俺の妹分が世界一可愛いと思うのは間違っていない   作:EXEC

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今回はアイズ視点は無しかなー。たぶん変わり映えしないでしょうし。




18.彼と彼女の水浴び

 

 

「ジン、水浴びに行こう」

 

朝食を食べた後、再び暇になった俺へアイズがそう言った。

 

数日前の夕方に宴会があったらしいが、残念ながらアイズに止められて参加はできなかった。更に他の毒になったメンバーも参加していないそうなので反論も許されなかった。ただ、その代わりに宴会の場から暖かいスープを持ってきてくれて、テントの中で二人で食べた。久しぶりの暖かい食事であり、とても美味しかった。二人で談笑しながら夕食を摂ったのだが、その時はなんとか食べさせられるのを回避した。

 

"食べさせながらだとスープが冷めるだろ。せっかくの暖かい食事なんだから美味しく食べるべきだ"とか言って。アイズは悩んだものの、更にまくし立てると退いてくれた。

もっとも、今日の朝食では回避できなかったが。

 

「そうだな、ここ数日は体を拭くぐらいしかできてないし。確か今日は朝から女性陣が水浴びだから、俺たちは昼からかな。アイズも看病はいいから行っておいで」

 

安全階層には水が湧き出すため、それらを飲むことや水浴びをすることが可能だ。というより水が湧き出さなければダンジョンの攻略はかなり難しいだろう。嵩張る上にそれなりの重さの水を持って深層へ行くのはあまりにも危険すぎる。

 

幸い、湧き出す水はかなり綺麗なものであり量も豊富だ。そしてこの18階層ではいたるところに泉があり、ロキファミリアは遠征中にいつもそれを利用して水浴びをしているらしい。

 

今日は朝から女性陣が水浴びをすると聞いた気がする。水浴びは交代制なので、女性陣のあと男性陣がするのだろう。

 

なお覗きは重罪で袋叩きにされる。しかもホームに帰った後もファミリア内で割合の多い女性たちに冷たい目で見られるらしい。

遠征中に水浴びをどこでするのかアイズに聞くとそんな話を教えてくれて、その後"覗いちゃだめ"という言葉と共に冷たい目で見られた。それに対し俺は、"むしろ近寄らないために聞くんだよ。それに俺は勝手がわからないしな"と返した。

 

それでもあまり納得した様子がないため、如何に俺が覗きに興味がないかを力説すると、どこか不満そうではあるがわかってくれたようだ。"それはそれで……"なんて言っていた気がする。あと、俺は普通に女性が好きなので変なことを言わないでほしい。泣きそうになりながら言われると罪悪感と誤解された苦痛で死にたくなる。

 

俺の言葉を聞いたアイズが、首を横に振って口を開いた。

 

「ジンも一緒に行く」

 

「アイズは過保護だなー、わかっ、ハッ???」

 

流れで了承しようとしたが、信じられない言葉が聞こえた気がする。

 

「あのな、アイズ。俺は男でアイズは女の子だ」

 

「?」

 

「あー、つまり、水浴びに一緒に行くのはだめだろ。しかもアイズについていって水浴びの場に行ったら袋叩きにされそうだ」

 

首をかしげるアイズに話を続ける。幾ら俺にとってこの子が妹分でも、流石に共に水浴びをするのは駄目だ。二人とも一般にオラリオでは成人とされる年齢である。子供の時はともかく今は倫理的に無理だ。

俺の話を理解できたのか、アイズが少し赤くなる。そして少し慌てたように口を開いた。

 

「ごめんなさい、言葉が足りなかった」

 

そう言うとアイズは詳しく説明を始めた。

 

どうやらこの野営地から少し離れたところに、水浴び場とは違う泉があるため、そこで服を着たままでいいから軽く手足を流して髪を洗うつもりらしい。……勘違いしていたようで正直少し恥ずかしい。

 

アイズ自身は女性陣と一緒に水浴びができるが、それだと当然ながら俺がついて来れない。かといって午後からの水浴びだとアイズが俺に付き添うことができない。そういうわけで、適当な泉で服を着たまま軽く水浴びをすることに決めたらしい。

 

アイズにはどうやら俺だけで男性陣と水浴びをするという選択はないようだ。まぁ、俺自身彼らに気を遣わせるのも忍びないし、そもそも彼らと水浴びをすると間違いなく休めないのでそれはそれで構わない。

 

それにここで反論して水浴びが無しになったら、そのうちアイズが俺の体を拭こうとしかねない気がする。看病だから間違ってはいないが流石にそれは勘弁してほしい。

俺はアイズに了承の意を伝えると、水浴びのための準備を始めるのだった。

 

 

テントの中で交代で濡れても問題ない服に着替えた後。

俺たちはアイズの言う泉に話しながら向かっていた。そこでアイズに問われたのが"遠征中の男性陣の水浴びは騒がしいけど、何をしているの?"ということだった。

俺たちが水浴びをする時は女性たちも離れているはずだが、それでも騒がしい声が聞こえてくるので疑問に思ったらしい。俺もそれに答えるため口を開いた。

 

 

男性陣の水浴びは正確に言うなら水遊びである。更に言うなら服を着たまま体をある程度流した後、水を掛け合うのだ。

遠征中、何度か水浴びをする機会があったため知ったことだ。

 

幹部のガレスやフィンもこのときは童心に返って全員で騒ぐ。ちなみにベートなんかは"ハッ、くだらねえ。てめえらで勝手にやってろ"と言って隅で水浴びをやっていたが、ガレスに水を掛けられた後、そのままテンションが上がった全員に次々に狙われて、耳に水が入ったとマジギレして大暴れしていた。

 

だがロキファミリア男性陣のほとんどが、ベートの尻尾が大きく振られていて、終盤はかなり楽しんでいたことに気づいている。最近多くの団員の間でベートはツンデレだと認識されているとか。

 

なお、何故か俺とフィンはやたらと罵声をもらいながらめちゃくちゃ狙われた。"ふざけんなー!"、"嫉妬?わかっているさそんなことは!それでも、死ねー!"、"モテない恨みの恐ろしさ、知るがいい!"などと口々に叫びながら襲ってきたのだ。

 

狙われた俺とフィンは互いに連携して戦ったものの流石に人数差には勝てなかった。そこへベートが参戦して混戦となり、結局俺たちが狙われた理由はうやむやになってしまったが、それでもあんなにはしゃいで遊んだのは久しぶりで楽しかった。この水遊びが習慣化している理由がよくわかる。

 

 

そんなことを歩きながらアイズに話して行く。女性陣は俺たちの水浴びについて知らないようで、楽しそうに聞いていた。フィンやガレスもやると聞いて目を丸くしてもいたが。

実際俺も初めて見たときは驚いた。だが、恐らくああやってファミリア内での結束を高めるという考えもあるのだろう。

そうやって話を弾ませているとやがて泉へとたどりついた。

 

 

一応持ってきた剣とタオルなどの入った荷物をすぐ取れるところに置いて、靴と靴下を脱いでズボンの裾と袖をまくってから泉の中へと踏み込む。浸かった足に涼やかな水温が伝わってどこか心地よい。

 

アイズのほうを見ると、彼女も同じように水の中へと足を進めるところだった。体を洗うための布を手に持って、どこか楽しげに揺らしている。当たり前だが服は互いに着ている。だが、それでも二人とも濡れても問題ない服を着てきたためラフな格好というべきか、薄着だ。

 

どういうわけか俺はこれまでのホームでの生活で彼女が部屋着でいる姿はあまり見たことがない。俺と会うときは彼女は大体それなりに着飾った格好をしているため、こういう素朴な服装は見慣れない。

 

ただ、個人的にはアイズはどんな服装でも似合うと思う。今も深窓の令嬢然としていた彼女の姿はどこか活発そうに見えるものの、その美しさは決して損なわれておらず健康的な魅力を放っている。

 

益体もない思考を振り払うと、アイズから視線を外して手に持った布を水につける。次に濡れた布を使って手足の垢を落としていく。多少冷たいものの、むしろその冷たさが汚れた手足を清めるようで気持ちいい。

しばらくの間そうやって無心で体を洗い続けた。

 

 

ある程度洗った後。まだ濡れてすらいない髪を残して大体の部位を洗い終えた。その過程で今着ている服もそれなりに濡れて体に張り付いてしまっている。……首筋や胴体を気をつけながら布で拭いたのだが、その際に垂れた水でいつの間にか服がそれなりに水を吸っていたのだ。まぁ、仕方がない。

 

この際服が濡れるのは気にしないで泉に飛び込むかなーなどと考え始めたところ、どこか笑みを含んだ声で"ジン"とアイズに名前を呼ばれた。そのためアイズの方へ顔を向けたところ、パシャッと水を掛けられた。結構な量の水がかかったため、髪から水が滴り服もかなり濡れてしまった。

 

アイズの方へ非難の視線を送る。彼女はいつの間にか上に着ている服の裾を胸の下で結んで止めていて、その分へそなどが見えていた。恐らく胴を洗う際に服が濡れないようにそうしたのだろうが、白い肌が眩しく少々目に毒だ。そのため彼女に向ける視線を顔に固定すると、彼女は珍しいことにどこか悪戯っぽい笑みを浮かべて俺のほうを見ていた。

 

……なるほど、そういうことらしい。

 

俺の方も仕返しとして水をかけると、彼女はそれを動きながら回避して、再び水をかけてくる。俺はそれを回避しようともせず、ひたすら水を掛け続ける。どうせ濡れてしまったし、一切防御も回避もせず水を掛け続けた方が合理的だろう。

 

しばらくの間、泉からは楽しそうな声が絶えることなく響き続けたのだった。

 

 

結局。一通り遊んで、俺たちは完全にずぶ濡れになってしまった。途中からは俺だけでなくアイズも回避せずに水を掛け続けるようになってしまい、しばらく泥沼の戦いを続けたあと休戦することになったのだが、そうやって冷静になったときには全身濡れていないところがない状態だったのだ。

 

冷静になってから互いに乾いた笑いを向けあい、どうするか話し合ったところ二人ともまだ髪を洗ってないことがわかった。そこでアイズが"じゃあ、私がジンの髪を洗ってあげる"と言い、俺も流れでアイズの髪を洗うことになった。

 

自分では気づいていなかったが、俺の髪はアイズと再会したころからそれなりに伸びていたいたようで、"今度、髪を切ってあげようか"なんて言うアイズに"変な髪形にするなよー"と返すと、彼女が少し拗ねてしまった。

 

やったことがあるか聞いてみると、一応ファミリア内の女性に頼まれて髪を整えたことがあるようで、それなりにできるようだ。初めて担当したのはロキで、やった時はちょっと変な髪形になってしまい、しばらくロキが笑いものなったとか。

そんなアイズの話すエピソードに笑みが浮かぶと共に、そこはかとなく不安がこみ上げてくるものの、今は問題ないらしいので結局頼むことになった。

 

その後交代してアイズの髪を洗っているのだが、何が楽しいのか鼻歌を歌いながら実に機嫌がよさそうである。本当に幼い子供の時はともかく、俺の両親が死んでからはほとんど二人で水浴びや風呂に入ったりすることはなかったので、こうしてアイズの髪を洗うのはたぶん初めてだと思う。風呂上りのアイズの髪をタオルで拭いて櫛で整えるとかは頻繁にやっていたが。

 

さらさらとして手触りの良い金髪に指を通して感触を楽しむ。後ろから髪を洗っているため見えないが、アイズが気持ちよさそうに目を細めているのが想像できて、自然と俺の顔も綻ぶ。一応は遠征中とは思えないほどの穏やかな時間である。

 

彼女の髪を洗い終えると水分を拭き取る。残念ながら服はずぶ濡れのままなので、そちらは無視して髪と手足の水を拭き取ったあと野営地に戻ることした。アイズの方は一応濡れても問題ない服を持ってきたため透けてはいないものの、体に服が張り付いて凄く目に毒なので大き目のタオルを体に巻くようだ。

 

先ほどまで気づいていなかったようで、自分の体を拭く段階になって気づいてこちらを恨めしげに見てきた。……眼福だった上にこういう時は基本的に男の方が悪いから謝るべきかと思ったが、仕掛けてきたのはアイズの方であるため笑って流した。

 

 

野営地に戻ったところ、水浴びに行かなかったらしいリヴェリアに呆れ顔で怒られてしまった。正直弁明のしようがないので殊勝に聞いていたところ、すぐ開放してくれた。体を冷やして風邪を引かせるわけにも行かないからだそうだ。また、濡れた服は預かって乾かしてくれるとのこと。なるほど、ロキファミリアのおかんと言われるのも分かる気がする。言わないが。

 

服を着替えた後、アイズと二人でリヴェリアが用意してくれた焚き火に当たっていたところ、ロキファミリアの女性陣が水浴びから帰って来た。彼女らのうち特にエルフたちが荒れていたためアイズが話を聞いたところ、どうやら覗きが出たらしい。

 

命知らずの所業を行った哀れな男たちへと合掌するがどうやら無事らしい。何でも神の悪巧みを止めようとした結果としてそうなってしまったようでその神はボロ雑巾されたものの、もう片方の共犯者は誠心誠意の謝罪をして許されたそうな。なお、そのボロボロになった神はヘルメスで、結果的に共犯者となったのはあのミノタウロスと戦った少年だとか。

 

本来神々はダンジョンに入ることが禁止されているそうだが、先日あの白髪の少年を探すための捜索隊に神々がついてきていたらしい。アイズがそのとき暇をしていた俺に話してくれた。ヘルメスはその神の一人だろう。どうやら典型的な神々である愉快犯的思想の持ち主のようだ。

 

アイズは何か気にするかと思ったのだが、どうでもよさそうな顔をして聞いていた。アイズは特に被害を受けていないしそれも当然かもしれない。加えて、そろそろベートが帰ってくるためもう覗かれる心配はそれほど要らない。

 

ちなみにアイズが被害にあっていた場合、たぶん俺も彼らに何らかの制裁をやっていただろう。兄貴分として彼女への覗きはちょっと許せそうにない。具体的には想像しただけではらわたが煮えくり返る。

 

まぁ、何にしてもアイズが覗かれなくて良かったと思う。アイズが俺の看病をしていて一番良かったことはこれかもしれない。

 

この数日の看病は俺を精神的に削り続けていて、そろそろ世話を焼かれ続けることへの違和感がそこまで気にならなくなり始めていた。このままだと駄目人間が完成するところだが、何とかベートが解毒剤を持ってきてくれるのが間に合いそうだ。

 

 

俺の予想通り、その日の夕方ごろベートが18階層へと解毒剤を持って戻ってきた。ロキファミリアは歓声を上げて彼を迎えるのだった。

 

フィンはベートが戻ってくるのを知ると共に、一日の療養のあと地上へ戻ることをファミリアの全員に周知した。明後日、俺たちはようやく地上へ帰れるらしい

俺が毒が抜けて軽くなった体を慣らすように調子を確かめる。そして、それを安心したように見るアイズと顔を合わせて笑いあった。

 

 

 




書き始めて二週間くらいは、集中すればかなりの速さで一話仕上がってたんですけど、今はなかなか書き進まないですね。中間とかで流れが止まったのと、この辺の話が難しいからですかね。

あと、今週の金曜夕方に両親がこっちに査察に来るので土日の更新は厳しいかと思います。掃除とかしないと。まぁ両親は普通に好きですし美味しいものを食べさせてくれるので訪問も嬉しいといえば嬉しいんですけど、結構大変です。
更新は鋭意努力します。

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