジョン内で摂る人も多い。
よって、食堂では皆で一斉に食べたりはしない。
加えて朝や夜もダンジョンで一晩過ごす人もいるので、
ある程度時間は合わせるが皆で挨拶をして食べることは滅多にない。
大抵は思い思いの時間に食事を摂る。
食事を頼んでのんびり食べていると人が集まってきた。
「今日は起きるの遅かったわね、アイズ。
まあ遠征帰りだから仕方ないと思うけど。リヴェリアが眉をひそめていたわよ」
アマゾネスの女の子ティオネだ。双子の妹にティオナがいる。
「ティオネは早かったみたいだね」
そう返す。にしてもリヴェリア…
「リヴェリア、怒ってた?」
思わず、聞いてしまった。でも怒ったリヴェリアは面倒なのだ。
怖くはない。切れない限りは。
怒ると説教されて時間がとられる。講義も長いが説教はその比ではない。
「ううん、その時は怒ってはなかったよ。
ただ、直後に私が団長に朝這いを仕掛けようとしたのがバレて怒られたけど。
たぶん、アイズにはただ注意されるだけで済むんじゃない?」
ティオネはロキファミリアの団長フィン・ディムナに想いを寄せている。
ただ、その行動が過激になることも多いため、フィンからは困った顔をされるのだ。
「さーて、私もお昼ご飯にしようっと」
そういってティオネは私の隣に持っていた料理を置いて食べだした。
「ティオネさんの話を聞いていつも思うんッスけど、そんなんだから団長に避けられるんじゃないッスかね。
こう、もう少しお淑やかに迫られれば団長も満更じゃない気がするんッスけど」
こちらはラウル・ノールド、Lv4だ。どうやら話を聞いていたみたいで、こっちに食事を持ってきて私の向かいに座った。
「それは無理よ。というかやっても意味がないわよ」
「無理なのはともかく意味がないってのは何でッスか?」
私もラウルと同じところが疑問だった。
「長所を潰すからよ。アマゾネスの長所は身体の接触にそれほど抵抗感がないことや恋愛に対してアクティブな所よ。
お淑やかだったら、エルフとかの方が私の演技よりよっぽど得意でしょ。
相手の得意分野で戦っても勝機はないわ。
それに、演技の私を好きになってもらってどうするのよ。
そんな関係すぐ破綻するわ。
だったらありのままの自分をさらして、その長所を生かすしかないわよ」
思わず、瞠目した。彼女がこんなに考えてたなんて全く想像もしなかった。
「はー、考えてるんッスねー、ティオネさんも」
「そーそー、だから生まれたままの私を見てもらおうと朝這いを仕掛けたのよ」
うーん、やっぱり彼女は彼女だったようだ。上がった株はすぐ下がった。
談笑をしながら食べていると、最初の差で私が最初に食べ終わった。
水を飲みながらティオネの話に耳を傾けていると、
「そういえばアイズさん、昨日門番やってた時に変な人が来たんッスよ」
「変な人…」
そういえば、昨日はラウルが門番をやっていたんだった。
普通レベルが高い者が門番をすることはないが、遠征中にベートとラウルが賭けをやっていたとかで、リヴェリアが切れたのだ。その賭けでは負けた場合三日間門番をすることになっていたらしい。
そのため、リヴェリアに罰として二人で交代で門番をするように言われたとか。
昨日はラウルで、遠征中に5階層からダッシュさせられてそのまま門番と代わるように言われていた。これだから切れたリヴェリアは怖いのだ。
「そうそう、何ていうかアイズさんに用があるみたいで名前を言えば分かるから伝えてくれって。まあ、その時アイズさんたちはダンジョンから帰ってる途中で、いなかったんッスけど」
「…」
思い当たる人といえば、遠征中にミノタウロスから助けた白髪の少年くらいだけど、私はあの子の名前は知らない。
だから、たぶんあの子じゃないと思う。でも、それだと思いつかない。
「確か、今日改めて来るとか言ってたッスけど、なんて名前だったかな」
ラウルが考え込む。私も心当たりはない。
ファミリアの外では私の交友関係はかなり狭い。
私が知っていてラウルが知らないというのはないだろう。
そこへ、玄関の方からバタバタと音がする。誰か帰ってきたらしい。
そのまま食堂に顔を出すとたった今帰ってきたティオナは言った。
「アイズー、何かお客さんが来てるわよー。門番のベートと揉めてたわ。
えーと、名前は何だったっけ」
ティオナが言った名前を聞いた瞬間私は走り出した。
背後から呼び止める声が聞こえたが一切を無視して。
――――――
俺が門番にフッと笑いかけると、それを見て門番は切れたらしい。
ほんとよく分からない。俺が笑いかけたのは友好関係を築くためなのに(真顔)。
キャンキャンと怒鳴り散らしている狼人を尻目に、待つ。
俺の幼馴染にして俺の妹分、アイズ・ヴァレンシュタインを。
かつての俺の名前にして今俺が名乗るべき名前は…
「ジン!!!」
そういって狼人を跳ね飛ばしながら俺に抱きついてくるこの子の、幼馴染にして兄貴分
ジン・シックスだ。
うーん、これでいいのかなー。
最後ちょっと気取ってたのがどうかと思ったけど、うーん。
不評なようなら変えるかも。
まぁ、もともとはもっと気取ってたんですけどね!
流石にまずいと思って変えました。