俺の妹分が世界一可愛いと思うのは間違っていない   作:EXEC

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思ったより早く書き終わったので投稿します。

今回はシリアス?です。シリアスのふりをした甘い話である可能性も……?の略(嘘)
うん、たぶんシリアスでいいと思います。

自分で書いたものを改めて読み返すと、ジンとアイズが再会する4話の台詞回しはどうしてこんな良い感じに書けたんだろう思って、今のが劣化しているように感じられますね。
初心を思い出して頑張らないと。
とりあえずアイデアの神が降りてくるまで待ちましょう(更新が遅くなるフラグ)



21.彼女の誤解/彼の想い

17階層大広間でゴーレムを倒したあと。

 

私たちは一旦18階層へと戻っていた。

どうやら異変があったのは17階層だけではなく18階層もだったようで、強化されたゴライアスが出現して冒険者総出で迎え撃ったらしい。

出現したのはリヴィラの街から離れたところだったようで街に大きな被害はないが大騒ぎだったとか。でもそんなことがあったとは思えないくらい街の冒険者たちは笑っていた。何でもすごい戦いを見れていい気分らしい。

 

私たちもあの戦いのあと半日かけて洞窟側の崩落した岩石を取り除いた。ちなみにこの半日という時間は18階層側からも掘り進めた上での時間であり、ロキファミリアだけで掘っていたら三日はかかってもおかしくなかったみたいだ。

大広間の出口の崩落もリヴィラの冒険者が夜通しでどうにかするらしく、私たちは明日には地上に戻れる。今日まではテントで過ごすことになって、再びジンと同じテントだ。もう一日同じテントで過ごせるのはとても嬉しい。

 

ちなみにそのジンはゴーレムと戦ったあと精神枯渇で倒れた。いきなり倒れてしまったので思わず駆け寄って慌ててしまったのだけど、リヴェリアが精神枯渇だと教えてくれて本当に安心した。

 

それと、ジンは起きてすぐティオナの不壊属性の大剣を壊したことでフィンに小言を言われていた。今回の遠征のために用意されたあの大剣はかなり高かったはずである。そのため普通では小言では済まず大目玉をくらうはずだけど、敵がそれだけ強大であり死人が出ないだけ十分と言えたのもあって小言だけだったらしい。

 

実際、魔法が効かないゴーレムを倒す手札はロキファミリアにはなかった。一か八かで私がリル・ラファーガを倒れるまで使えば運がよければ魔石まで届いたかもしれないという程度だ。ジンには言わなかったが、"あの大剣一本で倒せるならば安いものだろう"というリヴェリアの言葉にフィンも同意していたので本当は気にしていないようだ。

ただ、今回ゴーレムを倒すのにジンが使った魔力圧縮は二度と使わないように厳しく言われていた。私も言った。一歩間違えば自分自身も巻き込んでしまう上に直撃すれば絶対死んでしまう技なんて危なすぎる。

 

それと大剣のことでティオナはジンの襟首を掴んで揺さぶって"どうしてくれるのよ!また怒られちゃうじゃない!"と言って怒っていた。

ティオナはよく武器を壊すことで鍛冶師に怒られるのだ。むしろ畏怖されているといってもいい。しかも今回は不壊属性の武器だ。下手をすればティオナに不名誉な二つ名がつきかねないくらいなので、怒るのは正当なのかも。

 

でも、キスしてしまいそうなくらい近くに詰め寄って揺さぶっているのが何となく嫌でティオナをジンから引き剥がした。一応精神枯渇したばかりだという言い訳をつけて。

ただ、引き剥がされたティオナはさっきまで怒っていたのに今度は見透かしたようにニヤニヤとした笑みをこちらに向けていた。思わずティオナから目を逸らしてしまったけど、ティオナは私自身にもわからない私の心をどうして見透かせるのだろう。ちょっと不思議だった。

 

結局、地上に帰った際に大剣を作った鍛冶師のところへジンも謝りに行くことで許して貰ったらしい。

そして何故か私も二人についていくことになった。……ティオナとジンが二人で出かけることに引っかかるものがあったから嬉しいけど、そんなに私は分かりやすいのだろうか。

 

釈然としない。

 

そのあとロキファミリアの皆で宴会をした。リヴィラの街の冒険者がかなり安く食料などを提供していたためだ。食料やお酒、回復薬だけだったが地上と同じ相場で物を売るリヴィラの街なんてフィンですら初めて見たらしい。目を丸くして驚いていた。

 

リヴィラはでその時そこら中で宴会が行われていたのでその関係だと思う。私たちも彼らとは戦った場所も相手も違うととはいえ危険を乗り越えたばかりだ。凄い戦いを見れたとかで冒険者たちが上機嫌なのもあり、安く売っているのだろう。

 

宴会はリヴィラの酒場でやったのだが、貸切したはずの酒場には途中ロキファミリアだけでなく他のファミリア冒険者たちも差し入れを持って混ざってきた。でも皆ファミリアの違いなど気にすることなく、食べて飲んで騒いで笑って楽しんだのだった。

 

私は宴会の間ずっとジンの傍にいた。私はお酒が飲めないので飲み比べなんかはできなかったが、ジンにお酌したり食べ物をお皿に盛ってあげたりして、自分なりに宴会を楽しんだ。

途中、酔った振りをしてジンに横から抱きついて甘えたりなんてこともした。普段は流石に恥ずかしいような甘え方も場の雰囲気のおかげか自然とできた。やった後に恥ずかしくなったけれど。

 

それと飲んでないんだから酔うわけがないのに、ジンは"お酒の匂いで酔ったのかな"と言って子供をあやすように扱われた。

……うん、流石に匂いだけで酔うほどお酒に弱くないはずだ。何故かとても陽気な気分になったけど違うはず。

あと、子供みたいに扱うのはどうかと思う。そこはとっても不満だった。

 

 

そして、今。私はさっきまで寝ていたテントから出て暗い外へ歩き出した。

宴会の後、ジンと同じテントに寝ていたのだけれど、今さっき起きた時にはジンはテントの寝床にいなかった。たぶん精神枯渇で寝ていた分、寝ようとしても眠れなくて出て行ったんだろう。

 

雑草を踏んで音を立てながら野営地の中を探してみる。なかなか見つからなかったけど、野営地のすぐ傍にある水場のところに人影を見つけた。

ゆっくりと歩いて人影の隣に座る。もちろん人影はジンだ。彼はぼんやりと小さな泉のゆらゆらと揺れる水面を見つめていた。

 

「……アイズか。もしかしてテントを出る時に起こしちゃったか?」

 

私が隣に座ったところでジンがこちらをちらりと見て言う。私はそれに首を横に振って返す。私が起きたのはたぶん今のどこか落ち着かない気分のせいだ。

 

あのゴーレムとの戦い。

私はジンと一緒に肩を並べて戦った。

楽しかったと言うと不謹慎かもしれない。けれど、戦ってる時。どこか満たされたような気持ちだった。

ゴーレムは強い敵だったけれど、それでもジンと呼吸を合わせて戦っている間、楽しくて、嬉しくて、私は幸せすら感じていた。

ジンが隣にいてくれれば、どんな敵だって倒せる気がした。

 

それなりに時間が経って一度は眠りについたのに、未だに私の胸の中では戦闘中の高揚感が燻っている。

それは何となく心がふわふわするような心地よさを伴って私をなかなか眠らせてくれなかった。

 

それでも、さっきまではしばらく横になって何とか浅いながら眠りについたのだけれど、ふと寂しさを覚えて起きたらジンがいなくて探しに来たのだ。

 

「飲み比べでかなり飲んでたみたいだけど、もう大丈夫なの?」

 

宴会中、ガレスやお酒好きのロキファミリアの仲間たちと飲み比べをしていた。中でもドワーフであるガレスは底なしにお酒に強いので、つられてジンも含めて皆かなり飲んでいたのだ。

もっとも、明日は地上に帰るためダンジョンを上る必要があるということで、途中でリヴェリアが彼女に付き従うエルフたちと共にお酒を取り上げたため誰一人潰れるほどまでは飲んでいない。

 

「あれからそれなりに時間が経ったから、酔いは大体覚めてるよ」

 

ジンは水面に向けていた視線をこちらに戻して私の疑問に答えると、今度は悪戯っぽく笑って言った。

 

「アイズの方こそお酒の匂いで酔ってたみたいだけど、大丈夫なのか?」

 

「酔ってない」

 

即答する。あ、でも酔ってなかったら素面であんな甘え方をしていたことに……。

 

「酔ってる人は皆そう言うらしいよ」

 

幸い、ジンは強がりと受け取ったのか、苦笑して再び視線を水面に戻した。

 

穏やかな沈黙が私たちを包む。時に木々の間を風が駆け抜けて、私たちが座っている周囲の草原を凪ぎ、水面を大きく揺らす。

 

どこか心地よい沈黙。だけど高揚感で落ち着かない私は、もっとジンと話したくて話題を探す。こういうとき口下手な自分が少しだけ嫌になる。といってもジンと再会するまで口下手で後悔したことはないから今まで直そうと思ったこともなかった。

ジンに再会してからの口下手で困ったことだって、今みたいにジンと話したいときやジンに伝えたいことがあってそれを表現しきれないときくらいだ。特に、感謝の気持ちや私がどれほどジンのことを大事に思ってるのか、話すのが得意ではない私では伝えきれない。いつか伝えられる日が来るんだろうか。

 

思考を引き戻して昔のことから最近のことまで何か話題がないものかと記憶を探る。そのとき思いついたのは、自室の机の上にある村から持ってきた本。私が初めて読んだ本であり、私に恋とは何か疑問を持たせた本。

 

あの、恋とは何かジンに尋ねたときから、もう何年も経っている。そして私もジンもオラリオでは成人とされる年齢を超えている。今の彼ならその答えを持っているかもしれない。

そう、軽く思って口を開く。

 

「ねぇ、ジン。恋って何だと思う?」

 

ジンは"うーん、恋かー"と声を上げると、少し考えるように腕を組む。

それから、しばらく置いて私の質問に答えた。

 

「恋っていうのは、こう、胸の中から湧き上がってきて、どうしようもなくその相手のことを好きになるような感情、かな」

 

「何と言うか、居ても立ってもいられないくらいにその人の傍にいたいと思ってしまうんだよ」

 

"居ても立ってもいられないくらいその人の傍にいたい"

 

私はその言葉を胸の中でその言葉を反芻する。昔は"どこまで触れ合えるのが許せるのか"と答えてくれたはずだ。

でも、今の言葉を聞いてもやっぱり家族(ジン)を想う気持ちとどう違うのかがわからない。

 

昔の答えとさっきの答えを交互に胸の中で繰り返すと、ふと疑問に思うことがあった。

 

 

――どうして昔は本の中からの解釈だったはずの答えが変わってしまったのか。

 

――さっきの答えはまるで自分で体験したかのような言葉ではなかっただろうか。

 

 

冷たい水を浴びせられたみたいに一瞬で体温が急落する。

自分でもわけがわからないくらいショックだった。だけど、それでも感じてしまった疑問を言葉にする。

 

「……ジンは、恋をしたこと、あるの?」

 

声が震えなかっただろうか。自信はない。

 

何故か私がそう聞くとジンは動揺したように気配を乱した。隣にいるからよくわかる。

けれどジンは動揺ををすぐに鎮めて、少しの間を置いて水面を見たまま静かな声で言った。

 

「……あぁ、あるよ」

 

「…………そう」

 

搾り出すようにこれだけを返した。変わらずジンは隣にいるのに、何故か遠くに居るように感じて胸が苦しかった。気づけばさっきまで感じていたはずの高揚感なんてどこにもなくなって、暖かいものを感じていたはずの心もひどく寒かった。

 

これ以上ジンの傍にいると泣き出してしまいそうで、立ち上がって言葉少なにジンに別れを告げると足早にテントへと向かった。

 

テントに戻るまでのことはまったく覚えていない。頭の中がずっと真っ白のままで、私は気づいたらテントの中で寝床に横になっていた。

テントの中で毛布にくるまる。夜風にあたって少し肌寒かった身体はすぐ温かくなる。だけど心は寒々しいままで、ジンと離れて一人になっていた時のように虚しさと悲しさで潰れてしまいそうだった。

 

一人になって思うのはさっきのジンの言葉だ。

 

ジンが恋している人。ジンが好きな人。

誰だろう。村の人だろうか?旅の中で出会った人?あるいはロキファミリアの誰か?

どうしてこんなにも気になるんだろう。どうしてジンが好きな人のことを思うと胸が張り裂けそうになるんだろう。

 

ジン、胸が痛いよ……。

 

そうやって思い悩むうちにいつの間にか私は眠りについていた。

 

 

――――――

 

 

アイズがテントへと戻ったあと、俺はまだ一人で泉の水面を見ていた。

アイズに聞かれた質問を胸の中で転がす。そうして質問を吟味していると、気づけばぽつりと呟きが漏れていた。

 

「ハッ、言えるわけないな。アイズが俺の初恋だったなんて」

 

自嘲するように漏れた呟きが自身の耳へと届く。

 

そうだ、俺の初恋はアイズだった。

一緒に居た幼かった時は気づかなかったけれど、離れ離れになって、記憶を取り戻したときに気づいたのだ。

切っ掛けはなんだったのだろうか。両親が死んだ時に泣いていた俺を抱きしめてくれたことだろうか。あるいは切っ掛けなんてなくて月日の積み重ねで好きになったのかもしれない。

今となってはわからないが、当時の俺にとってアイズはとても大切な存在だったのは確かだ。

 

ずっとあのまま二人で暮らしていくと思っていたし、それに何の疑問も不満も抱かなかった。むしろ漠然とそれはとても幸せなことだろうとすら思っていた。

もし二人であのまま暮らしていけたなら、俺はアイズと結婚して今も二人で暮らしていたかもしれない。

 

けれど、あの雨の日。俺は魔物に襲われて大怪我をして記憶もなくしてしまった。そして何よりアイズと別れてしまった。

 

それからは色んなことがあった。隊商との旅で楽しかったことや辛かったこと、悲しかったことに嬉しかったこと。たくさんのことがあったけれど、それでもアイズへの想いは消えなかった。結局俺はこの七年間でアイズ以外の誰にも恋をしなかったのだから、自分でも笑えるくらい筋金入りだ。

 

だけど想いは消えなくてもその想いの性質は変わったのだ。

 

十代の俺にとって離れ離れになっていた七年という歳月はあまりに大きかった。

 

その長い月日は俺の想いを落ち着かせて、やがて家族への感情に変えた。

 

今もアイズのことは好きだ。だけどその好きは家族としてもので、妹のような存在に対して向けるものだ。

全く異性として見ていないわけじゃない。たまにその仕草にドキッとすることくらいはある。

俺が彼女に向ける想いは複雑で、多少初恋の相手であることを引きずっているのも事実だ。それでもやはり、俺の中でそれは家族としての想いなのだ。

 

だから、彼女に恋をしたことがあるか聞かれたときに動揺してしまったのは、思わぬ相手から思わぬ質問をされたためだろう。

 

そう俺は自分を納得させると、朝になるまで水面に映る天蓋を静かに眺めたのだった。

 

 




アイズの解釈では、恋したことがある→(今も)好きな人がいる、みたいな感じです。まぁ、冷静じゃないから仕方がないですね。

何事もなく結ばれるなんてきっと恋愛の神様が許しません。
波乱と誤解、すれ違いがあってこそ恋愛の話は面白いと思います。

といってもこのシリアス?はそう長く続きません。






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