俺の妹分が世界一可愛いと思うのは間違っていない   作:EXEC

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よし書き終わったぞ!
そんなわけで投下しました。
アイズ視点プラス、ジンの戦いです。
ま、まぁジンの戦いなんておまけですよきっと。


10.彼女の祭り/彼の魔法

今日も私はとてもいい気分だった。

朝から夕方までジンと一緒にいられる。

たとえ場所がダンジョンだとしても、本当に嬉しい。

 

ジンはもっと深い階層に潜りたいみたいだけど、まだだめだ。

ジンの戦いは閉所での戦闘はあまり考慮していない。

この三日で徐々に慣れつつあるけれど、適応するにはもう少しかかるだろう。

 

できればそれも遅いほうがいいなぁなんて考えていると、ジンの魔石の回収が終わったみたいだった。

 

ジン曰く私は過保護らしい。かすり傷一つでポーションを使おうとするなんてありえないって。

正直それは悪かったと思う。ジンが怪我をしたと思ったら頭の中が真っ白になった。

すぐにどうにかしないとと思ってポーションを出してしまったのだ。

 

でも、下の階層に行かないことについては全然過保護じゃない。

ダンジョンには危険がつきものなんだから、可能な限り上層で訓練すべきだ。

 

ダンジョンから出て歩き出す。ジンは換金に行ったのでそれをぼーっと待った。

全て終わりギルドを出る。既に日が傾いていた。夕焼けのオレンジ色の光がオラリオを照らしている。

 

ジンと二人で歩く。こんな時ジンは歩幅を合わせてくれる。

小さなことでも気遣って、私を大切に扱ってくれる。

子供の頃からそうだった。だから私もジンが大好きなのだ。

 

 

ホームへの帰り道。この時間は好きだけど嫌だ。

二人で静かに歩くのは好きだけど、この時間が終われば二人の時間は終わってしまう。

ゆらりと揺れる黒い影とオレンジ色に輝く世界に物悲しさと寂しさを感じる。

 

そういえば、今日こそジンに言わないといけないことがあった。

今まで言おうと思っていたけど、少し気恥ずかしくて言えなかったことが。

 

ジンに明日予定があるか聞いた。祭りを見に行くらしい。

良かった、別の用事が入っていなくて。

そして私は一緒に祭りに行きたいと言う。

 

だが、ジンは首をかしげて、

"他の人と一緒に行かなくていいのか?"そう聞いた。

 

もしかして、私と行くのが嫌なのだろうか。

そう思い至ると、視界が歪んだ。

思わず泣きそうになりながらジンに"嫌なの?"と聞いた。

 

ジンは慌てて否定してくれた。

最近ジンとばかり一緒にいるから、ファミリア内の交友はどうなってるのか心配したらしい。

でも、大丈夫。夕方帰ってから話している。

加えてどういうわけか、ティオナやティオネは私を生暖かい感情のこもった目で見て、

"頑張りなさいよ"と言ってジンと一緒に過ごすのを後押ししてくれた。

 

レフィーヤは渋っていたが、リヴェリアに何か言われて、

"アイズさんとリヴェリア様が言うなら…"と納得してくれた。

 

だから、大丈夫。問題はないのだ。

 

 

そんな考えを並べていると、ジンがぽつりと"楽しみだな"とこぼした。

私はジンが私と同じように楽しみにしてくれるのが嬉しくて思わず笑みを浮かべて頷いたのだった。

 

 

 

祭りの当日。

ロキから遊びに行こうと誘いを受けたが、ジンと約束していると言うと、

にやりと笑って"ほな、行って来な。楽しんでおいで"と言って、見送ってくれた。

何か企んでるのだろうか。

 

ジンと一緒に闘技場の近くの通りへと向かった。

 

物凄く人が多い。はぐれそうだなと思ったとき。

ジンが手を差し出してくれた。前は私からだったけど、今度はジンからだ。嬉しくなった。

 

でも、と思う。前、ティオネがフィンに対して腕を絡めていたのを思い出す。

 

私とジンが腕を組む光景を想像して心臓の鼓動が早まるのを感じた。

 

"アイズ?"

 

名前を呼ばれて、目の前を見るとジンが不思議そうにこちらを見ていた。

きょとんとしたような顔が珍しく、新鮮だった。

また一つ新しいジンの一面を見つけたみたいでちょっと楽しくなった。

 

そのままジンの手をとって、腕に抱きつく。

更に鼓動が早まった。ジンに気づかれていないだろうか。

幸せな感情が湧き上がってくるけど、同時に顔に熱が集中して耳が赤くなる。

 

ジンが私を見て困ったような顔で名前を呼んできたけどそっぽを向いて更に腕を強く抱きしめた。

だめ。絶対に離さない。

 

結局ジンはあきらめたようで、そのまま私を連れて歩き出した。

少なくとも嫌ではなさそうだ。良かった。

 

 

歩きながらいろんな屋台を見て回る。

"あれは美味しそうだ"、"へーこういうのもあるのか"、"うわ流石にゲテモノだろ"

彼は私にたくさん話しかけてくる。

そんな彼に言葉を返すけれど、何を話したか覚えていない。

思ったより腕に抱きつくのは恥ずかしくて、言葉を考える余裕がない。

でも、頭がふわふわして彼から離れたくないと強く思う。

私はただ彼の腕から感じられる体温に身を委ねたのだった。

 

 

流石に食べる時まで腕を絡めるのは無理だ。

ちょっと、いやかなり残念だけど仕方ない。

この悔しさは彼にあーんして解消しよう。

 

彼に食べさせた後、私の手の中にあるクレープを見る。

気づいたのは今だけど、これはいわゆる間接キスではないだろうか。

想像して思わず頬に熱が宿る。でも覚悟して口に運んだ。

うん、なんとなく甘い気がする。

 

今度はジンからお返しが来た。

同じく覚悟して食べた。

 

 

闘技場の方まで行くと、レフィーヤとギルドで会った受付嬢が真剣な顔で話し合っていた。

ジンと顔を見合わせると、ジンが話しかけに行く。

 

何でもモンスターが逃げ出したらしい。

せっかくのお祭りなのに、と怒りがこみ上げてきた。

 

本当に残念だけどジンと遊ぶのはここでおしまいだ。

ここからはただのアイズではなく剣姫アイズ・ヴァレンシュタインの時間だ。

 

 

全力で駆けて、モンスターを倒す。

ちょうど今ので五匹目だ。

ジンとレフィーヤはどうしてるだろうか。

特にレフィーヤはともかくジンは危険かもしれない。

私が倒した中にはダンジョンの20階層より下にいるモンスターが混じっていた。

対人ではジンはとても強いけど、モンスターと戦ってどれくらい強いかは分からない。

 

心配になってきた。

私の魔法、エアリアルを利用して跳躍。高いところから街を見渡す。

少し派手な魔法が見えた。あれはレフィーヤだろうか。

ジンを探す。

 

見つけたジンはトロールの胸を剣で貫いていた。

魔石を狙ったのか、トロールは灰になる。

 

トロールは今回逃げ出したモンスターの中でもかなり強い。

ジンはモンスター相手でも強いのだと知った。

上層のモンスター相手に戦術を使ってたからモンスター戦は苦手だと思っていた。

たぶん、慎重を期するために使っていたのだろう。彼はモンスター相手にも強かったようだ。

 

安心して地面に降り立つ。

そのまま二人と合流するために地を駆けた。

 

 

モンスターを倒した数は私が一番多かった。

すると、ジンが褒めて頭を撫でてくれた。懐かしい。

子供の頃もこうして褒めて頭を撫でてくれていた。

 

さあ帰ろうかとなった時。突然ジンが私とレフィーヤを連れて走り出した。

 

ついさっきまで私たちが居た所に、巨大な蛇のようなモンスターがいた。

地面に穴が開いているところを見るとそこから出てきたらしい。

 

モンスターへ走りながら周囲に目を向けると、蛇のモンスターに比べればかなり細い蔓のようなモンスターが地面から出てきた。

それらを斬りながら、一旦距離をとる。

蛇の方を見ると頭部が咲いた花へと変わっていた。さっきまでつぼみだったらしい。

周囲の触手も良く見ると一部は巨大花の根元につながっている。

巨大花が本体らしい。だが、触手が邪魔で近づけない。

 

 

その後レフィーヤが魔法を詠唱したが、巨大花に気づかれて触手で叩かれた。

ジンと一緒に背中を合わせて触手に対処するが、ぎりぎり拮抗している。

こんな状況じゃなければ少しは楽しかったかもしれない。

 

いつ狙われるかわからないレフィーヤを放っておくことができず、ジンに頼んで安全なところへ連れて行ってもらった。

これで、ジンはたぶん無事だろう。

ジンが離れると共に私はエアリアルを唱え、本体の方へ深く踏み込む。

触手と戦ってもキリがない。だが本体を倒せば終わりだ。

ジンがいれば危険に晒してしまうからできなかった。

 

だが、あと僅かで束ねられた触手に邪魔された。

しかもエアリアルを使ったことで剣に無茶をさせすぎたのか折れてしまった。

遠征の後に本来の剣はメンテナンスに出している。今の剣は予備の剣だから、少し脆い。

最悪なのは根元から折れている点だ。もう武器にはできない。

巨大花の懐から離脱しようとする。

だが深く踏み込んだせいで、触手に全方位を囲まれている。

そのとき、さっきジンを探すためにエアリアルを使って高く跳んだのを思い出した。

 

あの時と同じく跳ぶ。

しかし跳んだ先にも触手が待っている。

更にエアリアルで風を制御。回避するために目的の方向へ噴出させる。

 

何とか回避に成功した。

だが既に地表は大量の触手が埋め尽くしている。

逃げ回るには空中しかない。

 

風を制御して空を跳ね回る。

剣があればと歯噛みした。邪魔する触手をいくらか切り裂ければ回避はもっと楽になるのに。

何とか回避し続けるが、風の制御には神経を使う。しかも初めての試みだ。

 

風の噴出方向を誤って僅かにずらしてしまった。

 

目の前には触手。それに腕をつかまれた。もはや逃げ切れない。

 

更に巨大花は触手を束ねて先端を尖らせる。当たれば死んでもおかしくない。

そんな絶体絶命の危機の中、私は走馬灯を見た。

子供の頃の幸せな記憶。ジンと離れ離れになったこと。そのあとの苦しかった日々。

そしてジンとの再会と再びの幸せな日々。

夢じゃないかと思うくらい幸せで楽しかった。でもそれもここで終わる。

最後に浮かんだのは、

"もう少しだけ、ジンと、過ごしたかったな"そんな思いだった。

 

―――――――――

 

 

「魔力放出!!!」

 

俺の背後から見えない力が噴出する。

俺の魔力から可能な最大出力をその魔法へと叩き込んだ。

その速度は圧倒的だった。モノクロの世界においても景色が飛ぶように過ぎていく。

 

 

そして、アイズの腕を掴む触手を切り離すと、僅かに逆噴射して減速。アイズを掻っ攫う。横抱きにしてアイズを抱えると魔力放出で空を飛んで、触手が存在しないところまで脱出した。

 

「え……」

 

アイズが戸惑うような声を出した。いきなり景色が切り替わったので無理も無い。

 

「アイズ、大丈夫か?」

 

そう尋ねる。見たところ怪我は無いが、血が出るだけが怪我ではない。

どこか打っていれば、骨にヒビが入っていることもありえる。

 

「あ、うん。大丈夫だけど」

 

そして、アイズは言う。"夢じゃないの?"

 

いまいちよくわからないがこれは現実だ。

突然助かって混乱してるのかもしれない。

アイズを抱いたまま、軽く揺する。

それでも呆然としている様子が抜けないので、右手をアイズの体から離し左手一本でアイズの体を支えると、右手でアイズの左頬をぐりぐりと引っ張ってあげた。

いつかのように"いふぁいよ、でぃん"と言うアイズ。

 

「ほら、ここは現実だ」

 

そう言って、アイズを地上に降ろす。

ふらついているようだが、ここは安全地帯だ。問題ないだろう。

そのまま巨大花の方へと足を進める。

 

しかし、アイズに服の袖を掴まれた。

"言っちゃだめ"そう目で訴えてくるアイズににやりと笑う。

最近はダンジョンに行っても弱い上層のモンスターで中途半端な思いばかり抱えていた。もっと戦いたいと思うものの、敵が弱すぎて鬱憤がたまっていたのだ。

 

「心配するな。俺は勝つ」

 

とだけ宣言して、アイズの手を外して魔力放出を使って空に上がった。

 

魔力放出を使いながら触手を回避。必要なものだけを斬っていく。

アイズが触手に捕まったのは剣が無くなったからだ。

剣さえあれば、アイズも俺も捕まりはしない。

 

あと少しというところまで近づくと今度は束ねられた触手が行く手を遮る。

これは、剣に魔力放出を乗せて叩き斬った。

 

なんとなくわかっていたことだがどうやら剣にも魔力放出を乗せられるらしい。

 

そして巨大花の目の前までたどり着く。

そこで魔力放出を止める。速度が緩まった俺に触手が近づこうとするが、もう遅い。

恐らく、束ねられた触手より本体のこいつは堅いだろう。

ただの魔力放出では切り裂けないかもしれない。

 

全力で剣に魔力を込める。すると剣に淡い燐光が宿った。そのまま剣を巨大花に向けて振るう。インパクトの瞬間に剣から莫大な魔力が放出された。

 

 

そうして、剣から放たれた魔力波は巨大花を切り裂いて、空へ溶け込んでいった。

 

 

――――――――

 

 

"もう少しだけ、ジンと、過ごしたかったな"

 

そんな言葉を内心で思い目を閉じる。

でも、その瞬間近くで物凄い風が吹き荒れるのを感じた。

そのまま体が抱きかかえられて、暖かいものに包まれているように感じた。

 

目を開けるといつの間にか巨大花から離れた地上に降りていた。

思わず戸惑いの声を上げる。目を閉じていたのはほんの僅かな時間だった。

現実感がなくて、私を抱えている誰かを見る。ジンだった。

 

ジンが大丈夫か問うてくる。体に意識を戻すと傷は無いようだ。

強いて言うなら、触手に掴まれた腕が痛むくらい。これもすぐ痛みが引くと思う。

 

でも、自分が生きていることが信じられなくて、ジンにこれは夢なのか聞いた。

すると、ジンは軽く私を揺さぶってくる。

そういえば、今私はジンに横抱きにされている。

いわゆるお姫様抱っこである。しかし、恥ずかしがる暇もなくジンに頬を引っ張られた。

痛いとジンに訴えかけたが、悪びれずにジンは"ここは現実だ"と言った。

 

そうすると、一気に現実感が戻ってきた。お姫様抱っこされてるのが物凄く恥ずかしいような嬉しいような気持ちになる。

ジンの横顔を見ると、助けてもらったからかとても凛々しく見えた。

心臓がうるさいほど高鳴って、ジンの顔から目が離せなくなった。

そんな私とは裏腹に、ジンは私を地面に降ろすと、巨大花の方へと向いた。

 

思わず袖を掴んで引き止める。

もしここで行かせてしまったジンが危ないのではないかと引き止めてから気づいた。

 

でも、ジンは笑って、"俺は勝つ"そう言った。

 

 

どこか不敵なジンの笑顔に見惚れてしまって、結局行かせてしまった。

 

でもジンは確かに宣言通りに勝った。そうして倒れた巨大花に背を向けて私の前に戻ってきて、

 

"な、勝っただろ?"そう言って笑顔を向けたのだった。

 

胸がドクンと一際大きく鼓動をする。

ジンの笑顔をまっすぐ見れなくて、目を背けた。

ジンにはその様子が、拗ねたように見えたのか、慌てて勝手に巨大花を倒しに行ったことについて謝るが、私は恥ずかしくてうつむいたままだった。

 

ただそのときのジンの顔が輝いているように見えたのは覚えている。

 

 

 

 




うーんうまく書けてるといいなと思いますけど。
次はたぶん日常回かな。
できれば甘~くしたいところ。
あと、拙作ではアイズのエアリアルは空を飛べるようにしています。原作では確かできなかったと思いますけど。独自設定です。後々に関わってくるので。

用語集
魔力放出
ジンの魔法。アイズが空中に囚われている状況でアイズを助けなければならないと思った結果習得した。発展スキル適化により即時使用可能に加え、使い方を頭に叩き込まれた。なお、自分の体の一部のように思える存在に対してなら魔力放出使用可能。ジンは剣を体の一部のように扱えるので、剣からも出せる。あと、普段は皮膚から直接ではなく服から噴出させているという裏設定。じゃないと服が吹き飛んでしまう。
魔力を体の各部位から噴出させて、素早く行動できる。また、言葉ではなく思考がトリガーとなるため、緊急回避でも有用。
特徴として、放出出力を上げれば空も飛べる。そして飛ぶ斬撃が出せる。でも減衰が激しいので飛距離がかなり短い。

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