第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

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『宇宙軍士官学校』は『現実』のSF・アニメなどのネタが無数に出てきます。それこそパイロットが仲間にスーパーロボット大戦そのものを説明し「GONG」を流すぐらい。
また『レンズマン』の、蜘蛛にも借りを返すエピソードを主人公が読んでいたことが「攻勢偵察」でストーリーそのものを大きく動かします。
その多くは参戦済みなので、ここからの本作の『宇宙軍士官学校』では、たとえば小泉首相が恋住首相になるような違いだとでも思っていてください。まあ、いんだよ細けぇことはよ。


宇宙軍士官学校/時空の結合より3年半

 ラドチ帝国から独立したアソエク星系、名としては二星系共和国に近い星系にあった時空間ゲート。

 そこを探索した〈ミレニアム・ファルコン〉と〈クロガネ〉、アソエク星系からついてきたブレク・ミアナーイと同じ記憶を持つ人工属躰(アンシラリー)……ブレクc率いる戦艦3・兵員母艦1・改造兵員母艦1の一行。ゲートの出口は、その時空の銀河系から90億光年は離れた無人銀河だった。

 ゲート出口の星系は惑星は多いが居住可能惑星はなく、もとより故郷への旅路にあるユリアンたちにとっては無意味。ただしブレクcにとってはいざというとき故郷の同胞の逃げ道ともなる。ゲートの出発側の無人星も開発しているが、

(こちらも開発する価値はある……)

 ということだ。

 それで、ユリアンが最新の資材を使った。〈クロガネ〉を含む鋼龍戦隊が戦ってきたバルマー帝国の最終兵器ズフィルード・クリスタルをはじめ、ウィルやダイアスパーの技術を含む超技術の複合体。増殖・自己再生・自己進化・情報共有など多くの能力を持つ、ひとかけらからでも惑星文明を崩壊させられる危険物。第二段階レンズマンであるユリアンだからこそ制御できる。001でもできるが。質量保存則も破って増殖できるが、物質を食わせた方が速い。

 それで多数の無人艦、数億人が生活できる設備は建造した。

 だが、それは一時的にしか使えない。ゲート出口から1.4光年ほど離れた近くに衝突まであと数百万年の二重ブラックホールがあったからだ。それが衝突し莫大なエネルギーをまき散らせば、この星に生命があったとしても死の星になる。

 だが、その二重ブラックホールは、ユリアンたちにとっては福音だった。

 その特殊重力場を利用すれば、〈クロガネ〉の一人の特殊機体のエンジンと、あるシャルバート技術を複合させることで時空間移動が可能になる。

 この移動技術は〈クロガネ〉の故郷でも、またユリアンのレンズマン通信で情報を受けた〔UPW〕でも極秘裏に研究中だが、危険すぎるとして実験は許可されていない……第二段階レンズマン以上の監視下なら別だが。

 この時空の銀河系を訪れるのは、

(後回しでよい……)

 となった。バーゲンホルムは確かに速いが、それでもいくばくかの時間はかかる。

 

 それで一行が出た先は、別時空の地球の近く、月と地球の距離の五倍ほど離れた地点だった。

 焼かれ始めていた。火星も、地球も。

「太陽が異常燃焼している」

 その異質な光は、巨大艦にいてもすぐにわかるほど。まだ本当の熱のピークではない。

「数時間後にもっともっと熱くなり当分続く!」

「地球は死の星になるわ!」

 観測を進めると、地球の近くに、いくつもの巨大な石の壁ができている。それがかなりの太陽の光を吸収している。また巨大な幕も作られつつある……が、焼け石に水。

「ジンイテキダ!ニンゲンスベテヲホロボスタメ、カクユウゴウゾウシンリュウシヲ、ミサイルニイレテウチコンダノダ」

 001が叫んだ。

 通信が入る。〈ハガネ〉なら理解は可能な英語の通信や、さまざまな波長の素数。土星の裏側に退避している最中の艦隊から。

「こちら銀河文明評議会、太陽系防衛軍、有坂恵一少将!所属不明艦隊、応答せよ。このプロトコルでわかるか?」

「応答する、こちら〔UPW〕特使〈クロガネ〉並びに〈ミレニアム・ファルコン〉、レンズマン=ユリアン・ミンツ。同行しているのは二星系共和国所属、ブレク・ミアナーイc司令官率いる艦隊!今の状況は見ています。救援は必要ですか?」

 ほんの一瞬、ためらう気配。

「必要です!粛清者の核融合促進粒子入りのミサイルを撃ち漏らしました。助けがあるのでしたら何であれお願いします!責任は取ります」

 声は、若い。凄まじい決意が感じられる。

「承知しました!」

 ユリアンは叫ぶと、素早くいくつかの指示をした。

 ラドチの兵員母艦と戦艦が超光速移動、水星軌道に出現。自らが超光速移動するためにつくるゲートを最大に開いてかなりの面積の、爆発的に増大した太陽光を別空間に飛ばす。

 さらにユリアンは〈クロガネ〉が探査した情報に目を通すと、ミレニアム・ファルコンに特殊なミサイルを積んで金星に向かうよう指示した。

 瞬時に超光速で飛び、投下されたミサイル……ユリアンが動き始めてから、数分でそれは起きた。

 凄まじい速さで分厚い大気に守られた不毛の惑星、金星が変化していく。その数秒前に、太陽の異常燃焼による強烈な光が金星に押し寄せている。ファルコンは金星の陰に入ることで衝撃波をしのいでいる。

 観測を進めていると、月面、火星や多くの巨大小惑星、木星や土星の巨大衛星がかなり大規模な基地になっていることがわかる。地球近傍などにいくつも見慣れない巨大軌道設備がある。

 激しい戦いの残骸も多数観測できる。

 だが金星はさすがに手つかず。特に利用が困難な惑星なのだ。

 その金星が、みるみるうちに奇妙な、泥でできたアメーバのような何かに変じた。強烈な太陽光に大気を吹き飛ばされると同時に。

 惑星サイズのアメーバは推進剤も何も出さず、高速で軌道から外れて移動し始める。

 そして地球の近く、太陽との間に飛び込むと、巨大な幕となって広がった。ズフィルード・クリスタルをはじめとする技術のとてつもない力……

 

 

 爆発的な太陽光の多くは遮蔽された。強烈な爆発の余波が、地球を守る巨大構造物や幕を洗っているが、普段の日光の三倍程度で収まっていた。

「必要があればこの、傘は解除できますし、普通に地球に当たる太陽光程度に調整できます」

 ユリアンの通信に、恵一と名乗る軍人はものすごい疲労感と感謝を声に乗せて応答した。

「あ、ありがとうございます……今更ですが、あなたたちは……何でしょうか?」

 ユリアンが微笑して答える。

「平行時空、という考えは理解できるでしょうか?その出身者です。今、多数の時空の間にゲートが発生したりする現象が起きています。別々の歴史をたどった地球人、あるいはそれ以外の異星人を含む時空が接触し、時には争い、いくつかは協力しています。

 われわれ〔UPW〕は以前から多くの時空をつなげる、別原理のゲートを保有し管理していた組織です。その組織が多数のゲートや多くの有人時空との接触で変化し、新しいゲートでつながったいくつかの国がまとまっています。

 その時空の集合が最近ある戦いに巻き込まれました。この〈ファルコン〉と〈クロガネ〉は片道切符の長い時空間旅をして必要な戦いを終え、故郷に帰ろうと旅をしています。前に寄ったところで、二星系共和国から協力してくれる艦隊も加わりました」

 通信が映像になる。恵一はやはり若い日本人男性だ。電波通信、光速のタイムラグを軽減するため、ユリアンのいる〈クロガネ〉は土星近くにバーゲンホルムで瞬時に移動した。

「……承知しました。こちらについても自己紹介させてください」

 背後としばらく、何らかの言葉を使わない方法で議論していることがユリアンには分かる。それが、テレパシーに近いものであることも。

 また、少女のような印象を与えるロボットもいろいろとリアクションしており、それとも恵一は身振りを入れて話している。

「今は地球人の代表としてお話します。この地球は、……アメリカとソ連の冷戦……おわかりになりますか?」

「はい、多数の時空の地球がそのような、共通の歴史をたどっています。地球がない時空もあります」

「ああ、なら詳しい歴史は後ほどお送りします」恵一は深く息をつく。「超光速など夢のまた夢の時代でした。二十一世紀初頭に異星人がやってきて、地球人全員にマインドリセットをかけました……国や民族ではなく、地球人、として自らを見るように。そして地球人は統合戦争を戦い、統一国家となりました。その異星人、アロイスは地球人を人道的に扱い、多くの技術を与えてくれました。武力抵抗は残りましたが、地球人そのものは豊かになっていました。

 それはリフトアップ、という未開種族の水準を上げる事業でした。

 その中で本職たち少年少女が数十人選抜され、宇宙軍士官学校に入りました。そして知ったのです。

 この……時空、のこの銀河系には多数の異星人、人類がいます。そのすべてが遺伝子的にはほぼ同一。はるか昔に播種された生物であり、知性を得ること自体に昔からある文明の干渉を受けています。

 そういうことをした、技術水準も、存在自体もけた外れの上位種族が多数あります。地球人には理解もできない上の方は至高者(オーバーロード)と呼ばれています。

 その種族階梯(ヒエラルキー、身分ピラミッド)の中で、地球人はリフトアップされたばかりの最下層。その上のアロイスもすべての〔人類〕共通の敵、粛清者の攻撃で母星を失ったロストゲイアー。また、さらにその上のケイローンもロストゲイアーであり、とてつもない規模のコロニーを作って戦い続け、多くの未開種族をリフトアップして戦力に加えています。

 この太陽系も粛清者の攻撃にさらされました。同時に他の多くの人類の星も攻撃される、大攻勢の中にあります。

 ケイローンもアロイスも余裕がない中、苦しい中地球に救援を送ってくれ、地球人も大きな犠牲を払って戦い抜きましたが……恒星の核融合を暴走させるミサイルの飽和攻撃、すべてを止めることはできなかったのです。13万以上、ただ8発……」

 恵一が膨大な数の、体当たりで散った戦友たちを悼んでいることはレンズなど使わなくてもわかった。聞いている〈クロガネ〉の軍人たちも背筋をただす。

「ロストゲイアーとなることは免れましたが……あなた方の助けのおかげで、被害は大きく減ったでしょう。地球人を、また銀河文明評議会を代表し、心より感謝申し上げます。

 といっても、本職の権限では銀河文明評議会が、あなた方という異邦人をどう扱うかわからないのですが」

「率直なお言葉感謝します」

 ユリアンは静かにほほ笑んだ。

 

 一日弱。その間に巨大なアメーバが変形した幕が地球を守り、莫大な熱を吸収して猛烈に加熱され、しかもその熱をどこかに消し去っている。

 この時空で地球を守る人たちも動いている。地球の近くにあるこちらの時空産の人工ゲートを守る命令を受けて、必死で余波から守っている。

 時には、太陽そのものが巨大なレーザーを放ってきた。それを、太陽近くに位置したラドチ艦が検知し、巨大な盾を構えた〈クロガネ〉の人型機が跳ね返す。

 半日以上たってから。突然、守られていたこちらの時空産のゲートの一つから、何か巨大で鋭利なものが飛び出し、凄まじい速度で太陽に飛び込んだ。

「解熱剤。とんでもない上位種族が送ってきた。あり得ない、上位種族がこんな下位種族の小さな星の戦いに関心を持つなんて」

 と、太陽系防衛軍総司令部のアロイス人、レキシムが言う。

 それから、太陽の異常活動はかなりの時間をかけ、ゆっくりと弱まっていく……

 地球は死の星になると思われていた。地下のシェルターに避難している何十億もの人類も、海が蒸発し大気が煮えたぎり荒れ狂う中、軌道エレベーターもシャトルもろくに使えず飢えて死んでいくだけとも思われていた。恵一たち軍の生き残りと、数十万人のコロニーごとゲートを通りケイローンの主星に行った人たちだけを残して。

 今は、せいぜい恐竜を絶滅させた巨大小惑星や最大規模の核戦争程度の被害で済む、十年以内に地上活動が可能になると予想されている。

 

 ユリアンたちも後に語られたが、アロイスも母星を、当時の粛清者の技術であった恒星吸収兵器で失い、そして避難コロニーも敵戦闘機を通してしまって撃破され、ほんの55万人だけが残ったのだ。地球人も同様のことになるはずだった。

(なぜ地球だけが、と恨む人々もいるだろう。地球人でも、なぜもっと早く、という人々はいるだろう……特に完全に死んだ戦闘艇の徴兵パイロットの家族。

 物語を求めるな。偶然であることを受け入れろ)

 恵一は血を吐く思いでそれを自らに言い聞かせている。

 

 

 恵一は上官である、銀河文明評議会側、太陽系防衛軍のレキシム中将、デグル大将とも連絡を取った。

 また、解熱剤を送ってきた超絶な上の方にもその情報は伝わっている。ユリアンや001が何らかの方法で連絡を取ったようでもある。

 

 とりあえずは、太陽系防衛軍の「客人」として遇されることとなったユリアンたち。互いの歴史を教え、何ができるか、何をすべきかを考えはじめる……

 被害との戦いも始まっている。ユリアンが放った金星を利用した盾、また多くの巨大なブロックや幕による防御、上位種族の解熱剤、それでもそれなりの被害はあるのだ。地球にも、宇宙空間の施設にも。

 

 恵一たちは、多くのことを話さずにはいられなかった。また情報としても伝えた。

 ユリアンたちも惜しみなく、自分たちの歴史を語った。

 

 恵一たちの壮絶な戦い。

 若すぎる、治安軍の最底辺だった恵一が、突然異動を告げられた。異星人アロイスは地球人全員に奇妙な試験を課し、数十人の若い合格者が宇宙に送られた。

 エリートではない恵一が、その考え抜く性格からか異様な成績を収める。

 三か月の激しい訓練。知識は脳に人工的にインプットされ、とにかく常に考え抜くことを求められる。エリートであるリーとの角逐もあったが、恵一は相手を分析し、恨むこともなく自分を制御した。そのリーは士官学校から放校され原隊に戻された……個人機動戦闘艇の戦いでは、恵一は時間ギリギリまで耐え抜いたが最後はリーが勝利し、全勝を飾ったというのに。

(アロイスは地球人とは価値観、物差しが違う……)

 そういうことだ。

 何よりも変わること、伸びしろこそ求められた。

 さらに、地球の外も大きく変わるようでもある。最初の士官学校で教官を育て、その教官が数百人を育てるという計画……それが何度も前倒しになる。

 粛清者についての情報も公開される。はるか昔に遺伝子をいじられた、ほぼ同じ遺伝子を持つ人類であるというだけで、文字農耕以前の文明水準の星でも死滅させる敵。決して対話も、降伏も調略もできない敵、粛清者。

 その観測艇が侵入した。小型なのに地球に与えられていた旧式の宇宙艦では、艦隊すべてでも勝てないほどの敵。

 恵一たち士官学校の訓練艦隊と前線で哨戒任務にあたっていたリーが、手も足も出なかった地球の艦隊にかわって前に出た。先進的な艦隊を率い、古くからの地球の軍人には想像もできない戦術で観測艇を駆逐した。

 その恵一たちは、太陽系に敵の脅威が迫るとアロイスが判断したこともあり、上位種族の応援を〔魂の試練〕と呼ばれる試練で得た。少数の代表がさまざまな戦いをして、その結果で支援が決まる……

 この文明では、重要な軍人はアバターシステムと呼ばれる方法で死んでもいいようにしてある。記憶なども引き継いだクローンが行動し、死んだら別のクローンを覚醒させる方法だ。だが記憶を登録してから死ぬまでは、通信で送られる記録を見ることはできるが経験ではない。そして隣の戦友が戦死した時の衝撃はそれほど変わらない。

 そのシステムを利用した、死んでもいい訓練、試練。ケイローンでは人気のある娯楽でもある……

(剣闘士)

(古代ローマ帝国の属州からの兵……生き残れば市民権と土地)

(大根畑の品評会、代表的な大根を一本抜いて、スープからスプーン一杯味見するように評価し、評価が悪い畑は猪に食われても放置)

 という自覚はあったが、それでも戦わなければならない。

 恵一たち地球人は試練で記録的な成績を出し、援助を確約された。

 だが、今回の粛清者の、銀河系の大きい範囲に対する攻撃はとても大規模な攻勢だった。

 兵器体系も違った……モルダー星系という恵一たちも応援に行った星では、守り切ったと思ったら対ビームコーティングのかかった巨大ミサイルが多数恒星に亜光速で飛び込み、恒星の活動がけた外れに増えて惑星は超高熱で焼き尽くされた。

 次は太陽系。戻った恵一たちも奮戦したが、わずか8隻から16、32、64……二倍、二倍と増えていく。膨大な艦隊、新兵器による攻撃、何よりもこちらの迎撃ミサイルより多い恒星反応弾。

 恵一たちは、

(殺虫剤の新製品を試験する……)

 とさえ感じた。それが絶滅戦争なのだ、絶望と重圧はたとえようもない。敵を全滅させた、勝った……と思った瞬間、警報音が鳴り響き前の敵の四倍が出てくる、という地獄を通り越した地獄。

 徴兵された、アバターシステムなどない地球人の軍人が何万人も、弾を撃ち尽くし敵のミサイルに体当たりした。それでも、8発止めきれなかった……13万以上からの、8発。

 

 ユリアンは、恵一の深い悔いとストレス、敗北感を黙って見つめた。

 その共感に触れた恵一は、深く呼吸して告げた。

「あなた方には悪い知らせがあります。本職個人が聞いたことですが」

 恵一はこの戦いの前後で、普通とは違う体験も二度している。一度は、地球防衛の戦いの中、司令部が壊滅しアバターも戦死し、覚醒した時。粛清者、また粛清者と人類を中継しようとする仲介者の言葉を、夢として聞いた。要するに、

(間違った実験の産物であるお前たちは違法実験をやらかした犯罪者もろともおとなしく全滅しろ……)

 というものだったが。

 もう一度は、太陽系防衛に失敗し、ユリアンと交信して、土星裏に退避していた時。一時意識を失い、人類の側の上位種族と対話したのだ。それはデグル大将をはじめ上位種族にも認められた体験であり、まず起きない重大事態だった。

「粛清者は、同じ遺伝子パターンを持つ(情報の突き合わせで判明している)別時空の人類も、絶対に皆殺しにすると決意しています。どこの時空でも、つながりがあるなら……逃げ場はありません」

 ユリアンはしばらく沈黙した。

「ソレガゲンジツダ」

 001はごく冷静に答え、そのまま眠ってしまった。

「ありがとう、本国にも伝えます。そして、その戦いのためには……まず、ここの地球人、銀河文明評議会に戦ってもらわなければならない……技術援助も、できる限り」

「……別の時空の、様々な文明。その視点があれば、もっといい方法がわかるかもしれない。そちらの目から見て、地球人が、あるいはこの銀河文明評議会自体が、どんなミスをしているか指摘してもらえますか?」

 

 そしてユリアンたちは、今回の太陽系、また銀河各地の人類に対する今回の粛清者の攻勢について聞いた。

 また、この銀河文明評議会、そしてリフトアップされている地球の変化も。

 その情報はレンズを通じてまずヤン・ウェンリーづきのレンズマンと、〔UPW〕にも伝えている。

 

 会議には、地球人の閉鎖生態系の専門家である中島とそのアシスタントであるナターシャとノンナも加わった。その話の流れと、中島の関心に関係があるからだ。

 ナターシャとノンナの二人のロシア人女性は、ひたすら中島を守っている。これまでも地球での政治的な力、心無いマスコミ、とにかく批判したい人たちの攻撃から仕事では天才的だが社会的能力が弱い彼を守り続けてきたのだ。

 

「年に数千万隻の戦艦、惑星サイズのコロニーを多数つなげ恒星を一周させた、ケイローンの母星シュリシュクのコロニー……」

 ユリアンは驚嘆しながらも、冷静な部分もある。

「しかし、ほとんどの高度な工業生産は上位種族、地球人も、アロイスでも、高度技術は理解することもできないと言われ何もさせてもらえない。

 なのに、将来は至高者(オーバーロード)にも至るともいわれる……そして今できることは戦う事だけ?

 なぜ、数学を教えてくれないのでしょう?〔UPW〕所属の時空では膨大な人が数学から学んでいます」

「地球人の天才も同じ原生動物、という扱いだった」

 と、これは地球人の高級官僚。

(最悪の場合、ほんの数十万人以外の人類は死滅する……)

 ことを前提に、戦いの前半に太陽系からゲートで逃れる人々を選別した。地球の官僚は芸術や科学の天才を集めようとしたが、アロイスはそれを否定したのだ。

(ただのサンプル……)

 なのだから。

 ロストゲイアーとして屈辱的な生活を強いられ、種族ぐるみで傭兵となってのし上がったケイローンの種族的性格かもしれないが、文化には関心がない。

「ただし、恵一はとても大きい価値があると認められている」

 アフリカ系フランス人のバーツラフ・ホレック、恵一の士官学校からの副官が強く言う。

「〔魂の試練〕で活躍した全員が、だ」

 恵一が返すが、バーツは肩をすくめた。恵一の呆れるほどの自信のなさには慣れている。

「地球人には理解できない基準で、ほんの数十人がすぐに価値があり……それが育てた、新しい常識で育った少数の人だけに価値がある。それが銀河文明評議会の価値観か……

 工業生産にも、科学研究にも、まったく貢献できない。戦争でわずかに貢献できるだけ。

 逆に言うと、搾取も必要ない……資源も必要ない。地球人の歴史の、西洋人とは大きく違うが……

 貢献せよ、と言われるが、その道は軍事しかない……」

「商売、料理などでもある程度可能性はある、シュリシュクなどでの経験上」

「ケイローンなら、戦闘に適しない人が研究職に就くこともあるし、軍事国家の一部としてある程度の生産もしている」

「それに、自己増殖型で、高度な技師がいなくても原料供給だけで動く工業生産設備があれば、水準が低い種族の星でも工業技術を持つことはできます」

「留学や、人間の知能を高める研究を許してもらえないか、上位種族まで相談だけでもしてみなければ」

 そういった恵一は009たちの表情を見てはっとなる。001、00メンバーはその実験結果だ、と察し、歯を食いしばり……

「それでも必要だ」

 と、強い目で言った。

「ヒツヨウダ、ヤラナケレバメツボウカ、スイタイダ」

 人類最悪の犯罪の被害者である001も、そう言った。

「われわれアロイスも、少数が小さいコロニーで生きることになって、雌雄同体に自らを遺伝子改造しました」

 とレキシムも。

「変わる、自分を書き換える。それが士官学校の選抜基準であり、生き抜くために一番必要なんだ」

 言った恵一はリーを見る。傲岸なエリートでもどん底で飛び続け、自分を書き換えて今は信頼できる友でもある。

「隣国の皇帝も、向上を言います。生存と公平も。また多くのよき仲間である勢力は、技術を恐れず否定せずに変わり続けています。それが多元宇宙がただの争い地獄にならない道だ、という『想』です」

 ユリアンも強く言う。

 

 ある程度話が進み、ユリアンが一度結論を伝え始めた。

「今までの話から……地球人、いや評議会加入種族の多くの最大の問題は、居住可能惑星にこだわること。

 故郷星系を失ったらロストゲイアーと言われ、多くはアイデンティティも失って滅んでしまうほどに。アロイスやケイローンなど這い上がる種族はあっても。

 これはぼくの故郷時空も、ほかの〔UPW〕加入時空も共通でした。多くの時空がつながり、様々な時空での戦史をまとめたこと、極端に技術水準が高い文明と接したことなどで、やっと優れた人たちがそれに気づいてきたのですが……

 母星を捨てて、巨大な小惑星を改造した超巨大要塞で、次々とあちこちの文明を潰して、支配し続けず次に行く帝国がありました。そのやり方では、大きくなり過ぎた帝国につきものの問題が出ません。

 また、惑星破壊ミサイルの応酬でも、実際には惑星に住むことが無理だと、わかる人はわかっています」

 恵一たちが強くうなずく。地球の官僚でも、年かさの人は衝撃にあごを外している。アロイスにも驚いている人は多い。

「こだわりすぎるな、散らばって住め、ってー」

 と、小柄でメガネのアロイスが長すぎる袖で中島を指し示す。

「ま、まあ、要するにジャガイモ飢饉みたいなもので……前に、無人機がハッキングされてひどい目にあった、と聞きまして……ジャガイモ飢饉みたいに、ひとつの種に依存したら、と……できるだけ色々な逃げ道があれば、と……」

 不器用ではあるが、中島の口調はどんどん熱意が強まる。恵一もユリアンたちも真剣に聞き入った。

「アロイス自体も、まだ公開していませんがコロニー増産、コロニー生活の方針を考えています」

「この地球程度の、わずかな被害でも食糧生産が困難になる……膨大な面積を使う農業や牧畜に頼るのは愚行。ぼくの故郷では、何万年も宇宙で生活してきた種族とも接していますし、また日光のかわりに水素や硫黄のエネルギーを使う化学合成菌と共生して栄養を作る社会性の遺伝子改造虫も食料を生産しています。細胞培養で肉を増やすことも」

「……銀河文明評議会はこれほど高い技術があるのに、それらの技術を下位種族にすぐ与えていない……ひずみがあるのでは?」

「それに、太陽を失ってロストゲイアーとなった種族。でもその惑星は、地熱もあり、近くに巨大ガス惑星もある。核融合でそれなりに生きることもできるのでは?」

「同様に生活できる自由浮遊惑星も少なくないはず」

 

 また、太陽系防衛戦争の反省会にもなり、特に粛清者の新兵器が話題になった。

 中性子星に匹敵する超高密度の高質量散弾。発射までは質量を中立化し、亜光速で発射する。特に高質量散弾を恒星反応弾に偽装してこちらの機動戦闘艇を削り、一度は艦隊首脳部も粉砕したこと。

 恒星反応弾や新型戦艦を覆う耐ビームコーティング。ビームが通用しない敵に、射程が限られる反物質光子魚雷を肉薄して放とうとして機動戦闘艇や駆逐艦が削られ、最後の飽和攻撃に対処できなくなった。

 思念通信を妨害する攻撃。

 レンズマン通信でつながったヤンが、すぐに言った。

「……水爆を多数撃ちこめばいいじゃないか、百分の一なら百発」

「あ……〈惑星連邦〉の技術なら減衰がない超光速の光子魚雷が可能ですが、まだ交流が弱くその技術は受け取っていません」

 パルパティーン帝国、またルートによっては無法地帯と練が壁になっている。また〔UPW〕が、〔艦隊の誓い〕……未開文明を援助してはならない、という掟を批准していないこともある。

 その一言に、百戦錬磨の将官たちが頭を抱えた。

「光子魚雷、ビーム、という兵器に偏り過ぎていたな……役に立ったのは実体弾レールガンだった」

「ですが、兵器はあまり意味はないでしょう」

 ユリアンの言葉に、恵一たちがはっとする。

「敵は次はまた別のことをするでしょう……今のところは、恒星から離れたところにしか出現できません。でもその前提を変えることができたら」

 デグルやレキシムが真っ青になり、絶望を浮かべる。

「そのためにも、居住可能惑星にこだわるのはやめて」

「ある程度戦力がありつつ、全体としては分散した拠点」

「工業生産力も。もし次に、移動を潰されて援軍を無にされたら」

 現在の、後の芽・根である低水準文明星系を潰しに来る粛清者を、長距離超光速転移する艦隊で救援する……それは通信と移動を封じられたら終わる。

 現場に自衛力がなければ……

 

 地球、そして滅んだモルダー星系をはじめとする、恵一の影響下にある途上種族がいくつか集まり、別のライフスタイルの模索を始めることになった。

 居住可能な惑星にこだわらず、破壊された恒星の残骸を利用してエネルギーを得、資源を得て低水準でも工業生産をし、工業的な方法で食料を生産して人口を増やす。

 多くの人を、できるできないを度外視して上位種族の教育機関に留学させる。

 上位種族もその実験に許可を出し、ユリアンも高度技術を提供する。

 また、ただ受け身で戦うのではなく、アンドロメダ銀河を拠点とする粛清者の側に攻め込む、攻勢偵察の概念も出て恵一はそちらに転属する。

 

 

 また、ユリアンたちはこの時空でのゲート探索を始め、比較的近くに見つかった。くじら座の閃光星、居住可能星がないので評議会も粛清者も興味を示さない星系に。

 その向こうがどんな時空なのか。この時空の人類を助ける可能性があるのか。

 もはや、人類の共通遺伝子を持つ、多くの時空にいる種族……そのすべてが危険にさらされている。

 アンドロメダ、あるいはほかの銀河にもいるかもしれない、粛清者。もしその勢力圏にゲートがあったのなら……




ずっと前から次の大戦役は「第一次粛清者戦争」となることはなんとなく頭にありました。

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