俺の妹分が世界一可愛いと思うのは間違っていない   作:EXEC

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今回及び次回は戦闘シーンです。

正直あっさり終わらせるべきか悩みましたが、きっちり書くことにしました。

かなり長くなるので前半と後半に分けます。





19.訪れる異変(前)

ベートが治療薬を持って戻ってきて一日の療養を挟んだ後。

俺たちは17階層へと続く洞窟の前で集合していた。

 

一日の療養によって完全に体が元に戻ったとは言い難いものの、それでも十分に戦闘が行えるだけの体調まで回復した。

そもそも療養といっても結局俺は昨日の時間を体を慣らすために使ったためあまり休んだとはいえないが。しかし、それでも一日休まなかったのは数日とはいえ毒を受けたままでずっと寝ていたせいで随分と体が鈍っていたからだ。

この鈍った体のままダンジョンに潜るわけにはいかないので、体のキレを戻すために体を動かすのは必須と言えるだろう。

 

ただ、アイズは渋い顔で俺が体を動かすのを見ていた。必要なのはわかっているのだろうが、俺が病み上がりで運動するのには納得できなかったのだろう。

そのためか、アイズは俺の動きを見ながら一定時間ごとに休憩を入れるように言ってきていた。俺も苦笑しながら素直に休憩を取った。彼女をあまり心配させるのもどうかと思ってのことだ。

 

ちなみに、昨日の食事はアイズと一緒に食べたが彼女に食べさせられてはいない。彼女は一昨日までと同じく自然に食べさせようとしてきたし、俺も思わず口を開けようとしたのだが、直前にそれはおかしいと気づいた。

 

それから"もう治ったから自分で食べるよ"と言うと彼女は渋々だが食事を渡してくれた。たぶん彼女に何も言わなかったなら食事は全て食べさせられることになっただろう。……俺に食べさせるのは彼女にとってそんなに楽しいことなのだろうか。

 

付け加えると、看病のためにアイズは俺と同じテントでここ数日は寝ていたのだが、幾らかの口論の末に昨日も同じテントで寝ることになった。これについてはどうせ後一日のことであるし、わざわざテントを変えるのはどうかと思って俺が折れたのだ。

 

何となくだが、リヴェリアに離すように言われたアイズの寝床と俺の寝床の間の距離がここ数日で徐々に縮まっていた気がする。特に昨日、というより今日の朝に目覚めたときすぐ近くにアイズの寝顔があって凄く驚いた。彼女の寝相は悪くなかったはずなのだが。

 

 

少し物思いに耽っているとフィンが全員の集合を確認したようで俺たちに話し始める。

 

「さて、全員そろった様だね。ここにいる君たちは先鋒部隊だ。ゴライオスを倒してそのまま地上に帰ることになる」

 

そう、ここにいる俺たちは先行してゴライアスを倒す部隊であり、ある程度ダンジョン内のモンスターを減らして後発組の進行を楽にする役目がある。

後発組はダンジョンで収集した魔石やドロップアイテムを運ぶ部隊であり、また随伴としてミノタウロスを倒した例の少年のパーティとその捜索隊がついてくることになっている。

 

「後発部隊のために進路上のモンスターを減らすことも目的としている。見つけたモンスターは全て倒すことになるから留意するように」

 

「今回の遠征は異常事態が多く続いていて皆消耗が激しい。そのためゴライアス攻略は初めから一級冒険者を投入する」

 

先鋒部隊に配置された一級冒険者はフィン、ティオネ、ティオナ、リヴェリア、アイズだ。幾らか配分には揉めたようだが、最終的にこの形になったそうだ。

もちろん、今フィンの話を聞いている俺も先鋒部隊に配属されている。

 

「それじゃ、出発しようか。地上に戻れば柔らかいベッドが待っている。さぁ気合を入れていこう!」

 

そんなフィンの言葉に全員で"オー!"と返す。何日もの遠征で疲れていても、もうすぐ地上に戻れるとなれば士気は高くなる。

ほとんど全員が気合十分で大きな声を出していた。

 

そうして俺たちロキファミリアの先鋒部隊は高い士気のまま17階層へと続く洞窟へと進んでいった。

 

 

まもなくゴライアスが存在する大広間にたどり着く、というところでフィンが声を出して全員に停止するように言った。フィンの方を良く見ると彼は自らの親指を抑えていた。

彼の親指は危険を知らせてくれるらしく、その親指の震えによってこれまで幾度となくロキファミリアは救われてきたらしい。

 

その彼が親指を抑えていると言うことはそういうことなのだろう。

 

「……全員聞いてくれ。この先の大広間に嫌な予感がする。レベル3以下の冒険者は後方に行ってそれ以外は前に出てくれ」

 

フィンの声に部隊は隊列を組みなおす。俺も後方へ行こうとしたがフィンに呼び止められた。前に出るように指示される。どうやらここでも俺は矢面に立つことになるようだ。

隊列を組みなおし終わると、俺たちは警戒しながら17階層の大広間に入っていく。一気に視界が開け、その巨大な空間を見渡す。

 

問題は階層主たるゴライアスが存在しないことだ。

 

全員がゴライアスの不在を訝しんだとき、突然ダンジョンが揺れる。同時に後方と前方で同時に轟音が起きる。

 

「何が起きた!」

 

部隊の中ほどにいるリヴェリアが声を上げる。

俺は前方にいるため片方で何が起きたかは分かった。大広間の出口が崩落している。そしてこのことから考えると恐らく後方で起きたのも推測できる。

後方の部隊員が確認に行ったところ、18階層から17階層へ行くための洞窟の入り口が崩落により塞がれているらしい。

つまり、俺たちは大広間と洞窟に閉じ込められたようだ。

 

「親指の震えがどんどん酷くなってきた。全員警戒を怠らないように」

 

前に出ているため俺の近くにいるフィンが静かに警戒を呼びかける。どこかその声は緊張をはらんでいた。相当まずいのかもしれない。

 

そこで、ピシリと音がした。音がした大広間の中央を見ると、そこににひびが入っていた。やがて先鋒部隊の全員が見守る中、そのひびは大きくなり徐々に地面が盛り上がり始める。

 

そして――

 

「なに、このモンスター?初めて見るわね」

 

ティオネがつぶやく。

現れたのは巨大なモンスター。ゴライアスよりは小さいものの5メドルはあるだろう巨大な人型であり、全身が銀色の金属的な光沢を持った物質で構成されている。

曲がりなりにも生物的な外見のモンスターが多いダンジョンでは、その美しさすら感じる流線的なフォルムを持ったモンスターはあまりにも異質だった。

 

そのモンスターは俺たちに視線を向けると青く光っていた目の光を赤い輝きへ変えて――

 

『オオオォォォォ!』

 

こちらの体の芯を震わせるような咆哮を上げた。

 

 

フィンが即座に部隊を散開を指示する。先ほどの咆哮はただの咆哮ではなく魔力のこもった咆哮(ハウル)であり、一種の遠距離攻撃だ。

今のは射程外であったが、隊列を組んで固まっているところを食らえば、密集しているため回避も難しくただでは済まない。それゆえの散開だ。

 

だが、咆哮を上げたきりその白銀のモンスターはこちらの慌しい動きに一切反応しない。不気味なほど動きがなく静けさを保っていた。

仮にこれがゴライアスならこちらに突撃してくるだろう。だが、動きがない。咆哮をあげた後はただこちらを泰然とその赤い目で見据えるのみである。

 

部隊の展開が終わり、指揮をとるフィンを除いて前衛の一級冒険者がそのモンスターに向かって走り出そうとする。

俺自身もあのモンスターを視界に入れた時点でステイタスの高まりを感じていたため、ついていくべきかと思ったがフィンに部隊の方の守りにつくように言われたためそのまま待機する。

 

アイズを先頭にティオネとティオナがモンスターへと肉薄する。だが、その距離を半分ほどまで縮めたところでモンスターに動きがあった。

 

モンスターの全身から淡い青色の粒子が噴出する。そして――その足が地面を離れ、5メドルの巨体が宙に浮いた。

 

「うそっ、そんなのあり!?」

 

ティオナが声を上げる。

 

「三人ともこちらに戻ってくれ!それとリヴェリア、魔法の準備を」

 

こちらはフィンの指示。59階層の亜竜など、空を飛ぶモンスターもいないわけではない。そういう状況では前衛ができることは少ない。ここは魔法で攻撃すべきという判断だろう。反転して戻ってくる三人を尻目に、リヴェリアが詠唱を始める。

 

だが、モンスターも空を飛んで終わりというわけには行かないようだ。ゆっくりと浮遊しながら、両手の指先を戻ってくるアイズたちに向ける。その五本の指先には穴が開いていた。

それに嫌な予感を感じた俺はこちらへ戻る三人へと警告する。

 

「ジグザグに回避しろ!背後からモンスターの攻撃が来る!」

 

言い終わると同時にモンスターの指先が光り、光弾がアイズたちへと襲い掛かった。幸い、三人とも回避に専念したため一発も当たらなかったようだ。

回避された光弾が地面を抉る。見たところそれほど深くはない。恐らくレベルが高い冒険者なら当たっても致命傷ではないだろう。それでも直撃すればそれなりのダメージは負うし、当たり所が悪ければ死ぬことも考えられる。

 

そんな威力の光弾が一度に十発。今もアイズたちに攻撃しているが、連射速度はそれなりに早い。2~3秒に一回といったところだろうか。

これで空を飛んでるのだから、厄介などというレベルではない。

 

攻撃を受けているアイズ達は回避しながらモンスターの攻撃を引き付けることに専念しているようだ。このまま部隊のところまで来たなら、散開しているとはいえ集団になっているこちらは回避が難しいため大きな打撃を受けかねないからだろう。

 

【焼きつくせ、スルトの剣】

 

リヴェリアの詠唱が完成へと向かい、フィンがアイズたちに退避するように伝える。

光弾を回避しながらこちらに退避してくるアイズたち。何故かモンスターは追撃して来ず、その場で浮遊して停止する。何となくだが――その目はリヴェリアを見ている気がする。

 

【――我が名はアールヴ】

 

モンスターの体から噴出した青色の粒子の動きに変化が現れる。モンスターの周囲に球状に集まり、何かの幾何学的な形を作っていく。

それは――

 

「……球状の魔法陣?」

 

誰かが呟く声が聞こえた。

猛烈に嫌な予感がするが、今更詠唱を止めることはできない。魔法を途中で止めれば暴発が起きてしまうからだ。それに確証もない。

 

【レア・ラーヴァテイン】

 

魔法名が唱えられると共に、モンスターの下の大地に輝く魔法円から無数の火柱が上がる。大広間の空間が炎から放たれる紅の光に染め上げられる。

広範囲殲滅魔法であるレア・ラーヴァテインがモンスターを焼き尽くす、はずだった。

 

「……やったか」

 

リヴェリアがそう呟くのが微かに耳に届く。同時に炎が薄れて消えていき、視界が晴れた。

 

モンスターは未だ健在だった。むしろ無傷だと言ってもいい。唯一の変化は球状の幾何学模様を作っていた青の粒子が赤色に変化していることだろうか。

 

ちょうど、リヴェリアが先ほど放った魔法による炎のような色へと。

 

その場の全員が言葉を失う中、その赤色の粒子が動いていく。やがて粒子はモンスターの前方に集まると、今度は円状に別の幾何学模様を形作る。

 

――その形はリヴェリアが放ったレア・ラーヴァテインの魔法円にそっくりだった。

 

どうしようない悪寒が背筋に走る。ここにいるのはまずいと体の全細胞が訴えかけてくる。だがそれを言葉、あるいは行動にする前に指揮官(フィン)から声が上がった。

 

「全員――退避しろぉぉぉ!!!」

 

全てのメンバーが弾かれたように動き出した。前線に出ていた俺やアイズたちはそれぞれ左右に分かれて退避する。後方の冒険者たちは背後の洞窟へと全力で走る。

 

そして、焔が放たれた。

 

 

 




戦闘シーンは面白くなーいとか言われそうなのである程度書き溜めています。

そのため前回の更新から時間を空けた分後半はほぼできています。

明日推敲して明後日投稿するつもりです。

後半が前半の二倍くらいあって前中後に分けようかとちょっと思いましたが、ちょうどいいところで分けられそうにないので後半として投下します。



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