俺の妹分が世界一可愛いと思うのは間違っていない   作:EXEC

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戦闘シーンの後編です。
でもこの話は決戦っぽいけどそこまで重要な話でもないんですよね。
めちゃくちゃ力を入れて書きましたけど。
むしろ次の話こそが重要な話になります。
そして力を入れたにも関わらず全く自信がないという。




20.訪れる異変(後)

退避するため全力で走りだしてすぐゴーレムの前方の魔法陣から焔が放たれた。

 

先ほどまで自分たちがいたところを見る。放たれた魔法が着弾したことにより、赤く焼け爛れている地面がそこにはあった。

そして、洞窟に逃げ延びることが間に合わなかったロキファミリアのメンバーがそこには倒れている。恐らくだが直撃は受けていない。先ほどの魔法の余波を食らったのだと思う。

幸い、死んだメンバーはいないようだ。どうやら先ほどの魔法はリヴェリアが直接放った魔法ほどの威力はないようだ。仮にオリジナルなら余波だけでも死人が出ていたはずだ。

それから、洞窟に退避できたメンバーが一旦戻ってきて余波を食らった仲間を連れて再び洞窟へ入っていく。治療をするのだろう。

 

今度はモンスターの方へ視線を向ける。宙に浮いたままこちらを睥睨するモンスターはその前方にあった粒子を消失させていた。

 

魔法吸収。

武具の中に存在する性質ではある。それでも、その性質を持つモンスターが見つかったのは多分初めてだろう。

加えて、相手は空を飛ぶモンスターだ。遠距離攻撃として最有力である魔法を封じられれば、一方的にこちらが攻撃されかねない。

 

恐らく詠唱を伴う大規模な放出系の魔法に反応して球状の魔法陣により吸収効果を発動させているのだと思う。粒子が動くのに幾らかの時間が必要のようだが、魔法が詠唱が長くなれば長くなるほど強力であることを考えれば何の慰めにもならない。

あの巨体と金属的な身体だ。詠唱がごく短く威力も弱い魔法を当てたところで大した痛痒には感じないだろう。

 

「ジン」

 

すぐ傍から声を掛けられる。フィンの声だ。すぐにそちらを向くと、リヴェリアを抱えたフィンが近くに立っていた。詠唱後で動けないリヴェリアを抱えてこちらへ逃げてきたのだろう。自分だけでなく周りに気を遣える辺り流石団長である。

 

ただ、その頬には平手の後があり抱えられているリヴェリアは申し訳なさそうにしている。エルフは異性に肌を触れさせない。そのせいで反射的にやってしまって申し訳無さそうにしているのだと思う。

 

「僕は部隊をまとめる。怪我人を洞窟の奥に運ぶ指示をだす必要がある。その間君とアイズにあのモンスターと空中戦をやってもらう。頼めるね?」

 

"モンスターとだけ呼ぶの面倒だね。あのモンスターを仮称ゴーレムと呼ぶ。それと、別に倒してしまっても構わないよ"

そう笑みを含めながら付け加えて、何事もなかったかのように言葉を紡ぐフィンにこちらも"任せてくれ"と返す。こちらも見ない振りをすべきだろう、ここは。

左右のうち反対側に逃げたアイズの方へ視線を向けると、以心伝心で伝わったようで頷いてくる。

 

俺は宙に浮かぶゴーレムの巨体をを見据えると、地を蹴って魔力放出により空中へと飛び出した。

 

俺がフィンに頼まれたのは時間稼ぎだが、それだけをこなすのも時間が勿体無いだろう。今のうちに可能な限りこのゴーレムの能力を明らかにしておきたい。

少なくともフィンが戻ってきた時、何らかの作戦を立てられるように。

 

方針を決めると距離を保ちながら光弾を回避するのをやめ、一気に相手の近くへと入り込む。

そして、魔力放出による遠隔斬撃を放った。刃にそって放たれた青い光はゴーレムへと近づいていき、同色の粒子をすり抜けると体表面で弾かれて消滅した。

 

しばらく飛び回ってみても、特に斬撃は返ってこない。どうやら魔法吸収は球状の魔法陣を作らなければできないようだ。推測通りだが安心した。仮に青い粒子に触れたら問答無用で吸収されるなら、ゴーレムの間合いの中では俺の魔力放出やアイズのエアリアルまで無効化されかねなかった。

 

今度はゴーレムの周りに舞っている粒子にかすめるように飛ぶ。体の端に粒子が触れるが、どうやら害はないようだ。こちらも触れればダメージを受けるくらいは覚悟していたが、そんなことはないらしい。白兵戦をやる分には問題ないだろう。

 

アイズが近くを飛ぶ際に俺に"あまり危ないことはしないで"とジト目で小言を言ってくるが、苦笑して流した。未知の敵と戦ってるのだから、危ないも何もないだろう。

 

何にしても近距離でなら戦えるとわかった。俺とアイズはゴーレムの体にまとわりつくように攻撃を加えていく。だが、ほとんどがかすり傷であり有効な攻撃を与えられない。

青い粒子のせいでわかりづらかったが、ゴーレムの腕や足の装甲は刃物のように触れれば切れるようだ。近づかれた場合の攻撃方法は腕と足を振り回して、この刃のついた装甲でダメージを与えるのだろう。

動きはあまり速くなく、飛行に関しても自由自在に動き回るとはいかない。急制動はできないようなので飛行というより浮遊と言うべきかもしれない。

 

以上のことを踏まえると空中で近接戦闘を行うならばこちらが有利に戦えるだろう。問題は装甲の堅さだ。アイズが攻撃しても切れ込みを入れるのが限界なほどに堅い。エアリアルを剣に纏わせていないとはいえ、異常な耐久力だ。

同じところに何度も攻撃を当ててもいいが、空中でそれを行うのは難易度が高い。

 

どうすべきか考えていると、アイズがすぐ近くに飛んできて手を差し出してきた。こちらもその手を握って離れないようにする。その状態で二人で呼吸を合わせて飛び回りながら会話を行う。

 

「地上で戦うのは無理だと思うけど空を飛べる俺たちなら何とかなりそうだな」

 

「うん、でも防御がすごく堅い。リル・ラファーガならあの防御を突破できると思うけど……」

 

そうやって話しながら互いに情報を交換していく。ちなみにリル・ラファーガはアイズのエンチャント魔法を半ば暴走させて身に纏い、一気に加速して剣を振るう必殺技だ。その性質上体の負担が大きくそう何度も使用できない。

 

「とりあえず一当てしてみないとわからないか。俺が全力の魔力放出で斬りつけてみる。その結果次第で決めよう」

 

「……わかった。無理しちゃ駄目だよ」

 

少しの逡巡のあと、アイズは返事をした。

互いに手を離して二手に分かれる。アイズの方はゴーレムの攻撃を引き付けてその間に俺は魔力放出を体に溜めて最大出力以上の攻撃を行うことになる。

 

今のうちに減った精神力を回復しておこうと魔力を溜めながらマジックポーションを飲む。幾ら魔力放出の燃費が良くてもいつまでも飛び続けられるわけではない。できるうちに回復しておくべきだ。アイズの方もまだ大丈夫だろうが、それなりに精神力は減っているはずだ。フィンが部隊をまとめたらそこで一旦退いて回復したほうがいいだろう。

 

そう思いながら体から微弱な魔力を放出して浮遊しつつ体に魔力を溜めるのは忘れない。やがて、俺の全身から淡い燐光が漏れ始める。

そろそろだろうと思って剣を握る腕に力をこめる。使用する魔力はこれまでで最大。当てた際に剣を取り落とすわけにはいかない。

 

深く息を吸って、背後からの轟音を置き去りに体の前面から感じる莫大な風圧に耐えながら魔力を開放した。

 

景色が消し飛ぶ。そして次の瞬間には俺はゴーレムの体を剣の間合いに捉えていた。狙うのは左腕。切り落とせれば遠隔攻撃の手数が半減してゴーレムと戦うのがかなり楽になるはずだ。

 

先ほどの急加速におけるほぼ全てのエネルギーを伝達させた剣が甲高い音を上げてゴーレムの体に食い込み、斬りつけた剣の斬線に沿って魔力放出による青色の波が放たれる。一発、二発、三発。魔力でできた斬撃は刃による傷を深めていく。三発目で剣は腕の半ばまでを侵食していた。

――だがそこまでだ。

 

一瞬の悪寒と共に潮時と判断して剣を抜こうとする。だが、あまりにも食い込みすぎて容易く抜けそうにない。仕方なく諦めて剣を手放して離れた。

同時にそこへゴーレムの右腕による一撃が風切り音を奏でながら通り過ぎる。そしてその一撃は剣の柄へ引っかかり、まるで小枝のように剣を折ってしまった。

 

ざわりとした感覚が胸中を過ぎる。あの剣は師匠が俺に隊商の護衛を引き継ぐ際にもらったもの。恐らくオラリオの外でなら最高峰の剣であり、これまで幾度となく危機を共に乗り越えてきた。

頭を振って思考を振り払う。感傷を抱くのは後でもできるのだ。今は敵を倒すことを考えるべきだ。

 

俺の攻撃で腕の半ばまで切り裂けたということはアイズのリル・ラファーガなら突破できるはずだ。

 

「アイズ、頭を狙え!」

 

胴体を狙って魔石をピンポイントに破壊できるとは思えない。そもそも、胴体部分は装甲が厚く、魔石に届くかすら賭けだ。ここは確実性を選んで頭を狙うべきだろう。

そう考えて俺を若干気遣わしげに見ながら近くを飛ぶアイズにゴーレムを倒すように伝える。アイズは頷くとゴーレムの背後に回って詠唱する。

 

吹き荒れろ(テンペスト)

 

風が暴風のように渦を巻く。可視化できるほどの風がアイズの周囲を嵐のように吹き荒れながら取り囲む。

 

「リル・ラファーガ」

 

風によって引き絞られたアイズの体が矢のように突き進む。

 

その剣はゴーレムの頭を半ば破壊しながら、それでも勢いが止まることなく大広間の端まで行ってやっと止まった。

 

ゴーレムは浮遊することができなくなったのか、地面の上にゆっくりと落ちて轟音を立てて膝をつく。

 

風が轟々と音を立てて流れていく。しかしその音もやがて止み、静寂がやってくる。

 

そのはずだった。

 

ゴーレムの体から溢れている青の粒子が一定の方向へ動いていく。下から上へ。

その粒子はゴーレムの吹き飛ばされた後頭部に集まると後頭部を補うように形を作る。そして微かに輝くと――半ば破壊されたはずのゴーレムの頭部は元通りとなっていた。

 

「ハッ……」

 

何だそれは。

 

思わず乾いた笑みが漏れる。

宙を浮遊し、魔法を吸収して放出により反射させ、とてつもなく堅牢な装甲を持つ。その上、致命的な破損をも再生させる再生能力だと?

 

あまりにも反則的な能力を持ったモンスターだ。一瞬体から力が抜けそうになって……しかし更に力をこめてゴーレムの方を見据える。

ゴーレムは一度は消えた目の赤い光を復活させて再び宙に浮かび始めたところだった。

 

だが、俺が見据えているのはゴーレムのその奥。そこにはアイズがいる。

 

彼女がいる限り、俺に敗北は許されない。諦めるなど以ての外だ。

 

ゴーレムの胴体の胸部を見る。恐らくそこに魔石があるはずだ。そしてどんなモンスターも魔石を破壊されれば灰になる。

手持ちの札の中にはその胴体の装甲を突き破って魔石に届かせる手段はない。アイズのリル・ラファーガで頭部を半ば破壊できたとはいえ、逆にリル・ラファーガでも頭部の半壊で留まったということである。

見ただけでわかるほど厚い胸部の装甲を貫いて魔石まで届くかはわからない。

 

どうすべきか悩んだところで、二つの影が洞窟の方から走り出てきてモンスターの周りを動き回り始めた。

よく見ればその二つの影はティオネとティオナだ。二人は緑色の光を纏っていた。恐らくリヴェリアの防護魔法だろう。同時に洞窟の入り口から声が聞こえた。

 

「ジン、アイズ。二人が囮をやっている間に一旦戻ってくれ!」

 

フィンだ。隣にリヴェリアもいる。離れているアイズの方を見るとアイズもこちらを見ていた。互いに視線を絡めて頷き合うと、洞窟の中へと走った。

 

 

フィンの話を聞くに先鋒部隊は二割ほどが魔法の反射により戦闘不能。更に洞窟も18階層への出口が崩落していて岩石などを取り除くのに最低でも半日、最悪三日はかかるとの見方だ。

洞窟に篭城することを考えたが今ある食料はせいぜい一食分。18階層から地上まで一気に移動する予定だったためほとんどないに等しい。加えて回復薬なども厳しいらしい。

それに、あのゴーレムが篭城に対して何の行動も起こさないとも思えない。あのモンスターはダンジョンの悪意によって生み出されたものである可能性が高いため、再びダンジョンから介入される可能性がある。そしてその場合、非常にまずいことになるだろうことは間違いない。

つまり、あのゴーレムは必ず今ここで倒す必要があるということだ。

 

「どうだった、ゴーレムは?」

 

尋ねてくるフィンにゴーレムの特徴を挙げていく。先に進むにつれて彼の眉間に皺が寄る。全て話したころにはしかめっ面になっていた。

 

「厄介なんて話じゃないね。魔石を破壊するにも、一撃で破壊しないと再生されてしまう。しかも詠唱の長い魔法は使えない。宙に浮いていて、装甲も物凄く堅い、と」

 

「実質有効なダメージを与えられるのは君たち二人だけか。しかし、装甲の硬さと再生能力が邪魔をする」

 

フィンは額に手をあてると悩んでいるような素振りを見せる。実際悩んでいるのだろう。冒険者の攻撃手段がほとんど封じられている。誰にとってもやりづらい相手のはずだ。

ふと、フィンは顔を上げるとこちらに問いかけてきた。

 

「勝てるかい?」

 

"難しい"というような回答を返そうと思って口を開ける。だが、その瞬間微かに頭を過ぎる考えがあった。魔力放出に関する実験の過程で発見し、実用性がないと断じて忘れかけていた必殺技。自爆しかけて命の危機すら感じた失敗を。

隣でマジックポーションを飲んでいるアイズの剣を見る。その性質は不壊属性(デュランダル)。その剣を借りればどうだろうと思ったところで、再びひらめく。腐食液を吐き出す芋虫型のモンスターを相手にするために今回の遠征でロキファミリアの一級冒険者に用意された武器も不壊属性だったはずだ。もし借りるなら大剣とはいえ剣の形であるティオナの武器が最適だろう。

 

「勝ってみせます」

 

ゆえに、ただ笑って言った。

 

そしてフィンにどのような方法をとるのか説明する。フィンは話を聞いてしばらく考え込んだものの、"試してみる価値はある"と了承を示した。アイズとリヴェリアもあまり良い顔をしなかったもののフィンが認めたため承諾した。

 

了解を得られたのでアイズと共に話を煮詰めて、具体的にどう動くか決めていく。その間、フィンがティオナと入れ替わって俺はティオナから不壊属性の大剣を借りる。"壊さないでよ"と言ってくるティオナに"不壊属性の剣が壊れるわけないだろ"と返した。

それとちらりと大広間の中を見ると、やたらとティオネの動きが良くなっている気がする。まぁ、フィンと一緒に戦ってるティオネだからな、とすぐに納得したが。

 

大体のことが決まり、俺とアイズは立ち上がって剣を握る。大広間に入る前にリヴェリアが防護魔法をかけてくれた。

 

再び大広間の中へ入ると、ティオネが跳躍してゴーレムに切りかかるところだった。大広間といえど天井は20メドルほどであり、10メドル辺りを浮遊しているゴーレムに攻撃するのは高位冒険者なら不可能ではない。

最も、ティオネの攻撃は全くと言っていいほど通用しなかった。空中では踏ん張ることができないため、装甲に傷すら付けられないのだ。

 

フィンとも確認しあったことだが、やはり俺とアイズ以外にゴーレムにまともにダメージを与えることは難しいと再認識した。

 

 

背後から魔力を噴出してゴーレムまでの距離を踏破する。アイズも遅れて俺に追いすがる。

どうやらゴーレムもこちらを認識したらしく、地上のティオネとフィンは無視してこちらに両手の指先を向けた。

しかし、先ほどとは違うことがある。ゴーレムは俺の方をあまり狙うことはなく、アイズの方を執拗に攻撃していた。アイズによって大ダメージを受けたのを覚えていて、そちらを優先して攻撃するだけの知能があるらしい。

 

厄介だが、今は都合がいいかもしれない。そのままアイズにゴーレムの攻撃を引き付けてもらう。ゴーレムがひたすらアイズを狙うため時折彼女に光弾がかすめるが、リヴェリアの防護魔法により無傷だ。仮にそれが無ければダメージを受けていただろう。

リヴェリアの魔法に感謝しながら、こちらもゴーレムに斬りつける。再生した頭部や間接部など改めて弱点がないか確かめるためだ。アイズに作戦前にやるように言われたことである。"今回危ないことをするのはしょうがないけど、せめて一度だけお願い"と言って、できるのなら俺が危険を冒さなくて済むように願われたのだ。

心配してくれているのだろう。戦いながらも僅かに頬が緩む。

 

だが、そう上手くはいかない。試してはみたものの弱点らしきものは見つからなかった。一応確認できたこととして、俺が魔力放出を加えて斬りつけた左腕は傷口が治っていなかった。戦闘に支障がなければ再生されないのかもしれない。

残念ながらあらかじめ決めた作戦を行うしかないだろう。

最後にフィンに合図をする。伝わったようで微かに頷かれた。

 

ゴーレムはフィンの方に全く意識をやっていないらしい。動きを止めて槍を構えるフィンを放ってアイズだけを狙い打っている。たまに俺の方にも牽制が来るが重視はしていないのだろう。回避行動をとる必要があるかすら疑問な疎らな攻撃だ。

 

そこでアイズが動きを変える。ゴーレムの周りを一定距離で飛び回っていたのが、フィンがいる方向へゴーレムから遠ざかる動きをとったのだ。当然ゴーレムは彼女を狙って光弾を打ち続ける。直線的に回避しているため何発か当たってしまうが、防護魔法の効果終了と引き換えに何とか無傷で済んだようだ。

 

更に状況は動く。フィンが限界まで槍を引き絞り投擲の構えを見せた。目を細めるフィンによって引き絞られた槍の穂先が、細かく狙いを定めるようにごく微かに動きまわる。

そして、裂帛の気合と共に槍が放たれた。

 

 

如何に59階層で精霊の分身相手に大きな貢献をしたフィンの槍投げといえど、ゴーレムの装甲を突破するのは難しい。胸部を狙ったところで刺さりはするだろうが、魔石まではまず届かない。加えて点での攻撃であるため無機物らしきゴーレムは痛みもなく血も流れず、大きな効果は期待できない。

 

だが、脆い末端部位なら話は別だ。

 

とてつもない勢いで槍はゴーレムへと迫る。そして、未だアイズを狙い打つその左腕の指先。光弾を発射するための穴へと突き刺さった。

ゴーレムの指が破損する。放たれた槍はかなりの威力を持っていたらしく、槍が突き刺さった指だけでなくその指を中心に手のひらを半壊させていた。使用不能になった指は三本。

 

そこでゴーレムの動きが止まる。正確には槍によるダメージのない右腕は狙いをフィンへと変えて未だに光弾を放っている。だが、先ほどまで空中で移動していたはずが、その動きを止めてただ浮遊していた。心なしか高度も僅かに下がりつつある気がする。

 

恐らくその原因は青い粒子が破損した指先へ収束していることだ。青い粒子によってゴーレムは浮遊していて、それが再生のために減れば空中での動きをする余裕がなくなるのだろう。思えばリヴェリアの魔法を吸収する際も徐々に落ちていたため、ほぼ間違いなくこの推測は正しい。

また、再生能力は部位欠損ないし戦闘に支障が出た時のみ行われるようだ。今も切れ込みが入った左腕に再生の兆しはない。

 

ゴーレムが指先を再生させている間、フィンが狙われているために自由になったアイズと俺はゴーレムの頭上に来ていた。天地を反転させ、下にいるゴーレムを見上げるように見据えて、アイズの体を背後から抱きしめる。戦いの場にそぐわないことこの上ないが今回は必要だ。

魔力をアイズの体へと注ぎ込むと、アイズがどこかくすぐったそうに身じろぎした。

 

魔力放出は自らの体の延長と認識できるならばそこから魔力を放出することが可能となる。今まで戦闘では剣にしか使われてこなかったが、一度遠征前に試したところアイズとならその体から魔力放出が可能なのは既にわかっている。

恐らく。幼少期にずっと傍にいて、離れても再会して今もアイズのことを自らの半身のように思っている。アイズがいない日々なんて考えられない。そんな俺の思いがこれを可能としているのだろう。

 

「ねぇ、ジン」

 

腕の中のアイズに声を掛けられる。

 

「どうした?」

 

「ううん、なんでもない。ただ――」

 

"こうやってジンと二人で協力して戦うのは、こんなにも嬉しいことだったんだね"

 

微かにそんな言葉がアイズから聞こえた気がした。

 

目覚めよ(テンペスト)

 

アイズがエアリアルにより風をまとう。

 

そして、二人で言葉を重ねて言う。

 

『魔力放出』

 

俺の腕の中を出て、リル・ラファーガに匹敵する速度でアイズが加速する。魔力放出とエアリアルの合わせ技。加速に加速を重ねた攻撃。

 

その一撃はゴーレムの右腕を断ち切った。

 

 

そもそも、この合わせ技では普通のエンチャントを使っているためリル・ラファーガに匹敵する威力は出せてもそれ以上の威力にはならない。当然リル・ラファーガと同じくゴーレムの胸部を突き破って魔石を破壊するのも難しい。

かといって、エンチャントを暴走させたリル・ラファーガと合わせ技をするのもこのぶっつけ本番では不可能だろう。暴風で俺が弾き飛ばされるのがオチだ。

 

では、この技の利点は何かというとアイズの体に負担がかからない点だ。リル・ラファーガでは暴走によりかかる負担も、こちらでは加速によって少しかかるくらいであり、比べるとかなり小さい。

わざわざリル・ラファーガではなくこちらを選んだのは、確実性を期すためだ。技を放ったあとすぐに動き出せないリル・ラファーガより今はこちらが適切だ。

そして、再生されるだろう右腕を切り落としたのは、光弾が厄介だからである。それにさきほどわかったことだが、部位欠損をさせれば再生のために粒子を使わせて動きを止められる。

 

アイズが一旦ゴーレムから離れていくのと同時に、ゴーレムの高度がガクンと落ちる。右腕を再生するために粒子を大量に使うためだろう。流石に腕をまるごと直すためにはそれなりに時間が必要なようで、すぐには再生しない。

 

アイズが行ったあと、俺は未だゴーレムの頭上高くにいて、魔力を体と剣に溜め込んでいた。粒子が再生のためゴーレムの右腕にある程度集まった頃だろうか、溜め込める魔力に限界がきた。これ以上やれば維持できずに漏れ出すだろう。十分だ。

高度維持のために微弱に放出していた魔力を止める。体が重力にひかれて地面を目指し始める中、俺は体に溜め込まれた魔力を既に限界まで魔力が溜め込まれたはずの剣へと注ぎ込む。

 

当然剣にも限界まで魔力がたまっているため、剣身から魔力が漏れ出す。それを俺は強引に魔力放出を剣の内側へ向けることで押し留め、魔力を圧縮し続ける。

 

魔力放出を得た際に実験したのは身体の延長性だけではない。我ながら馬鹿だとちょっと思うが、魔法を得てはしゃいでいたため、魔力放出を使って色んな使用法を試した。

その中でこの使用法は危険すぎて封印した使用法だ。

 

魔力による燐光で眩しいほど青く輝いていたはずの剣身が魔力の圧縮が進むにつれて徐々に暗くなり、柄を握って強く抑えなければならないほど震え始める。

 

以前試した時は短剣を用いてやったのだが、どうやらこの不壊属性の大剣でも問題ないようだ。できると確信はしていたが、少し安心した。

短剣でこのまま魔力を圧縮し続けた時はやがてひびが入り、危険を感じて近くの木へ投げつけた。

そして大して強く投げてもいないのに木へ深々と刺さった短剣は、キュイーンという甲高い音と共に魔力による青い球を生み出した。

問題はその威力。短剣が刺さった木はその球の形に抉れていた。いや、抉れていたというよりその部分の幹が消滅したと言った方が正しいくらい綺麗にその部分が失われていたのだ。

もちろん短剣は跡形も残らなかった。仮に短剣を手放さなかったなら俺の腕は半分ほど失われていただろう。

 

そのときは普通の短剣だった。だが、不壊属性の武器ならば壊れることなくその威力を扱えるのではないかと微かに思ったのだ。アイズの剣を見るまで忘れていたことだが。

そしてどうやらその推測は正しかったようだ。魔力制御がやたらと難しく、気を抜くと剣が手から離れて吹き飛びそうなほど震えて暴れるが何とか扱えている。

 

やがて暗くなっていく剣身が真っ黒になった。その内側では魔力が暴れまわっているのだろう、剣の震えがいっそう激しくなる。

高度が下がったことにより地上付近にいるゴーレムまで後半分ほど。ゴーレムの右腕が再生する前にたどり着くだろう。

 

だが、一筋縄ではいかないらしい。右腕を斬られた後、指先を再生させて光弾により再びアイズを狙っていた左腕が突然上を向いて俺を照準する。大きな魔力に反応したのだろうか。発射された光弾がリヴェリアにかけられた防護魔法により弾かれてあらぬ方向へと飛んでいく。

何にしても俺は魔力の制御に手一杯であり、このままなら俺は防護魔法を剥がされるだけでは済まずダメージを受けて魔力を暴発させることになるだろう。

 

最も俺はそんな心配は微塵もしていない。彼女が決してそんなことを許さないだろうから。

 

【吹き荒れろ】

 

暴風。

 

「リル・ラファーガ」

 

その一撃は俺に光弾を放ち続ける左腕を切り飛ばす。落ちていく俺とすれ違うアイズが"がんばって"と応援するのが聞こえた。

全く、その実力に追いつこうとするこちらの身にもなって欲しいものだ。そう思って少し笑みが浮かぶ。望んでやっている俺の思うことではないが。

 

そして。

 

魔力圧縮により光を吸い込み続ける黒い大剣はあの矢鱈と硬いゴーレムの装甲を不気味なほどあっさりと貫いて、その刃のほとんどをゴーレムの首の横の肩へと埋めた。

 

即座に柄を蹴って離れる。魔力がほぼ空になっているため、空を飛ぶこともできず転がるようにして衝撃を殺しながら地面にたどり着く。同時に背後からキュゥイーンという聞き覚えのある甲高い音が聞こえた。

背後を振り返り、先ほどの音から一拍おいて。

 

ゴーレムの肩に刺さった大剣を中心に巨大な青い球が発生し、ゴーレムの上半身が消し飛んだ。

 

それでも粒子が上半身に集まろうとする。

だが、魔石を破壊できたらしく、残された下半身も少しずつ灰になる。そして行き場を探すように青い粒子がふわりと彷徨い――

 

――粒子が宙へと溶けるように消えるのと同時、下半身が一気に灰になり、この戦いに終わりを告げた。

 

残されたのは大量の灰と、その中心にたたずむドロップアイテムらしき謎の金属塊のみ。

 

 

なお、大剣はどこにも残っていなかった。

 

 




次の話はまだ完成していませんが半分以上できてるのでそんなに更新に間は空かないと思います。次の話は初期に書きたいと思ったシーンが入ってるので結構執筆意欲が湧きますし。

魔力がほぼ空になっても精神枯渇で倒れないのは修羅の戦闘続行効果のおかげです。

あと、大剣が消滅したのはそこまで意味はありません。
設定としては莫大な魔力が一点に集中したことにより、一時的に不壊属性が機能不全を起こして、そこに魔力爆発が炸裂してしまったみたいな感じで考えましたけど、よく考えたらどうでも良かった。


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