俺の妹分が世界一可愛いと思うのは間違っていない 作:EXEC
今回はご要望のあったこぼれ話になります。
では、お楽しみください。
ベートとジンの戦いの後のある日。
ロキはジンを呼び出し、ステイタスの更新を行おうとしていた。
(ジンはベートとの戦いで共鳴効果でアビリティを減少させてるはずや。どのくらい減っとるのか見れば、今後ジンをどう動かすか見えてくるはずや)
そう思ってロキはジンの背に跨る。
そして、ステイタスのロックを解いた。
(どれどれ……えっ)
ジン・シックス
Lv.2
力 :I (98->)85
耐久:I (115->)99
器用:G (221->)228
敏捷:G (203->)211
魔力:I (0->)55
適化:-
修羅:E
明鏡止水:F
瞑想:G
剣士:G
カッコ内は前回との比較であり、ロキが記録していたステイタスの値だ。
だが、大して減っていない。いや、一部増えてすらいる。ロキにはそれが疑問だった。
(ステイタスの値は大きく減ってるはずやと思ったけど……。まさか成長速度が減少を上回ったんか?)
ロキの考えはこうだ。
まず、共鳴効果によりステイタスが減少し、その後ベートとの戦いで得た経験値によりそのアビリティを前回と同じ程度の水準まで戻した。
成長速度上昇のスキルがあってこそ考えられる可能性。だが、熟考の末、ロキはこの推測が正しいだろうと考えた。
つまり、ジンはアビリティの消費を然程気にすることなくランクアップを使用することができる。
(これなら、次の遠征にジンを連れて行かせても大丈夫そうやな)
ロキは内心でそうつぶやく。
ジンのステイタスがあまりに大きく下がるようなら遠征への参加は見送ったが、むしろほとんどデメリットが無い。
ならば、アイズがいる限りレベル5と同等の強さを持つことが出来るジンを使わない手は無い。
(次の遠征は、実りの多い遠征になりそうやな)
ロキはそう考え、ジンの背中から降りるのだった。
――――――――――――
ガネーシャファミリアが主催する神の宴にて。
そこに参加している神、ヘスティアはロキへと問いを投げた。
「噂の剣姫には付き合っているような男や伴侶はいるのかい?」
ヘスティアは、自らの眷属ベル・クラネルに好意を持っている。しかし、つい最近ダンジョンで剣姫に助けられたベルは彼女に憧れ、成長速度上昇のスキルさえつく始末。
(ここで、剣姫に恋人でもいてくれればベル君も諦めるはず……)
そう考えてのロキへの質問である。
「アホか、んなもんおるわけないやろ。アイズたんはうちのお気に入りやで?あの子にちょっかい出す男は八つ裂きにする」
返ってきたロキの言葉に思わず舌打ちするヘスティア。だが、ロキの回答はそこで終わりではなかった。
「と言いたいところなんやが……。アイズは自覚はしてへんけど、好きな人おるみたいやし、見守るしかないわー」
そうロキは悔しそうに付け加える。それに対してヘスティアは内心ガッツポーズをするが、同時に疑問が湧きロキへ尋ねた。
「そんなにその剣姫が大事な君なら、その意中の男を遠ざけるように動きそうなものだけど」
「あのなー、ドチビ。アイズたんはうちの子供なんやで?子供の不幸を願う親がどこにおるねん。もちろんその男がアイズに相応しくないなら嫌われてでもそうするけど、そうやない。むしろ物凄くアイズを大事にしそうな男や。まぁ、アイズを任せても問題ない以上見守るしかあらへんわ」
ロキはそうヘスティアへと返す。更に続けて言った。
「よう聞け、ドチビ。子供たちはな、いつまでもうちら神々に縛り付けてはおかれん。いや、できはするが子供達を思うならそうすべきやない」
「あの子達の幸せは愛する人と一緒になって、子供を作って、育てる。それが幸せなんや。うちのワガママであの子の幸せを邪魔することはできへん。悔しいけどな」
ロキがそうヘスティアへ説くと、ヘスティアは意外そうな顔をした。
その場にいたヘファイストスも感慨深そうに言う。
「ロキ、あなたも随分と変わったわね。神界にいた頃は物凄く荒れてたのに、今は本当に子供たちのことを思ってるのね」
「いやー、ファイたんにそう言われると照れるわー。まぁ子供達はうちの宝やからな」
ロキも頭をかいて照れくさそうにしながら、ヘファイストスへと返す。
結局、この後ロキとヘスティアの間で言い争いが起きて、ヘスティアの胸囲に負けたロキはすごすごと退散することになったのだった。
――――――――――――
アイズがソーマを飲んで酔ってしまう日の数日前のこと。
ロキファミリアの一級冒険者の面々はダンジョンの深層、37階層で戦っていた。
モンスターの群れの最後の一体を適当に倒すと、ティオネが後ろを向いて他の皆に話しかけた。
「しっかし、アイズも変わったよねー」
随分と気が抜けたような声だが、ロキファミリアの一級冒険者たちにとってはこの程度の階層に潜るのは遊びのようなものだ。特に問題なく戦える。
なお、この場に来ているのはフィン、リヴェリア、ティオネ、ティオナとサポーターのみである。
アイズはジンのダンジョン指南のために地上に残り、ベートはそもそも呼ばれなかった。
「まぁ、そうだな。だが、少し安心したよ。あの子は今まで張り詰めすぎていた。いつ切れるかと恐れていたが、どうやら杞憂になりそうだ」
そう返すリヴェリア。これまでのアイズの活動を見ていたリヴェリアにとってアイズのダンジョン探索は常軌を逸したものだった。
連日ダンジョンに潜り、可能な限り強くなろうとする。リヴェリアはその理由をかつてアイズがモンスターに襲われた時無力だったことへの後悔から来ているのだと考えていた。
恐らく、強くなることでジンが戻ってくるのではないかという考えをどこかで持っていたのではないか、と。
「まぁ、そうなんだけど。でも今回の探索に誘っても来なかったのは驚いたなー。もしかして、アイズは新入りのこと好きなのかも!」
ティオネの双子の姉妹、ティオナも話しに加わった。そして、女性が好きそうな話題へと方向を移す。
対してリヴェリアも自らの推測を述べた。
「たぶん、そうだろうな。新入り、ジンはアイズの幼馴染なのは聞いただろう。恐らく当時から好きだったのではないか?今も自覚していないようだが」
リヴェリアはアイズを幼い時からずっと見守ってきた。そして、アイズがたまにその口から僅かずつこぼす過去を聞くと、何となくそうではないかと考えていた。
その考えはアイズとジンが再会し、その二人の関わりを見ているうちに確信へと変わった。
「戦闘狂っぽかったアイズがねー。なんか複雑な気分」
そうティオナが締めくくる。ティオナはティオネと違い特に誰かを好きということはないため、どこか天然で純粋なアイズに先を越されたことがそのように思わせたのだろう。
話がそこで止まったところで、フィンが手を叩いて、"そろそろ撤収しよう。これ以上長居すると帰りに手間取りそうだ"そう言った。
全員従って歩き出そうとしたところで、ダンジョンがゆれ始める。
「遅かったか……。いや想定より早かったというべきかな」
そうフィンが言う。
地面から生み出されたのは階層主、ウダイオス。かなりの強さを誇るモンスターだ。
「サポーターは下がってくれ。皆行けるな?」
団長らしく、それぞれに問いかけるフィン。全員が返事をして、ウダイオスとの戦いが始まった。
―――――――――――――
エイナは胃痛をこらえていた。彼女はその原因となっている光景をを思い出していく。
手をつないでギルドを出て行くアイズとジン。
祭りの際に二人で回っていたらしいアイズとジン。
ロキファミリアを訪れた際、膝枕するジンとされるアイズ。
膝枕から起こされたあと、仲睦まじそうにぴたりと密着して座るアイズとジン。
酔ってキスを迫るアイズとそれに押し込まれるジン。
(ベルくんに今度こそ、今度こそ、言わ、ないと。で、でもなんて言えば)
そんな風に頭の中がぐるぐると埋め尽くされるエイナ。
そもそも言わずに知らんぷりでもすれば良いのだが、彼女にとってベル・クラネルは特別と言ってもいいほど入れ込んでいる冒険者であり、不実な真似はしたくなかった。
だが、彼が落ち込むであろう姿を想像すると、安易に伝えることもできない。
そうやって悩むエイナの元へ今日もまた、白髪で紅の瞳を持つ少年がやってくる。
「エイナさん、おはようございます!」
そう元気に受付のエイナへと話しかけるベル。
「おはよう、ベル君。今日はどうかしたの?」
結局へたれてしまい、今日も普段どおり対応してしまうエイナ。
「いえ、リリの件が解決したので、それを伝えようと思って。色々とアドバイスありがとうございます、エイナさん」
笑顔でお礼を告げるベルにエイナはほっこりして癒されるが、同時に自分の後ろ暗さを自覚して罪悪感が刺激される。
「そっか、良かったね。これからもリリルカさんは君のサポーターを続けるの?」
その後も話し込むも、結局ベルにジンとアイズのことを告げることができないまま、ベルの後姿をエイナは見送るのであった。
(つ、次こそは、次こそは伝えてみせる……)
だが、やはりそれで失恋してしまうベルのことを考えてエイナはためらう。
(ごめんなさい、ベル君。私には無理だわ)
そう考えてエイナは自分の無力を痛感するのであった。
エイナから離れた後、ベルは換金所にて因縁の狼人の冒険者ベートに捕まり、到達階層を問われた。
それを疑問に思ったベートとの模擬戦が行われ、ベルのことを認めたベートにしばらくの間扱きを受けることになるベルであった。
―――――――――――――――――
「で、フレイヤ、お前がリトル・ルーキーに執着しとんのはわかった。相変わらずの色ボケやな」
フレイヤへと言うロキ。
神会のあと、ロキがフレイヤを呼び出して話をしていた。そこで、ベルに執着していることを問われ、あっさりと認めるフレイヤ。
だが、ロキが呼び出したのはそれを聞くためではない。本命はここからだった。
「まさかとは思うが、フレイヤ。お前うちのジンにも目をつけとるんちゃうか?
最速レコードのリトル・ルーキーもそうやけど、うちのジンも結構特殊や。一応聞いておこうと思うてな」
そうロキはフレイヤへと問いかけた。これが本命だ。仮にフレイヤがイエスと答えるようならロキは争うのも仕方がないと思っていた。
ジンはアイズにとってこれ以上なく大事な人間であり、それが奪われた時アイズがどうなるか想像に難くない。それゆえの考えである。
問われたフレイヤは一瞬僅かに動揺した。ロキも警戒を強める。
だが、フレイヤは動揺のあと、悔しげに顔を伏せた。予想外の反応にロキは首をかしげて、疑問に思った。
「どうしたんや、自分?」
その疑問に拗ねたようにフレイヤが答える。
「……私にも手に入らない輝きというのがこの世界にもあるのよ。彼はそういうものだわ」
あまりにも意外なフレイヤの答えにロキの方が動揺した。
「確かに彼は単体でも輝いているわ。でも、隣に剣姫を置いたときのその輝きは段違いに強くて何より尊い。剣姫もそう。今までの自分を燃やし尽くさんばかりの彼女の輝きは彼の隣ではその輝きを和らげ繊細になってとても美しい」
「あの二人の輝きを見れば彼を手元に置こうなんて考えられない。自分の下で彼が同じくらい輝くならともかく、そうはならないわ、きっと。
なら、あの二人を見ているだけでも十分よ。お腹いっぱいになりそうだもの、あれだけでも」
ロキの動揺を感じたのか、穏やかに続けるフレイヤ。
その話を噛み砕き、そしてロキは嘆息した。フレイヤからもその輝きを認められた以上、ロキはジンとアイズの道を遮るどころか協力しなければならない。
なぜなら、
「あの二人を引き離すようなら、覚悟したほうがいいわよ、ロキ。
ふふっ、二人とも私の下でその輝きを愛でるのも悪くないかもしれないわね」
そんなこと言うフレイヤがいるためだ。
「ドアホ、二人ともうちの子供や!お前にはやらんで、フレイヤ」
その後少しの間言い争いになったが、結局収まった。
少しの世間話をした後去っていくフレイヤの背中を見送って、ロキは再び嘆息したのだった。
ここのロキはかなり人格ができています。
あと、アイズはレベル6にまだなっていません。
ここからの話は難しいので、更新が遅くなるかと思います。
どうかご容赦ください。