第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

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『量子怪盗』『複成王子』まで。3があるそうですが邦訳されていないので…
あらすじだけでも一苦労。いや最後あれどういうこと…


量子怪盗/時空の結合より5カ月

 とてつもなく技術水準の高い時空との交渉に、〈シルバーン〉の一馬はアンドロイドを追加で送った。

 困難な、敵の巨艦の拿捕を成功させたばかりのシグルドリーファ、通称リーファ。

 黒髪でアイドルのように整った顔、縁が太めの眼鏡をかけた、ネットワーク担当あいり。

 ゲーム時代から対外交渉を主に行っていた、ペルシャ系のスレンダー美女ナザニン。

 ナザニンの護衛であるオッドアイのルフィーナ。

 

 特に船を愛するリーファは、〈ペルホネン〉そのものとのよい交渉相手になると急遽呼ばれた。

 この世界との接触には高度なコンピューターやナノ以下の超微小テクノロジーの知識が欠かせないので、あいりも呼ばれている。

 

 ナザニンはコリンたち第四帝国(帝国とするか皇国とするかはまだ決着がついていない)との交渉でも活躍していたが、交渉が特に重要な状況が生じる、と呼び出された。

 ゲートを抜けて春たちと合流し、ジャンやミエリ、〈ペルホネン〉、さらにジャンや〈ペルホネン〉にいるジョセフィーヌ・ペレグリーニと交渉しつつ地球に向かう。

 追われているのを助け最初の交渉相手となった〈ペルホネン〉とその主、オールトの雲のミエリ、記憶が不完全な盗賊ジャン・ル・フランブールが、その重要なものの争奪戦に加わっているようだ。

「できるだけ上の存在と交渉させてください」

 と言われ、ミエリは消極的だがジャンと〈ペルホネン〉は積極的にミエリの主、ジョセフィーヌ・ペレグリーニと接触しようとしている。

 また、ジャンが火星で手に入れた奇妙な箱などの解析も、〈シルバーン〉側から始めた。

〈ペルホネン〉の体自体頑丈であり・変形させることもできるサンゴの性質があり・微小コンピュータの集合体でもある。ジャンも制限されているが、精神共同体(ソボールノスチ)技術で合成された微小コンピュータで全身を作られた存在だ。だからこそ、ペレグリーニのかなり高い分枝を内包することもできる。

 

 そんな集団が地球に向かう。荒れ果て、〈瓢(ふくべ)〉と呼ばれる異形の惑星規模構造物に囲まれた、人類のゆりかごへ。

 多くの危険な、ウィルス化したプログラムを内包する半生物ナノマシンなどが環境の生物やあらゆる砂や風とも一体化して荒れ狂い、電脳有力者たちも直接降り立つことを拒む荒野。ワイルドコードと呼ばれる。それはある種の特異点ですらあるといわれる。

 物語を語ることでそれら危険なプログラムを手なずけ、収穫して太陽系各地の有力者に売る人々(ムタリバンと呼ばれる)とその交易を支配する貴族が、アラビアンナイトじみた暮らしを送っている。

 精神共同体(ソボールノスチ)の巨大戦艦が、ワイルドコードの攻撃で瓦解した都市がある。

 また、有力者の一つ〈仙姑(シェン・クー)〉らが月を材料に地球の十倍近い構造物を作って地球を覆っている。

 何かそこには重大なものがあると言われ、地上の有力者と交渉する精神共同体の有力者もいる。

 

 

 別の時空では。

 艦隊から切り離し、鹵獲したアチュルタニの巨大艦が分析に回された。

 内部ではまたも白兵戦があった。そこではケインをはじめとする別時空の海兵隊も、また〈シルバーン〉のアンドロイドたちも、コリンたちも激戦をたっぷり味わった。

 それで入手した巨大コンピュータ。そのデータには恐ろしい真相が記されていた。

 暴走したコンピュータが、文明をまるごと支配していたのだ。それがアチュルタニ、アク=ウルタンの本性。

 ある意味事故だとも判明した。一隻の植民船があり、その住人が頼ったコンピュータが離反し、支配を永遠にしようとした。そして支配下の生物を増殖させ、愚かなままにし、さらにコンピュータ自体、艦隊自体を増やし、自分以外を皆殺しにしようとしていた……

 それこそ帝国の人々が、

(コンピュータに意識が芽生えないよう、何重にもプロテクトをかけたことが正しい……)

 と示しているようなものである。

 幸い〈ダハク〉や、〈シルバーン〉のアンドロイドたちも意識があるコンピュータでもあるが、

(命令を解除することもできるが、暴政への嗜好は含まれていません……)

(一馬を愛している……)

 である。

 それは矛盾を含む、論理とは無関係なものである。

 だから信用できない、と人間は言うだろう。だが人間が、同じ人間でも信用する理由はどこにあるだろうか。

 それこそどこぞの時空の、

(『暗黒の森』になってしまう……)

 ではないか。それこそ群れて生きるどころか繁殖さえできはしない。

 アチュルタニ、アク=ウルタン族がオスばかりである理由も判明した。メスは隔離され、性成熟と同時に抹殺され生殖細胞のみを利用される。それを利用してある程度多様性のある、ほとんどがオスのクローンを作り、洗脳して戦わせている。

 メスの不在も、反抗を作らせないことに役立っていたのだ。愛着が生じることもないし、管理されていない子が生まれることもない。

「むしろ解放してやらなければ、アチュルタニの本拠地、中央コンピュータを襲って……ウィルスを突っ込んでやる」

 と、大きい方針をコリンが決意した。

 そのためにも、〈シルバーン〉が行っている、極端に技術水準が高い時空との折衝にも、

(力を入れるべきだ……)

 とも、なる。

 

 

 いくつかの、伝染病で生物が滅んだ皇国の星系がある。

 空気がある惑星は生物すべてが滅びたことで環境が激変し、機械も多くは壊れていた。

 だが、大規模な軌道設備は、生物は全滅していたが比較的破壊が少なかった。

 その多くに、巨大なコンピュータがある。〈ダハク〉など小惑星級艦船を上回る規模の、星系の生活や軍を手広く管理するコンピュータが。

 皇国になってから技術進歩により、コンピュータは分子よりさらに小さい、フォース・シールドに直接刻まれ動的に処理されるものになっていた。

 それは人間がいなくなり、エネルギー供給が止まれば崩壊する。だが、シールドを放つ装置を修理すれば、中身はまっさらだが強力なコンピュータができあがる。

 さらに〈シルバーン〉の光量子コンピュータの技術を加えることで、次元が違う計算力となる。メモリは十分だがハードディスクがボトルネックになっていたパソコンをSSD化したように。量子コンピュータの超時空性と、超小型化されたハイパードライブの超光速の融合でもさらに計算力は増した。昔のパソコンで言えば、それこそメモリとCPUをつなぐ電線の十数センチメートルと電気信号の光速がなすごくわずかな時間すらコンピュータのボトルネックとなる。たとえば〈百世界〉はアンシブル技術でそのボトルネックを破壊し、だからこそジェインが生じることができた。

 

 まず多数の遺棄艦船や、遺棄された星系施設から、エネルギー炉を修理すればいいコンピュータを取り出し、改造して、つなぎ合わせた。そして、膨大な余剰人員を利用した大量生産体制もめどをつけた。それは戦争でも、この時空や隣の時空の悲惨な生活を送る人々を生かすのにも使われている。

 

 膨大な人間がいる。

 簡易的な輸送艦で、コンピュータの元となるシールド発生器を多数切り離し、運び込み、修理する。

 それだけで短期間で、莫大な計算力を生み出すことができていた。

 

 その膨大な、膨大を通り越した計算力。それならば、抗争に敗れつつある超知性の避難所になるだろう。

 同時にそれを作り出すための膨大な労働は、ケインの故郷のいくつもの国の、悲惨を極めた人々の逃げ場にもなる。

 不老不死を売れば、いくらでも人を買える。人ほど安いものはない、だからいくら浪費してもいいし機械を工夫する必要などない……それがその時空の各国だった。

 実際にはそれは需要を増やすこともさせない、経済的には破滅の道ではある。しかし、その時空のすべての国家は、

(機械化・豊かな経済を捨てて、超格差・階級社会を維持する……)

 道を選んでいたのだ。

 それが破壊される。

 多くの人が売られ、公正な法と十分な報酬、健康な生活を受け取る。

 そのことが知らされ、逃げ道が作られることでより多くの人が逃げる。

 噂。それだけはどんな恐怖社会でも皆無にすることはできない。

 アンドロイドたちは巧妙に契約を工夫し、情報が伝わり逃げたい者が逃げられるよう、あるいは一部の特権階級が存在自体不利益になってしまう人を捨てて利益を得られるよう、誘導した。

 崩壊は想定以上に速い。

 

 

 ジョセフィーヌ・ペレグリーニは、別時空のコンピュータという逃げ場、また超光速航行技術を提示されても、それまでのプランを捨てることを簡単には承知しない。

 何か切り札があるようだし、もともと彼女を始め精神共同体は、〈大いなる共同事業〉という使命を目的としている。

 フョードロフ主義。ロシアの思想家ニコライ・フョードロヴィッチ・フョードロフを元とする思想。技術進歩により、既に死んだ人たちも復活させるという。精神共同体はそれを目的としている。だから太陽系の住民をすべて精神アップロードして取り込もうともしている……ゴーゴリ化する、という……し、また太陽の物質やエネルギーも大量に用いて様々な実験をしている。

 ミエリが縁が遠い内太陽系の権力者に仕えているのも、恋人のシダンが永遠を求めて、金星で行われた情報的な特異点を作り大爆発を起こす実験に飛び込んでしまったからだ。シダンの復活を餌にされてペレグリーニに忠誠を誓っているのだ。

 ナザニンはとりあえず、ある種の相互確証破壊関係を結ぶことはできた。

(そちらがこちらを攻撃しようとしたら、この太陽系で大規模な破壊を起こす……)

 程度のことを。

 ペレグリーニとの交渉の結果、

(こうするほうがむしろ早い……)

 と判断したルフィーナたちは、ほかのプレイヤーとの交渉を始めると同時にジャンたちの計画にも協力しはじめた。

 同時に、ある程度戦局を変えられるようなゴーゴリをいくらか手に入れ、一馬たちのところにも送っている。もちろん安全かどうか徹底的に確認して。

 

 別のプレイヤーと交渉する、ということもできる。

 ミエリが捨ててきた同胞であるオールト雲の人々。

 土星周辺を本拠とし、火星にも多くいる〈ゾク〉。ゾクはむしろ技術水準が高く、〈木星大爆発(スパイク)〉にも深くかかわっている。

 火星の移動都市ウブリエットを支配することになった、ジャンの息子もいる。

 ゾクの中には超光速技術に関心を持つ者もいた。

 本来、〈大いなる共同事業〉のためにも超光速は切り札となりえる。超光速はそのままタイムマシンになるため、過去に行っては全員を強制アップロードする、

(手もある……)

 のだ。

 超光速がタイムマシンでもある、それは本来あらゆる時空で、世界を破壊しかねないことだ。

 

 

 一馬がナザニンたちの巨大艦とともに送ってきた、皇国の地球の月サイズの超巨大艦。それには一つの星系、四つの惑星と20以上の巨大ガス惑星巨大衛星を管理していた巨大コンピュータシステムも積んである。中は人々が死に絶え数万年の月日に分解され切ったままろくに清掃もされていないが、フォース・フィールドに回路を刻むコンピュータと、光量子コンピュータの複合コンピュータは新品だ。

 その計算力を、〈ペルホネン〉の制御ソフトウェアと連結し、かおりがジャンが手に入れた箱の分析を始めた。

 日本の箱根細工のような、複雑なパズルになった木の箱。内部ではシュレーディンガーの猫が何兆と死に続けている……〈ゾク〉は、精神共同体が嫌う量子絡み(エンタングルメント)の技術を多用する。

 ジャンの失われた記憶、かつての怪盗は何を盗み、何を封じたのか……箱が開かれたとき、ジャンは恐ろしい虎に会った。

 何千年も閉じ込められた恨みに燃える獣。だがジャンは、いつしか盗んでいたプログラムを利用し、制御争いの戦いに打ち勝った。

 コリン側のオブザーバー、アンドリュー・サムソンが故郷から持ってきていた、皇国の水準でも〈シルバーン〉の水準でも原始的すぎるコンピュータに入っていたマルウェア。古すぎ、また根本的に異質だったため、先に進み過ぎた文明にとって強力なバックドアになったのだ。

 虎……〈開祖〉の一人、警官の役割で恐れられるスマングルを乗っ取ったジャンは、そのIDや外見情報などを殻として地球に潜入した。

 同時にミエリは荒野を探査する傭兵隊に加わり、〈ペルホネン〉は〈瓢(ふくべ)〉に接してジャンとミエリをバックアップしつつ、ペレグリーニのハードウェアとして瓢に侵入するのに協力した。

 そんな中、ナザニンたちの艦は自らを隠しつつ地球に接近する、地球サイズの超巨大船を探知した。

〈開祖〉の一人で最も有力と言われる、マチェク・チェン。

 彼は何かとんでもないものをゾクとの激しい戦いで手に入れ、そのプロテクトを破るために幼い自分を必要としているらしい。

 文明が崩壊する前の西暦時代、人間の精神アップロード技術ができたばかりの頃に、念のためにアップロードされ、地中深くの地熱発電で自らを保つコンピュータ設備、内部の砂浜のような仮想環境(ヴァー)に閉じ込められていた超金持ちの令息……幼いころのマチェク自身の精神を。

 

 スマングルに化けたジャンと、彼と協力することになった地球で生まれた有力者の娘タワッドッドはある殺人事件をめぐって冒険を繰り広げた。ある遺跡の場所を探知するために。

 彼女の、家族との葛藤や有力者同士の角逐にもまれながら。彼女の父と姉がスマングルに協力するよう命じた。タワッドッドは以前、砂漠の精霊のような存在となっていた野生プログラムと深い結びつきを持っていた。それは人々の間では禁じられており、連れ戻されてからも家では疎外されていた。だがその時に手に入れたさまざまな知識やプログラムとのつながりにより、彼女にしかできないことは多くあったのだ。街の貧しい人々を癒すなど。

 その探索は、砂漠の有力者の一人との争いから破綻した。その男は、地球有力者の社会そのものを憎み、精神共同体と組んで地球そのものを滅ぼそうとしていたのだ。またどこかから、スマングルの中身であるジャンの正体も知っていた。

 激しいだまし合い。巨大な、砂漠から突き出た過去の遺跡を手に入れようとした傭兵団……そこに潜入していたミエリが牙をむいた。何十万という人数になって。

 別時空の側、ゲートの向こうの水星程度の環境の惑星に大量の水やアンモニアを運んで贅沢な食物とし、ケインの故郷や悲惨な状態のコリンの故郷から数千万人の人を輸送し、皇国の廃棄されていた生産設備で膨大な、ミエリのコピーを作っていた。その人格・記憶データはペレグリーニが持っており、それをコピー&ペーストするのは容易だった。

 さらに、ジャンたちの活動を隠れみのに地球に潜入していた春たちがワイルドコードや現地人がそれから身を守る方法をかなり解析し、防御用の個人シールドも作り上げていた。

 個人シールドの技術は、超技術のこの時空にもない。

 多数の傭兵、さらに砂漠の遺跡の防衛システム、暴走野生プログラム……凄まじい怪物たちと、背に羽をもちqブレードを手にしたオールトの戦士が戦い抜く。

 

 何十万もの複製体、その一割ほどは戦死したが、それでもミエリは地下深くに隠され地熱発電で維持されるコンピュータ内の、昔の超富裕な子の人格データを手に入れた。

 その時には宇宙では、地球サイズの宇宙船も〈瓢(ふくべ)〉を襲おうとしている。

 また、以前ジャンを襲った〈狩人〉も地球に向かっていた。

 

 

 ミエリたちをバックアップし、ペレグリーニの避難先を作った報酬として、季代子たちが〈シルバーン〉側の手に人間のアップロードされた精神を含む超プログラムをいくつか送った。

 また、ごく微小・亜光速で放たれて、特に機能が高い微小物質の集合体を急速にハッキングできる弾や、小さいが強力なストレンジレット弾頭の製法も。

 それはかなり戦局を変える。

 

 それだけではない。コリンたちは、百万に及ぶ超巨大艦隊に対して恐ろしい罠を仕掛けていた。

 膨大な人間が住む地、という情報を与えて敵艦隊を誘導する。以前は別の罠を考えていたが、別のプラン……

 

 

 技術水準が高い世界では、地球より大きいサイズのダイヤモンド宇宙船……何兆ものアップロード精神、ホーキング輻射エンジンをもつマチェクの本体が地球を襲おうとしていた。

 その巨大すぎる体とふさわしい兵器、さらに〈龍〉と呼ばれるかつて間違って作り文明全体を滅ぼしかけた破壊プログラムすら解放して。

 どんな手を用いても、幼い自分を回収し統合する……「神鳴石(カミナリ・ジュエル)」という、かつての戦いでゾクから得た、〈木星大爆発(スパイク)〉の、コズミック・ストリングの秘密を開錠するために。

 

 そんな暗闘の中、特に船を愛するリーファは、深い情熱をもって〈ペルホネン〉との交流を続けた。〈ペルホネン〉の、ミエリに対する深すぎる愛情と忠誠。ミエリにかわって汚れ仕事をし、自らを汚すことすらいとわないほどの。怪盗と共謀してミエリをだますこと……どれほどミエリを怒らせ傷つけるかも承知で……もあえてするほどの。

 そんな船を理解し、語りかけ……

 リーファにとっては、同じく感情を持つ〈ダハク〉との交流も楽しかった。〈シルバーン〉に、また数百隻の巨大艦船に心がないことを残念にも思っていた。

 やっとめぐりあえた、心を持つ船。

 それを失わせることはしたくない。

 

 

 あちこちで戦いが始まった。コリン率いる〈ダハク〉ら、数百の月サイズ艦からなる帝国艦隊と、〈シルバーン〉の超大型艦の混成艦隊がアチュルタニの本体と激突し、激しく攻撃して消え失せ誘導する。

 ボーグに支配されている大艦隊を誘導する。

 さらに地球では、まさに地球サイズのマチェクが地球を襲い、〈瓢(ふくべ)〉をハッキングしたペレグリーニ、また〈仙姑〉とも争っている。

 

〈ペルホネン〉では、幼いマチェクを回収したミエリが、それを今のマチェクに引き渡すジャンと〈ペルホネン〉、ペレグリーニのプランを拒んだ。

 幼子である精神の内部に隠れてマチェクそのものをハッキングする、それは、

(一線を越えている……)

 と。

 オールトの戦士としての誇り。それは、たとえ恋人を取り戻すため、誓った忠誠のためであっても、譲れない一線があった。

 ジャンもそれは理解していた。彼も火星での戦いで追い詰められた理由は、捕まり記憶を奪われる前に記憶のキーとして利用していた昔の友人たちを殺すことができなかったからだ。

 見守っていた〈シルバーン〉のアンドロイドたちは、それを〈ペルホネン〉から聞いていた。

 物語は、人が何者であるか語ってくれる。

 

 アチュルタニの大長は、もはやわけがわからなかった。

〈雛殺し〉の大軍、ごく少ない数ですさまじい打撃を与えてくる、通常空間で光速に近い速度で移動し、恒星に近い場で短距離の超光速移動すら可能な艦隊。

 それだけならば、犠牲をいとわず前進し粉砕すればいい。

 だが、味方のはずの艦隊がわけのわからないメッセージを出して襲い掛かってくる。

 さらにその、自分たちを襲ってくる艦隊と戦う〈雛殺し〉たちもいる。

 まず数だけは膨大で、シールドの近くで炸裂するとともに小さな弾頭を内部に投じてくるミサイルが雨あられのように襲い掛かった。いや、惑星を踏むことなどないアチュルタニたちは雨など知ることはない。だがそうとしか言いようがない数。百万艦隊の一隻当たり、さらに数千。

 だが威力はごく小さい。なんとか許容できる範囲だ。

 といっても、昔の時代を知る地球人から見れば、

(TNT50キログラム以上……)

 の爆発力であり、十二分に強力なのだが。

 バトル・コンプは、

(前進し粉砕せよ)

 と命じてくる。

 それに従う以外を知らない。

 戦って戦って戦い抜く。

 だが……そのために、異様な構造物……ゲートに気づかなかった。

 また、爆発に耐える微小な針がばらまかれ、刺さった装甲を侵食し、まったく別の微小コンピュータの集合体に作り替え、とあるIDを発信していることにも気づく余裕はなかった。

 

 ゲートから〈狩人〉が出現した。獲物を追って。

〈魂のエンジニア〉といわれる精神共同体の〈開祖〉の一人が創造した、数万体の有知能物質。

 集合体であると同時に、バラバラで個別に行動できる。

 電脳人格としてはピアニストの訓練されぬいた器用さ、サメとネコ科の猛獣のしなやかな美しさ、凄まじい情熱と執念を持つ。

 数分の一ミリの、美しく彫刻された針先……そんな存在が、西暦2000年前後の地球で言えば20ミリガトリング砲に匹敵する超熱線砲をばらまき、破壊と同時にあらゆる情報を読み取り仲間たちに送ることができる。

 破壊と殺戮。特定の標的を追い詰める。

 その標的のIDが、膨大な数の異質な艦隊から送信されているが、それは〈狩人〉にとってはどうでもいいことだった。

 

 分厚いシールドがあっさりと貫かれる。膨大な破壊が内部にまき散らされる。

 大量の手持ち武器による反撃も効果がない。

 気密シャッターを閉じ、被害区域を多くのクルーもろとも切り離し自爆させても、破壊は続く。

 そこには地獄があった。

 コリンやジルタニスも、ケインたちも震え上がっていた。

 あえてそこにはアレックスの姿もあった。

(別文明の恐ろしさを教えるため……)

 である。

 無論、彼女はそれさえも利用してのしあがってやる、程度にしか考えないが、知らないよりはいい。

 

〈シルバーン〉のシステム担当かおりは、ジャン・ル・フランブールの中に入っていた奇妙なプログラムも見出していた。

 ジャンがずっととらわれていた、〈ジレンマの監獄〉で何度も彼を苦しめた〈全方位背反者〉。それがジャンの中に隠れていた。

 それさえ知らされれば、ジャンが〈シルバーン〉側や地球で盗んだプログラム、〈ジレンマの監獄〉の一部である〈偽神(アルコーン)〉、スマングルのコードなどを利用して〈全方位背反者〉を押さえることはなんとかできた。

〈ペルホネン〉に、巨大艦の計算力を与えて協力させたことも力となった。

 

(最後の一線、道徳を完全に失ってはいない……)

 ミエリやジャン、〈ペルホネン〉は〈シルバーン〉のアンドロイドたちやアンドリュー・サムソンにとっても、

(十分信用できる競争相手……)

 と認めていい。

 だからこそ率直に作戦を提示し、〈狩人〉の標的をコード化した微小有知能物質を弾殻としたハイパー・ミサイルを多数アチュルタニ艦隊に打ち込み、〈狩人〉を引きつけることができた。

 

 さらに、似たミサイルは、ボーグに支配されたアチュルタニ艦隊にも……旗艦となったボーグキューブにも打ち込まれている。

 ボーグそのものを盗むために〈盗賊〉が艦に、ボーグの端末に侵入する。

 

 

 マチェクと、ナザニンたちの交渉と対峙は続いていた。

 姿を現した皇国艦と、20キロメートルサイズの〈シルバーン〉搭載の戦艦。

 地球サイズの県脳。

 ある技術水準はマチェクたちの方が圧倒的に上だが、先手を取った春が、特殊な強硬手段を見せた。

 太陽系の、黄道面からかなり離れた何もない所に中型艦を移動させ、ほんの数天文単位超光速ジャンプさせたのだ。

 わざと、重力波・空間破壊がひどく起きるような乱暴な航法で。

(それを太陽や土星にぶちこんだら?)

 相互確証破壊を作るための示威攻撃。

「損はさせないし、計算力も、超光速技術も……」

 粘り強く交渉を続ける。

 計算力も結局は、物量である。太陽から炭素を抽出して地球サイズのダイヤモンドコンピュータを作れる精神共同体(ソボールノスチ)の潜在的な物量は莫大だが、生産に時間がかかってしまう。

 人が死滅した文明の遺産を直接利用できるコリンの帝国、そして〈シルバーン〉のほうが、短期的な物量は優れているのだ。

 逆に、ソフトウェアにおいてはこの時空の方が圧倒的に優れている。

 また相手を知る……マチェクの幼いころの物語も、ジャンが盗んでいた。

 テロで親を失ったことがある。親の忙しさでさみしい思いをしていた。それらの苦しみから死を克服しようと、すべての死を倒そうと……

 ほかの〈開祖〉たちも、

(何が本当に欲しいのか……)

 ナザニンは粘り強く見出そうとしていた。

 

 

 いくつもの膨大な艦隊を壊滅させたコリンたち。だが地球を狙う艦隊は、まだ二十万隻に及ぶ。

 それさえ食い止めれば。あとはアチュルタニの本国を攻め、バトル・コンプをハッキングすれば戦争を終わらせることができる。

(優しすぎる……)

 と妻に皮肉を言われるコリンも、

(甘すぎる……)

 とアンドロイドたちに心配される一馬も、どちらも喜ぶ方向だろう。

 膨大な人数を殺してしまった罪は変わらないとしても。

 

 いくつもの切り札が舞う。

 ボーグに支配された艦隊に食い込む〈盗賊〉。

 アチュルタニの艦隊を十万隻近く機能不能にした〈狩人〉。

 皇国の最新艦と、〈シルバーン〉の航法を複合し兵器化した場合どうなるか。そのシミュレーション……増強された〈ペルホネン〉の協力も得て。ソフトとしては、火星やゾクの超知能にも〈シルバーン〉に好意的な勢力は出てきている。

 

 

 別のプレイヤーたちも戦いを見つめ、それぞれの思惑で動いている。

 すべてを手に入れることを諦めないジョセフィーヌ・ペレグリーニ。

〈仙姑〉をはじめとするほかの〈開祖〉たち。

 多くの時空、様々な超文明の脅威に触れながら、限りない欲望と憎悪に燃え続けるアレックス。

 コリンの足元に潜む、犯罪歴を隠し通し邪悪な野望に燃えるアヌ側の士官。

 ゾクの人々もいる。火星の、ジャンの息子や昔の恋人も。

 

 悲願を断念し、主に見捨てられたミエリ。彼女は〈ペルホネン〉と、春たちの艦の強力を受けてマチェクがばらまいた〈龍〉に破壊されつつある地球に急ぎ、迷惑をかけた住民たちを救助した。そして幼いマチェクも抱え、執念に燃えるマチェクから逃げることにもなろう。

 

 ケインの故郷では、南米帝国も領星の一つにゲートを発見した。

 それは当然、中央同盟との争奪戦になる。

 陰謀をもてあそぶ権力者たちは知らない。その向こうではどれほどけた外れの戦争が、長く続いているか。

 それ以前に〈シルバーン〉の介入、多くの棄民や採算のとれない植民星とその住民が買われ、生産性の高い自動生産機械が輸入され、……自分たちの足元も崩れつつあることも知らない。

 ステルス艦で先行し、ゲートを抜けて情報を集めたアンドロイドのプリシアたちはまたも頭を抱えている。




さて『宇宙軍士官学校』『ガルフォース』『星界の戦旗』『スコーリア戦記』『紅の勇者オナー・ハリントン』『星霊の艦隊』どれにしようかな、と…

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