第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

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邦訳がある二巻まで。以降未邦訳の原作は無視。
「カイの挑戦」も未邦訳分無視。
「目覚めたら~」は対象範囲外の設定も少し入れるかも。


宇宙兵志願/時空の結合より2月

 クレイジー・ヒロとゆかいな仲間たちは……

 ならぬ。

 シウダッド星系に、二十隻には満たない艦隊が着いた。

 超光速航法自体が異なるため、その航行の困難は筆舌に尽くしがたいものがあった。

 キャプテン・ヒロの〈ブラックロータス〉とそれに収納される〈クリシュナ〉。

 追随する、対宙賊独立艦隊の分遣艦隊と、ダレインワルド伯爵家艦隊。

 先導するのは、今いる時空出身のカイラーラ・ヴァッタ、カイの〈バスーン〉と〈シャーラズ・ギフト〉。

 

「ワープアウトします」

「戦闘準備は完了しているわ。いつも通り」

 ミミとエルマの言葉が響く。

 美少女美女たちの目線がヒロを襲う。

 深い愛情に、

(トラブル体質……)

 に対する諦念が混じっている。

「ああ……」

 ヒロはため息をつき、

「別の時空にいる以上、超光速航行中でも攻撃はあり得ると思った方がいいぞ」

 と顔を落として手に当て、垂れた。

「はい。カウントダウン……」

 メイの言葉に、ヒロがわずかに緊張して体をほぐす。ミミが笑顔を向け、微笑み返す。

(ミミは可愛いなあ……)

「1、ゼロ」

 ヒロは息を深く吸って止める。彼の奇妙な能力、息を止めていると時間の流れが遅くなる。高速戦闘や銃撃戦、剣戟でも極度に有利。

 星々。

「シールド全開回避!クリシュナ射出!メイ、友好的メッセージ送信、回避運動後信管を切ったミサイル、電磁投射砲用意!セレナ、まずすぐ撃てる通常砲準備、艦対地反応弾頭ミサイルをこのコース!敵対が確定したら戦闘開始!道は開くぞ舌かむなよ!」

 ヒロが叫び、凄まじい勢いでそれからの戦闘シナリオを入力した。

 それはアンドロイドのメイが書式を磨き、対宙賊独立艦隊とダレインワルド艦隊に送信。

 

 目の前の居住可能星系が、沸いている。

「二酸化炭素82%……有人星系で、この位置と恒星のタイプなら、確実に人類に適した環境だったはず。それが……」

 エルマが口を覆っている。

「ゲートを発見しました。あれと同じです」

 ミミが痛ましげにヒロを見る。

 二人とも、目の前の数キロメートルに及ぶ巨大艦と、その周辺のデブリは見ないことにしている。

「どういう……あたしたちも戦う!」

 混乱していたカイが立ち直る。

「落ち着け。ここにもゲートができて、別時空からの侵略者が食っていたということだ。まあよくあること、になったんだろう」

 ヒロが平然と全艦に放送する……

 

 友好的メッセージは無視され、巨大艦から攻撃が飛んできた。

 

「仮の敵艦、何かを射出!信管停止ミサイルが撃墜されました!」

 ミミが画面を確認する。

「光速の何%というほどではないわ、大質量の単純質量弾。それなりの威力はある。数が多い!」

 エルマの恐怖を抑えた声。

「よし、なら敵弾を引きつけ、道を作る」

 ヒロの声は静かだった。

「艦隊からのレーザー着弾……貫通していません」

 ミミは悲鳴を抑えているのが伝わる。

「それぐらいは耐えられるか、カンの通りだ……」

 といっても、ヒロには軽い焦りがある。特にグラッカン帝国での戦いでは、ゲーム時代の知識と技術がそのまま通用した。何千の結晶生命体に追われていても、体で覚えていた動きで翻弄できた。だがここはまったくの、

(ニューゲーム……)

 なのだ。しかも死んだら終わり。愛する女たちである仲間も含め。

 

 軍人であるセレナにとっては、それは頭を漂白するものだった。

 全く違う時空。違う兵器。違う航法。違う社会。それに即座に対応するヒロたち。

 ありえない。考えられない。

 ひたすら、ヒロの指示に従って発砲するだけ。

 突然飛び出す多数の重質量弾を艦首の散弾砲で撃墜、というより正面打ちを小太刀で受け流し入り身するように船体をひねり前進し敵の攻撃を引きつける〈クリシュナ〉。先に、敵の攻撃を知るために放っていた、破壊された魚雷の弾頭を遠隔起爆する。その衝撃波殻が敵の質量弾を押し分ける。

 巨大な、見たこともない敵艦がこちらの戦艦でも瞬時に蒸発する主砲の集中斉射を平然と耐える。絶望してもおかしくない……が、そこに〈ブラックロータス〉の電磁投射砲が刺さり、わずか2秒後に〈クリシュナ〉が至近距離から、メートルのずれもなく着弾地点に散弾砲。

 しかも最高速で、敵艦の上から下にかすめて抜けながら、船体だけ縦回転させてタイミングをぴたりと合わせて発射し残る電磁投射砲着弾の衝撃波で姿勢を戻して再加速という意味不明な神業。

 単位面積当たりのエネルギー密度が極端に高い電磁投射砲と、シールド貫通能力がある散弾砲……それで破れた巨艦の皮、傷にヒロが指示したとおりに飛んだ対艦より大きな対地ミサイルが刺さり、水爆より強力な反応弾頭が内部で炸裂する。

(こちらのレーザー主砲は、目くらまし……)

 そのことだけが脳に浮かぶ。

 完璧なタイミング制御と、敵の対空反撃の誘導。

「いいタイミングだったぞ」

 ヒロの称賛に胸がうずく。

(言われたとおりにやっただけです)

 呼吸が詰まる。膝が笑う。

 セレナも帝都での活躍で、ヒロが短期間で剣術も達人級になったことは知っていた。

 いや、ゲーム経験や実戦経験、転生特典の超能力が意識もされず開花し、周辺の情報をすべて読み切り最適な戦術を組み立てる、とてつもない能力になっている……傭兵としての、戦闘船を操り戦う銀河トップの技量が余技でしかないほどに。しかも彼の指示を超短時間で軍制式の命令書に翻訳できるハイエンド機械知性体のメイ、子爵の娘であり貴族の礼儀知恵を知り尽くすエルマがいる。

 何キロメートルもある巨大な艦が崩壊していく。

 

「カイ、あっちのまあ無事な惑星にこちらの言語での交渉。セレナ、クリス、デブリを捜索して、生存者がいれば、いなくても遺体」

 ヒロの言葉に、画面のカイ、セレナ、クリスがうなずく。

「わかったわ」

 ちなみに、セレナは知らないが、ヒロが新しいことに対応できる、それにはセレナの影響もある。ある戦いでセレナの指示とヒロの解釈が食い違い、ヒロが死にかけたことがある……そのことでヒロは、

(自分の経験がすべてではない……)

 と反省し、あらゆる新しいことに即対応できるように自分やクルーを磨き直していた。

 

 シウダッド星系の係官は、まず女との会話を拒もうとした。男尊女卑文化。

 カイは交代しようとする副長を目で止め、叫んだ。

「ザバラ船長の名誉を伝えに来た!」

 その言葉に、通信向こうの人たちが背をただす。

「データを送信しました。

 ザバラ船長は、対宙賊私掠船連合に参加。トラブルがあり袂を分かちましたが、あたしたちの危機を知って戻り、確実に死ぬのに戦い抜いて死にました。

 彼の名誉を、カイラーラ・ヴァッタ、ヴァッタ航宙の名に誓う!もし否定する者がいたら決闘を受けます。生命をかけて」

 カイの覚悟と迫力。

「だが、女」

「よせ!ザバラ船長の名誉」

「名誉だ」

 カイが言葉を続ける。

「あたしも別の時空と接触しました。こちらの〈クリシュナ〉を始めとした艦隊です。この方たちも、宙賊を憎む心は変わりません。

 別の時空からの怪物船、船に積めるアンシブル、星間通信局(ISC)の機能停止、宙賊連合。世界はもう変わった!

 別時空の怪物や、宙賊連合に食われますか?それとも、ザバラ船長の遺志を継ぎますか?」

「名誉」

「名誉だ!」

「ヴァッタ航宙、ずっと誠実な商売をしてきた」

「ザバラ船長!」

「第四惑星を破壊したあの悪魔を倒してくれた!」

「名誉!」

「戦うぞ!わが友ザバラ船長!」

「勝利!」

「同胞の仇!」

「名誉!名誉!」

 名誉にこだわるシウダッド星の人にとっては最強の扇動だった。

 さらに、手も足も出なかった、大切な同胞を何千万人も殺した異星人を倒した艦隊。

 その華麗な戦いも観測している。

「そして、この戦いを見たであろう宙賊に告ぐ。別時空からの敵や同じ人間から、この時空の人類すべてを守る帝王となるか?その覚悟があるか?

 覚悟があるなら一つの座を争おう。ないのならば、このカイラーラがこの時空の人類すべてをまとめ、守る。

 ついでに、この対宙賊独立艦隊、その故郷時空は、通行できる隣国が宙賊に支配されることは許さない……首を洗って待っていろ」

 と、カイは放送で挑戦を叩きつけた。

(ザバラ船長、アンダーソン船長の遺志を継いで……)

 

 すべきことは大量にできる。この星にできたゲートから来た異星人が、毒ガスをまいて人類を駆逐し、巨大機械でテラフォーミングを始めていることが分かった。その進捗も早い。

 その異星人が、二十メートル以上の超巨大な恐竜を思わせる動物であることも判明した。地上降下戦にもなる。

 シウダッド星も宙賊艦隊に襲われていた。だがその艦隊は、異星人の攻撃を見て逃げうせた。当然情報を持っている。

 また、シウダッド星の人々はザバラ船長の、またやられた惑星の同胞の仇を討つ、と船を出しても協力してくれる。武人肌の男も多い。

「じゃあここは任せた。ゲートをくぐって調査に行くとするか……ちょうど」

 ヒロが言ったと同時に、数十隻の、グラッカン帝国の船がワープアウトする。

 

 かなりの帝国艦隊もいる。

 病院船……ふとコクピットの、緊急医療箱を見ると同じマークがある。異様な遺伝子情報を持つキャプテン・ヒロに大金を渡し、その後も定期検診などで便宜を図ってくれるイナガワテクノロジー社。

 通信。長い髪をおさげにし眼鏡に眠そうな瞳、地味な印象になるほど整いすぎた顔、豊かな胸を白衣に包んだ女医が笑いかける。

「やあ面白いサンプルが山ほどあるようだねえ」

「ショーコ先生」

「どれだけの商機かわからない、とことんつきあわせてもらうよ」

「生物兵器を考慮するとありがたいです」

 メイが言葉を添える。

「危険ですよ?」

「承知さ」

 ほにゃ、となぜかヒロもほおが緩む。

「ただ、これ以上独断でやっていいのかね?クリス、セレナ」

 ヒロが画面のクリスとセレナに目を向ける。

「といっても……」

「あのゲートのある無人星に連絡はできるわ」

 何か、ものすごい覚悟をしたようなカイが割り込む。

「どうした?」

「直接でないと話せない」

 

〈イラストリアス〉の一室に、カイ、ヒロ、セレナ、クリス、ショーコや援軍の士官も集まる。

「……船載アンシブル。それが宙賊の動きの秘訣よ。この船にも、あっちの船にもある」

 カイの一言に、皆が息をのむ。

 グラッカン帝国、ヒロが流れ着いた時空には、その技術がない。超光速船で通信を運ぶ。

 だからエルマも多額の借金を負ったときに家族に連絡を取っても間に合わなかった、そこをヒロに助けられた。

 クリスも連絡を封じられ、ヒロは助けが来るまで長い戦いをした。

 銀河全体距離の、小型設備の即時通信。帝国の社会を一変させる。帝国が、同じ時空の他の国々に比べて圧倒的な優位になる。

 大規模設備アンシブルは聞いていた。それを入手することも考えていた。

「……そこまで覚悟があるか」

 ヒロがため息をつく。

「覚悟しかない。もう一つ、いやもっと時空があるかもしれない……」

 カイの言葉に、ヒロとセレナが目を見合わせる。

「グラッカン帝国の奥に、もっとヤバい異星人が巣食うゲートができたかもしれない、か」

「カイさんの時空が、あの恐竜みたいなのに食いつくされたら、次はこちらも……」

「わかりました。しかるべき代金で購入すること、ダレインワルド家の名にかけて」

 クリスが決意の目でカイに手を差し伸べる。

 カイは震える手で、震える手を握った。

「さて、じゃあ連絡をつなげるか……」

 

 船載アンシブルの連結で、ダレインワルド領土へのゲートがある無人時空に連絡を取る。

 通信画面でしばらくやり取りして、画面に出た顔と艦に、クリスもセレナもヒロも驚嘆した。

 帝国の紋章を浮かべた超大型戦闘母艦。別の画面に、ミミそっくりの美少女が微笑んでいる。とてつもなく美しくりりしい正装。可愛らしい顔と本来なら合わないが、その表情ににじむ威厳とふしぎな混ざりかたをし、気品ともなっている。

「ルシアーダさま」

 ミミが口をおおった。

「お兄様」

 エルマが苦虫をかみつぶす。

「おじいさま!」

 クリスが驚いた。

 エルマの兄、法衣貴族で皇帝の庭園をつかさどる側近ウィルローズ子爵の息子と、武人らしい初老の男、ダレインワルド伯爵がルシアーダ皇女のそばに控えている。もちろんかなりの規模の艦隊を引き連れている。

 ミミは、出奔して傭兵になっていた皇族の孫娘だった。彼女自身は何も知らず、単なるコロニー居住者と思っていた。

 皇都に行ったとき、ほぼ同時にルシアーダ皇女が、しきたりにより15歳になるまで公に顔を出していなかったのが初顔出し、それがあまりにミミと似ていたことからセレナやクリスが動いて秘密裏に遺伝子検査。それで血筋が確定、皇帝や皇女にも認められ親しく話し、その上で公的には関係を否定してヒロとともに旅をすることを選んでいる。

 

「なにこれ……ううん、わかってるわよ。丸々別の、人類が住む銀河直通ゲート。その価値を考えればこれでも少ないほうよね……さらにアンシブルも」

 エルマが肩をすくめる。

「私、ルシアーダ皇女はゲート関係のすべてについて、グラッカン帝国皇帝の全権代理を拝命しています」

 皇女の言葉に、クリスやセレナ、エルマも背を伸ばし、特定の礼をする。威にヒロやカイも打たれる。

 帝都で会った時には好奇心いっぱいの明るい少女だったが、今は帝国を背負う皇族。

「クリスティーナ・ダレインワルド伯爵令嬢。貴方の行動と決断をすべて是とします。名誉子爵キャプテン・ヒロの、侵略はしないが隣が宙賊に支配されることは許さない、という方針は帝国の方針でもあります」

 緊張したクリスがわずかにほっとする。

「隣の隣がどうなっているかの調査も引き続きお任せします。また、カイラーラ・ヴァッタ船長」

「はい」

「貴方との友好関係を帝国は喜んでいます。貴方の挑戦が成功することを願っています。貴方の覚悟と船載アンシブル、帝国の名誉にかけてふさわしい支払いをします。

 グラッカン帝国も、ゲートの向こうが宙賊に支配されること、また今回判明したような怪物に征服され、次には帝国も攻撃されることなど微塵も望んでおりません」

「はい」

 カイはただ圧倒されていた。

「あのでかいのと戦い続けるなら、プラズマキャノンが有効だろう。試してみる価値はある。インターディクターを応用した重力波兵器も研究すべきだ」

 ヒロの実際的な言葉に、ルシアーダは笑顔でうなずいた。

 

 

 ゲートをくぐって侵入した、そこでは大爆発があった。

 恐竜型の超巨大船がちょうど爆発するところだった。

「観測結果出ました。通信を傍受しました」

 メイが静かに言う。

「で?」

「この星系では、ご主人様の言葉で言えば地球人型の人類が生活しています。ここはフォーマルハウト星と呼ばれています」

 ちなみにデブリを解析してDNAが同じであることも確認している。

「知ってるよ、日本からぎりぎり見える一等星だな」

「知ってるわ」

 ヒロとカイが目を見合わせる。

「その惑星をテラフォーミング中の人類を、あの巨大船が襲いました。それに、輸送船を光速の10%まで加速させてぶつけて撃破しました」

「それはすごい」

 ヒロが平板な口調で感心する。

「すご……」

 カイが息をのんだ。

「さて、あの氷惑星の、地球人コロニーと連絡を取りますか?」

「というわけだ、クリス、カイ?」

 クリスとカイ、またシウダッド星の軍人やセレナの部下も交えて、氷惑星に無理に作った基地との交渉が始まった。

 

 窓口に立ったのは、アンドリュー・グレイスン二等軍曹というまだ若い男だった。

 コンピューター能力が高く、全く別世界とも短期間で通信プロトコルを確立した。ヒロはもともと転生特典か、あらゆる言葉がわかる。またカイの言語も英語に近く、翻訳は容易だった。

 すでにカイたちと、クリスたちの間で作られていた翻訳機もわずかな修正で対話可能にできる。

 紹介されたのは、軌道近くにいた軍艦〈インディアナポリス〉のキャンベル大佐と、地上の指揮官だったブリアナ・ファロン曹長。

 転移前はゲーム好きだったヒロは、ファロンの胸に輝く略綬を知っており衝撃を覚えた……米議会名誉勲章、生前受勲はまずいない米軍人最高峰。片足が機械だがそれを感じさせない、信じられないほど鍛え抜かれたポニーテールの女性だ。

「別時空。くそですね」

「くそったれな話だな」

 まだ通訳が完全ではないのでヒロが、グレイスンと談笑している。

 粗野な軍人、だが卑ではない。セレナは、

(最前線で戦い抜いた筋金入りの軍人……)

 とわかり、即座に尊敬する。

 

 話を聞くと、この時空の人類は滅亡寸前だったそうだ。

 地球は何百億もの人の、大半が福祉住宅街に押し込められ大豆とリサイクルの最悪の食事配給のみの生活。わずかな希望は宇宙、極端な倍率のクジか、健康で能力が高い若者は軍。

 それでいくつもの、地上時代の国の子孫であるいくつかの国が宇宙の星々を奪い合い、地球では戦わないように過ごしていた。

 そこに突然、この時空ではランキーと呼ばれる、巨大な船と巨大な乗員の異星人が襲ってきた。

「物語じゃそうなったら人類は結束するが、現実にはそんなことはなかった。敵国が弱ったら敵国を攻め、戦争を続けた」

 とグレイスンは言う。

「それで、ある戦いで、新鋭艦がいきなりやられて生き残りは問題児認定され、バラバラに最果ての星に放り出された。地球の政府はアルクビエレ滑降斜路(シュート)がランキーを誘導していると封鎖した」

「もう、母国の政府は民を守ること、国を一つにすることを諦めたな」

 ファロン曹長が肩をすくめる。

「わたしたちは福祉で生きてる民が飢えて警察もなくなって暴れ、もう同胞を撃つのは嫌だと反乱して、まあ同じ島流しだ。そしてここでも、食べ物がなくて軍の上が、民を攻撃しろと命じたから……反乱して戦っていた。そんなときにランキーの船が来て、上のほうの艦船は大体逃げた。そして」

「このスチュアート博士が、やけくそを思いついたんですよ。核兵器が全然効かない、どうやっても勝てないランキー播種船を花火にする方法をね」

 グレイスンが嬉しそうに、科学関係の主任ジャネット・スチュアート博士に笑いかけた。痩せた黒髪の女性。

「さらに、太陽系もやられているという連絡。逃げてきた敵国の生き残り船。……もう戦争も国家もない、別時空だなんて……」

「したいことは?」

 カイがグレイスンを見る。彼女もすべてを失ったからこそ、わかる。だからこそ言った言葉。

「したいこと!いいことを言うな……ああ、あの釈放カードをもらったとき。あの時は宇宙に行くことを選びました」

 とグレイスンがファロンを見た。彼は仲間を助けるため福祉暴動でビル一つふっとばし、上層部はそれはメディア受けが悪いと罰そうとした。助けられたファロンは自分の軍歴もかけてかばい、グレイスンは地上軍から宇宙に転属した。

「ついこの間まで、反乱を決意するまでは、どう死ぬかしか考えていなかった。退役してリサイクルしたクソを食いながら福祉住宅でランキーの毒ガスを待つか、装甲服を着たまま少しでも自分の運命を選んで戦死するか。

 だが……」

「民を守るため、と宣誓して軍務についた。何度も民を撃って、もうダメだと思った」

 ファロンは天を仰ぐ。

 戦争の激化、さらにランキーの攻撃で大量の資源と資金を失った各国は、福祉都市に投資する余裕を失った。配給が減り、宇宙へ行くチケットの抽選もなくなった福祉層は暴れ始めたのだ。

「あのとき福祉暴動を撃って、それがどんな戦いより悪夢になってます……もう、二度と民に銃を向けたくない、その誓約が、最後に残ったものでしたよ」

 グレイスンとファロンの壮絶な生に、軍人であるセレナや貴族であるクリスは茫然としていた。

 セレナも、選択することはある。だが、そこまでの選択は想像したくなかった。自分も数知れない宙賊、敵国の兵を殺している。テロリストも。

 だがそこまで徹底した絶望で、残るのは、命令に従うか・民のためという誓約か、の二択……

 考えたくもない。

「したいこと!」

 グレイスンはしばらく黙った。

 戦士の目から、涙がこぼれる。

「ハリー、月にいる婚約者と、地球のママを助けたい」

 ファロンがその肩を抱いて、強く歯を食いしばる。

 ミミがもらい泣きをした。

「……できるだけのことを」

 カイが、口から言葉を絞り出し、ヒロに目を向ける。

「ランキーを倒すか、和平。この世界が、ランキーに占領されあたしの故郷を攻めることも、また戦争を続けその一環としてあたしの故郷を攻めることも、容認できない。

 今なら……」

 そういってカイは苦笑した。

「もちろん、自分の頭のハエも追えてないのに」

「そりゃ……」

 泣きじゃくっていたグレイスンが、立ち上がった。

「立って、戦いましょう。くそまみれでも、歩かなきゃ」

 彼の言葉にカイがうなずく。

「あたしも、ぜんぜん力がない。弱すぎる。負けた。でも、あたしにしか見ることができない。

 全人類を。たくさんの時空を。……国の枠を、ヴァッタ家を超えた、もっと大きいものを」

 家族を失ったカイの姿に、グレイスンたちはやっと思い出した。

 最果ての星に流され、地球の政府に捨てられたグレイスンたち。失って、失いつくして残った最後の宝石……民を守るという誓約。

 元から、政府や国に対する忠誠などないと思っていた。だが、軍人として給料に、地位にしがみついていた。

 だが捨てられ、最後に命令に従うだけの軍人であることも捨て、一人の人間として立ち上がり、信じられる戦友と肩を組んで背後の民を守った時。

 違う生き物が生じた。自分で考え、自分で生き、自分で死に、大切なものを守る存在が。単なる軍人ではなく。

「そうだな、泣いてても誰も助けちゃくれない。歩いて、撃たなきゃ。そうですよね」

「ああ、覚えていてうれしいさ。叩き込んだことはほとんど忘れたようだがな」

 ファロンがグレイスンの肩に体重をかけた。


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