俺の妹分が世界一可愛いと思うのは間違っていない   作:EXEC

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すみません、本当は後半も繋げて投稿する予定だったのですが、長くなりすぎたため分割します。

後半はアイズ視点が入ります。
楽しみにしていてください。

できれば今日中に更新したいですね。


9.彼女の危機/彼の試練

ギルドに登録してから、三日目のこと。

 

十体ほどのモンスターに囲まれながら剣を振る。

 

「ギィアッ!?」

 

振られた刃はそのままモンスターの首を刈る。

 

そして、一匹倒れたことでできた包囲の隙間に突っ込み、囲いの外に出る。

 

そして、同時に相手にする数を2,3匹まで抑えて、各個撃破していく。

 

最後の一匹が倒れると共に、背後から涼やかな声がした。

 

「相変わらず、鮮やかだね」

 

その声の主、アイズが近寄ってくる。

 

「まぁ、戦うの慣れてるからな」

 

 

ギルドに登録してから今日までの三日間とりあえず、俺はダンジョンに潜っていた。

それに対して、指南役にロキから指名されたのがアイズであり、今もこうして一緒にダンジョンにいる。

それにしてもロキは最近やたらと俺とアイズを一緒に行動させようとしている気がする。なぜだろうか。

 

そうやって頭の中で疑問は浮かぶものの、体は動いてモンスターの死体から魔石を取り出した。

全てのモンスターから魔石を取り出すと、灰になるモンスターを眺めながら言った。

 

「幾らなんでもロウペース過ぎないか?

ダンジョンは慣れてないとはいえ、それでもレベル2なんだ、もっと先へ進んでもいいと思うけど」

 

現在いる階層は6階層。

 

既に三日目であるにも関わらず、ここから先は行っては行けないらしい。

 

ダンジョン初心者としてならともかくレベル2として考えるなら、かなりゆっくりしている。

 

「だめ。ジンはまずダンジョンに慣れないと。先に進むのはノウハウを得てからでも遅くはない」

 

……まぁ理解はできる。納得できるかは別にして。

とりあえずはアイズの気が済むまでやらせようと思う。たぶん俺のことを心配して言ってくれてるんだろうし。

というかこの子、かすり傷でも俺にポーションを使おうとしてくるのだ。

言いつけを無視して奥まで行けば泣かれてしまうかもしれない。

 

 

 

ダンジョンの外に出る。

ずっと地下にいたからか、日の光が眩しく感じる。

ギルドの換金所へ向かい、魔石とドロップ品を売り払う。

正直大して稼げていないが、それは低階層だからだろう。

 

アイズの指南が終われば、防具を買った分のお金くらいはすぐ取り戻せそうだ。

 

 

 

ホームへの帰り道をアイズと並んで歩く。互いに無言だが、気まずくはない。

むしろ、どこか居心地が良く、夕日に伸びる二つの影が寄り添って楽しげに揺れている。

 

「ねえ、ジン」

 

隣でアイズの呼びかける声がした。

 

「どうかした?」

 

問いかける。

 

「明日何か予定ある?」

 

明日。

明日は確か怪物祭という、ガネーシャファミリアが開催する祭りがあったはずだ。

なんでも闘技場で捕まえてきたモンスターを調教するとか。オラリオらしい祭りだ。

様々な屋台なども並んで街を賑わせるらしい。

 

「とりあえず祭りでも見に行ってぶらぶらしようかなーと思ってるけど」

 

アイズにそう返した。

 

「……私も一緒に行っていい?」

 

なるほど、一緒に祭りを回りたかったらしい。

だが、と思い出す。最近アイズはいつも俺とばかり一緒にいてファミリアの他の人と全然関わっていないのではないか。

 

「他の人と一緒に回った方がいいんじゃないか?最近は俺とばかり一緒だっただろ?」

 

とりあえずそう言ってみる。

 

「……だめなの?」

 

「もちろん構わないよ」

 

だがその思いも三秒もかからず消し飛んだ。

いや、言った瞬間物凄く悲しそうな顔になってたから仕方ないんだ。

そう自分に言い訳する。

 

でも、一人で回る予定だったが、アイズと一緒なら…

 

「楽しみだな」

 

アイズは目を瞬かせると嬉しそうに笑って頷いた。

 

 

 

翌日のこと。

 

俺とアイズは予定通り二人でホームを出た。

そうして祭りがあっている街の区画へと向かった。

 

「うわ、これは凄い人の数だな」

 

正直この数は予想外だ。多すぎて隣のアイズを見失いそうだ。

というわけなので、俺はアイズに手を差し出した。

 

「?」

 

首をかしげるアイズ。かわいい……じゃなくて。

 

「ほら、はぐれたら嫌だろ?だから手を握ろうって」

 

そう言う。

アイズは得心したように頷いて、手を差し出そうとして、何故か一瞬考え込むように止まった。

 

「アイズ?」

 

名前を呼ぶと、今度こそ手を握られた。

そしてそのまま腕に抱きつくようにして腕を絡めた。

っておい。

 

「アイズ?」

 

もう一度名前を呼ぶ。こちらに目を向けずに腕をぎゅっと抱きしめられた。

離すつもりはないらしい。

 

まぁこのままならまずはぐれないしこれでも良いか。

 

 

「あーん」

 

三日前のギルド登録の時に引き続いて今日もアイズが俺の口元に食べ物を差し出す。

なお、今食べているのはクレープだ。味は二人とも別々。

差し出されたそれを食べる。

食べ終わってからアイズに自分のものを差し出そうとすると、何故かアイズは自分のクレープの俺が食べた部分を見つめていた。

そして、それを口に運ぶと普通に食べた。ちょっと赤くなりながら。

どうにも疑問に思ったが、とりあえずアイズの口元に俺のクレープを差し出す。

やっぱりこっちも赤くなりながら食べた。まぁ気にしないことにしよう。

 

とりあえず、屋台を見て回った後、闘技場に行くことにした。

 

闘技場の方へ行くと、そこでレフィーヤとエイナさんが祭りに相応しくないような危機感に満ちた表情で話し合っていた。

 

アイズと顔を見合わせると、二人に声をかけた。

 

「どうしたんですか、二人とも。随分慌ててるみたいですけど」

 

レフィーヤとエイナさんがこちらを向く。二人は救いが来たような顔でこちらに事情を説明した。

 

「モンスターが逃げた?」

 

アイズの声だ。どうやらそういうことらしい。

怪物祭ではモンスターを調教するわけだが、そのためには当然モンスターが必要だ。

その檻に入れていたモンスターが逃げ出したらしい。

犯人は不明で、逃げ出したモンスターは9匹。

 

残念ながら、楽しい祭りもここで終了のようだ。

アイズに視線を送る。残念そうだが仕方が無い。人の命が懸かっている以上野放しにはできない。

 

アイズと別れてモンスターが逃げ出したと聞いた方向へ走る。

 

通行人に話を聞く。

どうやら、女性を追いかけて白い猿のようなモンスターが走っていったらしい。

その情報を頼りにその方向へと走る。

 

だが―――

角を曲がった瞬間、視界の端に茶色の何かが映る。

咄嗟に回避すると、その茶色の何かは棍棒であり、持ち主は緑の肌をした巨体だった。

 

トロール。

 

20階層より更に下に出現するモンスター。

間違いなく適正レベル外。恐らくレベル3はないと相手にできないだろう。通常ならば。

 

しかし、敵を視界の中心に映すと背中のステイタスに熱が宿る。

ベートと戦った時とは比べ物にならないが、十分だ。

 

相手の間合いのぎりぎり外で、トロールの攻撃を誘発すると、タイミングを合わせて懐に飛び込んだ。

 

剣を振るい、棍棒を握った腕を斬り飛ばす。

耐久が高いはずのトロールをまるで熱したバターに刃を立てるかのように切り裂けた。

 

痛みに悶え暴れだすトロールに大きな隙ができる。

 

そのままトロールの心臓部―――魔石へと裂帛の気合と共に剣を突き出した。

 

剣が魔石を貫き、トロールの体が霧散、灰となる。

 

 

思ったよりも容易く倒せた。

急いでもともと通っていた道を走り出す。

まだ、白い猿のようなモンスターを倒していない。急がなければ。

 

 

結局。

 

白い猿、シルバーバックはとある冒険者に倒されたらしく、被害はなかった。

 

俺はアイズ、レフィーヤと合流してそれぞれのモンスターを合計する。

 

驚くべきことに、アイズは5匹も倒していた。レフィーヤが2匹。俺が1匹。

レベルが低いとはいえ、何とも言い難い結果だ。

二人とも俺を得意げに見てくるので、アイズの方は頭を撫でた。

レフィーヤは無視で。

 

とある冒険者が倒したらしいシルバーバックも入れると9匹全部倒したようだ。

とりあえずホームにでも戻るか考えた瞬間のこと。

 

 

背筋に悪寒が走る。即座に二人をつかんで、走り出す。

 

背後で轟音が鳴った。ある程度離れてから振り返ると、巨大な蛇のようなモンスターがいた。

 

どうやら地面から地上へ出てきたらしい。

 

「な、なんですか、突然!

しかもこのモンスター…見たことない。新種?そんな……」

 

レフィーヤはこのモンスターを知らないらしい。俺もわからないし、アイズを見ても首を横に振っている。

 

「おいおい、逃げ出したのは9匹だったはずだが。

どこから来たんだ、こいつは」

 

ガネーシャファミリアが捕まえてきたにしてはこのモンスターは巨大すぎる。

いや、どちらにしても考えるのは後でもできる。こいつを倒すことに集中しよう、今は。

レフィーヤを下がらせ、俺とアイズで突貫する。

 

しかし、モンスターの元にたどり着くことはできなかった。

再び地面が盛り上がる。今度出てきたのは太い蔓のようなモンスターだった。子供か何かかこいつは?

 

最初のモンスターを見ると、こいつにも異変が起きていた。

大きく頭を振るとその頭を弾けさせ、花のような何かへと変貌した。

巨大蛇ではなく巨大花だったようだ。

 

花?つまり、この細長い蔓はモンスターの触手らしい。

 

あまりにも触手が多く、俺もアイズも巨大花の本体まで近づけない。

 

「こちらで魔法を詠唱します!タイミングを見て下がってください」

 

レフィーヤがそう言って、魔法の詠唱を始める。

 

―――だが。

 

レフィーヤが詠唱し始めた途端、触手たちの行動が切り替わった。

こいつには魔力の高まりを察知する器官があるのだろう。

本体の守りに一部を残してレフィーヤを狙い始めたのだ。

俺とアイズで必死に捌くが、数本を通してしまった。

 

通り抜けた触手は詠唱中のレフィーヤを強かに打ち据えた。

 

レフィーヤが吹き飛ぶ。

そのまま起き上がってこない。

どうやら気絶したらしい。

 

不幸中の幸いだが、触手はそのままレフィーヤに興味をなくしたようだ。

倒れたレフィーヤを無視して俺とアイズを襲い始めた。

 

「ジン!レフィーヤを安全圏に連れて行って!」

 

なぜ、レフィーヤを狙わないのかわからないが、この状態で彼女を守ることはできない。

避難させるべきだ。しかし、俺がいてようやく拮抗状態と言えるこの場を離れていいものか。

ほんの刹那の思考の後、俺は決断した。

 

「レフィーヤを置いてすぐ戻る!それまで何とか耐えてくれ!」

 

そう言ってレフィーヤを抱えると、その場を離れて走り出した。

 

 

 

幸い、近くにギルドの受付嬢エイナさんがいたため、レフィーヤを預けることができた

そのまま全力疾走でさっき来た道を駆け抜ける。

ベートと戦った時のようにステイタスが高まっているが、それでももどかしい。

 

 

戦場が見えてきたとき、アイズは劣勢だった。武器を失い、全ての攻撃を回避することに徹している。

もう一段加速する。速く、もっと速く。

 

だが、後わずかというところで、アイズの腕が触手に捕まった。

そして、巨大花のモンスターは残りの触手を束ねて先端を鋭く尖らせる。

直撃すればアイズはただでは済まない。最悪、死ぬ。

 

このままでは間に合わない。

しかもアイズは空中に吊り下げられている。たどりついたところで空中には届かない。

 

 

そう思考が至った途端、世界がモノクロへと変化した。

限界まで思考が加速する。

 

(飛び上がっても不可能。届かない)

(剣を投げる。無意味。触手の硬さから考えると切り離せない)

(どうする、どうする、どうする、どうする)

 

現状の手札では不可能。

 

求めるのは速さ。空へと届く手段。

 

幸い、この身に刻まれたステイタスにはまだ空きがある。

 

何が適切だ?どんな方法がある?

 

思考が白熱していく。

 

そしてアイズのエアリアルを思い出す。彼女のただ一つの魔法。

 

それが最後のピースとなって、俺の背中のステイタスに嵌まり込んだ。

 

さぁ、アイズを守るという意志を込めて高らかに歌い上げよう。

 

その名は

 

 

「魔力放出!!!」

 

 




さて、危機的状況です。

なお、作中にてジンの思考が加速している描写がありますが、発展スキル明鏡止水の効果です。あと、トロールをバターの如く切り裂けたのは発展スキル修羅が発動し、格上への特攻補正が入っているため。
その他疑問点はどうぞ遠慮せずお聞きください。

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