俺の妹分が世界一可愛いと思うのは間違っていない 作:EXEC
この話を書くのに参考にしようとソードオラトリア買って、とりあえず四巻を読んだんですがその後話をどうしようか考えてました。
まぁ、矛盾した、しそうな点がプロットに幾つか見つかりましたが、気にしないでいこうと思います。あくまで、あっちは参考程度に書いていきます。
ロキファミリアの遠征。
そのために俺たちは全ての準備を終えて、バベルへと歩いていた。
正確にはその地下一階、ダンジョンへと。
アイズが隣へとくる。どうかしたのかと見やると、彼女は静かにこちらへ寄り添ってきて言う。
「ジンは遠征、初めてだから。気をつけてね」
それに対して、俺は相変わらず過保護だと苦笑して頷くのだった。
――――――――
ダンジョン内を歩く。現在いる階層は7階層。
荷物があるためゆっくりと進んでいる。遠征の時間のうちかなりの部分が移動のための時間らしい。
"一瞬で深層まで移動できたら便利なんだけどね"そう言ってフィンは力なく笑っていた。
そんなことを思い出しながら、無心で歩いていると前方から慌てた様子の冒険者たちが走ってきた。
かなり必死な形相をしている。何かあったのだろうか。
慌てて逃げ出してきたらしい彼らに話を聞くと、上層にミノタウロスが出たらしい。
そして、白髪の少年がそのミノタウロスに襲われていた、そう彼らは言った。
その言葉に隣のアイズが反応した。だが、アイズよりも大きな反応を示した者がいた。
「おい、テメェら。その餓鬼はどこで戦っていた?」
彼らにそう聞き、答えを聞いてそのまま駆け出すベート。
その場の全員で顔を見合わせると、ベートを追って俺たちも走り出した。
魔力放出を使用して前を行く一級冒険者の面々に追いすがる。こうでもしなければすぐに置いていかれてしまう。
そして、逃げ出してきた冒険者から聞いた9階層へたどりつき、ベートを追ってとある広間へ入ると
その猪人の男を視界に入れた瞬間、背筋に戦慄が走る。恐らく俺が今まで見てきた中で最強の存在だ。俺の気配察知がその男の存在の大きさを今までにないほど巨大だと認識している。
「なぜここに猛者が……!?」
先頭にいるティオネが疑問の声を上げる。だが、それでも勢いを落とさずその戦いに参戦した。
続いてティオナ、アイズが追いついて4人で戦い始める。
猛者……。確かオラリオ最強の冒険者であり、唯一のレベル7。なるほど、強いわけだ。
一級冒険者4人でかかっているにも関わらず互角。
その戦いに参戦せず、少し離れたところで立ち止まる。猛者は出口を背にしている。その状態で一度に挑みかかれるのは4人が限界だ。5人で戦えば逆にお互いの行動を阻害してしまうだろう。
ゆえに、剣を構えながら、体に魔力を溜め込んでいく。ステイタスの値により魔力の最大出力は決まっているものの、こうすれば一時的に最大出力以上の魔力放出が行える。
猛者の剣がティオネの刃に競り勝つ。体勢を崩したティオネに追撃をかけようとする猛者。アイズ達はそれを妨害しようとするもののし切れない。
だが、その瞬間に。
最大出力を超えて背中から放たれる魔力放出。空気との衝突で奏でられる轟音を置き去りにして、ティオネと猛者の間に割り込む。
微かに驚いた顔をしたものの俺を低レベル冒険者とわかっているのだろう、煩わしそうに剣を持った腕で殴りつけようとする猛者。
恐らく一旦放たれれば俺の目で捉えることは不可能であろうそれを知りながら、俺は両の手を猛者に向ける。
そして、そこから全力の魔力放出を放った。
姿勢制御のために背後からも噴出された魔力に背後のティオネが吹っ飛ぶ。正直すまん。
だが、両手から放たれた魔力は猛者の剣に防がれたものの、魔力の勢いに耐えるために猛者は腰を落としどっしりと構えた。
魔力放出の勢いはそうでもしなければ防げない。いや、むしろ俺の体を高速で空へ飛ばすことができるほどの勢いにそれだけで耐えられる方がおかしいのだが、それは複数を相手にする上では悪手だ。
俺の意図を汲んだアイズが猛者の横から風を纏った全力の蹴りを放った。派手に吹っ飛んだりこそしないものの、猛者は蹴られた方向へとよろめいた。
そして、猛者が動いたことでその背後にあった出口の前が空く。その出口へベートが突っ込んだ。猛者が止めようとするがそれもティオナに阻まれた。
通路へとベートが出て行き、その背中が遠くなっていく。これで、ミノタウロスは問題ないはずだ。
「ちょっと何てことすんのよ、ジン!」
そう言いながら、ティオネが復帰する。
「ああでもしなければ、突破できなかったんだよ。今度奢ってやるから、それでチャラにしてくれ」
そう返す俺も油断なく剣を構えて、他の面々と共に猛者を囲む。
その時、俺たちが入ってきた通路からフィンとリヴェリアが現れた。二人はこの状況を見ながら、まずリヴェリアが近くに倒れていた小人族の少女の治療を行った。
フィンが前に出たとき、猛者があきらめたように剣を下げ、敵意を消す。どうやら、もう戦う気はないようだ。
フィンと幾らかの会話を行う猛者を尻目に、俺たちは顔を見合わせると、ベートのあとを追った。
――――――――
ベートは全力で通路を駆けていた。遠征前の少し前白髪の少年と会い、その成長速度に驚くと共に何が少年を駆り立てるのか気になった。
結果として、ベートはその少年に稽古をつけてみることを決めた。そして、ベートはその稽古の結果に心底驚いていた。
その少年はベートからすれば雑魚だった。だが、こちらの攻撃に目を瞑らず、どれほど痛みを与えようが意識がある限りは根性で起き上がって食らいついてきた。
そして、その成長速度。日に日に、明らかに強さが増していくのがわかるほどのとてつもない早さだった。
ここ数日のうちにベートは確かにその少年の強くなりたいという意志を無意識で認めていた。今は雑魚だが、認めるべき雑魚だと。
故に、その命が失われかねないこの状況に焦っている。
(ハッ、俺も焼きが回ったか? 数日鍛えてやっただけの餓鬼に情が湧くとは)
そう、自嘲しながらも、決して速度を緩めない。むしろ、気合を入れて更に速度を上げていく。
やがて、小人族の少女――白髪の少年からリリと呼ばれていた――から聞いた、E-16の広間へとたどり着く。
そして、ベートは少年が吹き飛ばされて地面に転がるのが見えた。
(ミノタウロスから生き残っただけでも餓鬼にしては上出来だ。さっさとミノタウロスを倒すか)
そう考えて広間に入ったベートは、そのとき転がっている白髪の少年と目が合った。深紅の瞳がベートを捉える。
その瞬間、少年の体に力が入り立ち上がる。そうして少年は雄たけびを上げて、再びミノタウロスへと踊りかかった。
――――――――――
広間の入り口でベートが立ち尽くしているのが見える。その背後からはまるで信じられないものを見たかのような驚愕が伝わってきた。
「何してんの、ベート!? ミノタウロスは!?」
そうティオネが問いかける。だが、ベートは動かない。焦れたティオネがベートを脇にどかすと、広間の中を見て――ベートと同じく固まった。
俺たちは、そのティオネも退けると広間に入った。そこで俺たちが見たのはミノタウロスと互角に戦う白髪の少年だった。
どうやら、これを見て二人は固まったようだ。なお、横を見るとティオナとアイズも固まっていた。
背後から追いついてきたフィンが言う。
「僕の記憶が正しければ、1ヵ月前ベートの目にはあの少年が如何にも駆け出しに見えたんじゃないかな?」
そうフィンが言った。俺も記憶を辿る。俺が見たのは酒場から逃げ出した時の少年のみだが、確かにあの時は駆け出しと同じ程度の強さだった気がする。
つまり、僅か1ヵ月であの白髪の少年はミノタウロスと戦えるまで強くなった、と。
なるほど、固まるのも無理は無い。俺が適正レベル2の敵と戦えるようになるまで、師匠からの地獄の訓練を受けてなお数年を要した。
そして、神から恩恵を授かったアイズもそこまで一年かけている。
1ヵ月。1ヵ月で俺たちの年を追い抜く。もはやそれは何をどうやれば出来るのかわからないほどの早さだ。
炎と雷が舞い、少年は速さを持って怪物を翻弄する。怪物から大剣を奪い取り、不恰好に振り回しながら怪物を追い詰める。
やがて一人と一体が全力でぶつかり合い、最後に少年がミノタウロスへと零距離で魔法を放ったところでその戦いは少年へと傾いた。
ミノタウロスが灰となり、ドロップと魔石がその場に残される。少年は精神枯渇によって立ったまま気絶したようだ。
それをベートは何も言わず静かに見ていた。最初こそ驚愕に見開かれていたその目は、今は不思議な色をたたえて少年を捉えている。
誰もが、沈黙を保っていた。さきほどの光景を反芻しているのだろう。
やがてベートが口を開くと言った。
「俺がこいつらを地上に連れて行く」
そのまま、リヴェリアから小人族の少女を受け取ると、フィンから了承をもらって二人を抱えて走り出した。
遠ざかっていくベートを見てアマゾネスの双子が言う。
「なーんか、ベートらしくないわね。普段ならもっと騒ぎそうだし、そもそも真っ先に駆け出したのが雑魚なんて放っておけって言いそうなベートだったってのがねー」
「しかも、地上に運ぶ役を自分から引き受けるとか。ほんとベートらしくない」
そのまま"ねー"と言い合う双子を見ながら、リヴェリアが笑いながら言った。
「酒場の件と今回の件を見てベートにも思うところがあったのではないか?何にしても良い傾向だろう」
そうしてリヴェリアはフィンに先ほどの戦いについて微かに熱を持った口調で話しかける。
それに対して、フィンも同じく楽しそうに話す。それほど少年と怪物の戦いは彼らを興奮させたのだろう。
駆け出しだった冒険者が恐ろしい速度で強くなり、格上のミノタウロスを倒す。なるほど、どこかの英雄譚かと聞きたくなる。
そんな彼らを横に見ながら、俺はアイズをうかがう。さっきから少しぼんやりとしているみたいだった。
「アイズ?」
声をかける。それに反応してアイズもこちらを見る。俺は彼女に"どうかしたのか?"そう聞いた。
彼女は俺の疑問に対して、少し考えるとこう言った。
「ううん、なんでもない。ただ――私の英雄はジンだから」
彼女はそう言って、どこか見惚れてしまうような笑みを俺に向けたのだった。
―――――――――
ロキファミリアの幹部たちが白髪の少年とミノタウロスの戦いを見てから数日後。
ランクアップした眷属の二つ名を決める神会にて、白髪の少年、ベル・クラネルの名が上がった。
そうして、幾つかの疑問を交えながらも、ベルの二つ名決まった。
「じゃあ。この子の二つ名はリトル・ルーキーで決まりやな」
司会役を務めているロキがそう言うと、神会に参加している神々は口々に賛成した。
命名は最後のレベル2へと続く。
「じゃあ最後はうちのファミリアのジン・シックスやな」
そうロキが言う。参加している神々はそれぞれ資料をめくりだした。
「かかった時間は……七年か。平凡だな。むしろ遅いか」
「ふむふむ。げっ!剣姫と幼馴染だと?リア充がっ!」
それぞれ好き勝手に独り言をつぶやく彼ら。今回はオラリオ最大派閥のロキファミリアへの命名のため手が抜けない。
それゆえ、真剣に資料を読み込んでいく。
「ところでここには書かれていないみたいだが、こいつの目標というか夢は何なんだ?」
とある神がそうロキへと問いかける。
「アイズたんを守れるようになること、やな」
そう返すロキ。一瞬の間をおいて、戸惑いの声が上がる。
彼ら神々にはロキの言葉が冗談なのかどうか疑問に思い笑うべきなのかどうかわからなかった。
「おいおい、そりゃ無謀すぎるだろ。」
一人の神が言う。
他の神々もそれぞれか"こいつ馬鹿なのか?""ランクアップして舞い上がってるんじゃね?"などと言っている。
それに対してロキは怒るでもなく、当然の反応と受け止めてから言った。
「そうか?うちは意外にすぐ成し遂げるんちゃうかと思うが」
再び場が静まる。
「資料の最後のページを読みい」
そうロキが言う。資料をめくる音が響く。
そんな中、一人の神が該当の項目を見つけて呻く。
そこには、レベル5の冒険者ベートにジンが勝利したことが書いていた。
「……流石に嘘だろ?いや嘘じゃないにしても誇張だろ?何かハンデがあったとか」
そう言った神に他の面々も口々に同意する。ロキはただ首を横に振って言った。
「いーや、一切ハンデなしの肉弾戦でジンが勝ったで?まぁ疑うのはわかるけどな」
「ジンには――特殊なスキルがある。内容は言えんけどな」
ロキはそう神々に言った。神の力を使ったと疑われるよりはある程度真実を言ったほうがいい。
ロキファミリアは最大の派閥だが、それでも神の力を使ったと疑われた場合、全てのファミリアから敵視されかねない。疑われた時の風評被害の方が危ないのだ。
ロキの言葉に沸く神々。だが、彼らではロキに敵わない以上、ジンを引き抜くことはできない。
お祭り騒ぎのようになった彼らに対して、ロキは手を二回叩くと静まるように告げる。
そうして、ロキは胸の中で暖めていた一つの候補を言うことにした。
「うちの子の二つ名に提案があるんや。姫を守るのは騎士の役目やろ?やから――」
結局。
ロキの提案に異を唱えることは誰もせず、満場一致でジンの二つ名が決まった。
「じゃあ、これでジンの二つ名は決まりな。名前は、」
そこでロキは一つ言葉を区切って、言った。
「
さぁ、これで一つの区切りです。
次はこぼれ話かな。とりあえず、ジンとアイズ以外の視点がほとんどになるかと思います。