俺の妹分が世界一可愛いと思うのは間違っていない 作:EXEC
ちょっと中間とかレポートの雨で忙しくて時間が取れませんでした。
加えてスランプ気味でして、書こうとすれば数行は書けるんですがなかなか進まない。
ダンジョン50階層。
今回の遠征は撤退と決まり、到達階層を59階層に更新して俺たちは50階層で少しの間戦いの疲れを癒していた。
ちなみに俺もフィンに言われて59階層に行った。サポーターとしてではなく戦闘員として。俺のスキルは本当に何なのだろうか。
通常、遠征についてきた随伴のロキファミリアのメンバーは、そのほとんどが50階層より下へは降りない。50階層は安全地帯なので、そこで下から帰ってくる上位冒険者を待つことになる。52階層から下はこれまでの常識が通じない場所であり、少数精鋭でなければ進めないのだ。
その理由は砲竜と呼ばれるモンスターだ。このモンスターは58階層から52階層までを狙撃することができる。大威力のブレスで床を貫通させて命中させるのだ。
今までは最速でモンスターを避けつつ58階層を目指してきたらしい。だが、今回、フィンは俺とアイズの存在により方針を変更した。俺とアイズは空を飛べる。アイズの方はごく最近その方法を編み出し、俺がロキファミリアに所属したのはついこの間だ。そのため今まで取れなかった作戦だが、それは俺とアイズだけが52階層へ先行し砲竜の攻撃を誘発して、ブレスによって空いた穴に突入し、砲竜を全滅させる。全滅させた頃には空いた穴が塞がって戻れなくなるため、危険な58階層から57階層に上がって待機。フィンたちはある程度急ぎつつ58階層に来て合流する。
実際その作戦は上手くいった。今までは魔石もドロップも全て無視して58階層を目指していたそうだが、今回はそこまでしなくとも問題なくなったため、かなり稼げたらしい。
フィンは”今回の遠征は大幅な黒字になるだろう。金策に頭を悩ます必要がないのは本当にありがたいよ”そうニヤリと笑っていた。その笑顔をティオネに見られて”団長、もう一度さっきの笑顔を!”と迫られたようだが。
合流後、俺たちは59階層へと降りた。そこで見たのは精霊の分身と言うべき、とてつもない強さの怪物だった。しかもフィンとリヴェリア曰く、あれでも本体ではなく、本体というべきダンジョンによって汚染された”穢れた精霊”が更に下層に存在している可能性が高いとのこと。今回戦ったのは端末であって本体ではない。精霊の分身でさえギリギリの勝利だったのにこれ以上の強さの敵と戦うなどうんざりする。
それでも、アイズと共にいて彼女を守るために戦わなければならない。加えてもっと強くならなければ彼女を守れないだろう。今回の戦いでアイズを守ろうという想いが更に強まった気がする。
アイズについても幾らか疑問ができた。アイズはあの穢れた精霊にアリアと呼ばれていた。恐らくアイズと精霊の間に何らかの関わりがあるのだろう。アイズ自身も穢れた精霊相手に大きな反応を示していたのだから。
だが、俺はアイズにそれを聞かなかった。それを聞いても聞かなくても彼女との関係は変わらないから。知りたいかと言われれば確かに知りたいとは思う。それは好奇心などではなく何と言うべきか、たぶんアイズのことだからだ。
だが、アイズが言わなかったならそれなりの理由があるのだとも思う。だから彼女が打ち明けてくれるまで待つことにした。いつか彼女が聞いて欲しいと思った時に聞ければそれで十分だと思う。
今、ロキファミリアは休息中。少しの睡眠を取ったらそのまま街に戻るためダンジョンを登っていく予定だ。
ただーー最も休息が必要なうちの一人であるアイズは、俺の隣に座っていた。
「……」
彼女は何も言わない。
俺も何も言わなかった。
「……聞かないの?」
やがて長い沈黙を破って彼女が言う。俺もアイズに答えるために口を開いた。
「聞かないよ」
ただそれだけを。
「どうして?」
そう返ってくる。
「言わない理由があると思ったからだよ。
それに――きっと言われても言われなくても俺たちの関係は変わらないと思うから」
俺の言葉にアイズの肩が震えた気がした。
少しの間が空いて、アイズの頭が俺の肩に乗せられて、アイズの体が深く俺に寄りかかる。
「いつかきっと言うから。そのときちゃんと聞いてね」
「お安い御用だ」
俺も軽く笑みを交えて言った。
「約束だよ?少しでもジンに私のことを知って欲しいから」
微笑んでそう言うアイズの頭を撫でる。やがてアイズは俺の肩に頭をのせたまま寝息を立て始めた。もともと遠征で疲れていた。加えて今のやり取りでも少し緊張していたから、それが終わって力が抜けたのだろう。
「おやすみ、アイズ」
俺も眠ってしまったアイズにそう声をかけると、目を閉じて眠りについた。
ーーーーーーー
ポイズン・ウェルミス
名前からわかる通り毒を持ったモンスターだ。ロキファミリアは帰還中にこのモンスターの大量発生に襲われた。そして遠征部隊のうち、耐異常を持たないかなりの数のメンバーが毒にかかり、一部はかなり危険な状態になった。
そこで団長のフィンは18階層に急いで向かい、危険な状態のメンバーを街でなんとかかき集めた専用の治療薬で治した。
後のメンバーはベートを地上へ行かせて、そこで薬を買って持ってこさせてから治すらしい。この18階層では、困っている人間からできるだけぼったくるのが普通らしく、フィンは”せっかくの黒字が……。なんとか赤字にはならないと思うけど、しばらくは資金繰りに苦労しそうだよ。にしても運がないね”と言って力なくため息をついていた。
そして俺もまたこの毒を受けてしまった。掠った程度なのでまず命に別状はないし、戦うのが辛いだけで普通に動くにはさして問題ない。しかし現在はアイズによって寝床に押し込められている。
実は、そこまで深刻な状態でもないので、毒になったのはフィンにだけ伝えて、アイズには隠して走ってきた。しかし18階層についた瞬間力が抜けて倒れてしまったのだ。意識はあったが、倒れたことで隣にいたアイズが、俺が毒になっていたことに気づいて物凄く取り乱した。そのあと大したことはないと伝え、リヴェリアにも命に別状はないと保障されたのだが、そうするとアイズは烈火の如く怒り出して俺に説教をしてきた。
俺はそれを横になって聞いていたのだが、その説教で子供の頃を思い出した。子供の頃は、アイズの兄貴分だという自覚があったからか、いつも俺は大人ぶっていたと思う。両親が死ぬ前もそうだったが、死んだ後は特にそうだった。
自分がアイズを引っ張っていかないといけない、という思いからこの子を褒めたり、叱ったり、勉強を教えたりして導いていた。当時はなかなか苦労したのを覚えている。
でも、今は逆の立場になってアイズが俺に説教をしている。そう思うと何と言うべきか、微笑ましさが湧き上がってきた。
たぶんそれが表情に出ていたのか、アイズは"真面目に聞いて!"と言っていたが。
そういえば遠征前にも、立場は逆だが俺の説教中にアイズが嬉しそうにしていて、正座の後に足を突っついたことがあった。
どうやら血は繋がっていなくとも似ているところはあるのかもしれない、と少しだけおかしかった。
命に別状はない以上、18階層で買った専用の治療薬を俺に使うわけにはいかない。そのため俺はまだ毒のままだ。
ポイズン・ウェルミスの毒は専用の治療薬が必要らしく、通常の解毒薬はあまり効かない。ベートが戻ってくるまでこのままだろう。
そういうわけで寝床で横になっている俺を、アイズが横からじっと見ている。他のメンバーは食料確保のため果物の採取に行っている。俺自身も一応は動けるため、手伝おうかと一度寝床から出たのだが、それをアイズに見つかってからずっとこのままだ。
俺が寝床から逃亡しないように見張っているらしい。ずっとその金色の瞳で見つめられているとなんとなく落ち着かない。
「アイズは食糧確保とか行かなくていいのか?」
とりあえずそう聞いてみた。
「人数は十分だから、ジンが動かないように見張っていてもいいってリヴェリアが言ってくれた」
まだ多少不機嫌そうに言うアイズ。
どうやら、リヴェリアが協力しているようだ。命の危険はないし、多少体調が悪い程度なのだから、アイズをここに留める必要はないと思うのだが。
ただ、リヴェリアもロキと同じく、たまによくわからない理由をつけて、俺とアイズを一緒にいさせようとすることがある。今回もそれだろうか。
リヴェリアにとってアイズは娘みたいなものらしい。そう考えると、昔一緒にいられなかった分俺と一緒にいたい、というアイズの思いを汲んでいる、のだと思う。たぶん。
にしては、俺とアイズが共にいるときに送られる視線が、どこか生暖かいのだが。
「でも、リヴィラの街を碌に見ることもできずに帰るのは少し残念だな」
俺は18階層の街、リヴィラに入っていない。いや、遠征の行きで通り過ぎることはしたが、全く街の中を見ることは出来なかった。遠征の行きでは18階層で睡眠などの休息をとったあと、そのまま先に進んだからだ。
今も街から大分外れたところで張られたテントに寝ていて、毒が治ったらそのままオラリオに戻るらしい。そのためリヴィラには行けない。
「大丈夫。今度、ジンがどこまでダンジョンに潜れるか見るために、二人で18階層より下に行くから。そのときに一緒に街を回れば良い」
アイズがそんなことを言う。
「下の階層に行けるようになるのは嬉しいけど、いいのか?」
「うん、59階層で私を守ってくれたから。スキルによる強化がよくわからないからそれも考えて下に行くつもり」
「たぶんスキルは条件付きだからあまり頼らない方がいいと思うけど」
「ロキが知ってるみたいだから、ロキに相談すればいいかなって。教えてもらえなくても、助言くらいはもらえると思う」
どうやら、俺は18階層から下の階層に行ってもよくなるらしい。少しずつ行ける階層が下に行くと、順調に強くなっていることが実感できる気がする。
実際、ステイタスがかなり上がっていると遠征前にロキが言っていたし、今回の遠征も含めれば大分強くなったのではないだろうか。
「遠征のあとリヴィラに来たらどこに行こうか?」
そう言うとアイズはちょっと驚いたように目を見開いて、それから少し微笑んで話し始めた。酒場や喫茶店などの飲食店もあるらしく、中にはお気に入りの店があって、そこに連れて行ってくれるとか。
話しているうちに機嫌がなおって、むしろだんだん良くなっていくアイズを眺めながら、"この子ちょっと単純だよな"と心配になった。
しばらく話しこんでいると、外が騒がしくなった。どうやら、食料確保に行っていたメンバーが戻ってきたらしい。
18階層には多くの木が生えていて、その木にできた果物は食べられものを多い。現在食料が足りず、かといって街で買っては高くつくため、可能な限り自給自足を行うことになっている。
「食べ物もらってくるから、動いたらだめ」
そう言って、アイズはテントから出て行く。流石に止められてまでどこかに行くつもりはないのに、全然信用されていない。心配していたアイズをよそに動き回ろうとしていたのだから仕方がないのかもしれないが。
少し待つと、アイズが幾つかの果物を持って戻ってきた。寝ている俺の横に再び座ると、ナイフで果物の皮を剥いて食べやすい大きさに切っていく。
「あーん」
そうして、アイズは俺の口元に切った果物を運ぶ。
「別に動く分には問題ないから、自分で食べられるよ」
俺はそう言って立ち上がろうとした。だが、"だめ"という言葉とともに再び寝床に押し込まれた。体調が悪い俺への看病だから、これは当然らしい。確かに俺もアイズが熱を出した時は、そうやって看病していたが、大げさじゃないだろうか。
そう思って反論しても、"ジンには怪我人の自覚がない"と言われ、さきほど動き回ろうとしたことを引き合いに出されて、諦めることにした。悲しそうに"……すごく心配した"と言われると、流石に俺にも罪悪感が湧いてきたからだ。
差し出された果物を食べる。何度か噛んで飲み込むと、再び口元に差し出される。その間アイズは何が楽しいのかニコニコしていた。随分と世話焼きになったなぁ、と思うことしきりである。昔とは立場が逆転して、嬉しいような悲しいような。
最後の一切れが口に運ばれる。それを食べる際、アイズの指先が俺の唇に触れて、アイズの肩が少し跳ねた気がする。まぁ気のせいだろうと思って流す。
口の中の果物を咀嚼していく間、アイズは自分の指先をじっと見つめていた。
俺が最後の一切れを飲み込むと同時に、アイズは自分の指を軽く唇に当てた後、指先についた果汁をぺろっと舐めた。
ただ、その後頬を赤くしていたのが印象的だったが。
一応主人公は59階層まで行かせることに決めました。フィンとロキの思惑の結果です。
それなりに精霊の分身相手に活躍したみたいですね。少なくともアイズがレベル6になっていないため、その分の埋め合わせはジンがやった設定です。
たぶん、来週も忙しいだろうな(遠い目)