第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

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銀河英雄伝説/時空の結合より3年9か月

 ラインハルトとロイエンタールの、ジェダイ専用特機を駆る接近戦は激しさを増していく。

 人型に似た、それでも六腕だったり、尾があるトカゲ型だったりする機械と生物、動物と植物の複合体の巨大な敵が出てくるのだ。50メートル程度も多く、200メートルを超える、50メートル級特機でも小さく見える代物もいる。

 二体の特機は息を合わせて戦っていた。

 キルヒアイスがラインハルトのそばにいたころ。赤毛の友は長く副官として常勝を支えた。別の艦隊を率いて戦えたアムリッツァでは機雷源を破って同盟艦隊を壊滅させ、ヤンを追い詰めた。

 ヤンと肩を並べたゼントラーディ戦役。一つの脳に二つの腕、連絡も必要とせず一人のボクサーの両腕のように戦い抜けた。

 特に格闘では、そのふたりにも迫るほど息が合う。

 ダークサイドともライトサイドとも言えない、「神剣」のフォースが高まり、見事なコンビネーションを見せる。

 機体もその激しい動きによく応えている。外見では人とは異質、タカアシガニのような長い腕足を中央近くから四本伸ばす『U』字に似た全翼機。だが戦いを見た者にはすべて、生身の人間と変わらぬ挙動がはっきりわかる。

 曲げてスペースを節約した双発の駆逐艦級波動エンジンと、紋章機と同質のシングル・クロノ・ストリング・エンジン。その膨大な出力は、各腕足の先から推進剤不要なローザー線で見えぬ噴出となり、生身の軽量級ボクサーより速く鋭い機動を可能にしている。

 空間転移であろうと近づく細かい敵をことごとく撃破するシャルバート式CIWSも常に見えぬ弾幕を張っている。

 

 そしてほんの一瞬、ラインハルトがおとりとなって敵の攻撃をひきつけ、肘を畳んだまま肘から先全体で敵の拳を打ちそらすように受け流す。

 姿勢が崩れた大蛇を腕とする怪物の、脇の急所にロイエンタール機の手に握られた主砲が放たれる。

 54メートルの巨体、それでも人が大型対物ライフルを抱えるような、巡洋艦に使われる実体弾砲だ。

 

 

 この標準砲のために、どれほどの試行錯誤があり、多くの時空の技術が研究統合されたことか。

 まだ動けぬローエングラム帝国艦隊、エンジンはダメでも首長竜のような艦首可動腕を動かす艦がある。先端に大口径の同様の主砲を装着し、大きく首を動かしては主君を助けんと撃ちまくっている。

 エンジンが止まってもわずかな補助動力とコンピュータが動けば機能する砲だからだ。

 

 今や、〈コーデリア盟約〉の艦は、国ごとに個性がありつつ、似たような質の変化を起こしている。

 多くの時空で以前は、ゴールデンバウム帝国と自由惑星同盟の戦いが代表するように、ファランクス……槍と盾を持って横に並んだ歩兵集団が押し合い突き合うような戦いが多かった。

 だが、時空のつながり以前から変化は起き始めていた。ヤマトの時空では、ファランクスの究極と言える波動砲マルチ隊形斉射を無効化する様々な技術により、ファランクス戦の時代は終わりつつあった。

 白色彗星帝国の火炎直撃砲は波動砲をアウトレンジした。また白色彗星の中性子雲は拡散波動砲斉射にびくともしなかった。ディンギル艦隊は波動砲発射を遠くから見切って短い準備時間でワープし、ワープ直後に発射できるハイパー放射ミサイルで攻撃した。

 ……ヤマト地球がそれを見ないのであれば、滅びるまでであろう。だが沖田十三はそれを許すまい。

 ゴールデンバウム帝国も、実際にはトールハンマーによって従来の戦艦をアウトレンジしていた。専用の超巨大艦を作ることを誰も思いつかなかっただけだ。

 

 長大な槍、アウトレンジ。頑丈な盾。その時代は終わった。

 時代は変わった、物陰から短剣で突きかかる暗殺者に瞬時に居合で反応するような戦いとなる。しかも暗殺者は頑丈な防具を着けているようなもので、斬鉄や浸透勁も求められるのだ。ジャングルを拳銃や散弾銃を手に歩き、敵を感じたら瞬時に発砲するよう、とも言える。

 どの勢力も多様な超光速航行技術がある。

 長距離戦をしようとしたら濃密に散布された即時通信入りの無人機に前兆を見られ、回避され蹂躙される。火炎直撃砲のように発射されればノータイムでも、発射までの準備に時間がかかれば同じことになる。

 とにかく、敵を発見してから砲を旋回させ照準し、発射した弾が敵に届く……その時間をできる限り短くしなければならない。

 さらにどちらも頑丈なシールドがあるので、それを抜ける威力、高次元であることも必要なのだ。

 横一列に並んで行進し火縄銃に毛が生えた程度の銃を放つ戦列歩兵が鉄条網と機関銃に全滅し、アサルトライフルを手にし数人ずつ集まった散兵になったことにも似ている。

 

 撃つ側から見れば、「1敵を発見」「2判断、射撃決定」「3射撃準備(装填+砲を動かして狙う、エネルギー充填など)」「4発射」「5硬直終わり」「5'着弾」の順となる。それぞれに時間がかかる。

 簡単なようだが、たとえば第二次世界大戦の戦艦主砲がそのサイクルを一巡するのに、どれだけの時間がかかるのだろうか。どれほどの人手や動力が必要か。大波の、火災の中で可能なのか。

 それに対して撃たれる側は、2にハッキングできれば最上だができなくても、3のときに出る何らかの予兆をつかめばよい。

 昔の潜水艦なら魚雷発射管の開閉音。

 火薬砲なら砲自体が動き、止まったとき。装填時に特定の角度が必要な砲もある。昔の前装砲ならば砲全体を引き戻し、清掃しなければなるまい。

 波動砲にも(本作独自設定)ディンギル艦隊がとらえたような予兆波がある。あるいは観察していれば、艦首をこちらに向けて艦全体の照明が落ちれば、まもなく波動砲が発射されるのは自明。

 火炎直撃砲にすら予兆はあり、小型無人の偵察機から即時通信で連絡できれば着弾前に回避できる可能性はある。

 敵の射撃準備完了をつかみ、着弾までの時間にワープに入れれば、ディンギルが波動砲斉射をかわし、射撃準備時間が少ないハイパー放射ミサイルをぶつけたようにできる。

 逆にそれを防ぐには、予兆波を封じる、近距離索敵を徹底する、そして何よりも射撃決定から硬直終わり・着弾までの時間を少しでも減らすことだ。

 

 ローエングラム帝国の時空で、大衛星に巨大レールガンをつけて、要するにタイタンから冥王星近海の艦隊を消し飛ばす戦術はなかった。レールガンは真空中なら速度が落ちないので、ビームやレーザーと違い遠くてもエネルギーが保たれるのに。イゼルローン要塞のトールハンマーと同様でもいい。

 理由は(本作独自設定)、観測機が発射を観測し、弾道データも含めて超光速通信で艦隊に連絡すれば、着弾までに回避する時間が充分あるからである。巨大砲が、戦艦のサイズを超えると爆発的に高価になる技術の制約もあった。

 ベア・カウ族の時空で、居住可能惑星を死滅させる隕石もどき……亜光速で放たれる大質量実体弾が艦隊を攻撃できないのも、艦は発射にともなう電磁波を観測し、時間差を利用して回避できるからだ。それを考えに入れ、遠くで危険な工作をしている艦を遠距離から攻撃し、有人か無人か判定したこともあった。有人で乗員が操縦できるなら、着弾に時間がかかる遠距離実体弾は回避できるからだ。

 

 トランスフォーム砲・火炎直撃砲など転送系は、魔法・超技術どちらでも時間がかかってしまう。

 ミサイルや量子魚雷はかさばる。特に超光速機能があると余計にかさばるし、初動も遅くなる。

 シャルバート系CIWSやパルスレーザーは原理的に拡大できない。

 レーザーやレールガン、粒子ビーム、ショックカノンやフェイザーは貫通力の弱さがあり、またエネルギーを貯めるのに結構時間がかかる。

 

 それらを考えると、瞬時に発射でき、バリアを破壊できる規模のペイロードがある、内部にエンジンがある大型ミサイル……それが最善になる。

 人間が携行できるサイズが可能なバーゲンホルムや、10メートル規模と最小でいいハイパードライブのついたミサイルは非常に有用性が高い。瞬間物質移送機の併用で効果はさらに上がる。

 だが、体積が大きければ一隻に積める弾数が少ない。継戦能力が下がる。

 すぐれた兵站があり、ミサイルが指定した位置に転送される兵器すら多くあるのに?艦内に巨大倉庫に直結したゲートを作る技術すら研究されているのに?

 それらもいつどうなるかわからない。転送妨害・通信妨害・時空レベルの孤立の可能性は常にある。

 ならば、少しでも単艦で戦い続けたい。そのためによいのは、エネルギー炉直結のレーザーやショックカノンだ。次善は弾頭が小さいレールガンなど運動エネルギー弾。最悪を想定すれば、一切外からのエネルギーなしで使える火薬砲を手動で装填する。

 

 

 最も売れたのは、せいぜい宇宙以前の人類の、重機関銃弾程度……人の指ぐらいの弾を用いる主砲。

 イスカンダル王国の大山がデザインした砲の見た目は、長大な単装砲身が軽快な砲塔から延びている。毎分160発の継続射撃が可能。120メートルの小型艦であっても、弾頭は事実上無限に収納できる。

 宇宙空間における射程は46サンチショックカノンよりやや短い程度。一発の威力は46サンチ波動カートリッジ弾の2.5倍程度、特にバリアに対する貫通力は大きく上回る。

 

 小さい弾にもかかわらず、発射には少なくとも20サンチショックカノン級の設備が必要となる。弾を作るにも高水準の魔法技術と微小加工技術が必要とされる。

 70グラム程度の極小実体弾を長さ4メートル程度の砲身内で、光速に限りなく近く加速しとんでもない運動エネルギーを与える。

 想像を絶する加速度負荷がかかる弾頭は、特殊素材製で内部にくまなく魔法陣を立体積層印刷されている。潰れることによって魔法陣の線がつながり、弾芯部が微小ブラックホールに変化、大抵のシールドを時空ごと貫通し、短時間で相対論効果で増大した質量そのものを強大な爆発力に変える。

 他にも様々な弾頭を発射できる。時空そのものを食い荒らす疑似生物など。単純な鉛と炭素鋼の弾も十分強力だ。

 射出のための力は波動カートリッジの原理を利用したタンクから送られ、砲身内張り部全体を加速のための、虚数時空とも物体とも力場ともつかぬ何かにしてしまう。タンクと砲身にはかなりの規模が必要で、戦闘機での運用を不可能にしているが、だからこそ、ゼロ時間で発射できるという優位につながっている。かろうじて、50メートル級以上の特機なら、昔の人が巨大な対戦車・対物ライフルを持つ感覚で携行できる。

 総合として、今の技術水準ではこの特殊な火砲が、最『早』であり戦闘継続力がけた外れに高い。

 砲身や特殊弾頭を作るコストは高いが、そのかわりにものすごい省スペースを可能としている。

 さらに最悪エンジンもコンピュータも故障しても、今砲塔が向いている方向に撃つことがなんとかできる。

 大気圏内では射程が極端に短くなり、発射する側も原爆の直撃ぐらいの打撃になる、無論水中や地中では発射不可能、という欠点もあるが。

 

 それで主流から外れたショックカノンだが、要塞から51サンチのリボルバーカノンとして分300発以上連射されたのを、瞬間物質移送器で援護に送るという使い方がされている。

 普通のショックカノンは製造コストも安く、ヤマト程度の中型艦の補助的な砲としても十分使える。波動カートリッジ弾を発射できるのも魅力だ。

 

 要塞級の巨大砲としては、波動砲・ブラックホール砲・クロノブレイクキャノンの複合砲に最高水準の破壊力がある。

 必要な体積と費用は大きいが、小さい無人機を複数、同一座標に、別原理の超光速航法からの現実復帰、同時に暴走自爆させ、さらに波動砲で吹く砲も威力はかなり高い。

 また黒色槍騎兵が採用した、ネガティブ・クロノ・フィールドやパラトロン・バリアを掲げたままの体当たりも強力だ。

 接近戦では重力内破槍も多くのシールドを貫通する。

 超技術による自己増殖性疑似微生物を放出する弾や、ハイパー放射ミサイルもそれぞれ強力な効果がある。特にハイパー放射ミサイルをフォールドやバーゲンホルム、瞬間物質移送器と複合させると凶悪になる。

 また、巨大ブラックホールを利用して光速の、99.9の後に9が膨大に並ぶぐらい加速した自動車サイズの弾頭を時限式のバーゲンホルムで無慣性化して回収、そのまま弾頭に詰めたものも、ややかさばるが爆発力が大きい。信管がバーゲンホルム装置を切れば、膨大な運動エネルギーが瞬時に開放される。

 

 また、密集から散兵になると、それぞれの兵……歴史的には分隊・小隊……にも高い機能が求められる。

 通信。野営、調理を行う能力。兵站に関する権限。事務処理、報告、独自の判断である程度動く権限。

 高い読み書き能力をもつ士官、士官の戦死時には下士官・上位の一般兵ですら最低限の知識と読み書きが必要になる。作戦目的を理解し、そのために自分で考えて動く能力が。兵士の思考を徹底して奪い行進機械となす近代国家の軍隊とは、かなり質が違う。

 同じように、すべての艦に、超光速航行・小型無人機操作能力、それだけでなく修理・惑星降下用の小型随伴艦船/人型機も必要となってくる。

 さらに、先の戦いでラインハルトはあらゆる最悪を想定し検討した。そのときには、艦船の孤立も考えられた。

 バガー・ジェインはアンシブル網を断たれたら無力化される。その時の最低限の行動能力。瞬間物質移送機で転送されるミサイルや火炎直撃砲は強力極まりないが、それもいつ空間ごと切り取られるかもしれない。

 一言で言えば、単艦で大洋を渡り未知の大陸を目指すような独立性・汎用性があること。

 それは開拓とも大きく共通する。開拓地も、いつ孤絶しても生存できる、また文化や遺伝子を受け継げるように備えている。

 

 単艦で大規模作戦をこなしたヤマトを模範とすると、コストは底なしに上がる。

 コストを抑えつつ、単艦での、汎用の戦力を高める。

 コストを抑えるには、艦そのものを巨大化させない。多少設計などをいじっても、大きければ高価になるのはどうしようもない。安い素材を使うこともあるが、逆に本来高価な素材が先進技術で安くなることもしょっちゅう起きている。

 何より、人数。人こそが最大のコスト。

 ジェイン……アンシブルでつながった人格持ち超コンピュータに頼れないのならば、余計に人がいる。

 人を減らし、しかも人の必要を満たす、それには人の能力を高めるしかない。単なる腕力だけでも。

 となれば、答えはパワードスーツや人型機、重作業機。脳コンピュータ直結による記憶力などの向上。

 また、スタンドアロンが可能な、より高性能の電子頭脳を積んだドロイドも。C-3PO、R2-D2、アナライザーなどの子孫。

 

 また、支援を得られない状態では修理できること、故障しにくいことが求められる。

 その点ではよい模範があった。ゼントラーディの兵器は、修理の概念がない兵が使えるよう徹底した冗長性と頑丈さで、とてつもない長期間戦力を保っていたのだ。

 AK-47ライフル。トヨタ・ランドクルーザー。スーパーカブ。フォルクスワーゲン・ビートル。ジープ。

〈共通歴史〉の多くでの超ベストセラー。

 信頼性、生産性、習得しやすさ、実用性。

 故障しない。故障しても容易に修理できる。

 部品点数が少なく、構造に無理がないからだ。

 部品一つ一つが要求する工業水準が低い。わずかな変形があっても、性能を落としながらでも動き続けられる。AK-47などはあえて隙間を大きくすることで、機構に泥や砂が入っても排出できるようにしてある。

 世界のどこでも部品が手に入る。

 部品点数の少なさ、それこそ信頼性・頑丈さ・修理しやすさ・生産性を左右する、工業製品を評価するもっとも重要なポイントだ。

 修理するとき、部品が百なら広げた布に百の部品を並べ、一つ一つ確認し、悪い部品を清掃・修理・交換して組みなおす……七つの部品とどちらが楽かは自明すぎる。

 故障は、ひとつの部品が故障しても全体が故障する。サイコロの1がそれとして、七つ同時に振るのと20同時に振る、それぞれひとつも1がない確率を計算してみればいい。

 その点宇宙ロケットというのは狂気の沙汰だ……

 部品点数の少なさ、要求される工業水準の低さ……素材も加工精度も低くていい……は、必要になったとき短期間で多数生産することができることにつながる。

 何よりも、安い。

 すぐに操作を覚えられる。

 AK-47などは、巨大な安全装置レバーがあり、操作しているところを横から見ることができる。教育水準の低い兵を、上官が監視しながら戦うという悪夢でも、上官はどの兵が銃をどの状態にしているか見ることができる。指示できる。兵の水準が極端に低いソ連ならではだ。

 それらの、実用一点張りの無駄のなさは、製品自体を奇妙に美しくしている。

 

 どの時空も、

(そのような兵器を作りたい……)

 と血道を上げている。

 

 

 隙なく放たれる強力な弾が、樹木を思わせる敵の急所をえぐり、内部をかき回す。

 超がつく小口径高速弾とはいえ強い反動に吹き飛ぶロイエンタール機に殺到する別の敵、そこをラインハルト機が襲う。

 その優雅な動きは、金髪が舞わずとも、皇帝を示す黄金獅子がなくとも、

(たれにもわかる……)

 ものだ。

 遠い異時空で、ユリアンが観てレンズ通信で伝えた〈神剣〉。ラインハルトもロイエンタールも、無我夢中で見、学んだ。

 おのが痛恨の過ちから、強さに渇く皇帝も。満たされぬ飢えに苦しむ名将も。

 その技は柄が長い両手剣で伝えられたが、素手にも、片手剣にも斧にも銃剣にも容易に転換可能だ。

 

 ロイエンタール機の光剣と、赤黒い鉄の巨人が激しく切り結び、鍔ぜり合う……その中、ふいにロイエンタール機が力を抜く。

 敵の尾が鋭い銛となり、ロイエンタール機を貫こうとする、そこに、ふ、とラインハルト機が舞い降りると穂先をつかみ、引く。

 その崩れについ、と身を落としたロイエンタール機が、一瞬だけ波動砲をしのぐ光剣を発振させ、目の前の敵ではなくラインハルト機を狙う別の、コウモリのような敵を貫いた。

 その戦場の乱れから突如ラインハルト機が無防備に群れる敵に組みつき、全身を触手の類に束縛される……悲鳴が上がるが、束縛するほうこそ束縛されている。瞬時に竜巻のように駆け回るロイエンタール機がすべての敵の急所を刻み、バーゲンホルムで飛びのくと同時にラインハルト機がショートワープですべてを破壊する。その出現点を狙おうとする狙撃手型の敵を、ロイエンタール機の巨大ライフルが射貫く。

 

 膨大な敵、それを踏み潰し蹴り飛ばして襲ってきた、まがまがしい何かを秘めたゾウの下半身を持つ人のような機体。人の両手をラインハルト機が、刃のついたゾウの鼻をロイエンタール機が対応する。

 他の親衛隊らは、別の膨大な敵を必死で食い止めている。

 とてつもないスピードとパワー。超光速どころではない。さらに、

(強大、だが平板なフォース)

(息子に……何をした……)

 ロイエンタールには即座に分かった。襲いかかってくる、理性も何もなく狂い苦しむそれが……

 怒りが激しいほどに、ロイエンタールのフォースは鋭く形を磨き上げる。

 ラインハルトもそれを感知し、即座にフォースの質を変えた。

〈神剣〉の動きの一つ、超接近、歩き方で相手の力を利用する。

 いつも時間を盗んでやる、老薔薇との鍛錬……座った状態、集団に潰された状態からもがくように格闘することも多くある。人間の何十倍もの力があるサイボーグに両手をつかまれ、足に抱きつかれ、それでも戦い続ける鍛錬。

 メチャクチャに振り回してくる腕、その肘を外側の横から両手で押し、緩急をつけて押し返す。抵抗しようとしたら押す相手がなくて逆に重心を崩した相手、そこにロイエンタール機の剣が、波動砲の威力をそのまま光刃にして切り下げる。別の手の一撃に、機体の半分を粉砕されながら。

 即座にラインハルト機の、三本指マニュピレーターがある腕足の一つが傷口に突っ込まれ、小さい家ほどの操縦カプセルをつかむと、腕足すべてに搭載されたローザー線推進機を全力にして引っこ抜いた。液状の追撃からカプセルをかばい、三本の腕足と波動エンジン口の一つを溶かされつつ。

 カプセルを要塞に置いた瞬間、虚空から出現した触手がそれを奪う。ロイエンタール機の光剣が触手を切り飛ばしたが、転がって低すぎる場に落ちたカプセルを守るように数百の、人型の怪物が出現していた。

 ラインハルトもロイエンタールも、素早く50メートル級の巨大特機を地に伏せさせ、装甲宇宙服で飛び出し走る。

 羅候も全身を奇妙な色の返り血に染め、双剣を二刀に駆けつけてきた。

 

 ラインハルトとロイエンタールが着ているのはハイエンドの装甲宇宙服である。

(極端な環境の中生存し、動き続けられる……)

 ことを重視。通信機能も高い。

 美的にも、

(ラインハルトのためにデザインされたような……)

 と称えられる帝国の将官軍服の華麗さを損なわず、美術品としても通用する板金鎧のようですらある。

 古いゴールデンバウム帝国装甲車のレーザー機関砲に一撃は耐えられるほどの防御素材。濃硫酸の海でも72時間耐えられる耐環境性能。

 力増幅は、実際には160キログラム前後ある重量を感じさせず疲労がない程度に抑えられている。それよりも動きの追従性が重視され、長時間のダンスやフルマラソンでもそのための服のように楽。

 

 人型の怪物は、どれも高さが3メートル近い。それでいて恐ろしく俊敏で、凄まじい力。

 だが、特にラインハルトは自分より力が強い集団との格闘に慣れている。実戦経験豊富な老薔薇たちと。

 羅候が敵の多くを引き受け、斬って斬って斬りまくる。防御を捨てたような攻めの剣であり、魔を断つ剣でもある。

(力は山を抜き、気は世をおおう……)

 凄まじい気力と体力、恵まれた才、激しい鍛錬がなす、まさしく一騎当千の剛剣。

(あいつほどじゃねえ……)

 長い旅。ロイエンタールと、そして大型冷蔵庫を引きずる銅骸骨との稽古。銅骸骨が、たとえば右手で支えながら左手で相手の手を握り引いてボート漕ぎのかわりとするように二人運動の負荷となれば、それこそトンで数えるバーベルより大きな力を要求してくる。また普通にボクシングでも柔道でも達人を通り越している。

 その奮戦を横目に見るラインハルトとロイエンタールも、感慨はある。

 隣の時空、戦友でもある竜我雷や紅玉の宿敵、

(暴しか知らぬ蛮族……)

 と評価は低かったが、共に戦えば誇り高さと激しさ、カリスマは十分に見える。

 その助けを受け、主従は騎士の息子を求めて敵に殴りこんだ。

〈神剣〉を素手と黒いライトセイバーに応用した凄まじい技量と連携。

 ラインハルトは拳を握っていない。拳でも手刀でもなく、ゆるく握るような手。それで時に払い、つかみ、手の甲側で叩く……拳と違い速度を落とす筋肉が働かず脇が絞まる。

 恐ろしい速度でラインハルトの体に組みつき噛みつく、あるいは短刀を突き立てようとする怪物たち、だが組みつかれ腕をひねられ牛刀より長く毒に濡れた牙が迫っても皇帝はまったく動じていない。相手の力に逆らわず柔軟に体を動かし、下にも目があるように低く鋭く敵の急所を踏み蹴っては動き続ける。噛みつく寸前の鼻に肘を恐ろしいほど近距離で撃ちこみ、身じろぎ一つで束縛から逃れて肩とかかとだけで投げる。

 組みつくことで束縛された敵の延髄だけを、ロイエンタールの黒いライトセイバーが次々に切り裂く。

 そしてそのロイエンタールの背を狙って刺してくる敵に、ラインハルトが敵の一人を背負い投げで叩きつけ、その間に高く飛んだロイエンタールが空中から主君を狙う敵を十字に四断する。

 また、ロイエンタールがわざと作った隙に突きかかる敵の刃、ラインハルトの手がロイエンタールを押して的を外させ、それを知っていたようにロイエンタールが光剣を逆手に握り、ラインハルトその人を刺すように背後に突き出して……脇腹のわずか横を抜けた刃が皇帝を狙う敵を貫いている。

 と思えば、二人は滑るように円を描いて歩み、ラインハルトが掌を上に向けた手で敵の刃を払い即座に光剣が手首を断ち、すぐさまラインハルトが足を払って投げ倒す、のを地に着く前に光剣が断ち切る。

 美しい舞のような格闘戦に、分厚い怪人の壁がまたたくうちに切り開かれる。

 最後に残る、カプセルを守るマントの怪人。他とはかなり違う雰囲気、その手に握られた長めの棒の両端から紫の光刃がほとばしる。

 ロイエンタールはぶらりとライトセイバーをひっさげ、するすると歩み寄る。ラインハルトもそのわずかに後ろで、素手に剣を構えるような手で横向きに迫る。

 と……拍子が消える。

 両方がふ、と瞬間移動したように移動した。ラインハルトが斬られた、と思えばその姿が揺らめくように消え、敵の重心がわずかに崩れる。かまわず振り払い紫の光が円盤を作り、即座に突きが飛ぶ、それを摺り上げたロイエンタールの柔らかな一撃。

 敵がもう一端の光刃でそれを払う。そのとき、ラインハルトはすぐ近くの、何もない虚空に打ち上げるような掌底を放った。

 一瞬、敵は身じろぎして右に飛ぶ。それを追ったロイエンタールが三度切り結ぶ。

(なんてやつらだ……あの掌底で、左に飛んでいたら着地点で柄を打ち上げられていた。それで右に動きが限定され、その結果この流れ……)

 羅候は戦いながらも、目の端でその剣戟をとらえていた。

 

 宇宙での戦いも激しさを増している。

 全速で駆けつけようとしているミッターマイヤー艦隊は虚空から細かな妨害や内部の地球教徒の破壊工作に悩まされ、艦隊のごく一部しか疾れない。それでも、

(艦隊をバラバラにしても、一隻でも……)

 疾る艦がたどりつき、エンジンを止めるフィールドの外から長距離砲撃を始め、襲ってくる敵の機動兵器を迎撃している。

 大きい浮き輪のように輪に巻いた波動エンジンをつかんだ人型機が、小型の拡散波動砲を放つ。

 光速に限りなく近い弾幕が、主君を傷つけないよう苦しむ親衛隊を援護する。

 そしてそこに、新しい援軍も加わった。赤い下半分、上はくろがねの城、あらゆる技術のテストベッドでもあるヤマト。

 

 わずかに足を踏み損ねたラインハルトの首を狙う敵の両腕をロイエンタールが切断し、ラインハルトは転げながら敵のライトセイバーをフォースで引き寄せ瞬時に敵の両脚を膝上から断つ。

 そして首をはねようとするロイエンタールの刃を止めた。

 はっとしたロイエンタールは光刃をひっこめ、後ろに走った。

 ラインハルトが倒れた敵の首をつかんだまま、争っていたカプセルに急ぐ。

 ロイエンタールは全速で半壊した特機のところに駆け戻ると、主君と羅候、カプセルと敵の両手足を失った体をつかんでバーゲンホルムをかけ、虚空に飛んだ。

 皇帝の命を受けた、フォースを使える親衛隊が必死で主君を守り、旗艦に特機が収容されるまで護衛する。

 

 

 ロイエンタールの息子は、とんでもない姿となっていた。

 人型の怪物には、脳と脊髄。特機から出たカプセルにはそれ以外の体と、脳のかわりとされた通信装置。

 体も、本来の彼の年齢より三歳以上成長を促進されていた。

 またどんな訓練と洗脳を受けたものか……

 救出、診断、手術にたずさわった佐渡酒造は、言葉は穏やかだが怒り狂っていた。

 クラリッサ・キニスンは手術そのものでは冷静沈着だったが、終わった瞬間愛する夫の時以上に激しく狂いまわった。

 そして、まだすべてではない。

 完全な健康体に手術されても、彼は目を覚まそうとしない。

(魂、フォースそのもの、物質ではないものが盗まれている……)

 からだと、ヨーダやオビ=ワンの霊体は診断した。

 細胞に共生する、ミディ・クロリアンが奇妙にも働いていないのだ。

 クラリッサを狂わせているのはそれだけではない。激戦の中、愛息クリストファー・キニスンが行方不明になっている。誰も気にしてはいないが、ロイエンタールとともに旅をしてきた冷蔵庫を引きずる銅骸骨も消えている。

 公式には、生命維持装置につながれたバガーとされている。だが真実はそれだけでなく、スキャンでも見通せぬ隙間に、人の大気では生きられぬナドレックの仔もいるのだ。

 

 まだ不満は残る状態だが、ロイエンタールはフォースから何かを感知したか、職務に戻ることを決めた。

 ミッターマイヤーは友の復帰を喜びつつ、まだ終わっていない苦しみを察して苦しんでもいる。

 そしてラインハルトは、新領土に跋扈する謎の敵との戦いだけでなく、デスラーとも交渉しパルパティーン帝国との全面戦争を決断することになる。


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