俺の妹分が世界一可愛いと思うのは間違っていない   作:EXEC

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書いたのはともかく投稿するのは初めてです。

よろしくお願いします。

用語解説

オラリオ
通称冒険者の街にして世界の中心。ギルドが管理している。
ダンジョンがあり、そこから取れる魔石を産業にしている。
この街には多くの神とファミリアがひしめき合っている。

ファミリア
地上に降臨した神の多くは人間たちに神の恩恵と呼ばれる力を与える。
そして与えられた人間たちは神の配下となり組織を作る。
これがファミリアである。ファミリアにはコンセプトがあることも少なくない。
例としてへファイトスファミリアの鍛冶など。


プロローグ 彼がいなくなった日

とある雨の日。

 

ロキファミリアの幹部の一人、エルフのリヴェリアは故郷に戻るエルフの知人の見送りに門まで来ていた。

 

しかし、それもたった今終わり、雨が降る空を見上げながらホームに帰ってファミリアの仲間たちに座学でも教えようと考えながら門を離れホームへの帰路に着こうとした。

 

そんなリヴェリアのもとに門の向こうーーーオラリオの外から一人の少年と、彼が背負った少女が訪れ、去ろうとするリヴェリアに呼びかける。

 

「すみません!そこの方!」

 

リヴェリアは振り返り、少年を見据えた。

 

ひどくボロボロで服も血だらけ。そしてその血は少年自身のものであるようだった。

 

「この子がモンスターに襲われて、毒にかかってしまったんです。お願いします!

この子を助けてください!」

 

今度は少年ではなく少女を見ると、わずかに手足が痙攣していて顔が青白い。

 

リヴェリアにはかなり危険な状態だとわかった。すぐに治療しなければ命にかかわる。

 

もう一度少年を見た。彼自身大きな傷を負っていた。

こちらも治療を急がなければ死ぬ可能性がある。

 

「どうかお願いします!この子を……この子を助けてください!」

 

自分のことを一切省みずに言う少年を見てリヴェリアは決断した。

 

「その子を渡してくれ。必ず助ける。君も酷い怪我だ。

この子を預けた後にもう一度来る。

それまで頑張ってくれ」

 

安堵したように座り込んだ少年を一瞥して少女を抱えて即座に走り出す。

 

出来れば少年も抱えていきたかったが、両脇に抱えて走れば少年の傷は間違いなく悪化する。

 

走るときの慣性と揺れから二人同時に保護できないなら、より危険な少女を優先するべきだった。

 

そうして目指すのはロキファミリアのホーム。近い上に確実に治療薬がある。

 

最悪の場合、薬師系最上位ファミリアにしか売ってないエリクサーを使うことも視野に入れたリヴェリアにとってこれが最善の選択だった。

 

ホームの門につくと話しかけてくる門番に少女を預けて治療するように伝えると、自室からポーションをとってホームを出た。

 

来た道を全力で戻る。

 

しかし

 

リヴェリアが来たとき門の前には血だまりとそれを少しずつ流していく雨だけがあった。

 

 

――――――――――――

 

すごくあったかくてふわふわしたベッドに寝ている。

 

少女―――アイズ・ヴァレンシュタインが目覚めたときに抱いたのはそんな感想だった。

 

あまりの心地よさにもう一度寝ようとして…そして思い出した。

 

モンスターに襲われたこと。その毒に侵されたこと。

幼馴染―――というより家族の少年が背負って街まで治療しに行ってくれたこと。

 

道中は意識が朦朧としてほとんど覚えていないが、最後に少年が助けてくださいと叫んだことと自分がエルフの女性に預けられたことを思い出した。

 

少年は毒にこそ侵されなかったもののアイズをモンスターから助けるときにかなり酷い怪我をしている。

 

自分が保護されたなら、少年も保護されているだろうとアイズは思った。

 

なら、お礼を言わないと。そうアイズは思い至ると、ベッドから起き出した。

 

ドアを開けて部屋を出て少し歩くと何となく他の部屋より豪華なドアを見つけた。

そのドアの向こうから話し声が聞こえる。

ドアを開けてお礼を言おうと考えてドアに手をかける。

 

「で、その少年は見つからんかったんかい」

 

聞こえた話に手が止まる。

 

「ああ、残念ながらな。あの怪我でどこかに行けたとは思わないが」

 

「ふーん、でもわからんやろ。

もしかしたら治療費が払えん思うて逃げたのかもしれん」

 

「……いや、それはないだろう。

あの少年は本気であの女の子のことを想っていたはずだ。

でなければ、雨の中死ぬかも知れないほどの怪我を負った状態で同年代の子供を背負って街まで走るなどできはしない。なにより、あの必死の態度がうそとは思えん」

 

話を聞いていくうちにアイズは体温が冷えるのを感じた。

あの怪我がそんなに酷いとは知らなかった。

 

「でもなー、周辺をくまなく探しても見つからんかんたんやろ?」

 

「ああ、だめだった」

 

アイズの手が震えだす。見つからなかった。死ぬかもしれない怪我で。

 

「……猫が死ぬとき」

 

女性の声がためらうように切れる。しかし、やはり言うと決めたのか息を吸う。

 

「猫が死ぬとき、自分の死に際を見せないために姿を消すというだろう。

飼い主を悲しませないために。

私は探している時そのことを思い出した。正直あの血だまりだ。

迅速に治療を受けられていないなら、生きてはいないだろう」

 

聞きたくなかった。

アイズは何も考えられずお礼も何も頭の中から吹き飛ばして全力で走り出した。

 

背後からドアが開く音と声が聞こえたが、すべて無視した。

 

幸か不幸か、誰にも会わず屋敷の外に出て門番が呼び止めるのも聞かず走った。

 

街の人にオラリオの門がどこにあるのか聞く。四つあるらしい。

 

一つ目にたどり着いた。違うみたいだった。二つ目、たぶん違う。

 

三つ目、門の前に水溜りが出来ていた。雨で薄められてもまだ十分に赤い水溜り。

 

あたりを見回しても誰もいない。見慣れた少年の姿は見当たらない。

 

赤い水溜りに膝と手をつく。長い金髪の髪の先が水溜りについて赤く染まった。

 

 

そしてそのままうずくまって、泣き喚いた。エルフの女性が迎えに来るそのときまで。

 

 

それから、彼女は少年を探してもらうという条件でロキファミリアに入った。

 

七年後、アイズはレベル6になった。

 

しかし、いまだ少年は見つかっていない。

 

 

 

 

 

 

 




ちなみに、猫の話は迷信らしいです。
猫が死に際に姿を消すのは安全なところに隠れて体を癒すためだとか。
まぁ、今回リヴェリアさんには間違ってもらいました。
世界観的に猫の行動分析とかないでしょうたぶん。

あと 猫 は 大 好 き で す

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